愛知淑徳短期大学研究紀要 第37号 1998 191
課題レポートの評価と学生に対する印象形成に
及ぼすワープロ文字の効果
一手書きのレポートとワープロで印刷されたレポートとの比較一
新 美 明 夫
The Effect of Printed Characters on the Evaluation of Student
Papers, and on the Impression Formation about the Student−Acomparison between handwritten papers
and printed papers by a word processor一
Akio Niimi
問 題
ワープロ専用機や,ワープロソフトと組み合わせられたパソコン(以下,まとめてワープロ という)の普及と発達は,個人が作成する文書における手書き文書の比率を急速に減らしつつ ある。すでにオフィスの文書はそのほとんどがワープロ文書となり,私的な文書においてもそ の傾向が進んでいる(萩野,1994)。この現象は,プリンタの印字品質が写植印刷のそれに迫 る向上を示し,ビジネス文書へのワープロの適用が社会的に認知されたことを示すとともに,
ワープロが当初の単なる清書機械から,個人の知的な活動を支える便利な道具へと成長したこ とを示すものであろう。
このように,ビジネスの分野では文書はワープロで作成することがあたりまえとなったが,
それ以外の分野,とくに学校教育や日常的な生活場面では,手書きの文書とワープロ文書とが 混在しているのが現状であろう。こうした混在の現状では,文書を書く時に手書きにすべきか,
ワープロにすべきか,という使い分けが問題になってくる。どのように使い分けているかとい う,書き手側への調査(萩野,1994)や,年賀状をもらう時は手書きの方がよいか活字の方が よいか,などを問う受け取り側への調査(吉村,1993)がしばしば行なわれるのは,この使い 分けの規範が変わりつつあるからであろう。
日本語ワープロの出現はわずか20年前であり,その進歩と普及はいまだ進行中である。その 普及とともにワープロ文字に対する人々の意識も変化の途上にあるといってよいだろう。した がって,ある時点におけるワープロ文字に対する人々の意識を組織的に扱った研究は困難であ
り,まだ少ない。その中で吉村(1991,1992,1993)は先駆的な研究を行なっている。
吉村は一連の研究の中で,論理的な文章(小論文)および気持ちを伝える文章(手紙)を取 り上げ,ワープロ文字・きれいな手書き文字・きたない手書き文字で書いた場合の,文章に対 する受け取り側の評価を検討している。その結果,手紙を刺激とした場合(吉村,1992)には,
「論理性」「内容の優劣」といった側面においてワープロ文字の評価が高いが,きれいな手書 き文字の場合ワープロ文字よりも「心がこもっている」「あたたかい」と評価され,それには 及ばないが,きたない手書き文字でもワ;プロ文字よりは「あたたかい」と評価されることが 示されている。
また,小論文の場合(吉村,1991)には,ワープロ文字ときれいな手書き文字では「内容の 優劣」には差がなく,きたない手書き文字は評価が低いことが示されている。さらに小論文の 質の高低の要因を組み合わせた場合(吉村,1993),きたない手書き文字の評価の低さが,質 の高い小論文の場合により顕著であることを報告している。また,文字の種類の違いが,文字 から推測される文章の製作者の態度・能力の評価にも影響することを述べている。
この一連の研究では,同一内容の文章であっても,表記された文字の種類の違いによる影響 が大きく分けて三つの側面で起こることが示されている。
一つ目は文章の内容評価に対する影響である。ワープロは当初,清書用の機械として,和文 タイプライターよりも便利な機械として登場した。公的な文書の作成の際,手書き文字の上手 下手を気にする必要なく文書を作成できる機械であった。ワープロ利用のきっかけの多くにこ の理由が上げられるのは,ワープロという機械に対する人々の期待をよく示している。吉村
(1993)は,「印刷された文書は価値の高いものである」という活字文化の時代の価値観の残存が,
ワープロで印刷された文書の内容評価を引き上げていると主張している。このような影響はと くに教育の場面において問題になるだろう。例えば,大学において課題として課されるレポー トや卒業論文では,ワープロの利用がかなりの割合を占めるようになってきている。本来,レ ポートや卒業論文などの評価は,表記された文字の上手下手や,手書きかワープロで印刷され たものかで左右されてはならないのであるから,教育評価上の問題として十分に検討すべき課 題であろう。
二つ目は,文章の書き手の感情伝達の効果への影響である。これはとくに手紙のような「気 持ちを伝える文章(吉村,1993)」の場合に問題になる側面であり,吉村(1992)が手紙に対す る評価として「心がこもっている」「あたたかい」「好感の持てる」の形容詞を用いて測定した 側面である。
三つ目は,文章の書き手に対するパーソナリティ認知に対する影響である。人はわずかの情 報から相手の人物像を作り上げる。印象形成と呼ばれるこの社会心理学的現象は,ほとんど面 識のない人が作成した文章を読む場合にも適用できよう。吉村(1993)は,小論文を刺激とした 研究において,明確にパーソナリティ認知の観点から検討しているわけではないが,小論文作 成時の態度・作成者の能力に対する被験者の評価が,文字の種類によって異なることを報告し ている。他者に関する情報が限定された状況でのパーソナリティ認知である印象形成場面では,
課題レポートの評価と学生に対する印象形成に及ぼすワープロ文字の効果 193
提示された情報そのものがパーソナリティ認知に大きな影響力をもつ。とりわけ,学生一人一 人の人物像を形成することが困難な大学等の教育場面では,レポート等の提出物によって,教 員の学生像の形成が大きく左右される可能性があるだろう。
上記のような観点から,本稿では,大学における学生の課題レポートを題材として,レポー トに使用された文字の種類の効果を検討することとする。その際,独立変数である「文字の種 類」は,同一人物が「丁寧」に書いたものと「乱雑」に書いたもの,および「ワープロ」によっ て印刷されたものの3種類を刺激とする。なお,設定された仮説は以下のようである。
仮説L
仮説2.
