環境 経済評価 環境の経済評価
Valuing the Environment Valuing the Environment
報告日:2008年7月2日 報告者:寺脇 拓
1. 意義と目的 1. 意義と目的
2 1. 意義と目的
環境の経済評価 2008年度演習I(10)
1 1 環境と経済
1.1 環境と経済
• 環境経済学の目的は 環境からの便益と経済からの
• 環境経済学の目的は、環境からの便益と経済からの 便益をバランスさせることである。
自然資源を用いて作られる財を消費することから得られる便 益。
環境の同化能力(assimilative capacity)を享受することか ら得られる便益。
ら得られる便益。
> これら二つの便益の間にはトレードオフの関係がある。
• この目的を達成するためには この目的を達成するためには
1. 通常の財と同じように、環境質を財として扱う。
2. その財の価値を金銭ベースで考える。銭
3 1. 意義と目的
環境の経済評価 2008年度演習I(10)
自然(生態系) 同化能力 自然資源
トレード・オフ どうバランスさ
せるか?
せるか?
便益
生産物 人々
経済システム
生産物 人々
図1: 環境と経済
4 1. 意義と目的
1 2 外部性による市場の失敗
1.2 外部性による市場の失敗
• 外部性が存在するとき 外部性が存在するとき、市場メカニズムの下では厚 市場メカニズムの下では厚 生損失 (welfare loss) が発生する。
市場均衡(market equilibrium)は点Bで表される。
一方で、社会最適点(social optimum) は点Aで示される。
厚生損失は面積Cで表される。
社会的に効率な生産水準を達成するために(社会厚生を最大 にするために)、線分ADで表されるピグー税(Pigovian tax) を生産一単位当たりに課すことが提案される。
• このモデルは生産活動に伴って発生する社会への負 の影響(外部不経済)が金銭単位で計測されることを 前提とし いる
前提としている。
5 1. 意義と目的
限界社会的費用曲線(MSC=MPC+MEC) 価格
需要曲線
限界私的費用曲線(MPC) 需要曲線
A p
ps
B C
限界外部費用曲線(MEC)
pp B
D
数量 厚生損失
A B C
社会最適点 市場均衡点
図2: 外部性による市場の失敗
qs qp 数量 AD ピグー税
6 図2: 外部性による市場の失敗
1. 意義と目的
環境の経済評価 2008年度演習I(10)
1 3 費用便益分析
1.3 費用便益分析
• 費用便益分析 (cost-benefit analysis) の基本ルール
• 費用便益分析 (cost benefit analysis) の基本ル ル
総便益(B)から総費用(C)を差し引いた純便益(NB)が0よりも 大きいときそのプロジェクトは採択され、0よりも小さいと き棄却される
き棄却される。
採択される 棄却される
• あるプロジェクトが環境に正、あるいは負の影響を 与えるときには、その影響の大きさ(E)も純便益に加
棄却される
与えるときには、その影響の大きさ(E)も純便益に加 えられる。
採択される
Eはそのプロジェクトが環境に正の影響を与えるとき正、負 の影響を与えるとき負の値をとる
棄却される
7
の影響を与えるとき負の値をとる。
1. 意義と目的
環境の経済評価 2008年度演習I(10)
環境の価値失われた
便益
便益 便益
費用 便益
費用
プロジェクトは採択される プロジェクトは棄却されるかもし れない
a. 環境への負の影響がないケース b.環境への負の影響があるケース
8 図3: 費用便益分析と環境の価値
1. 意義と目的
2. 理論的基礎 2. 理論的基礎
9 2. 理論的基礎
2 1 支払意思額
2.1 支払意思額
• 限界支払意思額(marginal willingness to pay:
• 限界支払意思額(marginal willingness to pay:
