幼児期における足指筋力と立位姿勢の安定性について
田中 瑛(スポーツ学研究科 生涯スポーツ系 地域スポーツ分野)
主査 新宅 幸憲 副査 高橋 正行・佃 文子
Toe grip muscle strength and stability of standing posture in early childhood Akira Tanaka
キーワード:幼児期,足指筋力,立位姿勢の安定性
Keywords:early childhood,Toe grip muscle strength,Stability of standing posture
1.緒言
立位姿勢を保持する際,まず直接地面と接す るのは足部である.足部は,脚に続く下肢の一 部分を構成し,幼児期に形成されるといわれて いる(下枝ほか,1996) .足底が唯一の接地面 であることを考えると,足指・足底が立位活動 に果たす影響は大きいと考えられる.足指筋力 を鍛えることは,体力・運動能力の向上にも影 響を与えることが考えられる.しかし,これま での足指筋力に関する報告は,高齢者や成人,
大学生などを対象としたものがほとんどであ り,幼児を対象としたものはみられない.そこ で本研究では,幼児の足指筋力が立位姿勢の安 定性についてどのような関連性を示している のか,足指筋力が運動能力についてどのように 反映されているのかについて分析を行い,今後 の幼児教育に役立てることを目的とした.
2.対象および方法
対象は,滋賀県守山市内の
Mこども園に通 う園児
114名(男児
61名,女児
53名)である.
足 指 筋 力 の 測 定 に は , 足 指 筋 力 測 定 器
(T.T.K.3360,竹井機器工業株式会社)を用い た.立位姿勢における重心動揺の測定には,重 心動揺計(ポータブルグラビコーダ
GS-7,アニマ株式会社)を用い,総軌跡長(LNG) ,単 位時間軌跡長,単位面積軌跡長,外周面積,矩 形面積,
X方向動揺平均中心変位,
Y方向動揺 平均中心変位,前方最大変位を記録した.運動 能力の測定は,運動能力テスト(握力,
25m走,
立ち幅跳び,片足立ち,片足連続跳び,反復横 跳び)を採用した.
統計ソフトは
IBM SPSS Statistics 19を使用 し,足指筋力の男女差および左右差の比較には
t検定を用いた.足指筋力と身体的特徴,重心 動揺および運動能力の各測定項目間の分析に
は
Pearsonの相関係数を用いて検討を行った.
いずれも
5%未満を有意性の基準とした.3.結果および考察 1)足指筋力について
足指筋力の左右差の比較では,男児において 右足指筋力が左足指筋力より高い傾向を示し,
女児において右足指筋力が左足指筋力より優 位に高い値を示した(t
₍₅₁₎=2.02,p<0.05).平沢(1981)は,幼児の支持足と利き足が同じで あること,発育に従って支持足が利き足とは逆 足に移行していくことを報告している.すなわ ち幼児の支持足も利き足も,いずれも右足であ ることが考えられる.足指筋力の性差について は男児の方が女児より高い傾向であったが,女 児の方が高い値を示す年齢もみられ明らかな 特性は確認できなかった.女児の足指筋力の平 均は男児に対して
85%であった.半田ほか(2004)は,足指筋力の男女の比率は
20-60歳
代まで女性は男性の
60-70%であると報告している.関ほか(2014)は,小学生の足指筋力は
身体の発育とともに増加するが,明確な性差は
確認されなかったと報告している.これらのこ
とから,足指筋力の左右差は小学生から中学生
の段階で形成される可能性が示唆される.