仮説3.
同じ内容のレポートであっても,使用される文字によって,レポートの内容評価が 異なるであろう。
同じ内容のレポートであっても,レポートの作成者の作成態度等に対する評価が異 なるであろう。
同じ内容のレポートであっても,レポートの作成者に対する印象形成は異なるであ
ろう。
方 法
1.質問紙の作成
後述する3×3の要因計画に基づいた9種類の文字刺激のうち一つを含む質問紙を作成した。
質問紙は「課題レポートの評価の安定性に関する調査」と題したA4版用紙8ページからなる 小冊子形式とした。内容は次の通りである。質問紙自体は,文字刺激を除いて,ワープロでプ
リントアウトしたものを原版として印刷した。
1ページ目:表紙。調査の主旨,実施方法を記載
2,3ページ目:ある講演会(約4,500字)の要旨。4ページ目のレポートは,この講 演会に対する感想レポートである。
4ページ目:刺激であるレポート本文(約2,000字)。
5−−6ページ目:レポートに使われている字に対する評価,レポートの内容,作成時の 態度に関する評価,レポートの作成者に対するパーソナリティ認知を 問う質問。
7−・8ページ目:調査対象者の属性,ワープロ利用の有無頻度等を問う質問。
2.被験者
質問紙調査形式で表1に示した4種類の機会を利用して実験を行った。分析対象者はすべて 女性である。
表1 実験実施の内訳
機会 対象の属性 配布 回収 配布数 回収数 回収率 1)大学の授業
2)研修会 3)講習会 4)研修会
女子短大生
看護婦
一般成人女性 一般成人女性時時時時 合合合合 集集集集
耀竃228 53 39 70
223 97.8 % 53 100.0 % 39 100.0 %
14 20.0%
小計 390 329 84.4%
3.実験計画
3×3の要因計画である。第1の要因は,レポートに使用された文字の種類であり,次の3 条件からなる。
1)ワープロ文字条件:標準的なワープロ文字(明朝体)で印刷したレポート 2)丁寧な手書き文字条件:比較的字の上手な人が丁寧に書いたレポート。
3)乱雑な手書き文字条件:比較的字の上手な人が乱雑に書いたレポート。
なお,2)3)は同一人物の手書きによるものである。実験に用いられた刺激の一部を図1に示す。
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丁寧な手書き文字による刺激 乱雑な手書き文字による刺激
図1 実験で用いられた刺激(レポートの一部)
第2の要因は,レポートの質であり,ある女子短大におけるレポートコンテストで提出され たレポートを利用した。次の3条件からなる。提出された約450編のレポートのうち,
1)質の低いレポート(質低)条件 :第1次審査で落ちた約420編のうちの1編 2)質の中程度のレポート(質中)条件:第1次審査を通ったもの約30編のうちの1編 3)質の高いレポート(質高)条件
第3次審査を通ったもの2編のうちの1編
を,原文通り利用した。要因はいずれも被験者間要因である。各条件に割りあてられた被験者数は次の表2の通りで
ある。
課題レボートの評価と学生に対する印象形成に及ぼすワープロ文字の効果 195 表2 被験者の割りあて
レポートの質
カ字の種類
質低 質中 質高 小計 ワープロ文字囈Jな手書き文字
錘Gな手書き文字
33 S1 R6
35 R9 R6
36 R4 R9
104 P14 P11 小計 110 110 109 329
結 果
1.被験者の文字刺激に対する評価の確認
手書き文字に対する人々の評価基準は複雑である。吉村(1991,1992,1993)は手書き文字に ついて「きれいな字」「きたない字」を基準としているが,人の評価基準はそれだけではない。
「下手でも丁寧な字を書くべきだ」という言い回しは人の手書き文字に対する評価の複雑さを 表現している。
本稿では手書き文字について同一人物の手による「丁寧な手書き文字」「乱雑な手書き文字」
を刺激とするが,分析の前提として,被験者がこれら二つの手書き文字およびワープロ文字の それぞれを,相互に明確に弁別しているか否かが問題となる。そこで,日常手書き文字の評価 に使われる評価基準を利用して,これら3種類の刺激を被験者が弁別しているかどうかを,本 稿で目的とする分析に入る前に検討することにする。なお,これらの手書き文字に対する評価 基準はワープロ文字に適用するにはなじまないと思われるが,参考までに被験者に設問したの で,合わせて検討した。
文字に対する評価は「きれいな一きたない」「上手な一下手な」「丁寧な一乱雑な」「読みや すい一読みにくい」の4つのSD形式の尺度に7段階評定で回答を求めた。いずれも得点の高 い方が肯定的な評価である。「文字の種類」「レポートの質」を要因とした二元配置の分散分析 結果の概要を表3に,各要因の組み合わせによる平均値の推移を図2に示す。
表3 使用された文字に対する評価の分散分析結果の概要
評定尺度 きれいな
@一きたない
上手な
@ 一下手な
丁寧な
@ 一乱雑な
読みやすい
@一読みにくい
変動要因 F値 有意性 F値 有意性 F値 有意性 F値 有意性文字の種類 激│ートの質
互作用
446.600 ***
@0.143 n.s.
