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病理診断の現状と今後の展望

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病理診断の現状と今後の展望

昭和大学医学部臨床病理診断学講座

瀧  本  雅  文

令和元年度昭和大学学士会特別講演会

医学部教授最終講義

2020 年 3 月 14 日 14:00 〜 14:40 昭和大学上條記念館上條ホール

○司会(山本 滋) ただ今より,令和元年度昭和 大学学士会,医学部教授最終講義を開催します.本 日司会を務めさせていただきます,外科学講座呼吸 外科学部門,山本と申します.どうぞよろしくお願 いします.それでは,講演に先立ちまして,昭和大 学学長,昭和大学学士会会長の久光先生より,お言 葉を賜りたいと思います.久光先生,よろしくお願 い致します.

○久光 正学長 いよいよ医学部の教授の先生の最 終講義を迎える日が参りました.本日は感染症の問 題,それから大変強い雨が降っているという悪条件 の中,お集まりいただきましてありがとうございま す.本日の瀧本雅文教授,田中和生教授,門倉光隆 教授,お三方の先生に最終講義としてお話をいただ きます.最近になって,この学部ごとに教授の最終 講義というのをまとめて開催するという形になって 参りました.

 お一人 30 分間ということでして,たくさんの業 績の中で,それを 30 分にまとめるというのはなか なか逆に大変な準備ということになろうと思います が,先生方のお仕事のエッセンスをここで聞かせて いただきたいと思います.また,この定年ご退職と いうのは先生方の研究,診療生活の中の 1 つの節目 でありまして,まだまだこれから気力も体力も十分 ということですので,日本の医療のために,医学の ために,あるいは昭和大学の将来のために,さらに 一層のご活躍をお祈りしております.

 本日は,ここに集まった皆さんで先生方のお仕事 をじっくりと拝見し,勉強させていただきたいと思 います.どうぞよろしくお願いします.

○司会 久光先生,ありがとうございました.それ では,これより講演に入ります.本日講演していた

だく 3 人の先生方のご略歴は,受付にてお渡しした 書面をもっての紹介とさせていただきます.式次第 に添えてございますので,予めご了承のほどお願い 致します.それでは,はじめに臨床病理診断学講 座,瀧本雅文教授より「病理診断の現状と今後の展 望」と題し,ご講演願います.瀧本先生,お願い致 します.

○瀧本 臨床病理診断学講座の瀧本です.病理学の 医局では,長らく産経新聞を取っていまして,もう かなり昔から.今日の 1 面の記事を読みましたら論 説委員が,第 2 次世界大戦以降,75 年以来最大の 国難であるということで,大変な時期に盛大に開催 していただきまして,ありがとうございます.本日 は「病理診断の現状と今後の展望」ということをお 話ししますが,医学教育の中で,病理学は基礎医学 に属しています.病理診断学は,臨床医学の一部門 となっています.まず病理診断学が誕生したその歴 史的背景について話します.病理といえば顕微鏡が 付きものですが,顕微鏡は 17 世紀,イギリスの R. 

Hooke という人が発明して,コルクの観察,今こ れはネットでも見られますけど,いろいろなものが スケッチされていて,大変面白いものです.顕微鏡 ができたことで肉眼観察しかできなかったものがミ クロのレベルの観察が可能になりました.その後 100 年ぐらい,18 世紀ぐらいにならないと医学の中 に顕微鏡は使われてこなかったのですが,その頃に なりますと,欧州では教会の権威が失墜したことに よって,死後の病理解剖ですね,社会的な抵抗感が なくなってきまして,徐々にその診断が,剖検の所 見と臨床所見を対応させて病理診断を行っていくと いうことで,ここに新しい医学,近代医学が始まり ました.19 世紀に入りますと,ヨーロッパでは病 講  演

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理学の巨人といわれるたくさんの有名な先生が出て こられます.K.F. Rokitansky であるとか,R.L.K. 

Virchow とか H.W.G. Waldeyer などですが,この 中で,とくにドイツ,プロイセンの Virchow,こ の人の果たした役割は非常に大きいものです.1858 年にこの『細胞病理学』という本を書きました.こ の中で 2 つの重要な概念を提唱しました.1 つは,

ラテン語で「Omnis cellular e cellular」と言います が,全ての細胞は細胞から発生する.もう 1 つは,

全ての生物は,どのように複雑であっても,部分で ある細胞から成り立っており,細胞の異常が疾患を 引き起こすということを,この本の中で言っていま す.それまでの病理学は,液性病理学といいまし て,古代ギリシャから続いた考えですけども,悪い 体液とか血液が全ての疾患を引き起こすという考え が主流で,たとえば瀉血というような,そういう治 療法が行われていたわけです.このような中で,顕 微鏡を使って,こういう細胞からこのような所見が 認められ,病気というものは細胞から起こってくる のだということを見つけだしたのは,非常に画期的 なことと考えられているわけです.今,この 1858 年ですから 150 年以上経ちましたけれども,これだ け,たとえば現在は遺伝子の研究が大変進んでいま すけども,その中であっても,これほど大きなエ ポック的な仕事というのはないというふうにおっ しゃる先生もいらっしゃいます.ですから,この当 時は,医学は病理学とともに始まったとか,病理学 は医学の王道であるというのはこの時代のことです ね.これは西洋のジョークですけれども,内科医は 何でも知っているけれども,何もしない.外科医は 何も知らないけども,何でもする.病理医は全てを 知っているけども,すでにその時は遅いというよう なジョークがあるのですが,あるいは Doctor of  Doctors というようなことも,欧米では,病理医は 敬われていますが,それは全て,この 150 年ぐらい 前のこの時代の頃の話で,現在 Doctor of Doctors は病理医だと思っている病理医は,まず 1 人もいな いと思いますね.病理診断が確実な,1 つだけ正し いということは限らないということです.19 世紀 から 20 世紀に入りますと,病理学の主流がヨー ロッパからアメリカのほうに移りました.外科病理 学というのが台頭してくるわけですが,技術革新も 進んできました.20 世紀の前半は,欧州でもアメ

リカでも,まだ病理学というのは病因とか病理発生 が中心であったのですが,これは臨床の現場に応え るものではなかったということですね.外科医であ るとか婦人科とか外科系の先生たちは,病理診断,

確実な病理診断が早くほしいということがあったわ けです.ここに書いてありますように,1905 年に Mayo clinic の L.B. Wilson という人が凍結切片を 使った術中迅速診断を紹介したり,1927 年には J.C. 