MWTP)
個人が財やサービスを追加的に一単位手に入れる代わりに支 払ってもよいと考える金額の大きさ。
その財を追加的に一単位手に入れることによって得られる便 益、すなわち限界便益(marginal benefit)を表す。
益、すなわち限界便益(marginal benefit)を表す。
環境に対するMWTPも同様に、個人が環境質レベルの追加的 な上昇に対して支払ってもよいと考える金額を意味し、それ は環境質レベルの追加的な上昇が個人に与える限界便益を表 は環境質レベルの追加的な上昇が個人に与える限界便益を表 す。
• ( ( 総 総 ) ) 支払意思額 支払意思額 (total willingness to pay: WTP) ( g p y )
個人が財やサービスのある特定量の増加に対して支払っても よいと考える所得の大きさ。
10
財のある特定量の増加によって得られる便益(benefit)を表す。
2. 理論的基礎
環境の経済評価 2008年度演習I(10)
MWTP
限界支払意思額曲線
1200 限界支払 額曲線
環境質が2から6に上昇 することによ て得られ 1000
900
することによって得られ 700 る便益
500
環境質が2から 6に上昇すること 400
環境質レベル
0 6
6に上昇すること に対するWTP 2
図4: 環境質の増加に対するWTP (1)
環境質レベル
0 2 6
11 図4: 環境質の増加に対するWTP (1)
2. 理論的基礎
環境の経済評価 2008年度演習I(10)
MWTP
限界支払意思額曲線 限界支払 額曲線
環境質がqq00からqq11に上 昇することによって得ら れる便益
環境質がq0から q1に上昇するこ
環境質レベル
0 q q1
とに対するWTP
図5: 環境質の増加に対するWTP (2)
環境質レベル
0 q0 q1
12 図5: 環境質の増加に対するWTP (2)
2. 理論的基礎
■MWTPとWTPの数学的表現
■MWTPとWTPの数学的表現
限界支払意思額(MWTP)
所 得 と 環 境 の 間 の 限界効用の比
• U:(間接)効用関数
環境質レベル
限界代替率
• q:環境質レベル
• y:所得
支払意思額(WTP)
支払意思額(WTP)
• 変化前の環境質レベル(q0)から変化後のレベル(q1)までMWTPを積分 することによって計算される。
■
13
■
2. 理論的基礎
2 2 支払意思額と受取意思額
2.2 支払意思額と受取意思額
• WTPに対する数学的表現
• WTPに対する数学的表現
• 受取意思額(willingness to accept compensation:
• 受取意思額(willingness to accept compensation:
WTA)
環境改善を諦める代わりに最低限補償して欲しいと思う金額。
環境改善を諦める代わりに最低限補償して欲しいと思う金額。
• 理論的にも実証的にも WTA は WTP よりも大きくなる
• 理論的にも実証的にも WTA は WTP よりも大きくなる。
無差別曲線が原点に対して凸で環境サービスが正常財である 限り、理論上WTAはWTPよりも大きくなる。
14 2. 理論的基礎
環境の経済評価 2008年度演習I(10)
所得
D WTA
y
U(q1, y) WTP
A B
0 環境質
0 q q
U(q0, y) WTP
C
図6: WTPとWTA 0 環境質
0 q0 q1
15 図6: WTPとWTA
2. 理論的基礎
環境の経済評価 2008年度演習I(10)
2 3 WTP と WTA のどちらを選択すべきか?
2.3 WTP と WTA のどちらを選択すべきか?
• ある農村地域において、都市住民のゴミを処理する焼 ある農村 域 お 、都市住民 を処 する焼 却場の建設が検討されている状況を考える。
> この焼却場におけるゴミの焼却に伴う大気汚染は WTPで測られるべきか?WTAで測られるべきか?
