1東京理科大学大学院理学研究科化学専攻(1620826 東 京都新宿区市谷船河原町 121 神楽坂新 5 号館)
加硫ゴムの架橋形態が力学的疲労に与える影響
船津 惇司
1・伊藤 眞義
1 (受付 2007 年 11 月 19 日・審査終了 2007 年 12 月 25 日) 要 旨 電子スピン共鳴(ESR)法により加硫ゴム試料中でひずみにより発生するラジカル種の同定を 行った後,架橋形態の異なる(モノスルフィド架橋,ポリスルフィド架橋および過酸化物架橋)加硫ゴム試 料について,ひずみにより発生するラジカル濃度の定量化を行った.その結果,加硫促進剤に N-cyclo-hexyl-2-benzothiazol-sulfenamide(CZ)を用いた場合,g 値として 2.004 を有する吸収は,硫黄ラジカルと 炭素ラジカルの両方が関与していること,加硫促進剤に Tetramethyl thiuram disulfide(TMTD)を用いた 場合,g 値として 2.014, 2.004 を有する吸収を確認し,このうち g 値として 2.014 を有する吸収は,硫黄 ラジカルのみが関与しており,炭素ラジカルと区別できることが確認された.また,架橋形態の異なる試 料について印加した力学的エネルギーの増加に伴い g 値として 2.004 を有するラジカル濃度は連続的に増 加し,その程度はモノスルフィド架橋>ポリスルフィド架橋>過酸化物架橋となった.これらのこととラ ジカルのライフタイムが加硫ゴムの力学的疲労に与える影響について検討を行った. 1 緒 言 ゴム材料はその特性上大変形下で使用される場合が多 い.高ひずみ下ではゴム材料の主成分である高分子鎖に 大きな力が作用し,それにより分子鎖切断が生じる可能 性がある.Mead らは1),過酸化物で架橋したポリブタ ジエンゴムやポリイソプレンゴムについて,室温でひず み 100を与えた後-160°C で,さらに 100のひずみ を与えた試料を-150°C で ESR 測定を行った.その結 果,g 値として 2.004 を有する吸収スペクトルを得,こ の吸収は,ひずみによるゴム分子鎖切断で発生した炭 素(ポリエニル)ラジカルによるものであることを報告 している. 架橋剤として硫黄を用いた硫黄架橋ゴムも広く用いら れている.硫黄架橋ゴムのおもな架橋形態は,架橋点間 に複数の硫黄分子が介在するポリスルフィド架橋と一分 子の硫黄だけが介在するモノスルフィド架橋に分類され る.それゆえ,硫黄架橋ゴム材料中には,炭素炭素結 合,炭素硫黄結合および硫黄硫黄結合が存在するが, それらの結合エネルギーは異なる2).したがって,材料 の伸長変形で発生するラジカルの種類やその量には結合 エネルギーの差が反映される可能性がある.Natarajan らは3),加硫促進剤として Cyclohexilebenzthiazole sul-fonamide(CBS)を用いて硫黄架橋した天然ゴム(NR)試 料について Mead らと同様の測定を行った.その結果, 吸収スペクトルの g 値は Mead らの報告と一致するもの の,吸収スペクトルの形や,ひずみとラジカル量の関係 は彼らの報告とは異なることを見いだした. 筆者らはシリカを充填した SBR 加硫物と未加硫物に ついて,シリカ/ゴム界面相互作用の制御が力学特性お よびひずみ印加時のゴム分子鎖切断に及ぼす影響を,応 力ひずみ曲線と ESR 測定結果に基づいて検討した.そ の結果,応力ひずみ曲線は,未加硫,加硫試料ともに シリカ表面の改質様式に大きく依存すること,また,両 試料ともにひずみ印加により g 値が 2.004 の ESR 吸収 を示し,ひずみ増大に伴い発生したラジカル濃度が増加 すること,一定ひずみにおいて,加硫試料は未加硫試料 よりもラジカル発生量が多いことを報告した4),5).ラジ カル発生量の差は,硫黄結合の存在が大きく関与してい ると推測される. 硫黄架橋したゴム試料において,炭素炭素結合エネ ルギーと硫黄硫黄結合エネルギーはそれぞれ 357 kJ/ mol および 226 kJ/mol であることから2),伸長変形に よる化学結合の切断は,炭素炭素結合よりも硫黄硫 黄結合で生じやすいと考えられる.しかし,加硫ゴム 中における硫黄ラジカルの g 値に関する報告例はほと んどない.Coleman ら は6), 加 硫 促 進 剤 の Tetramethyl thiuram
Table 1. Compound Formulations (weight per hundred rubber) sample A B C D E PIR 100 100 100 100 100 Stearic acid 2 2 ― ― 2 Zinc oxide 3 3 ― ― 3 Sulfur 0.4 1.5 ― ― 0.4 Accelerator CZa) 4 1.5 ― ― ― Accelerator TMTDb) ― ― ― ― 4 DCPc) ― ― 2 ― ― a) N-cyclohexyl-2-benzothiazol-sulfenamide. b) Tetramethyl thiuram disulfide. c) Dicumyl peroxide.