Blood good が手術室で,今で言う術中迅速診断で すね,これを全米で推奨したということで,この頃 か ら ア メ リ カ で は, た と え ば A.P. Stout と か L. 

Ackerman とか非常に著名な病理医が出てきまし て,その分野を確立していくということがありまし た.この背景には,おそらく第 1 次世界大戦,第 2 次世界大戦の時にヨーロッパからアメリカに,優秀 な臨床医がアメリカに亡命してきて,そういう人材 が豊富であったということがあります.つまり,外 科病理学は始まったころは,病理学講座や病理学教 室から人が出たのではなくて,むしろ外科系の先生 達ですね.そういう人達が自分たちの教室の中に病 理検査室を作って,自分たちで病理診断をしてと,

そういう流れで病理診断学が生まれてきたと言われ ています.日本に本格的に外科病理学,病理診断学 が導入されたのは,第 2 次世界大戦以降のことで す.病理診断学という定義はとくにないのですが,

これは真鍋俊明先生がおっしゃっていますが,病因 を対象とする病理学とは異なり,臨床の一部門とし て病理診断をはじめ,診断基準の確立,臨床病理学 的相関,予後,治療法選択への指針と,その検証を 追求する病理学の一分野と定義されます.臨床の一 部門であるという考え方が提唱されているわけで す.日本では,この病理診断というのが医療行為で あると公式に認めた,すなわち厚労省が認めたのは 1989 年ですから,まだそれほど経ってはいないで す.病理診断科が 2008 年に標榜科として認可され ました.この標榜科というのは,当院の正面玄関の ところに行きますと,外科,内科といろいろな科が 標榜されていますけども,2008 年までは,病理診 断科というのは標榜科ではなかったのです.病理に は直接患者が行かないわけですから,標榜科は必要 ないという認識だったのですが,病理診断科という 名称が出たことで,これは病理学会としては,ぜひ 作ってほしいということで一生懸命交渉していたの

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ですけども,2008 年にやっとなったということで,

これが 1 つの記念碑的なことではあります.今ま で,ただ検査っていうのは誰がやってもいいような ことっていうか,誰がやっているのかよくわからな いと,病理診断,誰が見ているかわからないってい うのを,ちゃんと病理診断医という者がいるという ことを標榜したということです.病理医は現在,去 年ですが 2,539 名だそうです.平均年齢が 55 〜 6 歳ということで,かなり高齢化している団体です ね.日本では約 30 万人の医師がいますが,3,000 人 で 1% ですから,1% を切っている状況ですね.こ れは日本だけではなくて,日本がとくにひどいので すが,世界的にも少ないと言われています.アメリ カと人口比で比較すると,日本は 5 分の 1 というこ とで,日本の病理医はアメリカの病理医の 5 倍の仕 事をしているということが言えます.これは国立が んセンターからのスライドですが,癌の罹患率です ね.男性の罹患率,2014 年のものですけども,こ れで見ると胃がんが増えているのですが,最近は少 し減ってきています.それから肺がん,大腸がんが 増えて,前立腺がんもかなり増えています.肝臓が んは並行で,少し減っているくらいですか.膵臓が んは徐々にですが増えてきています.これは非常に 5 年生存率の悪い,現在でも悪性度の高い腫瘍で す.胃がんが減ってきたのは,ピロリ菌の除菌とい うのが進んできたせいかもしれません.で,死亡数 は 2017 年ですと,男性は肺がんが 1 位で,次が胃 がん,3 番が大腸がんです.女性のほうですが,乳 がんが非常に増えてきています.当院でも乳がんの 症例数が非常に増えてきています.それから 2 番が 大腸がん,次が胃がん.これは当院のがん診療委員 会からの資料で,2017 年にどの程度悪性腫瘍を扱っ ているか,主要な病院でどの程度かということを表 にしたものです.がん研とかがんセンターは,ここ はがんの患者しか扱いませんので,断トツに多いで すけども,他の大学病院を見ていきますと,大体年 間 3,000 から 4,000 例ぐらいのところで,当院はこ こに入ってきます.悪性腫瘍,その中の臓器別で乳 がんを見ていきますと,これは 2015 年,5 年前で すけれども,当院では 477 例です.昨年を調べます と 650 例の手術例がありました.昨年 2019 年です ね.かなり増えてきています.中村清吾教授の元に 全国から患者が集まっている状況です.ちなみに,

昨年の昭和大学附属病院の乳がん症例,附属病院も 全部合計しますと,1,000 例ということになったそ うです.ですので,乳がんの症例に関してはもうか なり,日本でもトップレベルのことをやっているこ とになります.食道がんですね.これも食道外科,

