桃 山学院大学大学院経済学研究科博士学位 申請論文
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(2) 目次 は じ め に ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ …2 第1章. 所 有 と 支 配 を め ぐ る 議 論 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ …5. 第1節. 奥 村宏 氏 の. 「法 人 資 本 主 義 」 説5. 第2節. 北 原 勇氏 の. 「会 社 そ れ 自 体 」 説7. 第3節. 松 井 和夫 氏 の. 第4節. 小括. 第2章. 「法 人 相 互 支 持 」 説11. 14. 法 人 株 主 構 造 に つ い て ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ …16. 第1節. 法 人 株 主 構 造 の 歴 史16. 第2節. 法 人 株 主 構 造 の 諸 側 面19. 第3節. 法 人 株 主 構 造 の 意 味23. 第3章. 企 業 間 取 引 と株 式 相 互 持 合 い ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ …24. 第1節. 企 業 集 団 内 取 引 と株 式 相 互 持 合 い24. 第2節. 三 菱 グ ル ー プ に お け る 株 式 相 互 持 合 い の 実 態30. 第3節. 三 菱 グ ル ー プ に お け る 株 式 所 有 関 係 と 取 引 関 係 の 対 応34. 第4章. 大 手 事 業 会 社 の 株 式 所 有 構 造 の 変 化 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ …42. 第1節. 分 析 対 象 の 限 定 と分 析 の 方 法42. 第2節. 大 手 事 業 会 社 の 株 式 所 有 構 造 の 変 化 の 実 態44. 第3節. 機 関 投 資 家 の 性 格47. 第4節. 国 内 の 機 関 投 資 家 の 実 体 と 性 格49. 第5節. 外 国 株 主 の 実 体 と性 格51. 第5章3メ. ガ バ ン ク の 株 式 所 有 構 造 の 変 化 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ …56. 第1節3メ. ガ バ ン ク の 形 成56. 第2節3メ. ガ バ ン ク の 株 式 所 有 構 造 の 変 化59. 第3節3メ. ガ バ ン ク の 安 定 株 主 構 造 の 再 編64. 第6章. 日本 企 業 の 株 式 所 有 構 造 変 化 を 引 き 起 こ す 諸 要 因 ・ ・ ・ …69. 第1節. 株 式 持 合 い 減 少 の 理 由69. 第2節. 大 企 業 の 経 営 戦 略 の 変 化 と 外 国 株 主 の 増 加71. 第3節. 大 企 業 の 収 益 構 造 の 変 化 と 信 託 資 産 名 義 の 株 主 の 増 加75.
(3) は じめ に 1990年 代 以 後 、 日本 の 大 企 業 の 株 式 所 有 構 造 は 大 き く変 化 した 。最 も顕 著 な 変 化 は 次 の 2点 で あ る。 第1は. 、 法 人 株 主 持 株 率 の 低 下 とい うこ とで あ る。2010年. 度の 「 株式 分 布 状況 調査 」 に. よ る と、法 人 株 主 の 持 株 率(信 託 銀 行 を 除 く)は1990年. の60.6%(金. 法 人25.2%)か. 業 法 人24.3%)に. ら、2010年 の32.2%(金. 融 機 関7.9%+事. 融 機 関35.4%+事. ま で 半 減 した 。. ま た 、 ニ ッセ イ 基 礎 研 究 所 の 調 査 結 果 に よ る と 、 株 式 相 互 持 合 比 率 は1990年 ら、2002年 第2は. の7.4%ま. 業. の18.0%か. で 減 少 した 。. 、 外 国 人 株 主 と 国 内 の 投 資 信 託 、 年 金 基 金 な ど機 関 投 資 家 の 持 株 率 の 上 昇 と い う. こ と で あ る。2010年 の4.2%か. 度の 「 株 式 分 布 状 況 調 査 」 に よ る と、 外 国 人 株 主 の 持 株 率 は1990年. ら 、2010年22.2%に. ま で 激 増 して い る 。個 別 企 業 の株 式 所 有 構 造 を 見 る と、 花. 王 、キ ヤ ノ ン 、ソ ニ ー 、ヤ マ ダ な ど多 く の 大 企 業 で は 外 国 株 主 持 株 率 が50%を さ らに 、 信 託 銀 行 の 持 株 率 は1990年 年 の14.6%(内. に 投 信3.3%、. の9.8%(内. 年 金2.7%)に. に 投 信3.6%、. 超 え て い る。. 年 金0.9%)か. 微 増 した 。 