後,-56°C における ESR 測定ならびに 125°C における Raman 分光測定を行った.その結果,ESR 吸収スペク トルの g 値が加熱後の冷却速度に依存して 2.006~2.05 の間で変動することや Raman 分光スペクトルから,高 温下で TMTD と硫黄との反応で発生した硫黄ラジカル が ESR 吸収に関与している可能性を示唆した. 本報では,ESR 法により加硫ゴム試料中でひずみに より発生するラジカル種の同定を行った後,架橋形態の 異なる(過酸化物架橋,ポリスルフィド架橋およびモノ スルフィド架橋)加硫ゴム試料について,ひずみにより 発生するラジカル量を定量化し,架橋形態が伸長変形に よる力学的疲労に与える影響について検討することを目 的とした. 2 実 験 2.1 原料
原料ゴムはポリイソプレンゴム(PIR: Nipol PIR2200, Mw=1.36×106,日本ゼオン(株)製)を用いた.架橋剤
として,硫黄とジクミルペルオキシド(DCP)を,また 加 硫 促 進 剤 と し て N-cyclohexyl-2-benzothiazol-sulfena-mide(CZ)と Tetramethyl thiuram disulfide(TMTD)を使 用した. 2.2 加硫ゴム試料の作製 硫黄/CZ の混合比を変えることによりモノスルフィ ドリッチ(A),ポリスルフィドリッチ(B)試料を得た. また DCP を用いて過酸化物架橋(C)試料を得た.原料 ゴムである PIR を 40°C で 120 分間プレス成形すること で純ゴム未加硫(D)試料,架橋剤として硫黄,加硫促進 剤として TMTD を用いて TMTD 硫黄架橋(E)試料も作 製した.Table 1 に示した所定の混合比を有するコンパ ウンドを密閉式バンバリーミキサー(50-MR,(株)東洋 精機製作所製)を用いて作製した.まず,バンバリーミ キサーの温度を 50°C に設定し,原料ゴムである PIR を 1 分間素練りした後,酸化亜鉛,ステアリン酸を加えて 2 分間混合し,マスターバッチ 1 を得た.マスターバッ チ 1 に架橋剤および加硫促進剤を加えて 50°C で 2 分間 混合した後,室温まで放冷し,マスターバッチ 2 を得 た.さらに,マスターバッチ 2 を 160°C で 30 分間プレ ス加硫することで測定用試料を得た. 2.3 架橋密度,架橋形態の決定 ファントム網目仮定より導かれた式(1)7)を用いて膨 潤法により架橋密度 ne(mol/cm3)を算出した.ここで は溶媒の V 分子容,X はゴム溶媒間の相互作用パラメー ター,n2は膨潤度である.今回用いた溶媒はトルエンで あるため,V=133.2(cm3/mol),また,PIRトルエン系 の相互作用パラメーター X=0.39 は文献値8)を用いた. ne=- 2[ln (1-n2)+n2+Xn2 2] Vn1/3 2 (1) リチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH4)は硫黄 硫黄結合のみを切断する性質をもつため9),通常の膨潤 法で求めた架橋密度から下記に示す操作で処理した試 料の架橋密度を差し引くことで硫黄架橋試料のポリスル フィド架橋とモノスルフィド架橋の比率を算出した. 硫黄架橋試料を試料精製のため 10 時間 Soxhlet 抽出 し,膨潤させた後,トルエン,LiAlH4,テトラヒドロ フラン(THF)の混合溶液に浸し,8 時間放置した.その 後,トルエンに 1 日浸し重量を測定した. 2.4 測定 引張試験は,(株)オリエンテック製熱延伸機(HTM-100)を用いて,延伸速度 60 mm/min,室温(24°C)で行っ た.ESR 測定は,日本電子(株)製 ESR スペクトロメー ター(JES-FA200)を用いて,共鳴周波数 9.2 GHz で測 定した.