• 検索結果がありません。

フランス語の独立文と疑問詞

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "フランス語の独立文と疑問詞"

Copied!
19
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

フランス語の独立文と疑問詞

※)

川 島 浩 一 郎

Ⅰ. はじめに

疑問形容詞,疑問代名詞,疑問副詞をまとめて疑問詞(interrogatif)と呼 ぶ.また動詞を述辞とする発話を動詞文(phrase verbale),述辞が動詞でな い発話を非動詞文(phrase non-verbale)と総称する.

(1)Pourquoi ce regard triste, cette capeline, cette voilette, ce sourire cruel? Qui, quoi, pourquoi, o , quand, comment !? (B. AUBERT, Rapports brefs et tranges avec l'ombre d'un ange, Collection J'ai lu, 2002, p.10)

(2)- Il existe plusieurs produits, oui.

-Lesquels? (J.-C. GRANG ,L'Empire des Loups, Collection Le Livre de Poche, 2003, p.306)

(3)- Je te le vends!

- Combien ? (M. DUGOWSON, Mina Tannenbaum, Collection Le Livre de Poche, 1994, p.19)

(4)Quelleid e? (L'Empire des Loups, p.319)

福岡大学人文学部講師

(2)

(1),(2),(3),(4)のように,疑問詞が動詞( tre を含む)なしに用いら れ,独立文(phrase ind pendante)を構成することがある(註1).このタイプ の非動詞文(疑問詞文)の成立基盤を,統辞的な観点から分析することが本稿 の目的である.

疑問詞文を「文としての統辞的独立」という観点から論じた研究はあまりな い.フランス語の非動詞文をほぼ全般的に扱った研究書に LEFEUVRE(1999)

がある.しかし疑問詞文については,ほとんど記述していない(註2)

論 述 の 手 順 は 次 の 通 り で あ る .Ⅱ .で は 統 辞 的 な 意 味 で の 限 定

(d termination=subordination)を定義し,統辞機能が限定を前提とするこ とを示す(註3).Ⅲ.では,疑問詞の示す独立性について概観する.Ⅳ.では,疑 問詞文の成立と内心構造・外心構造との関連について記述する.内心構造・外 心構造という区別が一般に,非動詞文の成立基盤と密接な関係にあると考えら れるからである.

Ⅱ.「限定」と「統辞機能」の定義

文を構成する諸要素は,必ずしも互いに同等のステイタスを持っているわけ ではない.

(5)Le ciel s' toffait d'une soie rose p le, [...]. (M. LEVY,Et si c' tait vrai..., Collection Pocket, 2000, p.163)

(5)の une soie rose p le はある色をした絹(soie)であり,rose p le はあ るニュアンスを帯びたバラ色(rose)である.つまり une soie rose p le にお いて soie が中心的であるのに対して une や rose p le は付随的である.また rose p le において rose が中心的であるのに対して,p le は周辺的だと言っ

(3)

てよい.言語にはこのような階層性が絶対に必要である.さもなければ,言語 表現のほとんどは語彙の単なる羅列でしかありえなくなってしまう.たとえば une soie rose p le の四つの記号素の意味関係は,「単一性+絹+バラ色+青 白さ」のような概念の平板な並置から想像や連想によって組み立てるしかない ことになる.このタイプの伝達手段に限界があることは明らかである(註4)

一方が中心的で他方が付随的な統辞関係を「限定」と呼ぶ.より明確に定義 すれば,次の三つの条件が満たされるとき,X は Y を限定すると言われる(註5) i)X の出現が Y の存在に依存する.ii)X の付加が Y のステイタスに本質的 な影響を与えない.iii)発話の他の部分(le reste de l' nonc )に対して X が持つ統辞関係が,Y のそれとは異なる(註6)

(6)Je pleuresi rarement. (B. AUBERT,Transfixions, Collection Points, 1998, p.153)

たとえば(6)の si は rarement を限定している.この si の出現は rarement の存在に依存する.もし rarement を消去すれば,それにともなって si も(6)

か ら 姿 を 消 す こ と に な る . ま た si を 付 け 加 え る こ と は ,(6)に お け る rarement のステイタスに本質的な影響を与えない.そして si と発話の他の部 分との統辞関係は,rarement の場合と異なる.実際 si の出現は rarement の 存在に依存するが,rarement の出現は pleure の存在に依存している.

