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自己決定場面のソシオドラマを通した青年の親への気づき
キーワード:親子関係 ソシオドラマ 青年期 対人関係イメージ図 人間共生システム専攻臨床心理学指導・研究コース 2HE14019T 岩男 尚美はじめに
親子間では,葛藤が起こっているその瞬間は,子は親 の気持ちに気づくことはなく,また親も子の気持ちを 理解しながらも親としての立場から子に意見する。親 と子のすれ違いはなぜ起こるのだろうか。こうした気 持ちのズレに子はどのように気づいていくのだろうか。1.問題
(1)青年期の親子関係と親理解 青年期は自立の獲得に伴って,親子関係は次第に変 化する。小高(2000)は,青年期前期において,子は親に 反抗するものの,青年期後期になるとその葛藤を解消 し新たな親子関係を再形成すると述べている。Kerig& Wenar(2012)は青年期において葛藤を抱えることは正 常な反応であるとしている。これらから筆者は,葛藤が 完全に解消されるというよりも,葛藤を抱えながらも, その捉え方を変え,乗り越えていくことが青年の自立 には重要であると考えた。しかし,親子関係の変化の要 因についての研究は少なく,青年の親への認識の変化 がどのようなきっかけで起こるのかはいまだ不明確で ある。その中でも,大島(2015)は親の視点に立つことの 重要性を指摘している。 (2)親への探索的理解を促す方法としての心理劇 親への理解には,想像のみならず体験をもとに理解 することでが必要ではないだろうか。対人関係につい て体験的な気づきが得られる臨床心理学的アプローチ として心理劇がある。「心理劇」は,「サイコドラマ」の 訳語であり,Moreno によって創始された集団心理療法 である。Blatner(1973)は,心理劇のなかでその人の内 的世界が行為化され,衝動的に生じた行動が洞察へと 転換されるとしている。さらに,針塚(2003)は,「今, ここで」の「体験的現実性」の経験こそが個人の体験や 行動の変容を促すと述べている。つまり,心理劇による 洞察は,自らの内面の行為化や観劇などの体験を通し て自己の在り方や過去から現在までの対人関係につい て体験をもとに理解することである。また,心理劇の基 本的な技法にサイコドラマとソシオドラマがあるが, これらの違いについて増野(2006)は,取り上げる課題が 主役の個人的な問題なのか,社会的な問題なのかであ ると述べている。本研究では,社会的な問題として親子 関係を取り上げ,ソシオドラマ・セッションを実施する。 (3)ソシオドラマを用いた親子関係への気づき 筆者はこれまで大学生を対象に,ソシオドラマを用 いた親への気づきについて検討を行ってきた。岩男 (2014)ではソシオドラマを通して親への親密さが高ま ることが示された。また岩男(2015)ではソシオドラマ・ セッション後のピアレビュー・セッションでの気づき について検討し,よりリグレッションの求められる状 況で親への気づきが高まる可能性が示された。しかし, 岩男(2014)のような尺度を用いた分析では青年の親に 対する気づきについて捉えられていないことや,心理 劇場面であらわされる行為表現そのものが親への認識 の変化を表していると考えられるが,これまでの研究 では検討されていないなどの課題が得られた。2.本研究の目的
本研究では,大学生を対象に子が親との意見の違い から葛藤を抱えながらも親に自分の意思を伝えていく 必要がある自己決定場面のソシオドラマを実施する。 得られたデータを多角的な視点から分析を行い,青年 が親子関係の認識を変化させるプロセスや,その際の 親への気づきの内容について検討を行う。2
3.本研究の調査対象となった心理劇グループ
X 年 11 月~12 月中に,Y 大学の心理劇体験の講義に参 加した大学生32 名(男性 9 名,女性 23 名,平均年齢 21.31 歳)を対象としてソシオドラマを行う機会を得た。対象者を 4 グループに分けウォーミングアップ・セッションを行った あとソシオドラマを実施。テーマは,「自己決定に関わる親 子の話し合い」であり,「青年期の親子」と「児童期の親子」 の2 場面。青年期の劇を先に行うグループと,児童期の劇 を先に行うグループをそれぞれ2 グループ設定した。4.本研究の構成
第1 研究:自己決定場面のソシオドラマの事例から見る親 子関係理解のプロセス 第2 研究:ソシオドラマ体験を用いた青年の親との心理的 距離の変化 第3 研究:ソシオドラマ・セッション中の感想から見る親 への気づき 第4 研究:ピアレビュー・セッションにおける親への気づ き5.第 1 研究
