協和理論を用いたメディア・アートの制作について How to Make Media Art Using Consonance Theory
1W090069-7 内山 智貴 指導教員 菅野 由弘 教授
UCHIYAMA Tomoki Prof. KANNO Yoshihiro
概要: 音のどのような要素が人間に「協和」、「不協和」の感覚を生じさせるのか、今まで様々な研究が行われ 一定の成果を上げている。しかし、そのような研究によって得られた「協和度」、あるいは「不協和度」といった 値を実際にどのように音楽やアートに応用していくのかについてはあまり研究が進んでいないといえる。本研究 では、亀岡、厨川により提唱された協和理論を用いたメディア・アート作品「resolve」を制作し、その過程を通 して協和理論の応用をアート作品に導くプロセスと手法を提案する。「resolve」は、協和理論を用いて協和度をリ アルタイムに計算し、その結果により和音の構成音が随時変動することで、多様な印象を与えることを目的とし たアート作品である。
キーワード:メディアアート、生成音楽、協和理論、協和、不協和
Keywords:media art, generative music, consonance theory, consonance, dissonance
1. 序論
音楽におけるハーモニーを論ずる上で、協和感、
不協和感というのは重要な要素だといえる。それ ゆえ、協和感を物理量から求める方法について今 まで様々な理論が提唱されてきた。しかし、その ような理論によって得られた値を実際にどのよ うに音楽やアートに応用していくのかについて はあまり研究が進んでいないといえる。本研究で は、協和感を求める理論について述べた上でそれ を用いたメディア・アート作品「resolve」につ いて記述する。その上で本作品の制作を通して、
協和理論の応用をアート作品に導くプロセスと 手法を提案する。
2. 協和理論について
音の「協和」、「不協和」と周波数の関係につい て、今までの研究を体系的にまとめ、科学的な側 面から「協和感」について迫った論文が 1965 年 に 書 か れ た Plomp & Levelt に よ る Tonal Consonance and Critical Bandwidth *1である。
この論文では倍音間のうなりが主な不協和の原 因であるとしていて、周波数比が単純な整数で表 されるとき協和となることを実際に計算で導い ている。このPlomp & Leveltによって提唱され た協和度の計算方法をより厳密かつ定量的にし た も の が 亀 岡 、 厨 川 に よ り 提 唱 さ れ た Consonance Theory Part I,II *2である。本研究
ではこの論文に基づき協和度の計算を行う。
3. メディア・アート作品「resolve」の制作 システムによってリアルタイムに生成される 音楽は一般に生成音楽(generative music)と呼 ばれる。近年、コンピューターの性能の向上によ り、音をリアルタイムに生成することの敷居が低 くなった。その結果としてたくさんの生成音楽と 呼ばれる作品が生まれたが、経験的な音楽理論に 基づいて単に音を配置しているにすぎない作品 も多く見受けられる。
メディア・アート作品「resolve」では協和理 論を利用し、不協和感、協和感、そしてそれらの 間の遷移にスポットを当てることで、新たな表現 の可能性を模索している。
図 1 がその実際の画面である。
図1「resolve」の実際の画面
画面上には次々と円が描かれ、消えていく。この
一つ一つの円が特定の音色、音程、音量を持った 一つの音を表現している。(円の横座標が音程、
縦座標によって定まる色が音色、円の大きさが音 量を表している)
プログラム上では前述した Consonance Theory に基づきリアルタイムに協和度が計算され、その 結果に呼応して一つ一つの円が横方向に運動し、
音程を変化させる。画面の色は暗くなったり、明 るくなったりを繰り返していて、暗いときには全 ての円はより不協和になるよう動き、明るいとき にはより協和になるように動く。それにより、
様々な協和感、不協和感、そして暗(不協和)か ら明(協和)、またはその逆に転じる際に多様な 印象を鑑賞者にもたらすことが、本作品の一つの 狙いである。
「resolve」では実装に Processing を使用して いる。また、リアルタイムに音を処理するために minim というライブラリを用いている。図 2 にプ ログラムの構成を示す。
図2 「resolve」の実装方法
Node クラスは一つ一つの円を表すクラスであり、
メインプログラムからインスタンス化される。ま た、協和度に応じて自身の動きを制御する変数、
メソッドを持ち、AddSynth クラスをインスタン ス化し保持を行う。AddSynth クラスは加算合成 により実際に音を生成するクラスである。
4. 考察•結論
メディア・アート作品「resolve」について技術 的な側面と、アートとしての側面から考察を行う。
・技術的な側面
まず協和感についてだが、狙い通り明るいとき と暗いときで協和感の差を感じることができた。
しかし一方で明るいときでもはっきりと協和感 を感じられない場合も見受けられた。これには音
色の統一感の無さや、協和度の計算の際に生じる 誤差などいくつかの原因が考えられる。また、本 作品では円で表されたそれぞれの音が独立して 計算を行い、自身の音高が変化したときに全体と しての協和度がより協和(不協和)になるように 音高を変動させている。しかし多くの音が同時に 鳴っている場合それぞれの音の音高の変化が全 体の協和度に及ぼす影響が小さくなり、結果とし て協和(不協和)的な響きになりづらいというこ とも大きな要因として考えられる。
次に同時に約10音以上の音がなると処理が重 くなり、音にノイズが乗ってしまう現象について 考察する。本作品では一つ一つの音を5つの正弦 波を重ねることで生成しているが、亀岡らによる 協和理論ではすべての部分音の組み合わせから 協和度を算出するために、同時に多くの音がなる と必要な計算量が膨大になってしまう。そのため このような現象が起こると思われる。
・アートとしての側面
本作品の制作において一番重視したことは既 存の音楽理論とは異なる視点から音を構成して いくことである。そのために人間が生来持ってい る“協和”という感覚にのみ着目して和音を構成 していくことで生成音楽として新しい表現を追 求することができた。一方で反省すべき点として は協和感という一つの尺度だけで音を構成した ことにより、単調な展開になってしまったことが あげられる。
・結論
「resolve」の制作においては前述のような解 決すべき課題が残るものの、全体としては自分が 表現したかったものを作り上げることができた と感じている。今回は音楽の要素の中でハーモニ ーに着目し、協和理論を用いて作品を制作したが、
同じようにリズムやメロディーの根底にある生 理的な特性を取り入れていくことで、より深みの あるアートに発展させていくことができるので はないかと思う。
注:
*1 Plomp, R. and Levelt, W. J. M. 1965 “Tonal Consonance and Critical Bandwidth”. Journal of the Acoustical Society of America.
* 2 Kameoka, A. and Kuriyagawa, M. 1969
“Consonance Theory Part I, II”. Journal of the Acoustical Society of America.