村上教授ですが,当院の看板教授の 1 人ですね.腹 腔鏡を使った低侵襲手術のパイオニアですけれど も,これは 2015 年のデータです.これも近年症例 数はかなり増えてきています.当院の,昭和大学病 院の組織診断と細胞診断の件数の推移ですが,2012 年に教授に就任しましたが,徐々に組織診断は上 がってきていまして,逆に細胞診は減ってきていま す.この原因はいくつかあるのですが,検体数が増 えているっていうのはいろいろ,先ほども言ったよ うに乳がんの症例が増えたというのもありますけれ ども,細胞診はやっぱり組織診に比べて,確実性と いうと,どうしても生検のほうが確実であるとい う,良性,悪性に関してはですね.それからコンパ ニオン診断というのがどうしても必要になる.後で 話しますが,このコンパニオン診断というのは免疫 染色をするんですが,現在の病理診断は,良性,悪 性だけではなくて免疫染色を含めたコンパニオン診 断が増加するために,どうしても組織診断が増えて きています.これは迅速診断ですけれども,これも 年々増えてきていまして,去年は 1,000 例を越えて しまいましたけれども,センチネルリンパ節とか切 除端の評価とか,そういうものが必要な手術,縮小 手術ですね,だんだん増えてきています.担当の病 理の先生はもう,ずーっと病理の検査室に釘付け状 態ということも度々あります.剖検数ですが,これ は,昔はかなり多かったのですが,最近は 100 体前 後ぐらいですが,去年は 61 体ということで低下し てきました.ただ,全国の大学病院の平均数が大体 20 体前後ですね.ですから,それから見ると,ま だかなり高い数字を残しています.

これは私が今から 20 年ぐらい前,都立病院で 1 人 病理医として勤務していた時の写真です.朝日新聞 の日曜版の中で『病院のお仕事』っていうのがあり まして,そこで企画があって,その時撮影されたも のです.新聞に出たのはこれが最初で,たぶん最後 だと思います.

 さて,「形態学はロマンである」と,こうおっ しゃる病理の先生がいました.つまり,人体を形

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作っている多種類の細胞や組織っていうのは,いろ いろ形を変えながら,環境の変化に順応して,また 順応が不調になると病的になると.どの細胞も同じ 遺伝情報を有していながら,その中の一部を使っ て,特定の場所で特定の機能を果たすように運命付 けられている.その機能を考えると,非常に夢が膨 らんでくるということで,確かにそう言われてみる と,形態学はロマンなのかなと思いますが.形態学 を学ぶ者は,形の変化っていうのは細胞の変化を起 こし,機能の変化には形態の変化を伴う.こういう ことを私たちは信じています.病理医が組織を観察 して病気の診断を行う際も,意識するかしないかは 別として,形態と機能の関連を考慮して,おそらく そうしているのだと思います.病理診断は,しばし ばその患者の最終診断となり,golden standard と 言われますけれども,病理診断そのものには絶対基 準がないということです.これは,私たち病理診断 する時には,それこそ先ほど言いました 100 年以上 前からの形態,病気の病理学的な診断基準というの が蓄積されているわけですね.それを私たちが勉強 して,実際病理医が顕微鏡を見て,それを解析して 診断するのですが,その時に,その病理医の経験と か知識,そういうものに非常に大きく依存していま す.そして病理の形態学っていうのは,そういう形 態基準,病理の組織学的基準というのは言葉で記述 されています.たとえば細胞の核の大小不同が著明 とか,腺管構造が不規則であるとか,異型性の腺管 があるとか,そういう言葉で記述されています.し たがって診断基準というものが客観的なものではな いので,どうしても主観が入ってしまいます.です ので,たとえば同じプレパラートを見ても,病理医 によってはその診断が異なるっていうことが時には 起こるということですね.昔は声の大きい者が勝つ 世界だと言われたこともあるくらいなのですが,結 局,診断困難な症例にあたりますと,自分に自信の ある人は大きな声で,これはこうこうこうと言う と,それに流されていってしまうと.そういうとこ ろでは,臨床診断と同様,病理診断もちょっとサイ エンスではないというところもあるのですが.ただ 現在は,免疫染色であるとか遺伝子の診断とか,総 合的に診断していきますので,今は客観的であると 思っています.ですから,あまり心配しなくていい と思いますが,そういう状況は確かに,主観がどう

しても入るということは明らかであります.実際,

顕微鏡で見ると,たとえばこれ,頸部のリンパ節が 腫れてきたといって,2 つの症例を出しました(図 1).これ,良性と悪性がありますが,こちらが反応 性のリンパ濾胞,同じようなリンパ濾胞はたくさん 出ているのですが,こちらが良性で,こちらが腫瘍 性,濾胞性リンパ腫です.

 われわれ病理医は,どういうところの形態を見て いくか,形態の変化を見ていくかというと,この 2 次濾胞を胚中心と言いますが,この胚中心の中に明 るく抜けているところがあります.これはマクロ ファージが壊れた細胞を食べているのですが,こち らではほとんど見られませんね.それから,ここは マントル帯といい,リンパ球の密なマントル帯って いうところなのですが,こちらはハッキリしていま すけど,こちらはちょっと不明瞭になっています.

おそらく腫瘍細胞が周りに浸潤して不明瞭化してい く.こういう形態の変化をみて,われわれは腫瘍で あるとか診断しているわけです.ただ,現在は免疫 染色をいろいろ使いまして,もう少し確実になって きています.とくにこの Bcl-2 っていうタンパクな のですが,このように茶色く染まっているのが陽性 の細胞です.正常のリンパ過形成では,茶色く染 まっていませんから,Bcl-2 は陰性.それから,こ ちらの腫瘍のほうでは Bcl-2 が茶色く染まっていま すね.これは陽性.正常でも Bcl-2 の mRNA は出 ていますので,正常では Bcl-2 タンパクが出ないよ うな制御が働いており,腫瘍になると,それが解か れて発現しているというふうに考えられています.