1)目的 2 セッションのソシオドラマの事例を報告し,青年が親を理解していくプロセスを明らかにする。 2)対象者 筆者がディレクターをしたグループに所属した8 名(男性 2 名,女性 6 名,平均年齢 22.5 歳)。 3)結果 セッションの経過を以下に示す。 4)考察 #1 で A 氏は子ども役として両親に賛同され戸惑 った。A 氏は親が子を思い反対する重要性を感じたと推察 する。またロールリバーサルによりA 氏は母親の子への心 配を体験した。この体験を踏まえた子ども役では,親にわか りやすいように説明した。反対する母親との場面でも,親子 間の気持ちのズレに気づいた。さらにA 氏は,#2 の観劇で F 氏が過去を肯定的に受け止める様子に共感し,過去への 受け止め方を変化させたとも考えられる。一方F 氏は,#1 で父親としての意見と自分の本心とのズレを体験した。こ の体験にF 氏は過去の自分の親の気持ちを投影した。#2 で は子ども役を演じ,母親役とのロールリバーサルにより立 場による気持ちの違いに気づいた。F 氏は,実体験と異なる 体験をし,過去を肯定的に受け止められるようになった現 在の自分に気づいたと言える。つまり,青年にとって過去の 親とのやり取りでは親の心配すら反対に感じ,より反発を 強めたとも考えられるが,ソシオドラマでは実際に親役を 体験し親が子を思う気持ちに気づき,反発ではない親への 態度に繋がった。また親役になった際に子の気持ちもわか るにも関わらず,自分の気持ちを優先させる体験をする。こ の体験に過去の親の気持ちを投影し,過去のやり取りにつ いて考えるきっかけとなり,親子関係の捉え直しにつなが ると考えられる。 全 体 の 構 成 劇 化 の 展 開 児童期のソシオドラマ 青年期のソシオドラマ *子ども役割をA氏に依頼し,A氏が提案した「国立文系の大学から私立の文系に 志望を変更したいという相談」を劇化した。 場面① 子ども役:A氏 母親役:D氏 父親役:F氏 子どもの希望や考えに対し、両親はともに子ども役割の希望に賛同し応援する。 →感想として、A氏は「応援してくれてうれしかった」と語ったものの、 ディレクターはその表情に賛同されたことへの戸惑いを感じた。 場面② ロールリバーサルを導入 子ども役:D氏 母親役:A氏 父親役:F氏 母親役のA氏は父親に従う態度を示しつつ,子どもへの心配を表明した。 →感想でA氏は「子どものことを思うと応援したいのと,心配があった」 場面③ 子ども役:A氏 母親役:D氏 父親役:F氏 子どもの希望や考えに対し、両親はともに賛同する展開となった。 →感想でA氏は「具体的に説明すると,ふたりともすごく理解があって, 頑張らないといけないなと思う反面,すごくうれしかった」と笑顔。 *ディレクターは母親役を「反対する母親」に変更し、G氏に母親役を依頼。 場面④ 子ども役:A氏 母親役:G氏 父親役:F氏 子どもが相談に対し、母親は「視野を狭めてほしくない」と反対。 A氏は,反対されるといらだった表情を浮かべていた。 →感想では「自分も考えたつもりだったので納得ができない」 場面➄ ロールリバーサルを導入 子ども役:G氏 母親役:A氏 父親役:F氏 A氏は母親役として、「視野を狭めてほしくない」と子どもの希望に反対する →感想でA氏は「ダメだったときに傷ついて欲しくないから保険をかけてあげたい」 ○シェアリング A氏 「実際のときとは全然違った。子どもと母親のどちらの気持ちもわかるはずなの に,その立場の気持ちを優先した」 父親役を演じたF氏 「自分が演じていたのは理想の親だったが,次第に親に言われ たようなことを心の中では思うようになっていった」 *子ども役割をF氏に依頼し,F氏が提案した「ピアノを辞めたいという相談」 を劇化した。 場面① 子ども役:F氏 母親役:TA① 父親役:G氏 F氏はうつむいて「やめたい」ということに抵抗がある様子だった。 父親は条件を付けてやめることを許可。 母親は「演奏を聞いてうれしい気持ちがあるからやめてほしくないけど負担なら」 →感想でF氏は「許してくれそうでほっとしたけど,喜んでくれているので迷う」 場面② ロールリバーサルの導入 子ども役:TA① 母親役:F氏 父親役:G氏 子どもの希望に対しF氏は,「楽しく聞いていたから,やめてほしくない」と話した。 →感想でF氏は,「母親の立場になったらできればやめないで楽しんでほしい」 場面③ 子ども役:F氏 母親役:TA① 父親役:G氏 F氏は,顔をあげてはっきりと両親に自分の気持ちを述べた。 両親が「自分たちも期待をかけすぎた」と迷う展開となった。 →F氏は,実体験では言えなかったが後悔していないこととその驚きを語った。 ○シェアリング 観客のA氏 「F氏が後悔していないと聞いて,それがとてもよかった」 F氏 「小さい時の習い事は,将来役に立つのかとか子どもはまだわからない。 でも親は,続けててよかったって思う時がくるって分かる。