問 1. (1) F
7の 0 でない元に対して , 掛け算表を書いてみると , 次のようになることが分 かります .
1 2 3 4 5 6
1 1 2 3 4 5 6
2 2 4 6 1 3 5
3 3 6 2 5 1 4
4 4 1 5 2 6 3
5 5 3 1 6 4 2
6 6 5 4 3 2 1
図 1: F
7における掛け算表
このとき , 各行 , あるいは , 各列には , 必ず 1 が登場していることが分かりますから , F
7において , 割り算が自由に行えることが分かります . ( 例えば , 5 の行には , 3 列目に 1 が 登場していますから , 5 · 3 = 1 ∈ F
7となること , すなわち , 5
−1= 3 ∈ F
7となることが分 かります . )
(2) 全く同様にして , F
6の 0 でない元に対して , 掛け算表を書いてみると , 次のように なることが分かります .
1 2 3 4 5
1 1 2 3 4 5
2 2 4 0 2 4
3 3 0 3 0 3
4 4 2 0 4 2
5 5 4 3 2 1
図 2: F
6における掛け算表
このとき , 2, 3, 4 の行には 1 が登場しませんから , a = 2, 3, 4 のとき , ab = 1 ∈ F
6となる 元 b ∈ F
6は存在しないことが分かります . ( 一方 , 5 · 5 = 1 ∈ F
6となるので , 5
−1= 5 ∈ F
6となることも分かります . )
F 実は , これらの結果は , 2, 3, 4 が 6 と互いに素ではないのに対して , 5 は 6 と互いに 素であることに関係があります . 興味のある方は , 勝手な自然数 n ∈ N に対して , 整数を
1
n で割った余りのなす集合 F
n= { 0, 1, 2, · · · , n − 1 } を考えて , どのような元 a ∈ F
nに対 して , ab = 1 ∈ F
nとなるような元 b ∈ F
nが存在するのかということを考えてみて下さい . 問 2. (1) ax + b, cx + d ∈ R [x]/(x
2− 1) に対して ,
(ax + b)(cx + d) = acx
2+ (ad + bc)x + bd
= ac(x
2− 1) + (ad + bc)x + (ac + bd) となるので , R[x]/(x
2− 1) における掛け算は ,
(ax + b)(cx + d) = (ad + bc)x + (ac + bd) ∈ R [x]/(x
2− 1)
という式で与えられることが分かります . 特に , ax + b = x + 1, あるいは , ax + b = x − 1 としてみると ,
(x + 1)(cx + d) = (c + d)x + (c + d), あるいは ,
(x − 1)(cx + d) = (d − c)x − (d − c)
となることが分かります . したがって , どのような元 cx + d ∈ R [x]/(x
2− 1) に対しても , (x + 1)(cx + d) = 1, あるいは , (x − 1)(cx + d) = 1 とはならないことが分かります . ( x + 1, あるいは , x − 1 は , x
2− 1 と互いに素ではないことに注意して下さい . )
(2) (1) と同様に考えると , ax + b, cx + d ∈ R [x]/(x
2+ px + q) に対して , (ax + b)(cx + d) = acx
2+ (ad + bc)x + bd
= ac(x
2+ px + q) + (ad + bc − pac)x + (bd − qac) となるので , R [x]/(x
2+ px + q) における掛け算は ,
(ax + b)(cx + d) = (ad + bc − pac)x + (bd − qac) ∈ R [x]/(x
2+ px + q)
という式で与えられることが分かります . したがって , 勝手にひとつ与えられた元 ax + b に対して , cx + d が (ax + b)(cx + d) = 1 ∈ R[x]/(x
2+ px + q) という式を満たすための
条件は ,
(b − pa)c + ad = 0
qac − bd = − 1 (1)
という (c, d) に対する連立一次方程式で与えられることが分かります .