なぜかと言いますと,これは,濾胞性リンパ腫は 14,18 の転座,染色体の転座があって,18 番の染 色体に Bcl-2 タンパクの遺伝子がコードされていま す.その異常なリンパ球が増えますから,異常なタ ンパク質が増えてくるということですね.Bcl-2 タ ンパクっていうのは,細胞の増殖を起こすことはな くて,アポトーシス,細胞死と言いますけども,ア ポトーシスを抑制する活性を持っています.つま り,このタンパクが発現しているということは,こ この細胞は寿命が長くなる.寿命が長くなるという ことは,その結果,発がんに関する 2 次的な変化の 確率が非常に高くなって,おそらく腫瘍化していく のだろう,そういうような考えがされているわけで す.これは同じ症例ですけれども,FISH というま

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た別の検査です(図 2).Bcl-2 タンパクは,濾胞性 リンパ腫では 10% 程度は陰性化すると知られてい ます.とくに high grade の濾胞性リンパ腫では,

半分ぐらいしか Bcl-2 は染まってきません.ですの で,Bcl-2 が陰性だから濾胞性リンパ腫が除外でき るということは言えないのです.そういう時はこう いう検査をして,染色体の,たとえばこの 14 番染 色体に免疫グロブリンの重鎖があり,ここが緑に染 色 さ れ ま す. 染 色 体 に 色 を 付 け る わ け で す ね.

Bcl-2 は 18 番の染色体にあり,ここを赤く染める.

そうすると,14,18 が転座をおこすと,染色体が 癒合してこの腫瘍は発生しますので,赤と緑が癒合 すると黄色になります.これが 1 つの核です.これ を油浸レンズで見ているのですが,これは腫瘍細胞 のリンパ球の核を見ていますが,核の中のこの黄色 いのが fusion している.つまり 14,18 が癒合して いるのを,それを目で見られるということです.こ ういうことで診断をしていくということもやってい ます.

 次の症例ですが,乳腺の腫瘍です.これは,こち らが良性で,こちらが悪性ですけども,乳管の中で 上皮がたくさん増えている.とくにこの乳がんの場 合は,低異型度と言いまして,low grade のがんが 非常に多いのですが,低異型度のがんの場合は,こ の乳管上皮過成と非常に鑑別が難しい.核異型はあ まりないし,構造異型も何か似たような感じです.

そういう時,免疫染色を使うと比較的簡単に鑑別が できるのですが,これは低異型度の乳がんの場合 は,ER(エストロジェンレセプター)というのが 乳管上皮でほぼ 100% 発現しています.こちらで同 じような ER を染色しますと,染まっている細胞も あるのですが,これは乳管上皮で,乳管上皮で陰性 の乳管上皮もあるのですが,その他に染まってない のは,多くは筋上皮細胞と呼ばれるもので,つまり これは乳管上皮と筋上皮の両方が増えている.そう いう判定をしまして,腫瘍というのは 1 つの種類の 細胞が増えるのが腫瘍ですので,これ 2 つが増えて くるというのは腫瘍性のものではないというふうに 判断するわけです.これも同じような,乳がんの症 例ですけれども,この拡大で見ると,同じように小 型の管腔とか索状,小型の管腔を作っていますが,

こちらは硬化性腺症と言いまして良性病変で,こち らはがん,それも浸潤がんです.これも免疫染色を

やると非常にわかりやすいのですが,浸潤性の乳が んですと,筋上皮細胞が消失していますので,筋上 皮細胞を染めると陰性化します.硬化性腺症は HE 染色でもわかりますが,この周りに硝子様のこの赤 く染まる線維,これを fibrous band って言うので すけども,こういうものが見られると,私たちは良 性だろうと.実際,筋上皮細胞を染めれば必ず染 まってくるということで,形態と機能というのはこ ういういろいろなところで使われています.今まで の病理学診断は,このような良性,悪性とか,そう いうことでよかったのですが,最近はこのコンパニ オン診断というのが始まってきました.名前はあま り,ちょっとどこか,変な名前だと私は思っていま すが,特異的な分子標的治療との組み合わせを前提 として,標的分子の有無や遺伝子の変異を確認する 検査法で,いわゆる個別化医療ですね.分子標的治 療に使われます.これは乳がんとか肺がん,胃が ん,大腸がん,悪性リンパ腫,急性白血病とたくさ ん今はやられています.たとえば,これは乳がんで すけれども,一般的にはこういうホルモン受容体,

エストロジェンレセプター,プロジェステロンレセ プターの発現を見ます.HER2 は遺伝子の増幅を見 ているのですが,遺伝子が増幅してくるとスコア 3,これ非常にきれいに茶色く染まっていきます.

こちらは陰性ということですね.あと Ki-67,増殖 マーカーを調べたりします.これが行われるように なったのは,2000 年に C.M. Perou という人が発表 した論文ですが,cDNA マイクロアレイを用いて,

遺伝子発現の網羅的な解析技術を使った研究なので す.ここに乳がんに関連するような遺伝子がたくさ ん並んでいます.ここに書いてあるだけで 40 〜 50 ありますけど,実際はもっとたくさんの遺伝子を調 べています.こちらが,それぞれ患者さんの遺伝子 をプロットしていくわけですね.赤いのがその遺伝 子を増幅している領域で,この領域の遺伝子はこの 辺の人がたくさん出ているなど,こうやって分類す ると,大体 5 つぐらいの分類ができます.こういう のを内因性サブタイプ分類と言います.遺伝子を調 べていくと,こういうふうに 5 つぐらいに分けられ て,これをその患者さんの予後を調べるわけです ね.大体 4 年,8 年ぐらい経過を調べると,このブ ルーの Luminal A っていうタイプは非常に予後が,

これ 100 %,これ 80% だから,予後はいい.こち

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らはどんどん予後が悪くなるということがわかりま した.ですから,当初は新しい予後因子として,こ れは使えるということになったのですが,その後,

化学療法とか内分泌療法に関しても,その治療効果 について,このサブタイプとの相関が見られること がわかりました.薬剤感受性を示す効果予測因子と しての側面が重要視されるようになりました.