測定用試料は加硫ゴムシートを短冊状に裁断し たものを用いた.ESR 測定は,測定用試料に所定の初 期ひずみ(IS)を加え,ひずみを開放した後,室温で一定 時間放置したものに対して行った.g 値は Mn2+マー カーの 3 番目,4 番目の信号から,また試料中のフリー ラ ジ カ ル 濃 度 の 定 量 は 4-hydroxy-2,2,6,6-tetramethyl-piperidine-1-oxyl radical(TEMPOL)水溶液を標準試料と して,ESR 信号の一次微分波形の積分値と標準試料の 積分値との比から算出した. 3 結果および考察 3.1 架橋密度および架橋形態 加硫ゴム材料の引張特性は,架橋密度や架橋形態に大 きく依存する10),11).そこで,本研究で作製した加硫ゴ ム試料に対してトルエンを溶媒に用いた膨潤法により架 橋密度を求め,さらに,硫黄架橋ゴム試料について,あ らかじめ求めた架橋密度から LiAlH4を用いた膨潤法に より算出した架橋密度を差し引くことでポリスルフィド 架橋とモノスルフィド架橋の比率を決定し,その結果を Table 2 に示した.試料(A), (B)および(C)は異なる架 橋形態を有するもののほぼ同架橋密度であることが認 められた.
Table 2. Crosslink density and vulcanized mode
samp le A B C
ne×10-4(mol/cm3) 2.21 2.18 2.23
PolyMono 3.36.7 8.61.4 ― Figure 1.(Sample D) and DCP vulcanized (Sample C) with IS of 300.ESR spectra at room temperature for unvulcanized
Figure 2. ESR spectra on heating for CZ (a) and CZ/sulfur (b).
3.2 炭素ラジカルと硫黄ラジカルの g 値 硫黄架橋 PIR 試料は,試料を構成する化学結合様式 から推定すると,ひずみにより炭素ラジカルと硫黄ラジ カルを発生する可能性があり3),これらを区別する必要 がある.まず,炭素ラジカルのみが発生する可能性があ る試料として,試料(C)と試料(D)を選び,これらに対 してひずみを印加し,ESR 測定を行った. Figure 1 は試料(C)と試料(D)に対して,室温で 300 の初期ひずみ(IS)を印加した後,ひずみ開放後 30 分経 過した試料の室温における ESR スペクトルを示したも のである.一定ひずみにおいて,強度は異なるが,両試 料ともに g 値として 2.004 を有する単一吸収が認められ た.試料(C)と試料(D)において,得られた吸収の g 値 がともに 2.004 であること,この値は Mead らによって 報告されたポリエニルラジカルに対する g 値と同じこと から1),PIR 分子鎖切断により発生した炭素ラジカルの g 値は 2.004 であることが確認された. 次に硫黄ラジカルの ESR スペクトルについて検討を 行った. 硫黄単体の加熱過程における硫黄ラジカルによる吸収 は認められなかった.そこで,硫黄(S)に加硫促進剤 (Ac)を混合した試料(S/Ac=3 wt/wt)における加熱過程 の ESR 測定を行った. Figure 2 は CZ 単体(a)と硫黄/CZ 混合物(b)の加熱過 程における ESR スペクトルを示したものである.両試 料とも g 値として 2.004 を有する吸収が確認され,その 吸収強度は温度上昇に伴い増大した. Figure 3 は TMTD 単体(a)と硫黄/TMTD 混合物(b) の加熱過程における ESR スペクトル示したものであ る.両試料とも g 値として 2.048, 2.004, 1.978 を有する 吸収が確認され,それらの吸収強度は温度上昇に伴い増 大した.また,硫黄添加により CZ 系では g 値として 2.004, TMTD 系では g 値として 2.048 を有する吸収の 信号強度が著しく強くなった.これらは,Coleman ら
Figure 3. ESR spectra on heating for TMTD (a) and TMTD/sulfur (b).