(7)Je suischez Johnny. (Transfixions, p.39)

(7)における chez と Johnny の統辞関係は,限定ではない.確かに chez の 出現はある意味では Johnny の存在に依存している.また Johnny の出現も chez に依存している側面がある.ただしこれは単なる依存関係ではなく,chez

(4)

を付け加えることは Johnny と発話の他の部分との関係に本質的な影響を与 える.限定という概念は階層性を明確にするためのものである.一方が他方の ステイタスに影響するような関係は限定に含めない方がよい.

(8)[...], il faitchaudethumide. (Elle, 4 avril 2005, p.166)

(9)C'est un meurtresec,pur. (F. VARGAS,Coule la Seine, Collection J'ai lu, 2002, p.81)

(8)における chaud と humide の関係も限定ではない.これらは述辞の fait に対して同じ関係を担う.このように発話の他の部分に対して同一の統辞関係 を持つものは,限定ではなく等位関係(coordination)にあると言われる(註7)

(9)の sec と pur の関係も,等位接続詞は伴わないが等位である(註8).等位関係 にある諸要素は同じ階層にある.つまり限定ではない.

統辞機能(fonction syntaxique)は限定を前提にする.つまり統辞機能は 発話の一部分(記号素,連辞,連辞素など)が,発話の他の部分を限定(従属)

する場合にのみ生じる.限定であることが,統辞機能であることの定義である と言い換えてもよい.

(10)Il fauttrouver une autre id e. (Elle, 2 mai 2005, p.92)

(10)において,不定詞句である trouver une autre id e の統辞機能は,動 詞記号素の faut を限定することによって生じる.つまり trouver...は faut を 限定するという統辞機能(直接目的)を持つ.一方 faut はこの文においては 何も限定せず,述辞(独立文の核)としていわば「そこにある」だけで,それ 自身に明確な統辞機能は担っていない. 同様に不定冠詞の une と形容詞の autre は, id e という名詞を限定することで統辞機能を担う. しかし une

(5)

autre id e の内部において id e に明確な統辞機能はなく,「そこにある」だけ である.id e の統辞機能は,この連辞の外部に対して働く.つまり id e の統 辞機能は,une autre id e という連辞全体の中心部分として trouver を限定す ることによって生じる.

(11)Il d cida de sortirsans veste. (Coule la Seine, p.58)

(11)において,sans も veste も単独では明確な統辞機能を持たない.これ らが統辞機能を担うのは,sans veste という連辞全体が発話の他の部分(直接 的には sortir)を限定するからである.確かに sans は veste が文に組み入れ られるという統辞現象において,何らかの役割を担っている.しかしこの働き は,sans veste が(11)で担っているような明確な統辞機能とは別物である.

(12)Seulement,DamasaimeLizbeth. (F. VARGAS,Pars vite et reviens tard, Collection J'ai lu, 2001, p.214)

(12)の Lizbeth が持つ統辞機能(aime の直接目的)は,主辞である Damas との相対的な位置関係によって表示される.(11)の sans と veste の関係は,

(12)の Lizbeth とその「位置」との間にある関係に近い.(12)の Lizbeth がそ れに相応しい位置で aime を限定することによって特定の統辞機能を担うのと 同様に,(11)の veste は sans を伴って sortir を限定することで所定の統辞機 能を獲得している.言語記号と結びつかない限り「位置」自体には明確な統辞 機能がないのと同様,(11)の sans もまた明確な統辞機能は持たない.(12)に おいて Lizbeth とその「位置」がいわば一体化しているのと同じく,(11)の veste は発話の他の部分を限定するために sans と一体化していると考えるべ きである.sans と veste のような関係はまた,名詞と格の関係にパラレルで

(6)

ある.名詞を捨象した格に明確な統辞機能はない.

(13)Pourtant, il faut queparents etenfants parviennent dialoguer sur ce th me. (Elle, 11 avril 2005, p.84)

(14)Elvira nous a rejointes, entortill e dans un kimonorougeetnoir. (Transfixions, p.125)

(13)において parviennent の主辞機能を受け持つのは,parents et enfants という連辞全体である.parents と enfants はそれぞれ,この連辞内部におい て等位で結ばれている消極的な存在に過ぎず,積極的な統辞機能を持たない.

実際,無冠詞名詞である parents と enfants は単独では主辞として不完全で ある.parents と enfants は発話の他の部分に対して同じ関係にあるというだ けで,これらの間に明確な統辞機能はない.

