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ブータン・ヒマラヤの生業形態の多様性

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ブータン・ヒマラヤの生業形態の多様性

著者 栗田 靖之

雑誌名 国立民族学博物館研究報告

巻 11

号 2

ページ 457‑488

発行年 1986‑12‑20

URL http://doi.org/10.15021/00004371

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栗 田 ブー タン ・ヒマ ラ ヤの 生 業 形 態 の 多 様 性

ブ ー タ ン ・ヒ マ ラ ヤの 生 業 形 態 の 多 様 性

之 *

Subsistence Differentiation by Altitude in Bhutan

Yasuyuki KURITA

Bhutan is located on the South slope of the Great Himalaya.

The Northern border between Bhutan and Tibet is above 7,000 m., but the Southern one, between Bhutan and India, is only about 200 m.

Bhutan can be divided into three areas by altitude. Re- sidences start from 4,100 m. In this alpine zone annual rainfall is 400 mm, 60-90 percent of it falling in the Monsoon season.

In this area, the main subsistence is seasonal Yak nomadism.

The 3,000-1,500 m. zone, the so-called middle inner Hima- laya, has a cold temperate climate with annual precipitation averaging about 1,000 mm. The western region receives a comparatively higher rainfall. Buckwheat is cultivated at the higher elevations and rice in lower sites. Cattle breeding is also common. Agricultural field move by season, with those at higher elevations being cultivated in summer and the lower sites in winter. Cattle are also relocated to lower sites in the winter.

This might have been influenced by the tradition of Yak nomadism.

Near the southern border, at an elevation of less than 1,500 m., the climate is hotter and humid, with average annual temperatures ranging from 15-30°C and a rainfall of 2,500- 5,000 mm in some areas. In that zone the rice is the main crop.

In cultural terms, Yak nomadism came from the North (Tibet) and rice cultivation might have been broguht from the South (Assam). Thus Bhutan lies at the junction of the Tibetan and Assamese cultural zones.

* 国立民族学博物館第 2研究部

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国立民族学博物館研究報 告  1巻 2号

O. は じ め に

1. ブ ー タ ンの 自 然 条 件 2. ブ ー タ ンの 川

3. ブ ー タ ン に お け る 民 族 分 布 4. ヤ ク の 飼 育

5. ヤ ク の 屠 殺 6. ヤ ク の 肉 の 加 工

7. ウ シ の 飼 育

8. ウ マ の 利 用

9. トラ ン ス ヒ ュ ー マ ン ス 0. ソ バ 作 り

11. 稲 作 2. む す び

0. は

  本 論 は , ブ ー タ ンに お け る標 高 差 に よ る生 業 形 態 の違 い につ いて 報 告 す る こ とを 目 的 と して い る1 ブ ー タ ンに は ,現 在 も個 人 の旅 行 が制 限 され て い る と はい え ,近 年 数 多 くの 団体 旅 行 者 が訪 れ る よ う にな り, い ろ い ろ な見 聞 の報 告 が 行 わ れ るよ うに な っ た 。 そ の 意 味 で は , ブ ー タ ンに関 す る紹介 時代 はす で に終 わ った とい って も良 い だ ろ う。 そ の結 果 ブ ー タ ンに 関 して は,今 後 よ り一 層 実 証 的 な研 究 が の ぞ ま れ る時代 とな った と言 う こ とが で き る。

  ま た一 方 ,今 日 まで の ブ ー タ ンに関 して は ,宗 教 ,歴 史 を 中 心 と した 人文 学 的研 究 が そ の主 流 を しめて い た。 と くに この よ うな傾 向 は欧 米 の研 究 者 の 間 で 顕著 で あ る。

ブ ー タ ンの人 び とが どの よ うな 自然条 件 の も とに住 み , どの よ うな生 業 を営 み , そ の 生 活 習 慣 が ど の よ うな もの で あ るか に 関 す る研 究 は, む しろす くな か った とい わ な け

れ ば な らな い。

  さて , ブ ー タ ンに関 す る組織 だ った初 期 の研 究 と して は カ ラ ン [KARAN  l967]を 挙 げ る こ とが で き る。 そ れ と と もに,わ が 国 に もす ぐれ た研 究 が あ る。 た とえ ば ,95 年 日本 人 ・と して は じめ て ブ ータ ンを訪 れ た 中尾 佐 助 の 著書 [中尾   1971]や, 1964年

か らブ ータ シに農 業 指 導 の た め滞 在 して い る西 岡 京 治 の i著書 [西 岡 ・西 岡  1978],ま た 中尾 と西 岡 の共 著 に よ る研 究書 [中 尾 ・西 岡  1984]・そ れ に加 え て , ブ ー タ ンを東 西 に踏 査 した京 都 大 学 山岳 部 の報 告 書 [桑 原 (編 )  1978]な どで あ る。

  本 報 告 に お いて は, 著 者 自身 が ブ ー タ ンに お いて 行 った 調 査 と民 具収 集 の経 験 を も とに して ∴ ブ ー タ ンの 生 業 の あ り方 を そ こで 用 い られ る民 具 との 関 連 に 注 目 しつ つ報 告 した い と思 う。

  ブ ー タ ン社 会 の興 味 あ る特 徴 は , ヒマ ラヤ の 山腹 に, そ の 高 度 に した が って , た く み な生 業 形態 が展 開 して い る こ とで あ る。

  本 稿 に お い て は , は じあ に北 部 高 地 に お け るヤ ク の移 牧 とそれ よ り低 地 に お け る ウ

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栗 田   ブー タ ン ・ヒマ ラヤ の生 業 形 態 の多 様 性

シの飼 育 につ い て報 告 をす る。 そ して それ につ づ い て ,高 地 に お け る ソバ 栽 培 と稲作 につ いて の報 告 を行 い ,合 わせ て ブ ー タ ンの 文 化 を 考 察 す る こ とを も くろん で い る。

そ して これ らの生 業 を成 り立 たせ て い る物 質 文 化 を , 本 館 所蔵 の ブ ー タ ン収 集 品 との 関連 を明 らか に しな が ら論 考 した い と考 えて い る。

1. ブ ー タ ン の 自 然 条 件

  ブ ー タ ン は , バ ン グ ラ デ シ ュ の 北 方 , ヒ マ ラ ヤ 山 脈 の 東 部 , お よ そ 北 緯 26度 45分 か ら 28度 10分 , 東 経 88度 45分 か ら 92度 12分 に 位 置 して い る 。 ブ ー タ ン は 南 北 が お よ そ 170キ ロ メ ー トル , 東 西 は 300キ ロ メ ー トル で あ り, そ の 面 積 は お よ そ 46,500平 方 キ ロ

メ ー トル で あ る 。

  ブ ー タ ン の 自 然 条 件 の 大 き な 特 徴 は , 北 部 の ヒ マ ラ ヤ 山 脈 が 7,500メ ー トル の 高 さ に お よ ん で い る の に 対 して , 南 部 国 境 地 帯 で は 標 高 百 数 十 メ ー トル ほ ど で あ る 。 ブ ー タ ン の 南 方 は ア ッ サ ム 平 原 で あ り , ブ ラ フ マ プ ト ラ河 が 西 流 して い る 。

  ブ ー タ ン の 地 理 的 景 観 を 単 純 化 して 述 べ る と , ヒ マ ラ ヤ 山 脈 の 南 斜 面 に 広 が っ た 地 域 と い う こ と が で き る で あ ろ う 。 しか し実 際 は , も っ と複 雑 な 地 形 を して い る 。 ヒ マ ラ ヤ 山 脈 か ら南 に の び た 支 尾 根 は , 網 目 の よ う に 複 雑 な 地 形 を 描 き な が ら, 徐 々 に 高 度 を 下 げ , ア ッ サ ム 平 原 に 至 っ て い る 。

  ま ず は じ め に , ブ ー タ ンの 背 景 を な す ヒ マ ラ ヤ 山 脈 に つ い て 見 る こ と に した い 。 ヒ マ ラ ヤ 山 脈 に は , エ ベ レ ス ト(8,845メ ー トル ), カ ン チ ェ ン ジ ュ ン ガ (8,598メ ー トル ) と い っ た ネ パ ー ル ・ ヒ マ ラ ヤ の 高 峰 に つ ら な っ て , そ の 東 方 に は ブ ー タ ン ・ヒ マ ラ ヤ が あ り , そ こ に は , 西 か ち , チ ョ モ ラ リ (7,320メ ー トル ), ツ ェ リ ム カ ン (6,900メ ー トル ), カ ン チ ェ ダ (6,800メ ー トル ), マ サ ・ コ ン (7,200メ ー トル ), ッ ェ ンダ カ ン

