自己評価とルーブリック評価の活用について
著者 半澤 嘉博, 上床 美嗣
雑誌名 東京家政大学教員養成教育推進室年報
巻 5
号 1
ページ 153‑166
発行年 2018‑02‑28
出版者 東京家政大学教員養成教育推進室
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010184/
152 153
教員養成教育推進室年報 第5号(1)
中学校の道徳授業での学習評価に関する実践研究
~自己評価とルーブリック評価の活用について~
A practical study on learning assessment of moral education in junior high school
~ About utilization of self-evaluation and rubric evaluation ~
児童教育学科 半澤 嘉博 児童教育学科非常勤講師 上床 美嗣
1 はじめに
特別の教科道徳が小学校で平成30年度、中学校では平成31年度から完全実施される。問題解決や体験 的な学習などを取り入れた「考え、議論する」道徳の授業をどのように展開していくかが今後の大きな課 題であるが、児童生徒の側からしてみれば、様々な道徳的価値観の押し付けでなく、自らの成長を実感し、
意欲の向上につながる授業への期待も大きい。また、児童生徒にとっては、特別の教科として、どのよう に自分自身が評価されるのかも気になるところである。
道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議による「『特別の教科 道徳』の指導方法・評価等に ついて(報告)」1)では、道徳科における評価の在り方について、道徳科の特質を踏まえ、数値による評 価ではなく、記述式とすること、個々の内容項目ごとではなく、大くくりなまとまりを踏まえた評価とす ること、他の児童生徒との比較による評価ではなく、児童生徒がいかに成長したかを積極的に受け止めて 認め、励ます個人内評価として行うこと、学習活動において児童生徒がより多面的・多角的な見方へと発 展しているか、道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めているかといった点を重視すること、
道徳科の学習活動における児童生徒の具体的な取組状況を一定のまとまりの中で見取ることの重要性を示 している。他の教科とは異なる評価方法や教科内容の工夫が必要となる。
また、同報告では、以下のような道徳科の評価の工夫に関する例を示している。
・児童生徒の学習の過程や成果などの記録を計画的にファイル等に集積して学習状況を把握すること。
・記録したファイル等を活用して、児童生徒や保護者等に対し、その成長の過程や到達点、今後の課 題等を記して伝えること。
・授業時間に発話される記録や記述などを、児童生徒が道徳性を発達させていく過程での児童生徒自 身のエピソード(挿話)として集積し、評価に活用すること。
・作文やレポート、スピーチやプレゼンテーション、協働での問題解決といった実演の過程を通じて 学習状況や成長の様子を把握すること。
・1回1回の授業の中で全ての児童生徒について評価を意識してよい変容を見取ろうとすることは困 難であるため、年間35単位時間の授業という長い期間の中でそれぞれの児童生徒の変容を見取るこ とを心掛けるようにすること。
・児童生徒が1年間書きためた感想文等を見ることを通して、考えの深まりや他人の意見を取り込む ことなどにより、内面が変わってきていることを見取ること。
・教員同士で互いに授業を交換して見合うなど、チームとして取り組むことにより、児童生徒の理解 が深まり、変容を確実につかむことができるようになること。
・評価の質を高めるために、評価の視点や方法、評価のために集める資料などについてあらかじめ学 年内、学校内で共通認識をもっておくこと。
154
学習のめあてに沿ったパフォーマンス課題などを設定し、自己評価なども活用して、教科指導の評価の 観点等に基づき適切な評価を行っていくことが求められるところである。また、授業内での評価だけでな く、学校生活全体での児童生徒の努力を認めたり励ましたりしながら、成長や発達を全教員で見取ること ができるような評価の仕方も工夫していかなければならないところである。
しかし、道徳の特別の教科化により、教員の道徳教育に関する意識が高まることや学習内容が充実する ことへの期待がある一方、日本教育新聞社によれば、区市町村教育長を対象とした調査では、昨年4月で は「児童・生徒の学習状況の評価をめぐって混乱が予想される」との回答が49.2%もあり、昨年12月に 実施した2回目の調査でも40.9%であり、道徳の評価に関する懸念は、まだ大きい状況である2)。評価に 関する基本的な考え方は都道府県教育委員会で示していることが多いが、実際の学級単位や授業ごとの評 価となるとどのように評価していくか教員の不安は大きいと言えよう。
このような状況の中で、道徳の評価の工夫の方法として、授業の終末にふりかえりの時間を設定して、
児童生徒の成長や発達を自分自身で認識させる「自己評価」の成果が報告されている3)。また、指導のね らいとの関係での児童生徒の認識面や行動面での変容を客観的に評価するための「ルーブリック評価」の 成果も報告されている4)。
しかし、「自己評価」に関しては、児童生徒は、必ずしも自分自身を客観的に評価することができず、
教師の顔色を見ていい加減に評価してしまったり、思っていなくてもいい評価をしてしまったりすること があり、妥当性や信頼性に欠けるとの指摘5)もある。
また、「ルーブリック評価」に関しては、大学等ではかなり活用されているが、小中学校での児童生徒 のどんな言動を基に、観点別の評価において評価指標に沿った評価をしていくのか、また、客観性を担保 するためにどのような工夫や配慮が必要かはこれからの課題であると考える。
今後、道徳授業における学習評価の在り方を考えていく際に、このような評価方法の妥当性や信頼性、
また客観性などに関する実践的な研究を進めていくことが重要である。そして、様々な実践研究の成果を 検証していく中で、どの学校・学級、またどの教師においても、児童生徒の成長・発達を正しく評価して いける特別の教科としての道徳の授業を展開していけることが喫緊の課題であると考える。
2 研究のねらい
