教師のストレスの規定要因構造 一高校教師に対する質問紙調査をもとに
金 子 真 理 子
(教員養成カリキュラム開発研究センター)
1.問題設定
文部科学省が2010年12月に公表した「教育職員に係る懲戒処分等の状況について」に よると、2009(平成21)年度の病気休職者数は8,627人、うち精神疾患による休職者数 は5,458人である。表1は、文部科学省のHP上のデータをもとに、1999(平成11)年 度〜2009(平成21)年度の病気休職者数等の推移を示したものである。1
1999(平成11)年度は病気休職者数4,470人、うち精神疾患による休職者数1,924人 であったが、両者とも年々増加し、2009(平成21)年度には実数および在職者比で過去 最高を記録している。病気休職者数の在職者比は現時点でも1%未満であるが、特徴的な のは、病気休職者に占める精神疾患の割合の高さであり、1999(平成11)年度43.0%か
ら2009(平成21)年度63.3%と増加の一途を辿っている。
表1教員の病気休職者数等の推移
の I 巳 巴
校の校長、副校長、教頭、主幹教輸、指導教翰、教諭、助教蹴、養瞳教翰、養護助教翰、栄養教舗、講師、実習助手及び寄宿舎指導 員(本務者)の合計。
教師のストレスの実態を明らかにしようとする研究は、それ以前から存在する。「バー ンアウト(燃えつき)」は、もともと医療の場で使われだしたもので、いわゆる対人サービ スに従事する専門職の職業病とも言われている。大阪教育文化センター教師の多忙化研究 会(1996)が、「疲れる」「ゆううつ」「自分は駄目な人間と感じる」など感情的疲労と身 体的疲労、精神的疲労にかかわる21の質問項目で構成されるバーンアウト(burnout)尺 度2を用いて、大阪府の教員のバーンアウト度を測定した結果によれば、バーンアウト度 が「1,2」(良い状態)の者が37.5%、「3」(危険信号)が30.9%、「4」(燃えつき状態)
14.8%、「5.6」(強い燃えつき状態)が6.7%と、6割の教師が危険信号以上の状態にあ った。
近年になると、マスコミにおいても、教師のストレスに関する記事が目立つ。たとえば、
23
11年度 12年度 13年度 14年度 15年度 16年度 17年度 18年度 19年度 20年度 21年度 在職者数 (A)
939,369 930.220 927,035 925,938 925,007 921,600 919.154 917,011 916,441 915,945 916,929病気休職者数
(B)
4,470 4,922 5.2m 5.303 6.017 6,308 7,017 7,655 8,069 8,578 8.627うち精神疾患に
よる休職者数
(C) 1,924 2,262 2,503 2,687 3.194 3,559 4,178 4,675 4,995 5,400 5,458
(B)/(A) 在職者比
(C)/(A) (C)/(B)
0.480.20 43.0
0.530.24 46.0
0.560.27 48.1
0.570.29 50.7
0.650.35 53.1
0.680.39 56.4
0.760.45 59.5
0.830.51 61.1
0.88 0.5561.9
0.94 0.5963.0
0.94 0.6063.3
教師のストレスの規定要因構造
朝日新聞が全都道府県・指定市の教育委員会に対して行った調査によると、公立の小・中・
高校と特別支援学校で中途退職する教員は、全国で毎年1万2千人を超え、2005年度〜
2009年度の5年間で6万7千人に及ぶ。さらに、朝日新聞では、「文科省が2006年から 2008年に外部委託した調査では、公立小中学校の教員で「仕事に意義・やりがいを感じる」
と答えた人が9割を占める一方、「勤務時間以外でする仕事が多い」という回答も9割を 数え、いずれも一般企業の2倍に及んだ。「気持ちが沈んで憂うつ」という教員は27.5%
で一般企業の約3倍に上がり、精神面の負担が大きいことがうかがえる」と記している。
(2010年7月20日朝刊)
以上の報道にも見られるように、教師のストレスは社会問題の一つとして認知されてき ているといえるだろう。しかし、油布(2010)が指摘するように、これまでの研究のほと んどは、教職の病理現象の実態把握に終始し、その原因を構造的に把握しようとする試み は必ずしも多いとはいえない。本稿では、高校教師に対する質問紙調査の結果をもとに、
