預金者の共同相続人の 1 人による 預金取引経過開示請求について
――最一小判平成 21 年 1 月 22 日(民集 63 巻 1 号 228 頁)――
森 永 淑 子 *
Ⅰ はじめに
現代の日本で生活する者の多くが、銀行等の金融機関に何らかの形で預金・
貯金口座をもっている。個人が開設できるものとしては普通預金・当座預金・
定期預金などがあり、さらに普通預金に定期預金等を組み合わせた総合口座 取引も広く利用されている。そして普通預金や総合口座を介して、給与や年 金の受取り・公共料金や各種社会保険料等の支払い・クレジットの決済等、
多種多様な取引が行われている。
これらの日常的に利用されている口座の名義人(以下、預金者という)が 自然人である以上、預金者の死亡という事態は避けられない。預金者が死亡 した場合に関しては、周知のように、相続人複数のケースにおける預金債権 の帰属をめぐってかねてから争いがあった。すなわち、共同相続人の 1 人が
*福岡大学法学部准教授
法定相続分に従って被相続人の預金(いわゆる相続預金)の払戻しを単独で 請求できるかという点につき、銀行実務は「相続人全員の同意がなければ払 戻しに応じない」という対応をとり続けていた。その結果、払戻しを求める 相続人との間での紛争が頻発していた。
このような銀行実務に対し、裁判例は法定相続分に応じた預金の払戻しを 命ずるものがほとんどであった(1)。すなわち、判例が古くから金銭債権の 相続については法定相続分に応じて各相続人に分割・帰属するといういわゆ る分割債権説を採用していることから、金銭債権たる預金債権も相続と同時 に各共同相続人に分割・帰属するとされてきたのである。最高裁でこの点に ついて直接判断が下されたことはないものの(2)、裁判に至れば分割債権説 により判断されることは――そのことの当否はともかく――裁判実務上定着 しているといってよい。
このように、相続預金の払戻しについては議論が収束しつつある一方で、
近年、共同相続人の 1 人からの、被相続人の預金取引経過の開示を銀行に請 求する紛争が訴訟にまで至るケースが出始めた。
かかる共同相続人の一部からの相続預金に関する照会に対し、銀行実務の 対応は次のようなものであった。まず、残高証明については、民法 915 条 2 項の相続人による相続財産調査の規定を考慮して応じている(3)。しかし取 引経過等のその他の情報の開示については、やや古い調査では、相続人であ ることの確認がとれれば応じるとする金融機関もみられるものの(4)、近年は、
相続人全員の同意がある場合は別として、被相続人のプライバシー侵害の可 能性があること等を理由に慎重な態度を取り、開示に応じないというのが原 則的対応であったようである(5)。
また、法律論としても、金融機関に当然に開示義務ありとすることには障 害があった。まず銀行法・銀行取引約定書や各種預金規定に、取引経過の開 示にかかる直接の規定は見受けられない。さらに、民法制定直後から預金契
約は消費寄託契約(準消費寄託契約)であるとされてきたことも関係する。
すなわち、預金者と金融機関の間には消費寄託関係しかないとすれば、金融 機関が預金者に対して負う義務は、金銭の返還義務のみということになる。
民法 665 条により消費寄託契約には委任に関する規定が準用されるが、委任 契約における受任者の報告義務を定めた 645 条は除外されている。このこと から、金融機関としては取引経過を預金者に報告する義務(預金者の取引経 過開示請求権)はないと解し得る。そうすると、預金者からであれその相続 人からであれ、取引経過開示に応じる義務はなく、応じたとしてもそれは金 融機関が任意に行うサービスにすぎないことになる。
なお、預金者の開示請求権が認められないとしても、共同相続人が単独で も残高証明を請求できることに準じ、相続人固有の権利としての開示請求を 認める方途も考えられなくはない。しかし、被相続人の遺産総額を把握する ための残高証明請求についてはともかく、相手方に取引経過の明細の開示ま でを 915 条により「義務づける」ことができるかは即断できない。特に、取 引経過の開示請求がいわゆる熟慮期間経過後になされた場合には、開示義務 ありとすることは難しいといえよう。
このような状況のもと、下級審では、預金者の共同相続人の一部からなさ れた取引経過の開示請求について見解が分かれていた。そして最高裁平成 17 年 5 月 20 日決定(金法 1751 号 43 頁)は、共同相続人の 1 人による開示 請求を否定した原判決に対する上告受理申立てを不受理とした。そのため、
かかる開示請求は認められないものと一部では受け止められていた(6)。 ところが、最高裁平成 21 年 1 月 22 日判決(以下、本判決という)(7)は、
結論として、共同相続人の 1 人による預金取引経過開示請求を認めた。これ は金融実務に大きな影響を与えるものと受け止められているが、実務面のみ ならず、預金契約の法的性質論や預金者の相続人と金融機関との間の法律関 係を考えるにあたって興味深い点を含んでいる。そこで本判決を紹介し、過
去の公表裁判例・学説も参照しながら検討を試みたい。
Ⅱ 本判決の事案の概要
[事実関係] 亡AはXの父であり亡BはXの母である。Y信用金庫において、
平成 17 年 11 月 9 日当時、亡Aは普通預金 1 口および定期預金 11 口、亡B は普通預金 1 口および定期預金 2 口を有していた。Aは平成 17 年 11 月 9 日 に死亡し、X・Bおよび他の相続人が共同相続した。その後Bは平成 18 年 5 月 29 日に死亡し、Xは他の相続人とともに共同相続した。
