1. は じ め に
近年,中国の著しい経済成長が注目され続けているが,同時に,所得格差問題も注目され るようになってきている。所得分配の不平等度の計測によく使われる指数はジニ係数である が,中国政府の公表値, CHIP1),および, Ravallion and Chen ( 2007 )などによる中国のジ ニ係数の推計結果によれば,中国全体のジニ係数は 1978 年の 0.25 から 2002 年の 0.46 まで大幅 に上昇しており,所得格差が拡大してきていることが懸念されている
2)。
このことから,経済成長によって資本は蓄積されていくが,その一方で,それにともなっ て所得分配の不平等度も大きくなってきているということが推測される。すなわち,資本蓄 積によってローレンツ曲線の形状が変化し,その結果としてジニ係数の値が変化してきてい るということが推測されるのである。
本稿では,このような近年における中国の経済成長と所得格差の問題について考察するこ とを大きな問題意識としながら,理論的な分析方法によってこの問題について考察すること に焦点を当てていく。
このような問題について考察するための理論的な分析方法には,いくつかのものが存在し ていると思われるが,そのなかの一つの分析方法として,本稿ではジニ係数をもちいた理論 的な分析方法に焦点を当てて考察を進めていく。
経済成長による資本蓄積とローレンツ曲線の形状,および,ジニ係数の関係については,
たとえば, Bourguignon ( 1990 ), Bardhan and Christopher ( 1999 ), Bertola, Foellmi and Zweimuller ( 2006 ),姜( 2006 )などによって理論的な分析がおこなわれているが,本稿で は,これらの先行研究を参照しながら,資本蓄積とジニ係数の関係に関する理論的な分析を 詳細におこなうことを試みる。そして,分析から得られる結果にもとづいて今後の研究の方
1) 中国社会科学院経済研究所の「中国家計調査プロジェクト(China Household Income Project)」の略称である。
2) 薛・荒山・園田(2008)を参照。
ジニ係数による所得分配の理論的分析
前田 純一・陳 狄
(受付 2016年10月31日)
向性についても考察をおこなう。
本稿は以下のように構成されている。第 2 節においては,分析にもちいるモデルを紹介す る。本稿における分析には,ハリス=トダロ・モデル
3)の枠組みがもちいられる。第 3 節に おいては,経済成長による資本蓄積とローレンツ曲線の形状,および,ジニ係数の関係につ いて,上述の先行研究を参照しながら詳細な理論的分析をおこなう。第 4 節においては,本 稿における分析の要約をおこない,併せて,今後の研究の方向性について言及する。
2. モ デ ル
本稿における分析には,ハリス=トダロ・モデルとよばれる理論モデルがもちいられる。
このモデルには農村部門と都市部門が存在し,賃金格差による農村部門から都市部門への労 働移動のメカニズム,および,都市部門における失業の存在について理論的な分析がおこな われているが,中国における内陸部から沿岸部,あるいは,農村部から都市部への労働移動 は,このモデルによって説明される可能性が大きく,中国経済を分析するための有効な経済 モデルの一つと考えられている
4)。
本稿では,ハリス=トダロ・モデルにおいて構築されている経済を農村部門と都市部門の 二つに大きく分ける枠組みを利用し,それぞれの部門における人口構成比率の決定式や賃金 決定式などからジニ係数,および,ローレンツ曲線の形状について考察をおこない,同時に,
経済成長による資本蓄積によって,それらがどのような影響を受けるかについて検討を進め ていく。
モデルの概要は以下のようである。当該国は小国であるとし,経済には農村部門と都市部 門が存在している。そして,都市部門では,賃金は最低賃金法などによって制度的に固定さ れているものとする。また,両部門では,それぞれの労働の限界生産力は賃金に等しくなっ ており,農村部門では労働者は完全に雇用されているものとする。都市部門では,最低賃金 法などによって制度的に固定された賃金に限界生産力が等しくなるように雇用量が決定され,
その雇用量を超えた労働の供給分については失業者となる。労働者は賃金格差によって部門 間を移動することになるが,このとき,農村部門の賃金と都市部門の期待賃金の差がなくな るまで農村部門から都市部門へ労働が移動するものとする。
2.1
ジニ係数の単純化経済には農村部門と都市部門が存在し,都市労働者と農村労働者の二つの階級が存在する
3) Harris and Todaro(1970)を参照。4) 中村(2012)を参照。