た だ 、 個 別 企 業 の20大. ら 、2010 株 主 をみ. る と 、 ほ と ん どの 大 企 業 の筆 頭 株 主 は 日本 トラ ス テ ィ ・サ ー ビス 信 託 銀 行 な い し 日本 マ ス タ ー トラ ス ト信 託 銀 行 と な っ て い る こ とが わ か る。 こ う した 株 式 所 有 構 造 の 変 化 を 一 言 で 言 え ば 、 法 人 所 有 を 中 心 とす る株 式 所 有 構 造 、 い わ ゆ る法 人 株 主 構 造 の 「 弛緩 」 「 解 消 」 とい うこ と に な る が 、 そ うす る と 、 こ こ に解 明 され る べ き1つ. の 問 題 が 浮 か び 上 が る こ と に な る。 つ ま り、法 人 株 主 構 造 の 「 弛緩 」 「 解 消 」に. も 関 わ らず 、な お 日本 企 業 の 安 定 株 主 構 造 は 維 持 され て い る の か ど うか とい う問 題 で あ る。 法 人 に よ る 株 式 所 有 、 法 人 所 有1)を 中 心 とす る株 式 所 有 構 造 が 当該 企 業 の 経 営 陣 の 地 位 を 安 定 的 に 支 え る安 定 株 主 構 造 と し て の 役 割 を演 ず る こ と に つ い て 、奥 村 宏 氏 、北 原 勇 氏 、 松 井 和 夫 氏 を 始 め とす る多 く の 研 究 者 の 見 解 は 共 通 し て い る。 筆 者 も こ う した 先 行 研 究 に 学 び 、 法 人 株 主 構 造 が 経 営 者 の 支 配 的 地 位 を 支 え る こ と に本 質 的 な 意 味 が あ る とす る見 地 に 立 っ 。 だ が 、 この 見 地 に 立 っ 限 り、1990年 代 以 後 、 日本 の 大 企 業 の株 式 所 有 構 造 に 起 こ っ て い る 上 記 の 変 化 の 意 味 を安 定 株 主 構 造 との 関 わ りに お い て解 明 す る とい う課 題 を 回避 す る こ とは で き な い 。 戦 後 、 日本 の 大 企 業 は 法 人 所 有 を通 じて 、株 主 の 安 定 化 を 図 っ て き た 。 株 主 の 安 定 化 は 経 営 者 の 地 位 を 支 え る とい う役 割 を演 ず る だ け で な く 、 巨 大 企 業 の 成 長 を 支 え る 条 件 と し て も大 き な 役 割 を 演 じて き た 。 だ が 、1990年 代 以 降 、株 式 所 有 構 造 が 大 き な 変 化 を遂 げ た 今 日、 大 企 業 の 安 定 株 主 構 造 が 、 か つ て と 同様 の 構 造 を 維 持 し、 か つ て と 同 じ役 割 を 演 じ て い る とは 考 え られ な い 。 日本 に お け る株 式 所 有 構 造 に 関 す る研 究 に は 長 い 歴 史 が あ り、 多 くの 成 果 が 蓄 積 され て き た 。90年 代 以 後 の 株 式 所 有 構 造 の 変 化 に つ い て も 、多 く の研 究 者 が 関 心 を払 い 、 さ ま ざ ま な 視 点 か ら分 析 を 続 け て き た 。 だ た 、研 究 の 多 くは 法 人 株 主 構 造 の 「 弛 緩」 「 解 消 」が 株 2.
(4) 主 構 造 の核 の 部 分 ま で 進 ん で い る か 否 か とい う問 題 や 株 式 所 有 構 造 の 変 化 が企 業 経 営 の ガ バ ナ ンス と企 業 経 営 の あ り方 に どの よ うな 影 響 を 及 ぼ す の か とい う問題 に 関 心 を 向 け て い て 、「 安 定 株 主 構 造 」の 視 点 か ら株 式 所 有 構 造 の 変 化 の 意 味 を 検 討 す る研 究 は必 ず し も多 く はな い。 本 論 文 で は 、1990年 代 以 後 に 起 こ っ て い る 法 人 株 主 構 造 の 変 化 を め ぐ る こ う し た研 究 状 況 を前 提 に 、 株 式 所 有 構 造 の 変 化 が 安 定 株 主 構 造 に とっ て 何 を 意 味 す る の か と い う問 題 に つ い て 考 え て み よ う と思 う。 検 討 す べ き 課 題 は2つ. で あ る。 第1は. 、法 人 株 主 構 造 が 「 弛緩 」 「 解 消 」 した 今 日な お 、. 安 定 株 主 構 造 は 存 在 して い る の か 否 か とい う問 題 で あ る。第2は. 、「 安 定 株 主 構 造 」が 依 然. と して 存 在 して い る とす れ ば 、 安 定 株 主 構 造 そ れ 自体 に どの よ うな 変 化 が あ っ た の か 、 つ ま り、 法 人 所 有 を 安 定 株 主 構 造 の1つ. の 形 とす れ ば 、 法 人 所 有 とい う形 の 安 定 株 主 構 造 は. そ の ま ま残 され て い る の か 、 あ る い は 、 法 人 所 有 とは 異 な る別 の 形 の 安 定 株 主 構 造 が 形 成 され た の か ど うか とい う問題 で あ る。 