XはYに対して、B名義の各預金口座について開示を請求したところ、Y は相続人全員の同意がないためこれを拒んだ。そこで、XがB名義の口座に ついて平成 17 年 11 月 9 日から平成 18 年 2 月 15 日までの預金取引経過の開 示を求めて本訴に及んだ。
[第 1 審判決] (【1】東京地判平成 18 年 11 月 17 日民集 63 巻 1 号 238 頁)
請求棄却。最高裁平成 17 年 5 月 20 日決定から、預金者の共同相続人の 1 人は金融機関に対し預金取引経過明細の開示を強制できる法律上の根拠はな いとする。
そこでXが、A名義の預金口座につき平成 17 年 11 月 8 日・9 日分の取引 経過開示につき訴えを追加して控訴。
[原判決] (【2】東京高判平成 19 年 8 月 29 日民集 63 巻 1 号 241 頁)
控訴認容。まずYの預金規定の内容とA・Bの普通預金口座につき振込み や公共料金等の引き落としが頻繁に反復され、定期の利息の振替が行われて いることを認定する。その上で、Yと預金者との間の預金契約は単なる消費
寄託契約にとどまらず、委任契約に基づく事務としての性質も併有し、かつ 通帳を交付する場合には、その口座にかかる取引経過や残額等を通帳への記 帳により預金者に明らかにすることになっているものと解されるという。そ して預金者は預金通帳の記載によらなければ預金残高を正確に把握すること は困難であり、取引経過の開示が認められないと、合算記帳や通帳紛失の際 に取引経過を知り得なくなり入出金の誤りや誤算の有無の確認ができず不利 益を被る可能性がある。他方、金融機関の取引経過開示は困難とはいえない から、Yは、「預金者から取引経過の開示を求められた場合には、その開示 要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り、上記のような 性質を有する預金契約に付随する義務として、信義則上、預金取引経過を開 示すべき義務を負う」とした。
続いて、預金契約者の共同相続人の 1 人が、被相続人の預金に関する取引 経過の開示請求権を有するか否かについては、まず預金債権の相続につきい わゆる分割債権説に立ち、各相続人は単独の預金者として、自己の預金に関 する取引経過の開示を請求できるとする。そして各相続人の有する預金に関 する取引経過には、被相続人が預金者であった当時の預金に関する取引経過 が当然に含まれるから、各相続人は金融機関に対して被相続人名義の預金に ついて取引経過開示請求権を有するとしている。
Yが上告受理申立て。その理由としては、①預金契約は消費寄託契約であ り開示請求権を認める規定は民法その他の法令・預金規定にも存在しない、
②開示請求権は、預金契約上の本質たる金銭の寄託及び寄託物の返還請求権 を実現するための手段とは言い難いから付随義務論を根拠に開示請求権を根 拠づけることはできない、③預金の種類を問わず預金契約が準委任契約的性 格を持つものとして開示請求権を肯定するのは失当である、④預金取引にお いて信義則上の開示義務を肯定すべき事情は存しない、⑤被相続人のプライ
バシー保護の要請などが主張されている。
[判旨]
上告棄却。まず、預金契約については消費寄託の性質を有するとしつつも、
「預金契約に基づいて金融機関の処理すべき事務には、…振込入金の受入れ、
各種料金の自動支払、利息の入金、定期預金の自動継続処理等、委任事務な いし準委任事務(……)の性質を有するものも多く含まれている」とする。
そして委任契約や準委任契約において、受任者に委任事務等の処理状況の報 告義務があるのは、委任者が事務処理の状況を正確に把握し、その適切さを 判断するために報告を受けることが必要不可欠であるからだという。そして このことは預金契約において金融機関が処理すべき事務についても同様で あり、預金者にとって取引経過の開示を受けることは預金の増減とその原因 等について正確に把握するとともに、金融機関の事務処理の適切さについて 判断するために必要不可欠であるとして、「金融機関は、預金契約に基づき、
預金者の求めに応じて預金口座の取引経過を開示すべき義務を負う」とした。
続いて、共同相続人の 1 人による開示請求については、「預金者が死亡し た場合、その共同相続人の 1 人は、預金債権の一部を相続により取得するに とどまるが、これとは別に、共同相続人全員に帰属する預金契約上の義務に 基づき、被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利 を単独で行使することができる([民]法 264 条、252 条ただし書)」として、
これを認めた。また開示は預金者たる被相続人のプライバシー侵害・金融機 関の守秘義務違反になるとのYの主張も否定した。開示請求が権利濫用にあ たる場合は許されないとの留保はあるが、本件ではそのような事情はうかが われないという。
Ⅲ 検討
本判決は、最高裁として初めて預金者の取引経過開示請求権を認め、さら に預金者の相続人は預金契約上の地位を相続し、共同相続人の 1 人はその地 位に基づく保存行為として、単独で取引経過の開示を請求できるとしたもの である。
下級審判決でも同様の判断を示したものも見られるが、本判決の意義は、
過去の裁判例や学説と対比することにより明らかになるものと思われる。そ こで以下ではまず、本判決で示された預金契約の法的性質論と開示請求権の 基礎づけ・開示請求権相続の構成と単独行使の可否の 3 点に焦点を当てて、
過去の裁判例を概観し(1)、上記裁判例等や学説と対比しながら検討を加え る(2)。その上で、本判決から派生するとされる問題にふれることとする(3)。
1.裁判例等