2)足指筋力と重心動揺について
男児において足指筋力と総軌跡長との間に 有意な負の相関が認められた(r=-0.33,
p<0.01). これに対し,女児では必ずしも男児と同じよう な結果とはならず,足指筋力と重心動揺におけ る測定項目との間に有意な相関は認められな かった.本研究結果において,重心動揺の各測 定項目で男児よりも女児の方が優れていたこ とが認められたことから,男児の重心点が女児 と比較して,積極的に移動していたことが考え られる.さらに,前方最大変位において,男児 が女児よりも有意に高い値を示した(t
₍₉₆₎=3.19,p<001).藤原(1997)は,重心が踵から 60%
より前方に位置した時には,足指筋力の活動が 急増すると報告している.これらのことから,
男児において前方向へ移動した重心点を支持 基底面内に戻すバランス制御のために,足指筋 力が機能したことが考えられる.
3)足指筋力と運動能力について
男女ともに有意な相関が認められたのは,握
力(r=0.59,
p<0.01),立ち幅跳び(r=0.55,
p<0.01), 反復横跳び(r=0.33,p<0.01)であった.立ち 幅跳びや反復横跳びは,筋パワーや跳能力およ び調節力の指標となっているが,ともに脚部や 足部が重要な機能を果たしていることが考え られる.井原ほか(1995)は,足指筋力トレー ニング開始
4週で足指筋力,反復横跳び,立ち 幅跳びが有意に向上したことを報告している.
これらのことから,立ち幅跳びにおいては跳躍 時に身体を前方は押し出す動作を行う際に足 指筋力が活用され,足指筋力が強い幼児ほど身 体をより前方へ押し出すことができると考え られる.反復横跳びにおいては不安定な移動動 作を足指筋力が支え,足指筋力の発達により制 動性が高まり,接地での衝撃が緩和され,次へ の跳躍動作を可能にしているものと考えられ る.
4.まとめ
幼児の足指筋力は身体の発育とともに増加 した.足指筋力の性差は認められず,左右差は 認められた.男児において足指筋力と総軌跡長,
単位時間軌跡長との間に有意な負の相関が認 められた.女児においては重心動揺の測定項目 と相関が認められなかった.男女ともに足指筋 力と握力,立ち幅跳び,反復横跳びとの間に有 意な正の相関が認められた.これらのことを検 討した結果,幼児の足指筋力は,安定した立位 での役割は低く,重心を積極的に移動させるよ うな場面での立位の平衡調節能力に関連して いると考えられる.
引用・参考文献
藤原勝夫(1997)姿勢の調節.身体機能の調節.
朝倉書店:東京,pp.189-197.
半田幸子・堀内邦雄・青木和夫(2004)足趾把 握筋力の測定と立位姿勢調節に及ぼす影響の 研究.人間工学,40(3) :139-147.
新宅幸憲(2008)幼児期の立位姿勢における静 的平衡性の研究.大阪体育大学大学院後記博士 課程博士委員会:1-65.
N 足指右 足指左
男児 18 2.49±0.49 2.47±1.49 2.48±1.32 女児 9 3.04±0.70 2.87±1.64 2.96±1.62 男児 10 3.27±0.66 3.37±1.16 3.32±1.38 女児 19 2.14±1.34 2.05±1.08 2.10±1.15 * 男児 14 4.44±0.56 4.07±1.30 4.26±1.51 女児 15 4.36±1.80 3.83±1.22 4.10±1.34 男児 21 5.29±0.46 5.14±2.45 5.22±2.73 女児 9 4.86±1.95 4.38±2.27 4.62±2.08 6歳前半
4歳後半
5歳前半
5歳後半
表1 足指筋力の年齢別・男女別の測定結果 足指左右平均
mean±SD,単位:kg 男児 vs 女児(*:p<0.05)
総軌跡長
r=-0.33 ** r=-0.08単位時間軌跡長
r=-0.33 ** r=-0.08単位面積軌跡長
r=0.04 r=-0.03外周面積
r=-0.24 r=-0.04矩形面積
r=-0.17 r=-0.01MX r=-0.04 r=0.15
MY r=0.10 r=0.03
XO r=-0.10 r=0.11
YO r=0.08 r=0.05
前方最大変位
r=-0.15 r=-0.04足指筋力
**:p<0.01