京都府丹後地域における森林景観の構造とその変化
彦田祥子,伊藤達夫
Structure and Dynamics of Forest Landscape in Tango Region of Kyoto Prefecture
Shoko HIKODA, Tatsuo ITO
Abstract: Landscape structure and dynamics in Tango region of Kyoto Prefecture were analyzed using forest type maps at two time points. Landscape structure at small watershed scale was measured by four landscape indices, including shape index of non-forest patch and rate of forest area.
As a result, the driving force of forest landscape dynamics was explained in terms of these landscape indices and in relation with human activity.
Keywords: 小流域(small watershed), 景観構造(landscape structure), 景観指数(landscape index), 林相図(forest type map)
1.はじめに
近年その保全や管理に向けた取り組みが模索され ている里山を含む中山間地域の森林計画を行う上で,
人間の生活により生じる様々な土地利用を含む周辺 環境との関係まで考慮に入れた「景観」というより 広い空間範囲の中で森林を位置づける必要がある.
小流域は生態系構造としてまとまりのある空間範囲 と人間の生活領域としてまとまりのある空間範囲と が一致し,自然的要素と人為的要素,つまり森林と 人間との相互関係を考えるのに最適な単位である.
本研究では,典型的な中山間地域である京都府丹 後地域を対象に林相図(樹種分類図)と地理情報シ ステムを用いて小流域単位でその景観構造を定量的 に把握した.また,景観指数を組み合わせて,景観 という視点から小流域ごとの森林の特徴づけを行い,
対象地を4つの地域に区分した.さらに,2時期の 景観構造の比較から,本地域において森林と人間の 関係がどのように変化したのかを明らかにすること を試みた.
2.資料と方法
2.1. 研究対象地と資料
研究対象地は,京都府最北端に位置する丹後地域 の京丹後市東部と,宮津市北部,伊根町を流れる竹 野川,宇川,吉野川,筒川,日出川,犀川,波見川,
世屋川,畑川の9河川流域である(図-1).半島東 部に標高600mを超す山々が連なり,その他は標高 200~300mの小起伏山地をなしている.山地の間に は峰山盆地,間人低地や竹野川などが形成する沖積 平野が広がっており,古くから農耕地として利用さ れてきたが,全体としては低山地と傾斜台地が多く,
平地は少ない地勢である.
用いた資料は,京都府立大学森林計画学研究室が 1975年撮影の空中写真(KK-99-1X,撮影縮尺:
1 / 30,000)から作成した林相図(図-2)と,2004
年に京都府が撮影したカラー空中写真(K-52248, 撮影縮尺:1 / 10,000)から林相判読により今回新た に作成した林相図(図-3)である.本地域では1960 年代から廃村や過疎化が急速に進み,それらに伴う 耕作放棄が顕著になった 1970年代には地域の景観 が大きく変化した.そのため,この2時期の資料を 用いることにより,棚田のような集約的な農耕地利 用が広く行われていた時期からの景観変化を知るこ
彦田:606-8522 京都市左京区下鴨半木町1 京都府立大学大学院農学研究科森林計画学研究室 Tel/Fax 075(703)5635 [email protected](伊藤)
図-1 研究対象地と小流域界
とができると考えた.
林相図の作成と解析にはESRI社製ArcView 9.1 と そ の 拡 張 機 能 の Image Analysis と Spatial
Analyst を使用した.小流域区分については前報の
結果を用いた.今回研究対象とした小流域数は132,
平均面積は2.78㎢であった.
2.2.1. 景観構造の定量化
2 時期の林相図をもとに対象地域の森林景観を定 量的に把握し,地域区分を行った.林相図はスギ・
ヒノキ人工林や竹林,新植地,伐採跡地が区分され ている.またアカマツの占有率によりアカマツ林,
混交林-Ⅰ,混交林-Ⅱ,広葉樹林が区分されてお り,この順に,森林に対する人的影響が小さくなる と考えられる.また集落や農地などの人的要素はす べて森林以外としてひとまとめに区分されている.
森林中心の景観を有する対象地の特性にしたがっ て区分を行う4つの地域の定義を以下に示す.
① 奥山地域:自然度が高い森林(ブナ,ミズナラな ど)の連続性が保たれている地域
② 里山地域:人と森林の相互作用によって多様な 自然環境が形成されている地域
③ 森林地域:奥山地域と里山地域の緩衝帯として
存在する地域
④ 農耕地・市街地その他の地域:里山地域よりも 人的影響が強いと考えられる地域
これらの地域の区分を,以下に示す4つの景観指 数を組み合わせて行った.