> 所有権の所在による選択。
1. 都市住民にゴミ処理サービスを受ける権利がある場合
基準となる水準は大気汚染がある状態。
農村住民のWTPで計測するのが自然。
2. 農村住民にきれいな空気を享受する権利がある場合
基準となる水準は大気汚染がない状態。
農村住民のWTAで計測するのが自然。
16
> しかし、一般に所有権の所在は明確でない。
2. 理論的基礎
WTP
所有権
都市住民 農村住民
所有権
17 図7: WTPとWTAのどちらを選択すべきか?(1)
2. 理論的基礎
WTA
所有権
都市住民 農村住民
所有権
18 図8: WTPとWTAのどちらを選択すべきか?(2)
2. 理論的基礎
環境の経済評価 2008年度演習I(10)
2 4 市場財と非市場財
2.4 市場財と非市場財
• 市場で取引される財
• 市場で取引される財
市場需要曲線が得られる。
それは限界支払意思額曲線の代理として使われうる。
それは限界支払意思額曲線の代理として使われうる。
完全競争市場においては、財の価値はその価格によって評価 される。
ある数量の財を消費することから得られる純便益は消費者余 剰(consumer surplus)で計測される。
• 市場で取引されない財
• 市場で取引されない財
多くの環境財は非市場財(nonmarket goods)である。
市場需要曲線が得られず 価格も観察されないため 特別な
市場需要曲線が得られず、価格も観察されないため、特別な 手法が必要となる。
19 2. 理論的基礎
環境の経済評価 2008年度演習I(10)
価格
需要曲線 需要曲線
財をq’単位消費するときの純便益
消費者余剰 p’
総支出
0 q’ 数量
総支出
0 q 数量
図9: 通常の市場財を消費することから得られる便益
20 図9: 通常の市場財を消費することから得られる便益
2. 理論的基礎
3. 評価手法 3. 評価手法
21 3. 評価手法
3 1 総経済価値
3.1 総経済価値
• 直接利用価値(direct use value)
自然資源を原材料として現在利用することから発生する価値。
• 間接利用価値(indirect use value)
劣化を伴わずに自然資源を現在利用することから発生する価値
劣化を伴わずに自然資源を現在利用することから発生する価値。
• オプション価値(option use value)
自然資源の将来利用可能性を保持することから発生する価値。
自然資源の将来利用可能性を保持することから発生する価値。
• 代理価値 (vicarious value)
現代の他の人々が環境を利用することに対して見出される価値。
• 遺贈価値 (bequest value)
将来世代の利用のために自然資源を保全することから発生する価 値。
値。
• 存在価値(existence value)
自然資源が存在する事実のみに見出される価値。
22 3. 評価手法
環境の経済評価 2008年度演習I(10)
直接利用価値 直接利用価値
例:木材収入
間接利用価値
環 境
利用価値間接利用価値
例:レクリエーション、炭素固定
オプ 価値
境 の総 経
オプション価値
例:将来の個人的なレクリエーション利用
経 済価 値
代理価値
例:他人のレクリエーション利用
値
遺贈価値
例:将来世代のレクリエーション利用
非利用価値
図10 森林資源の総経済価値
存在価値
例:生物の生息地
23 図10: 森林資源の総経済価値
3. 評価手法
環境の経済評価 2008年度演習I(10)
3 2 選好独立アプロ チ
3.2 選好独立アプローチ
• 代替費用法 (replacement cost methods)
• 代替費用法 (replacement cost methods)
被害を受けた(環境)資産を回復させる費用、あるいはその代 替物をつくる費用により、その環境被害の価値(あるいは環 境回復の価値)を計測する手法
境回復の価値)を計測する手法。
例:森林の水源涵養機能の価値を同量の水を蓄えるダム建設 費用で評価する。
• 回避支出法 (avertive expenditure methods)
汚染を回避するための支出でもって、その環境被害の負の価汚染を回避するための支出でも て、その環境被害の負の価 値を計測する手法。
例:騒音の負の価値を遮音材の購入費用で評価する。
• 用量反応法 (dose-response methods)
汚染が人体の健康や作物生産に与える生理学的な影響を予測 し その影響による経済(金銭)損失を計測する手法
24
し、その影響による経済(金銭)損失を計測する手法。
3. 評価手法
3 3 選好依存アプロ チ
3.3 選好依存アプローチ
• 顕示選好法(revealed preference approaches:
• 顕示選好法(revealed preference approaches:
RP)