@0.493 n.s.
236.805 ***
@0.458 n.s.
@0.666 n.s.
402.809 ***
@0.286 n.s.
@0.548 n.s.
332.252 ***
@0.764 n.s.
@0.286 n.s.
*** p〈.001
7CUに﹂4で3り白1
一一・一 一■一一 きれい一きたない
■・・・・・…− ・ ・
質高 質中 質低
7CUにd430乙−
e 一・一 −A
上手一下手.....・−・・・…‥■
■・
質高 質中 質低
ηー凸0︻O﹂号0021
dp,一一b −etny.:一::一: eA
ていねいな一ざつな
■.・・…一一一 ee・・唱
質高 質中
一●一ワープロ文字
図2
7CU︻043リムー
一一一一@ 一一一一▲
読みやすい 一読みにくい
...…暑 ■一 .
■・°
質低 質高 質中 質低
田▲■丁寧な手書き文字 ・−・・乱雑な手書き文字 使用された文字に対する評価
4つの評定尺度のいずれにおいても,ワープロ文字条件および丁寧な手書き文字条件では6 点前後の高い平均値を示し,一方,乱雑な手書き文字条件では2点から3点前後の低い平均値 であった。分散分析の結果,「文字の種類」の要因効果は明らかであり,「レポートの質」には 要因効果は見られなかった。被験者は,示されたレポートの内容の違いには影響されず,文字 の種類に対して,ワープロ文字・丁寧な手書き文字には高い評価を,乱雑な手書き文字には低 い評価を与えたことになる。
なお,ワープロ文字に対してこれらの評価はなじまないと思われると述べたが,この点につ いて,次のような方法で検討を行った。なじまない評定尺度を強要された場合,被験者は「無 回答」または「どちらともいえない」という反応が多くなると思われる。そこで,全被験者に ついて,これらの反応の割合を算出したのが表4である。
いずれの評定尺度においても,ワープロ文字条件での「無回答」または「どちらともいえな い」の割合が他の2つの手書き文字条件に比べかなり多くなっており,ワープロ文字がこれら の評価になじみにくいことを示しているといえよう。
課題レポートの評価と学生に対する印象形成に及ぼすワープロ文字の効果 197
表4 文字評価における,「無回答」「どちらともいえない」反応 回答の種類 無回答 どちらとも
評定尺度 文字の種類 被験者数 ① いえない② ①+② きれい ワープロ文字 104 13(12.5) 17(16.3) 30(28.8)
1 丁寧な手書き文字 114 0(0.0) 5(4.6) 5(4.6)
きたない 乱雑な手書き文字 111 2(1.8) 7(6.3) 9(8.1)
上手 ワープロ文字 104 15(14.4) 24(23.1) 39(37.5)
1 丁寧な手書き文字 114 1(0.9) 9(7.9) 10(8.8)
下手 乱雑な手書き文字 111 2(1.8) 24(21.6) 26(23.4)
ていねいな ワープロ文字 104 16(15。4) 24(23.1) 40(38.5)
1 丁寧な手書き文字 114 1(0.9) 11(9。6) 12(10.5)
ざつな 乱雑な手書き文字 111 0(0.0) 4(3.6) 4(3.6)
読みやすい ワープロ文字 104 13(12.5) 13(12.5) 26(25.0)
1 丁寧な手書き文字 114 1(0.9) 7(6.1) 8(7.0)
読みにくい 乱雑な手書き文字 111 1(0.9) 6(5.4) 7(6.3)
()内は%
上記のような結果から,被験者は3種類の文字刺激を的確に弁別しており,本稿の分析の前 提条件は満たされたと思われる。
2.レポートの内容およびレポート作成時の態度の評価
1)評価項目の因子分析
レポートの評価およびレポート作成時の態度について,7段階評定のSD形式の尺度で質問 した。この16尺度を因子分析し,主因子解を求めた。共通性の反復推定の初期値には重相関係 数の最大値(SMC)を利用した。2因子から8因子を抽出してバリマックス回転を行ない,検 討したところ,表5のように3因子の場合に,心理的にもっとも有意味な因子の解釈が可能で あると判断した。表5では,因子ごとに,それぞれの因子に高い因子負荷量を示す順に尺度を 並べ替えて示した。
第1因子は,「まとまりのある一まとまりのない」「わかりやすい一わかりにくい」「形の整っ た一形の整っていない」などが高い負荷量を示し,レポート自体のでき具合の評価に関する因 子だと思われる。「内容評価」の因子と名づける。
第H因子は「努力している さぼっている」「手をかけている一手を抜いている」「まじめな ふまじめな」などが高い負荷量を示し,レポートの作成過程に対する被験者の評価を表してい ると思われる。「作成過程評価」の因子と名づける。
表5 「レポートの内容およびレポート作成時の態度の評価」の主因子解/
バリマックス回転後の因子負荷行列(3因子の場合)
因子番号
SD尺度(7点←→1点)
1 HIn
第1因子【内容評価】
11.まとまりのある一まとまりのない 一〇.7449 0.2588 一〇.0086 14.わかりやすい一わかりにくい 一〇.7374 0.1481 一〇.2363 3.形の整った 形の整っていない 一〇.7055 0.4056 一〇.0219 6.読みやすい一読みにくい 一〇.6852 0.2508 一〇.2566 2.好感がもそる一好感がもてない 一〇.6112 0.2368 一〇.4122
コ ー 一 一・ , = 会 一 一一 一 一 甲 ,一. . 一 . ≡ . ・ . 一一 一 一一 一 一 , ← 一. . 一≡ ≡ . . ≡ . . . 一一 ウ 一一 一 , . ← 一一 一
