子どもの自己主張行動と親の関わりとの関連−中国・日本の比較を通して- [ PDF
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(2) かということは,その自己主張の内容(浜口,1994)と. 女 59 名) 。②質問紙の構成 本質問紙は,①自己主張行. ともに,子どもの自己主張行動の生起に大きく影響する. 動に関する質問項目(24 項目)と②自己主張に関わる要. と考えられる。さらに言うならば,成人した後,ビジネ. 因についての質問項目(58 項目)の総計 82 項目からな. スなどの場面で,あまり面識のない相手であっても,必. る。①自己主張行動に関する項目については,浜口. 要なことはきちんと主張していくという,現在の日本人. (1994)の 8 つの多次元主張性尺度(Table1)を参考. には欠けているとしばしば指摘されるような行動が獲得. にし,自己主張の対象(親,友人,先生)ごとに適切な. されるためには,その前提条件として身近な他者へ自己. 表現に改変した。したがって,各対象ごとに,8 項目を. 主張できることが必要条件となると考えられる。そのよ. 質問し,全体で 3×8 の 24 項目となった。②自己主張に. うな関心から,本研究では,自己主張の実態を,浜口. 関わる要因についての質問項目については,子どもの心. (1994)が示した自己主張の 8 カテゴリについて,各カ. 的特性 22 項目(自主性 6 項目,協調性 5 項目,自己効. テゴリの自己主張を行う対象が親である場合,友人であ. 力感 11 項目) ,他者との関わりの認識 11 項目(話す経. る場合,学校の先生である場合の 3 つの場面を想定し,. 験 9 項目・予測 6 項目・受容性 6 項目・態度 6 項目)で. 各場面で子どもがどの程度自己主張を行っているのかを,. ある。以上,計 11 項目を対象ごとに質問し,結果 3×11. 中国・日本の小学生と中学生を対象に調査した。. 項目の総計 33 項目となった。. 次に,本研究の第 2 の目的は,もし,自己主張行動に. 以上の項目について,日本語版および中国語版をそれ. 中国・日本間で違いがあるなら,その違いがどのような. ぞれ作成した。翻訳にあたっては,バックトランスレー. 要因の影響の結果生まれるのかを検討することである。. ションを行い,両国語版の意味上の同一性を確認した。. 本研究では,自己主張行動に影響する要因として大きく. ③回答方法 調査対象者に対して,それぞれの項目が自. は以下の2つを想定した。①子どもの心的特性(e.g. 自. 分自身にどの程度あてはまるかについて,‘全くあては. 主性,協調性,自己効力感) 。②他者との関係性認識(e.g.. まらない’ (1)から, ‘よくあてはまる’ (5)までの5. 話す経験・予測・受容性・態度) 。これらの変数を,自己. 段階評定させた。調査の実施は,中国と日本で,それぞ. 主張を説明するものとして用いる理由は以下の通りであ. れ某市の小学校と中学校の校長先生の協力を得て,質問. る。①の変数については,これらの変数が自己主張する. 紙を実施して頂く学校の先生に渡し,クラス単位で,無. ことの前提や必要条件だと考えられるからである。例え. 記名の集団形式にて実施した。. ば,自己主張できるためには,自分から積極的に周囲の 人や環境に働きかけていく自主性が必要であると考えら. 結果と考察. れる。また,②の変数については,自己主張する際の対. ①自己主張行動の実態:浜口(1994)が示した自己主張. 象(親・友人・先生)との関係性(例.話す頻度,話す内. の 8 カテゴリについて,自己主張の対象(親・友人・先. 容「悩んでいることを∼に話す」 ,自己主張についての認. 生)と国(中国・日本)を独立変数とし,自己主張の各. 識・予測「∼は自分の言うことを聞いてくれると思う」. 下位カテゴリの評定値を従属変数とする分散分析を行っ. など)の如何によって,自己主張が大きく影響されると. たところ,全てのカテゴリで,子どもが自己主張する程. 考えられるからである。そこで,本研究では,以上のよ. 度に中日間で有意な差があった(Table2) 。. うな要因が,両国間での自己主張の違いにどのように関. 結果から,どのような内容の自己主張についても中国. 係するのかを検討する。 Table2自己主張行動の各カテゴリのおける二国間差. 研究Ⅰ. 研究Ⅰ 権利の防衛. 目的:①中国および日本の子どもの自己主張行動の実態. 自 己 主 張 の 下 位 カ テ ゴ リ ー. を調査・把握する。②子どもの自己主張に関わる要因の 探索。 方法:①調査対象 日本の小学校5,6年生 168 名(男 82 名,女 86 名)および中学校2,3年生 147 名(男 76 名,女 71 名) ;中国の小学校5,6年生 114 名(男 53 名,女 61 名)および中学校2,3年生 101 名(男 42 名, 2. 二国間差 日本>中国. 要求の拒絶. 日本>中国. 異なる意見の表明. 日本<中国. 個人の限界の表明. 日本>中国. 他者に対する援助の要請 他者に対する肯定的な感情と 思想の表明 社交的行動. 日本<中国. 指導的行動. 日本<中国. 日本<中国 日本<中国.