本研究は、道徳の授業における学習評価に関する実践研究である。道徳授業の中でパフォーマンス課題 を設定し、その課題でのルーブリック評価の評価規準との関連で、自己評価が有効な指標となるかを検証 する。本研究を進めるにあたり、筆者(半澤)が平成29年度から多摩地区の公立中学校での東京都道徳 教育推進拠点校の校内研究に携わっていたことから、中学校のみであるが、全校生徒を対象とした実践研 究を行うことが可能であった。このことから、著者が道徳授業地区公開講座において道徳の授業を行い、
生徒の学習評価を分析することとした。
具体的には、道徳授業の主題として、C-(11)公正、公平、社会正義、B-(9)相互理解、寛容に かかわる価値項目を設定した。発達障害(読みの障害)の生徒の困難さを理解し、公正・公平な対応をす るための合理的配慮の例を知り、個別に必要な配慮であることを理解する内容を取り上げた。さらに、合 理的配慮をすることが公正・公平な対応であり、決して不公平な対応ではないことを理解し、身近にその ような困難さがある生徒がいた場合に、その生徒の学習面や学校生活面での困難さを推測でき、クラスの 一員として寛容な態度で受け入れる意識をもつことができるかを指導のねらいとした。そして、授業の中 で同級生からの問いに答える台詞を考えさせるパフォーマンス課題を設定し、その台詞の文言を基にルー ブリック評価を実施し、その評価の違いが自己評価との関連性を有しているかを分析し、有効な評価方法 と成り得るかを検証した。
154 155
教員養成教育推進室年報 第5号(1)
3 道徳授業の概要
⑴ 指導計画について
平成29年9月2日(土)、東京都の多摩地区の公立中学校において、道徳授業地区公開講座としての全 校生徒への授業を実施した。以下、その概要を記す。
①日時 平成29年9月2日(土) 3校時(10時40分~ 11時30分)
②学級 1~3年 全学級 489名
③指導者 半澤 嘉博(T1) T2として中学校教諭1名 ④場所 体育館
⑤主題名 C-(11)公正、公平、社会正義 B-(9)相互理解、寛容 ⑥指導のねらい
発達障害(読みの障害)の生徒の困難さを理解し、公正・公平な対応をするための合理的配慮の例を 知り、個別に必要な配慮であることを理解する。さらに、合理的配慮をすることが公平な対応であり、
決して不公平な対応ではないことを理解する。また、身近にそのような困難さがある生徒がいた場合 に、その生徒の学習面や学校生活面での困難さを推測でき、クラスの一員として寛容な態度で受け入れ る意識をもつことができる。
⑦資料 「どうして、たかし君だけ?」(オリジナル資料)
どうして、たかし君だけ?
中学1年生の A クラスでは、6月になって初めての期末試験が近づき、授業中、先生が黒板に書 いたことを、みんなが必死にノートに書き写していました。
どの先生も、「しっかりノートをとるように」とみんなに指導しています。
クラスの全員が、「中学校の勉強は覚えることが多くて大変だなあ。頑張らなくちゃ。」と必死に ノートをまとめていました。
ある日のことです。朝のホームルームで担任の先生がみんなに話をしました。
「みなさん、聞いてください。実は、このクラスのたかし君は、小学校の時から黒板の文字を書き 写すことが苦手で、みんなより時間がかかってしまいます。授業中にノートをまとめきることができ ないので、家で復習もできないのです。そのため、先生たちが話し合って、たかし君だけ特別に、ど の授業でもデジタルカメラとICレコーダーを使っていいことにしました。みなさんが使うことはで きませんが、たかし君だけは特別に使うことができることを、知っておいてください。」
担任の先生はそう話すと教室を出ていきましたが、クラス内が少しざわつきました。
「えっ、どうして?」 「たかし君だけなの?」
その日から、たかし君は、授業中にデジタルカメラで板書の写真を撮り、ノートは全く書いていま せんでした。
何日か過ぎました。ある日の部活のときのことです。隣のBクラスのさとる君が、私たちに話しかけ てきました。
「ねえ、たかしが授業中デジタルカメラ使っているんだって? たかし、いいよな。これで成績アッ プ間違いなしだな。でも、それってずるくない? どうして、たかしだけ許されてるの?」
私たちは、何て説明していいか困ってしまいました。
⑧主題設定の理由
発達障害は、脳の機能障害であり、学習や行動面で様々な問題が生じることが知られている。文部科 学省(2012)の調査6)では,中学校の通常学級には,学習面または行動面で著しい困難を示す生徒が 4.0%
いるとのことである。
発達障害の生徒に対しては、平成28年4月に施行された障害者差別解消法により、学校での差別の
156
禁止や合理的配慮の提供が義務付けられている。
合理的配慮とは障害による学習面や行動面などの困難さに対して、個別に行う配慮のことである。し かし、学校内では、周りの生徒にしてみると、不公平感を募らせるものとなってしまったり、いじめや 仲間外れの原因になってしまったりする場合もある。
そのため、発達障害についての障害理解を深め、合理的配慮が公正・公平を保つための対応であるこ とを、すべての生徒が考え、理解することが重要である。そして、発達障害の生徒をクラスの一員とし て寛容に受け入れる意識の大切さを感じることができるようにしたい。
⑨会場設営(体育館)
体育館舞台壇上には、3年生の各学級からの代表生徒を登壇させ、壇上での質疑に応じてもらった。
T2(中学校教員)には、「どうして、たかし君だけ?」の資料を音読してもらった。体育館フロアには、
全生徒が椅子を持参し、学年学級ごとに着席してもらった。授業の中で生活班などに分かれて話し合い をする際には、学級担任の指示により座席の移動を行った。
⑩展開
4
かし、学校内では、周りの生徒にしてみると、不公平感を募らせるものとなってしまったり、いじめや 仲間外れの原因になってしまったりする場合もある。
そのため、発達障害についての障害理解を深め、合理的配慮が公正・公平を保つための対応であるこ とを、すべての生徒が考え、理解することが重要である。そして、発達障害の生徒をクラスの一員とし て寛容に受け入れる意識の大切さを感じることができるようにしたい。
⑨会場設営(体育館)
舞台
体育館舞台壇上には、3 年生の各学級からの代表生徒を登壇させ、壇上での質疑に応じてもらった。
T2(中学校教員)には、「どうして、たかし君だけ?」の資料を音読してもらった。体育館フロアには、
全生徒が椅子を持参し、学年学級ごとに着席してもらった。授業の中で生活班などに分かれて話し合い をする際には、学級担任の指示により座席の移動を行った。
⑩展開
段階 学習活動 ○教師の働きかけ,主な発問
・予想される反応
◯指導上の留意点
●評価の観点 導入 眼鏡や補聴器をかけている
人に対する意識を考える。
◯眼鏡や補聴器をかけている人を見 て、どう思う?