こ こ に 指 摘 した 問 題 は 、 具 体 的 に は つ ぎ の よ うな こ と に な る。1つ. は 経 営 陣 の 支 配 基 盤 を 支 え る役 割 を 演 じて き た 事 業 会 社 、 銀 行 な どの 法 人. 株 主 が 現 在 も安 定 株 主 と して の 役 割 を 果 た して い る の か ど うか とい う問 題 で あ り、 も う1 つ は 大 株 主 と して 新 た に 登 場 した 内 外 の 機 関 投 資 家 を安 定 株 主 と して 捉 え る こ とは で き る の か ど うか とい う問題 で あ る。 以 上 の 問 題 意 識 の も と に 、 私 は博 士 論 文 の タ イ トル を 「日本 企 業 の株 式 所 有 構 造 の 分 析 一 安 定 株 主 構 造 の 視 点 か ら一 」 と設 定 し、 日本 企 業 の 株 式 所 有 構 造 の 変 化 が安 定 株 主 構 造 に と っ て 何 を 意 味 す る の か と い う問 題 を と りあ げ 解 明 す る こ とに した い 。 本 論 文 は 次 の よ うに 構 成 され る。 第1章. 「 所 有 と支 配 を め ぐ る議 論 」 で は 、 戦 後 日本 の. 株 式 所 有 構 造 に 関 す る代 表 的 な 理 論 を 検 討 す る。 そ こ で 得 られ た 結 論 は 、 株 式 所 有 の 極 端 に 分 散 した 大 企 業 の 経 営 者 に と っ て は 、 自 らの 支 配 的 な 地 位 を 安 定 化 させ る た め 一 定 の 持 株 率 が 常 に 必 要 だ とい うこ と で あ る。 経 営 者 の 支 配 的 な 地 位 を 安 定 化 させ る株 主 構 造 を 安 定 株 主 構 造 と定 義 す れ ば 、 戦 後 に形 成 され た 法 人 所 有 を 中 心 とす る株 式 所 有 構 造 は 安 定 株 主 構 造 の1っ の 形 態 に 他 な ら な い と考 え られ る。 第2章. 「 法 人 株 主構 造 に つ い て 」 で は 、 先 行 研 究 に学 び な が ら、 安 定 株 主 の 柱 と して の. 役 割 を 果 た して き た い わ ゆ る法 人 所 有 の 実 態 を検 討 す る。 戦 後 日本 企 業 の 株 式 所 有 構 造 の 歴 史 を 安 定 株 主 構 造 の 視 点 か ら捉 え な お し、安 定 株 主 構 造 と して の 法 人 所 有 の 形 成 、要 因 、 特 徴 、 意 味 な どの 諸 側 面 に つ い て 、 明確 な 理 解 を 確 立 す る こ とが 第2章 第3章. の 目的 で あ る。. 「 企 業 間 取 引 と株 式 相 互 持 合 い 」 で は 、 安 定 株 主 と して の 法 人 株 主 と株 式 を発 行. す る企 業 と の 間 に どの よ うな 関係 が 成 立 して い る の か 、 そ こ に 成 立 す る 関係 は 持 株 率 あ る い は 株 主 順 位 の 上 に どの よ うに 反 映 され て い る の か と い う問 題 を検 討 す る 。 第4章. 「 大 手 事 業 会 社 の株 式 所 有 構 造 の 変 化 」 で は 、 大 手 事 業 会 社20大. 株 主の分 析 を. 通 じて 、 大 手 事 業 会 社 の 株 式 所 有 構 造 の 変 化 の 実 態 と そ の 意 味 を解 明 す る 。 具 体 的 に は2 3.
(5) つ の 問 題 を 中 心 に 検 討 す る。1つ は1990年. 代 以後 起 こ った株 式 所有 構 造 の 変化 の も とで、. 伝 統 的 な 安 定 株 主 とい わ れ る銀 行 、 事 業 会 社 な ど は な お 安 定 株 主 の 中核 と して の 役 割 を 果 た して い る の か ど うか と い う問 題 で あ る。 も う1つ は 大 株 主 と して 新 た に 登 場 して き た 内 外 の 機 関投 資 家 は 安 定 株 主 と捉 え られ る の か ど うか と い う問 題 で あ る。 第5章. 「3メガ バ ン ク の 株 式 所 有 構 造 の 変 化 」 で は 、3メ ガ バ ン グ を 中 心 に 、大 手 銀 行 ・. 金 融 機 関 の 株 式 所 有 構 造 の 実 態 を解 明 す る。 そ の う え で 、3メ ガ バ ン ク の 株 式 所 有 構 造 の 変 化 は 安 定 株 主 構 造 に と っ て 何 を意 味 す る の か とい う問 題 を 検 討 す る。 第6章. 「日本 企 業 の株 式 所 有 構 造 変 化 の 要 因 分 析 」 で は 、1990年 代 以 後 、 日本 企 業 の 株. 式 所 有 構 造 の 変 化 を 引 き 起 こ した 諸 要 因 を 総 括 し、 日本 企 業 の株 式 所 有 構 造 の 変 化 が 企 業 経 営 の 戦 略 的 転 換 と どの よ うに 関 わ っ て い る の か とい う問題 を 検 討 す る。. 4.