13.優れた内容である一劣った内容である 一〇.5765 0.4767 0.0816 7.おもしろい一つまらない 一〇.5185 0.1569 一〇.2685 16.論理的である一論理的でない 一〇.4838 0.4250 0.2747 第H因子【作成過程評価】
4.努力している一さぼっている 一〇.2080 0.7707 一〇,1795 8.手をかけている一手を抜いている 一〇.2378 0.7465 一〇.0685 12.まじめな一ふまじめな 一〇.2619 0.6733 0.0679 9.きっちりとした一おおざっぱな 一〇.4409 0.6731 0.0975 1.ていねいな一ざつな 一〇.4502 0.5742 一〇.1011
≡ ≡ . ・ . ・ 一 コ ー 一 一 一 一 , , . ≡ . ≡ ≡ ≡ ・ . ≡ 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 , ■ ■ 一 一 ■ ■ ■ ≡ ■ ■ ● ≡ ● ● ■ ← 一 _ 一 一 一 一
5.心がこもっている一心がこもっていない 一〇.2754 0.4858 一〇.4374 第m因子【感情伝達】
10.あたたかい一つめたい 一〇.1977 0.0861 一〇.6205 15.かたい一やわらかい 0.0598 0.4567 0.4963
因子寄与 3.9586 3.6442 1.3302
第m因子は,わずか2尺度で構成され,「あたたかい一つめたい」が高い負荷量を示し,「か たい一やわらかい」がこれに次ぐ負荷量を示している。因子としてはやや明確性を欠くが,吉 村(1993)が指摘した感情伝達に関する因子であろう。レポートというような公的な文書の場合 には,あまり重視されない側面の評価であることから,やや不鮮明な因子になったと思われる。
一応,「感情伝達」の因子と名づけておく。
以上の検討から,レポートおよびレポート作成時の態度の評価について,「内容評価」「作成 時の態度」「感情伝達」の3因子で検討することとするが,それぞれの因子の代表得点を算出 するにあたって,次のような方法をとった。「内容評価」「作成時の態度」については,因子負 荷量がそれぞれ0.6および0.5以上の絶対値をもつ各5項目の合成得点とする。「感情伝達」に ついては,「あたたかい一つめたい」単独の尺度得点をそのまま利用する。各代表得点の内的 整合性を確認するため,「感情伝達」「作成時の態度」を構成する合計10項目を再度同様の方法 で因子分析したところ,表6のように明確な2因子構造が得られた。比較のため,項目の並び は表5と同一にしてある。
課題レポートの評価と学生に対する印象形成に及ぼすワープロ文字の効果 199 表6 「内容評価」「作成時の態度」の代表得点を構成する尺度の主因子解/
バリマックス回転後の因子負荷行列
因子番号 n
SD尺度(7点←→1点)
1
第1因子【内容評価】
11.まとまりのある一まとまりのない 0.6825 0.3096 14.わかりやすい一わかりにくい 0.7531 0.1753 3.形の整った一形の整っていない 0.6810 0.4413 6.読みやすい一読みにくい 0.7691 0.2550 2.好感がもてる一好感がもてない 0.6513 0.2431 第H因子【作成過程評価】
4.努力している一さぼっている 0.2475 0.7200 8.手をかけている一手を抜いている 0.1879 0.7825 12.まじめな一ふまじめな 0.2201 0.6832 9.きっちりとした一おおざっぱな 0.3855 0.7115 1.ていねいな一ざつな 0.4554 0.6051
因子寄与 3.0133 2.9152
2)レポートの内容評価
被験者の行ったレポートの内容評価については,前項で得られた「内容評価」因子の代表得 点とともに,100点満点の数値で評価を求めた評価点をも指標とした。これらの指標について,
「文字の種類」および「レポートの質」を変動要因として2元配置の分散分析を行った。その 結果の概要を表7に,「文字の種類」「レポートの質」別の指標の平均値を図3に示した。
表7 レポートの内容評価の分散分析結果の概要 評価指標 評価点(100点満点) 内容評価 変動要因 F値 有意性 F値 有意性
文字の種類 激│ートの質
互作用
13,193 P,410 O,832
***
氏DS.
氏DS.
14,791 O,761 P,205
***
氏DS.
氏DS.
90
85
80
レポートの評価点
(100点満点)
75
■・・・… ■・…...
■ 70
30 28 26
24 22
*** p<.001
内容評価
▲r−一 一k− 一つh
参垣
◆.ひ・参 ・・
■・・・・・… ■
20
質高 質中 質低 質高 質中 質低
一◆一ワープロ文字 一▲一丁寧な手書き文字 ・■・・乱雑な手書き文字
図3 レポートの内容評価
「評価点」「内容評価」のいずれの指標も同一の傾向を示し,「レポートの質」要因は有効で はなく,「文字の種類」要因のみが有意な要因効果を示した。いずれも,ワープロ文字・丁寧 な手書き文字を使って作成されたレポートは,乱雑な手書き文字を使って作成されたレポート よりも,明らかに高い評価を得ていた。ワープロ文字のレポートと丁寧な手書き文字のレポー
トの間では,評価に差は見られなかった。
3)レポートの作成過程の評価
被験者の行ったレポートの作成過程の評価については,1)項の「作成過程評価」因子を指標 として利用した。この指標について,「文字の種類」および「レポートの質」を変動要因とし て2元配置の分散分析を行った。その結果の概要を表8に,「文字の種類」「レポートの質」別 の指標の平均値を図4に示した。
表8 レポートの作成過程の評価 の分散分析結果の概要
評価指標 作成過程評価 変動要因 F値 有意性
文字の種類 激│ートの質
互作用
46,288 T,952 P,185
***
@**
氏DS.