環境サービスに関連する市場における人々の実際の行動を観 察することによって、その価値を計測する手法。
• 表明選好法(stated preference approaches: SP)
環境サービスに対する人々の選好を直接質問することによっ て、その価値を計測する手法。
• 利点と欠点
• 利点と欠点
顕示選好法によって得られる評価額は、表明選好法によって 得られるものよりも一般に信頼性が高い。
顕示選好法によって評価される環境サービスには限りがある 一方で、表明選好法はあらゆる環境サービスの価値を計測す ることができる。
25
ることができる。
3. 評価手法
代替費用法 代替費用法 選好独立アプローチ
回避支出法
顕示選好法(RP) 用量反応法
選好依存アプローチ
顕示選好法(RP)
ヘドニック法(HPM)
表 選 法
トラベルコスト法(TCM)
表明選好法(SP)
仮想評価法(CVM)( ) コンジョイント分析(CA)
26 図11: 評価手法
3. 評価手法
環境の経済評価 2008年度演習I(10)
3 4 ヘドニック法 (1)
3.4 ヘドニック法 (1)
• ヘドニック法 (hedonic pricing methods)
• ヘドニック法 (hedonic pricing methods)
周辺環境質の差がもたらすその地域の地価(あるいは賃金率) の差を用いて、その環境質の価値を計測する手法。
ある財の特性に対する消費者の選好がその財の価格に反映さ れるという、キャピタリゼーション仮説(capitalization hypothesis)yp )に基づく。
ヘドニック関数(線形の場合)
• p:地価。
• zi:i番目の周辺特性。
β i番目の周辺特性の係数パラメ タ
• βi:i番目の周辺特性の係数パラメータ。
ある環境質レベルを表す変数を で表すとすると、上記の線 形モデルにおいては、そのレベルが から に上昇すること
値
27
の価値は で表される。
3. 評価手法
環境の経済評価 2008年度演習I(10)
地点Aの周辺特性 A B 地点Bの周辺特性
地点Aの周辺特性 地点Bの周辺特性
駅から1km 地価: 100,000円/m2 地価: 120,000 円/m2 駅から1km 駅から1km
NO2濃度を0.1ppm減少させることの価値
駅から1km
公園から100m
2濃度を pp 減少させる との価値 20,000円/m2
公園から100m
×
コンビニから50m NO2濃度: 0.15ppm NO2濃度: 0.05
× × ×
ppmコンビニから50m
28 図12: ヘドニック法の基本的な考え方
3. 評価手法
■ヘドニック法の理論モデル
■ヘドニック法の理論モデル
効用最大化問題
• x:価格を1とする合成財。
• z:居住地の特性変数のベクトル。
• y:所得。
• p:住宅地価(ヘドニック地価関数)。
> これを解くことにより、ある環境特性 に対する潜在価格 (implicit price)が得られる。
> 全ての消費者が同質であるとき、これは に対する限界支払 意思額と一致する。
> 詳しくは建設政策研究センター(1998、pp.18-23)を参照。
■
29
■
3. 評価手法
3 4 ヘドニック法 (2)
3.4 ヘドニック法 (2)
• 手順
• 手順
1. 様々な地点における地価と地価を規定するであろう周辺特性 のデータのセットを収集する。
2. 回帰分析を用いてヘドニック地価関数を推定する。
3. 推定されたヘドニック関数を用いて、他の全ての周辺特性を 一定として ある環境特性の変化に伴う地価の変化を計算し 一定として、ある環境特性の変化に伴う地価の変化を計算し、
それをその環境変化の価値額として用いる。
• 応用例
周辺環境質の評価
• NO2濃度・SO2濃度(金本他1989)、騒音・振動(肥田野他 1996) 水田 樹園地の居城環境保全機能(浅野1998)など 1996)、水田・樹園地の居城環境保全機能(浅野1998)など。
都市整備効果の計測
• 北陸自動車道(肥田野・林山1997)、瀬戸大橋(井原・山村1998)、
30
• 北陸自動車道(肥田野 林山1997)、瀬戸大橋(井原 山村1998)、
高規格幹線道路網(萬他2000)、広域農道(蘭2002)など。
3. 評価手法
環境の経済評価 2008年度演習I(10)
3 4 ヘドニック法 (3)
3.4 ヘドニック法 (3)
• 食品属性評価への応用
• 食品属性評価への応用
1928年、Waughはボストン産アスパラガスの価格と品質と の関係を分析し、次の結果を得た。
• p:アスパラガス価格を平均価格で割ったもの。
茎の緑の部分の長さ(インチ)
• x1:茎の緑の部分の長さ(インチ)。
• x2:茎の数。
• x33:茎の直径のばらつき。茎の直径のばら き。
> この結果から、緑の長さが5インチのものと比較して、8イ ンチのものは38.5セント価格が高いことを明らかにした。