本判決以外で、共同相続人の 1 人からの預金取引経過開示請求が問題と なったものが事案としては 2 件(3 判決 1 決定)、預金者からの開示請求が 争われたものが 1 件ある。後者は相続がらみの事件ではないが、本判決とも 関連するものと解されることから参考裁判例として紹介する。
【3】東京地判平成 14 年 8 月 30 日(8)
Y銀行と預金取引があったAが平成 11 年 6 月 20 日死亡した。相続人はX、
B、Cである。
Aの公正証書遺言によりほぼ全財産がB・Cに遺贈されていたため、相続 人間で遺産分割をめぐって紛争が生じ、Xは遺留分減殺請求をするとともに 遺産分割調停を申し立てたが不調に終わった。その間、相続財産に疑義あり としてXの弁護士からYにあるA名義の預金 5 口(普通預金 3 口、定期預金
2 口)の取引経過につきいわゆる弁護士会照会および上記調停手続で文書送 付嘱託があった。しかし他の相続人の反対を受けたYは開示を拒絶したので、
XがYに対し取引経過開示を請求して訴訟提起した。
Xは、①今日の預金取引の実情に鑑み、預金契約に付随する権利として預 金者は開示請求権を有する②これは不可分債権であるから各共同相続人は単 独で行使できる③共同相続人の 1 人は預金者の包括承継人であるから守秘義 務・プライバシーの問題は生じない、などと主張した。
しかしXの請求は棄却された。その理由としては、預金規定にはYの取引 明細開示に関する規定はなく、預金契約は消費寄託契約でありその種の義務 を定めた規定は存しない。銀行法にもその種の義務を定めた規定はなく、取 引経過開示請求権が肯定されているという実態もないとしている。
【4】東京高判平成 14 年 12 月 4 日(9)[【3】の控訴審]
【3】に対しXが控訴したが控訴棄却。
ここでも、預金契約の法的性質は消費寄託契約であり、消費貸借契約の規 定が準用になるが、金銭消費貸借契約の当事者間では、貸主から借主に対し その取引経過明細の開示を求めることができる旨の法令上の根拠はなく、銀 行法 12 条の 2 や信義則も根拠とならないとされた。
もっとも、預金取引の実態においては預金契約関係が委任または準委任類 似の契約関係を含む場合もあると見る余地も皆無ではなく、個々の事案の具 体的な取引ないし契約内容によっては、預金契約の法的性質が純然たる消費 寄託契約にとどまらないものと解する余地があることを認めている。
そこで共同相続人の 1 人からの開示請求の可否が検討されるが、預金債権 は各相続人に相続分に応じて分割承継されるものの、開示を受ける地位は預 金契約当事者としての地位に由来し、1 個の預金契約ごとに 1 個であって不 可分であるから、遺産分割終了前には共同相続人の 1 人が単独でその地位を
取得するには至っていないので、単独での開示請求に銀行が応じる義務はな いとした。
【5】東京地判平成 15 年 8 月 29 日(10)
Y銀行と預金取引をしていたDが死亡した。相続人はDの妻EとDEの子 X・F・Gである。Dが「一切の財産をEに相続させる」旨の公正証書遺言 を作成していたため、相続人間で紛争が生じた。
Xは遺留分減殺請求をするとともに、遺産調査のため弁護士法 23 条の 2 に基づきDの預金の取引経過の開示を求めたがYはこれを拒絶。XはD名義 の預金の取扱店、種類、口座番号、取引状況の開示と弁護士費用等損害賠償 の支払いを求めて訴訟提起した。
Xは、①民法 645 条を根拠に預金者は開示請求権を有する②民法 915 条に よる相続財産調査権あるいは預金債権の相続取得を理由にXは単独で取引履 歴の開示請求ができる③相続人は被相続人と同一の地位に立つから守秘義務 違反にはならない、などと主張した。
【5】ではXの請求が認容された。
民法 915 条 2 項を根拠とするXの主張については、同条同項は相続人に調 査権限を与え被調査者にこれに応ずる法的義務を課すものではないとして否 定した。しかし預金者の預金取引経過開示請求権の有無については、現在の 預金取引の在り方を踏まえて、取引履歴の通知は「預金契約における銀行の 債務内容を成していると解すべきであ」るとし、また通帳等の紛失等の事情 で取引履歴を確認できない預金者に対する取引履歴の開示義務は、「預金契 約に当然に付随する契約上の義務であると解される」という。
そして相続人からの請求については、預金債権を分割取得した相続人は当 該相続分の限度において預金債権の包括承継人であって、被相続人の有して
いた契約上の地位を一般的に承継取得したものというべきであり、そうする と、単独の預金者である各相続人は、銀行に対し、自己の預金に関する取引 履歴の開示を求める権利を有するという。さらに遺留分減殺請求した者は遺 留分に応じて相続財産を相続開始時にさかのぼって包括的に承継取得するこ とから、Xは預金債権を遺留分に応じて取得しており、よって単独で預金取 引の開示請求ができるとする。Yからの守秘義務違反に関する反論も認めな かった。
【6】最決平成 17 年 5 月 20 日(11)[【4】への上告受理申立て・上告に対する決定]
【4】に関してXが上告受理申立てを行ったが、最高裁は、Xの上告理由に ついては、実質は事実誤認または単なる法令違反を主張するものであって、
民訴法 312 条 1 項または 2 項所定の事由にあたらず、受理申立てについても 民訴法 318 条 1 項により受理すべきものとは認められないとしてこれを斥け た。
【7】[参考裁判例]大阪高判平成 15 年 9 月 18 日(12)
宗教法人XとXに罷免された住職・代表者Zとの間の紛争に付随して、Z がY銀行において「X・Z」名義で開設していた預金口座につき、Xが取引 経過開示請求をしたケースであった(事実関係はXZ間の紛争も絡み複雑で あるがここでは省略する)。
