1.目次 序章 研究の目的と方法 第 1 節 問題設定 第 2 節 研究の枠組み 第 3 節 仮説の設定 第 1 章 インターンシップと学習の成果 第 1 節 インターンシップの定義と人材養成観 第 2 節 学習の成果 第 2 章 インターンシップにおける学習の成果 − 在学生調査 − 第 1 節 研究方法 第 2 節 調査結果 第 3 章 卒業後のインターンシップにおける学習の成果 − 卒業生調査 − 第 1 節 研究背景 第 2 節 研究方法と対象 第 3 節 調査結果 終章 考察と課題 2.梗概 序章 研究の目的と方法 本論文は、大学生を対象として、インターンシップに おける学習の成果を明らかにするものである。その学習 の成果を、職業的スキルの獲得と職業観の涵養と捉え、 インターンシップ受入先による、その成果の違いを明ら かにするものである。もって受入先における人材養成観 の影響を探っていく。また、卒業生を対象に、インター ンシップ経験の、就職先となった職業への関連について も考察する。デューイの「経験の再組織」「経験の連続性」 「相互作用の原理」を踏まえて考察を行う。 若者の「社会的・職業的自立」や「学校から社会・職 業への移行」を巡る様々な問題(中教審答申 2011)が指 摘されている。その点に問題意識を持ち、学生が産業や 社会について実践的な知見を深める機会であるインター ンシップ(文部科学省(2013))に着目した。 先行研究では、インターンシップの教育効果について 検討した。吉本(2010)の「無業者等」率の抑制効果、真 鍋(2010)のタイプ別による社会人基礎力の伸長効果など である。また、インターンシップにおける人材養成観の 研究として、吉本・亀野・稲永(2007)は、地域経済団 体等のインターンシップの教育訓練の考え方の特徴を示 している。亀野(2007)は、インターンシップの受入先の 一つである公的機関について、民間企業との相違に着目 しながら現状と課題を検討している。学生側の学習成果 や受入側の考えを検討すると、インターンシップの効果 は、相互に作用し合うことが認識できる。 分析課題について、受入先の違いによる、インターン シップの学習の成果を明らかにしていき、受入先が学生 に与えた影響を探っていくものとする。職業観や職業的 スキルの獲得を学習成果として、在学生へのアンケート 調査および受入先へのインタビュー調査を行った。また、 吉本(2006)は、インターンシップの教育的効用を中期 的スパンで把握することが重要であると述べていること から、卒業後、経験する職業について、インターンシッ プが作用する点を検討するため、卒業生調査およびイン タビュー調査を行った。 本研究では、デューイの経験の再組織理論の枠組みを 取り入れ、インターンシップを考察していく。デューイ (1916)は、「教育とは、経験の意味を増加させ、その後の 経験の進路を方向づける能力を高めるように経験を改造 ないし再組織することである」と述べ、教育を「経験の 絶え間ない再組織」であると定義づけた。デューイ(1938) が提示した二つの原理(「経験の連続性」と「相互作用の 原理」)のもとに、インターンシップ経験の教育的意義を 検討していく。 仮説の設定について、インターンシップ受入先の違い による、学生に与えた影響を検証するために、受入先業 種を区分することとした。本研究では、公的セクターと 私的セクターとに分類することで、業種間の対象を明ら かにする。公的セクターは、行政であり、私的セクター
インターンシップにおける学習の成果に関する研究
− 受入先の人材養成観の影響をめぐって−
キーワード:学習の成果, 職業観, 職業的スキル, 人材養成観, 経験の再組織, 教育システム専攻 奥山 浩一朗は行政以外の業種とする。秋葉(2005)は、公共組織と企 業とでは、当然ながら組織形態に差異があると述べてい る。また、これらの組織の固有性に焦点を当てる必要が あるとし、これまでこうした組織形態の差異に着目した 研究はほとんどなされていないとも述べている。林 (2012)は、都道府県庁におけるインターンシップ受け入 れ態勢の調査(36 県の回答)で、受入先の目的は、就職 支援や職業意識の向上、県の施策への理解がすべての県 で明記されていたと述べている。