食 安全分 応 例 表 が牛乳 乳製
食品安全分野の応用例としては、HACCP表示が牛乳・乳製 品の価格形成に与える影響を分析した細野(2003)、非遺伝 子組み換え表示が豆腐の価格に与える影響を分析した竹下 (2003)などがあげられる
31
(2003)などがあげられる。
3. 評価手法
環境の経済評価 2008年度演習I(10)
3 5 トラベルコスト法 (1)
3.5 トラベルコスト法 (1)
• トラベルコスト法 (travel cost methods)
• トラベルコスト法 (travel cost methods)
あるレクリエーションサイトへの旅行費用と訪問回数の負の 相関を用いて、旅行費用を価格、訪問回数を数量とするレク リエ シ ン需要関数を推定する手法
リエーション需要関数を推定する手法。
環境のレクリエーション機能の評価に用いられる。
• 手順
• 手順
1. あるレクリエーションサイトに対する訪問者の旅行費用と訪 問頻度を調べるための調査票を作成する。
問頻度を調 る 調 票を作成する。
2. その調査票を使って対象となるサイトでアンケート調査を行 い、データを収集する。
デ を 析
3. そのデータを用いて、回帰分析によりレクリエーション需要 関数を推定する。
4. 各訪問者の純便益(消費者余剰)を計算する。
32
4. 各訪問者の純便益(消費者余剰)を計算する。
3. 評価手法
A
旅行費用: 600 円 4単位買う
B B
旅行費用 1 200 円 2単位買う
旅行費用: 1,200 円
33 図13: トラベルコスト法の基本的な考え方
3. 評価手法
旅行費用
レクリエーション需要曲線リ 需要曲線
B Aさんのそのサイトからの
レクリエーション便益 A
1200
A B
レクリエ ション便益 Bさんのそのサイトからの レクリエーション便益 600
0 2 4 訪問頻度訪問頻度
0 2 4
34 図14: レクリエーション需要曲線と消費者余剰
3. 評価手法
環境の経済評価 2008年度演習I(10)
3 5 トラベルコスト法 (2)
3.5 トラベルコスト法 (2)
• 応用例
• 応用例
自然公園、観光農園などの評価に利用されており、その事例 は膨大。
参考:竹内(1999)、栗山・庄子(2006)。
• 歴史遺産評価への応用
京都の歴史的文化財(青山他2003)、兼六園(玉井・岩井 2006)など。
35 3. 評価手法
環境の経済評価 2008年度演習I(10)
3 6 仮想評価法 CVM (1) 3.6 仮想評価法 –CVM- (1)
• 仮想評価法 (contingent valuation method: CVM)
• 仮想評価法 (contingent valuation method: CVM)
環境改善に対するWTPや環境悪化に対するWTAを直接人々に 質問することによって、環境の価値を直接導く手法。
• 手順
1. 人々の環境変化に対するWTP(WTA)を引き出すための調査票 を作成する
を作成する。
2. その調査票を使ってアンケート調査を行い、データを収集す る。
る。
3. そのデータを用いて、WTPの分布を推定する。
4. WTPの平均値、および中央値を計算する。
36 3. 評価手法
現状
現状 仮想状態 現状 仮想状態
現状 仮想状態 仮想状態
1. 想定される環境変化を人々に伝え る
2. 仮想状態を避けるためのWTPを質問
る。 するする。
37 図15: CVM質問
3. 評価手法
3 6 仮想評価法 CVM (2) 3.6 仮想評価法 –CVM- (2)
• 応用例
• 応用例
環境保全プロジェクトの効果算定、あるいは開発プロジェク トに伴う環境への悪影響の評価など。
表明選好法であるCVMは、基本的にあらゆる環境財・サービ スの評価を可能にするため、その研究事例は膨大である。
参考:栗山(1999) 寺脇(2002)
参考:栗山(1999)、寺脇(2002)。
• 食品安全評価への応用
非遺伝子組み換え食品(澤田2004) 有機農産物(椹木他
非遺伝子組み換え食品(澤田2004)、有機農産物(椹木他 2002)など。
• 歴史遺産評価への応用 史遺産評価 用
京町屋(青山他2003)、高山(岩本他 2006)、五箇山合掌造り (垣内・吉田2002)など。
38 3. 評価手法
環境の経済評価 2008年度演習I(10)
3 7 コンジョイント分析 (1)
3.7 コンジョイント分析 (1)
• コンジョイント分析 (conjoint analysis)
• コンジョイント分析 (conjoint analysis)
様々な属性レベルをもつ選択肢(財や政策)間の選好を質問す ることによって、その属性に対する効用関数を推定する方法。
人々の効用は財そのものからではなく、財の特性から得られ るとする考え方(特性アプローチcharacteristic approach) に基づく。