【7】は、まず普通預金規定の内容を認定した上で、銀行と預金者の間の普 通預金取引につき、預金の預入れ及び払戻しは消費寄託契約に基づき、その 他の取引は預入れ・払戻しと一体となった(準)委任契約に基づく事務とし ての性質を有するという。そして取引経過の開示については委任契約にかか る出納事務部分のみを抽出して民法 645 条に基づく報告のみを行うというこ とは通常考えられない。これらの事情を総合して、「預金者が入出金の明細
についての情報の開示を求めた場合は、金融機関は、預金契約に付随する義 務として、出納事務に限らず、その取引の全体について開示すべき義務があ る」としている。
このように、開示請求権を扱った過去の裁判例でも本判決の下級審でも、
開示請求権の基礎づけや開示請求権の相続による承継・共同相続人の 1 人に よる単独行使の可否に関して見解は区々であり、同じ結論を採っていても理 由づけは一様ではなく、最高裁のそれも上記の諸裁判例とは異なった部分が ある。そこで次に、最高裁がなぜⅡで見たような見解を採用したのかにつき 学説も参照しながら検討を試みる。
2.本判決の意義について
(1)預金契約の法的性質と預金者の預金取引経過開示請求権の有無につい て
この点につき過去の裁判例では、預金契約の本体的部分が消費寄託契約で あるとすることは共有されていると見てよい。しかし、預金取引において金 融機関が行う事務をも視野に入れて預金契約ないし預金取引が委任的要素を 含むことを認めるか、開示請求権の根拠をどこに求めるかは判断が分かれて いる。
理由づけが明らかな裁判例を概観すると、預金契約は消費寄託契約であり それ以上の内容を持たないとするのは【3】であり、その他の【2】【4】【5】【7】
は金融機関が行っている事務処理等に鑑み、消費寄託を超える内容を認めう るとする。
開示請求権の有無・根拠については、具体的事案・預金規定等によるとす るもの(【4】)、預金契約に付随する義務であるとするものとが見られ、「付 随する義務」の根拠や内容に関しては信義則上認められるものとするもの
(【2】)、受任者の報告義務に言及するもの(【7】)、預金契約上の債務内容と するもの(【5】)がある。
学説に目を向けると、まず預金契約の法的性質については、民法制定直後 から消費寄託であるとされ、通説となっていた(13)。しかし、時代が下るに つれ、預金契約の内容は預金規定等によって内容が精緻化され、預金の種類 等も多様化してきた。このことを背景に、預金契約は典型的な消費寄託契約 とはいえず、契約の内容は主に各種預金規定や慣習等によって定まり、それ では足りないところを典型契約の規定により補うとする見解が現在は支配的 といってよかろう(14)。
さらに個々の預金の種類についてみると、古くから当座預金契約について は消費寄託に支払委託契約の性質を含む複合的契約であるとの認識が共有さ れてきた。また普通預金契約についても、払込みや払戻しの方法などにつき 金融機関との間で契約が結ばれ、預け入れられた金額は既存残高と合算され た一個の債権として扱われる、1 個の継続的・包括的な契約とされ(15)、現 在もその法的構造についての分析が進められている(16)。他方、普通預金に かかる個別の事務処理について、振込みや口座振替等は一般に委任契約によ るものとされている(17)。
なお、定期預金に関しては 1 口ごとに成立する消費寄託契約であり委任の 要素はないと解されてきたようである(18)。
次に、開示請求権については、1の諸判決を契機に学説上も論じられるよ うになってきたといってよい。開示請求権をいかに基礎づけるかという点に 注目してみると、信義則上の義務とする説、預金契約に付随する義務とみる 説(19)、継続的預金取引における委任契約的な側面を捉えて民法 645 条を類 推適用する説(20)とがあり、学説の多くは最後の 645 条類推適用説によって いた。
このような状況において本判決は、預金契約に基づく事務が委任事務とし ての性質を有するものが多く含まれていることを踏まえて、預金者の開示請 求権を、委任契約上の報告義務から基礎づけている。その点では、委任の要 素を認める学説や裁判例の大部分(【2】【4】【5】【7】)の傾向をそのまま引 き継いでいるといってよい。ただ、これらの下級審判決と、本判決とでは開 示請求権の基礎づけ方がやや異なる点に注意したい。
特に原判決である【2】と対比してみると、原判決はYの預金規定とA・
B―Y間で行われている預金取引の内容を詳細に認定した後に、開示請求権 を認めない場合の預金者側の不利益と金融機関側の開示の負担を考慮して
「預金契約に付随するものとして信義則上開示義務が生じる」としている。
これは具体的な預金契約の内容・取引態様を勘案した上で開示請求が認めら れるという【4】の方向に沿ったものとみられる。しかも、ここでの開示義 務は、それを認めないことによる預金者側の不利益(及びそれと金融機関の 負担のバランス論)を考慮して認められたにすぎず、預金契約上の本来的な 債務内容とはなっていない。なお、ここにいう「預金契約に付随する信義則 上の義務」の意味するところは不明確でもある。信義則上の義務や付随義務 として開示義務を基礎づけることは可能であるが、それには疑問が伴うこと は否めない(21)。
これに対し、本判決は預金契約に基づいて金融機関の処理すべき事務一般 につき、委任事務ないし準委任事務の性質を有するものが含まれているとし、