いま , a = 0 であるとすると , ax + b 6 = 0 という仮定から , b 6 = 0 となりますが , このと き , (c, d) = (0, b
−1) は (1) 式の解になることが分かります . ( これは , 単に , b · b
−1= 1 ∈ R [x]/(x
2+ px + q) ということです . )
そこで , 以下では , a 6 = 0 であると仮定することにします . すると , (1) 式の一番目の式 から ,
d = (pa − b)c
a (2)
となることが分かりますが , (2) 式を (1) 式の二番目の式に代入すると , (b
2− pab + qa
2)c
a = − 1 (3)
という式が得られることが分かります . このとき , (3) 式の右辺は − 1 6 = 0 ですから , (3) 式を満たすような解 c が存在するためには , b
2− pab + qa
26 = 0 でなければならないこと が分かります . 逆に , b
2− pab + qa
26= 0 であるとすると , (3) 式と (2) 式から , (1) 式を満 たす解 (c, d) が存在することが分かります . したがって , a 6 = 0 として ,
(ax + b)
−1∈ R [x]/(x
2+ px + q) が存在する .
⇐⇒ b
2− pab + qa
26 = 0
⇐⇒ t
2− pt + q 6= 0, ( ただし , t = b/a とした . ) (4) となることが分かります . よって , (4) 式から , 勝手な元 ax + b 6 = 0 ∈ R [x]/(x
2+ px + q) に対して , (ax + b)
−1が存在するための必要十分条件は ,
D = p
2− 4q < 0
で与えられることが分かります .
問 3. l 行 m 列の行列 A = (a
ij) と m 行 n 列の行列 B = (b
ij), C = (c
ij) に対して , A(B + C) = X = (x
ij),
AB + AC = Y = (y
ij)
と表わすことにします . このとき , 二つの行列 X, Y の行列成分を , 定義に戻って求めてみ ると ,
x
ij= X
m k=1a
ik(b
kj+ c
kj)
= X
m k=1(a
ikb
kj+ a
ikc
kj)
= X
m k=1a
ikb
kj+ X
m k=1a
ikc
kj= y
ijとなることが分かるので , X = Y となることが分かります . したがって , A(B + C) = AB + AC
となることが分かります .
全く同様の議論によって , (A + B )C = AC + BC となることも分かります .
1問 4. m が一般の場合を議論する前に , 少し感じをつかむために , まず , m = 2 の場合に議 論してみることにします . そこで , いま ,
A = Ã
a b c d
!
と表わすことにして , B として ,
E
11= Ã
1 0 0 0
!
という行列を考えてみます . すると , AE
11=
à a b c d
! Ã 1 0 0 0
!
= Ã
a 0 c 0
!
E
11A = Ã
1 0 0 0
! Ã a b c d
!
= Ã
a b 0 0
!
となることが分かりますから , AE
11= E
11A となるためには ,
b = c = 0 (1)
1皆さん,確かめてみて下さい.
でなければならないことが分かります . さらに , B として , E
12=
à 0 1 0 0
!
という行列を考えてみます . すると , AE
12=
à a b c d
! Ã 0 1 0 0
!
= Ã
0 a 0 c
!
E
12A = Ã
0 1 0 0
! Ã a b c d
!
= Ã
c d 0 0
!
となることが分かりますから , AE
12= E
12A となるためには ,
a = d, c = 0 (2)
でなければならないことが分かります . したがって , (1) 式 , (2) 式から , この時点で , す でに , A は A = aI というスカラー行列でなければならないことが分かります . ( 逆に , A が A = aI というスカラー行列であるとすると , 勝手な 2 行 2 列の行列 B に対して , AB = aB = BA となることが分かります . )
次に , m が一般の場合を考えてみることにします . いま , 行列 A の行列成分を A = (a
ij) と表わすことにして , i, j = 1, 2, · · · , m に対して , B として , (i, j) 成分が 1 で , その他の 行列成分が 0 の行列
E
ij=
j 列目 0 .. .
i 行目 0 . . . 1 . . . 0 .. .
0
を考えてみることにします . すると ,
AE
ij=
j 列目 a
1i.. .
i 行目 0 . . . a
ii. . . 0 .. .
a
mi
,
E
ijA =
j 列目 0
.. .
i 行目 a
j1. . . a
jj. . . a
jm.. .
