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-自尊感情を構成する観点の『関係の中での自己』に着目して-」

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Academic year: 2021

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「より良い人間関係を築く能力や態度を育成し、社会性を養う指導の工夫

―自尊感情を構成する観点の『関係の中での自己』に着目して-」

(12)-①

研究主題「より良い人間関係を築く能力や態度を育成し、

社会性を養う指導の工夫

-自尊感情を構成する観点の『関係の中での自己』に着目して-」

東 京 都 教 職 員 研 修 セ ン タ ー 研 修 部 教 育 開 発 課 東京都立荻窪高等学校 養護教諭 菅原 良枝

第1 研究のねらい

現代の思春期の生徒は、自己肯定感が低いだけでなく、不安感や抑うつ感が高い傾向がある。

また、東京都教育相談センター「今、思春期の子供たちはどのように生きているか-意識調査か らとらえた実態-」 (平成 18 年)の調査から、悩みの対処法として、約半数の生徒が「我慢をす る」、約3割の生徒が「攻撃行動に出る」ということが実態として分かっている。

保健室での健康相談活動においても、悩みや心配事があったときに消極的行動をとってしま う生徒や人とうまく関われない生徒が見られた。新しい人間関係や友達を作りたいが、過去の 人間関係の失敗体験を克服できず、失敗を恐れるあまり、積極的に働き掛けることができない 傾向があった。生徒の相談に対して助言をしても、悲観的な考え方を繰り返し、前向きな解決 ができない生徒がいた。

これらのことから、認知行動療法にあるように、 「感情」と「考え方」と「事実」を整理して 客観的に問題の本質に気付くことができるようにするとともに、有効な人間関係を築く力を生 徒に育てる必要があると捉えた。また、有効な人間関係を築く力を深めるためには、自尊感情 を高めることで、自分もできるという自信を付けることが大切であると考えた。

自尊感情とは、 「他者と自己との関わり合いの中から、自分をかけがえのない存在、価値ある 存在として捉える気持ち」(東京都教職員研修センター紀要第9号)(平成 22 年3月)であり、

人間関係を築くための大事な力である。自尊感情を構成する観点のうち、「関係の中での自己」

に着目し、他者との関わり合いを通して、考え方の多様性に気付き、自己理解・他者理解を深 め、自尊感情や自己肯定感を高めたいと考えた。

そして、高等学校を卒業後、就職や進学をする生徒が、より良い人間関係を築く能力や態度 を身に付け、社会で自立して生きてほしいという思いから本主題を設定した。

第2 研究仮説

第3 研究の内容と方法 1 基礎研究

(1) 自尊感情を高める指導について

東京都教職員研修センターの研究(平成 20~24 年度)では、自尊感情は3つの観点「A自己

評価・自己受容」「B関係の中での自己」「C自己主張・自己決定」から構成されているとして

いる。 「A自己評価・自己受容」は自分のよさを実感し、自分を肯定的に認めることである。 「B

関係の中での自己」は、多様な人との関わり合いを通して、自分が周りの人の役に立っている

ことや周りの人の存在の大切さに気付くことである。 「C自己主張・自己決定」は、今の自分を

他者との関わり合いを通して自己理解・他者理解を深め、自尊感情を高めるとともに、適

切な自己表現の在り方を実践的に学ぶことによって、より良い人間関係を築く能力や態度が

身に付くだろう。

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「より良い人間関係を築く能力や態度を育成し、社会性を養う指導の工夫

-自尊感情を構成する観点の『関係の中での自己』に着目して-」

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受け止め、自分の可能性について気付くことである。

(2) 人間関係を築く能力や態度を培う手だて

文献研究により、社会性は自然に身に付くものではなく、未就学段階から学習を通して獲得 していくものであることが分かった。社会で生活していく上でのスキルを学習し、それを身に 付けるための手だてとして、出来事を客観的に捉え、事実と感情を整理して考える方法がある。

自尊感情が低い傾向にあると、葛藤に直面するような出来事が起きたとき、自分自身のことを 責めてしまい、解決に向けて前向きな行動がとれなくなることがある。そのような時、悩みを 文章に書いたり、誰かに話したりするなど言語化することで、課題を明確に捉えることができ るようになる。また感情は、考え方により変化することを理解すれば、次の行動も積極的なも のに変容すると考えた。

2 調査研究

都立A高等学校 160 名を対象に自尊感情の傾向を把 握するために、「自尊感情測定尺度(東京都版)」を活 用して調査を行った。(図1)

調査結果より、自尊感情を構成する3観点のうち、

「自己評価・自己受容」のポイントが低い傾向が見ら れた。これは、思春期・青年期に多く見られる傾向で

あり、自分に自信がなく、自己を否定的に捉える傾向が強いと考えられる。

一方、 「関係の中での自己」のポイントが3観点の中では比較的高いことから、他者との関わ り合いを大切にしている傾向が伺えた。そこで、よいところに視点をあてることにより、学習 に積極的に取り組むことができ、自信が付いて自尊感情も高まり、より良い人間関係が築ける と考え、「関係の中での自己」に視点をあてて、保健指導の授業を行うことにした。