7,200メ ー トル ), テ リ カ ン (7,300メ ー トル ), ジ ェ ジ ェ カ ン プ ー (7,300メ ー トル ),

ガ ン カ ー プ ン ス ム (7,541メ ー トル ), ク ー ラ カ ン リ (7,569メ ー トル ) と い っ た 高 峰 が な らび た っ て い る 。

  こ れ らの ブ ー タ ン ・ ヒ マ ラ ヤ の 標 高 に つ い て は , 最 近 の 調 査 で か な り疑 義 が 表 明 さ れ て い る 。 す な わ ち 1985年 10.月 の 京 都 大 学 ブ ー タ ン ・ヒ マ ラ ヤ 学 術 登 山 隊 の 測 量 に お い て は , マ サ ・コ ン峰 は ブ ー タ ン政 府 の 発 表 し た 標 高 が 7,200メ ー トル で あ る の に 対 し て ,6,800メ ー トル 前 後 の 標 高 を 算 出 し て い る 。 ま た 同 年 同 時 期 に ,ブ ー タ ン中 央 部 の ナ ム シ ラ に 登 頂 した 千 葉 大 学 登 山 隊 か ら も , ブ ー タ ン 政 府 が 発 表 し た 標 高 は 6,500メ ー トル で あ っ た が, 高 度 計 は 6,000メ ー トル し か 示 さ な か った と 報 告 さ れ て い る。 こ

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国立民族学博物館研 究報 告  11巻 2号 の よ う な 報 告 が あ る こ と か ら も , こ れ ら ブ ー タ ン ・ ヒ マ ラ ヤ の 標 高 は , 今 後 の 学 術 的 に 正 確 な る 測 量 に よ り , 大 い に 変 わ る 可 能 性 が あ る だ ろ う。

  こ の ヒマ ラ ヤ 山 脈 は , 同 じ大 陸 に 属 して い な が ら , イ ン ドと チ ベ ッ ト と の 間 に 立 っ て , こ の 二 つ の 地 域 に き わ だ っ た 気 象 環 境 を つ く り 出 す 上 で , と て つ も な く大 き な 役 割 を 果 た して い る 。 す な わ ち , 6月 か ら 9月 に か け て , イ ン ド大 陸 に 発 生 す る モ ン ス ー ン の 雲 を, こ の ヒ マ ラ ヤ 山 脈 が さ え ぎ っ て , ヒ マ ラ ヤ の 南 山 麓 に 多 量 の 雨 を も た ら す の で あ る 。

  イ ン ド大 陸 に お け る モ ン ス ー ン は , ヒ マ ラ ヤ 山 脈 と大 い に 関 係 の あ る こ と と して 論 じ られ て き た 。 安 成 らは , モ ン ス ー ン と ヒマ ラ ヤ の 関 係 に つ い て , 次 の よ う に論 じ て い る [安 成 ・藤 井   1973:4]。

    「一 … 大量 の降 雪 (水) は, イ ン ド洋 か らや って くる湿 った モ ンスー ン気流 によ って もた ら     され る。 平 均 的 な 自 由大 気 中で は, 熱 帯 といえ ど も,5,000m 以 上 に な る と, 大 気 中 の水 蒸     気 は極 端 にす くな くな り, この 高 さ以 上 で の 大 量 の降 水 量 は, 常 識 的 に は考 え に くい 。 しか     し,強 い 対 流 な ど によ り,水 蒸 気 が上 層 にま で大 量 に輸 送 さ れ る とす る と,高 所 で の 多量 の     降水 もあ り得 よ う。 モ ンス ー ン期 の ヒマ ラヤで は ,ま さに この よ うな 強 い上 昇 気 流 が ,広 域     に生 じて い る と考 え ね ば な らな い 。

    「そ して この よ うな 強 い 上昇 気 流 は ,広 大 な チ ベ ッ ト高 原 を含 む ヒマ ラヤ 山塊 全 体 が ,夏 に     な る とあ た か もホ ッ トプ レー トの よ うに熱 せ られ る た め に生 じる こ とが , 明 らか にな って き     た。」

  と述 べ て い る 。 す な わ ち , 夏 に な る と , ヒ マ ラ ヤ 山 脈 を ふ くむ チ ベ ッ ト高 原 が 熱 せ ら れ て , 大 気 は 強 い 上 昇 気 流 と な っ て チ ベ ッ ト高 原 に は 低 気 圧 帯 が 出 現 す る 。 そ して そ の チ ベ ッ トの 低 気 圧 帯 に 対 して , 南 の 湿 っ た 空 気 が 吹 き こ む 。 そ の 時 ヒマ ラ ヤ 山 脈 の 南 斜 面 が こ の 上 昇 気 流 を 助 長 す る 役 目 を 果 た し , 本 来 な ら ば , 運 ば れ る は ず の な い 高 度 に ま で 湿 潤 な 空 気 が 運 び 上 げ ら れ , そ れ が 雪 や 雨 と な っ て ヒ マ ラ ヤ 山 脈 に 降 る 。

こ れ が モ ン ス ー ンで あ る と 考 え ら れ て い る の で あ る 。

  ブ ー タ ン は , こ の よ う に ヒマ ラ ヤ 南 山 麓 に 位 置 す る こ と か ら, 6月 か ら 9月 ま で の モ ン ス ー ン期 に は , 多 量 の 雨 が 降 る 。 各 地 に お け る 雨 は , 図 1 に示 し た 通 り で あ る 。 プ ン ッ ォ リ ン の 年 間 総 雨 量 は 4,054ミ リメ ー トル で あ り , そ の 気 温 も年 間 気 温 が 24度 で あ る 。 こ の こ と か ら も , プ ン ツ ォ リ ン に 代 表 さ れ る ブ ー タ ン南 山 麓 の 町 が , 熱 帯 多 雨 帯 に属 し て い る こ と が 明 らか で あ ろ う 。

2. ブ ー タ ン の 川

そ して こ の モ ン ス ー ン は 南 部 低 地 に 雨 を も た ら す だ け で な く , 北 部 の ヒ マ ラ ヤ 山 脈

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図 1  ブ ー タ ン 各 地 の 年 間 降 雨 量 Negi  1983]よ り作 図 )

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栗 田   ブ ー タ ン ・ヒ マ ラヤ の 生 業形 態 の 多 様性

で は , 雪 と な り , そ の 雪 が 巨 大 な 貯 水 源 と して の 役 割 を 果 た して い る 。 す な わ ち モ ン ス ー ン に よ っ て 降 っ た 雪 は , 氷 河 と な っ て ヒマ ラ ヤ 山 脈 に 蓄 積 さ れ る の で あ る 。 最 近 で は 衛 星 写 真 に よ り 今 日 ま で 踏 査 さ れ な か った 地 域 に お け る氷 河 面 積 ま で も が 算 出 さ れ る よ う に な っ た 。 安 成 ら [安 成 ・藤 井   1973:137] は ,そ の 著 書 の 中 で ,藤 井 [藤 井 1977] の 文 献 を 引 用 しな が ら, ブ ー タ ン ・ ヒ マ ラ ヤ に お け る 氷 河 分 布 面 積 を 2,730平 方 キ ロ メ ー トル で あ る と し て い る。 い ま 平 均 的 な 氷 河 の 厚 さ を 50メ ー トル , 氷 河 の 氷 の 比 重 を 0.83と 仮 定 す る と , こ の ブ ー タ ン ・ ヒ マ ラ ヤ に は お よ そ 1,000億 ト ンの 水 が 貯 蔵 さ れ て い る こ と に な る 1