・何とも思わない。
・ずるいとは思わない。
・かけないと困る。
◯必要な対応であり、殆 ど意識しない当たり前 の感覚であることをお さえる。
展開 「どうして、たかし君だ け?」の話を聞いて内容を 理解する。
「たかし君」に対する自分 の意識を考える。
・グループでの話し合い
・自分の考えの発表
発達障害についての説明を 聞いて考えを深める。
◯「どうして、たかし君だけ?」
の資料を音読(T2)
◯公正・公平、平等の観点から、グル ープで話し合わせ、自分の考えをもた せる。
・グループで話し合い、多様な考え方 があることを知る。
・不公平に思う。ずるいと思う
・仕方がない
・何とも思わない
・もっと詳しく説明して欲しい等
◯発達障害と合理的配慮についての 説明をする。
◯音読に合わせパワー ポイントで状況説明の イラスト等を提示する。
◯グループになるため の座席移動
◯自分の考えをしっか りと意識させる。
◯何人かに発表させ、人 によって多様な考えが あることをおさえる。
●自分の考え(知識・思 考力)(判断力・人間性)
◯パワーポイントで説 明をする。
◯合理的配慮は、公正・
公平な対応であること、
障害者差別解消法に基 づく対応であることに
スクリーン
T1 半澤
代 表 生 徒 T2 5名
全校生徒・保護者、教職員、地域関係者 椅子着席(筆記具のみ用意)
4
かし、学校内では、周りの生徒にしてみると、不公平感を募らせるものとなってしまったり、いじめや 仲間外れの原因になってしまったりする場合もある。
そのため、発達障害についての障害理解を深め、合理的配慮が公正・公平を保つための対応であるこ とを、すべての生徒が考え、理解することが重要である。そして、発達障害の生徒をクラスの一員とし て寛容に受け入れる意識の大切さを感じることができるようにしたい。
⑨会場設営(体育館)
舞台
体育館舞台壇上には、3 年生の各学級からの代表生徒を登壇させ、壇上での質疑に応じてもらった。
T2(中学校教員)には、「どうして、たかし君だけ?」の資料を音読してもらった。体育館フロアには、
全生徒が椅子を持参し、学年学級ごとに着席してもらった。授業の中で生活班などに分かれて話し合い をする際には、学級担任の指示により座席の移動を行った。
⑩展開
段階 学習活動 ○教師の働きかけ,主な発問
・予想される反応
◯指導上の留意点
●評価の観点 導入 眼鏡や補聴器をかけている
人に対する意識を考える。
◯眼鏡や補聴器をかけている人を見 て、どう思う?
・何とも思わない。
・ずるいとは思わない。
・かけないと困る。
◯必要な対応であり、殆 ど意識しない当たり前 の感覚であることをお さえる。
展開 「どうして、たかし君だ け?」の話を聞いて内容を 理解する。
「たかし君」に対する自分 の意識を考える。
・グループでの話し合い
・自分の考えの発表
発達障害についての説明を 聞いて考えを深める。
◯「どうして、たかし君だけ?」
の資料を音読(T2)
◯公正・公平、平等の観点から、グル ープで話し合わせ、自分の考えをもた せる。
・グループで話し合い、多様な考え方 があることを知る。
・不公平に思う。ずるいと思う
・仕方がない
・何とも思わない
・もっと詳しく説明して欲しい等
◯発達障害と合理的配慮についての 説明をする。
◯音読に合わせパワー ポイントで状況説明の イラスト等を提示する。
◯グループになるため の座席移動
◯自分の考えをしっか りと意識させる。
◯何人かに発表させ、人 によって多様な考えが あることをおさえる。
●自分の考え(知識・思 考力)(判断力・人間性)
◯パワーポイントで説 明をする。
◯合理的配慮は、公正・
公平な対応であること、
障害者差別解消法に基 づく対応であることに
スクリーン
T1 半澤
代 表 生 徒 T2 5名
全校生徒・保護者、教職員、地域関係者 椅子着席(筆記具のみ用意)
156 157
教員養成教育推進室年報 第5号(1)
⑪ワークシート
ワークシートは図1に示した。発達障害について の説明の後、一人1枚ずつ配布して、B組のさとる 君への説明の台詞を記入させた。また、自己評価に ついては、授業を行った中学校において、昨年度か らの道徳授業の研究において自己評価のさせ方を全 学年で統一して実施しているため、その方法に基づ き様式や記入の仕方を示した。
B組のさとる君への説明の台詞については、「KH Coder」ソフト7)を用いて、全生徒の文章テキスト の内、出現回数の多い語彙を抽出し、ルーブリック 評価に活用した。
⑫その他の教材
授業で用いたパワーポイント資料は図2のように 提示した。パワーポイント資料のスライドは、教材 音読時、発達障害の説明時、合理的配慮の説明時で 使用し、全部で23枚用意した。
例として、提示資料中の「たかし君は、授業中に 4
かし、学校内では、周りの生徒にしてみると、不公平感を募らせるものとなってしまったり、いじめや 仲間外れの原因になってしまったりする場合もある。
そのため、発達障害についての障害理解を深め、合理的配慮が公正・公平を保つための対応であるこ とを、すべての生徒が考え、理解することが重要である。そして、発達障害の生徒をクラスの一員とし て寛容に受け入れる意識の大切さを感じることができるようにしたい。
⑨会場設営(体育館)
舞台
体育館舞台壇上には、3 年生の各学級からの代表生徒を登壇させ、壇上での質疑に応じてもらった。
T2(中学校教員)には、「どうして、たかし君だけ?」の資料を音読してもらった。体育館フロアには、
全生徒が椅子を持参し、学年学級ごとに着席してもらった。授業の中で生活班などに分かれて話し合い をする際には、学級担任の指示により座席の移動を行った。
⑩展開
段階 学習活動 ○教師の働きかけ,主な発問
・予想される反応
◯指導上の留意点
●評価の観点 導入 眼鏡や補聴器をかけている
人に対する意識を考える。
◯眼鏡や補聴器をかけている人を見 て、どう思う?