ランカスター型の(間接)効用関数(線形の場合)
• U:効用。
• zi:財、あるいは政策のi番目の属性。
財の価格 あるいは政策に対する支払い(税金など)
• p:財の価格、あるいは政策に対する支払い(税金など)。
• βi:i番目の属性の係数パラメータ。
ある属性 に対するMWTPは、その属性レベルの追加的上昇
39
ある属性 に対するMWTPは、その属性レ ルの追加的上昇 に対して受け入れられる価格上昇額 で表される。
3. 評価手法
環境の経済評価 2008年度演習I(10)
属性 A B C
CPU Pentium 4 Pentium M Celeron M
ハードディスク 40GB 60GB 80GB
メモリー 1GB 256MB 512MB
重量 6kg 3kg 1kg
重量 6kg 3kg 1kg
色 Silver Blue Purple
価格 $50 $150 $100
図16 ラップトップコンピ タに対する選好
40 図16: ラップトップコンピュータに対する選好
3. 評価手法
3 7 コンジョイント分析 (2)
3.7 コンジョイント分析 (2)
• 手順
• 手順
1. 様々な財や政策に対する人々の選好を引き出すための調査票 を作成する。
2. その調査票を使ってアンケート調査を行い、データを収集す る。
3 そのデータを用いて 回帰分析により効用関数を推定する 3. そのデータを用いて、回帰分析により効用関数を推定する。
4. 各属性に対する限界支払意志額を計算する。
• 応用例
• 応用例
環境保全プロジェクトの効果算定、環境配慮商品の評価など。
CVM同様 基本的にあらゆる環境財・サービスの評価を可
CVM同様、基本的にあらゆる環境財 サ ビスの評価を可 能にするため、その研究事例は膨大である。
参考:栗山・庄子(2006)。
41 3. 評価手法
プ プ プ
Q: あなたにとって最もよいプランはどれですか?
保護される動物の
種の数 100 200 150
プランA プランB プランC 属性
保全される植物の
種の数 500 300 1000
水質 税金の上昇額
非常に良い
2000円
非常に悪い
1000円
やや良い
3000円 税金の上昇額 2000円 1000円 3000円
□
□ □ □ □ □
□
□ □ □ □ □
図17 選択質問
42 図17: 選択質問
3. 評価手法
環境の経済評価 2008年度演習I(10)
3 7 コンジョイント分析 (3)
3.7 コンジョイント分析 (3)
• 食品安全評価への応用
• 食品安全評価への応用
HACCPラベル、エコラベル、地場農産物、トレーサビリ
ティ、BSEなど(澤田2004) 。
• 歴史遺産評価への応用
日本では三谷(2004)以外ほとんど例がみられないが、欧米 は歴史遺産保全プ ジ クトの評価 の応用が多く見られ では歴史遺産保全プロジェクトの評価への応用が多く見られ る。
43 3. 評価手法
環境の経済評価 2008年度演習I(10)
■コンジョイント分析におけるMWTPの導出
■コンジョイント分析におけるMWTPの導出
線形の効用関数を仮定する。
> これを全微分する。
> 効用を一定としたときの、ある属性 と価格 との間の関係を
みるため として上の式を整理する
みるため、 、 として上の式を整理する。
> に対する限界支払意思額は で表される。
44 3. 評価手法
3 8 RP と SP の混合 仮説的トラベルコスト法
3.8 RP と SP の混合 -仮説的トラベルコスト法-
• 仮説的トラベルコスト法(hypothetical travel cost
• 仮説的トラベルコスト法(hypothetical travel cost methods)
トラベルコスト調査においてある仮想的な状況の下での訪問 回数を質問することによって、現状についてだけでなく潜在 的なレクリエーション需要関数をも推定し、それらの変化か らその仮想的な状態変化がもたらす便益(費用)を計測する手 法
法。
トラベルコスト法とCVMの混合。
参考:大石 渡邉(2002)
参考:大石・渡邉(2002)
45 3. 評価手法
旅行費用
環境が改善された場合の潜在的 なレクリエーション需要曲線
A円の旅行費用をもつ人がこの環境 改善から受ける便益
改善から受ける便益
現状のレクリエーション需要曲線 A
0 訪問頻度訪問頻度
0
46 図14: レクリエーション需要曲線と消費者余剰
3. 評価手法
環境の経済評価 2008年度演習I(10)
引用文献 引用文献
青山吉隆・中川大・松中亮治(2003)『都市アメニティの経 済学-環境の価値を測る-』学芸出版社。
浅野耕太(1998)『農林業と環境評価』多賀出版。
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