(6) 第1章. 所 有 と支 配 を め ぐ る議 論. 本 論 文 の 課 題 は 安 定 株 主 構 造 の視 点 か ら 、 日本 企 業 の 株 式 所 有 構 造 の 変 化 を分 析 す る こ とで あ る が 、 そ もそ も 、 安 定 株 主 構 造 を ど の よ うに理 解 す べ き な の か。 日本 企 業 の 株 式 所 有 構 造 の 変 化 の 実 態 とそ の 意 味 を検 討 す る とい う作 業 を 始 め る 前 に 、 安 定 株 主 構 造 とい う 概 念 を 明 瞭 に して お か な け れ ば な ら な い 。 本 章 で は 、 先 行 研 究 を検 討 しな が ら 、 安 定 株 主 構 造 とい う概 念 を 明 らか に す る。 戦 後 日本 の 株 式 所 有 構 造 に は2つ. の 顕 著 な 特 徴 が あ る。 第1は. い わ ゆ る株 式 所 有 の 分 散. 化 現 象 で あ る 。 こ こ で 株 式 所 有 の 分 散 化 に は 二 重 の意 味 が あ る 。 ま ず 、 株 式 会 社 の 巨 大 化 に つ れ て 、 発 行 され た 株 式 総 数 と株 主 数 が 増 加 す る と と も に 、 上 位 大 株 主 の持 株 率 が 低 下 し、 単 独 ま た は 少 数 の 株 主 だ け で 巨 大 株 式 会 社 を 支 配 す る に足 る株 式 を所 有 す る こ と は 極 め て 困 難 に な っ て い る とい う こ とで あ る。 第2は. い わ ゆ る株 式 所 有 の 法 人 化 現 象 で あ る。 戦 後 、 財 閥 解 体 に よ っ て 株 式 所 有 が 分 散. 化 し、 株 式 を 持 た な い ま た は わ ず か の株 式 しか 持 た な い 経 営 者 の 支 配 基 盤 は極 め て 不 安 定 とな っ た 。 経 営 者 の 支 配 的 な 地 位 を 安 定 化 させ る た め 、 「 安 定 株 主 工 作 」 を通 じて 、法 人 株 主 に よ る所 有 が 急 速 に 進 ん だ 。 そ の 後 、 少 数 株 主 に よ る支 配 の集 中 とい う事 態 は 回 復 し て い な い 。 今 日、 巨 大 株 式 会 社 に は財 閥 時 代 と比 較 され る よ うな 支 配 株 主 は お らず 、 銀 行 、 事 業 会 社 な どの 法 人 が 分 散 的 に 株 式 を保 有 し、 法 人 株 主 が 全 体 と して 支 配 株 主 と して の役 割 を演 ず る とい う関係 が 普 遍 的 な 現 象 とな っ て い る。 こ う した 株 式 所 有 の 分 散 化 及 び 法 人 化 現 象 を対 象 とす る 多 くの 研 究 成 果 が 蓄 積 され て きた が、 奥村 宏 氏 の 「 法 人 資本 主義 」 説 、北原 勇 氏 の 「 会 社 そ れ 自体 」 説 、 松 井 和 夫 氏 の 「 法 人 相 互 支 持 」 説2)は 、 最 も代 表 的 な 議 論 と考 え られ る。 そ こで 本 章 で は 、 小 論 の課 題 に 関 わ る 限 りで 、 三 氏 の 議 論 を 取 り上 げ 、 検 討 して お く こ と にす る。 第1節. 奥村 氏 の 「 法人 資本 主義 」説. 戦 後 日本 の 株 式 所 有 構 造 に 関 す る研 究 を 代 表 す る も の と し て 、 ま ず 奥 村 氏 の 「 法 人 資本 主 義 」 説 を取 り上 げ る こ と にす る。 氏 が 提 唱 した 「 法 人 資 本 主 義 」 とい う概 念 は す で に 日 常 用 語 と して 定 着 す る ほ ど、 氏 の 研 究 の 影 響 は 大 き い 。 戦 後 に形 成 され た 法 人 株 主 構 造 に 関 す る氏 の 見 解 を要 約 す る な ら こ うで あ る。 巨 大 株 式 会 社 に お い て 、 経 営 者 の 支 配 権 は少 数 の 個 人 大 株 主 の 株 式 所 有 に 基 づ く も の か ら、 法 人 株 主 の 株 式 所 有 に 基 づ く も の へ と転 化 した 。 法 人 株 主 と経 営 者 の 問 に は 、 支 配 一被 支 配 とい う相 互 支 配 の 関 係 が あ る。 そ うい う相 互 支 配 の 関 係 か ら、 最 終 的 に 、 相 互 信 認 関 係 が 形 成 され る こ と に な る。氏 の議 論 を構 成 す る主 要 な 論 点 と して 次 の3点 第1に. を あ げ る こ とが で き る。. 、 巨 大 株 式 会 社 に お い て 、 経 営 者 は伝 統 的 な 個 人 大 株 主 か ら独 立 した が 、 経 営 者. の 支 配 を成 立 させ る 根 拠 は相 互 持 合 い を 中 心 とす る 法 人 の 株 式 所 有 とな っ て い る 。 す な わ ち 、 経 営 者 の 支 配 的 な 地 位 を安 定 化 させ る も の は 法 人 株 主 の 株 式 所 有 で あ る。 5.