教師のストレスの規定要因について検討する。教師のストレスの感じ方は、性別や年齢等 の属性、勤務校の学校ランク、自らの研修意識、教職観、能力の自己評価、勤務校の組織 風土によって、どのような影響を受けるのか。以下では、クロス分析と多変量解析を用い
て、構造的に分析していきたい。
2.調査の概要
(1)「生徒文化研究会」による調査
以下の分析では、筆者が共同研究者として参加している「生徒文化研究会」(研究代表・
樋田大二郎)が収集した質問紙調査のデータを用いる3.本研究会は、地方のα県とβ県 の高校に対し、1979年を初回として3次にわたる大規模な調査を、以下の通り実施した。
a)学校調査(聞き取り調査)
①79年11-12月、②97年10-11月、99年11月、③2009年12月に実施。
(1)学校長、教頭に対する学校経営方針および学校全体の概況に関する聞き取り調査。(2)
教務主任、進路指導主任、生徒指導主任に対し、それぞれの校務分掌領域における教育の 実態と方針に関する聞き取り調査。
b)生徒対象質問紙調査
①79年11.12月、②98年12月、2000年12月、③2009年11月-2010年3月に実施。
各校2年生4クラスに対する質問紙調査。教室での集団自記式。3回とも同じ質問項目(一 部修正)。
c)教師対象質問紙調査
①79年11-12月、②98年12月、③2009年11月-2010年3月に実施。生徒対象質問紙 調査対象校全校の教師に対する質問紙調査。職員室での配布・回収。3回とも同じ質問項
目(一部修正)。
(2)2009年教師調査の概要
以上の各調査の概要は、樋田・中西・岩木(2011)、樋田・大多和・金子・岡部・堀(2011)
を参照されたい。本稿では、このうち、2009年11月から2010年3月にかけて実施した 教師対象質問紙調査(以下では、2009年教師調査と記す)の結果を分析する。2009年教 師調査の対象校は、1979調査からの対象校をすべて含みつつ、さらに拡大している。2009
24
年教師調査の対象校数と分析サンプル数は、表2の通りである。すなわち、α県教師450 名、β県教師867名、合計1317名が分析対象である。表2に示された学校ランクは、次 のように定めた。すなわち、生徒対象質問紙調査票で、「中学卒業時の(あなたの中学校の 中での)成績」を上位1〜下位9とする9段階の自己評価で回顧的に尋ねた質問に対する、
各校の生徒たちの回答の中央値が1〜2を上位校、3〜4を中位A校、5を中位B校、6〜9 を下位校とした。
表2分析サンプルの概略
る9段階の自己評価)において、学校別の中央値が1〜2を上位校、3〜4を中位A校、5を中位B校、
6〜9を下位校とした。
3.分析に用いる変数について
被説明変数としては、「仕事上で強いストレスを感じる」という質問項目への回答を用い る。「仕事上で強いストレスを感じる」の回答分布は、「とてもそう思う」16.6%、「まあそ う思う」40.2%、「あまりそう思わない」36.1%、「そう思わない」6.1%、「無回答・不明」
1.1%であり、「とてもそう思う」と「まあそう思う」の合計は、56.8%と過半数を超える。
説明変数としては、以下の変数を用いる。
1)属性 性別 県 年齢
2)勤務校の学校ランク 3)研修意識
教師としての力を高めるために自分は学び続けている 4)教職観
教師は、社会の人々から尊敬されている仕事である 教師は、使命感がなければやっていけない仕事である 5)能力の自己評価
教師としての自分の能力に自信がもてない 6)勤務校の組織風土
勤務校では、全体で問題を受け止めようとする雰囲気がある 勤務校では、自分の仕事が正当に評価されていると感じる
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ランク
学校 α県分 析 対 分 析 サ ン 学 校 数 象 教 員 プ ル の 割
数(人)合(%)
β県
分 析 対 分 析 サ ン 学 校 数 象 教 員 プ ル の 割
数(人)合(%)
全体
分 析 対 分 析 サ ン 学 校 数 象 教 員 プ ル の 割
数(人)合(%)
上位