(3) の子どもの方が積極的に自己主張するというようなもの. 先生自身が, 自らの関わり方をどのように認識 (つまり,. ではなく,自己主張の内容によって異なることがわかっ. 関係性の認識)しているかとの間には,ズレがある可能. た。このような自己主張行動が,自己主張する対象への. 性が考えられる。そこで,研究Ⅱでは,対象を親に絞っ. 関係性の認識によってどのように影響されるのかを検討. て,親にも自身の子供への関わり方についての評価を求. するために,各カテゴリの自己主張の程度を従属変数と. めることにする。その際,親とこどもで関係性認識に対. し,関係性の認識に関する諸変数を独立変数とする重回. する評価が一致する時,その評価はより実際の関係性認. 帰分析を行った(Table3) 。. 識を正確に評価できていると考え,そういったケースに. さらに,有意な標準偏回帰係数を持つ独立変数につい. ついて関係性認識と自己主張との間にどのような関係が. て,中日間で差があるかを分析したところ,全てについ. あるかを分析する。. て有意な差が見られた。それら2つの結果を併せて考え ると,例えば,自己主張の指導的行動についてみると,. 研究Ⅱ. 自己主張の程度は日本より中国の方が高く,それを説明 する変数として正の係数を持つ「話す内容」「受容性」. 研究Ⅱは,親自身が自分の子どもへの関係性認識をど. 「価値」の各変数で,日本より中国の方が高かった。つ. う認識しているかと,子どもの自己主張行動の関連を検. まり,指導的行動の差(中国>日本)は, 「話す内容」 「受. 討する。. 容性」 「価値」の差(中国>日本)によってもたらされた. 方法: ①調査対象 日本の都市部の小学生とその親 79 ペ. と考えられるのではないだろうか。. ア,中学生とその親 79 ペア;中国の都市部の小学生と. 一方,重回帰分析全体の結果からは,子どもが自己主. その親 85 ペア,中学生とその親 93 ペア。②質問紙の構. 張する対象との関係性をどう認識しているかが自己主張. 成 子どもへの質問紙:子どもの自己主張行動は子ども. と関連していることが示された。. の親に対する自己主張行動、子どもの「親の関わりの認. 以上,研究1の結果をまとめると,自己主張の程度の. 識」には,研究Ⅰと同じ項目を利用した。親への質問紙:. 中日 2 国間の差は,自己主張の内容によって異なる。ま. 「関わりの認識」については子どもの質問紙と同じ項目. た,それらの差が自己主張する対象への関係性の認識に. を用いた。③回答方法:調査対象に対してそれぞれの項. 関する中日間での違いから生じていることが示唆された。. 目にどの程度あてはまるかについて,全くあてはまらな. 全体を通してみると,対象への関係性への認識が自己主. い(1)からよくあてはまる(5)までの5段階で評定. 張と関連することが示された。. させられた。④手続き:中国,日本とも子どもとその親. この結果は親の関わり方についてのこどもの認識が. に調査紙を配布し,子どもは学校クラスで記入後,担任. 自己主張と関係があることを意味しているが,実際の対. の先生に提出し,親はそれぞれ家庭で記入後,担任の先. 象(たとえば親)との関わり方が子供の自己主張にどの. 生に提出し,最終的に調査者が各クラスの担任教師から. ような効果を持っているのかについては明らかにされて. 回収した。. いない。 なぜなら研究Ⅰでは対象との関わり方の認識は, こどもの側からだけの評価であるため, 実際に親や友人,. Table3 標準偏回帰係数およびt 検定の結果 関係性の認識(独立変数) 従属変数. 二国間差. 話す頻度. 話す内容 話す関係 予測 実際. 権利の防衛 日本>中国 .20 自 己 要求の拒絶 日本>中国 主 異なる意見の表明 日本<中国 張 の 個人の限界の表明 日本>中国 下 位 他者に対する援助の要求 日本<中国 カ 他者に対する肯定的な 日本<中国 テ .24 感情と思想の表明 ゴ 社交的行動 日本<中国 リ ー 指導的行動 日本<中国 .21 t検定 日本<中国 日本<中国 注)βについては,有意なもののうち絶対値が.20以上のみ記載. 3. 受容性. 価値 不安 R2 0.21. -.24. 0.07 0.23. -.25. 0.08. .21 .23 .21 .32. 0.25 0.17 0.27. .23. 日本<中国 日本<中国. 0.45.