(7) 氏 は こ う述 べ て い る。 「一 方 に お け る所 有 に 基 づ か な い 経 営 者 の 支 配 、他 方 に お け る所 有 に基 づ い た 個 人 株 主 の 支 配 とい う二 つ の 議 論 に 対 して 、 法 人 資 本 主 義 論 は 法 人 所 有 に 基 づ い た 経 営 者 に よ る 支 配 とい うこ と を 主 張 す る。 こ こ で 重 要 な こ と は 法 人 へ の 株 式 所 有 の 集 中 とい う こ と と 同 時 に 、 法 人 と し て の 会 社 を代 表 す るの が 経 営 者 で あ る とい うこ と で あ り、 法 人 と して の 会 社 と 自然 人 と し て の 経 営 者 と の 関 係 が 大 き な テ ー マ に な っ て い く。 そ れ は 経 営 者 支 配 を 認 め る が 、 そ の 経 営 者 の 支 配 の 根 拠 を 問 題 に す る と こ ろ が これ ま で の 経 営 者 支 配 論 と異 な る と こ ろ で あ る 」3)。 「この 体 制 は 、 経 営 者 支 配 と言 え る が 、 こ の経 営 者 支 配 は 一 社 内 で 現 れ る の で は な い 。 な ぜ な ら一 社 内 で は 、 経 営 者 は 単 な る 雇 わ れ 経 営 者 ・ 経 営 技 術 者 で しか な く 、 所 有 権 を代 表 せ ず に何 の 支 配 権 も持 っ て い な い か らで あ る。 経 営 者 支 配 を成 立 させ る 根 拠 は 、 法 人 の 他 の 法 人 に 対 す る支 配 ・株 式 の 相 互 持 ち合 い 体 制 に あ る 」4)。 第2に. 、法 人 株 主 と経 営 者 の 関係 は 支 配 一 被 支 配 関係 で あ る。法 人 会 社 は 他 社 に 対 して 、. 支 配 す る と 同 時 に 他 社 に 支 配 され て い る。 そ うい う相 互 支 配 の 関 係 か ら 、 さ ら に 相 互 信 認 の 関 係 が 形 成 され る 。 氏 に よ る と、 「 相 互 支 配 一 相 互 依 存 関 係 は 内 部 的 に は 支 配 す る と 同 時 に 支 配 され る とい う状 態 を 生 む が 、しか し外 敵 に対 す る 安 全 保 障 と して は極 め て 合 理 的 で 強 固 な も の に な る。 お 互 い に外 敵 に 対 して 防 衛 しあ っ て い る の だ か ら 、 そ こ に裏 切 っ た り、 あ る い は 脱 落 す る も の は 出 て こな い 」5)。 第3に. 、 会 社 の 支 配 体 制(内. 部 統 治)に. つ い て は 自社 以 外 の 法 人 株 主 が 共 同 支 配 グル ー. プ と な る。 企 業 集 団 を例 とす るな ら 、 各 企 業 集 団 の社 長 会 が メ ンバ ー 企 業 の支 配 中枢 とな る。 氏 に よ る と、 「 三菱 グル ープ の社 長会 で あ る 「 金 曜 会 」 は グ ル ー プ 各 社 に 対 して は 事 実 上 の 大 株 主 と して の役 割 を果 た して い る の で あ る」。 「 個 々の企 業 だ けで は決 定 的 な支配 権 を 持 っ こ と は で き な い が 、企 業 集 団 と して ま と ま れ ば そ れ は 大 株 主 と して の支 配 力 を 持 つ こ と が で き る 。 しか も重 要 な こ とは こ こ で 株 式 を 持 っ て い る企 業 は 同 時 に 株 式 を 持 た れ て い る の で あ り、 支 配 す る メ ンバ ー の 中 に支 配 され る メ ン バ ー も入 っ て い る とい うこ とで あ り、 そ うい う意 味 で の 相 互 支 配 が 行 わ れ て い る の で あ る」6)。 以 上 に 見 た よ うに 、 氏 は 戦 後 日本 企 業 に お け る 所 有 と支 配 に 関 わ る議 論 の根 抵 に 、 法 人 所 有 に 基 づ く経 営 者 の 支 配 と い う考 え を設 定 して い る。 法 人 所 有 に 基 づ く経 営 者 支 配 とい う見 解 は 、 戦 後 の 日本 企 業 の 株 式 所 有 構 造 を 理 解 す る理 論 的 基 礎 と して 、 そ の 持 っ 意 義 は 大 き い と思 わ れ る。 た だ 、 法 人 株 主 と経 営 者 と の 関係 、 株 式 を 所 有 す る企 業 と株 式 を 所 有 され る企 業 と の 関 係 を支 配 一 被 支 配 関係 と い う視 点 か ら理 解 す る こ とに つ い て 、 筆 者 に は な お 納 得 しえ な い と こ ろ が あ る 。 こ こ で 、 小 論 の 課 題 との 関 連 で 指 摘 され るべ き は 以 下 の 諸 点 で あ る。 第1に. 、 氏 は所 有 者(法. 人 株 主)と. 経 営 者 の 関 係 を支 配 す る と同 時 に 支 配 され る 「 相互. 支 配 」 関係 と規 定 して い る が 、 こ う した 「 相 互 支 配 」 関係 は 論 理 的 に成 立 す る か ど うか が 6.