と仮定されているが,ここで,全人口を L ,そのうちの農村部門の人口を Laで表し,全人口 に対する農村部門の人口比を la( ≡ L
a/ ) L と定義する。また,農村部門の賃金を w
a,都市部 門の賃金を wmとし,ローレンツ曲線が図 1 のように描かれるものとする。ここで,図 1 に おいて,α は全所得に占める農村部門の所得の割合を表しており,次のように定義される。
( ≡ L
a/ ) L と定義する。また,農村部門の賃金を w
a,都市部 門の賃金を wmとし,ローレンツ曲線が図 1 のように描かれるものとする。ここで,図 1 に おいて,α は全所得に占める農村部門の所得の割合を表しており,次のように定義される。
α ≡
+ −
w L w L w L L
a a
a a m
(
a) ( 1 )
この α を農村部門の相対所得比率とよぶことにする。
図 1 をもとにして,ジニ係数がどのように表されるかについて考察を進めていこう。ジニ 係数は,図 1 の三角形 A の面積で表されるが,これは 1/2 から三角形 B , C および四角形 D の面積を引いたものであるから,ジニ係数は以下のように表される。ここで,( 2 )において,
G はジニ係数を表している。
G = 1 l
a−
2 ( α ) ( 2 )
( 1 )の α の定義式の分子・分母を L で除すると α = w la a/ { w l
a a+ w
m( 1 − l
a)} と表されるの で,この式を( 2 )に代入して再整理する。
G l l w w
w l w l
a a m a
a a m a
= − −
+ −
( )( )
{ ( )}
1
2 1 ( 3 )
図1
( 3 )において,農村部門の賃金よりも都市部門の賃金の方が高い ( wa< w
m) ことを仮定する ならば( 3 )は常に正となり,ジニ係数はマイナスにならないことになるので,以下の展開 においては w
a< w
m と仮定することにする。
( 2 )より,ジニ係数は,全人口に対する農村部門の人口比( la),および,農村部門の相対 所得比率( α )の関数となっている。このことから,ジニ係数と資本蓄積との関係について 考察するためには,資本ストックの変化に対して農村部門の人口比や相対所得がどのように 変化するかを検討してみればよいことになる。そこで,資本ストックを K で表して,( 2 )を K で偏微分してみよう。
∂
∂ = ∂
∂ − ∂
∂
G K
l
K K
1
a2
α ( 4 )
( 4 )より,経済成長によって資本ストックが増加したとき,たとえば,農村部門の人口が減 少して農村部門の人口比が小さくなり( ∂ la/ ∂ < K 0 ),かつ,農村部門の相対所得比率が増 加する( ∂ α / ∂ > K 0 )ことになるならば,( 4 )が負の値をとることになるので,経済成長に ともなう資本ストックの増加によってジニ係数は小さくなっていき,所得格差は縮小してい くことになるのである
5)。
以後の展開において,経済成長による資本ストックの増加によって農村部門の人口,およ び,農村部門の相対所得比率がどのような影響を受けるかについて考察を進めるために,経 済モデルをさらに具体化しておかなければならない。次項において分析に用いる経済モデル をさらに具体化し,これらのことについて検討を進めることにしよう。
2.2
ハリス=トダロ・モデル経済成長による資本ストックの増加によって農村部門の人口,および,農村部門の相対所 得比率がどのような影響を受けるかについて考察を進めるために,ハリス=トダロ・モデル をもちいて以後の分析を進めていくことにする。
都市部門と農村部門の生産関数をそれぞれ以下のように定義する。
y
m= f L K (
m, ) ( 5 )
y
a= g L ( )
a( 6 )
ここで, ymは都市部門の生産物, yaは農村部門の農産物, Lmは都市部門の人口を表してい る。これらの生産関数は,新古典派生産関数のすべての条件を満たすものとする。なお,農
5) このような経済成長は,Bourguignon(1990)において平等的な成長(eqalitarian growth)とよば
は農村部門の農産物, Lmは都市部門の人口を表してい る。これらの生産関数は,新古典派生産関数のすべての条件を満たすものとする。なお,農
5) このような経済成長は,Bourguignon(1990)において平等的な成長(eqalitarian growth)とよば
れている。
村部門の生産関数は,単純化のために労働だけの関数としている。
都市部門の賃金は,仮定より最低賃金法などによって制度的に wmに固定されているので,