(14)で kimono を限定しているのは,rouge et noir 全体である.kimono rouge も kimono noir も文意に反するのだから,rouge や noir それぞれが個 別に kimono を限定しているわけではない.統辞機能を担っているのは単独 の rouge や noir ではなく,rouge et noir 全体だと考えざるをえない.

等位関係にある諸要素は,発話の他の部分に対して同一の統辞関係を持つ.

つまり等位の定義は関係の同一性であって,それが文中でどのような働きをし ているかという機能の問題からは独立している.このことは等位が統辞的な関 係ではあっても,統辞機能と呼ぶべきものではないということを明瞭に示して いる.

一般に,述辞(pr dicat)は発話の他の部分を限定せず,限定関係がつくる 階層構造の頂点に位置する.これは述辞の定義そのものである.そしてこのこ とが,述辞を中心にまとまっている文全体が,談話から統辞的に独立する基盤 となっている.つまり統辞機能の不在は,独立の可能性を意味することになる.

(7)

統辞機能が限定(従属)を前提条件とするとすれば,統辞機能の不在は逆に非 従属性を意味するからである.(13)の述辞である faut は発話の他の部分を限 定していないが,このことは faut を階層構造の頂点とする連辞が談話から統 辞的に独立していることと同義なのである.

Ⅲ.疑問詞と独立性

例文(1)から(4)や,次の(15)から(20)に見られるように,疑問詞は動詞なし に独立文の述辞となることが少なくない.疑問詞は,名詞,代名詞,形容詞,

副詞と比べて相対的に独立性が高いと思われる.

(15)Maisqui,o ,quand? (Coule la Seine, pp.36-37)

(16)Parfois, vous n' crivez pas.Pourquoi? (F. SAGAN,R pliques, Quai Voltaire, 1992, p.30)

(17)- Faut que tu attendes.

-Quoi? (J. ANOUILH,Becket, Collection Folio, 1959, p.52)

(18)La police?Quelle police? (L'Empire des Loups, p.341)

(19)Qui a? (D. R. KOONTZ,Miroirs de sang, Collection Press Pocket, 1977, p.182)

(20) quoibon? (L'Empire des Loups, p.254)

たとえば(15)では,かりに文脈・状況がなくても,人物・場所・時間が疑問 点であるという発話の意図はほぼ理解可能と言ってよい.また(20)のような慣 用表現は独立文として非常に安定している.

(21)Quand il y a urgence,quion appelle? (L'Empire des Loups, p.255)

(8)

(22)O il est? (L'Empire des Loups, p.272)

(23)Mais dequoitu parles? (Ph. DJIAN,37°2 le matin, Collection J'ai lu, 1985, p.9)

(24)Commentelle s'appelle? (L'Empire des Loups, p.251)

(25)Pourquoitu cherches cette femme? (L'Empire des Loups, p.369)

(26)Combient'as d'enfant? (L'Empire des Loups, p.251)

(27)Etquandtombe le mois des filles? (A. NOTHOMB,M taphysique des tubes, Collection Le Livre de Poche, 2000, p.82)

(28)Quelgenre de femme c' tait? (L'Empire des Loups, p.268)

疑問詞の独立性が相対的に高いということは,(21)から(28)のように動詞文 内部で疑問詞を用いた場合,その文の動詞が持つ独立性は逆に低くなることを 意味する.たとえば(21)の appelle の独立性は,疑問詞を含まない on appelle la police における appelle の独立性よりも,相対的に低いと考えられる.

(29)Je veux savoirquije suis. (L'Empire des Loups, p.515)

(30)Vous savezo il est? (Coule la Seine, p.50)

(31)Vous savez dequoije parle. (D. ETCHISON,R ves de sang, Collection Le Cabinet Noir, 1998, p.138)

(32)Dis-moi plut t comment elle s'est barr e. (L'Empire des Loups, p.374)

(33)Eurydice est si s duisante qu'on a tendance oublier pourquoi il faut lui r sister. (M taphysique des tubes, p.47)

(34)Tu saisquelchemin elle prenait? (L'Empire des Loups, p.268)

疑問詞をともなう動詞文は,(29)から(34)に見られるように,他の文の従属

(9)

要素となる可能性がある.これは疑問詞の存在が,後続する動詞の独立性を相 対的に減少させるからだと考えられる.たとえば(30)の o il est が他の文の 一部分であるのは,o の存在によって est の独立性が低下しているからである.

