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大阪の役割と中堅・中小企業の可能性

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Academic year: 2021

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講師 更家 悠介 氏

●中堅・中小だからこそ素早く対応できるはず  私は主催者の両方に関係し、大阪商工会議所では 中堅・中小委員会の委員長、生産技術振興協会では 常務理事をしております。商工会議所の役割の中で 中堅・中小企業の政策要望を取りまとめ国に伝える 機能があり、7 月 11 日には中小企業庁長官に要望 書を手渡すことになっています。要望をまとめる際 に、大震災後の中堅・中小企業が厳しいとか、リー マンショック後の状況が厳しいままだとか、後ろ向 きの話題がどうしてもベースになってしまいがちで すが、私は中堅・中小企業が頑張って前向きに取り 組むことが大事だと思っております。

 振り返れば 1989 年のベルリンの壁崩壊、91 年の 国内バブルの崩壊というように、日本全体を見渡す と経済は落ちる一方の感じがあります。その中でも 大阪の地位はどんどん落ちて、中部圏にも追い越さ れてしまった状況です。ここらでこの傾向を盛り返 さなければなりません。我々中堅・中小企業にとっ て得意なことは何でしょうか。大企業と比べ従業員 数をはじめ経営規模が小さく全体を見通しやすいた め、本来なら変化に対し素早い対応ができるはずで す。そして変化に対して、「前向き」に対応してい かなければならないと思います。

 高校野球部の女子マネージャーがドラッカーのマ ネジメント論を勉強し、弱小野球チームを変革して 全国大会出場を目指すという物語が話題になってい ますが、ドラッカーは「イノベーションと企業家精 神」という本を書いています。その中で、企業家と は 「変化を知る」、そして「変化に対応し、変化を チャンスとして捉えることができる」と定義づけし ています。それは前向きな気持ちがあってこそのこ とです。牛乳瓶の牛乳の量が半分になったとして、

「半分も飲んでしまった」と思うのか、「半分も残っ ている」と思うのか。また、アフリカに行って「皆 が靴を履いていないからマーケットはない」と思う のか、「これから皆が靴を履いてくれるから 100%

のマーケットがある」と考えるのでは、見方が 180

度違ってきます。事業化とは、ビジネスとして持続 可能な形につくり上げていくことであり、単に技術 があればよいというものではなく、ものづくりの技 術だけでなく、サービス産業であれ何であれ、イノ ベーションが必要です。我々にとっては、イノベー ションつまり革新を念頭にした事業化が大切なこと だと思います。

●変化に対し組織的対応も必要

 「変化を知る」ことでは、中小企業の社長が自ら の感性によって変化を知るというのが特長のようで すが、企業規模が大きくなっていくと組織論も必要 になってきます。私は先週、3M(スリーエム、

Minesota  Mining  Manufacturing)の日本法人を訪 問する機会がありました。同社は米国ミネソタで発 祥した会社です。イノベーションに取り組んでいる ことで有名で、ふつうに見られるテクノロジーを磨 き上げています。例えば、紙のうしろに粘着テープ をつけたポストイットはグローバルマーケットで大 きなシェアを確保しています。タワシや磨きパッド でも非常に高いシェアを占めている様です。同社で は新商品で 1 年以内に売上の 10%を、4 年以内に 40%を構成することを経営目標にしています。日 本法人の社長はインド人のシンさんという人で、年

特 集 1

大阪の役割と中堅・中小企業の可能性

更 家 悠 介

大阪商工会議所 中堅中小企業委員長

(2)

間売上は約 2300 億円、世界の 3M 全体の約 1 割を 占めます。シンさんは 40 代の若い経営者ですが、

2002 年に入社、ミネソタで採用されて 3 年前に来 日し、現在は日本の社長。こうした人材をどんどん 登用していることに私も感心しました。

 1 年で 10%、4 年で 40%という経営目標どおりに 開発ができているのかをシン社長に聞いたところ、

実現できているとのことでした。また、研究開発の 現場担当者は、85%は上司に指示された会社の研 究開発を行うものの、15%は担当者の好きなこと、

興味のあることを研究してもよいことになっていま す。上司の許可なく、無条件にできることが徹底さ れているということです。いちばん感心したのは、

テクニカルセンターでの取り組みです。ここではお 客さんを呼び込んで、同社が持つ様々なコアテクノ ロジーを説明、「お宅の市場で何かつながることは ありませんか」と呼びかけて徹底的にディスカッシ ョンしています。お客さんと一緒になってのグラウ ンドワークから商品開発をしていることがイノベー ションだということで、同社はそれを組織的に行っ ているわけです。我々の中堅・中小企業も、お客さ んと一緒にやっていくような工夫が大事ではないで しょうか。

●顧客の言葉に前向きに取り組む

 当社の創業は 1952 年ですが、当時の日本では赤 痢が流行していました。創業者である私の父は熊野 から出て仕事を始めるために何がよいのかと思案し、

新宮で漢方薬を扱う人を口説いて大阪で三恵薬糧と いう会社を創業、健康食品を販売したものの、あま り売れなかったようです。繊維全盛の頃だから職域 販売ということで繊維会社に営業していた時に、「そ