これを手がかりとして金融機関の負う開示義務を明確に委任契約上の報告義 務から基礎づけている。こうしてみると、本判決は、【2】【4】の見方をこえ て、具体的な預金規定や取引形態にかかわらず、一般的に開示義務を金融機 関の本来的な義務としている点に特徴がある(22)。この点に本判決の大きな 意義があるといえよう。また、このような預金取引への見方を前提として民 法 645 条により開示請求を基礎づけるならば、金融機関の債務内容は委任ま
たは準委任事務であることから認められる範囲におさめられることにもなる
(23)。ただし、定期預金に関する部分については疑問がもたれており、その 点は後述する。
(2)相続による開示請求権の承継と共同相続人の 1 人による単独行使につ いて
さて、預金者の開示請求権が認められたとしても、それが当然に相続人に 承継されることにはならない。たとえば、それが一身専属的なものと解され、
預金者は開示請求権を有するが相続人には承継されないとされることはあり うる。逆に、預金者の開示請求権の存否にかかわりなく、相続人固有の権利 として開示請求を認めるという構成もありうる。
しかし、この点に関し過去の裁判例では、相続人固有の権利として開示請 求を認めたものはなく、いずれも預金者の開示請求を認めることを前提とし て、相続による開示請求権の承継が認められると考えている(【2】【4】【5】)。
次に、相続による開示請求権の承継が認められるとしても、その構成や単 独行使を認めるか否かについては裁判例においても結論が分かれている。
開示請求権の承継のあり方については、預金契約上の地位に伴うとするも の(【4】)と、預金債権に付随して承継されるとするもの(【2】【5】)とがあ る。単独行使の可否については、【4】は、預金契約上の地位は預金契約ごと に 1 個であり不可分であるから、相続人全員の同意がなければ開示請求権を 行使できないという。他方、【2】【5】は、各相続人は金銭債権としての預金 債権を当然に分割取得する、あるいは遺留分減殺請求権の行使により遺留分 に応じて預金債権を取得しているから開示請求権も承継され、各相続人はこ れを単独行使できるとする。
学説でも、預金契約上の地位の相続に伴うものとみるもの(ア説)(24)と、
相続人が分割取得する預金債権に付随するものとみるもの(イ説)(25)とが
あった。ただ、ア説においては、単独行使の可否につき、預金契約上の地位 が複数人に帰属することと、その地位に基づいて有する権利が不可分のもの になるか否かは別論であるとして、相続人は預金契約上の地位を準共有し、
開示請求権は保存行為として単独行使できるとされた。イ説においても、共 同相続人の 1 人が単独で開示請求できる根拠として開示請求権を不可分債権 であるとするものや、開示請求を保存行為に等しいものとみることから基礎 づけるもの(26)とがあった。
なお、相続人による開示請求自体に消極的な学説もみられる。すなわち、
預金取引は被相続人の日常生活と密接にかかわることから、開示請求権を一 身専属的に解する方向を示すものや(27)、被相続人のプライバシー保護を考 えるべきことを強調するものも見られたが(28)、学説では相続人による開示 請求に対して金融機関の守秘義務の問題は生じないとする見解が多数を占め ていた。
以上のような状況のもと、本判決は、共同相続人は預金契約上の地位を準 共有し、それに基づき開示請求は保存行為として単独で行使できるとし、守 秘義務やプライバシーの問題も生じないとした。この点で、最高裁は過去の 裁判例によらず、学説のうちア説と同様の見解を採用したことになる。
ここで預金契約上の地位の相続という構成についてみると、理論的には、
【4】のように、この構成をとりながら、その地位に由来する開示請求権は単 独行使できないとすることは理由に乏しい。開示請求権の行使によって預金 契約や債権の内容に影響が及ぶわけではないのだから、これは保存行為と解 さざるを得ないであろう。預金契約上の地位の相続という構成から開示請求 権の単独行使という結論を導くことはほぼ必然的といえる。また、本判決は、
預金者の共同相続人の 1 人は「預金債権の一部を相続により取得するにとど まるが、これとは別に、…取引経過の開示を求める権利を単独で行使するこ
とができる」としており、これにより、預金債権は相続により分割帰属する という従来の取扱いとの整合性を保ちつつ、同時に開示請求権の単独行使が 可能になっている。
しかし、預金債権の分割帰属と開示請求権の単独行使を両立させるのであ れば、なぜ過去の裁判例のように、開示請求権を預金債権に付随する権利と しなかったのか。本件事案では、開示請求者が預金債権の一部を取得してい ると解されるのだから、あえて預金契約上の地位という構成をとらなくても、
原判決の判断維持でもよかったはずである。
その理由は、一つには、共同相続人の 1 人からの開示請求について、【2】
【5】にいう、預金債権は割合的に一部取得するが、開示請求は預金取引履歴 全体についてなしうるという部分が整合的に説明しにくいと考えられたこと にあったかもしれない(29)。
もう一つは、本判決の射程をどうとらえるかにもかかわると考える。先に 見たように、預金債権の一部取得とは別に開示請求権を行使できるとした点 に本判決の特徴があるわけだが、たとえば、【3】【4】【5】の事案のように、
遺言によって預金の帰属が指定されている場合に、預金債権を取得しないと された相続人からの開示請求を認めるべきであろうか。本判決によれば認め る余地があるが、原判決によれば遺留分減殺請求権を行使しない限り開示請 求できないことになる(30)。また、遺言により預金債権を取得した者が金融 機関に他の相続人への取引経過の非開示を要求したら、預金債権を取得しな いとされた相続人がたとえば遺言の効力を争っている最中に、預金の推移を 把握することもできなくなる(31)。