3 開発研究

(1) 「望ましい人間関係を築くスキル」を習得する保健指導

葛藤に直面するような出来事が起きたとき、一つの考え方や感情に捉われるのではなく、自 分の立場から見た場合と相手の立場から見た場合を考えることができるようにし、客観的に物 事を捉えることをねらいとした。

ブレインストーミングや話合い活動等で、他者の意見を聞くことにより、多様な考えがある ことを知り、その人がどういう考えをもっているのかを理解

したり、自分を内省的に捉えたりすることができるように なると考えた。

行動の仕方として、多様な行動の選択肢を増やし、自分 がストレスを感じない範囲でその場面にふさわしい行動を 選択できるようにすることをねらいとした。

(2) 健康相談活動で活用できるシート

出来事を客観的に捉え、別の視点から考え方を捉え直 すことにより、感情が変化していくことを理解できるよう

にする。集団指導後に保健室で個別の健康相談活動を行うとき、「悩み解決ワークシート」(図

今 、 悩 ん で い る こ と は 何 で し ょ う か ?

感 情 悲 し い

そ の 時 の 考 え 嫌 わ れ た ん だ

別 の 考 え 忙 し か っ た の か も し れ な い 感情・行動の変化 不 安 な 気 持 ち が 減 っ た 。

ま た メ ー ル を し て み よ う 。 A 子 さ ん か ら メ ー ル の 返 信 が こ な い

養 護 教 諭 よ り : 2 2.5 3 A自己評価

自己受容

B関係の中 での自己 C自己主張

自己決定

調査校平均 A高校平均 図 1 自 尊 感 情 の 傾 向 (結 果 )

図 2 悩 み 解 決 ワ ー ク シ ー ト (例 )

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「より良い人間関係を築く能力や態度を育成し、社会性を養う指導の工夫

―自尊感情を構成する観点の『関係の中での自己』に着目して-」

(12)-③

図 3 自 尊 感 情 ポ イ ン ト 推 移 (3 学 年 2 学 級 全 体 )

2)に「悩み(出来事)」「そのときの感情」「そのときの考え方」などを書き込む。書くことや 養護教諭と話すことにより、自己の思考が言語化され、出来事や感情をより具体的に認識し、

客観的に出来事を捉えることができるようにする。生徒の悩みを認識した後、別の視点からの 考え方をアドバイスすることで、生徒の感情やその後の行動に望ましい変容が見られることが 期待される。

4 検証授業 (1) 概要

より良い人間関係を築く能力や態度を育成し、社会性を養う学習指導の有効性を検証した。

対象:都立A高等学校 第3学年 2学級 (表1)

題材:コミュニケーション能力を高め、良好な人間関係を築こう (3時間扱い)

表 1 検 証 授 業 概 要

活 動 学 習 内 容 ・ 学 習 活 動 ね ら い

多 様 な 考 え 方 を 知 ろ う (第 一 時 )

・ブ レ イ ン ス ト ー ミ ン グ や 話 合 い 活 動 に よ る 他 者 と の 関 わ り 合 い の 中 か ら 、 多 様 な 考 え 方 が あ る こ と を 理 解 す る 。

・悩 み の 事 例 に つ い て 、班 ご と の 話 合 い 活 動 で 考 え 方 や 解 決 方 法 を 意 見 交 換 し 、 ど の よ う な 考 え が あ る か 確 認 す る 。

ブ レ イ ン ス ト ー ミ ン グ を 通 し て 、 多 様 な 考 え 方 を 知 り 、 他 者 理 解 ・ 自 己 理 解 を 深 め る 。

別 の 考 え 方 を し て 、 ス ト レ ス を 小 さ く し よ う (第 二 時 )

・ 一 つ の 出 来 事 に つ い て 、 今 、 捉 え て い る 考 え 方 を 書 く 。

・一 つ の 出 来 事 に つ い て 、相 手 の 立 場 に 立 っ て 考 え( 別 の 角 度 か ら 考 え )、そ の と き の 感 情 を ワ ー ク シ ー ト に 書 く 。

・ さ ら に 、 他 の 考 え 方 の 可 能 性 は な い か 考 え て み る 。

考 え 方 に よ り 感 情 が 変 化 す る こ と を 理 解 す る 。

別 の 考 え 方 を す る こ と に よ り 、 気 持 ち が 楽 に な る こ と を 体 験 す る 。

行 動 の 選 択 肢 を 広 げ よ う(第 三 時 )

・ロ ー ル プ レ イ ン グ に よ り 、自 分 の 立 場 と 、相 手 の 立 場 に 立 っ て 行 動 を 考 え る 。

・相 手 に と っ て 不 快 に な ら ず 、ま た 、自 分 も ス ト レ ス に な ら な い 、 無 理 を し な い 行 動 は ど れ か 考 え る 。

