いたずらものの話
著者 江口 一久
雑誌名 国立民族学博物館調査報告
巻 45
ページ 544‑546
発行年 2003‑12‑26
URL http://doi.org/10.15021/00001820
働いたずらものの話
7 4 2
目のみえない男の窃盗と耳のきこえない男ある目のみえない男が雌ヤギをぬすんで︑たべたことがあった︒
だれかが家でかっている雌ヤギがやってきて︑どんどんあるいてい
く︒目のみえない男は雌ヤギが自分のそばでなにかをたべているの
をきいた︒わかるな︑家でかっている雌ヤギだから︑にげていかな
い︒ さて︑男は雌ヤギの足を手でしっかりとっかんだ︒男は雌ヤギの
喉をかききり︑ころして︑それをすっかりたべてしまった︒
さて︑雌ヤギの持ち主がやってきた︒持ち主は男に︑﹁どうだ︒
アッラーがおまえさんにいいことをしてくださるように︒ここで︑
わたしの雌ヤギをみなかったか﹂という︒男は︑﹁なんだって︑お
まえさんはわたしに喧嘩をふっかけるつもりかい︒わかるかな︒わ
たしは目がみえない︒ここをあるいているものがなんでもみえてい
るというのか︒わたしにはなにもみえない﹂といった︒
さて︑雌ヤギの持ち主は身をひるがえし︑いってしまう︒男は
かがんで︑小便をしている︒男は︑﹁あの男は駄目なやつだ︒わた
しが歯をうごかしているのがわからないのか︒わたしがたべた雌ヤ
ギの肉のほか︑わたしが肉をどこで手にいれたというのか﹂といっ
た︒ さて︑雌ヤギの持ち主は男に︑﹁どういうことか﹂という︒男は︑ ﹁いつ王さまが死んでしまったというのか﹂といった︒ さて︑男は杖をもつと︑ぴょこぴょこあるいていく︒人びとは男をとめようとしたが︑できなかった︒男は王さまの屋敷のまえに
ついた︒男はないている︒王さまが︑﹁どうしたのか﹂という︒男
は︑﹁だれがはなしているのだろう︒王さまみたいだけれど﹂とい
う︒王さまは男に︑﹁そのとおり﹂という︒男は︑﹁だれそれがやっ
てきて︑わたしに︑あなたがずっとまえに死んでしまったといいま
した︒目のみえないものがいってもいないことをいわれたので︑き
いてください﹂といった︒王さまは︑﹁だれそれをよびなさい﹂と
いう︒王さまの家のものたちは︑その人をよんだ︒王さまは︑﹁お
まえさんたちはどうしたのか﹂という︒目のみえない男は︑﹁この
人が説明しようとしなくても︑わたしがやらせてもらいましょう︒
この人は︑﹃わたしの雌ヤギをみていないか﹄といいました︒でも︑
この人がわたしを馬鹿にしていないのなら︑アッラーがわたしにこ
のようにされたのに︑わたしにこの人の雌ヤギがみえるというので
すか︒そして︑この人が身をひるがえし︑いってしまうとき︑この
人はわたしに︑﹃王さまが死んでしまった﹄といいました︒わたし
がいきている人にうそをつくというのですか﹂といった︒王さまの
家のものは雌ヤギの持ち主をつかまえて︑しばってしまった︒雌ヤ
ギの持ち主は牢屋で二晩すごした︒王さまは雌ヤギの持ち主の雄ウ
シを七頭とってしまったとさ︒ 445
話ののもらず
液
V 王さまが雌ヤギの持ち主にはらわせた罰金がどれほどのものかわかるな︒ ︵一九六六年ころ︑語り手 ガルアの非フルベ族の男︑ガルアに・ て︶8 4 2
しっかりした男と結婚した女娘は父親とすんでいる︒
さて︑娘は自分はだれよりもしっかりした男としか結婚しないと