0
となることが分かります . 特に , i = j と取ってみると , AE
ii= E
iiA となるためには , a
ik= a
ki= 0, (k 6 = i) (3) でなければならないことが分かります . したがって , (3) 式から , i 6 = j のとき ,
a
ij= 0 (4)
でなければならないことが分かります . さらに , i 6 = j として , 二つの行列 AE
ij, E
ijA の (i, j) 成分を比べてみると , AE
ij= E
ijA となるためには ,
a
ii= a
jj(5)
でなければならないことも分かります . よって , (4) 式 , (5) 式から , この時点で , 行列 A は A = a
11I というスカラー行列でなければならないことが分かります . ( 逆に , A が A = a
11I というスカラー行列であるとすると , 勝手な m 行 m 列の行列 B に対して , AB = a
11B = BA となることが分かります . )
問 5. i = 1, 2, · · · , m, j = 1, 2, · · · , n に対して , B として , 問 4 の解答の中で考えた行列
E
ij=
j 列目 0 .. .
i 行目 0 . . . 1 . . . 0 .. .
0
を考えてみることにします . すると ,
AE
ij=
j 列目 a
1i.. .
i 行目 0 . . . a
ii. . . 0 .. .
a
mi
となることが分かりますから , AE
ij= E
ijとなるためには ,
a
ii= 1, a
ki= 0, (k 6 = i)
でなければならないことが分かります . したがって , A = I でなければならないことが分 かります . ( 逆に , A = I であれば , 勝手な m 行 n 列の行列 B に対して , AB = B とな ることが分かります . )
問 6.
(1) それぞれの行列の積を具体的に計算してみることで , 与えられた等式が成り立つこ とを確かめることができます .
(2) (1) の関係式から ,
tA を計算してみると ,
t
A =
t(wE + xI + yJ + zK)
= w
tE + x
tI + y
tJ + z
tK
= wE − xI − yJ − zK
となることが分かります . そこで , さらに , (1) の関係式を用いて ,
tAA を計算してみ ると ,
t
AA =(wE + xI + yJ + zK)(wE − xI − yJ − zK)
=w
2E − xwI − ywJ − zwK + xwI − x
2I
2− xyIJ − xzIK
+ ywJ − xyJ I − y
2J
2− yzJ K + zwK − xzKI − yzKJ − z
2K
2=(w
2+ x
2+ y
2+ z
2)E − xy(IJ + J I) − xz(IK + KI ) − yz(J K + KJ )
=ν(A)E
となることが分かります . 全く同様にして , A
tA = ν(A)E となることも確かめるこ とができます .
(3) 行列 A = wE + xI + yJ + zK は ,
A =
w − x − y − z x w − z y y z w − x
z −y x w
と表わせるので ,
A 6 = O ⇐⇒ (w, x, y, z ) 6 = (0, 0, 0, 0)
⇐⇒ ν(A) 6 = 0
となることに注意します . そこで , A 6= O として , (2) の関係式の両辺を ν(A) 6= 0 で割ってみると ,
A µ 1
ν (A)
t
A
¶
= µ 1
ν(A)
t
A
¶ A = E
となることが分かりますから , A は正則行列であり , その逆行列は , A
−1= 1
ν(A)
t
A
で与えられることが分かります .
F E, I, J, K が 4 行 4 列の行列であるということを忘れて , 形式的に , E, I, J, K とは (1) の関係式を満たす「数」だと考えてみます . このとき , 「数」らしく , 単位行列 E を , 単に , 1 と表わし , I, J, K も小文字で i, j, k と表わして , これらの数が作る集合
H = { q = w + xi + yj + zk | w, x, y, z ∈ R }
の元 q = w + xi + yj + zk ∈ H を四元数 (quaternion) と呼びます . 四元数は , 複素数 C = { ζ = w + xi | w, x ∈ C }
の拡張概念として , Hamilton という数学者が導入したものです . Hamilton の意図は , 上 の w を t と書き換えて ,
q = t + xi + yj + zk ←→ (t, x, y, z) ∈ R
4と対応させることで , 時空の点 (t, x, y, z) ∈ R
4を , あたかもひとつの数 q ∈ H とみなすこ とで , 古典力学など物理学の数学的な定式化を四元数を用いて見直そうということにあっ たようですが , 当時としては , 満足な結果は得られなかったようです . その後 , 四元数の役 割は , 再び見直され , 現在では , 数学や物理学の様々な分野で活躍しています .