  こ の よ う な ブ ー タ ン ・ヒ マ ラ ヤ に お け る氷 河 の 特 徴 は , 氷 河 の 末 端 高 度 が ネ パ ー ル ・ ヒ マ ラ ヤ に 比 べ て 著 し く低 い こ と で あ る 。 ブ ー タ ン北 方 の マ サ ・ コ ン 峰 に お け る 氷 河 の 末 端 高 度 は , お よ そ 4,500メ ー トル で あ っ た 。 安 成 ら [安 成 ・藤 井   1973:140] の 報 告 で は , ア ッ サ ム に お け る 氷 河 の 末 端 高 度 は ネ パ ー ル ・ ヒマ ラ ヤ に 比 べ て 2,000メ ー トル も 低 い と い う。 そ して そ の 理 由 は , ア ッサ ム 地 方 は , 夏 の 南 西 モ ン ス ー ン に よ る降 水 量 が 数 千 ミ リ メ ー トル に も な る 地 球 上 稀 有 の 多 雨 地 帯 で あ り , こ の よ う な 雨 が ヒマ ラ ヤ の 高 所 で は , 大 雪 と な り氷 河 を 酒 養 す る と 同 時 に , 厚 い 雲 は 日 射 を さ え ぎ り 氷 河 の 融 雪 を 低 く押 さ え て 氷 河 を 発 達 さ せ る 条 件 を つ く り 出 して い る と 述 べ て い る 。   さ て , こ の よ う に 蓄 積 さ れ た 水 が , や が て ヒ マ ラ ヤ の 南 山 麓 を 川 と な っ て 流 れ 下 る。

ブ ー タ ン の 地 形 に つ い て 語 る と き , ブ ー タ ン を 南 北 に 流 れ て い る こ れ ら急 峻 な 川 に つ い て の べ る こ と か ら は じ め た い と思 う。

  一 番 西 に 位 置 す る大 き な 川 は , ア モ ・チ ュ (Am o Chu)で あ る。 ア モ ・チ ュ は チ ベ ッ トに 源 を 発 して , チ ベ ッ トの ヤ ー ト ン に お い て 二 つ の 川 が 合 流 し ブ ー タ ンの 一 番 西 を 流 れ る川 と な って プ ン ツ ォ リ ンで 支 流 と 合 流 し て , ア ッサ ム に 流 れ 出 て トル サ

Torsa)川 と よ ば れ る 。

第 二 の 川 は , ウ ォ ン ・チ ュ (W ong Chu) で あ る 。 こ の 川 は , ハ を 流 れ る ハ ・チ ュ ー (H a Chu), パ tiを 流 れ る パ ロ ・チ ュ , テ ィ ン プ ー を 流 れ る テ ィ ン プ ー ・チ ュ が 合 流 して , ウ ォ ン ・チ ュ と な る。 ま た こ の 川 は 下 流 で は チ ン ・チ ュ (Cin Chu), ラ イ ダ

ク (Raidak)川 と も よ ば れ る 。

第 三 の 川 は ,マ サ ・コ ン の あ た り に 源 を 発 す る モ ー ・チ ュ (M o Chu)と そ の 東 方 の ジ ェ ジ ェ カ ン プ ー カ ン , カ ン フ。一 カ ン に 源 を 発 す る ポ ・チ ュ (Pho Chu) と が ブ ナ カ で 合 流 し て , ブ ナ カ ・チ ュ (Punaka Chu), な い し は モ ・チ ュ (M o Chu) と な る 。 ま た こ の 川 は , 下 流 で は サ ン コ シ ュ (Sankosh) と よ ば れ る こ と も あ る 。

1)氷 河 の厚 さ,氷 河 の比 重 に 関 して は, 武 庫川 女 子 大 学 ,横 山宏太 郎氏 よ り ご教示 いた だ い た 。

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国立民族 学博 物館研究報 告  11巻 2号

  第 四 の 川 は , ト ンサ を 流 れ る マ ン デ ・チ ュ (M angde Chu) が ト ン サ を す ぎ て ト ン サ ・チ ュ (Tongsa Chu) と な り , ま た ブ ム タ ン (Bhum tang) を 流 れ る メ ラ カ ル ・チ ュ (M elakar Chu)が ブ ム タ ンを す ぎ て ブ ム タ ン ・チ ュ (Bhum tang Chu)ま た は マ ン デ ・チ ュ (M ande Chu) と な り ,遠 く ク ー ラ カ ン リ(K ula K anri,7,569メ ー トル ) の あ た り の チ ベ ッ トか ら流 れ 出 す ク ル ・チ ュ (K uru Chu) と タ シ ガ ン (Tashi G ang)を 流 れ る ダ ン メ ・チ ュ (D angm e Chu)が ひ とつ に な っ て マ ナ ス ・チ ュ (M anasu Chu)

と な る。

  こ の よ う に , ブ ー タ ン川 は , 複 雑 な 地 形 を 縫 う よ う に して 流 れ て お り , そ し て そ の 地 所 に よ っ て 呼 び 名 が か わ る た め に , 大 変 複 雑 で あ る 。 ブ ー タ ンの 主 要 な 川 は 図 2 に

ま と め た 。

3. ブ ー タ ン に お け る 民 族 分 布

  ブ ー タ ン の 人 口 は 1981年 の 政 府 発 表 の 数 で 116万 人 で あ る 。 [Ro2al(overnment o

Bhutan n.d.:4−5]。・そ の 人 口 を 構 成 して い る の は ,大 き く は ブ ー タ ン人 と ネ パ ー ル 人 で あ る が , そ の 比 率 に 関 し て は 統 計 的 資 料 は な い 。 しか しお お よ そ ブ ー タ ン人 が 86パ

ー セ ン ト, ネ パ ー ル 人 お よ び そ の 他 の 民 族 が 14パ ー セ ン トで あ る と い わ れ て い る 。   ブ ー タ ン に お け る 民 族 分 布 は , 大 き く は 次 の よ う に わ か れ て い る と述 べ る こ と が で

き る だ ろ う 。 す な わ ち , 南 部 国 境 線 に 近 い 1,000メ ー トル ま で の 低 地 に は , も っ ぱ ら ネ パ ー ル 人 が 住 ん で い る 。 た と え ば , ブ ー タ ン西 南 部 の 町 サ ム チ ー (Sam chi) の 住 人 の 大 半 は ネ パ ー ル 人 で あ る。 ま た , 中 央 部 の 南 の チ ラ ン (Chirang)の ほ と ん ど の 人 口 は ネ パ ー ル 人 で あ る し, ゲ レ フ ー (Gelekphu)の 北 に あ る ス レ ー (Sure) に は , 大 き な ネ パ ー ル 人 の 村 が あ る 。 お お む ね ネ パ ー ル 人 は , 南 部 低 地 に 居 住 して い る と い う こ と が で き る 。

  そ れ よ り 高 度 の 高 い 比 較 的 乾 燥 地 帯 に は ブ ー タ ン人 が 居 住 して い る 。 ブ ー タ ン人 と 一 言 で 表 現 さ れ る が, か れ ら の 間 で は , 西 ブ ー タ ン と東 ブ ー タ ン と で は , お 互 い が そ の 出 自 を 異 に して い る と認 識 して い る 。 す な わ ち , 西 ブ ー タ ンの 人 び と は , 自 ら を ガ ロ ン (N galong 最 初 の 人 ) と よ び ・ 自 ら の 出 自 を チ ベ ッ トで あ る と 認 識 して い る の に 対 し て , 東 ブ ー タ ンの 人 び と は , 自 ら を シ ャ ー チ ョ ップ (SharchOP 東 の 人 ) と よ び ,

そ の 出 自 は 南 部 の ア ッサ ミー ズ で あ る と認 識 して い る 。 こ の 東 西 ブ ー タ ン の 分 岐 は , ブ ラ ッ ク ・マ ウ ン テ ンを 横 切 る 峠 ペ レ ・ ラを ひ と つ の 境 と し て い る 。 た しか に , 西 の ブ ー タ ン人 と , タ シ ・ガ ン で 見 る ブ ー タ ン人 と は , 顔 つ き が 異 な っ て い る 。 こ の よ う 462

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図 2 ブ ー タ ン 地 理 概 念 図

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図 3 ブ ー タ ン の 方 言 概 念 図

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栗 田  ブ ー タ ン ・ヒ マ ラヤ の 生 業形 態 の 多様 性