2 校 1 2 1 2 6 . 9 % 5 校 1 7 8 2 0 . 5 % 7 校 2 9 9 2 2 . 7 %
中位A2 校 7 9 1 7 6% 6 校 2 3 5 2 7 1% 8 校 3 1 4 2 3 8%
中位B
3 校 1 2 2 2 7 1% 5 校 2 0 2 2 3 3% 8 校 3 2 4 2 4 6%
下位
3 校 1 2 8 2 8 4% 7 校 2 5 2 2 9 1% 1 0 校 3 8 0 2 8 9%
合計
10校450100 0% 2 3 校 8 6 7 1 0 0 0% 33校1317100 0%
教師のストレスの規定要因構造
このうち、勤務校の学校ランクは、前節で述べたとおり、生徒対象質問紙調査結果に基 づいて操作的に定めたものである。その他の変数は、すべて教員対象質問紙調査の回答か
ら得ている。以上の被説明変数と説明変数の分布は、表3に示すとおりである。
表3データに用いる変数の分布
被説明変数
とてもそう思う16.6
まあそう思う 40.2
あまりそう 思わない36.1
全くそう思
わない6.1
!
無回答・不明1.1 100.01.317合 計仕事上で強いストレスを感じる
説明変数
無回答・不明 0.4 男性
63.2
女性
36.4
舗 岬 幽 鮒 岬 哩 舗
性別
α県
県
34.2ʼ
20-30代 23.0
40代 40.4
50代以上 35.9
無回答・不明
年齢
O.7 100.0(1.317)
100.0合計 (1,317)
合計 上 位22.7 中位A
23.8 中位B
24.6 下 位 28.9
学校ランク
とてもそう 思う18.7
まあそう思う 64.0
あまりそう 思わない15.1
全くそう思 わない1.1
無回答・不明 1
.
教師としての力を高めるために自
1分は学び続けている
教師は、社会の人々から尊敬され ている仕事である
教師は、使命感がなければやって いけない仕事である
教師としての自分の能力に自信が もてない
勤務校では、全体で問題を受け止 めようとする雰囲気がある
勤務校では、自分の仕事が正当に 評価されていると感じる
注1)数値は、割合(%)。
100.0 (1,317)
100.0 (1,317)
100.0 (1,317)
100.0 (1,317)
100.0 (1,317)
100.0 (1,317)
3.2 37.2
ʼ148.1 10.211.3
1
ʼ
1.1
37.1 0.8
8.211.5 5.811.1 1
4.3 57.0
9.6 36.9
3.4 2.9
注2)()内の数値は、分析に使用したケース数。
4.「仕事上で強いストレス」を感じるのは誰かクロス分析結果
表4は、属性別、学校ランク別、研修意識別、教職観別、能力の自己評価別、勤務校の 組織風士別に、「仕事上で強いストレスを感じる」に「そう思う」(「とてもそう思う」+「ま あそう思う」の合計%)と答えた割合を一つの表にまとめたものである。まず、属性要因 による違いはあるだろうか。「仕事上で強いストレスを感じる」と答える割合は、男女別に みると男性教師56.1%、女性教師59.4%、県別ではα県58.1%、β県57.0%で、いずれ も差はみられなかった。年齢別に見ると、20-30代は61.1%、40代は59.9%と、50代以 上の52.8%よりもそれぞれ8.3%、7.1%ずつ高くなっており、50代教師ではストレスを
26
感じる割合がやや低い。
学校ランク別に「仕事上で強いストレスを感じる」割合を見ると、上位校教師48.0%、
中位A校教師56.8%、中位B校教師59.7%、下位校教師63.2%となっており、上位校で は5割を切るが、下位校に向かうにつれてよりストレスを感じやすい傾向にあることがわ かる。
表4「仕事上で強いストレスを感じる」と答えた割合(クロス分析)
男(829)
56.1%
α県(446)
58.1%
20-30代(301) 61.1%
上位(296)
48.0%
(とても+まあ)そう思う
(1082)
56.9%
(531)
49.3%
(1133)
58.3%
(436)
73.6%
(736)
53.4%
(907)
50.5%
合計(1297)
57.3%
合計(1302)
57.4%
合計(1293)
57.6%*
合計(1302)
57.4%**
女(468)
59.4%
β県(856)