(8) 問題 と な る。 一 般 的 に 、 支 配 す る側 と支 配 され る側 は 対 立 の 立 場 に 立 ち 、 支 配 され る側 は 支 配 す る側 の 意 志 に 服 従 しな け れ ば な らな い 。 そ う考 え れ ば 、 「 相 互 支配 」 は 「 相互 服 従」 とな るが 、 この よ うな お 互 い に 服 従 す る状 態 を想 像 す る こ と は 困難 で あ る。 第2に. 、 巨 大 株 式 会 社 に お い て 、 法 人 株 主 の 数 は 膨 大 で あ る。1980年. 行 に は 法 人 株 主 が1884人. い る。 そ の うち 、 金 融 機 関 は105人. そ の 他 の 法 人 の 株 主 は1779人. 、持 株 率 が55.63%で. 人 い る。そ の うち 、金 融 機 関 は88人 人 、 持 株 率 が57.66%で 持 株 率 が8.01%で. の時 点 で、三菱 銀. 、 持 株 率 が31.76%で. あ り、. あ る。 さ く ら銀 行 に は 法 人 株 主 が1631. 、持 株 率 が28.85%で. あ り、そ の他 の 法 人 の株 主 は1543. あ る。 三 和 銀 行 に は 法 人 株 主 が2697人. あ り、 そ の 他 の 法 人 の株 主 は2566人. い る。 金 融 機 関 は131人. 、持 株 率 が61.26%で. 、. あ る7)。 これ. ら数 多 くの 法 人 株 主 は 各 業 種 に 渡 り、 企 業 規 模 に も 大 き な 違 い が あ る の で あ り、 統 一 的 な 意 思 を 形 成 す る こ とは 困 難 で あ り、 共 同 支 配 グル ー プ を 構 成 す る こ と も容 易 で は な い 。 第3に. 、 相 互 持 合 い を 中 心 とす る法 人 所 有 は 企 業 集 団 の メ ン バ ー 企 業 に 特 有 の 現 象 で は. な く 、 戦 後 日本 企 業 の 株 式 所 有 構 造 に 普 遍 的 な 現 象 で あ る。 企 業 集 団 の メ ンバ ー 企 業 の 外 に位 置 す る多 くの 独 立 巨 大 企 業 に お い て も、 法 人 所 有 は 支 配 的 な 所 有 形 態 とな っ て い る。 六 大 企 業 集 団 に お い て は 、 三 菱 グル ー プ の 社 長 会 で あ る 「 金 曜 会 」 の よ うな も の が グル ー プ 各 社 に対 して は 事 実 上 の 大 株 主 と して の 役 割 を 果 た して い る の で あ る が 、 六 大 企 業 集 団 の メ ンバ ー 企 業 以 外 の 株 式 会 社 に お い て 、「 金 曜 会 」の よ うな も の は 存 在 す る の か ど うか が 問題 と な る。 存 在 しな け れ ば 、 独 立 巨 大 企 業 に対 して 、 こ れ らの 法 人 株 主 は ど の よ うな 形 で 大 株 主 と して の 役 割 を 果 た す こ と に な る の か 。 ま た 、 日立 株 式 会 社 等 の よ うに 、 同 時 に 複 数 の 企 業 集 団 に 参 加 し て い る 企 業 も少 な くは な い 。 こ う した 場 合 、 同 時 に い く つ か の 社 長 会 に 支 配 され る の か とい う疑 問 も 当 然 に 出 て く る。 第4に. 、 企 業 集 団 の メ ン バ ー 企 業 に お い て も 、 法 人 株 主 の 中 に 、 企 業 集 団 の メ ンバ ー 企. 業 以 外 の 法 人 株 主 も 少 な くは な い 。 三 菱 銀 行 を例 と して 見 れ ば 、1980年 ー プ の 社 長 会 メ ンバ ー 企 業 の 持 株 率 合 計 は20%程 80%を. 度 で あ るが. 時 点 で 、三 菱 グ ル. 、 法人株 主全 体 の持株 率 は. 超 え て い る。 こ の よ うに 、 社 長 会 メ ン バ ー 企 業 以 外 の 法 人 株 主 の 持 株 率 合 計 は 社 長. 会 メ ンバ ー 企 業 の 持 株 率 合 計(グ ル ー プ 内 の 持 合 い)を 大 幅 に 上 回 っ て い る の が 一 般 的 な 現 象 で あ る。 社 長 会 が 大 株 主 と して の 役 割 を 果 た して い る とす れ ば 、 企 業 集 団 の メ ンバ ー 企 業 以 外 の 法 人 企 業 の 持 分 を ど うの よ うに 理 解 す る の か と い っ た 疑 問 も あ る。 以 上 で 検 討 した よ うに 、 氏 の 法 人 所 有 に 基 づ く経 営 者 支 配 とい う見 解 は 戦 後 日本 企 業 の 株 式 所 有 構 造 の 法 人 化 現 象 を全 体 的 か つ 理 論 的 に 説 明 した も の で あ り、 戦 後 の 日本 企 業 に お け る所 有 と支 配 を 検 討 す る基 礎 的 な 見 解 を な す も の と考 え られ る。 た だ 、 独 立 巨大 企 業 や 複 数 の企 業 集 団 に 参 加 して い る企 業 な ど個 別 の 企 業 の 株 式 所 有 構 造 に つ い て 、 氏 の 見 解 を も っ て して は な お 解 明 し え な い 課 題 が 残 る こ と も 事 実 だ と思 う。 第2節. 北原 氏 の 「 会 社 そ れ 自体 」 説 7.