問 8 の (1) の結果から , 行列 A = wE + xI + yJ +zK を四元数 q = w + xi +yj + zk ∈ H と同一視して考えると , 行列の世界で転置行列
tA を考えることが , 四元数の世界で「複素 共役」 q ¯ = w − xi − yj − zk を考えることに対応していることが分かります . また , 四元 数 q = w + xi + yj + zk ∈ H の「絶対値 ( の 2 乗 ) 」を | q |
2= w
2+ x
2+ y
2+ z
2という式 によって定めると , 問 8 の (2) の結果は , q q ¯ = ¯ qq = | q |
2と表わすことができますが , これ は複素数 ζ ∈ C に対して , ζ ζ ¯ = ¯ ζζ = | ζ |
2という式が成り立つということの四元数の世界 への自然な拡張になっています .
ちなみに , 問 8 に挙げた I, J, K という行列の具体的な形は ,
H 3 q = w + xi + yj + zk ←→ u =
w x y z
∈ R
4という対応によって , H ∼ = R
4というように , 四元数全体の集合 H と R
4とを同一視して 考えるときに , 例えば ,
q = w + xi + yj + zk −−−−−−−−−−−−−−→ iq = − x + wi − zj + yk
← −− −−−− −− −−→
3 3
H −−−−−→
i×H
∼ = ∼ =
R
4−−−−−→
I×
R
4∈ ∈
← −− −−−− −− −−→
u =
w x y z
−−−−−−−−−−−−−→
− x w
−z y
= I
w
x y z
= I u
というように , 四元数の世界で , それぞれの i, j, k を左から掛け算するという操作が , R
4上では , どのような行列を掛け算する操作に見えるのかということを考えることによって 求めることができます .
第 1 回の問 3 では , 複素数を特別な形をした 2 行 2 列の行列全体と考えることができる ことを見ましたが , 全く同様にして , 四元数を特別な形をした 4 行 4 列の行列全体と考え ることもできるわけです .
問 7. 行列 A, B の行列成分を , それぞれ , A = (a
ij), B = (b
ij) と表わすことにします . こ のとき , AB = (c
ij) と表わすと ,
c
ij= X
n k=1a
ikb
kjと表わせるので ,
tr(AB) = X
m i=1c
ii= X
m i=1X
n k=1a
ikb
ki(1)
となることが分かります . 全く同様に , BA = (d
ij) と表わすと , d
ij=
X
m k=1b
ika
kjと表わせるので ,
tr(BA) = X
ni=1
d
ii= X
ni=1
X
m k=1b
ika
ki(2)
となることが分かります . そこで , (1) 式の右辺の和を取る添え字を i ↔ k と書き直して みると , (1) 式 , (2) 式から ,
tr(AB) = X
m k=1X
n i=1a
kib
ik= X
ni=1
X
m k=1b
ika
ki= tr(BA)
となることが分かります .
問 8. いま , m 6= n として , m 行 n 列の行列 A と n 行 m 列の行列 B であって ,
AB = I
m, BA = I
n(1)
となるものが存在したと仮定してみます . このとき , (1) 式の両辺のトレースを考えてみ ると ,
tr(AB) = m, tr(BA) = n (2)
となることが分かります . 一方 , 問 7 で見たように , 一般に , tr(AB) = tr(BA)
という式が成り立つことが分かりますから , (2) 式と合わせると , m = n となってしまい , m 6 = n と仮定していたことに矛盾してしまいます . したがって , m 6 = n のとき ,
AB = I
m, BA = I
nとなるような m 行 n 列の行列 A と n 行 m 列の行列 B は存在しないことが分かります . 問 9. いま , m 行 m 列の正方行列 A, B であって ,
AB − BA = I
m(1)
となるものが存在したと仮定してみます . このとき , (1) 式の両辺のトレースを考えてみ ると ,
tr(AB − BA) = tr(AB) − tr(BA) となるので ,
tr(AB) − tr(BA) = m (2)
となることが分かります . 一方 , 問 7 で見たように , 一般に , tr(AB) = tr(BA) という式が 成り立ちますから , (2) 式と合わせて考えると , m = 0 となってしまい , 0 < m ∈ N である ことに矛盾してしまいます . よって , AB − BA = I
mとなるような m 行 m 列の正方行列 A, B は存在しないことが分かります .