共同相続人の 1 人が単独で、他の相続人の同意を得ずに取引経過開示請求 するケースの多くは預金の帰属につき争いがある場合であろうことを考える と、預金債権を有する者のみが開示請求権をもつとすることには疑問が残る。
最高裁は、このような状況をも視野に入れて、預金契約上の地位の相続とい
う構成を採用したのではなかろうか(32)。また実質論になるが、開示請求に 対応する金融機関としては、遺言の有無・内容や減殺請求権の行使につき口 頭で確認することはできたとしても、厳密な調査は困難であろう。そうする と遺言の内容と開示請求権の有無をめぐって――結局は本判決以前と同様に
――金融機関が対応に苦慮することも予想される。そのような状況を想定す ると、相続人であることの確認がとれれば開示してよいとする方が金融機関 にとっては明解でよいのではないか。預金債権を取得した者が、取得しない 相続人への開示を望まない場合もあろうが、被相続人の生前の取引経過につ いて開示を拒否することの正当な理由は――預金債権を有する者以外は開示 請求できないという前提をとらない限り――考えにくいであろう。
もっとも、本判決をもって、相続人は預金債権の帰属とは無関係に開示 請求できることを示したものとまで解してよいかは、学説でも評価が分か れる(33)。預金債権の帰属につき遺産分割で決されたり、遺言による指定が なされた場合には開示請求権は準共有とならない、あるいは預金契約上の地 位は常に預金債権に伴うべきであると説くものもある(34)。
たしかに、預金債権と預金契約上の地位の帰属が異なりうると観念するこ とがいかなる影響を及ぼすかは今のところ明らかでない。例えば、預金債権 を取得しない相続人も開示請求権はいつまでも有すると解する余地があるこ とから、相続開始から長期間経過した後に相続人間での予想外のトラブルを 生むおそれもある(35)。そのような、いわばアブノーマルな開示請求につい ては、本判決にいう「権利の濫用に当たり許されない場合」として否定する こともできよう(36)。だが訴訟にまで至ればともかく、金融機関の窓口対応 として開示すべきか否かの判断は困難となろう。どちらの立場をとるべきか 今後の検討が待たれるが、原則としては預金債権の帰属とは別に相続人は開 示請求権を有し、ただしそれには時間的限界などの、ある程度客観的な制約 が課されるとするのが望ましいのではなかろうか。
3.派生問題
最後に、本判決から派生する問題に触れたい。
それは、本判決が、自動継続特約付定期預金にも言及しながら、預金契約 に基づき金融機関が処理する事務は委任事務の性質を有するものを含むとし た点に関してである。この点につき、従来の金融実務との関連で疑問がもた れている。
すなわち、近年の金融実務では、最高裁平成 13 年 3 月 16 日判決(金法 1613 号 74 頁)が、自動継続特約に基づく定期預金の継続は、預金契約の本 質的な要素である預入期間という定期預金の給付内容に関する特別の合意 に基づく効果であり、継続処理はあくまでも預金契約上の合意の効果にすぎ ないとしたことから、自動継続特約は委任契約の性質をもたない、よって自 動継続処理は預金者の死亡によって当然終了しないという扱いがなされてき た。
ところが、本判決は、定期預金の自動継続処理が委任または準委任事務的 性質をもつものとしている。これは定期預金の自動継続特約が委任契約によ るものとする趣旨とも解しえなくはない。そうすると、本判決以後は、委任 は当事者の死亡により終了する(民法 653 条)から、預金者の死亡により自 動継続処理も停止すべきと解することになるのか。それは先の最高裁判決と 相容れないのではないか、というのである(37)。
この点については、当事者の死後も終了しない委任があることを認めた最 判平成 4 年 9 月 22 日(金法 1358 号 55 頁)に鑑み、定期預金の自動継続特 約を委任契約とみるとしても、当事者の死後も委任契約が継続するとの合意 があるとみて自動継続を止める必要がないと考えられている(38)。このほか、
先に述べた「預金契約上の地位の相続」という概念が広く適用可能なもので あれば、「満期日に自動継続される」という契約上の地位が相続されるから、
相続人がいる限りは、継続処理をしてもよいと説明することも可能であろ
う(39)。さらに、自動継続処理が特約の効果か否か(死亡により終了するか)
ということと、委任事務としての性質を持つかということはそもそもフェー ズが異なる問題ともいえる。すなわち、自動継続処理が預金者の死亡によっ て終了するかどうかは、継続処理が委任契約に基づくものか当事者の合意に よるものかという、継続処理の法的根拠にかかわるものであろう。他方、最 高裁が、定期預金の自動継続処理が委任事務の性質を持つというのは、自動 継続の事務処理という事実上の行為の性質に注目しているだけであって(40)、 その法的根拠が委任契約であるとまでいっているわけではないとも解しう る。そうすると、委任事務の性質を持つ行為の法的根拠が当事者の合意で あるとの説明も可能である(41)。従って、本判決以後も、自動継続特約に基 づく継続処理はあくまで定期預金契約時の、預金者の生前の合意に基づく処 理であり、預金者死亡後も有効なものと扱ってよいと説明できよう。
Ⅳ むすびに代えて
現在のところ、本判決に対する反応としては、肯定的に評価しつつもその 射程や実際の運用については慎重な検討を要するとするものが大半である。
たとえば、全ての種類の預金について本判決の射程が及ぶのかが議論されて いるほか、本判決の採る「預金契約上の地位の相続」という構成自体を疑問 とする見解も現れている(42)。