*** p〈.001 * p<.01 30 28 26 24 22
20
作成過程評価
..・司■
°■・
一●一ワープロ文字 一▲一丁寧な手書き文字
・−・・乱雑な手書き文字
質高 質中 質低
図4 レポートの作成過程の評価
前項の内容評価と同様に,「文字の種類」要因は有効であり,ワープロ文字・丁寧な手書き 文字を使って作成されたレポートは,乱雑な手書き文字を使って作成されたレポートよりも,
その作成過程の態度について明らかに高い評価を得ていた。ワープロ文字のレポートと丁寧な 手書き文字のレポートの間では,評価に差は見られなかった。
また,この指標では,「レポートの質」要因も有効であり,「文字の種類」要因とともに相乗 効果を示した。質の高いレポートは,その作成過程の態度も高く評価される傾向が見られた。
4)感情伝達の評価
レポート作成者の被験者への感情伝達については,明確な因子が形成されなかったため,
「(このレポートは)あたたかい一つめたい」の単一尺度を指標として利用する。この指標に ついて,「文字の種類」および「レポートの質」を変動要因として2元配置の分散分析を行った。
その結果の概要を表9に,「文字の種類」「レポートの質」別の指標の平均値を図5に示した。
この指標については「文字の種類」要因の効果は見られず,「レポートの質」要因のみが有 効であった。質の低いレポートが,他のレポートに比べ,読者である被験者によりあたたかい
課題レポートの評価と学生に対する印象形成に及ぼすワープロ文字の効果 201
という印象を与えた。また,質の中程度のレポートは,尺度の中点(4点)よりもつめたいよ りの平均値を示した。
表9 感情伝達(あたたかい一 つめたい)の評価の分散 分析結果の概要
評価指標 作成過程評価 変動要因 F値 有意性
文字の種類
激│ートの質
互作用
0,380 P6,714 O,248
n.S.
磨磨魔
.S.
** p<.001
●一ワープロ文字
▲一丁寧な手書き文字
■・・乱雑な手書き文字
高 質中 質低 5 感情伝達の評価
(あたたかい一つめたい)
.レポート作成者に対する印象形成
)パーソナリティ評定尺度の因子分析
レポート作成者に対する印象を検討するために,30項目のパーソナリティ評定尺度を用意し
。この尺度は,対人認知構造の基本的次元の抽出を試みた林(1978)の因子分析結果を基にし
,「個人的親しみやすさ」「社会的望ましさ」「力本性」の各因子に高い負荷を示したとして,
岡(1990)が10項目ずつ選んだものである。廣岡(1990)は,刺激人物の行動記述を提示するこ によってパーソナリティ評定させた資料を因子分析し,林(1978)と同様の3因子が明確に抽 されたとしている。本稿での分析も基本的にこの結果に基づいて行うが,パーソナリティ評 を行う設定条件が異なることも考慮にいれ,因子分析を行うことで,尺度の内的整合性をあ
かじめ検討することとした。
30項目のパーソナリティ評定尺度上で評定した資料を主因子法で因子分析し,上位3因子を リマックス回転した結果を表10に示す。各評定項目は,もっとも高い負荷量を示した因子に 属し,負荷量の絶対値の大きい項目順に並べてある。
表10の因子分析結果を検討したところ,廣岡(1990)と類似の因子構造が示され,第1因子が 個人的親しみやすさ」,第E因子が「力本性」,第皿因子が「社会的望ましさ」に相当すると われる。ただし,各因子に高負荷を示す項目は廣岡(1990)の結果とはかなり入れ替わりがみ れた。ある項目がもっとも高い負荷量を示した因子をその項目の所属因子とすると,所属因 が今回の結果と廣岡(1990)の結果とで共通する項目は,第1因子「個人的親しみやすさ」が 0項目,第ll因子「力本性」が6項目,第m因子「社会的望ましさ」が5項目,合計21項目で った。30項目中9項目の所属因子が異なることになる。
表10 パーソナリティ評定尺度の因子構造
評定尺度 1 H 皿 廣岡(1990)
ニの共通性
【第1因子】個人的親しみやすさ
1.心のひろい 一 心のせまい 一〇.4928 一〇.1489 0.2502 ○ 4.人のよい 一 人のわるい 一〇.5666 0.0570 0.3025 ○ 6.沈んだ 一 うきうきした 0.6182 0.0948 0.0788 ×
7.感じのよい 一 感じのわるい 一〇.5035 一〇.0751 0.3073 ○ 10.にくらしい 一 かわいらしい 0.5814 一〇.0392 一〇.2823 ○ 13.近づきがたい 一 人なつっこい 0.7606 一〇.0563 0」505 ○ 15.じみな 一 はでな 0.4511 0.2194 0.4395 × 16.思いやりのある一 思いやりのない 一〇.5539 一〇.1531 0.3690 ○ 19.親切な 一 不親切な 一〇.4167 一〇.1907 0.4049 ○ 22.なまいきでない一 なまいきな 一〇.4316 0.3836 0.3936 ○ 24.非社交的な 一 社交的な 0.5235 0.4865 0.1098 × 25.親しみにくい 一 親しみやすい 0.8156 0.1274 0.0163 ○ 28.つめたい 一 あたたかい 0.7663 一〇.1008 一〇.2202 ○ 30.おしゃべりな 一 無口な 一〇.3953 一〇.2739 一〇.3246 ×