・何とも思わない。
・ずるいとは思わない。
・かけないと困る。
◯必要な対応であり、殆 ど意識しない当たり前 の感覚であることをお さえる。
展開 「どうして、たかし君だ け?」の話を聞いて内容を 理解する。
「たかし君」に対する自分 の意識を考える。
・グループでの話し合い
・自分の考えの発表
発達障害についての説明を 聞いて考えを深める。
◯「どうして、たかし君だけ?」
の資料を音読(T2)
◯公正・公平、平等の観点から、グル ープで話し合わせ、自分の考えをもた せる。
・グループで話し合い、多様な考え方 があることを知る。
・不公平に思う。ずるいと思う
・仕方がない
・何とも思わない
・もっと詳しく説明して欲しい等
◯発達障害と合理的配慮についての 説明をする。
◯音読に合わせパワー ポイントで状況説明の イラスト等を提示する。
◯グループになるため の座席移動
◯自分の考えをしっか りと意識させる。
◯何人かに発表させ、人 によって多様な考えが あることをおさえる。
●自分の考え(知識・思 考力)(判断力・人間性)
◯パワーポイントで説 明をする。
◯合理的配慮は、公正・
公平な対応であること、
障害者差別解消法に基 づく対応であることに
スクリーン
T1 半澤
代 表 生 徒 T2 5名
全校生徒・保護者、教職員、地域関係者 椅子着席(筆記具のみ用意)
5 B組のさとる君へ、自分だ
ったらどんな説明をする か、台詞をワークシートに 書く。
何人かの台詞の発表を聞 く。
自己評価をする。
◯自分の正直な考えを書かせる。
◯何人かの台詞の発表をできるだけ 肯定的に受け止める。
・公正・公平さからの説明
・仕方がないとの説明
・我慢する。先生に従うとの説明等
◯自己評価と授業で考えたことをワ ークシートに書かせる。
触れる。
◯正しく理解していな いと、いじめやからかい 等になることもあるこ とを伝える。
●自己評価と授業で考 えたことの記述内容
((知識・思考力)(判断 力・人間性)(技能・表現 力・学びに向かう力)
終末 教師の説話を聞く。 ◯発達障害への合理的配慮について 確認する。
◯様々な障害のある人は、どんな困難 さがあるかを考えることの大切さを 説話する。
◯合理的配慮は公正・公平な対応のた めであることを自分の言葉で説明で きる態度の大切さを説話する。
◯説諭的にならないよ うに留意する。
◯地域共生社会づくり の担い手となっていく ことへの期待を含める。
⑪ワークシート
ワークシートは図1に示した。発達障害に ついての説明の後、一人 1 枚ずつ配布して、
B組のさとる君への説明の台詞を記入させた。
また、自己評価については、授業を行った中 学校において、昨年度からの道徳授業の研究 において自己評価のさせ方を全学年で統一し て実施しているため、その方法に基づき様式 や記入の仕方を示した。
B組のさとる君への説明の台詞については、
「KH Coder」ソフト7)を用いて、全生徒の文 章テキストの内、出現回数の多い語彙を抽出 し、ルーブリック評価に活用した。
⑫その他の教材
授業で用いたパワーポイント資料は図 2 の ように提示した。パワーポイント資料のスラ イドは、教材音読時、発達障害の説明時、合 理的配慮の説明時で使用し、全部で 23 枚用意 した。
例として、提示資料中の「たかし君は、授 業中にデジタルカメラで板書の写真を撮り、
ノートは全く書いていませんでした。」の場面
図1 ワークシート 5
B組のさとる君へ、自分だ ったらどんな説明をする か、台詞をワークシートに 書く。
何人かの台詞の発表を聞 く。
自己評価をする。
◯自分の正直な考えを書かせる。
◯何人かの台詞の発表をできるだけ 肯定的に受け止める。
・公正・公平さからの説明
・仕方がないとの説明
・我慢する。先生に従うとの説明等
◯自己評価と授業で考えたことをワ ークシートに書かせる。
触れる。
◯正しく理解していな いと、いじめやからかい 等になることもあるこ とを伝える。
●自己評価と授業で考 えたことの記述内容
((知識・思考力)(判断 力・人間性)(技能・表現 力・学びに向かう力)
終末 教師の説話を聞く。 ◯発達障害への合理的配慮について 確認する。
◯様々な障害のある人は、どんな困難 さがあるかを考えることの大切さを 説話する。
◯合理的配慮は公正・公平な対応のた めであることを自分の言葉で説明で きる態度の大切さを説話する。
◯説諭的にならないよ うに留意する。
◯地域共生社会づくり の担い手となっていく ことへの期待を含める。
⑪ワークシート
ワークシートは図1に示した。発達障害に ついての説明の後、一人 1 枚ずつ配布して、
B組のさとる君への説明の台詞を記入させた。
また、自己評価については、授業を行った中 学校において、昨年度からの道徳授業の研究 において自己評価のさせ方を全学年で統一し て実施しているため、その方法に基づき様式 や記入の仕方を示した。
B組のさとる君への説明の台詞については、
「KH Coder」ソフト7)を用いて、全生徒の文 章テキストの内、出現回数の多い語彙を抽出 し、ルーブリック評価に活用した。
⑫その他の教材
授業で用いたパワーポイント資料は図 2 の ように提示した。パワーポイント資料のスラ イドは、教材音読時、発達障害の説明時、合 理的配慮の説明時で使用し、全部で 23 枚用意 した。
例として、提示資料中の「たかし君は、授 業中にデジタルカメラで板書の写真を撮り、
ノートは全く書いていませんでした。」の場面
図1 ワークシート 図1 ワークシート
158
デジタルカメラで板書の写真を撮り、ノートは全く書いていませんでした。」の場面でのイラストを図 3に示す。
⑬評価の観点
ア)自己評価について
「どうして、たかし君だけ?」の授業において、終末の段階で、ワークシートを使用して、自分の考 えの変容について自己評価させた。自己評価の評価項目としては、道徳教育の目標に示されている道徳 性に基づき、以下の5つの項目を設定した。( )内は評価の観点を示した。合理的配慮の理解に関す る授業であるため、道徳的判断力の観点からの自己評価の項目を多く設定した。また、1単位時間の授 業の中では「道徳的習慣」についての評価は困難なため、自己評価の観点には含めていない。
1)「最初の自分の考えが変わりましたか」(道徳的判断力)
2)「友達の考えが自分の考えを深めることになりましたか」(道徳的判断力)
3)「共感・感動できることはありましたか」(道徳的心情)
4)「今日の授業で新たな発見はありましたか」(道徳的判断力)