日経連の「新卒採用 (2014 年 4 月入社対象)に関するアンケート調査結果」に よると、選考で重視した項目は、「コミュニケーション能 力」82.8%が最も高く、「職業観・勤労意識」は 14.7%で、 11 番目に重視した項目である。能力に対して職業観や勤 労意識は優先順位が低くなっていることが認識できる。 これらを踏まえて仮説を以下の通り設定した。仮説①: 行政の受入先は、行政以外の受入先よりも職業意識への 影響度が高い。仮説②:行政以外の受入先は、行政の受 入先よりも職業的スキルへの影響度が高い。仮説③:連 続性の原則から、インターンシップ経験と就職先とには 関連性がある。 第1章 インターンシップと学習の成果 第1章では、インターンシップの定義、人材養成観、 学習の成果としての、職業観と職業的スキルについて述 べている。 インターンシップの定義について、「学生が在学中に 学校組織の対応を受け、自らの専攻、将来のキャリアに 関連した就業体験を行うこと」とする。これは、「インタ ーンシップの推進にあたっての基本的考え方」の定義を もとに、学校組織の関与を含めた内容としている。 人材養成観について樋口・加藤(2012)は、人材とは、 「人の要素には、学力と知力(知)と礼儀や人徳(徳) という2つの側面が含意されている」と述べている。「日 経連が能力を企業目的達成のために貢献する「職務遂行 能力」して位置付け」ていると梶原(1996)は述べてい る。さらに、グローバル人材育成推進会議(2011)では、 「これからの社会の中核を支える人材に共通して求めら れる資質としては、幅広い教養と深い専門性、課題発見・ 解決能力、チームワークと(異質な者の集団をまとめる) リーダーシップ、公共性・倫理観、メディア・リテラシ ー等を挙げることができる」と述べている。ある意味、 顕在的な側面と潜在的な側面の両面を含んでいることが 考えられる。これらの見解から、公共性や倫理観などの 潜在的側面である価値観と職務遂行能力などの顕在的側 面である能力の二つの要素から、人材養成観が形成され ていると考えられる。もちろん、様々な産業や行政機関 が存在するなかで、この二つの要素ですべてが説明でき るわけではない。ただ、社会が求める人材を価値観と能 力から養成していこうとすることは、人材養成観として 捉えることも可能であると考えられる。 職業観について、本稿では、職業と関連することを鑑 みて、職業生活においての職業観として用いる。尾高 (1995)は職業を「個性の発揮、役割の実現および生計 の維持をめざす継続的な人間活動である」と定義してい る。これに加え、巽(2014)が示した「社会的役割」と 「仕事と生活」についても指標とした。 職業的スキルについては、職業能力評価基準を参照し た、ジョブ・カード(評価シート)の評価項目である「職 務遂行のための基本的能力」を用いた。「職業能力評価 基準」とは、仕事をこなすために必要な「知識」と「技 術・技能」に加えて、「成果につながる職務行動例(職 務遂行能力)」を、業種別、職種・職務別に整理したも の」で、「わが国の「職業能力評価制度」の中心をなす 公的な職業能力の評価基準」である(厚生労働省)。(表 1参照)。 表1 第2章 インターンシップにおける学習の成果 – 在学生調査− 長崎県の大学に進学している大学生で、2015 年度夏季 インターンシップに参加した学生を対象にアンケート調 査を行った。8 大学から回答を得た(有効回答数 174 件)。 また、受入先である、長崎県内の企業1社(卸・小売業) と公務に1件にインタビュー調査を行った。 重回帰分析を用いて分析を行った。変数として、(1) 現在の自分の「職業観」(「経済的独立」「責任ある地位」 「社会に貢献」「専門性の発揮」「ワークライフバランス (WB)」の5つの項目)についての5段階評価を用いた。 (2)受入先から影響を受けた「職業観」についても同 様に5段階評価を用いた。(3)身につけた「職業的スキ ル」は7つの能力ユニットを用いた。(4)受入先より重 要であると教えられた「職業的スキル」についても、7 つの能力ユニットを用いた。(5)受入先区分について、