1)森林率
小流域面積に対する森林パッチの総面積の比率で ある.対象地域は潜在的な森林地域であるため,個々 の小流域において人間による森林改変の程度を表す 指標として用いた.
2)形状指数
一般に形状指数とは,面積の平方根に対する周囲 長の比として表され,そのパッチの形状の複雑さを 示すものである.本研究では林相図において森林以 外と区分されているパッチについてその形状の複雑 さをみることで,形状が複雑なほど森林と人間とが 相互作用する境界領域が大きく,そのために多様な 自然環境が形成されている可能性が高いと考えた.
なおこのパッチは河川沿いに分布しているため,小 流域界の形状の複雑さによる影響が少ない.また形 状指数をさらに小流域面積で割ることによって小流 域面積のばらつきによる影響を除いた.
3)最大パッチ属性
図-2 林相図(1975年)
図-3 林相図(2004年)
小流域を構成するパッチのうち,占有面積が最大 のパッチの林相である.林相の総面積が最大のもの ではなく,パッチ面積が最大のもので小流域を代表 させ,小流域内に「かたまり」として存在する林相 を示す.この指数は次の占有率と合わせて用いる.
4)占有率
最大パッチ属性で選択されたパッチが小流域に占 める面積割合である.もし隣り合う小流域で最大パ ッチ属性が同じであれば,それらの小流域をまたが
って同一のパッチが分布している可能性が高いと考 え,空間的な連続性の程度を表す指標として用いた.
2.2.2. 地域区分
まず,自然的要素と人的要素の相互作用により形 成される里山地域を区分するために,森林に対する 人的影響を表す指数として森林率と形状指数を用い た.また森林の自然性と連続性が高いと考えられる 奥山地域を区分するために,自然度の高い森林の連
図-4 地域区分結果(1975年)
図-5 地域区分結果(2004年)
続性を表す指数として最大パッチ属性と占有率を用 いた.具体的には,森林率80%以上で,最大パッチ 属性が広葉樹林と混交林-Ⅱであり,その占有率が
50%以上の小流域を奥山地域,森林率が80%以上で
あるがこの条件を満たさない小流域を森林地域と区 分した.次に,森林率が 55%以上80%未満で,形 状指数4.5以上の小流域を里山地域と分類し,いず れの条件も満たさなかった小流域は農耕地・市街地 その他の地域とした.
3. 結果と考察
地域区分結果を図-4,5に示した.まず,各指数 の算出結果について述べる.1975年に比べて2004
年の形状指数の値はほとんどの小流域で減少してい た.形状指数は谷津田に代表されるような,耕作地 が小さな谷筋にまで入り込んでいる状態を表すのに 有用な指数であるが,今回の結果は,耕作地が谷筋 から後退したり完全に放棄されたり,あるいは大規 模な圃場造成が行われたことによって耕作地の分布 形態が単純化したことを示している.また森林率が 増大しているのは,耕作放棄地への植林や広葉樹の 侵入による森林面積の増加を表している.最大パッ チ属性をみると,全体としてアカマツが減少し,残 っていてもかたまりとして存在せず,分断された状 態にあることが分かる.一方,広葉樹林は宇川流域 を中心にまとまりを保持している.竹野川流域では 最大パッチ属性が「森林以外」で,その占有率が高 くなった小流域が多かった.これは細く入り組んだ 水田を統合して新たに大規模な圃場を造成した場所 が増えたことが主な原因である.
続いて地域区分の結果であるが,筒川流域を中心 に里山地域が大きく減少しているのに対して.宇川 流域を中心に奥山地域と森林地域の空間的な連続性 が増加していた.これは耕作放棄などにより森林以 外のパッチが減少し,その形状が複雑さを失ったこ とを示している.つまり,人間が森林に対して与え る影響が少なくなり,里山的森林が失われている現 状が客観的に表されている.
本研究で用いた小流域という解析単位と景観指数 との組み合わせによって森林を景観的にとらえる手 法は,地域の現状に即した森林管理を行う上で今後 重要になると考えられる.
参考文献
大隈眞一・妹尾俊夫・石川善朗 (1983)『丹後半島学 術調査報告』,145-153,京都府立大学 京都府 立女子短期大学部.
彦田祥子・伊藤達夫(2006)小流域単位でみた京都 府丹後地域の景観構造,「地理情報システム学会 講演論文集」,15, 379-382.
深町加津枝・奥敬一(2002)里山ブナ林に対する地 域住民と都市住民の景観評価および継承意識の 比較,「ランドスケープ研究」,65,5,647-652.