5)「合理的配慮について、自分の考えを説明できますか」(道徳的実践意欲と態度)
評価基準は、4(とてもそう)、3(ややそう)、2(あまりない)、1(まったくない)の4段階で、
記号で答えさせた。
イ)ルーブリック評価について
本時の指導のねらいが達成されたかどうかを評価する方法の一つとして、ルーブリック評価を実施し た。
新たな学習指導要領での育成すべき資質・能力を育む観点から、認知的側面(知識・思考力)、情意 的側面(判断力・人間性)、行動的側面(技能・表現力・学びに向かう力)の評価指標を設定し、評価 規準を4段階で設定した。表1のように、相対的な評価規準に基づき、( )内に本時のねらいに即し た具体的な評価基準を示した。
図2 提示資料(資料音読時1) 図3 提示資料(資料音読時2)
158 159
教員養成教育推進室年報 第5号(1)
表1 ルーブリック評価の具体例
A B C D
認知的側面
(知識・思考力) 理解した道徳的価値を 生かし、自分自身の生 活をふり返っている。
( 学 習 や 行 動 で 何 か 困っている人がいた時 の合理的配慮の視点か らの必要な配慮を考え ている。)
登場人物などの言動を 基に、道徳的価値を理 解している。
(デジカメなど使うこ とが許された人は、発 達障害などのため、個 別の対応をしているこ とが分かった。)
登場人物などの言動の 理由を理解している。
(発達障害などによっ てデジカメなどの合理 的配慮が必要な人がい ることが分かった。)
理解に関する記述がみ られない。
情意的側面
(判断力
・人間性)
自分で感じた道徳的価 値を実践しようと意欲 を表している。
( 学 習 や 行 動 で 何 か 困 っ て い る 人 が い た ら、合理的配慮の視点 から必要な配慮をして い く こ と が 重 要 で あ り、いじめやからかい などはしてはいけない と の 意 見 を も っ て い る。)
登場人物などの言動に 共感し、道徳的価値の 大切さを感じている。
( 学 習 や 行 動 で 何 か 困 っ て い る 人 が い た ら、合理的配慮の視点 から必要な配慮をして いくことが大切である と の 意 見 を も っ て い る。)
登場人物などの言動に 共感したり、自分の考 え を 持 っ た り し て い る。
(合理的配慮の視点か ら必要な配慮をしてい かないと、学習や行動 で困ることが起きるこ とがあることが分かっ た。)
登場人物などの言動に 共感する記述がみられ ない
行動的側面
(技能・表現力
・学びに向かう力)
道徳的価値についての 行動目標を基に、実際 に行動に移すことがで きる。
( 学 習 や 行 動 で 何 か 困 っ て い る 人 が い た ら、その理由や原因を 考え、個別に必要な対 応を考えていくことが 本当の平等であると考 えている。
同じことをしないから とか、別のやり方をし ているからという理由 で、いじめやからかい があったら、自分が注 意したり、説明したり するとの意見をもって いる。)
道徳的価値についての 方向性に向けて具体的 な行動目標を立ててい る。
( 学 習 や 行 動 で 何 か 困 っ て い る 人 が い た ら、その理由や原因が あり、個別に必要な対 応をすることが本当の 平 等 で あ る と 分 か っ た。みんなと違うから という理由で、いじめ やからかいをしてはい けないことが分かって いる。)
道徳的価値について、
変わりたい自分の姿を 示している。
( 学 習 や 行 動 で 何 か 困っている人の中には 発達障害の人もいて、
みんなと違うやりかた で学習することもある ことが分かった。そう いう人に対して、いじ めやからかいをしては いけないことが分かっ た。)
自分の行動に関する記 述がみられない。
4 結果
⑴ 自己評価について
自己評価を行った5つの項目について、分析可能な生徒441名のデータを基に学年別の回答を集計した。
「最初の自分の考えが変わりましたか」については、表2のとおり、どの学年でも4の回答が最も多く、
次に3の回答が多かった。χ2検定の結果では、学年別では、1年生は自分の考えがまったく変わらなかっ た生徒が少なかった(p<.05)。逆に、3年生は自分の考えがまったく変わらなかった生徒が多かった
(p<.01)。
160
表2 「最初の自分の考えが変わりましたか」の回答(人) *p<.05 **p<.01
回答番号 4 3 2 1 計
1年 69 52 23 *6 150
2年 65 53 16 9 143
3年 61 50 17 **20 148
全学年 195 155 56 35 441
「友達の考えが自分の考えを深めることになりましたか」については、表3のとおり、どの学年も4の 回答が最も多く、次に3の回答が多かった。χ2検定の結果では、学年別では、1年生は4の回答が少な く、3年生は4の回答が多かった(p<.05)。また、1年生は2の回答が多かった(p<.01)。
表3 「友達の考えが自分の考えを深めることになりましたか」の回答(人) *p<.05 **p<.01
回答番号 4 3 2 1 計
1年 *65 54 **27 4 150
2年 71 58 11 3 143
3年 *86 48 13 1 148
全学年 222 160 51 8 441
「共感・感動できることはありましたか」については、表4のとおり、どの学年も4の回答が最も多く、
次に3の回答が多かった。χ2検定の結果では、学年別では、1年生は2の回答が多く、2年生は2の回 答が少なかった(p<.01)。
表4 「共感・感動できることはありましたか」の回答(人) *p<.05 **p<.01
回答番号 4 3 2 1 計
1年 63 56 **26 5 150
2年 76 57 **7 3 143
3年 69 59 13 7 148
全学年 212 175 48 16 441
「今日の授業で新たな発見はありましたか」については、表5のとおり、どの学年も4の回答が最も多く、
次に3の回答が多かった。χ2検定の結果では、学年別の回答の違いはなかった。
表5 「今日の授業で新たな発見はありましたか」の回答(人) *p<.05 **p<.01
回答番号 4 3 2 1 計
1年 74 53 19 4 150
2年 77 48 16 2 143
3年 67 58 19 4 148
全学年 218 159 54 10 441
「合理的配慮について、自分の考えを説明できますか」については、表6のとおり、他の項目とは異なり、