それを子どもに伝えるのも 難しいし,それで子どもが無理して続けるのを見るのも結構きついと思うので, 難しい問題」 「小学生の習い事を辞める相談の場面」 ○2人組でのロールプレイング 「小学生が習い事を辞めたいと親に相談するときのやりとり」についてイメージ アップを参加者全員が行い、ペアごとに役割を決めてロールプレイングを行う 親役割と子ども役割を交代して再びロールプレイングを行う ⇒ペアで感想について話し合い ○全体で劇化 ※2人組での展開の中からディレクターが展開を1つ選んで,全体で劇化 親役割2人に増やし、子どもと両親の3人で話し合う場面を行う ロールリバーサルやミラーを用いながらディレクターがグループの状況に 合わせて展開 「高校生の進路の相談場面」 ○2人組でのロールプレイング 「高校生が進路について親に相談するときのやりとり」についてのイメージ アップを参加者全員が行い、ペアごとに役割を決めてロールプレイングを行う 親役割と子ども役割を交代して再びロールプレイングを行う ⇒ペアで感想について話し合い ○全体で劇化 ※2人組での展開の中からディレクターが展開を1つ選んで、全体で劇化 親役割2人に増やし、子どもと両親の3人で話し合う場面を行う ロールリバーサルやミラーを用いながらディレクターがグループの状況に 合わせて展開 表1. 各場面の設定および実際の展開3
6.第 2 研究
1)目的 ソシオドラマ体験による親への心理的距離の変化 について検討する。 2)方法 調査対象者:大学生28 名 (男性 7 名,女性 21 名,平均年 齢21.32 歳)。 調査実施の流れ:ウォーミングアップ・セッションの最終回 に1 枚目のイメージ図の作成を依頼した。2 回のソシオド ラマ・セッションの翌週に2 枚目のイメージ図を作成。 調査用紙の内容 対人関係イメージ図:家族イメージ法(秋丸・亀口,1988)を 参考として筆者が独自に作成した。調査用紙をグループご とにディレクターが配布し,集団調査形式で実施した。対人 関係イメージ図の中心の「私」を自分とした際の家族の位置 に黄色のシールを,友人・知人の位置を青色のシールを貼り, そのシールが誰を表すか記載するよう求めた。匿名性を保 つためにペンネームを用い,2 回を通して一貫したペンネー ムで回答を求めた。また,対人関係イメージ図の作成後,作 成した感想を自由記述での回答を求めた。さらに,ソシオド ラマ・セッション体験前後での2枚のイメージ図について, 2 枚目の作成後に比較し,比較した感想についても自由記述 での回答を求めた。 3)結果と考察 ソシオドラマ・セッション体験前の親子間 心理的距離の違いによって,度数分布表を用いて群分けし た。父母共に,距離の長さの上位30%を近接群,中間 30% を平均群,下位30%を遠隔群とした。 父子・母子の心理的距離の変化は,ソシオドラマ体験前 の心理的距離による群を独立変数,ソシオドラマ体験前後 での心理的距離の差を従属変数とした1 要因分散分析を行 った。父子の心理的距離は,主効果が有意傾向であった (F(2, 24) = 2.692, p < .10)。多重比較の結果,近接群よりも遠 隔群の方が有意に心理的距離の差が大きかった(p < .10)。 また母子の心理的距離は主効果が有意であった(F(2, 23) = 3.482, p < .05)。多重比較の結果,平均群よりも遠隔群の 方が有意に心理的距離の差が大きかった(p < .05)。 ソシオドラマ体験前後での心理的距離の差は,その値が マイナスであれば遠ざかっており,プラスの値であれば近 づいていることを示している。すなわち,親の性別を問わず, ソシオドラマ体験前の心理的距離が遠かった群では,ソシ オドラマ体験により親子間の心理的距離が近づいていたい ことが示された。ソシオドラマ体験前に心理的距離を遠く 認識していた群の2 枚のイメージ図を比較した感想には, ソシオドラマを通して父母に対する捉え方が変化したとい う記述が見られた。つまり,ソシオドラマで親が自分を支え てくれていたことに気づき,親に対する捉え方が変化した ことで,ソシオドラマ体験後に親との心理的距離が近づい たと推察される。 一方,ソシオドラマ体験前の心理的距離が近かった群の 感想には,普段なんでも相談しているわけではないと気づ いたなどが挙げられる。ソシオドラマで親に相談する場面 を演じ,過去の親とのやりとりを振り返り,過去から現在ま での親子関係への客観的な捉え直しが行われたことにより, ソシオドラマ・セッション後に親子間の心理的距離が遠ざ かったと考えられる。 また,母子ではソシオドラマ体験前に距離が近い群では 変化が見られなかった。母子の心理的距離に関して,浴野 (2002)は女子にとって母との心理的離乳の困難さが大きい ことを指摘している。本研究において,近接群は女子青年の みで構成されていたことから,母娘間の心理的離乳の困難 さが,近接群における心理的距離の変化のなさに影響して いる可能性が考えられる。 <1 回目> <2 回目> M SD N 主効果 多重比較 近接群 -0.171 0.3592 5 平均群 0.208 0.6171 12 遠隔群 0.55 0.727 8 F(2, 24) = 2.692+ 1<3+ + p < .10 表2. ソシオドラマ体験前の父子の心理的距離の遠さによる心理的距離の変化 M SD N 主効果 多重比較 近接群 -0.04 0.09 5 平均群 -0.13 0.83 13 遠隔群 0.65 0.56 8 * p < .05 表3 . ソシオドラマ体験前の母子の心理的距離の遠さによる心理的距離の変化 F(2, 23) = 3.48* 2<3* 父 父 母 母4