この現象は(22)の o il est における est の独立性が,疑問詞を含まない Il est la maison の場合よりも相対的に低いことを示している.

(35)Maispourquoi tre rest Paris? (L'Empire des Loups, p.363)

(36)Je ne sais pascommentt'expliquer, [...]. (L'Empire des Loups, p.227)

(37)Mathilde ne savait pas parquoicommencer. (L'Empire des Loups, p.215)

(38)Je ne sais pasquoidire. (Et si c' tait vrai..., p.42)

(39)Or, partir de cet instant, ils sauraient exactemento la trouver.

(L'Empire des Loups, p.498)

また,疑問詞に後続する動詞文の分布は,(35)から(39)のような不定詞句の 分布に対応する.このことは,これらの動詞文のステイタスが,不定詞句のそ れに類似していることを暗示する.不定詞は基本的に,独立性の低い記号素で ある(註9)

(40)Mais j'ignoresic'est vrai. (Miroirs de sang, p.154)

(41)Vous tes bien sergent, c'est vrai? (Miroirs de sang, p.51)

従属接続詞に後続する(40)の c'est vrai の独立性は,(41)の c'est vrai より も低い.疑問詞には,si のような従属接続詞に近い性格があると思われる.

(42) a d penddel' tat du corps. (Transfixions, p.52)

(10)

(43) a d pend qui le dit, [...]. (F. VARGAS, Un peu plus loin sur la droite, Collection J'ai lu, 1996, p.170)

(44)C'est relatif, cela d pend sousquelangle tu consid res la chose. (Et si c' tait vrai..., p.205)

(42)の l' tait du corp は,前置詞の de に導かれている(註10).しかし(43)や

(44)のように疑問詞がある場合,de は必要ない.つまり疑問詞は動詞文を導 き,かつ前置詞の代わりになりうる.この事実は,疑問詞に従属接続詞的な性 格があることを意味している.

(45)On ne sais nio , niquand, niqui. (Coule la Seine, p.28)

(46)Elle ne savait paspourquoinicomment, [...]. (L'Empire des Loups, p.211)

(45)や(46)のように,疑問詞の後に動詞文が続いていないこともしばしばで

ある(註11).つまり後続する動詞文は必要不可欠な要素ではない.これは間接疑

問の統辞的な中心部分が疑問詞であることを暗示する.

以上,疑問詞の統辞的な独立性について観察した.疑問詞は名詞,代名詞,

形容詞,副詞と比べて相対的に独立性が高い.そのため疑問詞を動詞文と共に 用いると,その動詞文の文としての独立性は相対的に低くなる.

Ⅳ.疑問詞文と内心構造・外心構造

内心構造(construction endocentrique)とは,一まとまりで統辞機能を担 いうるような連辞のことである.外心構造(construction exocentrique)と は,そのような可能性を持たない連辞を意味する(註12).本節では,疑問詞文と

(11)

内心構造・外心構造との関連を考察する.特に外心構造は,非動詞文の統辞的 な成立基盤と密接な関係にある(註13)

(47)Or, bien des gens le laissent tre un ma tre. Pourquoi ? (R pliques, p.17)

(48)- Il a abord , Altesse, malgr la mer.

-O ? (Becket, p.144)

(49)- Moi, pour le Becket, j'attends.

-Quoi? (Becket, p.52)

(50)Quand? (L'Empire des Loups, p.341)

(51)Elle n'aurait su dire nio niquand, [...]. (L'Empire des Loups, p.39)

(52)Elle vacomment? (Coule la Seine, p.118)

(47)から(50)の単独の疑問詞は連辞ではないので,基本的には内心構造でも 外心構造でもない.しかし(51)や(52)におけるように,統辞機能を担いうる

(発話の他の部分を限定する)潜在性を持つという点では内心構造的である.

つまり単独の疑問詞からなる非動詞文は内心構造ではないが,内心構造に近い 性格を持つ.

(53)- No, I am English.