どの学年においても3の回答が最も多く、次に4の回答が多かった。χ2検定の結果では、学年別では1 年生で4の回答が少なく(p<.01)、2と1の回答が多かった(p<.05)。
160 161
教員養成教育推進室年報 第5号(1)
表6 「5 合理的配慮について、自分の考えを説明できますか」の回答(人) *p<.05 **p<.01
回答番号 4 3 2 1 計
1年 **34 66 *41 *9 150
2年 49 66 25 3 143
3年 53 65 27 3 148
全学年 140 200 95 16 441
自己評価を行った5つの項目ごとの回答の違いについては、表7のとおりであった。項目1では他の項 目と比べて1の回答が多かった(p<.05)。項目2では他の項目に比べて4の回答が多く、1の回答が少 なかった(p<.05)。
項目3では他の項目と比べて2の回答が少なかった(p<.05)。項目4では他の項目と比べて4の回答 が多かった(p<.05)。項目5では他の項目と比べて4の回答が少なく、2と3の回答が多かった。また、
他の項目とは異なり、3の回答が最も多く、2の回答も他の項目より多かった(p<.05)。
表7 質問項目ごとの回答(人) *p<.05 **p<.01
項目/回答 4 3 2 1 計
項目1 195 155 56 *35 441
項目2 *222 160 51 *8 441
項目3 212 175 *48 16 441
項目4 *218 159 54 10 441
項目5 *140 *200 *95 16 441
⑵ ルーブリック評価について
B組のさとる君への説明の台詞については、授業の中で書く生徒がワークシートに記入した。記入例は 表8と表9に示した。全生徒の台詞はエクセルの一覧にして、「KH Coder」ソフトを用いて各台詞の文 章中に現れる語彙を分析し、生徒一人ずつのルーブリック評価を行った。
表8 B組のさとる君への説明の台詞(例1)
AAB
たかし君は昔から読み書きが苦手なんだ。だからカメラとレコーダーは先生の許可も得て使っている。たしかにうらや ましいとこもあるけれど、たかし君にとっては、普通に読み書きができる私達をうらやましく思っている。だから読み 書きのできる私達はがんばらなければならない。
BBC
たかし君は、字を書いたり聞いたりするのが苦手で、それに発達障害をもっているから、デジカメで写真をとったり録 音するのがゆるされているの。だからずるくないよ。
BBC
たかし君は発達障害で、好きで使っているわけじゃないから、ずるくはないよ。たかし君だって大変な思いをしてるん だから、うちらがズルいとか言える立場じゃないと思う。
BBC
たかし君は、発達障害の中の学習障害だからデジタルカメラとICレコーダーを使ってるんだよ。もし自分が使わないと いけなくなってしまった時のことを考えてみてごらん。
表9 B組のさとる君への説明の台詞(例2)
CCD
たかしくんは、発達障害で皆よりも、読み書きができないからしかたないんだ。
CDD
たかしくんは発達しょうがいだから、しょうがない。
CDD
発達障害があるから一人だけ特別にしているからしょうがない。
表10 生徒が記入した台詞の中で出現回数の多い語彙 (441人中)
抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数
たかし 364 カメラ 107 読む 36 特別 22
障害 346 学習 97 言う 33 写す 21
使う 204 持つ 77 見える 32 大変 19
思う 200 仕方ない 75 デジタル 30 理由 18
苦手 142 勉強 74 家 29 見る 17
発達 140 文字 64 自分 27 先生 17
書く 136 ノート 61 違う 25 遅い 17
しょうがない 127 授業 49 受ける 25 理解 17
レコーダー 116 人 48 復習 25 難しい 16
字 115 黒板 42 しかたない 22 別に 16
表8、9の台詞例の中のABCDの記号は、ルーブリック評価の観点ごとの評価を示している。順に認 知的側面、情意的側面、行動的側面での評価である。表8の台詞例では、比較的、発達障害の人がどんな 具体的な困難さがあるのかを記述したり、合理的配慮としての対応の必要性やその対応による公正・公平 や平等を論理的に説明していたりしている。表9に示した台詞の例では、発達障害との記述があっても、
単に「しかたがない」「しょうがない」との説明であり、障害理解や共感性も示されていないため、比較 的低い評価となる。表10に全生徒の台詞の中に出現した回数の多い語彙を示したが、「しょうがない」と の記述は127名の台詞の中に現れ、「仕方ない」、「しかたない」も合わせて97名の台詞に現れていた。
本授業での指導のねらいで示した「合理的配慮」や「平等」、「寛容」といった意識や知識に関する語彙 については、「平等」が15名、「(合理的)配慮」が13名、「合理的(配慮)」が7名、「許可」が14名、「許 す」が8名と少なかった。
⑶ 自己評価とルーブリック評価の関連性
全生徒を対象に、台詞の記述によるパフォーマンス課題でのルーブリック評価が高い生徒の方が、自己 評価でも高い評価を付けているかどうかを確かめるために、以下のような分析を行った。台詞の記述に基 づくルーブリック評価において、認知的側面又は情意的側面でA又はBの評価となった生徒を、読み書き の具体的な困難さに触れての記述又は合理的配慮の必要性に触れた記述をしている生徒(A群)とした。
A群の生徒は236名であった。また、認知的側面又は情意的側面でC又はDの評価となった生徒を、単に
「(発達)障害だから」とか「しょうがない」などの記述をしている生徒(B群)とした。B群の生徒は 205名であった。A群とB群の自己評価の違いを分析すると、表11に示したように、項目1、2、4で、
回答4がA群の方が多く、B群の方が少なかった(項目1はp<.05、項目2,4はp<.01)。また、項目3 では、回答1がA群の方が少なく、B群の方が多かった(p<.01)。項目5では、回答3がA群の方が多く、
B群の方が少ない(p<.01)とともに、回答1がA群の方が少なく、B群の方が多かった(p<.01)。
162
163
教員養成教育推進室年報 第5号(1)
表11 群の違いによる回答の違い *p<.05 **p<.01
項目 群 回答4 回答3 回答2 回答1 合計
項目1 A群 *117 78 26 15 236
B群 *78 77 30 20 205
項目2 A群 **135 81 **18 2 236