(9) 奥村 氏 の 「 法 人 資 本 主 義 」 説 と並 び 、 北 原 氏 の 「 会 社 そ れ 自体 」 説 も代 表 的 な 見 解 の 一 つ で あ る と思 わ れ る 。氏 は1980年. 代 の ア メ リカ の株 式 所 有 構 造 を 中 心 に 検 討 した 上 で 、現. 代 資 本 主 義 の 一 般 的 な 傾 向 と して 、 株 式 会 社 の 巨 大 化 と と も に 、 株 式 所 有 の分 散 化 と管 理 機 能 の複雑 化 が進 み 、 「 会 社 そ れ 自体 」 に よ る 実 質 所 有 が 成 熟 し、 「 会 社 そ れ 自体 」 に よ る 支 配 が で き る よ うに な る とい う見 解 を 提 出 した 。 論 点 は 多 岐 に 渡 る が 、 小 論 の 課 題 と の 関 連 で 、 次 の2点 第1に. を 取 り上 げ 、 検 討 し て み よ う。. 、 現 代 資 本 主 義 発 展 の 必 然 的 な結 果 と し て 、 巨 大 株 式 会 社 に お け る株 式 所 有 の 分. 散 化 現 象 と管 理 機 能 の 複 雑 化 現 象 が 起 こ る。 第2に. 、 株 式 所 有 が 分 散 化 し、 少 数 の 株 主 に よ っ て 支 配 す る こ と の で き な い 巨 大 株 式 会. 社 に お い て 、 会 社 に 対 す る 実 質 支 配 権 は 会 社 そ れ 自体 に 移 り、 経 営 者 が 会 社 そ れ 自体 と一 体 化 し、 そ の 支 配 権 を代 行 す る。 氏によると 「 株 式 会 社 とい う企 業 形 態 に お い て は 一 般 に会 社 そ れ 自体 に よ る所 有 とい う 形 式 が 成 立 して お り、 そ の形 式 は株 主 の 所 有 か ら失 わ れ て い く実 質 ・力 が す べ て こ の 会 社 そ れ 自体 に 移 転 ・凝 集 せ し め られ て い く仕 組 み を なす もの で あ っ て 、 多 か れ 少 な か れ 一 定 の 実 質 を ふ くむ も の で あ っ た 。 そ れ ゆ え 、…. 巨 大 企 業 に お い て 、株 式 所 有 の 極 度 の 分 散. と経 営 管 理 機 能 の 複 雑 化 の進 展 に と もな っ て株 主 が失 っ て い く力 は 、 ま ず も っ て 、 そ の 巨 大 企 業 の会 社 そ れ 自体 に 移 転 ・凝 集 し、 そ れ に よ る所 有 の 内 容 充 実 を 結 果 す る の で あ る。 マ ネ ジ メ ン ト ・コ ン トロー ル と は 、 実 は 、 この 実 質 的 所 有 主 体 と して 成 熟 した 会 社 そ れ 自 体 に よ る会 社 資 産 → 現 実 資 本(=生. 産 手 段 と労 働 力 、 お よ び 両 者 の 結 合)に. 対す る コン ト. ロ ー ル の 現 象 形 態 に ほ か な ら な い 」8)。 「 す な わ ち 、 所 有 主 体 と して の 実 質 を も つ か ぎ り で ・ ・そ の成 熟 度 に 応 じて ・・、 『会 社 そ れ 自体 』 は 同 時 に ま た 、 そ の 実 質 的 所 有 に そ な わ る 力 を 行 使 す べ き 支 配 主 体 と もな る の で あ る が あ くま で も法 人 で し か な い 『会 社 そ れ 自体 』 に よ るそ の 支 配 行 為 は 、 自然 人 を構 成 員 とす る会 社 内 部 機 構=経. 営 管 理 組 織 をつ う じて 実. 行 に移 され る 」9)。 氏の 「 会 社 そ れ に 自体 」 説 は 「 会 社 そ れ 自体 」 とい うも の が 社 会 的組 織 と して 自立 化 し た 現 象 に 焦 点 を 当 て て 分 析 した 。 こ の 見 解 は 巨 大 株 式 会 社 と い う社 会 的 組 織 に 対 す る理 解 に は 極 め て 重 要 な 意 味 が あ る と思 わ れ る。 株 式 会社 は 「 会 社 そ れ 自体 」 に よ る 実 質 所 有 の 成 熟 とい う段 階 ま で発 展 して い く と、 株 主 にせ よ 、 経 営 者 に せ よ 、株 式 会 社 そ れ 自体 を個 人 資 産 の よ うに 自 由 に 支 配 、 処 分 で き な くな る。 株 式 会 社 そ れ 自体 は 私 的 資 産 か ら社 会 的 組 織 へ と転 化 し、 組 織 内 部 の 支 配 権 は株 式 所 有 に基 づ く も の か ら組 織 内 の 職 務 に基 づ く も の へ と転 化 す る。しか も 、経 営 者 に せ よ、 普 通 の 労 働 者 にせ よ 、 組 織 内 の 個 人 は い ず れ も法 人 と い う組 織 の 意 志 に 服 従 しな けれ ば な らな い こ と とな っ て しま う。 この 点 は 、 株 式 会 社 だ け で な く 、 非 営 利 法 人 や 社 会 団 体 な ど す べ て の社 会 的 組 織 に つ い て 見 られ る 共 通 現 象 と思 わ れ る。. 8.