れよりも手が洗える石鹸液とディスペンサー(液体 定量吐出装置)があれば買ってやる」と言われまし た。父は大阪専門学校(近畿大学応用化学の前身)

の出身ですから、石鹸づくりはイロハのイの字、石 鹸剤をつくりディスペンサーを組み合わせて持って いきました。それがサラヤの仕事の始まりです。う がい薬やアルコール消毒へと広がっていくわけです が、アルコールも昔は洗面器に消毒液を入れて手を 浸していました。ここのイノベーションは、洗面器 の中の菌を調べてみたところ、4 人目、5 人目には 溶け出した手の汚れの有機物によって殺菌効果がな くなり、6 人目、7 人目には逆に汚れが増えてしま うことが分かりました。それではだめだと、アルコ ールをその都度噴射する噴射法による消毒器を作り、

1982 年に噴射法によるアルコール消毒を始めました。

今は病院の入り口を始め様々な所で使われ、世界的 にも普及しています。こうした商品づくりのイノベ ーション、何かおかしいのではないかと疑問を抱く こと、お客さんに言われたことを前向きに取り組ん で実現できたことが企業の発展につながっていると 思います。

● 50 周年契機にグローバル化宣言

 当社は 2002 年の創業 50 周年の年に「グローバル 化宣言」をしました。当社が現在取り扱う洗剤やデ ィスペンサーなどは、ある部分では価格競争が激し い分野ですが、世界にも積極的に出ていくことにな り、当時から現在までに 3 つのプロジェクトが進ん でいます。

 その 1 つは「ボルネオの自然保護」ですが、次の ことがきっかけでした。当社は植物系油を使った台 所用のヤシノミ洗剤を作っているのですが、テレビ のインタビューでヤシノミ洗剤の原料のパーム油が、

ボルネオの象の環境に影響を与えていると指摘され

ました。パーム園の拡大で現地の象が難儀している

ということです。環境によい洗剤と言いながら、一

方で環境に悪いことをしているのではないかと言わ

れたわけです。それをまじめに受け止めて、ボルネ

オに行って象の保護活動に乗り出し、ボルネオ保全

トラストを支援し、消費者の方々とのコミュニケー

ションを行いながらヤシノミ洗剤のことも知ってい

ただくという、逃げずに進めていったことがプラス

に動いて、ヤシノミ洗剤関係の売上は年間 15 億円、

(3)

その他のコンシューマー商品を含めれば年商約 35 億円になってきました。

 2 つ目ですが、WHO(世界保健機関)の本体で

「Clean  Care  is  Safer  Care」というキャンペーンが 行われています。このように医療分野での「手指衛 生」の推奨は日本だけでなくグローバルで行われて います。今年 6 月末には、ジュネーブで感染予防の 展示会と感染症関係のドクターを集めた国際会議が あります。「プレッジ」というのですが、手指衛生 の普及活動の宣言に賛成している国は先進国・発展 途上国を含め 120 カ国ありますが、企業として参加 しているのは世界で 6 社、アジアからは当社だけで す。何のために参加するのかと聞かれますが、やは りグローバルの中で競争することは緊張感があり、

新しい商品をさらにグレードアップしようという気 になります。例えば手術前の手指消毒では、殺菌剤 と組み合わせたときに昔は 5 分間もブラッシングし ていました。外科手術では手指を内臓に突っ込んで いくわけですから手指が不潔だと感染をおこす可能 性があるからです。これがアルコール消毒になって きて、今では 30 秒で手洗いをする時代になってい ます。30 秒で術前手指消毒をするためには、薬剤 機能とデリバリーの方法が最前線だといわれます。

やはりそういった最前線の場に行かないと技術は磨 かれないし、イノベーションのヒントも出ません。

また医療の感染予防では、手洗いの次には医療器具 の洗浄・消毒(滅菌等)、医療環境の洗浄・消毒と いうような展開の可能性があります。6 月末に社員 十数人がジュネーブに出かけて 1 週間で展示会をや っていますが、私も途中から参加してきます。

●ウガンダで「100 万人手洗いプロジェクト」

 3 つ目は、アフリカ・ウガンダでユニセフととも に昨年から「100 万人の手洗いプロジェクト」をや っています。日本で赤痢が多かったように、ウガン ダで子供が死亡する三大原因は下痢、マラリヤ、HIV。

母親が子供のお尻の世話をして、手を洗わないまま 子供に直接食事を与えるので、下痢になって死んで しまう子供が多いわけです。私も昨年、ウガンダに 行ってきました。これは 3 年間のプロジェクトで、

2 年目の今年は何とかビジネスとしても持続可能な ことができないかと話をしていて、偶然にも現地で 青年海外協力隊 OB の宮本君と出会い、彼と一緒に 会社をつくろうということになりました。新会社は 手洗い関係の仕事になりますが、会社の登記も今年 5 月に終わりました。ウガンダは途上国ですが中に は大金持ちもいます。大金持ちの砂糖メーカーを口 説いて、アルコールをつくろうと考えています。砂 糖を精製するときに廃棄物に廃糖蜜がありますが、