57.0%
40代(526) 59.9%
中位A(308) 56.8%
そう思わない (とても+まあ)
(210)
59.5%
(763)
63.0%
(164)
49.4%
(855)
49.“
(558)
63.1%
(367)
74.1%
鯛 一 県 一 輪 一
》
50代以上(466)中位B(320)52.8%59.7% 下位(378)63.2%合計 (1292)
57.4%
(1294)
57.4%
(1297)
57.2%
(1291)
57.3%
(1294)
57.6%
(1274)
57.3%
教師としての力を高めるために自分 は学び続けている
教師は、社会の人々から尊敬されて いる仕事である
教師は、使命感がなければやってい けない仕事である
教師としての自分の能力に自信がも てない
勤務校では、全体で問題を受け止め ようとする雰囲気がある
勤務校では、自分の仕事が正当に評 価されていると感じる
幹
* 舛 拝 林
注1)%数値は、「仕事上で強いストレスを感じる」に「そう思う」(「とてもそう思う」+『まあそう思う」の合計)と答え た割合。
注2)()内の数値はそれぞれの独立変数の人数
注3)*はカイ2乗検定の結果。**1%水準で有意、*5%水準で有意。
注4)無回答・不明は除いて計算してある。
次に、教師の意識項目との関連をみていこう。まず、研修意識による違いはあるのだろ うか。「教師としての力を高めるために自分は学び続けている」か否かは、「仕事上で強い ストレスを感じる」か否かには影響を与えてはいない。
教職観別にみると、「仕事上で強いストレスを感じる」と答えた割合は、「教師は、社会 の人々から尊敬されている仕事である」と思う教師では49.3%、そう思わない教師では 63.0%で、「社会から尊敬されている仕事」と思わない教師ほどストレスを感じている。こ れに対し、「教師は、使命感がなければやっていけない仕事である」と思う教師では58.3%、
そう思わない教師では49.4%が、「仕事上で強いストレスを感じる」と回答している。「使 命感がなければやっていけない仕事」という教職観を持つ教師のほうが、そう思わない教 師に較べて、10ポイント近くストレスを感じる割合が高まる。
能力の自己評価別にみると、「仕事上で強いストレスを感じる」と答えた割合は、「教師 としての自分の能力に自信がもてない」と思う教師では73.6%、そう思わない教師は 49.0%で、自分の能力に自信がもてない教師で20ポイント以上高まる。
最後に勤務校の組織風士別にみてみよう。「仕事上で強いストレスを感じる」と答えた割 合は、「勤務校では、全体で問題を受け止めようとする雰囲気がある」と思う教師では 53.4%、そう思わない教師では63.1%と、後者で10ポイント程度高まる。一方、「勤務校
27
教師のストレスの規定要因構造
では、自分の仕事が正当に評価されていると感じる」と思う教師では50.5%、そう思わな い教師では74.1%と、25ポイント近い大きなひらきがあった。「自分の仕事が正当に評価
されている」と思わない教師で、よりストレスを感じやすいようだ。
5.教師のストレスの規定要因構造
以上のクロス分析の結果は、変数間の相互の影響を除いた上でも成り立つのだろうか。
そこで、どのような教師が「仕事上で強いストレスを感じる」と思っている(「とてもそう 思う」+「まあそう思う」=1)か否(「あまりそう思わない」+「全くそう思わない」=
0)かを従属変数とした、二項ロジステイック回帰分析を行った。結果は、表5の通りで ある。この手法を用いることで、それぞれの要因が、従属変数となる回答に与えた純粋な 効果をみることができる。たとえば、「教師は、社会の人々から尊敬されている仕事である」
という要因をみれば、「性別」「年齢」「学校ランク」「勤務校の組織風土」といった他のす べての要因の影響を取り除いた上で、「教師は、社会の人々から尊敬されている仕事である」
と思っているかどうかという教職観だけが回答へ与えた効果をみることができるのである。
モデル1は、地域属性、性別属性、年齢属性、学校ランクを独立変数に投入したモデル である。有意水準5%以内の項目を見ると、50代を基準とした場合、40代教師で「仕事上 で強いストレスを感じる」という自己認知がやや高まっている。また、上位校勤務者を基 準とした場合、「仕事上で強いストレスを感じる」傾向は、中位A校の教師では約1.5倍、