Figure 4. ESR spectra at -100°C for vulcanized (sample A, B, C, and E) with IS of 200. が報告した6)硫黄ラジカルに対応する g 値の検出範囲に も該当することから,加硫促進剤と加熱による硫黄開環 の際に発生する硫黄ラジカルであること,さらに硫黄ラ ジカルの g 値は加硫促進剤種の影響を受けることを示し ている.次節で述べるように,加硫促進剤として CZ を 用いた加硫ゴム試料を伸長変形した場合,g 値として 2.004 を有する ESR 吸収が得られた(Figure 4).このこ とと Figure 1 および 2 の結果を考え合わせると,g 値が 2.004 の ESR 吸収曲線は,硫黄ラジカルと炭素ラジカ ルの両方が関与していることが明らかとなった. 3.3 ひずみにより発生するラジカル種の同定 炭素炭素結合の結合エネルギーは硫黄硫黄結合のそ れよりも高い2).このことは,ひずみを印加した硫黄架 橋試料内には,硫黄硫黄結合切断による硫黄ラジカル と炭素炭素結合切断による炭素ラジカルが混在してい る可能性がある.このため,得られた炭素ラジカルと硫 黄ラジカルの g 値を基に,加硫ゴム試料のひずみにより 発生するラジカル種について検討を行った. 試料(A), (B), (C)および(E)に室温で初期ひずみ 200 を加えた後,発生したラジカル保存のため,ひずみを 開放した直後に液体窒素に投入し,-100°C で測定を 行った ESR 吸収スペクトルを Figure 4 に示した.試料 (A), (B)および(C)について同一ひずみにおける吸収強 度は異なるが g 値として 2.004 を有する単一な吸収,試 料(E)について g 値として 2.014 と 2.004 を有する吸収 が認められた.試料(A), (B)および(C)について同架橋 密度の試料であるにもかかわらず,同一ひずみにおいて 発生したラジカル濃度が異なること,また加硫促進剤に CZ を用いた場合,前述のごとく観測した炭素ラジカル と硫黄ラジカルの g 値が同じであることから,ひずみ印 加を行うことで,試料(C)においては炭素ラジカルが存 在し,試料(A)および(B)においては炭素ラジカルと硫 黄ラジカルが試料内に混在していることが示唆された. 試料(E)について,g 値として 2.014 を有する吸収は, 硫黄/TMTD 混合物の加熱過程で得られた吸収の g 値と は異なるものの,炭素ラジカルのそれと異なることと Coleman らが報告した6)硫黄ラジカルに対応する g 値の 検出範囲にも該当することから,硫黄ラジカルのみが関 与していることが明らかとなった.このため,ひずみ印
Figure 5. Change of radical concentration as a function of
time at room temperature for vulcanized (sample A to C). Figure 6. Relation between the mechanical energy applied to the samples during tensile deformation (E) and the DCR of vulcanized (Sample A to C). 加により試料(E)は炭素ラジカルと硫黄ラジカルが混在 し,それらは ESR スペクトルの g 値から区別できるこ とが確認された.しかし,本報では架橋形態の異なる試 料を作製するために遅効性加硫促進剤である CZ を用い た.そのため試料(A)および(B)における ESR 吸収スペ クトルは硫黄および炭素ラジカル両方の寄与によるも のである. 3.4 ラジカルの安定性 Figure 5 は,試料(A), (B)および(C)に室温で 200 の初期ひずみを加えた後,ひずみを開放した試料につい てラジカル濃度( DCR )の室温における時間依存性を示 したものである.ラジカル濃度は,ひずみ印加を行った 試料のラジカル濃度から試料作製時に発生し,比較的安 定で試料内に残存しているラジカルの濃度を差し引い たものを採用した.いずれの試料も g 値として 2.004 を 有する吸収が認められ,時間経過に伴いラジカル濃度は 減少した. 1 a-x- 1 a=kt (2) 得られた曲線に対して式(2)を用いて二次反応速度式 への近似を行った.ここで,a(mol・cm3)はひずみ開放 時の初濃度,x(mol・cm3)は時間 t(s)経過した際の濃 度,k(mol2・s-1)は二次反応速度定数である.曲線を非 線 形最小 二乗 する こと で算 出し た二 次反 応速 度定 数 k(mol-2s-1)はラジカル消失速度に対応し,試料(A), (B)および(C)でそれぞれ 0.28, 0.39 および 0.25 となっ た.