【第H因子】力本性
3.卑屈な 一 堂々とした 0.2500 0.3245 一〇.0097 ○ 5.頭のわるい 一 頭のよい 0.0412 0.5419 一〇.3575 ×
9.積極的な 一 消極的な 一〇.1783 一〇.6702 0.1118 ○ 11.しっかりした 一 たよりない 一〇.0281 一〇.6460 0.3583 × 12.内向的な 一 外向的な 0.2852 0.5414 0.1420 ○ 20.意志が弱い 一 意志が強い 一〇.0651 0.7364 一〇.1843 ×
21.自信のない 一 自信のある 一〇.0469 0.7785 一〇.0852 ○ 27.勇敢な 一 憶病な 一〇.0521 一〇.6315 一〇.0340 ○ 29.知的な 一 知的でない 一〇.0189 一〇.5952 0.4308 ×
【第皿因子】社会的望ま しさ
2.まじめな 一 ふまじめな 一〇.1266 一〇.2572 0.6269 ○ 8.責任感のない 一 責任感のある 0.0766 0.4150 一〇.4223 ○ 14.分別のある 一 無分別な 一〇.0792 一〇.3105 0.5162 ○ 17.だらしない 一 きちんとした 0.1137 0.3218 一〇.6699 ○ 18.にぎやかな 『 静かな 一〇.3752 一〇.2652 一〇.4759 ×
23.慎重な 一 軽率な 一〇.1174 一〇.1893 0.6275 ○ 26.軽薄な 一 重厚な 0.0948 0.2964 一〇.4861 ○
因子寄与 5.0614 4.7300 3.8315
今回の所属因子の結果に基づいて分析を進めることも可能だが,より明確な因子構造を持つ 評定尺度を得るため,各因子に負荷量の高いものから5項目ずつを選出し,再度同様の方法で 因子分析を行った。その結果を表11に示す。
課題レポートの評価と学生に対する印象形成に及ぼすワープロ文字の効果 203 表11 パーソナリティ評定尺度の因子構造
評定尺度 1 n m 廣岡(1990)
ニの共通性
【第1因子】力本性
9.積極的な 一 消極的な 一〇.6667 一〇.1363 0.1802 ○ 11.しっかりした 一 たよりない 一〇.6035 0.0043 0.4070 × 20.意志が弱い 一 意志が強い 0.7459 一〇.0488 一〇.2467 ×
21.自信のない 一 自信のある 0.8072 一〇.0256 一〇.1207 ○ 27.勇敢な 一 憶病な 一〇.6680 一〇.0407 0.0120 ○
【第n因子】個人的親しみやすさ
6.沈んだ 一 うきうきした 0.0740 0.6161 0.0122
○
10.にくらしい 一 かわいらしい 一〇.0341 0.6059 一〇.2617 ○ 13.近づきがたい 一 人なつっこい 一〇.0681 0.7854 0.0882 ○ 25.親しみにくい 一 親しみやすい 0.1286 0.8507 一〇.0402 ○ 28.つめたい 一 あたたかい 一〇.1023 0.7035 一〇.2392 ○
【第皿因子】社会的望ま しさ
2.まじめな 一 ふまじめな 一〇.1583 一〇.0721 0.7013 ○ 14.分別のある 一 無分別な 一〇.3024 一〇.0498 0.4855 ○ 17.だらしない 一 きちんとした 0.2518 0.0838 一〇.7274 ○ 23.慎重な 一 軽率な 一〇.1486 一〇.0610 0.6190 ○ 26.軽薄な 一 重厚な 0.2319 0.0983 一〇.5376 ○
因子寄与 2.7568 2.6337 2.3379
再度の因子分析の結果,非常に明確な3因子構造が得られた。第1因子が「力本性」,第H 因子が「個人的親しみやすさ」,第皿因子が「社会的望ましさ」と考えられる。各項目の所属 因子も力本性の2項目を除き,広岡(1990)の結果と共通している。本稿では各因子に所属する
5項目の合成得点を,各因子の代表得点とする。
2)パーソナリティ認知
前項の因子分析結果に基づいて,各因子に所属する5項目の合成得点を求めてその因子の代 表得点とした。その際,各因子名の示す傾向が強くなるほど合成得点が高くなるように調整し た。したがって,各因子の代表得点は7点〜35点の得点範囲に分布する(中点:20点)。
各因子の代表得点について,「文字の種類」および「レポートの質」を変動要因として2元 配置の分散分析を行った。その結果の概要を表12に示した。
分散分析の結果は,パーソナリティ認知の因子によって対照的な結果を示した。「個人的親 しみやすさ」では「レポートの質」要因が,「社会的望ましさ」では「文字の種類」要因が,
「力本性」では,両要因ともに有意な効果を示した。交互作用はいずれの因子においても有効 ではなく,それぞれの要因の効果は独立だと考えられる。
次に取り上げた因子ごとに,各要因の効果を検討するため,「文字の種類」「レポートの質」
別の代表得点の平均値を図6に示した。
表12 レポート作成者に対するパーソナリティ認知の代表得点の分散分析結果の概要 評定因子 個人的親しみやすさ 社会的望ましさ 力本性
変動要因 F値 有意性 F値 有意性 F値 有意性
文字の種類 激│ートの質
互作用
0,371 P2,438 P,224
n.S.