Luminal type ですと,このタモキシフェンってい うのはエストロジェンに拮抗する薬ですね.AI っ て い う の は Aromatase inhibitor の こ と で す.

HER2 が陽性なら,トリプルネガティブならこうい う治療と,だんだんその薬剤とこの遺伝子の相関が あることがわかってきました.ただ,この方法は患 者個人の予後や治療効果を予測するのに十分とは言 えません.近年は,ますます多数の遺伝子の検査が 行われるようになってきています.肺がんに関して は,病理学的に肺がんというのは腺がん,扁平上皮 がん,大細胞がん,もう 1 つ,小細胞がんと,大き なのは 4 つあります.腺がんが一番頻度が高くて 50 から 60%,扁平上皮がんは 30%,大細胞は 5%

以下で,小細胞がんは 15% 程度と言われています.

以前は小細胞がんというのは必ず病理学的に診断し ないと,これ治療が他のがんとは違うということも ありますので,小細胞がんというのは必ず診断をし なきゃいけなかったのですが,この 3 つのがんは,

典型的なのは診断できますが分化度が低くなると,

結局腺がんの低分化なのと扁平上皮がんの低分化な のっていうのは形態だけでは非常に鑑別が難しいで す.それで以前は,非小細胞がんというようなコメ ントで済んでいましたが,現状はそういうふうには いかなくなりまして,とくに腺がんですね.これは 遺伝子の異常がいろいろわかってきました.治療法 が異なるということですね.腺がんでは,現在 7 つ ぐらいですかね.亜型分類されているのですけど,

それぞれにこういう EGFR とか KRAS,BRAF と か ALK といったような遺伝子異常がわかってきま した.それぞれの腺がんに対する遺伝子変異がわか れば,それに対する分子標的治療ということで,こ れが重要な検査になってきているわけです.ここに 書いてある ALK っていうのは,もともとは悪性リ ンパ腫で見つかった遺伝子ですが,肺がんでも発現 しているということです.実際,どんなものが今や られているかは,たくさんあるのですが,こういう

ものが通常のコマーシャルレベルでも診断されてい ます.さきほどの肺がんの ALK ですけども,クリ ゾチニブ,これは非常に特効薬と言いますか,2007 年当時,自治医大の間野博行教授のグループが見つ けたのですが,ALK 陽性の肺がんというのは,日 本では薬剤,まだ治療,厚労省で承認されていな かったので使えなかったのですが,韓国での最初の レポートは,肺がん,ALK 陽性の肺がんで脳転移 している人にこの薬を投与したら,原発巣,それか ら転移巣,全て消失したと.すごい衝撃的なデータ で,それ以来,とくにこの遺伝子治療というのは進 んできています.現在では,ALK 陽性肺癌でもこ の治療の長期経過では再発をするということがわ かってきているようです.

 2018 年にがんゲノム医療中核拠点病院というの を厚労省が主導して始まりました.2019 年の 4 月 ですね,全国 11 か所に中核拠点病院というのをつ くりまして,その下に,がん医療連携病院が 156,

大学病院は大体ここに入っています.ところが 9 月 になりますと,連携医療拠点病院というのが 34 か 所つくられたのです.この段階で東京では中核拠点 病院になっているのは,がんセンター,東大と慶應 の 3 つだったのです.それだけではとてもじゃない けどまかないきれないということで,今度新しく増 えたところは,東京ではがん研と,それから都立駒 込病院ですね.で,当院では今年の 4 月から,拠点 病院のがん研と連携して,ゲノム医療をやっていく ということが始まる予定です.今までも標準治療と いいますか,遺伝子の検査っていうのは先ほど言っ た大腸がん,乳がんとか肺がんでは行われていたの ですが,このがんゲノム医療で行おうとしているの は,標準治療がないものです.つまり,希少がんで すね.非常に珍しいがん.あるいは,標準治療を 行ったけれども,がんがそれ以上,まだまだ治らな い.そういった場合に,NGS,次世代シークエン サーというのがあるのですが,これを使ってがん遺 伝子を網羅的に,もっとたくさんの遺伝子を一気に 調べようと,そういうコンセプトですね.これはが んゲノム医療のイメージですけれども,大雑把に言 えば,先ほど言いました個別化医療,精密化医療で す.2015 年 に オ バ マ 大 統 領 が 言 っ た Precision  medicine と言いましたけれども,患者個人個人に 合ったそのドライバー遺伝子,がんに,その発がん