-D'o ? (Becket, p.61)

(54)Pourquoi, pour qui, pour faire quoi? (F. SAGAN, Un certain sourire, Collection Le Livre de Poche, 1956, p. 75)

(55)Quel ge? (L'Empire des Loups, p.251)

(56)Cela consistaiten quoi? (L'Empire des Loups, p.319)

(57)Tu ne sais pas ce que je fais, pourquoi je le fais, comment, avec

(12)

qui, ce qui m'amuse, ce qui me rend triste! (A. DESPLECHIN, Comment je me suis disput ... (ma vie sexuelle), Hachette, 1996, p.95)

(58)Quel ge tu me donnes, ton avis? (Ph. DJIAN, Zone rog ne, Collection J'ai lu, 1984, p.66)

(53)から(55)の疑問詞文は内心構造である.疑問詞に前置詞を付け加えた連 辞や,名詞に疑問形容詞を付け加えた連辞は,(56)の en quoi や(57)の avec qui,(58)の quel ge が示すように,全体で一まとまりの統辞機能を担いうる.

(59)Il l'a mordu fort?O a? (Un peu plus loin sur la droite, p.97)

(60)Quand a? (Miroirs de sang, p.186)

(61)Pourquoi ces questions? (L'Empire des Loups, p.220)

(62)Pourquoi l'h pital? (A. NOTHOMB, Robert des noms propres, Collection Le Livre de Poche, 2002, p.17)

(63)Pourquoi dangereux? (F. VARGAS, Ceux qui vont mourir te saluent, Collection J'ai lu, 1994, p.93)

(64)Il se demandapourquoi cet engourdissement. (R ves de sang, p.211)

(65)Je ne sais paspourquoi cette question. (Internet)

(66)Je ne sais paspourquoi pas. (Internet)

(59)から(63)の疑問詞文も,基本的に内心構造と考えてよい.(64),(65),

(66)に見られるように,このタイプの連辞には全体で一まとまりの統辞機能を 持つ可能性・潜在性がある.

(67)Quoi donc? (Coule la Seine, p.117)

(13)

(68)Et puis quoi? (Coule la Seine, p.60)

(69)Alors comment? (Coule la Seine, p.117)

(70)Mais pourquoi? (Un certain sourire, p.119)

(71)Mais o et quand? (Becket, p.137)

(72)Mais il ne dira jamaispourquoi. (Ceux qui vont mourir te saluent, p.155)

(67)から(71)では,疑問詞の前後に接続詞が置かれている.このタイプの連 辞は通常,一つにまとまった統辞機能を持たない.一般に A et B という等位 関係の全体は,外部に対して内心構造である.A と B はそれぞれ,内心構造 でありうる.しかし A et や et B タイプの連辞が,まとまって発話の他の部分 を限定することは考えにくい.したがって(67)から(71)タイプの疑問詞文は外 心構造である.外心構造である mais pourquoi は一まとまりの統辞機能を持 たないという点で,単独の pourquoi よりも統辞的独立性が相対的に高い.

mais pourquoi は(72)の pourquoi のように,発話の他の部分を限定する潜在 性を持たないからである.

次の(73)から(77)に見られるように,疑問詞文全体が外心構造となるには,

様々な様式がありうる.

(73)O exactement? (L'Empire des Loups, p.475)

(74)- Les Loups Gris.

-Les quoi? (L'Empire des Loups, p.281)

(75)- Vous en voyez un autre?

-Un autre quoi? (Et si c' tait vrai..., p.45)

(76)- Catherine m'a tout dit.

-Tout quoi? (Un certain sourire, p.96)

(14)

(77)[...] celui qu'elle avait connu enfant. Mais enfant o ? (J.

SADOUL,Trop de d tectives, Collection J'ai lu, 1999, p.134)

たとえば(76)の場合,tout quoi は発話の他の部分を限定しうるような連辞 ではない. つまり tout quoi 全体は外心構造である. 同様に(70)の mais enfant o は外心構造である.これらの連辞が他の要素を限定する潜在性を持 たないことは, 内心構造的な quoi や o と比べれば明瞭である. また tout quoi や mais enfant o の独立性が,quoi や o と比べて相対的に高いことも 明らかである.

以上,疑問詞文と内心構造・外心構造との関連ついて考察した.明確な統辞 機能を持たない外心構造は,発話の他の部分を限定しないといういわば消極的 な性格を利用することで,内心構造に対して相対的に高い独立性を獲得しうる.

疑問詞文の成立にも,この仕組みがかかわっていることが少なくない.