問 10. まず , 感じをつかむために , A が 3 行 3 列の行列のときにどうなるのかということ を実験してみることにします . このとき , A = (a
ij) の行列成分が , i ≥ j のとき , a
ij= 0 を満たすということは , 行列 A は ,
A =
0 ∗ ∗ 0 0 ∗ 0 0 0
という形をしているということを意味しています . そこで , A
2, A
3, · · · などが , どのよう
に姿を変えるのかということを実験してみると ,
A
2=
0 ∗ ∗ 0 0 ∗ 0 0 0
0 ∗ ∗ 0 0 ∗ 0 0 0
=
0 0 ∗ 0 0 0 0 0 0
A
3= A
2A
=
0 0 ∗ 0 0 0 0 0 0
0 ∗ ∗ 0 0 ∗ 0 0 0
=
0 0 0 0 0 0 0 0 0
となることが分かりますから , A
3= O となることが分かります .
このとき , 上の A, A
2, A
3の形をじっと眺めると , 一般に , 行列 A が m 行 m 列の場合 にも , n ∈ N に対して , A
n= (a
(n)ij) の行列成分は ,
i + (n − 1) ≥ j = ⇒ a
(n)ij= 0 (1) となるのではないかと予想がつきます .
2そこで , (1) 式の主張を , n に関する数学的帰納 法を用いて確かめてみることにします . ます , n = 1 のときには , 問題の仮定によって , (1) 式が成り立つことが分かります . 次に , n
0∈ N として , n ≤ n
0のときに , (1) 式が成り立っ ていると仮定してみます . すると , A
n0+1の行列成分 a
(nij0+1)は ,
a
(nij0+1)= X
m k=1a
(nik0)a
kj(2)
と表わすことができますが , a
(nik0)a
kj6 = 0 となるための ( 必要 ) 条件を求めてみると , a
(nik0)a
kj6 = 0 = ⇒ i + (n
0− 1) < k, かつ , k < j
= ⇒ i + (n
0− 1) ≤ k − 1, かつ , k ≤ j − 1
= ⇒ i + n
0≤ k, かつ , k ≤ j − 1
= ⇒ i + n
0≤ j − 1
= ⇒ i + n
0< j
となることが分かります . したがって , i + n
0≥ j のときには , すべての k = 1, 2, · · · , m に対して ,
a
(nik0)a
kj= 0
2(1)式のように,式で表わすと少し分かりにくくなりますが,Aを1回掛けるたびに,Anの行列成分のう ち,確実に0になってしまう部分が対角線に直交する方向に一段づつ押し上げられていくということです.
となることが分かりますから , (2) 式と合わせて , a
(nij0+1)= 0
となることが分かります . よって , n = n
0+ 1 のときにも , (1) 式の主張が成り立つことが 分かります . 以上から , 勝手な自然数 n ∈ N に対して , (1) 式の主張が成り立つことが分か りましたが , 特に , n = m としてみると ,
i + (m − 1) = m + (i − 1) ≥ m となることが分かりますから , i, j = 1, 2, · · · , m に対して ,
i + (m − 1) ≥ m ≥ j
が成り立つことが分かります . よって , (1) 式の主張から , a
(m)ij= 0 となることが分かりま すから , A
m= O となることが分かります .
問 11. 一般に , XY = Y X となるような二つの正方行列 X, Y と , 勝手な自然数 n ∈ N に対して ,
(X − Y )(X
n+ X
n−1Y + · · · + Y
n) = X
n+1− Y
n+1(1) という恒等式が成り立つことに注意します . そこで , いま , N
n0+1= O となるとして , (1) 式において , X = I, Y = N, n = n
0としてみると ,
(I − N )(I + N + N
2+ · · · + N
n0) = I − N
n0+1= I
となることが分かります . よって , 行列 (I − N ) は正則行列であり , その逆行列 (I − N )
−1は ,
(I − N )
−1= I + N + N
2+ · · · + N
n0で与えられることが分かります .
問 12. (1) 定義により , e
O= I となることが分かります .