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するのに一番重要なドライバー遺伝子を,次世代 シークエンサー,NGS で見つけて,それに合った 分子標的治療を行っていこうというものです.実際 に,この検査で治療に有効な薬剤がみつかるのは 10% 程度と言われていまして,なおかつ日本では その使える薬っていうのは未承認であるとか,まだ 治験段階のもので,実際使えるかどうかも非常に厳 しい状況ではあります.個別化医療の有効性につい ては議論のあるところですが,現状ではそういうも のがだんだん進んでいます.がんゲノム医療が進ん でいく時に,病理はどういうふうに対応するかとい うことですが,今までは病理診断で悪性とされれ ば,それで一応病理としては診断にそれ以上関わる ことはありませんでした.遺伝子診断となるとあま り病理の出番はないのかというと,そういうことも なくて,この先ほど言った NGS では,パラフィン ブロックから組織を抽出して,そこの組織を抽出す るマイクロダイセクションと言いますけども,切片 を切り取る.そこの病変のところだけ取り出す.そ ういうことをやって実際シークエンサーにかけてい くわけですが,その組織の結構大きな,手術材料だ とかなり大きいですから,腫瘍のあるところと腫瘍 がないところ,あるいは壊死のあるところとか,要 するに欲しいのは,腫瘍のとくに壊死を起こしてい ない,変性を起こしていないいいところだけが欲し いのです.そういうのを切り出せるのは,病理医し かできません.あと,このエキスパートパネルって いうのですが,これはその情報が,こういう遺伝子 の異常があるということがわかった時に,会議を行 います.ウェブでカンファレンスするということに なっていますが,病理もこういうところに出席しな ければいけなくて,今でも非常に忙しいのですが,

たぶんこのゲノム医療が始まると,ますます病理は 忙しくなるのではないかと思います.

 これは,私が 1990 年から 2 年間,ウィーン大学 の免疫学研究所に留学した時のものです.ウィーン 郊外のグリンツィングという,ホイリゲと言われる 居酒屋さんで,居酒屋のようなお店で飲んでいると ころです(図 3).この時代は本当に,大学の病院 の業務や解剖業務から解放されまして,楽しい時代 ではありました.W. Knapp 先生は,ここの研究所 のボスで 2004 年,60 歳で亡くなられたのですが,

非常に早く亡くなりました.肺がん,小細胞がんで

した.

 これは Knapp 教授が日本に来て,学会に来て,

昭和大学旗の台でも講演していただきました.血液 の,とくに白血病の抗体ですね,抗体をたくさん自 分の研究室で作っていまして,当時,30 年ぐらい 前になりますか,フローサイトメトリーを使って,

その白血病の診断をしているという,そういうこと をやっていまして.大変私もそれに興味があって,

そこに留学したわけですが,この写真の先生たち は,今で言うとまさに私のメンターといわれる先生 たちで,大変お世話になった先生です(図 4).

 風間和男教授には骨髄の病理を教えていただきま したし,光谷俊幸先生,太田秀一先生,塩川章先生 は,この先生たちがいなければ,たぶん病理には進 んでいなかったと思います.こちら,倉田毅先生と 言いまして,東大医科研病理の先生で,私が学位論 文はヘルペス脳炎,単純ヘルペスウイルスを使った マウスの感染実験で学位をいただいたのですが,そ の時の直接の指導をしてくれた先生で,倉田先生は ウィーンに留学していて,がん研究所にいらしたの ですが,その時からの Knapp 先生とは友人という ことで,私の留学もその関連で決めていただきまし た.また,私的なことですけれども,倉田先生は,

私の妻はこの研究室の上の階にいた人ですが,引き 合わせて下さいまして結婚したということもありま した.公私ともにお世話になった方です.これは 96 年ですかね,国際病理学会,ブダペストであっ たのですがその帰りにウィーンに寄りまして,デュ ルスタインという青い教会のある素敵な場所です が,そこにウィーンから車を借りてレンタカーで,

当時 20 何年か前の矢持淑子先生と太田先生,光谷 先生ですね.ウィーンの時は 2 年間ということでし たけど,いろんな先生といろいろ共同の研究をした りして,一応 3 本の論文ができました.

 さて,今後の展望ということですけども,先ほど 言った顕微鏡は 17 世紀に発明されました.その後,

顕微鏡が医学分野に使われることはあまりなかった のですが,この辺りから医学の中に顕微鏡がどんど ん入ってきたということです.それから,1980 年,

テレパソロジーっていうのが入りまして,これは遠 隔診断ということで.ただ,この当時は画像の質も 悪かったですし,遅いっていうのもありますし,専 用の回線を引かないと見られないということもあ

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り,そんなには普及していませんでした.2000 年 にデジタルパソロジーが入ってきました.今後おそ らく,病理の私たちの診断,業務形態は大きく変わ るのではないかと思っています.まず,今までは標 本を作製して,ここまでは同じなのですが.プレパ ラート,われわれが顕微鏡を見て診断するという,

こういう流れだったのですが,今後はこのプレパ ラートをこういうラック,大体 200 枚から 300 枚ぐ らい入るラックがありまして,これをこの WSI,

デジタルスキャナーと言いますが,これに入れると 大体 1 cm

2

ぐらいの組織であれば,現在は大体 40 秒ぐらいで画像を取り込むことができます.取り込 んだものを保存しておいて,それをモニターです

ね,モニターを見て病理医が診断すると.大体こん な流れになるかもしれません.デジタルスキャナー の解像度とか利便性ですね,画像の移動とか拡大縮 小とか,飛躍的に向上しています.私も 2015 年,

今から 5 年前ですけども,フィリップスの人が貸し てくれました.半年ほど貸してくれて,乳腺外科と のカンファレンス,毎週金曜日朝 1 時間ぐらいやっ ているのですが,そこで半年ぐらい,このスキャ ナーを使ったカンファレンスやったのですが,顕微 鏡とあまり変わらないと,ほとんど変わらないとい うのを実感しました.ですので,当時の学長に,

2015 年当時はあまり日本でも,東京でもほとんど 入ってない,全国でも1台か2台しか入ってなくて,

図 3

図 4 図 1

図 2

(9)

フィリップスは東京にこの WSI を見る,見学する ような場所が欲しかったわけですね.それで当院が そういう場所としてどうですかと依頼されまして,

当時これ 4,000 万ぐらいした機械ですが,非常に値 引きもしてくれるということで,当時の学長に,ぜ ひこれ購入していただけないかとお願いしました が,時期尚早ということですぐ却下にされました.