<74 58 F 0 . -, 3 3 1* 1* B R I 2 7 < 4 5V < * FI 8 7 36 . * * -, * 2 * * 2 * 0 0 R 1 1 2 -1. ) 0. ( 81 2 8 80 2 -6 61 2 (( 1 90 B9 P 4 9 p 1. p ) 8 : 3 3 * 52 < < : R 6 9 9 9 9 p 1 (, -5 - 5-3 3. . 6- B 6 < R 1 P 6 5 : 7 8 0, 0, 2 p 3 6 6 6P 6 . * : 7 8 パブリック(行政)とビジネス(行政以外)とで区分した。 (6)進路有用度(インターンシップ経験が将来の進路 を決める際に役立つかどうか)を従属変数として用いた。 「進路有用度」に与える受入先の影響(職業観)におい て、パブリックのほうが、ビジネスよりも影響度が強い ことが判明した。パブリックでは、「進路有用度」に対し て、21%が受入先からの「影響を受けた職業観」で説明で きるのに対し、ビジネスでは、10%程度であるということ である。職業観の影響度の強さはパブリックが2倍の大 きさがあると言える。(図1参照) 図1 職業観の項目毎に見ていくと、パブリックで有意差が 判明したのは、「貢献」(β=0.58,p<0.01)である。他の 項目と比較して極めて高い値であった。ビジネスでは、 「貢献」(β=0.2,p<0.05)と「WB」(β=0.31,p<0.01)に 有意差が見られた。パブリックと比べて、影響は弱いな がらも、「貢献」と「WB」で影響を与えていることが判明 した。(表2参照) 表2 進路有用度に与える、受入先の影響(職業的スキル) について、ビジネスにおいてのみ、有意な効果 (R2=0.07,p<0.05)が現れ、「重要だと教えられた職業的 スキル」について正の有意な効果(β=0.26,p<0.01)が 現れた。「進路有用度」に対して、7%が受入先からの「受 入先より重要であると教えられた職業的スキル」で説明 できるということである。値としては低水準である。(図 2参照) 図2 職業スキルの項目毎に見ていくと、パブリックでは有 意差はなく、ビジネスにおいては有意な効果 (R2=0.18,p<0.01)が現れた。特に、「責任感」(β =0.27,p<0.05)、「チームワーク」(β=0.23,p<0.05)に 正の有意な差が見られた。(表3参照) 表3 インタビュー調査から、パブリックでは、目的を持っ て業務に取り組むことが重要であり、成果が見えづらい だけに成果が求められる。ゆえに目的の明確化が重要で ある点を強調された。その目的を一言で言えば「公共の 福祉」ということであった。ビジネスにおける人材養成 観として、インターンシップを通じてお客様視点や職種 特に営業職への理解であることが認識できた。チームワ ークの大切さを教育するカリキュラムが設定されてお り、職業的スキルを高めていると考えられる。 第3章 卒業後のインターンシップにおける学習の成果 − 卒業生調査− 長崎の女子大学の卒業生(卒業後1年以内から3年以 内)を対象にアンケート調査とインタビュー調査を行っ た。回答が得られたインターンシップ経験者(29 名)、 インターンシップ非経験者(91 名)を対象とし、インタ ーンシップ効果の違いを比較した。うち、現在働いてい る卒業生(現職)を対象(インターンシップ経験者 25 名、インターンシップ非経験者 81 名)として検討した。 インターンシップ先業種と就職先の業種との関係につ いては、25 名中 3 名が同じ業種に就職しているのみで、 関連性が顕著に現れているとは言えない結果である。し かし、「現在の職業について、インターンシップとの関連
性がありますか」との質問には、現職 25 名のうち「かな りそう思う」と「だいたいそう思う」を合わせて 44%で ある。インターンシップ経験の活用が現在の仕事への満 足度に影響を及ぼしている可能性について検証したが、 有意な相関関係は見られなかった。一方で、インターン シップ非経験者を対象に、現在の仕事に対する満足度と 大学教育の関連について尋ねたところ、有意な相関関係 が見られた(r=0.5,p<0.01)。大学教育と関連しているほ ど、現在の職業に満足していることが判明した。 インターンシップの卒業後の効果を測るために、イン ターンシップ経験者と非経験者との比較を行った。職業 観の平均値の差の検証では、「専門性の発揮」の項目でイ ンターンシップ非経験者が高く、有意な差が見られた。 