B群 **87 79 **33 6 205
項目3 A群 119 91 24 **2 236
B群 89 81 22 **13 205
項目4 A群 **132 86 **15 3 236
B群 **86 73 **39 7 205
項目5 A群 73 *116 44 **3 236
B群 63 *81 49 **12 205
5 考察
⑴ 自己評価について
道徳的心情、道徳的判断力、道徳的実践意欲と態度の3つの視点から自己評価の結果をみていく。今回 の道徳授業の指導のねらいは「合理的配慮」について公正・公平にするための対応であることを理解する ことであり、一人だけデジカメやICレコーダーを使用してもよいことの合理性を理解・判断できること が主眼である。その合理性を理解させるために、特に、発達障害(読みの障害)の人の視覚認知の特異性 についての説明を授業の中で行った。そのことが、心情面での共感性に関しては、特に大きく感動すると いうことではないが、初めて知った発達障害の人の視覚認知の特異性の事実から、発達障害の生徒の困難 さを理解し、共感することができたと考えられる。このことから、表4に示したように、「共感・感動で きることはありましたか」の問いに対して、自己評価で4や3の回答を選んだ生徒が88%と多かったの ではないだろうか。また、2の回答の選んだ生徒については、1年生が多く、2年生が少ないといった学 年間の違いがみられたが、この違いについてはさらに分析が必要である。
道徳的判断力に関しては、3つの自己評価の項目を設定した。「最初の自分の考えが変わりましたか」、
「友達の考えが自分の考えを深めることになりましたか」、「今日の授業で新たな発見はありましたか」の 3つであるが、いずれも自己評価で4や3の回答を選んだ生徒が多かった(項目1で 79%、項目2で 87%、項目3で 85%)ことは、この授業を通して、多くの生徒が合理的配慮についての一定の理解を深 めた結果であると考える。
「最初の自分の考えが変わりましたか」の項目では、1の回答を選んだ生徒は、1年生が少なく、3年 生が多いといった学年間の違いがみられた。これは、思春期の発達や成長に伴い、自分の意志や考えを強 く示す生徒が増えてきていることと関係するのではないかと考えられる。
「友達の考えが自分の考えを深めることになりましたか」の項目では、4の回答を選んだ学生は1年生 が少なく、3年生が多いといった学年間の違いがみられた。また、2の回答を選んだ1年生が他の学年よ り多い結果となった。授業の中で、登場人物の「たかし君」に対する考えをグループで話し合う場面を設 定したが、これは、学年進行に伴い、他人の考えを参考にしたり比較したりすることができる判断力の成 長による結果であると考える。また、2の回答の選んだ生徒は1年生が多い結果であったが、これについ ては、「共感・感動できることはありましたか」の設問の結果と同じであり、さらに分析が必要である。
「今日の授業で新たな発見はありましたか」の項目では、回答に学年間の差はなかった。発達障害の人 の視覚認知の特異性について、この授業で新たに学んだことになるが、全学年で85%の生徒が4又は3 の回答を選び、学年間の差がないことから、どの学年においても、発達障害の視覚認知の特異性について
162
164
新たに学んだという実感をもつことができたと考える。
道徳的実践意欲と態度に関しては、B組のさとる君への説明を台詞で考えるパフォーマンス課題におい て、自分自身の合理的配慮についての公正・公平さの視点からの考えをもつことができたかを意識させた かった。台詞を書くこと自体が実践意欲を示すことであり、毅然とした態度を示すことでもあり、台詞を 書くことができれば自己評価も高いと考えた。しかし、項目5「合理的配慮について、自分の考えを説明 できますか」の回答は、他の自己評価の項目と異なり、4の回答より3の回答の方が多く、全体的には低 い自己評価であった。また、特に1年生で、4の回答が他の学年より少なく、2と1の回答が他の学年よ りも多かった。1年生が2,3年生よりもさらに低い自己評価であったということである。1年生の発達 段階での、明確な説明ができたかどうかの表現力や言語力などの技能的能力についての自己評価の低さが 影響しているものと考えた。
5つの項目全体では、表7に示したように、4と3の評価をつけている回答が 83%、2と1の評価を つけている回答が 17%であり、圧倒的に高い評価をつける傾向にある。自己評価の客観性や信頼性に関 して言えば、自己評価は自分自身を高く評価する傾向にあるということは当然あると考えるが、指導のね らいを十分達成しているとの認識により、高い評価をつけているとも言える。また、項目の違いによって、
有意に評価が異なることは、生徒が客観的に自己評価をしている面も伺うことができる。道徳の授業にお いて、自己評価を有効に活用するためには、指導のねらいの達成度に関する客観的なデータと自己評価の 結果との相関性を見ていくことが重要であると考える。
⑵ ルーブリック評価について
ルーブリック評価については、認知的側面(知識・思考力)、情意的側面(判断力・人間性)、行動的側 面(技能・表現力・学びに向かう力)の評価指標を設定し、評価規準を4段階で設定した。「KH Coder」
ソフトを用いて各台詞の文章中に現れる語彙を分析したことは、全体的な生徒の反応や傾向を考える上で 有効であり、生徒一人ずつのルーブリック評価を行う際の資料ともなることが分かった。今回は、全生徒 の台詞をエクセルに転記したが、今後、タブレットなどで個別に入力させるような工夫ができれば、分析 はさらに容易になる。
しかし、今回、1時間の道徳授業の中でのパフォーマンス課題として実施した「B組のさとる君への説 明の台詞」だけで評価することの難しさを幾つか感じた。一つは、台詞内に現れる語彙を参考にしての分 析を行ったが、文脈上の意味などを細かく分析しなければ判断できないということである。また、「しょ うがない」「仕方がない」などの表現があるだけで、公正・公平や平等についての十分な意識がないとい う判断も独断的であると考える。寛容性という視点からは、このような表現でも十分なのかも知れない。