(2) 仮定により , N N
0= N
0N となるので , 勝手な自然数 m ∈ N に対して , (N + N
0)
m=
X
m k=0m!
k! · (m − k)! N
k· (N
0)
m−k(1) と表わせることに注意します . そこで , いま , N
m0= (N
0)
m00= O であると仮定してみま す . このとき ,
N
k· (N
0)
m−k6 = O = ⇒ k < m
0, かつ , m − k < m
00= ⇒ m < m
0+ m
00となることが分かりますから , m ≥ m
0+ m
00のときには , 勝手な自然数 k = 0, 1, · · · , m に対して
N
k· (N
0)
m−k= O
となることが分かります . したがって , (1) 式から , (N + N
0)
m0+m00= O となることが分かります .
また ,
(N + N
0)
n= X
k,l=0,1,···,n k+l=n
n!
k! · l! N
k· (N
0)
l= n! · X
k,l=0,1,···,n k+l=n
1
k! · l! N
k· (N
0)
lと表わせることが分かりますから , e
N+N0=
X
∞ n=01
n! (N + N
0)
n= X
∞ n=0X
k,l=0,1,···,n k+l=n
1
k! · l! N
k· (N
0)
l= X
∞ k,l=01
k! · l! N
k· (N
0)
l(2) となることが分かります . 一方 ,
e
Ne
N0= Ã
∞X
k=0
N
kk!
!
· Ã
∞X
l=0
(N
0)
ll!
!
= X
∞ k,l=01
k! · l! N
k· (N
0)
l(3) となることが分かりますから , (2) 式 , (3) 式から ,
e
N+N0= e
Ne
N0となることが分かります .
★ 上の計算を眺めると , 一般に , AB = BA となる二つの正方行列 A, B に対して , e
A+B= e
Ae
Bとなることが分かります . ただし , この場合には , 「無限個のものの和」に対して「和を取
る順番」を「無限回」取り換えていることになりますから , 本当は , 等号が成り立つこと
を , もう少し慎重に確かめてみる必要があります . 興味がある方は , 「無限和」と「その部
分和」の値の間の誤差を評価することで , 上の議論を正当化してみて下さい . 例えば , 勝手
な正の実数 0 < ε ∈ R に対して , e
A+B− e
Ae
Bという行列のすべての行列成分の絶対値が ε 以下となることを示してみて下さい .
3また , 議論の本質は変わりませんから , まず , A, B が 1 行 1 列の行列の場合 , すなわち , A, B が普通の数の場合に上の議論の正当化を試み ると少し感じが分かるかもしれません . このように , 一般には , 「無限和」に関わる「変な こと」が起きていないことを , 一度 , きちんと確かめておく必要があるので , 「無限和」が 現われないように , 問 12 では , N, N
0をベキ零行列であるとしました .
4(3) (1) に注意して , (2) において , N
0= − N としてみると , e
Ne
−N= e
O= I
となることが分かります . したがって , e
Nは正則行列であり , その逆行列 (e
N)
−1は , (e
N)
−1= e
−Nで与えられることが分かります . (4) 定義にもとづいて計算してみると ,
(e
tN)
0= Ã
∞X
n=0
(tN )
nn!
!
0= X
∞ n=0µ t
nN
nn!
¶
0(4)
= X
∞ n=0(t
n)
0N
nn!
= X
∞ n=0nt
n−1N
nn!
= X
∞ n=1t
n−1N
(n−1)+1(n − 1)!
= X
∞ m=0t
mN
m+1m! ( m = n − 1 とした . )
= X
∞ m=0t
mN N
mm!
= N · (
∞X
m=0
(tN )
mm!
)
= N e
tNとなることが分かります . ただし , 三番目の等式では , µ t
nN
nn!
¶
0= lim
h→0
1 h
µ (t + h)
nN
nn! − t
nN
nn!
¶
3勝手な正の実数0< ε∈Rに対して,絶対値の値がε以下となるような実数は0しかありませんから,こ れによって,eA+B−eAeB=Oとなることが分かります.
4したがって,eN+N0=eNeN0 という等式が成り立つという事実に対しては,N, N0 がベキ零行列である ということは,あまり本質的なことではありません.