・一 つ の 事 例 に つ い て 、対 処 法 を 班 で 意 見 交 換 す る 。発 表 し 、 生 徒 同 士 で 意 見 を 共 有 す る 。

・イ ラ イ ラ し た り 、ス ト レ ス が た ま っ た り し た と き に 、リ ラ ッ ク ス す る た め の 呼 吸 法 を 知 る 。

ロ ー ル プ レ イ ン グ 等 の 方 法 を 活 用 し て 、 実 践 的 に 適 切 な 自 己 表 現 力 を 身 に 付 け る 。

(2) 指導の工夫 (ブレインストーミングや話合い活動、ロールプレイング)

「関係の中での自己」に視点をあてた授業 を行うことにより、他の観点「自己評価・自 己受容」 「自己主張・自己決定」のポイントも 高まると想定した。そこでブレインストーミ ングや話合い活動、付箋を介して互いの意見 を伝え合う等の活動を行った。

「自尊感情測定尺度(東京都版)」を使用し、

授業後の調査の結果、授業を行った2学級は、

「自己評価・自己受容」「関係の中での自己」

「自己主張・自己決定」のポイントが上昇し た(図3)。他者との関わり合いを通して、多 様な考え方があることを知り、自分との違い や新たな考え方に気付き、自己理解・他者理

解が深まったものと考えられる。授業後の生徒のアンケートにおいても、 「自分では思いつかな

調 査 校 平 均 事 前 事 後 観 点 差 A自 己 評 価 ・ 自 己 受 容

2.41 2.29 2.36 +0.07

B 関 係 の 中 で の 自 己

2.93 2.78 2.98 +0.2

C 自 己 主 張 ・ 自 己 決 定

2.83 2.66 2.86 +0.2

2 2.5 3 A自己評価  自己受容

B関係の中  での自己 C自己主張

 自己決定

事前 事後

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「より良い人間関係を築く能力や態度を育成し、社会性を養う指導の工夫

-自尊感情を構成する観点の『関係の中での自己』に着目して-」

(12)-④

い意見が、人によってあるのだと思った。」、 「自分を客観的に見ることで、考えを変えることが でき、ストレスを減らすことができると思う。」などの意見があった。授業の中では、互いの意 見を認め合っている姿が見られ、他者との意見交換や発表などを通して、自分の意見が承認さ れたり、理解されたり、共感してもらったりすることにより、自分自身が認められたと感じ、

自信が付き、自尊感情が高まっている様子がうかがわれた。

(3) 考察

授業後のアンケート結果より、「出来事を客観的に捉えることで、悩んだときに一つの考え 方や解決法だけに捉われず、別の方法も考えることができるようになりましたか」の問いに肯 定的な回答をした生徒は、96%であった。 「ストレスが小さくなる考え方ができるようになりま したか」との問いに肯定的な回答をした生徒は、90%であった。また、 「悩んだときは誰かに相 談して、解決法やアドバイス等を参考にする」と回答した生徒が、85%であった。このことに より、悩んだときやストレスがたまったときなど、別の考え方に転換することによって、不安 が減少することを理解させることができた。人間関係を築くとき、感情に振り回されず、事実 を客観的に捉えて、行動する方法が理解できたものと考える。

また、社会性を養う指導として、相手と良い関係を築く行動の仕方を学習した。ストレスを 感じる場面では、様々な行動の選択肢を考え、自分がストレスを感じない範囲でその場面にふ さわしい行動を選択していくことを理解させることができた。

個別指導の「悩み解決ワークシート」を活用して、生徒が悩みを記述することにより、課題 を客観的に捉え、多様な考え方ができるようになった。そして、不安が小さくなるような感情 の変容が見られるという柔軟に対応する行動への意欲向上が見られた。

第4 研究の成果

・ ブレインストーミングや話合い活動による他者との関わり合いを通して、他者から自分 の意見が認められ、自信が付き自尊感情が高まる傾向がうかがわれた。 「関係の中での自己」

に視点をあてた授業を行うことにより、他の2観点「自己評価・自己受容」 「自己主張・自 己決定」も向上した。

・ 自分の状況を客観的に把握し、多様な考え方ができ、問題について積極的に取り組み、

自主的に解決していこうとする行動への意欲向上がアンケート結果から分かった。

・ 「悩み解決ワークシート」を開発したことにより、保健室での健康相談活動において、

生徒は悩みを客観的に捉え、多様な考え方ができ、問題解決への手掛かりとなった。

第5 今後の課題

・ 集団指導後、課題があり個別対応が必要な生徒には「悩み解決ワークシート」を活用し、

健康相談活動の充実を図る。

・ ブレインストーミング等他者との関わり合いを中心とした学習指導を、研究授業などを 通して広く都立高等学校全体へ普及、啓発を図る。

・ 他の教員と連携をし、校内体制を整え、他教科や他領域でも他者との関わり合いに着目 した、授業改善を図り、授業を通して自尊感情を高める実践事例を作成していく。

・ 本研究に合わせ、現代の思春期の生徒の課題でもある不安感や抑うつ感が高いという要

因について、さらなる分析、研究を重ねる。

参照

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