これは,ひずみ印加により発生したラジカルの安定 性は架橋形態に依存し,その程度は,過酸化物架橋試料 >モノスルフィドリッチ架橋試料>ポリスルフィドリッ チ架橋試料であることを示している.以上のことから架 橋形態の異なる試料において,ひずみによって発生した ラジカルのライフタイムが異なる,すなわち,発生した ラジカルの消失にいたる速度が異なることが明らかと なった. 3.5 架橋形態とラジカル濃度の関係 Figure 6 は,試料(A), (B)および(C)に室温で一定ひ ずみを加えた後,ひずみを開放して 60 分経過した試料 について印加した力学的エネルギーと g 値として 2.004 を有 する 吸収 スペ クト ルか ら算 出し たラ ジカ ル濃 度 ( DCR )の関係を示したものである.印加した力学的エ ネルギーは各試料の応力ひずみ曲線から算出した.ラ ジカル濃度の算出は,前節同様,試料作製時に発生した ラジカルの濃度を差し引いて行った.発生したラジカル 濃度が主として化学結合エネルギーに依存するならば, 試料(A), (B)および(C)について硫黄硫黄結合エネル ギーがもっとも小さく,炭素炭素結合エネルギーが もっとも大きいことから発生した直後のラジカル濃度 は,試料(B)>(A)>(C)となるはずである.しかし, いずれの試料も力学的エネルギーの増加に伴いラジカル 濃度は連続的に増大するものの,その程度は,試料(A) >(B)≫(C)となった.また,同一力学的エネルギーに おけるラジカル濃度も試料(A)>(B)≫(C)となった. このことは,硫黄硫黄結合の切断で生じたラジカルの 再結合能が炭素硫黄結合の切断で生じたラジカルより も高いため残存するラジカル濃度が(A)>(B)となった ことを意味しており,前節の結果と一致する.試料(C) において,印加した力学的エネルギーの小さい領域でラ ジカルの発生は認められず,さらなる力学的エネルギー の増加に伴いラジカル濃度は増大するものの,その勾配
は緩やかであった.一方,試料(A)および(B)におい て,印加した力学的エネルギーの小さい領域から力学的 エネルギーの増加に伴うラジカルの発生が認められ,さ らに試料(A)については力学的エネルギーが約 2 J/cm3 のあたりから急激なラジカル濃度の増大が認められた. 以上の結果より,硫黄架橋試料と過酸化物架橋試料に認 められるラジカル濃度の差は,主として硫黄ラジカルが 関与していると考えられる.一般に硫黄架橋ゴムの力学 特性,すなわち引張特性はモノスルフィドリッチな加硫 ゴムよりポリスルフィドリッチな加硫ゴムの方が優れて いると考えられている9).これらのことは,前述のよう に硫黄硫黄結合の切断で生じた硫黄ラジカルの高い再 結合能によりひずみ印加により切断した架橋構造の自己 修復を行った結果,引張特性が高い値を示したことを示 唆している. 4 結 論 ESR 法によりゴム分子鎖間の架橋形態が伸長変形に よる力学的疲労に与える影響について検討することを目 的とし,加硫ゴム試料中でひずみにより発生するラジカ ル種の同定ならびに架橋形態の異なる(過酸化物架橋, ポリスルフィド架橋およびモノスルフィド架橋)加硫ゴ ム試料について,ひずみにより発生するラジカル量の定 量化を行った結果,以下の知見を得た. (1) 加硫ゴム試料中でひずみにより発生する炭素ラ ジカルの g 値は 2.004,硫黄ラジカルの g 値は,加硫促 進剤種の影響を受け,CZ を用いた場合 2.004, TMTD を用いた場合 2.014, 2.004 であり,このうち g 値として 2.014 を有する吸収は炭素ラジカルと区別することが できた. (2) ひずみ印加により発生したラジカルの安定性は 架橋形態に依存し,その程度は,過酸化物架橋試料>モ ノスルフィドリッチ架橋試料>ポリスルフィドリッチ架 橋試料であった. (3) ひずみ印加による力学的エネルギーの増加に伴 い発生し,安定化したラジカルの濃度は増加し,その程 度は,モノスルフィドリッチ架橋試料>ポリスルフィド リッチ架橋試料>過酸化物架橋試料であった. (4) 硫黄硫黄結合の切断によって生じた硫黄ラジカ ルは,架橋構造の自己修復に関与しており,ポリスル フィドリッチ架橋試料が高い力学物性を示す原因になっ ている可能性がある. 文 献
1) W. T. Mead, R. S. Porter, and P. E. Reed, Macromolecules, 11, 56 (1978).
2) Z. T. Ossefort, Rubber World, 69, 140 (1959).
3) R. Natarajan and P. E. Reed, J. Polym. Sci., PartA2, 10, 585 (1972).
4) N. Suzuki and M. Ito, e-J Soft Materials, 1, 1 (2005). 5) N. Suzuki, M. Ito, and F. Yatsuyanagi, Polymer, 46, 193
(2005).