中位B校の教師では約1.6倍、下位校の教師では約2倍に及ぶことになる。
モデル2とモデル3は、以上に加えて、研修意識、教職観、能力の自己評価、勤務校の 組織風士に関する回答者の認知を独立変数に投入したモデルである。モデル2,モデル3 ともに、他の要因を統制した場合、教師の年齢による有意な影響力は消える。これに対し、
学校ランクの影響力は強く残ったままで、学校ランクが下位になるにつれて、教師のスト レスの自己認知は高まる傾向が認められる。
モデル2において、有意水準5%以内の他の項目を見ていくと、「仕事上で強いストレス を感じる」傾向は、「教師は、社会の人々から尊敬される仕事である」と思っている教師で は低くなり、「教師は使命感がなければやっていけない仕事である」と思う教師では高まる。
「使命感」は、仕事の意義ややりがいの自覚にも通じる可能性がある一方で、仕事上のス トレスを高める一因にもなることがわかる。また、「仕事上で強いストレスを感じる」と答 える傾向は、「教師としての自分の能力に自信がもてない」と答えた教師では高く、「勤務 校では全体で問題を受け止めようとする雰囲気がある」教師では低くなっている。
以上では、学校ランク、教職観、教師としての能力の自己評価、「全体で問題を受け止 めようとする雰囲気がある」勤務校かどうかといった要因が、それぞれ独自に教師のスト
レスを左右する有意な要因として析出されている。
モデル3は、モデル2に「勤務校では自分の仕事が正当に評価されていると感じる」か 否かという新たな独立変数を加えたモデルである。「勤務校では自分の仕事が正当に評価さ れていると感じる」と思う教師は、そう思わない教師に較べて、「仕事上で強いストレスを 感じる」傾向は0.4倍程度に抑えられていることがわかる。このモデル3では、モデル2 で有意な影響力が見られた学校ランク、教職観、教師としての自己評価という要因の影響 力は依然として残る一方で、「勤務校では全体で問題を受け止めようとする雰囲気がある」
一 羽 一
か否かという要因の影響力は消えてしまう。すなわち、「勤務校では全体で問題を受け止め ようとする雰囲気がある」か否かという変数は、「勤務校では自分の仕事が正当に評価され ている」か否かという変数で統制すると、教師のストレスに与える影響力を失う。この二 つの変数は、互いに強く関連していると推測されるが、教師が「仕事上で強いストレスを 感じる」か否かを規定する要因としては、「勤務校では自分の仕事が正当に評価されている」
か否かという変数の方がより識別力が高いといえよう。
6.結論
以上の分析より、勤務校の学校ランク、教職観、教師としての能力の自己評価、勤務校 の組織風土は、他の変数を統制しても、「仕事上で強いストレスを感じる」という自己認知 にそれぞれ独自の影響を与えている。
第一に、学校ランク要因に関しては、上位校の教師に較べて、下位校に勤務する教師の ほうが、ストレスを感じる傾向が強い。しかも、学校ランクは、勤務校の教員組織風土を 統制したとしても、教師のストレスに対して避けがたい影響力を持ち続けている。ここか
羽
モデル1 モデル2 モデル3
B
有意確率 Exp(B)
B有意確率 Exp(B)
B有意確率 Exp(B) α県ダミー
男性ダミー (50代ベース)
一 一
一一 一一 一一
ダ ダ 代 代
0 0 3 4
(上位校ペース)
中位Aダミー 中位Bダミー 下位校ダミー 教師としての力を高めるた めに自分は学び続けている
(そう思う=1、そう思わない
=0)
教師は、社会の人々から尊 敬されている仕事である(そ う思う=1,そう思わない=
教師は、使命感がなければ 0) やっていけない仕事である (そう思う=1,そう思わない =0)
教師としての自分の能力に 自信がもてない(そう思う=
1、そう思わない=0)
勤務校では全体で問題を受 け止めようとする雰囲気が ある(そう思う=1、そう思わ
ない=0) 勤務校では自分の仕事が正 当に評価されていると感じる (そう思う=1,そう思わない
=0)
109 185
一■
280 313 424 497 704
。
■
■
●
■
386 134 071 021 O13 m3 皿
。
●
●
●
合
の
色
1.115