=
½
h
lim
→0(t + h)
n− t
nh
¾
· N
nn!
= (t
n)
0N
nn!
となることを用いました . また , 全く同様にして , (e
tN)
0=
X
∞ m=0t
mN
m+1m!
= X
∞ m=0t
mN
mN m!
= (
∞X
m=0
(tN)
mm!
)
· N
= e
tNN となることも分かります .
★ 上の計算を眺めると , 一般に , 正方行列 A に対して ,
(e
tA)
0= Ae
tA= e
tAA (5)
となることが分かります . ただし , この場合には , (4) 式の等式において , 「無限個のものの 和」に対して , 「微分をする操作」と「無限和を取る操作」の順番を取り換えていることに なりますから , 本当は , 等号が成り立つことを , もう少し慎重に確かめてみる必要がありま す . 興味がある方は , 微積分学において , 例えば , 「ベキ級数」に対して「項別微分」がで きるということを正当化する議論を学ばれた後で , その議論を参考にして , 上の議論を正 当化してみて下さい . (2) と同様に , 一般には , 「無限和」に関わる「変なこと」が起きて いないことを , 一度 , きちんと確かめておく必要があるので , 「無限和」が現われないよう に , 問 12 では , N をベキ零行列であるとしました .
5この演習でも追々見ていくように , 実
は , (5) 式は , 定数係数の線型常微分方程式を行列の立場から見直すときに活躍することに
なります .
5したがって, (etN)0=N etN =etNN という等式が成り立つという事実に対しては,N がベキ零行列で あるということは,あまり本質的なことではありません.
問 13. 行や列に関する基本変形を行って , 対角線上に並んだ 1 の数を数えてみると , 与え らた行列を A として , A の rank は , 次のようになることが分かります .
(1) rank A = 3, (2) rank A = 3, (3) rank A = 2, (4) rank A = 2, (5) rank A = 4, 問 14. 例えば , 行に関する基本変形を用いて , それぞれの行列の逆行列を求めてみると , 次 のようになることが分かります .
(1) 1 10
15 − 11 − 12
−10 10 10
− 5 7 4
, (2) 1 2
1 − 1 1
−1 1 1
1 1 − 1
, (3) 1 2
7 0 − 6
−2 2 0
0 − 2 2
,
(4) 1 2
1 − 1 1
0 0 2
1 1 − 1
, (5) 1 10
2 2 2
2 2 − 8
− 4 1 1
.
問 15. 例えば , 行に関する基本変形を用いて , それぞれの行列の逆行列を求めてみると , 次 のようになることが分かります .
(1) A
−41= 1 5
4 3 2 1 3 6 4 2 2 4 6 3 1 2 3 4
, (2) B
4−1= 1 2
2 2 2 2 2 4 4 4 2 4 6 6 1 2 3 4
,
(3) D
4−1= 1 2
2 2 1 1 2 4 2 2 1 2 2 1 1 2 1 2
, (4) F
4−1=
2 3 4 2 3 6 8 4 2 4 6 3 1 2 3 2
,
(5) A
−51= 1 6
5 4 3 2 1 4 8 6 4 2 3 6 9 6 3 2 4 6 8 4 1 2 3 4 5
, (6) B
5−1= 1 2
2 2 2 2 2 2 4 4 4 4 2 4 6 6 6 2 4 6 8 8 1 2 3 4 5
,
(7) D
5−1= 1 4
4 4 4 2 2
4 8 8 4 4
4 8 12 6 6
2 4 6 5 3
2 4 6 3 5
, (8) E
6−1= 1 3
4 5 6 4 2 3
5 10 12 8 4 6 6 12 18 12 6 9 4 8 12 10 5 6
2 4 6 5 4 3
3 6 9 6 3 6
.
問 16. 与えられた行列を A とすると , それぞれの行列の行列式は , 次のようになります . (1) det A = 0,
(2) det A = (b − a)(c − a)(d − a)(c − b)(d − b)(d − c), (3) det A = x
n+ a
n−1x
n−1+ · · · + a
1x + a
0,
(4) det A = (x
1+ x
2+ · · · + x
n) · Y
j>i
(x
j− x
i), (5) det A =
Q
j>i
(a
j− a
i) Q
ni=0