磨磨魔
.S.
8,9911 C2631 C005
**n
DS.n DS.
,6341 Q,7800 C208
***
磨魔氏 DS.
** p〈.001 * p〈.01
8 6 4 2 0 8
人的親しみやすさ
.
一 一ρ ◆
8 6
4
▲ 22
ρタ㊨
20
高 質中 質低
8
一・一 ,, 4
・・… a⑱一…一.一
会的望ましさ
8 6 4 2
0
高 質中 質低
8
,▲、 力本性
, 、 プ s
・・孤・》 ・▲
° ◆・
s◆
、⑱
1
●一ワープロ文字 A一丁寧な手書き文字
■‥乱雑な手書き文字
高 質中 質低 6 レポート作成者に対する印象形成
他者に対する好感一嫌悪を表す「個人的親しみやすさ」の因子では,「レポートの質」要因 みが有意な効果を示し,質の低いレポートを書いた者に対して,もっとも個人的に親しみや いという認知が示された。平均値をみると,中点の20点前後の得点を示しているが,質の低 レポートを書いた者に対する代表得点の平均値のみが,親しみやすい側の得点を示している。
ポートの質の高い者,中程度の者に対する認知の代表得点の平均値がこれに続くが,両者に する認知の代表得点の平均値に明確な差はなく,レポートの質の低い者に対する認知よりも らかに「親しみにくい」という認知を示していた。
他者に対する尊敬一軽蔑を示す「社会的望ましさ」の因子では,レポート作成に用いられた 文字の種類」要因のみが有意な要因効果を示した。ワープロ文字・丁寧な手書き文字でレポー が作成された場合には,その作成者に対する認知は,乱雑な手書き文字を使った者に対して りも,明らかにより社会的に望ましいという認知が示された。ワープロ文字と丁寧な手書き 字間には明確な差は見られなかった。代表得点の平均値を見てみると,いずれも中点を越え 得点が示されており,もっとも低い評価を受けた乱雑な手書き文字も,わずかに「社会的に ましい」側の得点を示していた。
活動性と意志の強さが融合した「力本性」因子では,レポート作成に用いられた「文字の種
」および「レポートの質」の両要因が有意な要因効果を示した。要因間の交互作用は見られ
課題レポートの評価と学生に対する印象形成に及ぼすワープロ文字の効果 205 なかった。各因子の代表得点の平均値を見ると,両要因は単純な相乗効果を示し,「文字の種類」
では,丁寧な手書き文字・ワープロ文字・乱雑な手書き文字の順に,レポート作成者に対して
「力本性」が高いという認知がなされ,「レポートの質」では中程度の質・高い質・低い質の 順に,レポート作成者に対して「力本性」が高いという認知がなされた。したがって,丁寧な 手書き文字を使った中程度の質のレポート作成者に対してもっとも高い「力本性」の認知がな され,乱雑な手書き文字を使った質の低いレポートの作成者に対して,もっとも低い「力本性」
の認知がなされた。
考 察
本稿は,大学における学生の課題レポートを題材として,作成の際に用いられる文字の種類 がもつ効果について,レポート自体の内容評価,レポート作成時の態度の評価,レポート作成 者に対する印象形成の3つの側面において分析を行った。以下,得られた結果について考察を
加える,
まず,レポート自体の内容評価についての分析では,仮説1について検討がなされた。この 仮説については,独立変数の一つである「レポートの質」要因の効果は当然見られるものとし て前提されていた。しかしながら,用いられた2種類の指標のいずれにも「レポートの質」は,
有意な要因効果が認められず,レポートに用いられた「文字の種類」のみが有意な要因効果を 示した。吉村(1993)は,ワープロで印刷された文書の内容評価が高くなることを示したが,本 稿でも,ワープロ文字で印刷されたレポートは,丁寧な手書き文字で書かれたレポートと同程 度の高い評価を受けることが分かった。逆に乱雑な手書き文字で書かれたレポrトは,他の2 者と比べ,かなり低い評価を受けた。大学におけるレポートという公的な文書では,乱雑な手 書き文字で作成された場合,その内容に関わらず低い評価を受けることが分かった。
仮説1については,それを裏づける結果となったが,「レポートの質」の要因効果がまった く見られなかったことは予測外であった。これについては被験者が学生または一般の社会人で あり,レポートの採点作業をふだん業務として行っていない者であったことに一部起因してい ると思われる。しかしながら改めて,ワープロ文字を利用することの効果の大きさと,教育評 価上の留意点として,注目すべき結果が示されたといえよう。
次に,レポートの作成態度および作成者の感情伝達の側面への影響について,仮説2が検討 された。レポートの作成態度では,「レポートの質」「文字の種類」の両要因とも有効であり,
相乗的な効果を示した。ワープロ文字や丁寧な手書き文字で作成され,質の高いレポートほど,
まじめに手をかけて努力し,きっちりと丁寧にレポートを作成したと評価されている。この側 面においても,ワープロ文字の利用は評価を高めることが裏づけられた。
付加的に,レポート作成者の感情伝達についても検討がなされた。この側面については,吉 村(1993)が,プライベートな文書において重視される側面であり,ワープロ文字の利用がむし
ろ評価を低めることを指摘している。しかし,本稿でとりあげたような公的な文書では,あま り重視されない側面であろうと思われる。吉村(1992)の採用した評定尺度などを利用して検討 を行ったが,この側面についての評価については明確な因子が形成されず,単一の尺度として 検討した「あたたかい一つめたい」については,「レポートの質」「文字の種類」ともに有意な 要因効果をもたなかった。この側面については,大学におけるレポートというような公的な文 書においては,そもそも評価の対象とはならず,ワープロ文字の利用は影響をもたないと考え てよかろう。