Ⅴ.まとめ

本稿では主に,疑問詞文の成立基盤を内心構造・外心構造という統辞的観点 から考察した.疑問詞は一般に,名詞,代名詞,形容詞,副詞と比べて相対的 に高い独立性を示す.そのため疑問詞が動詞文の内部で用いられると,動詞の 持つ独立性が低下する傾向が見られる.また全体が外心構造の疑問詞文は,一 まとまりの統辞機能を担わないという消極的な性格を利用して,内心構造の疑 問詞文に対して相対的に高い統辞的独立性を獲得することができる.

[註]

※)本稿は川島(2002a)の第 7 章を全面的に書き改めたものである.

(15)

(註1)本稿では MEILLET(1903)などの伝統的な見解に従って,談話にお い て 統 辞 的 に 独 立 し た 発 話 を 文 (phrase) と 考 え る . MEILLET

(1903)は文に次のような定義を与える.

A un point de vue purement linguistique, et abstraction faite de toute consid ration de logique ou de psychologie, la phrase peut tre d finie : un ensemble d'articulations li es entre elles par certains rapports grammaticaux et qui, ne d pendant grammaticalement d'aucun autre ensemble, se suffisent elles- m mes. (MEILLET, 1903, p.326)

また BLOOMFIELD(1933)が文に与えた次の定義においても,独立 性という概念は重視されている.

It is evident that the sentences in any utterance are marked off by the mere fact that each sentence is an independent linguistic form, not included by virtue of any grammatical construction in any larger linguistic form. (BLOOMFIELD, 1933, p.170)

(註2)LEFEUVRE(1999)には,quoi a?のような疑問詞文の主辞(sujet)

が a であるという指摘がある.しかし主辞は動詞に対する義務的な 限定だと定義するべきである.この定義に従えば quoi a?には動詞 がないのだから,必然的に主辞もないことになる.この a はむしろ 主題(th me)と呼ぶべき要素だと思われる.主辞が義務的限定であ ることに関しては,川島(2005a)および川島(2005b)を参照.

(註3)限定と従属は同一の現象である.「限定」の方がより好ましい用語で

(16)

あることを, MARTINET(1985)は次のように説明する.

Comme toutefois ce terme [=subordination] voque le cas particulier des rapports entre propositions, on pr f re en g n ral parler de d termination. (MARTINET, 1985, p.112)

(註4)経済的観点からも,統辞的な階層性は言語にとって必要不可欠である.

たとえば une fille,la fille,ma fille,cette fille,la fille de Marie,

la fille de Paul,une jeune fille,la jeune fille,une jolie fille など のありとあらゆるタイプの fille に対してまったく別個の語彙を割り 当てなければならないような不経済なシステムは,人間が用いる言語 として成立しない.

(註5)本稿で用いた限定の定義については,MARTINET(1985)を参照.

(註6)限定関係にとって本質的なのは,一方が他方に依存する関係であるこ とである.これに比べれば,他の二つは補足的な条件である.

(78) J'arr te pas penser a. (Zone rog ne, p.66)

依存関係の判別に曖昧さがあるように思えることがあるかもしれない.

たとえば(78)において, a が penser を限定しているのか,あるい は a が連辞素である penser を限定しているのかは一概には決めら れない.ただしこれは「曖昧な場合がある」ということに過ぎず,限 定が依存であるという定義を変更する必要はない.白でも黒でもない 灰色が存在するからといって,白と黒という区別が無意味になるわけ ではない.

(註7)等位の定義に関しては,敦賀(1998)を参照.

(17)

(註8)等位関係にとって,接続詞の存在は必ずしも本質的なものではない.

等位接続詞は等位関係を明示するための付随的な要素と考えられる.

この点については,川島(2005b)を参照.

(註9)不定詞(句)の独立性の低さについては, 川島 (2005c) および川島

(2005d)を参照.

(註10)前置詞や従属接続詞は原則として,限定・従属(つまり統辞機能)の 表示である.これに関しては,川島(2005e)を参照.

(註11) pourquoi や comment が名詞として用いられることもある.

(79) Il faisait ce qu'il avait envie de faire sans se poser mille questions sur lepourquoiet lecommentdes choses, [...]. (Et si c' tait vrai..., p.95)

(80)[...], c'est vous seule vous poser la question dupourquoi.