、831
1 . 3 2 3 *
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1
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1 . 6 “ * 拝 2022稗*
、104 .051
一.140 .127
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1.051
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. 0 ”
005
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” 2
●
●
拝
》
》
》
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1.110 1.052 .870 1.136 1.458 1.581 2.077 1.186
.614
1.678
2.861
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、147 .012
.049
、155
、391 .451 .735
、165
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、562
、990
一.167
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、274 .926 .775 284
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.”1
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.噸 1.158 1.012
、952 1.168
斡 桙
9 0 7 7 4 5
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2 . 0 8 6 … 1.179
、 6 6 2 * 稗
1.753*幹
2.690拝*
、846
、 3 9 6 * 幹
定数
226 、200 、798 -.683 016 .505 -.203 、498 、817NagelkerkeR2乗
、030 .125 、163モデル適合度
p=0.000 p=0.0" p=0.0叩N 1243
教師のストレスの規定要因構造
らは、学校ランクによる生徒集団の違いに起因する仕事内容の質的違いなどが、教師のス トレスの多寡にも影響をもたらしていると推測される。教師のストレスは、個々の心理的 要因のみならず、高校階層構造にともなう社会的要因によって大きく左右されている。
第二に、教師自身が有している教職観に注目すると、教師のストレス認知は、「教師は、
社会の人々から尊敬される仕事である」と思っている教師では低くなり、「教師は使命感が なければやっていけない仕事である」と思う教師では高まる。すなわち、「使命感」は、仕 事の意義ややりがいの自覚にも通じる可能性がある一方で、仕事上のストレスを高める一 因にもなることがわかる。ここにおいて、教師の社会的地位を高めずして、「教師としての 使命感」ばかりを教師に求めようとする昨今の社会的・政策的風潮は、教師のストレスを
昂進させていく危険性をはらんでいると指摘しなくてはならない。
第三に、教師としての能力の自己評価に着目すると、「教師としての自分の能力に自信 がもてない」教師ほど、強いストレスを感じる傾向がある。
第四に、勤務校の組織風土要因をみると、「勤務校では全体で問題を受け止めようとす る雰囲気がある」か否かに較べて、「勤務校では自分の仕事が正当に評価されていると感じ る」か否かという変数の方が、教師のストレス認知を左右する要因として、より識別力が 高いという結果になった。データは省略するが、「勤務校では自分の仕事が正当に評価され ていると感じる」を従属変数とする二項ロジステイック回帰分析を行った結果では、「全体 で問題を受け止めようとする雰囲気がある」学校ほど、「自分の仕事が正当に評価されてい ると感じる」傾向が高まる。だが、この二つの要因を用いて、「仕事上で強いストレスを感 じる」を従属変数とする三重クロス分析を行うと(データは省略)、「全体で問題を受け止 めようとする雰囲気がある」勤務校であったとしても、「自分の仕事が正当に評価されてい る」という認識をともなっていなければ、教師のストレスを緩和しないことになる。