に , 西 と東 と で , そ れ ぞ れ の 出 自 に 対 す る認 識 が 異 な っ て い る の で あ る。

  そ れ に 加 え て 言 語 も 地 方 に よ って 大 き く異 な っ て い る 。 学 校 教 育 は英 語 と共 通 語 と して の ゾ ン カ で 行 わ れ て い る が , 地 方 に お け る共 通 語 の 普 及 度 は 低 い 。 ブ ー タ ン に お け る方 言 の 分 布 に 関 す る概 念 的 な 図 は 図 3 に 示 した 。

  ブ ー タ ン に お け る 大 き な 区 別 は , こ の よ う に 南 部 地 帯 の ネ パ ー ル 人 と , 中 央 部 地 帯 以 上 の ブ ー タ ン人 と 大 き く分 け る こ とが で き る が , そ の 他 に も , い くつ か の 少 数 民 族 の 存 在 を 認 め る こ と が で き る 。

  そ の 中 で も数 の 多 い の は , ラ ヤ 地 方 の ラ ヤ ッ プ と 呼 ば れ る人 び と で あ る 。 彼 ら は , も っ ぱ ら ヤ ク の 移 牧 を 行 っ て い る。 しか し移 牧 を 生 業 とす る ブ ー タ ン人 は 他 に も居 る。

ラ ヤ ッ プ を ひ と き わ 特 徴 づ け て い る の は 服 装 で あ る 。 ラ ヤ ッ プ の 男 性 は他 の ブ ー タ ン 人 と 同 じ く ゴ (Gho) と 呼 ば れ る服 装 を して い る 。 そ れ に 対 し て , ラ ヤ ッ プ 以 外 の ブ ー タ ン人 の 女 性 が キ ラ (K ira)と よ ば れ る幅 広 の 一 枚 布 の 衣 装 を 着 用 し て い る の に 対 して ,

ラ ヤ ップ の 女 性 は , ヤ ク の 毛 を つ む い だ 黒 く て 長 い ス カ ー ト (ζ〃吻 と , 同 じ く黒 い チ ョ ッ キ (kora)を 着 用 して お り , 頭 に は ラ ヤ 方 言 で ベ ロ (bero) と 呼 ぶ , 竹 で 編 ん だ 帽 子 を か ぶ っ て い る。 ま た , 身 体 に は ス プ ー ン な ど を 細 工 し た チ ャ チ ャ ー (harcha) と 呼

ば れ る 装 身 具 を 身 に つ け て い る 。 彼 ら 自 身 , 自 らの 出 自 は チ ベ ッ トで あ る と い う 。   一 方 ブ ー タ ン東 部 の サ ク テ ン谷 (Sakuteng)に お い て は ,ダ ク パ と 呼 ば れ る人 び と が 居 住 して い る 。 ダ ク パ の 特 徴 は , 四 本 の タ レ の つ い た ヤ ク の 毛 で つ く っ た 黒 い ベ レ ー 帽 と , ヤ ク の 皮 の チ ョ ッ キ で あ る。 ダ ク パ の 住 居 地 は 主 と し て 標 高 3,000メ ー トル の サ ク テ ィ ン谷 で あ る が , 彼 ら は タ シ ガ ン周 辺 に ま で あ らわ れ て い る 。 彼 らは ヤ ク の 飼 育 を し , 石 づ く り の 家 に 住 ん で お り ト ウ モ ロ コ シを 栽 培 して い る 。 死 者 は 切 り刻 ん で 川 に 流 す と い わ れ て い る が , そ の 生 活 に つ い て は , あ ま り 知 ら れ て い な い 。 ダ クパ に つ い て の , 西 岡 ら の 記 述 は 貴 重 な も の で あ る [西 岡 ・西 岡   1978:152−156]。 ま た 彼 ら は ,半 農 半 遊 牧 民 で あ る の で ,牧 畜 民 を 意 味 す る ドク パ と称 さ れ る こ と も あ る [ス ト ゥ リ ド ン ク他   1985:103]。 こ の ダ ク パ の 言 語 は , ゾ ン カ よ り チ ベ ッ ト語 に 近 い と い わ れ て い る が , そ の 詳 細 は 明 ら か で は な い 。 ま た こ の 人 び と は , イ ン ドの ア ル ナ チ ャ ー ル ・プ ラ デ シ ュ や チ ベ ッ ト東 南 部 の 少 数 民 族 モ ンパ と似 か よ って い る と い わ れ て い る が , ど の よ う な 関 係 に あ る の か は 今 後 の 研 究 を 待 た ね ば な らな い 。

  ま た ブ ー タ ン人 は , 牧 畜 民 全 体 を ダ ク パ と総 称 す る こ と も あ る 。 た と え ば , 「ブ ナ カ の 奥 に は ダ ク パ が 住 ん で い る」 と い った 表 現 を す る が , こ れ は 明 らか に ラ ヤ ッ プ を 示 し て い る と 考 え られ る 。

  こ の 他 に も , ブ ー タ ン の 西 南 部 , プ ン ツ ォ リ ン の 西 岸 に は , タ バ ・デ ュ ラ デ ュ ル       465

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      国立民族学博物館研究報告  11巻 2号

Taba Dradul) と い う 民 族 が 住 ん で い る。 彼 ら は 明 ら か に ブ ー タ ン人 と は 違 っ た 生 活 を 営 ん で い る 。 こ ん な 話 が あ る 。 プ ン ツ ォ リ ン の ゾ ン ダ (知 事 ) が こ の タ バ ・デ ュ

ラ デ ュ ル の 地 域 に 道 を 開 き橋 を か け る た め に , そ の 村 人 に 使 役 を 命 じた と こ ろ , わ れ わ れ は シ ャ ブ ド ゥ ン (1639年 か ら1773年 ご ろ ま で つ づ い た 聖 俗 最 高 の 権i威 者 ) と は , キ ンマ の 実 と 弓 を つ く っ て 納 め る 約 束 と な っ て い る の で , そ の よ う な 租 税 に は 従 う。

必 要 な キ ン マ と 弓 の 量 を 知 らせ て 欲 しい 。 し か し道 の た め の 使 役 は シ ャ ブ ド ゥ ン との 約 束 に は な か っ た と言 っ た と い う 。 こ れ な ど は , こ の タ バ ・デ ュ ラ デ ュ ル の 人 び とが , ブ ー タ ン人 と何 百 年 に も わ た っ て 隔 離 し た 生 活 を 営 ん で い た 証 拠 で あ ろ う。

  ま た 同 じ く シ ブ ッ ー の 近 く に は , ア パ デ シ ー と い う イ ン ド系 の 民 族 が 住 ん で い る 。 彼 ら は サ リー を 着 用 して そ の 外 見 は 全 く イ ン ド人 と か わ らな い と い う2)

  こ の よ う な ブ ー タ ン に お け る少 数 民 族 に つ い て は , 現 在 の と こ ろ ほ とん ど 知 ら さ れ て お らず , 中 央 政 府 の 機 構 が 整 い , そ の 威 信 が 照 葉 樹 林 帯 の 奥 地 に 及 ぶ に 従 っ て , 徐 々 に 明 らか に な り つ つ あ る の が 現 状 で あ る 。

4. ヤ ク の

  ブ ー タ ン に お け る家 畜 の 飼 育 状 況 は , 表 1 に示 した 。 農 耕 民 に 対 して , ヤ ク や ウ シ の 飼 育 を 生 業 と し て い る牧 畜 民 は , ジ ョ ッ プ と 呼 ば れ て い る 。 こ の ジ ョ ップ の 暮 し ぶ り を , ブ ナ カ の 北 方 160 キ ロ メ ー トル に あ る ラ ヤ 村 の 周 辺 を ひ とつ の 例 と して 見 る こ と に した い 。 ラ ヤ 村 は 標 高 3,800メ ー トル で , そ の 戸 は 60戸 , 人 口 は お よ そ 1,000人 で あ る 。

  稲 作 は 2,700メ ー トル が 限 界 で あ る の で , 当 然 ラ ヤ 村 で は , ソ バ , ム ギ , ジ ャ ガ イ モ         表 1  ブ ー タ ン に お け る 飼 育 家 畜 頭 数

      [RoalGonmentf Bhutn n・d・:34] よ り      (単 位 :千 頭 )