都市部門における労働の限界生産力がこの賃金水準に等しくなるように都市部門の雇用量が 決定されることになる。このときの雇用量を Lmとすると以下の関係が成り立つ。
w
m= f L K
1(
m, ) ( 7 ) ここで, f
1≡ ∂ f L K (
m, ) / ∂ L
mと定義している。この都市部門での雇用量 Lmに対して労働供 給が過剰になる場合に,都市部門における失業が発生することになる。
農村部門の賃金は,農村部門における労働の限界生産力に等しくなるように決定される。
w p dg L
a
dL
aa
= ( )
( 8 )
ここで, p は農産物の相対価格を表している。
農村部門の労働者は,賃金格差によって農村部門から都市部門へ移動することになるが,
このとき単純に賃金の格差のみによって移動するのではなく,農村部門の賃金と都市部門の 期待賃金を比較して,都市部門の期待賃金の方が高い場合に都市部門へ移動していくという 仮定がハリス=トダロ・モデルでは設定されている。
そして,農村部門から都市部門へと労働者が移動していく結果,農村部門の人口が減少し ていくことになる。農村部門の人口が減少していくと労働の限界生産力が上昇していくこと になり,農村部門の賃金は上昇していくことになる。そして,農村部門の賃金が都市部門の 期待賃金と等しくなったとき,農村部門から都市部門への労働の移動は止まることになる。
このことから,このモデルにおける離農均衡式は次式のように表される。
L
L L
mw C w
a
m a
− − = ( 9 )
ここで, C は離農コストを表しており
6), Lm/ ( L L −
a) は都市部門での就業確率を表してい る。したがって,( 9 )の左辺は都市部門での期待賃金から離農コストを引いたものを表して おり,これが農村部門の賃金と等しくなるところで労働の移動が止まり,都市部門の雇用量 が決定されることになる。
( 8 )より( 9 )は次のように書き換えられる。
6) 中国の戸籍制度では他地域の戸籍を取得するためには高い取得料金を支払わなければならず,ま た,戸籍と異なる地域で働く場合は,教育費や社会保険などで高い追加費用がかかることになる。
さらに,他地域へ移動する距離も非常に長く,離農コストCは,これらの費用を表している。
L
L L w C p dg L dL
m a
m a
− − = ( )
a( 10 )
( 10 )によって農村部門から都市部門への労働の移動が決定されることになるので,次節 において,( 10 )をもとにして,労働の移動によってジニ係数がどのように変化するのかを 検討していくことにする。
3. 資本蓄積によるジニ係数の変化
2.1 節において検討したように,( 2 )によって,ジニ係数の大きさは,農村部門の人口比
( la),および,相対所得比率(α)によって決定されている。ゆえに,経済成長による資本ス トックの変化によってジニ係数が受ける影響について考察するためには,資本ストックの変 化によって農村部門の人口比や相対所得比率がどのような影響を受けるかについて検討すれ ばよいことになる。
そこで,資本ストックの変化によって農村部門の人口比が受ける影響について,まず検討 しよう。( 10 )をもとにして農村部門の人口比の変化について考察するために,まず( 10 )を 全微分する。
L
L L w pg L dL dC g L dp
L L w L K dK
m a
m a a a
a
m m
( ) ( ) ( )
− − ′′
= + ′ −
−
∂
∂
2
1 ( 11 )
ここで, wm= f L K
1(
m, ) より, ∂ L
m/ ∂ = − K f
12/ f
11となるので,( 11 )に代入する。なお,
f
11≡ ∂
2f L K (
m, ) / ∂ L
m2, f12≡ ∂
2f L K (
m, ) / ( ∂ ∂ L K
m ) と定義している。
L
L L w pg L dL dC g L dp w L L
f f dK
m a
m a a a m
( ) ( ) ( )
a− − ′′
= + ′ +
−
2
12 11
( 12 )
( 12 )において dC dp = = 0 とおくと, ∂ La/ ∂ K が次のように表される。
∂
∂ = −
− ′′ −
L K
w f L L f L w f pg L L L
a m a
m m a a
12
11 11 2
( )
( )( ) ( 13 )
( 13 )において, f12> 0 , f
11< 0 , g L ′′ ( )
a < 0 なので, ∂ L
a/ ∂ < K 0 となるが,ここで, l
a=
L
a/ L より, ∂ L
a/ ∂ = ∂ K L l (
a/ ∂ K ) となるので,( 13 )は次のようになる。
∂
∂ = −
− ′′ −