こういった課題では、中学生の表現としての稚拙さが現れやすいが、内面の変化や変容を文言からだけで 推測することは困難である。生徒の言語表現力を勘案し、しっかりと文章全体を読んで、どう理解してい るか、どの程度の理解をしているかを確認していく作業が不可欠であるとともに、平素から生徒と接して いる学級担任が評価の責任者となることが重要であると考える。さらに、観点別の指導のねらいや評価と パフォーマンス課題の合致性の問題である。今回の「B組のさとる君への説明の台詞」を考えるパフォー マンス課題では、合理的配慮の視点からの論理的説明を文章化する課題であり、認知的側面(知識・思考 力)を評価することはできる。また、ずるいという指摘に対する自分自身の考えや反論を示す必要がある 設定でもあり、情意的側面(判断力・人間性)を評価することもできる課題であったと考える。しかし、
授業計画の不備であったが、このパフォーマンス課題の設定では、行動的側面(技能・表現力・学びに向 かう力)の評価としての不合理性があったと考える。技能・表現力の点からは、文章表記としての言語表 現力・作文力・語彙力などに依存する部分が大きく、道徳性としての評価としては相応しくなかったと反 省する。また、これから自分がどう行動するかとか、この例からどのような発展的な課題を指摘するかな どの学びに向かう力の観点に関しては、このパフォーマンス課題の中で表現させることができる設定とは
164 165
教員養成教育推進室年報 第5号(1)
なっていなかった。ゆえに、評価指標を4段階に設定したが、認知的側面、情意的側面の評価より、行動 的側面での評価が全体的に低くなってしまった。
ルーブリック評価を導入する際には、指導のねらいとの関係で、どのような活動を行わせて、どのよう な観点から評価していくのかを明確にしておくことが重要である。また、対象となる児童生徒がおよそど の程度の活動ができるか、そして、その活動ができたことは、どんな力によってできたと推測できるのか などを明確にしておく必要があると考える。
さらに、評価の観点について、教科の評価の観点を参考にすることは有益な面があるが、同じ観点であっ ても、他の教科で評価する能力と道徳の授業の中で評価する能力とは異なることに留意しなければならな い。特に、知識・技能や表現力に関しては、言語能力や記憶力に依存する面が強く、特別の教科道徳で評 価する能力を明確に規定しておくことが重要であると考える。
⑶ 自己評価とルーブリック評価の関連性
全生徒を大まかに2つの群に分けた。ルーブリック評価において、ある程度、認知的側面や情意的側面 で一定の高い評価となっている生徒(A群)と、低い評価となっている生徒(B群)である。どちらも 200 名を超えて、A群が 236 名、B群が 205 名と人数的には大きな違いはない。この2つの群で、自己評 価の結果に大きな違いがあるかを分析したところ、特に、道徳的判断力に関わる3つの項目、「最初の自 分の考えが変わりましたか」、「友達の考えが自分の考えを深めることになりましたか」、「今日の授業で新 たな発見はありましたか」において、「とてもそう」と、回答4を選んだ生徒の人数に大きな違いが生じ る結果であった。このことから各生徒が自己評価をする際に、規準として道徳的判断力に関わる意識や認 識をもっているかどうかが大きく関わると考えられる。自分の考えを深めたり、新たな考えを受け入れた り、新たな知識を得ることができたなどの視点からの自分自身の思考の変容や確認を意識できたことが、
パフォーマンス課題での台詞として具体的に表現できたとともに、道徳的判断力の高い自己評価につな がったと考えられる。
しかし、「共感・感動できることはありましたか」の道徳的心情を問う項目では、「まったくない」と回 答1を選んだ生徒がA群で少なくなる結果であったが、「とてもそう」と回答4を選んだ生徒には両群の 違いはなかった。また、「合理的配慮について、自分の考えを説明できますか」の道徳的実践意欲と態度 を問う項目では、「ややそう」と回答3を選んだ生徒がA群で多くなり、「まったくない」と回答1を選ん だ生徒がA群で少なくなる結果であったが、「とてもそう」と回答4を選んだ生徒には両群の違いはなかっ た。傾向としてA群の方が自己評価も高くなっているが、心情面や実践意欲・態度面での変容や確認の意 識は、自己評価を高める決定的な要因ではないと考えられる。
パフォーマンス課題での活動の状況が、自己評価にも反映していくことは一般的には当然あることと思 われるが、評価の観点によって、また、授業のねらいなどによって反映する程度は異なることが考えられ る。特に、今回の授業では、合理的配慮についての正しい知識・理解を持ち、その知識・理解を基に、論 理的に説明するといった道徳的判断力の育成を指導のねらいの中心としているため、その達成度が直接自 己評価に反映していると思われる。今後、さらに授業実践や実践研究を続け、指導のねらいに沿ったパ フォーマンス課題の適切な設定の仕方や個別の評価への反映の仕方について研究を深めていきたい。
参考文献
1)道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議 「特別の教科 道徳」の指導方法・評価等につい て(報告)2016
2)日本教育新聞 NEWSインサイド 平成30年1月1・8日付 pp3
3)露木佳子 生徒の自己理解に基づく道徳の指導と評価のあり方 神奈川県立総合教育センター長期研
166
修員研究報告4 pp49 ~ 52 2006
4)土井智文 中学校の道徳授業における評価方法に関する総合研究-学習者の側面と授業者の側面から
- 岐阜大学教育学部 教師教育研究 11 pp247 ~ 256 2015
5)中山芳明 No.579 中学校道徳における,生徒による自己評価の有効な活用と分析-生徒の評価と教 材開発・選定・授業手法・指導力向上への反映- 京都市教育委員会 京都市総合教育センター 平 成27年度研究紀要 pp.125 ~ 129 2016
6)文部科学省初等中等教育局特別支援教育課 通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教 育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について 2012
h t t p : / / w w w . m e x t . g o . j p / a _ m e n u / s h o t o u / t o k u b e t u / m a t e r i a l / _ _ i c s F i l e s / a f i e l d f i le/2012/12/10/1328729_01.pdf(Last Access 2018.1.19)
7)樋口耕一 社会調査のための計量テキスト分析 ―内容分析の継承と発展を目指して― ナカニシヤ出 版 2014