確かに、開示請求権以外に、預金契約上の地位に属する権利としてどのよ うなものがあるかは明らかでなく、本判決が今後の金融実務や預金取引の 法律論に与える影響は未知数である(43)。果たして、預金契約上の地位とは、
開示請求権の前提として意義を持つものにすぎないのか、より広い射程を持 つのか等につき踏み込んだ検討がなされるべきであろう。
(了)
*本稿は、福岡大学法学部判例研究会での報告を元に加筆・修正を加えたも のである。有益なコメントを賜った諸先生方に改めて謝意を表したい。
注)
(1) 公表裁判例のうち払戻請求肯定例としては名古屋高判昭和 53 年 2 月 27 日判時 898 号 63 頁、東京高判平成 7 年 12 月 21 日金法 1445 号 56 頁、
東京地判平成 8 年 2 月 23 日金法 1445 号 60 頁など多数のものがある。他方、
否定例は東京地判平成 7 年 3 月 17 日金法 1422 号 38 頁がある。
(2) 最判平成 16 年 4 月 20 日家月 56 巻 10 号 48 頁、最判平成 16 年 10 月 26 日判時 1881 号 64 頁、最判 17 年 7 月 11 日判時 1911 号 97 頁などは預 金債権が共同相続人各人に(法定)相続分に応じて分割帰属することを 前提としており、その意味ではすでに確定的になっているともいえる。
(3) 堂園昇平「預金取引経過開示命令が金融実務に及ぼす影響(最一小判 平 21.1.22)」金法 1864 号 4 頁(2009 年)、峯崎二郎「残高証明書」藤林益 三=石井眞司編『判例先例金融取引法 < 新訂版 >』79 頁(金融財政事情 研究会、1988 年)、石井眞司監修『取引先死亡と相続実務』128 頁(BSI エデュケーション、1995 年)、島谷六郎ほか監修『銀行窓口の法務対策 2800 講(上)』252 頁(金融財政事情研究会、1998 年)など。なお、『2800 講』の後継書となる前田庸ほか監修『銀行窓口の法務対策 3300 講(上)』
253 頁(金融財政事情研究会、2004 年)では開示する方向へ記述が変わっ ているが、慎重な対応がとられていた時期があったことは事実であろう。
(4) 松本恒雄ほか「< 事例研究座談会 > 相続預金の取扱いをめぐる諸問題 と実務対応」金法 1394 号 43 頁(1994 年)。
(5) 島谷六郎ほか・前掲注 253 頁、堂園・前掲注(3)4 頁など。
(6) 尾﨑達夫=伊藤浩一=金子稔「相続預金の取引経過明細の開示請求に 対する実務対応」金法 1774 号 28 頁(2006 年)、高橋恒夫『新版トラブル 防止のための預金法務Q&A』89 頁(経済法令研究会、2009 年)など。
(7) 民集 63 巻 1 号 228 頁、判時 2034 号 29 頁、判タ 1290 号 132 頁、金商 1309 号 62 頁、同 1314 号 32 頁、金法 1864 号 27 頁。
本判決にかかる解説・研究等として、吉岡毅・銀法 21・700 号 24 頁、
堂園昇平・前掲注(3)、同・金法 1876 号 7 頁、関沢正彦・金法 1865 号 6 頁、渡辺隆生・銀法 21・702 号 1 頁、塩崎勤・月刊民事法情報 274 号 45 頁、
遠藤曜子・金商 1321 号 20 頁、水野貴浩・判タ 1298 号 78 頁、吉永一行・
法セミ 657 号 124 頁、吉岡伸一・銀法 21・708 号 32 頁、須磨美博・銀法 21・710 号 16 頁、村重慶一・戸籍時報 649 号 71 頁などがある。また本判 決の意義と関連問題を幅広く論じたものとして淺生重機=潮見佳男=濱 田広道=三上徹「< 座談会 > 預金者の取引経過開示請求権に係る最高裁 判決が金融実務に及ぼす影響」金法 1871 号 6 頁[以下、「座談会」と略記]
がある(以上全て 2009 年)。
(8) 金法 1678 号 65 頁。事実関係については、判決のコメント記事及び淺 生重機「預金者の取引経過開示請求権の有無」金法 1700 号 73 頁以下も 参考とした。
(9) 金法 1693 号 86 頁。
(10) 金法 1697 号 52 頁。解説・研究等として、伊藤進・判評 547 号 20 頁(2004 年)、吉田光硯・金法 1716 号 15 頁(2004 年)、片山健・判タ 1184 号 58 頁(2005 年)がある。
(11) 金法 1751 号 43 頁。本決定にかかる研究として、本山敦・月刊司法書士 416 号 40 頁(2006 年)がある。
(12) 金法 1693 号 86 頁。
(13) 梅謙次郎『民法要義巻之三債権編(復刻版)』779 頁(有斐閣、大正元年版)
のほか、幾代通=広中俊雄編『新版注釈民法(16)債権(7)』〔打田畯一
=中馬義直〕395 頁(有斐閣、1989 年)所掲の文献も参照。
(14) 我妻栄『債権各論 中巻二』729 頁(岩波書店、1962 年)、中馬義直「預 金契約」『契約法大系Ⅴ特殊の契約(1)』35 頁以下(有斐閣、1963 年)、
幾代通=広中俊雄編・前掲注(13)396 頁など。
(15) 我妻・前掲注(14)742 頁、寿円秀夫「勘定設定契約について」堀内仁 先生古稀記念『銀行取引法の研究』4 頁(金融財政事情研究会、1976 年)、
打田=中馬・前掲注(13)401 頁など。
(16) たとえば、森田宏樹「振込取引の法的構造――『誤振込』事例の再検討」(中 田裕康=道垣内弘人編『金融取引と民法法理』170 頁以下(有斐閣、2000 年))