l K
f L L
Lf L Lf pg L L L w
w
a a
m a a
m m
12
11 11 2
( )
( )( ) ( 14 )
( 14 )より, ∂ la/ ∂ < K 0 であることが確認されるので,資本ストックの増加は,農村部門の 人口比にマイナスの影響を及ぼすことが確認される。
次に,資本ストックの増加が農村部門の相対所得比率に及ぼす影響について考察を進めよ う。そのためには, ∂ α / ∂ K の符号について検討しなければならないが,まずローレンツ曲 線における α がどのように表されるのかについて検討を進めよう。そのために,まず一人あ たり平均収入を求めておく。
都 市 部 門 の 期 待 賃 金 は { Lm/ ( L L −
a)} w
m な の で,都 市 部 門 の 期 待 賃 金 の 総 額 は { Lm/ ( L L −
a)} w L L
m( −
a) と表される。また,農村部門の賃金は pg L ′( )
a なので,農村部門 の賃金総額は pg L L ′ ( )a aと表される。一人あたり平均収入は,この両者を合計したものを総 人口 L で除したものになるので,以下のように表される。なお,計算には( 10 )の離農均衡 式が用いられている。
/ ( L L −
a)} w L L
m( −
a) と表される。また,農村部門の賃金は pg L ′( )
aなので,農村部門 の賃金総額は pg L L ′ ( )a aと表される。一人あたり平均収入は,この両者を合計したものを総 人口 L で除したものになるので,以下のように表される。なお,計算には( 10 )の離農均衡 式が用いられている。
一人あたり平均収入 = L
L L w L L pg L L L
m a
m a a a
− ( − ) + ′ ( )
=
( pg L ( ) C L L )( ) pg L L ( ) L
a a a a
′ + − + ′
= pg L ′ ( )a + C ( 1 − l
a)
αは農村部門の相対所得比率を表したものであるが,これは,一人あたり平均収入に対する 農村部門の平均収入の比率を表したものでもあるので,次のように表すことができる。
α = ′
′ + −
pg L pg L C l
a
a a
( )
( ) ( 1 ) ( 15 )
( 15 )より,経済成長による資本蓄積が相対所得比率αに及ぼす影響は以下のように表され る。
∂
∂ =
′ + − ′′ − + ′
∂
∂ α
K
pC
pg L C l g L l g L
L L
a a
K
a a a a
{ ( ) ( )} ( )( ) ( )
1
21 ( 16 )
上式において符号が確定していないのは右辺の中括弧内の部分であるが, ∂ La/ ∂ K は負であ
ることが( 13 )より確定しているので,中括弧内の部分の符号によって ∂ α / ∂ K の符号が確
定することになる。
このことから,次の条件が成立すれば( 16 )の右辺の中括弧内の符号は正となり,
∂ α / ∂ > K 0 となるので,( 4 )より ∂ G / ∂ < K 0 となり,経済成長による資本蓄積の進行とと もにジニ係数は小さくなっていくことになる。
′ > − ′′ −
g L ( )
ag L ( )(
aL L
a) ( 17 ) この場合,ローレンツ曲線は図 2 のように変化する。
ただし,( 17 )において逆の不等号が成立する場合は( 16 )が負となるため,( 4 )より
∂ G / ∂ K の符号が確定しなくなる。すなわち,資本蓄積によってジニ係数が大きくなる可能 性があるのである。
( 17 )が成立する場合は,資本蓄積とともにジニ係数が小さくなり, Bourguignon ( 1990 ) による平等的な成長( eqalitarian growth )が実現されることになる。そこで,( 17 )の条件 の経済学的含意について少し考察してみよう。
( 17 )の条件がもつ含意を確認するために,農村部門の生産関数 g(La ) を以下のように特定 化する
7)。
g L ( )
a= AL
ab( 18 )
laの減少
αの増加
図2
7)(18)から(19)の展開は姜(2006)によるものである。
( 18 )より( 17 )の条件式は,次のように書き換えられる。
L
L L
ab
−
a> − 1 ( 19 )
すなわち,( 19 )の条件が成立するためには,たとえば,農村部門の人口( La)が十分に大 きく,かつ,農村部門の生産性( b )が十分に高くなければならないのである。