このシステムができると,このサーバーからイン ターネットを介して,いろいろな病院にモニターを 入れると,たとえば旗の台で見てちょっと難しそう な症例を藤が丘とか北部で,とくにそういう専門の 先生に見てもらう.あるいは,国内どこの大学にも すぐできますし,国外でもすぐにコンサルトできる と.デジタルパソロジーは,欧州ではかなり日常病 理診断に大きく取り入れられている動きがありま す.デジタルパソロジーでは,遅れを取っていたア メリカでも 2017 年 4 月に FDA という食品薬品局 が,このフィリップスのスキャナーに関しては臨床 診断向けの医療機器として正式認定するということ がありましたので,これからアメリカでもおそらく かなり広まっていくと思います.日本も 2017 年 12 月に医療機器としての認定が承認されたので,保健 医療としてこれから使えるということです.

 このデジタルパソロジーですが,私はもう本当に 素人ですからあんまりわかりませんけど,ただ,形 態学の分類というのは,通常は病理医の先ほどから 言っている長年の経験に基づいた情報なので,定量 化できるものではなかったのです.ところが病理ス ライドをデジタル化することで,画像解析するその コンピュータの情報処理技術とか人工知能の発展に よって,病理診断についての情報を定量化すること ができるようになりました.ですから,この分野は 病理医だけではなくて,画像処理の専門家とか人工 知能の専門家ですね,医学工学連携で,非常に学会 もたくさんできています.そういう論文も読みまし たが,ほとんど私にはよくわかりません.数学の微 分の世界で,公式がたくさん並んでいます.そうい うことを使って,画像処理技術がどんどん進んでい くのだと思います.ちょっと私がわかる範囲です が,こういうスキャナーで画像を自動的に撮影し て,自動焦点で合わせて画像保存していく,通常 1 ピクセル(px)ですね,20 倍撮影時で,対物レン ズ 20 倍だと大体 0.5

µm,40 倍ですと 0.25 µm,標

本の状態ですね,0.25

µm を 1px,1 画素としてサ

ンプリングしていきます.そのあと,Region of  intrest(ROI),関心のある領域,結局,手術検体 標本で 1 cm

2

とかなり大きなものになりますと,そ の画像だけでも何 GB というかなり大きな画素数に なってしまうので,コンピュータでも処理できない ということで,大体 1 mm

2

あたりに分割して画像 を抽出していきます.ROI としては大体 2,040 px ぐらいになるということですけども,大体 1 mm

2

あたりだと,細胞の核でいくと 2,000 個から 5,000 個ぐらいを想定しているということです.この ROI から取ってきたものから,今度は実際その計測をす る対象になるものを引っ張り出す.こういうのはソ フトウェアがもうネットで,フリーソフトウェアと してあるのですが,多くの場合は細胞の核とか腺管 構造とか,そういうものを画像から抽出します.そ の画像情報を数字情報へ置き換える処理っていうの が,その次にあるわけですね.たとえば,細胞の核 ですと,核の面積とか長径,短径,周長,こういう ものを調べる.核内の輝度のムラ,これはヘマトキ シリン染色で紫色に染まります.その色の違いで,

クロマチンの構造を見ているということになるので しょうけども,そういうものを計算していきます.

で,実際どんなものかというと,核内テクスチャと 書いてありますが,各細胞の核の輝度を Z 軸にし て,あと X 軸,Y 軸は細胞の形といいますか,そ ういうもの.それを 3 次元で構築すると,正常では こういう単峰性のものになるし,腫瘍性のものでは こう多峰性になる.こういうのが認識できると,画 像でも認識できるようになります.これを今度は,

ここからが AI ということですが,この出た画像を どのようにしてその AI,人工知能のほうに持って いって,その実際の診断に持っていくかということ なのですが.基本的な概念は,人間の私たちがやっ ているこの低倍率で観察して,異常のあるところを 引っ張って,高倍率で細胞の核の評価をするという ことですね.実際,この ROI の画像からがんがあ るかどうかの解析では,こういう人工知能を使うわ けですが,1 つはこの SVM というタイプで,これ 教育型というのですが,これは ROI,その画像に がんがあるのかないのかというのを,それ 1 つごと にコンピュータに学習させていくわけです.そのコ ンピュータに教育データを作成する必要があります

(10)

が,このディープラーニングのほうは人間が関与し ないで進める無教師型といわれているもので,ただ し,コンピュータへの教育には,この SVM よりも 大量のデータが必要なのですが,ビッグデータが解 析できるようになりましたので,こういう方法が 今,現在は主流でやられているということです.こ れは 2017 年,『JAMA』という有名な雑誌で,これ に出されたちょっとショッキングな論文だったので すが,これはどういうことかと言いますと,11 人 の病理医ですね,アメリカの病理医,平均年齢 47 歳というから,まあベテランの人たち.で,その人 たち 11 人と,32 の施設が参加しました.今いろい ろな施設で AI の技術開発をしていますから,日本 からは大阪大学の先生が参加したということです.

AI と人間の目で見る病理医と,乳がんのリンパ節 転移の有無の正確度を争ったわけですね.結果を ちょっと簡単に言いますと,リンパ節 129 例です.