西 部 中央部 南 部

ヒ ツ ジ

66.1 18.0 5.1 ユ2.2

24.1 29.8

41.8 2.0 2.7

8.8 6.1 6.1 25.7

108.6   6.1 11.1   7.8

16.4 50.0

100.5

  2.4 11.2 36.2   8.8 80.9

317.0 26.1 21.2 40.1 42.3 55.4 186.2

2) ダ ク パ と ア パ デ シ ー に つ い て は , 元 の 通 信 ・観 光 大 臣 , リ ョ ン ポ ・サ ンゲ ・ペ ン ジ ョー ル 氏 か ら の 話 に よ る 。

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粟 田  ブー タ ン ・ヒマ ラヤ の生 業形 態 の多 様 性

を 中 心 に して カ ブ や カ ラ シ ナ な ど の 野 菜 の 栽 培 が 行 わ れ て い る。 そ れ と と も に , ラ ヤ 村 の 生 業 を さ さ え て い る の は ヤ ク の 飼 育 で あ る 。 ラ ヤ 村 の ヤ ク の 数 は , お よ そ 4,000 頭 で あ る か ら, 一 人 あ た り 4頭 ほ ど に な る 。 多 い 家 族 で は , お よ そ 100頭 ほ ど の ヤ ク を 飼 育 して お り, 少 な い 家 族 で も20頭 ほ ど の ヤ ク を 飼 育 し て い る 。

  ヤ ク (Bos grannins) は 偶 蹄 類 ウ シ 科 の 動 物 で あ る 。 ブ ー タ ン人 は 雄 の ヤ ク を ヤ ク , 雌 の ヤ ク を デ ィ , 子 供 の ヤ ク を ヤ ー と 呼 ん で 区 別 す る が , 以 下 こ の 動 物 を ヤ ク と 総 称 す る 。 肩 高 は 成 獣 で お よ そ , 1.5メ ー トル , 体 重 は500キ ロ グ ラ ム か ら, 800キ ロ グ ラ ム に 及 ん で い る 。 胸 か ら腰 に か け て 黒 い 毛 で お お わ れ て い る 。 白 い 毛 の も の も あ る が ,

こ れ は ま れ で あ る 。 ブ ー タ ン人 は , 白 い ヤ ク は と く に 美 味 で あ る と い う。

  ヤ ク の 大 き な 特 徴 は , 低 酸 素 , 低 温 に 耐 え る こ と で あ る 。 私 の 観 察 で も良 好 な 草 地 が あ れ ば 5,000メ ー トル に お い て 放 牧 して い た 。 し か し一 方 , 3,000メ ー トル 以 下 で の 飼 育 は 困 難 で あ る と い わ れ て い る 。 ラ ヤ 村 の 場 合 , 村 人 は 基 本 的 に 移 牧 民 で あ る が , ラ ヤ の 人 び と は 他 の ブ ー タ ン人 と 同 様 に , ラ ヤ 村 に 大 き な 家 を 持 っ て い る 。 し か し,

彼 ら は ほ とん ど そ の 母 村 で 過 ご す こ と は な い 。 彼 ら は い つ も ヤ ク を 追 っ て 牧 草 地 を め ぐ っ て い る 。 牧 草 地 に は , ノ ー チ ム と よ ば れ る石 づ く り の 小 屋 が あ る 。 そ し て こ の ノ ー チ ム で, ま た は テ ン トを 張 っ て 一 年 の 大 半 を 生 活 す る 。 そ の た め に一 年 間 で 家 族 が 一 緒 に な る の は む し ろ ま れ な こ と で あ り, 祭 り の 時 以 外 に は ほ と ん ど 一 家 が 顔 を 会 わ せ る こ と が な い 。

  春 , 夏 , 秋 に は こ の よ う に 移 牧 を 行 う が , 冬 は ヤ ク や ウ シ に は 飼 料 を 与 え な け れ ば 冬 が 越 せ な い と い う。 そ れ で もひ と 冬 に , ヤ ク の 子 ど も は 3 か ら 4パ ー セ ン トが 死 亡 す る と い う [N H K 取 材 班   1983:229]。

  ヤ ク 飼 育 の 大 き な 目 的 は , 乳 を しぼ る こ と に あ る 。 搾 乳 は 朝 夕 二 回 で , 一 回 の 搾 乳 で , お よ そ 1 リ ッ トル ほ ど を しぼ る 。 搾 乳 の 方 法 は , 多 く の 牧 畜 民 で 見 られ る よ う に ,

は じめ に子 供 の ヤ ク に 少 し乳 を 吸 わ せ る 。 そ して す ぐ に 子 供 の ヤ ク を は な し, 雌 の ヤ ク の 後 脚 を ヤ ク の 毛 で つ く っ た ロ ー プ で ゆ わ え , 女 性 が 搾 乳 す る 。 し ぼ っ た 乳 は , さ っ と 加 熱 して , そ の ま ま 飲 む こ と も あ る が , こ れ は む し ろ ま れ で あ る 。 そ の 大 半 は バ タ ー づ く り に 利 用 さ れ る 。 お よ そ 20リ ッ トル ほ ど の ミル ク を 一 晩 放 置 す る 。 そ して , や や 醗 酵 しか け た と こ ろ を マ チ ヤ ま た は ゾ ム (com   標 本 番 号 H O ll5907) と よ ば れ

る 撹 拝 機 に入 れ , 掩 伴 棒 で か き ま ぜ る 。 そ の 作 業 は , お よ そ 2時 間 ほ ど つ づ け ら れ る 。 2時 間 ほ ど た つ と, マ チ ヤ の 中 で 分 離 した バ タ ー を 集 め て , 木 製 の 容 器 マ シ ェ ー ma−

she 標 本 番 号 H O 5919) に 取 り 出 す 。 こ の バ タ ー は , 料 理 に 用 い られ る 。   一 方 , バ タ ー を と っ た 残 り の 液 体 を 鍋 に 取 っ て 加 熱 し , チ ー ズ を 取 る 。 こ の 場 合 ,

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国立民族 学博 物館研究報告  11巻 2号  表 2  い ろい ろ な 乳製 品

西 岡 ・西 岡  1978:144]よ り

子 供 の ヤ ク の 胃 液 の 一 部 を 加 え て 凝 固 さ せ る と い った チ ー ズ の つ く り か た は な い 。 こ の チ ー ズ は , 水 切 りを して , 大 き な 鏡 モ チ の よ う な 形 に つ く る。 そ して , 水 切 り を 行 い , そ れ を 長 さ 4 セ ン チ メ ー トル か ら 5セ ン チ メ ー トル , 厚 さ 1 セ ン チ メ ー トル ほ ど の 厚 さ に 切 っ て , ヤ ク の 毛 で 編 ん だ 糸 に 通 して , 乾 燥 さ せ る 。 こ れ が , チ ュ ゴ な い し は デ ッパ と よ ば れ る チ ー ズ で あ る 。 残 っ た 液 は ダ チ ュ と よ ば れ て , 飲 料 に さ れ た り

料 理 に 用 い ら れ る。

  こ の チ ー ズ が 白 く乾 燥 した あ と は 大 へ ん 固 く , と て も か み き れ る も の で は な い 。 ブ ー タ ン人 は そ れ を 口 の 中 に 入 れ , 丁 度 キ ャ ラ メ ル の よ う に 溶 か し な が ら食 べ て い る 。 ヤ ク の ミル ク か らつ く ら れ る 乳 製 品 に 関 し て は , 西 岡 ら [西 岡 ・西 岡   1978:144]に ま と め ら れ て い る の で , 表 2 を 参 照 さ れ た い 。

  搾 乳 を 終 わ っ た ヤ ク に は , 塩 を 与 え る。 こ の 時 に は , 雌 の ヤ ク の 角 を 男 が に ぎ り , ヤ ク の 首 を 横 だ き に して 上 を 向 か せ る 。 そ し て も う一 人 が , ヤ ク の 口 を 強 引 に 開 か せ , そ こ ヘ ヤ ク の 角 で で き た 容 器 ウ ォ ド ゥ (ωodu 標 本 番 号 H O 115914) の 中 に 塩 を 入 れ て , 口 の 中 に 入 れ る 。 同 時 に , 人 が 口 の 中 に ふ くん で い た 水 を , ヤ ク の 口 の 中 に 注 ぎ 込 ん で , 塩 を 飲 み 込 ま せ る 。 こ う す る と ヤ ク は の ど が か わ き よ く草 を 食 べ , ミル ク の 出 も良 く な る と い う こ と で あ っ た 。 こ の 作 業 は 大 変 危 険 が 多 く, ヤ ク の 角 で 怪 我 を す る こ と も 多 い と い う。