(Et si c' tait vrai..., 118)

(註12)内心構造・外心構造は元来,分布主義的な枠組みで定義される.すな わち,連辞 XY が X あるいは Y と同じ分布を示すとき,この連辞を内 心構造と呼ぶ.そして XY が X と Y のどちらとも異なる分布を示すと き,この連辞を外心構造と呼ぶ.本稿では,この定義に修正を加えたも のを用いている.内心構造・外心構造の定義に関しては,BLOOMFIELD

(1933)と川島(2002b)を参照.

(註13)非動詞文と外心構造との関連について,TSURUGA(1978)は次のよ うに指摘する.本稿の記述は基本的に,この考え方を疑問詞文に適用 したものである.

rien, sous les arbres du jardin est exocentrique, ou tout au

(18)

moins, moins endocentrique que rien de tel, par exemple. Nous pensons que les nonc s nominaux sans les dits "actualisateurs"

sp cialis s sont plus ind pendants quand ils sont exocentriques que quand ils sont endocentriques. C'est justement cette exocentricit m me qui offre une ind pendence. Le cas de rien n'est peut- tre pas tr s explicite cause du signifi de rien (m me pour le cas de rien, nous pensons d'ailleurs que rien, sous les arbres.. est plus ind pendant que rien de tel ou rien). Mais le cas de f te, par exemple, est explicite. f te, ou une f te, ou une grande f te peut tre difficilement ind pendant, tandis que aujourd'hui une f te ou une grande f te parce que c'est la fin d'ann e para t l' tre. (TSURUGA, 1978, p.68)

[参考文献]

BLOOMFIELD, Leonard (1933),Language, New York, Holt.

川島浩一郎(2002a)『フランス語の非動詞文研究』,博士論文,東京外国語大 学大学院地域文化研究科.

川島浩一郎(2002b)「内心構造,外心構造について」,『ふらんぼー』第 28 号,

東京外国語大学フランス語研究室フランス研究会,pp.39-57.

川島浩一郎(2005a)「「限定」の下位分類」,『フランス語を探る フランス語 学の諸問題Ⅲ』,三修社,pp.76-87.

川島浩一郎(2005b)「二次的叙述をめぐる一考察」,『ふらんぼー』第 31 号,

東京外国語大学フランス語研究室フランス研究会,pp.34-50.

川島浩一郎(2005c)「フランス語の「現在形」をめぐる一考察」,『福岡大学研 究部論集』第5巻第1号 A : 人文科学編,福岡大学,pp.13-28.

(19)

川島浩一郎(2005d)「不定詞文に関する一考察」,『福岡大学人文論叢』第 37 巻第2号,福岡大学,pp.705-720.

川島浩一郎(2005e)「フランス語の独立文と前置詞・従属接続詞」,『福岡大学 人文論叢』第 36 巻第4号,福岡大学,pp.1115-1134.

LEFEUVRE, Florence (1999) La phrase averbale en fran ais, Paris, L'Harmattan.

MARTINET, Andr (dir.) (1979)Grammaire fonctionnelle du fran ais, Paris, Didier.

MARTINET, Andr (1985)Syntaxe g n rale, Paris, Armand Colin.

MEILLET, Antoine (1903) Introduction l' tude comparative des langues indo-europ ennes, Paris, Hachette et Cie.

TSURUGA, Yoichiro (1978) L'Autonomie syntaxique en fran ais contemporain (sa contribution la communication linguistique), th se de doctorat de 3e cycle, Universit de Provence.

敦賀陽一郎(1998)「等位接続と統辞機能」,『フランス語を考える フランス 語学の諸問題Ⅱ』,東京,三修社,pp.204-215.

参照

関連したドキュメント

直接応答の場合と同様に、間接応答も一義的に Yes-response と No-response と に分かれる。先述のように、yes/no 疑問文の間接応答は

「文字詞」の定義というわけにはゆかないとこ ろがあるわけである。いま,仮りに上記の如く

従って、こ こでは「嬉 しい」と「 楽しい」の 間にも差が あると考え られる。こ のような差 は語を区別 するために 決しておざ

うのも、それは現物を直接に示すことによってしか説明できないタイプの概念である上に、その現物というのが、

問についてだが︑この間いに直接に答える前に確認しなけれ

この見方とは異なり,飯田隆は,「絵とその絵

このような情念の側面を取り扱わないことには それなりの理由がある。しかし、リードもまた

本論文での分析は、叙述関係の Subject であれば、 Predicate に対して分配される ことが可能というものである。そして o