そのうち,転移ありが 49 例で,転移なしが 80 例 だったのですけども,そのプレパラート 129 例を制 限時間,一応平均 2 時間ということで見てもらう と.それで 2 時間以内にどうだったかというと,

どっちに,AI に軍配が上がったと言いますか,こ ういう ROC とか AUC っていう,そういう統計解 析を行いますと,人間の目よりも AI のほうが正確 に見ていたということが発表されたのです.制限時 間を示さないで,たとえば無制限でということで,

平均 30 時間ぐらいかかったということですけども,

そうすると AI と人の目が,大体同じぐらいの正確 度だったと言うのですが,いずれにしろ,もう AI は数分で結果を出しますから,時間的なことを考え ても,この AI の診断がこれほど正確であれば,私 たちもこれは使わない手はないなと思います.これ は 2019 年に出た論文ですけれども,組織の画像か ら予後を予測させる研究ですね.1,299 例ってかな り多数の症例を対象としていますが,1,299 例で長 期予後のデータが揃っている症例を集めて,その中 の 868 例の組織像,組織の大きさは大体 0.6 mm,

非常に小さいものですけども,ティシューマイクロ アレイと言いますが,これを 3 個,それぞれの画像 をこの AI のマシーンに学習させる.それからデー タですね,臨床の予後データも一緒に学習させる.

これを両方学習させて,なおかつ今度は臨床の予後 情報を知らせないで,残りの 431 例の画像だけをこ

の AI の機械に通して,その予後の結果はどうだっ たかと.そうしますと,high grade, low grade と,

これ DRS っていうのは Digital Risk Score という ことで,コンピュータが勝手に作ったそういう基準 というものです.コンピュータがどういうものを ピックアップして,そのハイリスクにしているかと いうのはわれわれ,そのコンピュータの中のことは ブラックボックスでわからないのですが,とにかく こういうデータが出てきました.実際,その予後曲 線をとると,非常に相関していたということです.

この中で,これはコンピュータといいますか,AI がこの high risk なものと low risk なもの,予後で すね,予後を見た場合に,リンパ節転移の数とか腫 瘍径とか,組織のグレード,それから PR がネガ ティブと相関していました.AI が high risk とした ものとしては,low risk なものに比べてこういうと ころでは有意差が出たということですね.それか ら,これは単変量解析と多変量解析を行ったのです けど,それでもこのコンピュータが使ったこの DRS というリスクのふるい分けというのは,非常 に相関が高い.じつはこの論文では,3 人のエキス パ ー ト の 病 理 医 も こ の 431 例 を 検 討 し て,low  grade, high grade を付けているのですが,病理医 よりも AI でやったほうが予後との相関がよかった と.さらに驚くことは,病理医は,この予後,low  grade, high grade については,たとえば核異型と か腺管構造の異型とか,壊死がある核分裂像とか,

周りのリンパ球浸潤などをファクターとして,low  grade, high grade に分けているのですが,このコ ンピュータがやった,AI がやったこの high grade,  low grade というのは,核異型と構造異型だけで,

あとはいずれも一切関連していなかった.ですの で,この論文では,AI は,われわれが,病理医が まだ認識してないその何かわからない形態的な特徴 を掴んで,それをアルゴリズムとして使って,この low grade, high grade にふり分けているだろうと,

その解明が必要であるということが書かれていま す.要するに,これから病理医は,病理医というか 病理診断は AI から教えてもらう時代が来るかもし れないということです.画像診断分野の AI の登場 で思うことは,病理診断のダブルチェックに AI を 用いる.これは非常にいいと思います.私も 1 人病 理医をやりましたからわかるのですが,もしダブル

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チェックをやってくれれば非常に安心です.ただ し,AI が主役になって,病理医はその確認をする だけとなると,ちょっと話はまた複雑.仮に AI が 主役になった時に,病理医はどのように対処すべき か.こういうことは,私はもちろん答えられません し,たぶん誰も答えられないと思います.将来こう いう時代が来るかもしれないということです.これ が,最後のスライドですけれども,現実に戻ります と,たとえば患者さんが臨床医のところに来て,臨 床医からわれわれ病理に病理検体が提出される.

で,病理診断を返すわけですけども,ここの交流,

臨床医と病理医の双方向の情報交換が非常に重要で す.われわれ,病理医っていうのは,病理診断,要 するに顕微鏡の世界だけで診断しているわけではな くて,当然臨床情報ですね,こういうものも含めて 総合確定診断であるということです.ですから,主 治医,あるいは放射線科の画像診断とか緊密に連携 を取って診断をしていかなければなりません.今日 はもう時間ありませんので,ちょっとオーバーして すみませんが,今日もう少し話したかったのは,今 後は患者さんと病理医がもう少し話しをしてもいい かもしれないということです.病理外来と言います けども,たとえば乳がん患者では,境界悪性と言い

ますか,良性か悪性か非常に難しい病変があるので すが,現状では乳腺外科の先生が患者と話していま すが,実際は病理医が直接患者と話す.実際こうい うことをやっている病院もいくつかあります.そう いうことをやれば,もう少し患者さんのほうも納得 してくれるかもしれないと,そういうこともありま す.ちょっと何か駆け足で,まとまりのない話にな りましたが,以上で私の話を終わらせていただきま す.どうもご清聴ありがとうございました.

○司会 瀧本教授,ありがとうございました.記念 の楯を小川医学部長より贈呈されます.

○小川良雄医学部長 瀧本先生,長い間ありがとう ございました.今の素晴らしい講演,約 40 年にわ たる先生の経験で,病理の過去から未来までやって いただきました.形態学はロマンであると,最後 ちょっと AI が出てきて,これから病理医がどうな るかと危うく思いましたが,病理医が今後臨床にも 出てくるということで,先生の力で若い先生をリク ルートしていただき,どんどん病理をより広めてい ただければと思います.どうもありがとうございま した.

(記念楯贈呈)(花束贈呈)

参照

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