最後に,レポート作成者に対する被験者の印象形成に対する影響について仮説3が検討され た。印象形成をする場合に用いるパーソナリティ認知次元として,「個人的親しみやすさ」「社 会的望ましさ」「力本性」の3次元が抽出され,それぞれの次元について「レポートの質」「文 字の種類」の両要因の効果が検討された。
「個人的親しみやすさ」の次元ではレポート作成に用いられた「文字の種類」によってレポー ト作成者に対するパーソナリティ認知には差が見られなかった。この次元については「文字の 種類」の効果はないと考えられる。一方で「レポートの質」に有意な要因効果が見られたが,
これは単に質の高低が影響を与えたというよりは各レポートの文体,主観の表出度の違いなど が複合的に影響したものと思われる。これらの要因については十分な統制がなされておらず,
この認知次元への影響についてはさらに詳細な検討が必要であろう。
「社会的望ましさ」の因子では,レポート作成に用いられた「文字の種類」要因のみが有効 な要因効果を示した。ワープロ文字・丁寧な手書き文字でレポートが作成された場合には,そ の作成者に対する印象形成において,乱雑な手書き文字を使った者に対してよりも,明らかに 社会的により望ましいという認知が示された。この結果は,レポートの内容評価に対する結果
とも考え合わせると,大学における課題レポートのような公的な文書では,丁寧な手書き文字 で書くことが前提であり,その前提条件を満たさない乱雑な手書き文字で書かれたレポートは その内容如何に関わらず低い評価を受け,なおかつ,そのレポートの作成者は,公的文書の前 提も守れぬ社会的に望ましくないパーソナリティをもつと認知されることを示唆している。一 方でワープロ文字で書かれたレポートは公的文書の前提条件を具備しており,レポートの内容 評価でも,作成者に対する「社会的望ましさ」の認知においても,丁寧な手書き文字と同程度
の評価を受けると考えられる。
「力本性」因子では,レポート作成に用いられた「文字の種類」および「レポートの質」の 両要因が有意な要因効果を示した。活動性や意志の強さを示す「力本性」因子において,「レポー トの質」要因の効果は,「個人的親しみやすさ」におけるのと同様,刺激に用いられた各レポー トの文体,主観の表出度の違いが複合的に影響したものと思われる。中程度の質のレポートに 対してもっとも力本性が高いという認知がされたことについては,今回十分に統制しきれな かったそれぞれの要因について,より詳細な検討が必要だと思われる。一方,この因子におい て「文字の種類」が有意な要因効果をもったことについては少々解釈がしにくいが,「社会的
課題レポートの評価と学生に対する印象形成に及ぼすワープロ文字の効果207
望ましさ」因子と同様に,乱雑な手書き文字を使った場合には,その人物像について低い評価 を受けるということが示された。丁寧な文字で書くべきレポートを乱雑な文字で書いた場合に は,消極的な印象の人物像が形成されるようである。「社会的望ましさ」因子においては,ワー プロ文字は丁寧な手書き文字と同程度の効果をもったが,この「力本性」因子においては,そ の効果はやや低い。
以上,仮説ごとに若干の考察を行ってきたが,全体を通じて,レポート作成に用いられる文 字の種類は,本稿で検討したようないくつかの側面において,かなり大きな効果をもつことが わかった。問題の項ですでに述べたように,ワープロは当初,清書用の機械として登場した。
文書を清書する際に使う道具として和文タイプライターを凌いで以来,ビジネスの分野で作成 される文書はワープロで印刷するものとなったが,個人の立場で作成されるような文書であっ ても,大学での課題レポートのような公的な性格をもつ文書は,丁寧な手書き文字またはワー プロで作成するものであり,乱雑な手書き文字で作成するものではない,という規範が一般の 人々にも定着したと考えてよいだろう。ワープロの普及に伴って,とくに公的な性格の文書の 場合には,乱雑な手書き文字は悪印象を与えかねず,手書き文字に自信のない者はワープロの 利用によって自衛せねばならなくなったようである。
文 献
萩野綱男(1994) ワープロと言語生活 川浦康至(編)コンピュータ文化の現在,現代のエスプリ,
no.319,至文堂, pp.102−114.
林 文俊(1978) 対人認知構造の基本次元についての一考察 名古屋大学教育学部紀要(教育心理 学科),vol.25, pp.233−247.
廣岡秀一(1990)パーソナリティ認知に及ぼす対人場面の効果一対人的コミュニケーション場面にお ける検討一 愛知淑徳短期大学研究紀要,vol.29, pp.75−90.
吉村英(1993)手書きとワープロのあいだ川浦康至(編)メディアコミュニケーション,現代 のエスプリ,no.306,至文堂, pp.170−179,
吉村 英(1991) ワープロ文字と手書き文字の違いが文章の内容の評価に与える影響(1) 日本 心理学会第55回大会発表論文集,753.
吉村 英(1992) ワープロ文字と手書き文字の違いが文章の内容の評価に与える影響(ll) 日本 心理学会第56回大会発表論文集,539.
吉村 英(1993) ワープロ文字と手書き文字の違いが文章の内容の評価に与える影響(m) 日本 心理学会第57回大会発表論文集,803.