酵母を加えるとアルコールが作れます。いい酵母を 日本から持ってきますからアルコールを作りましょ う、当社もそのアルコールを買いますと持ちかけた わけですが、前向きで現在そのビジネスの構想を練 っているところです。発展途上国を対象とする BOP(Base  Of  the  Pyramid)ビジネスが話題にな っています。アフリカの伸びしろのある途上国の経 済は年間 5%〜 10%というように毎年経済が伸びて おり、今の段階で入っていけばそうしたマーケット に入れるのではないか。そうした人といかに商売が できるかということもイノベーションですね。

●きらりと光る技術、そしてイノベーション

 やはり我々は、イノベーションを起こすという気

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持ちを持って、仕事に取り組んでいくことが大事だ と思います。それぞれが我田引水的にやるのですが、

その中で CSR(企業の社会的責任)というか、我々 として何をしていくかが大事だと思います。とくに 環境問題、持続可能な社会という観点からいうと、

エコロジカル・フットプリント(地球の環境容量を 表す指標)では、世界の人たちが日本と同じような 生活をすると地球が 2.4 個いり、アメリカと同じよ うな生活をすると 5.3 個いるといわれています。地 球は 1 個しかありませんので、まさに資源の有用性 が指摘されているのです。今回の大震災を契機に日 本では、強烈にエネルギー制限や省エネが言われて います。火力発電所や原発をどうするかの議論を通 じて、エネルギーに対する持続可能性が問われてい ます。食料では、小麦の価格が上がっていますが、

一方で米相場を再び大阪に復活しようと大阪商品取 引所の岡本君らが中心となって取り組んでいます。

農業も工業も全てが持続可能性の問題に絡んできて いますので、こうしたことに正しい考え方でイノベ ーションをしながら仕事をしていく。筋目はきちっ と正していくことが、日本人にとってやはり大事な ことだと思います。中国と値段の競争をしても負け ます。きらりと光る技術や、きらりと光るイノベー ションの中で、新しい考え方と世界のグローバルな 価値とを共有しながらビジネスに取り組むことが大 事だと、私は思っています。

 今回の大震災では原発問題がいちばん憂鬱です。

事故後 1 日、2 日の初期対応の責任が国会等でも議 論されていますが、日本最高のリーダーである総理 とビジネス界最高のリーダーである東電社長のどち らもが、リーダーシップを発揮できなかったのには、

もっと根が深いものがあるように思います。1 つは

中央官庁のあり方に問題があり、産業との関わりや 技術へのルールづくりをもう一度見直す必要がある と思います。反省を踏まえて、我々はどのような形 を目指すかといえば、やはり大阪、関西の役割は非 常に大きいと思っています。とくに首都機能がやら れたときの副首都としての在り方を明確にし、関西 に分権をして予算や権限を自ら行使できるような国 の形を目指さないと厳しいのではないでしょうか。

過去からの中央集権的なやり方がまったく機能しな くなったシンボルが、今回の震災対応にもでている のではないかと思います。東北にも早く復興省をつ くるべきです。町のことはいちばん住民の方が知っ ているわけで、予算と権限を下ろして、それを大き な枠で認めていくということが最も正しい国の姿だ と思います。

●イノベーションは周辺から興る

 我々としては強い関西を目指すべきで、その中心 となるのが中堅・中小企業です。最初に申し上げた イノベーションというのは、歴史を振り返ると中央 からは興っていません。体制の中で満足しているか ら興りにくいわけです。イノベーションは、センタ ーより周辺から興りやすい。逆にいうと我々は切磋 琢磨して、新しい技術やイノベーションを興す心意 気がないとやっていけないと思います。さきほど生 産技術振興協会の巽さんは「産学金」と言われまし たが、やはり 「お金」 は大事です。今回は金融関係 の方々も積極的に参加されていますが、東京の強さ はいろいろなタイプの投資・金融機関が揃っている ことです。そして積極的にハイテクやソフトに金を 出し、それを上場まで持っていって上場益を得、90 年代以降もホリエモンに代表される億万長者がたく さん出ています。しかし、関西からものづくりや社 会的な CSR を含めてかなり新しい姿のイノベーシ ョンをしながら、そこに産学金と金も付いていただ いて、大阪から発信できることを望んでおります。

 とくに生産技術振興協会は学術面で先生方とのつ なぎ役をやらせていただいています。穴は OB の先 生方で、退官された先生方はまだまだ元気であり、

人脈、コネなどはかなり持っておられます。学校に

居る時は制約があって自由に活動ができにくいので

すが、OB になれば制約がなくなりますから、共同

研究や相談事など積極的な連携をやっていただけれ

(5)

ばと願っています。共同研究のような大きなものは 大阪大学と直接やるということになると思いますが、

具体的な研究開発というよりもアドバイザリー契約 のような軽い形で関わっていただくこともよいので

はないかと思います。

 最後になりましたが、皆様も関西・大阪から元気

を出していけますように、よろしくお願いしたいと

思います。ご清聴、ありがとうございました。

参照

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