(4) 結果と考察. その結果,「権利の防衛」では「話す内容」について. ①親への自己主張の実態:浜口(1994)が示した自己主. のこどもの認識のみで有意な正の標準偏回帰係数が示さ. 張の 8 カテゴリについて,親に自己主張する程度に中. れた。そして「権利の防衛」と「話す内容」についての. 国・日本間で差があるのかを分析したところ,以下のカ. こどもの認識はともに日中間で差がみられないことから,. テゴリ−で有意な差がみられた(Table4)。「要求の拒. 「権利の防衛」で日中間で差がないのは「話す内容」に. 絶」 「個人の限界の表明」 (日本>中国) 。 「異なる意見の. おいて日中間で差がないことによるものと考えられるの. 表明」 「他者に対する肯定的な感情と思想の表明」 「社会. ではないだろうか。. 的行動」 「指導的行動」 (中国>日本) 。. 「要求の拒絶」における重回帰分析の結果,「関係性 認識」の諸変数のうち「受容性」において親も、こども. Table4 親に対する自己主張行動の各カテゴリにおける二国間差 研究Ⅱ 自 己 主 張 の 下 位 カ テ ゴ リ ー. も有意な負の標準偏回帰係数が示された。 したがって 「受. 二国間差. 容性」に注目してみると,親も子も日本よりも中国の方. 権利の防衛. 日本≒中国. 要求の拒絶. 日本>中国. 異なる意見の表明. 日本<中国. 個人の限界の表明. 日本>中国. 絶」の差(日本>中国)は「受容性」の差(中国>日本). 他者に対する援助の要請 他者に対する肯定的な感情と 思想の表明 社交的行動. 日本≒中国. によってもたらされたと考えられるのではないだろうか。. 日本<中国 日本<中国. ①自己主張の中日間差は,自己主張の内容によってこ. 指導的行動. 日本<中国. となる。②自己主張には,子どもや親の「親子の関係性. の評定値が高く, 「要求の拒絶」 においては親も子も中国 よりも日本の方が高く評定されていたため,「要求の拒. 結論. についての認識」が影響している。つまり,自己主張は, ②「親との関係性の認識」と子どもの自己主張との関連:. 日頃の親子間のやりとりのあり方の違いに影響を受ける. 次に,親の「親の関係性認識」 (以下, 「親認識」と略す). と考えられる。例えば,中国の方が日本よりも,受容性. 及び子どもの「親の関係性認識」 (以下, 「子認識」と略. が高い(より親の意見を受け入れようとする)というこ. す)について, 「親認識」と「子認識」の一致する親子の. とが,中国の方が日本よりも「要求の拒絶(頼まれごと. ペアのグループと一致しない親子のペアのグル−プに分. を断る) 」をしないという違いをもたらすことが,本研究. け,一致するグル−プのみを以下の分析の対象とした。. によって示唆された。. 自己主張行動の8つのカテゴリ−自己主張行動の中で,. 参考文献:Deluty R.H 1979 Children action tendency. 日中間で差がみられなかったものとみられたもののうち,. scale: a self-report measure of aggressiveness, assertiveness,. 特に重要だと考えられるものとして「権利の防衛」と「要. and submissiveness in children. Journal of Consulting and. 求の拒絶」に焦点を当て,その程度を従属変数とし子ど. clinical Psychology,47,1061-1071. も・親それぞれの「親の関係性認識」を独立変数とする. 浜口佳和. 重回帰分析を行った(Table5) 。. Japanese Journal of Education Psycholog.41,312-318. 1994. 児童用自己主張尺度の構成,. Table5 親 に 対 す る「権 利 の 防 衛 」「要 求 の 拒 絶 」に 対 す る標 準 偏 回 帰 係 数 お よび t 検定の結果 関 係 性 の 認 識. . 親認識 二国間差 親. 話 す頻 度. 話 す内 容. 話 す関 係. 予測. 実際. 受容性. 権利の防衛 日本≒中国. 価値. 不 安 R2 .04. - .25. 要求の拒絶 日本>中国 t検 定. .04. 日本<中国 子認識. 子. 権利の防衛 日本≒中国 要求の拒絶 日本>中国 t検 定. .29. .15. n.s. - .26. - .21. 日本<中国. 日本<中国. 注 )β に つ い ては ,有 意 なもの の うち絶 対 値 が .20以 上 の み 記 載. 4. .07.
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