農村部門の人口の大きさは外生的に決定されるものであるが,農村部門の生産性について は政策的に影響を与えることを考えることができる。その一つとして,本稿では農村部門の 生産関数を労働のみの関数として定義して分析を進めているが,生産関数の独立変数として 物的資本を導入することで生産性にプラスの効果を及ぼすことを考えることができるであろ う。あるいは,農村部門の生産関数の独立変数として人的資本を導入し,教育によって人的 資本を増加させることで生産性にプラスの効果を及ぼすことも考えることができるであろ う
8)。これらのことが,本稿における分析を拡張していく方向として,まず検討しなければ ならないことである。
4. お わ り に
本稿においては,近年における中国の経済成長と所得格差の問題について理論的な分析を おこなうための一つのアプローチとして,資本蓄積とジニ係数の関係について理論的な検討 をおこなった。資本蓄積とジニ係数の関係についての理論的な分析は, Bourguignon
( 1990 ),姜( 2006 ), Bertola, Foellmi and Zweimuller ( 2006 )などによっておこなわれて いるが,これらの先行研究を参照しながら,中国経済を分析するための有効な経済モデルと 考えられているハリス=トダロ・モデルの枠組みをもちいて,経済成長による資本蓄積とジ ニ係数の関係に関する理論的に詳細な検討が本稿ではおこなわれている。
本稿での分析により,ジニ係数は農村部門の人口比,および,農村部門の相対所得比率に よって決定されていることが確認されているが,資本蓄積がジニ係数に及ぼす影響について 分析するために,まず資本蓄積によって両者がそれぞれ個別にどのような影響を受けるかに ついて分析をおこない,その結果をふまえて,それぞれの影響を合わせてジニ係数がどのよ うな影響を受けるかについて検討をおこなった。
そして,資本蓄積によって農村部門の人口比は常に小さくなることが確認され,その一方 で,農村部門の相対所得比率は,農村部門の人口が十分に大きく,かつ,農村部門の生産性
8) 薛・荒山・園田(2008)においても,教育不平等と所得不平等について考察がおこなわれている。
が十分に高いという条件が成立するときのみ大きくなることが確認されるので,この条件が 成立する場合に経済成長による資本蓄積によってジニ係数が小さくなることが確認された。
すなわち,この条件が成立しない場合には,資本蓄積によってジニ係数が大きくなる可能性 があり,経済成長に伴って所得格差が拡大していくことになる可能性があるのである。
そのような状況を避けるためには,上記の条件より農村部門の生産性を高めることを考え なければならないが,農村部門の生産関数に物的資本や人的資本を導入することで生産性を 高めることを検討し,上記の条件を成立させるための十分条件について検討をおこなうこと が今後の課題であると考えられる。
参 考 文 献
[1] Bardhan, P., and U, Christopher,(1999), Development Microeconomics, Oxford University Press.
[2] Bertola, G., R, Foellmi., and J. Zweimuller,(2006), Income Distribution in Macroeconomic Models, Princeton University Press.
[3] Bourguignon, F.,(1990), “Growth and Inequality in the Dual Model of Development: The Role of Demand Factors,” Review of Economic Studies, 57, pp.215 – 228.
[4] Harris, R., and P. Todaro,(1970), “Migration, Unemployment and Development,” American Economic Review, pp.126 – 142.
[5] 姜 文源,(2006),「Lewis-Harris-Todaroモデルからみた中国経済の配分問題」,経済学論叢(福岡大 学),第51巻第3号.
[6] 中村 明,(2012),「中国の地域間労働移動の実態とそのメカニズムについて──ハリス・トダロモデ ルに基づく労働移動の分析──」,『国際経済金融論考』,2012年第1号(国際通貨研究所).
[7] Ravallion, M., and S. Chen,(2007), “China’s(uneven)Progress against Poverty,” Journal of Develop- ment Economics, 82, pp.1 – 42.
[8] 薛 進軍,荒山裕行,園田 正,(2008),『中国の不平等』,日本評論社.