  こ の よ う に , ヤ ク の 飼 育 に は つ ね に 塩 が 必 要 で あ り, ま た か つ て チ ベ ッ ト と ブ ー タ ンの 間 の 重 要 な 交 易 品 は 塩 で あ っ た の で ツ ァ ク ー (tako 標 本 番 号 H O 15915) と よ ば れ る 皮 袋 や ツ ァ ドォ (ado 標 本 番 号 H O 5883) と い っ た 容 器 に 塩 を 入 れ て 運 搬 す る 。

  ヤ ク は , 荷 運 び に 利 用 さ れ て い る 。 ヤ ク に 荷 を つ け る と き は , 地 面 に 4〜 5 メ ー ト ル ほ ど の ヤ ク の 毛 で で き た 一 本 の サ ブ (hub 標 本 番 号 H O 5887) と よ ば れ る ロ ー プ を 張 り , そ の ロ ー プ に 1メ ー トル 間 隔 で 2 メ ー トル ほ ど の ロ ー プ を ゆ わ え つ け る 。 そ して ヤ ク に 近 づ き , ヤ ク の 角 に ド ン (グ )(dong 標 本 番 号 H O 5905) と い う ロ ー プ を 投 げ か け て , 角 を お さ え る 。 こ の 時 , ヤ ク 使 い た ち は , ヤ ク を 驚 か さ な い よ う に ヤ ク の 前 か ら近 づ い て か な り 慎 重 に 行 動 す る。 そ して , さ き ほ ど の 2メ ー トル ほ ど の 468

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栗 田   ブ ー タ ン ・ヒマ ラ ヤの 生 業 形 態 の 多 様性

ロ ー プ に , ヤ ク の 角 を ゆ わ え つ け る 。

  ヤ ク に 荷 物 を つ け る と き は , こ の よ う に ヤ ク を ロ ー プ に ゆ わ え つ け た 状 態 で , ヤ ク の 背 に , 2枚 か ら 3枚 の 毛 布 状 の 布 を し く 。 そ し て , 木 製 の 鞍 ガ (ga 標 本 番 号 H O l15903)を お く。 鞍 を 固 定 す る 紐 は ,前 肢 の う し ろ で 胴 を ま わ し て 一 本 ,尾 の 所 を 通 し て 一 本 , 胸 の 部 分 で 一 本 の 合 計 3本 で あ る 。 荷 は お よ そ 一 荷 が 30キ ロ グ ラ ム か ら40キ ロ グ ラ ム 程 度 の 荷 を ゼ ム (zem  標 本 番 号 H O 5888, 115889) や ドク チ ェ (dockche 標 本 番 号 H O II5891) と よ ば れ る 竹 製 の カ ゴ に 入 れ ,左 右 に 二 つ く く り つ け る。 この 荷 を く く りつ け る ひ も は , 通 常 皮 を 細 長 く切 っ た 皮 ひ も で あ る 。

  ヤ ク に 荷 運 び を さ せ る と き , 畜 群 の コ ン ト ロ ー ル は , 馬 に 比 べ て か な り や っ か い で あ る 。 ヤ ク は , よ く ど う猛 で あ る と い わ れ て い る が , ブ ー タ ン人 は ヤ ク は 大 変 臆 病 な 動 物 で あ る と い う。 ヤ ク は 大 き な 音 や 急 に 目 の 前 を 横 切 る よ う な 動 き , あ る い は 赤 い 色 に 驚 い て 暴 走 す る。 そ の 時 に は , 荷 を ふ り落 と し た りす る の で , ヤ ク使 い た ち は , け っ し て ヤ ク を 驚 か さ な い よ う に して い る と い う こ とで あ っ た 。

  し か し実 際 に ヤ ク を 進 ま せ る と き は , ヤ ク 使 い た ち は , 投 石 器 (oordo 標 本 番 号 H O Il5898) を 用 い て 小 石 を 投 げ な が らヤ ク を コ ン トロ ー ル して い る 。 そ し て , 口 笛 や 大 声 を あ げ て い る。 ヤ ク は 馬 と 違 っ て 一 列 に 進 む こ と が な く , ど ち らか と い う と バ ラ バ ラ と一 群 に な って 進 む の で , 畜 群 を コ ン ト ロ ー ル す る ヤ ク 使 い た ち の 役 目 は 大 変 で あ る 。

  通 常 ヤ ク は , 乗 用 に は 向 い て い な い と い わ れ て い る 。 そ の ほ とん ど が 荷 役 用 に も ち い ら れ て い る。 そ して , 荷 役 用 の ヤ ク に は 通 常 鼻 輪 は つ い て い な い 。 しか し, チ ベ ッ トで も ブ ー タ ンで も乗 用 の た め に 馴 化 さ れ た ヤ ク が い る が , こ れ ら に は 鼻 輪 (ηαんψ 標 本 番 号 H O ll5902)を 付 け て い る 。 ま た 装 飾 だ け を 目 的 に し て 鼻 飾 りや 耳 飾 り ( 本 番 号 H O I15901) を 付 け て い る こ と も あ る 。

  夜 営 地 に つ く と , 先 に 述 べ た よ う に 地 面 に ロ ー プ を 張 り , そ れ に ヤ ク を 一 頭 ず つ 角 に ロ ー プ を か け て つ な ぐ。 そ して 荷 を お ろ す 。 荷 を お ろ し た 後 は , ロ ー プ か らヤ ク を 放 っ て 自 由 に 牧 草 を 食 べ さ せ て い る 。 そ し て 朝 に な る と ヤ ク 使 い た ち は , 口 笛 や 大 声 を あ げ な が ら ヤ ク を 再 び 集 め に か か る 。 霧 の か か っ た 日 な ど は こ れ は 大 変 な 作 業 で あ る が , こ の 時 は , ヤ ク の 首 に付 け た デ ィパ と よ ば れ る 鈴 (dipa 標 本 番 号 H O  5913)

の ガ ラ ン ゴ ロ ン と鳴 る 音 が 手 が か り と な る 。

  遊 牧 地 で 畜 群 を コ ン トロ ー ル す る も う ひ と つ の 方 法 は , 子 ど も の ヤ ク を 夜 に な る と あ らか じ め 地 面 に う ちつ け た ロ ー プ に つ な い で お く方 法 で あ る 。 私 の 観 察 で は , 7頭 か ら 8 頭 を ゆ わ え つ け て い た 。 こ の 時 , 子 ど も の ヤ ク の 口 に 筒 状 の マ ス ク を つ け る こ

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国立民族学博物館研究報告  1巻 2号 と も あ る 。 これ は , 子 ど も の ヤ ク が 勝 手 に 母 親 か ら乳 を 飲 ま な い よ う に す る た め で あ る。 こ の よ う に 子 ど も の ヤ ク を 一 ヵ 所 に 集 め て お く と , 夜 に な っ て 母 親 の ヤ ク が こ の 子 ど も の ヤ ク の 群 れ の ま わ り に や っ て 来 る の で , 群 れ の コ ン ト ロ ー ル が 行 い や す い と い う。

  雄 の ヤ ク は 通 常 4才 か ら 5才 ご ろ に 約 半 数 以 上 を 去 勢 す る 。 こ の 場 合 , 雄 同 士 を 戦 わ せ ,勝 ち残 っ た 強 い ヤ ク を 残 して い く。雄 の ヤ ク と 雌 の ウ シ の 一 代 雑 種 を ゾ ウ (成 o)

と 呼 ん で い る 。 ヤ ク の 平 均 寿 命 は お よ そ 20年 程 度 で あ る。

5. ヤ ク の 屠

  ブ ー タ ン人 は , イ ン ド人 と 違 っ て ウ シや ヤ ク の 肉 を 大 量 に 食 べ る 。 屠 殺 ・解 体 の プ ロ セ ス を ヤ ク の 場 合 で 見 る こ と に す る 。

