自尊感情・自己肯定感の向上を目的とする実践の検討 ー文献研究と通常の学校と特別支援学校・学級指導経験者に対する聞き取り調査を通して― 特別支援教育専攻 大河内 萌恵 1.問題と目的 国際調査で日本の子どもの自尊感情の低下が 指摘され,その向上を目的とする様々な実践論 文が報告されている。自尊感情は,二次障害を 予防する対応として注目されている。本研究で は,自尊感情と自己肯定感の向上を目的とする 論文を扱い、明確な定義付けがされていない自 尊感情と自己肯定感について,論文で用いられ ている定義を用いて両者の相違点や共通点を検 討し,定義を再考することを目的とする。また, 同論文の中から,校種ごとの共通点や相違点に ついて検討し,その背景について考察する。また, 通常の学校と特別支援学校・学級の両方の指導 経験者2 名に聞き取り調査を行い,障害の有無 による子どもとの関わり方の違いや,自尊感情 や自己肯定感の向上を目的とした授業の経験に ついて調査を行うことを目的とする。 2.方法 1)自尊感情・自己肯定感についての定義の文 献研究 対象:過去10 年間(2010 年~2019)の自尊感 情または自己肯定感を高める目的で行われた実 践論文(要旨集等は除外する。)のうち CiNii Articles に掲載されている実践論文〕 検索ワードは,「自尊感情」,「学校」,「実践」 または,「自己肯定感」,「学校」,「実践」である。 調査時期:2019年4 月~11月に実施した。 指導教員 高原光恵 2)自尊感情・自己肯定感の向上を目的とする 論文の文献研究対象:1)と同じ対じ対象論 文(要旨集を含む)CiNiiArticles に掲載され ている実践論文 調査時期:2019 年5 月~11月に実施した。 3)通常の判交と特別支援学校・学級指導経験 者に対する聞き取り調査 対象:通常学校(校種問わず)と特別支援学校・ 学級の両方を経験されている教職経験者2 名 調査時期:2019 年8 月一9 月に実施した。 調査内容:1.子どもとの関わり左2‘自尊感情・ 自己肯定感を高める関わり方について,3‘自尊 感清・自己肯定感を高める授業について。 手続き:承諾の得られた対象者に半構造化イン タビューを行い,音声データから逐語録を作成 し,得られた回答の概要を記した。 3.結果と考察 D 自尊感情・自己肯定感についての定義の文献 研究 自尊感情の定義では,Rosenberg(19の の基本 的自尊感情と社会的自尊感情を参考に述べられ ている論文が3 件あった。キーワードによる分 析では,「自分」,「他者」,「自己」,「価値がある」, 「感情」がキーワードの上位であることから, 自尊感情は,全体を通して,「自分を他者との比 較ではなく,自己を価値ある存在と捉える感清」 と捉えることができる。 自己肯定感では,定義 の参考に用いられている論文等に共通のものは 一129
-なかった。しかし,述べられている定義では, 頻出するキーワードを絞ることができた。自己 肯定感の定義で頻出していたのは,「自分」,「他 者」,「感情」,「自分自身」,「肯定的」である。 このことから,自己肯定感は,「自分を他者との 比較ではなく自己を肯定的に受け入れる感晴」 と捉えることができる。また,自執惑情と自己 肯定感の違いについて,自尊感情には,自己肯 定感と比較して,「価値がある」,「存在」,「気持 ち」というキーワードが多く用いられているこ とから,自分自身を「価値ある」存在と捉える という視点が含まれているかが違いであると考 察する。また,自尊感情の定義には,「評価」を 含むキーワードが6 論文で用いられており,自 尊感情は,自分自身を評価するという視点が取 り入れられていると考えられる。一方, 自己肯 定感では,自尊感情と比較して,「肯定的」とい うキーワードが多く用いられている。ある活動 の過程の中で気付いたり,受けMtるという点 で違いがあると考察する。 2)自尊感情・自己肯定感の向上を目的とする 論文の文献研究 全ての校種で実践が確認できた。ただし, 自尊感情については,小学校1年生での実践事 例がなく,4, 5, 6 年生の中高学年で多く報告 されている。耨斗・領域等に関しては,学級活 動が一番多く,次いで家庭科の実践事例が多し、 中学校の事例は,学年を超えた事例が増えてい る。教科・領域等では,ばらつきがあるが、保 健体育での事例が多し、 高等学校では,1 年生 の事例が多い。特別支援学校では,小学部,高 等部の対象論文のみ報告されていた。自己肯定 感については,自尊感情の事例と対照的に小学 校1, 2 年生の事例が多し、教科・領域等では, 生活科が一番多いことが分かった。自尊惑情と 自己肯定感の対象論文の比較について,共通点 は,どちらも小中高と進むにつれて実践が少な くなっていること,SST を用いた実践が両方で 報告されていたことである。相違点は、本研究 では小学校において,実施学年に異なる特徴が 見られたことである。背景としては,東京都拠哉 員研修センターによると,自尊感情の1 要素で ある,隣,自己評価,自己受容」が小学校高学年 から中学校第2 学年にかけて低下する傾向にあ ることから,指導の必要があること,自尊感情を 自己評価することが低学年児童に難しいとされ ていることが考えられる。 3)通常の学校と特別支援学校・学級指導経験者 に対する聞き取り調査 障害の有無による子どもとの関わり方に違い はないという回答が2 名から得られた。しかし, 伝え方等テクニック的な違いはあるという回答 が得られた。東京都教職員研究センターの「子 供の自尊感情や自己肯定感を高めるためのQ& A 」によると,自尊感情・自己肯定感を高める授 業の実践から,特別支援学校において,「努力し たことを評価し,i勤戎感をもたせる」,「安しし て学習できる環境をつくる」ことが効果的であ ったと結論づけている。本聞き取り調査でも同 様の回答が得られた。このことから,特別な支 援を必要とする子どもに対しては、子どもを褒 めることと,ありのままを認めること,安心し て過ごせる環境を整えることが大切で,教員は そのことを留意して関わることが大切である。 引用文献 東京都教職員研修センターロ011)子供の自尊 感情や自己肯定感を高めるためのQ&A http:llwww.しoikukensyu.metro.tokyo.jp/09s eika/reportsifiles/bulletinlh23/materia1sfh23 matOla 01.pdf(閲覧日2020 年1月3 日) 130