いった︒ さて︑よろしい︑娘と父親はすんでいる︒
さて︑人びとは︑娘に︵娘の結婚相手として︶だれかをつれて
くるようにといった︒その人は蚊のいる小屋でねて︵蚊にさされて
も︑手でたたいて蚊をころさないし︶︑アリのいる小屋でね︑便所
で大便をするとき声をだしてはならない︵きばるとき︑声をだすこ
と︶といった︒便所にいっても︑ウンコをするとき︑うなり声をだ
してはならないといった︒
さて︑娘は︑﹁よろしい﹂といった︒だれかが︑その話をきいた︒
男がいくが︑いわれたことができなかった︒つぎの人がいっても︑
いわれたことができなかった︒
さて︑あるひとがその話をきいた︒男はどうしょうもないほど︑ 要領がよかった︒男は話をきいた︒ さて︑男は娘のところにいった︒男と娘はでかけていった︒娘は︑﹁草むらにいきましょう︒草むらにいきましょう﹂という︒男と娘は草むらにいった︒そこで︑娘はすわっている︒男は︵ウンコをするために︶さきのほうにいった︒そこにいき︑娘に︑﹁わかるな︒わたしはきばるとき︑声をださない﹂といった︒ さて︑男はうまいことをして︑きばるとき声をだしてやろうとしている︒男は︑﹁わかるな︑そこも︑そこも︑そこもみんなわたしたちの畑なのだ﹂としゃべりながら︑きばって声をだす︒娘は︑﹁ああ︒そう﹂という︒男は︑﹁そこは︑みんなわたしのおじいさんの畑だよな︒むこうは︑わたしの母方のおじさんの畑だ﹂としゃべりながら︑きばる︒︵男はすっかり用をたす︒︶娘は︑﹁よろしい︒おまえさんは︑きばるとき声をあげなかった︒いきましょう︒おまえさんは︑アリのいる小屋でねるの﹂といった︒男はアリのいる小屋でねるためにいく︒男は木をもってきて︑床におき︑その木のうえによこになった︒娘がくると︑男は体のむきをかえて︑娘をみる︒娘は男がアリにかまれていないとおもった︒娘は︑﹁よろしい﹂といった︒そのあと︑娘は男をおこした︒蚊のいる小屋でねるのが︑のこるっているだけだ︒︵男は︑蚊のいる小屋でよこになる︒︶ さて︑男は娘に︑﹁わかるかな︒むかし︑わたしのじいさんは︑
ここを矢でうたれた﹂とたたいて︑蚊をころす︒男は︑﹁わたしの455
じいさんは︑ここを矢でうたれた︒けれども︑矢はささらなかっ
た﹂という︒︵男はそこをたたいて︑蚊をころす︒︶男は︑﹁ここに
矢はささらなかった︒矢をうたれても︑ささらなかった﹂といいな
がら︑そこをたたき︑蚊をころす︒ほんとうのこと︑男は手で場所
をしめすようなふりをしながら︑蚊をころしている︒娘はそれをし
らない︒娘は自分におしえてくれているとおもっている︒男がこう
すると︑娘は︑﹁なんだって︑そこをやられたの﹂というと︑男は︑
﹁うん﹂という︒男はそのたびに蚊を一匹ずつころす︒男は︑﹁ぼく
のじいさんは︑そこをうたれたけれども︑矢はささらなかった︒親
父はここをうたれたけれども︑矢はささらなかった︒矢で︑ここを
うたれたけれども︑おやじは鎖帷子をきていた︒親父は矢をうたれ
たけれども︑鎖帷子をきていたのさ﹂という︒
さて︑よろしい︑男はおきあがった︒男は家にかえってきた︒男
はその娘と結婚した︒その娘をもらった︒ほかの男たちは娘を手に
いれることができずにいたとさ︒
よろしい︒このお話も︑おしまい︒
︵一九入三年一月二二日︑語り手 アーマドゥ・ルファーイ︑ガ
ウンデレにて︒この話は︑近所にすむハウサ族の女がハウサ語
ではなすのをきいたという︶ 465