6) M. M. Coleman, J. R. Shelton, and J. L. Koenig, Rubber Chem. Technol., 46, 957 (1973).
7) P. J. Flory,“Principles of Polymer Chemistry”, Cornell Univ. Press, Ithaca, N.Y. (1953).
8) A. F. M. Barton, “CRC Handbook of Polymer-Liquid Interaction Parameter and Solubility Parameters”, CRC Press (1990), p242.
9) H. Nakauchi, T. Naitou, T. Utsunomiya, K. Masuda, and S. Inoue, 日本ゴム協会誌, 60, 267 (1987).
10) K. Suchiva, T. Kowitteerawut, and L. Srichantamit, J. Appl. Polym. Sci., 75, 1495 (2000).
11) T. J. Dudek, J. Appl. Polym. Sci., 8, 555 (1964).
Effects of Vulcanization Mode on the Mechanical Fatigue of Vulcanized Rubber Junji FUNATSU1and Masayoshi ITO1
1Department of Chemistry, Faculty of Science, Tokyo University of Science (13 Kagurazaka, Shinjuku-ku, Tokyo 1628601, Japan) Effects of vulcanization parameters on the mechanical fatigue of vulcanized rubber were evaluated from Electron Spin Resonance (ESR) results and stress-strain behavior of the vulcanized polyisoprene. It was found from ESR absorption curves that carbon radicals produced by the breakdown of polymer backbone with the g-value of 2.004 were present. The g-value of sulfur radicals in the vulcanized samples by sulfur was depends on the chemical structure of the vulcanization accelerator. The g-values were 2.004 and 2.014 for the N-cy-clohexyl-2-benzothiazol-sulfenamide (CZ) and Tetramethyl thiuram disuffide (TMTD), respectively. For the samples vulcanized by sulfur and CZ, the radical concentration calculated from absorption curves with the g-value of 2.004 increased with the increase of mechanical energy applied to the samples by stretching of the samples. The concentration was larger for the samples in which sulfur-carbon linkages were present than for the samples with sulfur-sulfur linkages. and the smallest for samples vulcanized by peroxide. These results are dis-cussed in relation to the mechanical fatigue of vulcanized rubber.
KEY WORDS Electron Spin Resonance / Polyisoprene / Vulcanization Mode / Mechanical Fatigue /
(Received November 19, 2007: Accepted December 25, 2007) [Kobunshi Ronbunshu, 65, 369―374 (2008)] 2008, The Society of Polymer Science, Japan