  屠 殺 す る ヤ ク は , と くに 何 歳 ご ろ と い う 好 み は な い と い う。 小 形 の も の は 値 段 が 安 く , 大 形 の も の は 値 段 が 高 い 。 私 が 1985年 に 観 察 した の は , 3歳 の もの で 中 形 の オ ス , 体 重 は 推 定 で 500キ ロ グ ラ ム 程 度 の も の で 3500ヌ ル タ ム (1 ヌ ル タ ム は , お よ そ 20円 ) で あ っ た 。 1958年 の 中 尾 の 記 述 で は ヤ ク ー 頭 が お よ そ 100ル ピ ー 当 時 の 金 額 で 7500 円 ) と 記 述 して い る [中 尾   1971:162]。 ま た 西 岡 ら は パ ロ に お い て , 1964年 ご ろ お よ そ 500ル ピ ー で 270テ 約 300キ ロ グ ラ ム )の も み を 手 に 入 れ , そ れ と ヤ ク ー 頭 と 交 換

した と 記 述 して い る [西 岡 ・西 岡   1978:58]。

  パ ロ や テ ィ ン プ ー と い っ た 町 の 人 び と が ヤ ク を 買 う の に は , つ ぎ の よ う な 方 法 に よ っ て い る と い う 。 そ れ は 春 の は じめ に , パ ロ や テ ィ ン プ ー の 人 は , あ る 特 定 の ヤ ク を 見 つ け , そ れ を そ の 年 の 冬 に 肉 に す る こ と を 契 約 す る 。 牧 畜 民 は , 夏 に は ヤ ク を 遊 牧 地 に 追 い 上 げ , 買 い 手 の き ま っ た ヤ ク は , と くに よ く草 を 食 わ せ て 念 入 り に 肥 らせ る 。 冬 に な っ て ふ た た び ヤ ク を 追 って 町 に 下 り , 春 に約 束 し た 買 い 主 に ヤ ク の 肥 え 方 を 吟 味 して も ら う 。 そ こ で 買 い 主 が 満 足 した と き , は じ め て そ の ヤ ク を 屠 殺 す る と い う 3   ヤ ク の 屠 殺 に 関 し て , ブ ー タ ン人 は チ ベ ッ ト仏 教 の 影 響 で , そ の 屠 殺 を 大 変 嫌 っ て い る 。 そ しで 通 常 は チ ベ ッ ト人 に そ の 屠 殺 を 依 頼 し て い る 。 しか し私 が チ ベ ッ トで 見 聞 し た と こ ろ で は , チ ベ ッ トに お い て は チ ベ ッ ト人 自身 も ヤ ク の 屠 殺 を 嫌 っ て い る 。 中 尾 に よ れ ば , ブ ー タ ン に お け る 屠 殺 人 の 社 会 的 地 位 は 極 端 に 低 い と い う 。 中 尾 は

「屠 殺 は す べ て 特 殊 な カ ー ス ト (階 級 ) の 人 た ち の 仕 事 だ 。 彼 ら は 屠 殺 者 階 級 と は 絶 対 に 結 婚 せ ず , 長 い 間 い や しん で き た 。」 [中 尾   1971:134] と 記 述 して い る 。

3) フ ラ ンス国 立 科 学 セ ンタ ー 研究 員 ・ブー タ ン国立 図 書 館顧 問, 今 枝 由郎 氏 の 話 によ る 。

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栗 田  ブー タン ・ヒマ ラ ヤ の生 業 形 態 の 多 様 性

  今 回 の 屠 殺 に お い て は , 屠 殺 人 は ブ ー タ ン人 で あ っ た が , 後 脚 を 固 定 して 引 く よ う に 言 わ れ た 3〜 4 名 の 若 者 以 外 は , す べ て の ブ ー タ ン人 は 屠 殺 の 現 場 を 離 れ て , テ ン トの 陰 で そ の 現 場 を 見 よ う と は しな か っ た 。 牧 畜 民 で あ り な が ら 自 らが 飼 育 して い る 家 畜 の 屠 殺 を 嫌 う と い う の は , 牧 畜 民 と して は 不 自然 な こ とで あ る 。 こ の こ と か ら も , ブ ー タ ンや チ ベ ッ トに お け る 牧 畜 の 技 術 に は , 何 か 未 熟 な と こ ろ を 感 じ る の で あ る 。   屠 殺 に い た る手 つ づ き は , 次 の よ う な も の で あ る。 ま ず 屠 殺 す る べ き ヤ ク を 客 に 見 せ て , 客 の 納 得 を 得 た こ と を 確 認 した 。 そ して , そ の 場 に い る 他 の ヤ ク を 遠 くに 追 い 払 い , 屠 殺 現 場 が 他 の ヤ ク の 目 に ふ れ な い よ う に 配 慮 し た 。 つ づ い て , 屠 殺 す る ヤ ク の 前 脚 と 後 脚 に ロ ー プ を 巻 き つ け て 引 き た お す 。 前 脚 と角 に か け た ロ ー プ は , 近 くの 岩 に 結 び つ け て 固 定 す る。 つ づ い て 後 脚 を 3人 の 男 が 引 き ヤ ク の 身 体 を の ば した 状 態 で 固 定 す る 。

  以 上 の 用 意 が で き た 所 で , 屠 殺 人 は 手 に 刃 渡 り30セ ン チ メ ー トル ほ ど の ギ チ ュ と 呼 ば れ る ナ イ フ (gihu 標 本 番 号 H O  5957)を 持 っ て ヤ ク に 近 づ き 1 ヤ ク の 腹 部 , 胃 の 上 の あ た り を , 約 30セ ン チ ほ ど 切 り ひ ら く。 こ の 時 ヤ ク は 身 を も だ え さ せ る が , 悲 鳴 は 上 げ な い 。 切 り 開 か れ た 部 分 か ら は , ヤ ク の 第 二 胃 が 突 出 す る 。 つ づ い て 屠 殺 人 は , 片 肌 を 脱 ぎ こ の 切 り 開 い た 部 分 か ら腕 を 差 し入 れ る 。 そ して 腕 を 食 道 に 沿 っ て ヤ ク の 胸 部 に ま で 挿 入 し, ヤ ク の 両 肺 に 穴 を あ け て , ヤ ク を 窒 息 さ せ た 。 ヤ ク は 苦 しそ う に 舌 を 出 す 。 こ の 時 , ヤ カ ン に 水 を くん で き て , ヤ ク の 舌 の 上 に 注 い で や る 。 こ れ は 明 らか に 末 期 の 水 の 儀 礼 で あ る 。 ヤ ク は お よ そ 1〜 2分 で 絶 命 す る (図 4)。

図 4  ヤ ク の 屠 殺

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国立民族学博物館研 究報 告  11巻 2号   ヤ ク の 屠 殺 の 仕 方 は , ブ ー タ ン 国 内 に お い て も , こ の 他 に い ろ い ろ な や り方 が あ る 。 た と え ば , チ ベ ッ ト人 は , 動 か ぬ よ う に 固 定 した ヤ ク の 心 臓 を , ギ チ ュ で ひ とつ き し て 屠 殺 す る 。 こ の 場 合 , ギ チ ュ を 抜 く と き に 多 量 の 血 が 出 る 。 リ ン シ ー 地 方 で は , ヤ

ク の 後 頭 部 を 切 っ て 屠 殺 す る の が 一 般 的 な や り方 で あ る と い う 。

  屠 殺 が 終 わ る と, 関 係 者 に 酒 が ふ る ま わ れ た 。 そ して ひ き つ づ き , 解 体 作 業 が 行 わ れ る 。 ヤ ク は 仰 む け に して , 四 肢 を 上 に 上 げ た 状 態 に す る 。 ま ず は じ め に , ヤ ク の 長 い 毛 を 刈 り と る 。 こ の ヤ ク の 毛 は , 布 地 や ロ ー プ を つ く る た め の 材 料 と な る。 ち な み に 牧 畜 民 が 用 い て い る テ ン ト (」α  標 本 番 号 H O 115877) や 雨 具 (hako  標 本 番 号 H O II5909) も ヤ ク の 毛 か ら織 られ た も の で あ る。