は、口座の開設により設定される基本契約と具体的な預金債権を成立させ る個別契約との二層構造を観念し、基本契約を入金事務に係る包括的な委 任契約と消費寄託契約の予約または諾成的消費寄託契約から成る複合的契 約としている。また中田裕康「銀行預金による普通預金の取引停止・口座 解約」(金融法学会第 22 回大会資料・金法 1746 号 17 頁(2005 年))は普 通預金取引において取引の基本となる普通預金契約と、これを前提とする 個別取引により発生する普通預金債権とを区別し、前者を「枠契約」とし て位置づける。枠契約とすることについては、中田・23 頁注 12 も参照。
(17) この点に関連して、近時の債権法改正提案の中では、典型契約規律の現
代化と整備の一貫として、普通預金・当座預金などの流動性預金につき 特則をおくことが提案されており、3.2.11.18 では「預金口座にかかる第 三者による振込みの受入れ、預金者の受寄者に対する第三者への振込み 等の支払指図、その他流動性のある預金口座の利用または管理に関する 預金者と受寄者の契約関係については、委任の規定が適用される。」とし て、預金者と受寄者の法律関係は委任の規律によることを明らかにする ことも併せて提案されている(民法(債権法)改正検討委員会編『債権 法改正の基本方針』別冊 NBL126 号 385 頁以下(商事法務、2009 年))。
(18) 堀内仁ほか『新銀行実務総合講座(1)預金・付随業務』12 頁(金融 財政事情研究会、1987 年)、松本貞夫『改訂銀行取引法概論』80 頁(経 済法令研究会、2007 年)など。淺生・前掲注(8)80 頁(2004 年)はこ の点に疑問を呈していた。
(19) 尾﨑達夫ほか・前掲注(6)29 頁。
(20) 淺生・前掲注(8)79 頁、伊藤・前掲注(10)21 頁以下、野村豊弘「預 金取引の取引経過の開示請求」[金融法学会第 22 回大会資料]金法 1746 号 14 頁(2005 年)、吉野内謙志「取引開示義務をめぐる裁判例と問題点」
判タ 1248 号 51 頁(2007 年)。
(21) 信義則を根拠とすることについては、本判決の上告理由を待つまでも なく、開示請求権を認めるべきとする説においてもあくまで補充的なも のと位置づけられてきた(吉野内・前掲注(20)51 頁など)。付随義務 とすることについては、いわゆる付随義務が履行の実現のために必要な ものとされてきたことなどを理由に疑問とされている(本判決上告理由
(民集 63 巻 1 号 232 頁以下)、関沢・前掲注(7)12 頁など)。
(22) 関沢・前掲注(7)13 頁以下、「座談会」前掲注(7)9 頁〔潮見発言〕。
(23) 吉野内・前掲注(20)51 頁、「座談会」前掲注(7)9 頁〔潮見発言〕など。
(24) 淺生・前掲注(8)83 頁以下。
(25) 吉田・前掲注(10)15 頁、吉野内・前掲注(20)52 頁。
(26) 伊藤・前掲注(10)22 頁。
(27) 堂園昇平「銀行との取引に対する信頼と余後性」金法 1708 号 5 頁(2004 年)。
(28) 野村・前掲注(20)14 頁以下、本山・前掲注(11)45 頁。
(29) 伊藤・前掲注(10)22 頁は、【5】について、預金債権の一部しか有し ない相続持分権者の 1 人が取引履歴等全体の開示を請求できるとする点 を疑問視している。また判タ 1290 号 133 頁の本判決コメントは、原判決 のように解すると分割承継された預金債権は「自己の預金」であると同 時に「他の共同相続人の預金」でもあることになり、プライバシー侵害 や守秘義務違反の問題が生じうることを指摘する。
(30) 遠藤・前掲注(7)24 頁、水野・前掲注(7)83 頁。他方、本判決によっ ても預金債権を取得しない者は開示請求できないと解するものとして、
吉岡毅・前掲注(7)25 頁、関沢・前掲注(7)14 頁、「座談会」前掲注(7)
20 頁〔潮見発言〕がある。
(31) 本判決に関する判タ 1290 号 133 頁コメントを参照。
(32) 判タ 1290 号 133 頁本判決コメント、「座談会」前掲注(7)19 頁〔淺 生発言〕。
(33) 前掲注(30)参照。
(34) 「座談会」前掲注(7)20 頁〔潮見発言〕。
(35) 須磨・前掲注(7)21 頁は遺産分割協議成立後の開示請求や遺言執行 者からの開示請求など、様々な具体的なケースにつきいかに対応すべき かを問題としている。
(36) 関沢・前掲注(7)16 頁、渡辺・前掲注(7)1 頁、吉永・前掲注(7)
124 頁、吉岡伸一・前掲注(7)37 頁など。
(37) 関沢・前掲注(7)12 頁注 6、「座談会」前掲注(7)11 頁〔三上発言〕、
須磨・前掲注(7)19 頁。なお吉岡伸一・前掲注(7)35 頁は、「開示義 務があることの根拠として、本判決が、前半は『委任事務等』と言いな がら、後半は『事務処理』と言い換えている。これは、「委任」で貫徹す ると、委任者の死亡により委任が終了する(…)ことの説明をしなけれ ばならないからではないか」として、本判決がこのような疑問を回避し ていることを示唆する。
(38) 「座談会」前注(7)11 頁以下〔三上発言〕。
(39) 研究会席上での新関輝夫教授の指摘による。
(40) 同旨、関沢・前掲注(7)12 頁注 6。
(41) 「座談会」前掲注(7)11 頁以下〔潮見発言〕もこの趣旨と解される。
(42) 須磨・前掲注(7)17 頁以下。
(43) たとえば、各種預金口座の解約申入れ、被相続人の生前に行われた振 込みに関して依頼内容が間違っていたりしたときの組戻し依頼などが考 えられるであろうか。預金者死亡時の扱いについては預金規定等に明示 の定めがないことが以前から問題とされているが、仮に、上記の事項が 預金契約上の地位に属するものであるとすれば、預金者死亡時の手続を どうすべきかも問題となりえよう。