職業的スキルでは、すべての項目で有意は見られなかっ た。アンケート調査では、卒業後のインターンシップの 効果は現れていない結果となった。ただ、インターンシ ップ経験が職業生活に活かされている内容については、 「報告・連絡・相談をきちんとすること」「熱意をもって 仕事に取り組むこと」などが挙げられており、学習の成 果が伺える。また、インタビュー調査から、インターン シップ先と就職先の業種は違うが職種には関連があり、 インターンシップの経験が活かされているということで あった。インターンシップが社会とつなぐ有効なシステ ムであるという意味合いでも述べている。 終章 考察と課題 在学生調査から、仮説①および仮説②は支持されると 判断した。受入先の相違に学習成果に差異が見られたか らである。具体的には、職業観について、学生は、パブ リックおよびビジネスでは双方に影響を受けているが、 特にパブリックが2倍近い影響を受けていることが判明 した。職業観の項目では、パブリックが「貢献」であり、 ビジネスが「貢献」と「WB」である。パブリックの「貢 献」が高い値であるのは、川端(2005)が述べている「「全 体の奉仕者として公共のため」という志が必要であり、 社会貢献度の高い仕事に邁進するのが公務員の姿」であ ることが影響しているのではないかと推測できる。重要 だと教えられた職業的スキルについては、ビジネスが有 意に影響を及ぼしていることが判明した。その中でも特 に、「責任感」と「チームワーク」であった。インタビュ ー調査から、パブリックでは、目的を持って取り組むこ と、その目的は「公共の福祉」であることを捉えること ができ、ビジネスでは、プログラムにチームワークを重 視したゲームを取り入れるなど、職業的スキル獲得に重 点をおいていることが伺える。 仮説③については、明らかにならなかった。しかし、 インタビュー調査から、インターンシップの経験が仕事 に活かされている側面があり、学校教育と職業生活をつ なぐ有効なシステムであると捉えることもできよう。 学問的含意を述べると、デューイの「相互作用の原則」 からインターンシップの受入先であるパブリックとビジ ネスでの異なる経験により、内面に与えた影響に差があ ることが判明した。「連続性の原則」では、関連項目につ いて実証できなかったが、インタビュー調査からは連続 していると捉えることができた。 本研究の意義として、受入先による違いにより得られ る学習の成果に違いがあることが明らかになったことか ら、学生の参加目的の明確化を図ることで進路選択に役 立つものと考えられる。 本研究の限界と課題について 5 点述べたい。第1に、 サンプル数の少なさという問題である。第2に、アンケ ート調査対象者が学生のみであるという偏りの問題であ る。吉本(2010)の指摘のとおり、学生と受入側との交互 作用によってインターンシップの効果が認識されるため、 その視点での取り組みが必要であった。第3に、質問内 容に不明確な部分があった。第4に、大学でのカリキュ ラムや受入先のプログラムへのアプローチが課題である。 第5に、インターンシップを一過性に捉えており、時間 軸が検討されていない部分に課題がある。 主要参考文献 尾高邦雄 『尾高邦雄選集第1巻 職業社会学』、夢窓 庵、1995 年発行、14− 54 項 亀野淳(2007)「公的機関とインターンシップ– 受け入れ 先としての公的機関と地域経済団体の役割− 」第 3 部 第 4 章第 1 節 197-205 項『インターンシップとキャリ ア 産学連携教育の実証的研究』高良和武監修 文部科学省(2013)「インターンシップの普及及び質的充 実のための推進方策について意見とりまとめ」体系的 なキャリア教育・職業教育の推進に向けたインターン シップの更なる充実に関する調査研究協力者会議 吉本圭一(2006)「インターンシップ制度の多様な展開と インターンシップ研究」『インターンシップ研究年報』 第9号、日本インターンシップ学会、17− 24 項 吉本圭一(2010)「インターンシップの評価枠組みに関す る研究-高校における無業抑制効果に焦点をあてて-」 『インターンシップ研究年報』第 13 号、日本インター ンシップ学会、9-17 項 ジョン・デューイ(1938, 市村尚久 2004 訳)『経験と教育』、 講談社学術文庫