  つ づ い て , オ ス の 場 合 , 生 殖 器 を 切 り と る 。 そ し て , 腹 部 の 皮 を 縦 に切 り , 前 肢 , 後 肢 の 内 側 で 同 様 に 縦 に 切 り 目 を 入 れ て , 皮 を は ぐ作 業 を 行 う 。 背 の 部 分 の 皮 を は ぐ た め に は , ヤ ク を 左 ま た は 右 に か た む け て , 作 業 を し や す くす る 。 は ぎ と っ た 皮 は そ の ま ま 地 面 に 広 げ た ま ま に して お く。 つ づ い て , 腹 部 を 切 り開 き , 内 臓 を 取 り 出 す 。

胃 お よ び 腸 は , ひ ろ げ ら れ た 皮 の 上 に 引 き ず り 出 さ れ る。

  つ ぎ に , 頭 部 と 前 肢 を 胴 体 か ら切 り は な す 。 ひ づ め の 部 分 は , ギ チ ュ で 骨 と と も に た た き 切 る 。 つ づ い て 後 肢 を 胴 体 か ら切 り離 す 。 こ の 段 階 で は , ひ ろ げ られ た 皮 の 上 に は , 頭 部 を 取 り さ っ た 胴 体 と 内 臓 だ け が 残 さ れ て い る こ と に な る 。 そ して 胸 部 に 溜 っ た 血 を 器 で 汲 み 出 して こ れ は 別 の 容 器 に 保 存 して , サ ン シ ョ な ど の 香 辛 料 を 加 え て 腸 の 中 に つ め て , ギ ュ マ と よ ば れ る ブ ラ ッ ド ・ソ ー セ ー ジ を つ く る 。

  解 体 手 順 と して は , こ の あ と , ア バ ラ骨 と背 骨 の 部 分 で 肉 を 切 り離 し , 解 体 を 終 わ る 。 尻 尾 と尻 尾 の つ け根 の 部 分 の お よ そ 20キ ロ グ ラ ム の 肉 は , 屠 殺 人 の 取 り分 と な る 。   以 上 の 屠 殺 の プ ロ セ ス で 見 事 な こ と は , ほ と ん ど 血 が 地 面 に 流 さ れ な い こ と で あ る 。 そ れ と と も に , 屠 殺 , 解 体 の プ ロ セ ス の 中 で は 断 末 魔 の ヤ ク の 口 に 水 を ふ く ま せ た こ と以 外 , こ の 日 は 儀 礼 的 な 行 為 は 何 も な か った 。

6. ヤ ク の 肉 の 加 工

  解 体 さ れ た ヤ ク は , 地 面 に 並 べ ら れ , そ の 一 部 は 生 肉 と して 食 さ れ た 。 西 岡 ら に よ る と , パ ロ 地 方 で は , 屠 殺 した ヤ ク の 肉 は , 一 晩 は 食 さ な い と 報 告 さ れ て い る が [西 岡 ・西 岡   1978:59],わ れ わ れ の 場 合 は そ の よ う な タ ブ ー は な か っ た 。た だ し屠 殺 地 が 山 中 で あ っ た こ と と 関 係 す る と 思 わ れ る が , 生 肉 を 火 で あ ぶ って 煙 を 出 す と , 大 雨 に な る と い う云 い 伝 え が あ る の で , 煙 を 出 す よ う な 料 理 は 慎 しむ よ う に と忠 告 さ れ た 。

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栗 田   ブ ー タ ン ・ヒマ ラ ヤの 生 業 形 態 の 多 様性

  肉 の 大 半 は , ま ず 第 一 に 乾 肉 (シ ャ ム カ) と さ れ る。 こ の 乾 肉 を つ く る 作 業 は , ナ イ フ の 刃 先 を 地 面 に 立 て , 柄 を 胸 の 部 分 に あ て て , ナ イ フ を 固 定 す る 。 こ れ は イ ン ド 包 丁 の つ か い 方 と 同 じ で あ る 。 そ の 固 定 した ナ イ フ の 刃 に 肉 を あ て て , 厚 さ 5 セ ン チ

メ ー トル ほ ど , 長 さ 5〜 60セ ン チ メ ー トル の 短 冊 状 に 切 っ て 乾 す 。 冬 な ら ば 数 日 で 乾 肉 とな る 。

  腸 は 洗 っ て そ の 中 に , 血 液 , 塩 , ト ウ ガ ラ シ, サ ン シ ョや そ の 他 の 香 辛 料 を 混 ぜ た も の を つ め , そ れ を ゆ で て 乾 燥 さ せ る。 これ は ギ ュ マ と よ ば れ る ブ ラ ッ ド ・ソ ー セ ー ジ で あ る 。 ヤ ク の 脳 味 噌 お よ び 舌 も食 料 に 供 さ れ る 。

  ヤ ク の 皮 は 敷 物 な ど に 用 い ら れ る 。 し か し ブ ー タ ン に は わ れ わ れ の い う皮 な め しの 技 術 は な い 。 パ ロ の 近 くの 村 で , 皮 の 裏 に 油 を ぬ っ て 柔 か くす る こ と は 行 わ れ て い る 。   翌 朝 , ヤ ク に 対 す る 供 養 (プ ー ジ ャ ー ) が 行 わ れ た 。 こ れ は , ム ギ コ ガ シ で , ヤ ク

の 形 の 人 形 を こ し らえ , こ れ を 岩 の 上 に 置 い た 。 昨 日 , ヤ ク の 屠 殺 の 際 に 後 脚 を 引 く よ う に 命 じ ら れ た 若 者 の う ち の 一 人 が , そ の 前 で お 経 を 上 げ た 。 そ の 横 で は マ ツ の 生 木 が も や さ れ た 。 こ の 松 の 生 木 を も や す の は , ブ ー タ ン で は , 仏 事 の 前 に つ ね に 行 わ れ る儀 礼 で あ る 。 読 経 が お わ る と, ヤ ク の 形 の 人 形 は くず さ れ , 別 の 若 者 の 手 に よ ら て , 「ホ ー , ホ ー 」と い う か け こ え と と も に , そ の あ た り一 面 に ま き ち ら さ れ た 。 こ れ は , ヤ ク が 再 び 生 ま れ か わ っ て , よ り 一 層 の 豊 饒 を も た ら して くれ る よ う に と の 祈 願 で あ る 。

7. ウ シ の

  表 1か ら も 明 らか な よ う に , ブ ー タ ン で は , 317,000頭 も の ウ シが 飼 育 さ れ て い る。

ウ シ の 雄 を チ ャ ロ ン , 雌 を タ バ ム と 呼 び , 通 常 は 3,000メ ー トル 以 下 の 地 域 で 飼 育 し て い る 。 ウ シ は ヤ ク と 同 様 に ミル ク を し ぼ り , そ の ミル ク か ら バ タ ー , チ ー ズ が つ く

ら れ る が , そ れ の み な らず , 二 頭 の ウ シ に 梨 を ひ か せ て 農 耕 に も利 用 し て い る。

  西 岡 ら は パ ロ 地 方 に お け る ウ シ の 所 有 に 関 し て 次 の よ う に 記 述 し て い る。

    「実 は各 戸 で 雌牛 を 持 って い るの だ が , こ の牛 は低地 に住 む人 との共 有 の 場合 が多 く,冬 の     間 (10月 〜 4月 ) は低地 の人 が飼 い , 5月 にな る と放 牧 を しな が らパ ロま で上 が って きて ,     それ 以 後 夏 の 間 はパ ロの人 の もの に な る。 だ が パ ロの村 に 近 い所 で は放牧 す る草 地 が な く,

    ま た牛 が 水 田 の水 を の む と病 気 にな る ので , パ ロよ り高 地 の標 高 2,700か ら2,800メー トル の     所で 放 牧 して い るの で あ る 。そ の 間 は バ タ ーや チ ー ズ は 自分達 の もの にな る の だが , 往復 に     何時 間 もか か る ので , ミル クを 毎 日家 で飲 む とい うわ け には い か ない よ うで あ る。」 [西 岡 ・     西 岡   1978:143

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図 1  ブ ー タ ン 各 地 の 年 間 降 雨 量 ( [ Negi   1 983]よ り作 図 )
図 2 ブ ー タ ン 地 理 概 念 図
図 3 ブ ー タ ン の 方 言 概 念 図

参照

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