学校が教師のストレスを緩和する方策として、生徒集団に起因する要因を操作すること は容易ではない。だが、今回の分析からは、教員組織風土に着目した時、教師のストレス を緩和するために有効かつ操作可能と思われる要因が見いだされた。すなわち、教員組織 内で「自分の仕事が正当に評価されている」という感覚が、「強いストレス」を減じる独自 の効果を持つことがわかったのである。
近年、各地で教員評価制度が導入されつつある。しかしながら、金子(2010)や苅谷・
金子編(2010)で既に指摘したように、教員評価制度は両刃の剣である。教師のストレス が社会問題化している現在、教師たち一人一人が「勤務校で自分の仕事が正当に評価され ている」という納得感をともなう評価のあり方を模索しなければ、教師のストレスをます ます高めるだけである。そのような事態を避けるためにはどうしたらよいか。たとえば、
教員評価制度の運用においては、教師の間に優劣をつける手段としてではなく、個々の教 師の営みを表現、共有、説明する視点の一つとして、評価を行っていく方法が考えられる。
このような運用のスタンスは、個々の教師をストレスから守るだけではなく、いかなる教 員組織を構築していくのかという組織形成の問題と密接につながっている。それゆえに私 たちは、この問題が未来の教育の質を長期的に左右する選択であることをも自覚しなけれ ばならないだろう。
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謝辞
本稿で用いたデータは、平成21-23年度科研費・基盤(B)「高校生文化と進路形成の変 容(第3次調査)単線型教育体系における多様化政策の課題」(代表・青山学院大学・樋 田大二郎)の助成を受けて実施した共同研究の成果である。調査にご協力くださった教師 および生徒の皆様と共同研究メンバーに厚くお礼申し上げます。
注
!データの出典は、文部科学省HPの以下の二つのページを参照した。
http:"www・mext.go.jp/component/a̲menu/education/detail/̲icsFiles/afieldfile/2010/1 2/24/1300500̲13.pdf(2011.1.14閲覧)
http:"www.mext.go.jp/component/a̲menu/education/detail/̲icsFiles/afieldfile/2009/1 2/25/1288132̲13.pdf(2010.8.30閲覧)
2アメリカのAyalaM.Pinesらによって開発されたバーンアウト尺度をもとにしている。
3本研究は、平成21-23年度科研費・基盤(B)「高校生文化と進路形成の変容(第3次調 査)単線型教育体系における多様化政策の課題」(研究代表者・青山学院大学教授・樋田大 二郎)の助成を受けている。
参考文献 樋田大二郎、中西啓喜、岩木秀夫2011「単線型メリトクラシーパラダイムの再考(I)-
「高校生文化と進路形成の変容(第3次調査)」より」『青山学院大学教育人間科学部紀 要第2号』pp.1-22
樋田大二郎、大多和直樹、金子真理子、岡部悟志、堀健志2011「単線型メリトクラシーパ ラダイムの再考(Ⅱ)「高校生文化と進路形成の変容(第3次調査)」より」(樋田大 二郎、大多和直樹、金子真理子、岡部悟志、堀健志)『青山学院大学教育人間科学部紀 要第2号』pp.23-44
金子真理子2010「教職という仕事の社会的特質一「教職のメリトクラシー化」をめぐる教 師の攻防に注目して」『教育社会学研究』第86集pp.75-96.
苅谷剛彦・金子真理子編著2010『教員評価の社会学』岩波書店。
大阪教育文化センター教師の多忙化調査研究会編1996『教師の多忙化とバーンアウト』法 政出版。 油布佐和子2010「教職の病理現象にどう向き合うか教育労働論の構築に向けて」『教 育社会学研究」第86集pp.23-38
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