(10) さ らに、 「 会 社 そ れ 自体 」 説 の 下 で 、 氏 は 日本 特 有 の 法 人 株 主 に よ る株 式 所 有 の 集 中 化 現 象 に つ い て 、 以 下 の こ と を指 摘 した 。 第1に. 、戦 後 日本 の 巨 大 企 業 は 「 会 社 そ れ 自体 」に よ る 実 質 的 所 有 は な お 未 成 熟 で あ る 。. す な わ ち 、 企 業 規 模 ・資 本 規 模 は そ こま で 巨 大 化 して い な い た め 、 外 部 第 三 者 か らの 経 営 介 入(乗. っ 取 り)の 危 険 は 常 に あ る か ら、 経 営 者 の 支 配 基 盤 は 極 め て 不 安 定 で あ る。 経 営. 者 の 支 配 を安 定 化 させ る た め に 、 相 互 持 合 い を 中 心 とす る法 人 株 主 構 造 が 急 速 に 普 及 し、 定 着 した の で あ る。 氏 に よ る と、 「当 時 の 我 が 国 の 大 企 業 で は 、巨 大 株 主 の 一 大 減 少 、株 式 の 著 し い 分 散 化 、 自 己 の 株 式 所 有 に 基 づ か な い 経 営 者 の 登 場 が あ っ た と は い え 、 そ れ らは 資 本 規 模 の 真 の 巨 大 化 に よ っ て 基 礎 づ け られ て お らず 、 した が っ て 、 個 人 や 一 族 あ るい は 少 数 の 大 株 主 の 大 量 株 式 取 得 に よ る支 配 の 可 能 性 が 多 分 に残 っ て い た の で あ っ て 、 そ こ で は 、 会 社 そ れ 自体 に よ る実 質 的 所 有 は な お 未 成 熟 で あ る し、 そ れ ゆ え に ま た 新 し く登 場 した 自 己 の 株 式 所 有 に 基 づ か な い 経 営 者 も 、 会 社 そ れ 自体 の 所 有 に 基 づ く支 配 を 代 行 す る 経 営 者 と して の 内 実 を 十 分 備 え て お らず 、 そ の 支 配 力 の 持 続 に 不 安 定 さ を持 っ て い た の で あ る 。 以 上 の よ うな 状 況 に お い て 、 大 企 業 ・大 銀 行 の か な りの 数 に わ た っ て の 株 式 持 合 い が 急 速 に 普 及 し、 定 着 して い っ た の で あ る」10)。「 多数 の会 社 間 での株 式 持合 い は … 議 決 権 の希 釈 化 を す す め る と と も に 、 新 しい 第 三 者(外 掌 握 の た め の 株 式 取 得(乗. 、分散 的 な個 人株 主 の. 国 資 本 を含 む)に. よ る経 営 中 枢 の. っ取 り)を 封 殺 す る 上 に極 め て 有 効 な 力 を 発 揮 して 、 大 企 業 ・. 大 銀 行 に お け る経 営 者 の 地 位 を 集 団 的 な 力 に よ っ て 強 化 しあ う関 係 で あ る と言 え る」11)。 第2に. 、 経 営 者 の 支 配 的 な 地 位 を安 定 化 させ る 機 能 は ど こ か ら生 ま れ る か と い う と 、 持. 合 う両 社 が 相 互 に 支 配 力 を持 ち 、 そ の 支 配 力 を行 使 す る可 能 性 を認 識 した 上 に 、 自 ら の 意 思 に反 対 方 向 に 支 配 権 を 行 使 せ ず 、 相 互 信 認 ・委 任 の 関 係 が 形 成 され る。 経 営 者(会 れ 自体 の代 表 者 と して)は. 社そ. 実 質 的 な 支 配 中 枢 と な り、 特 殊 な 場 合 以 外 に 、 法 人 株 主 の 持 株. に よ る支 配 力 は 経 営 者 に 委 任 し、 経 営 者 の 自己 所 有 の よ うな もの と な る。 氏 に よ る と、 「 会 社 相 互 間 で の 株 式 持 合 い を っ う じて 、 経 営 者 は 相 手 方 の 会 社 の 意 思 決 定 に積 極 的 に 参 加 し う る権 利 を も つ の で あ る が 、これ は権 利 を行 使 し うる 可 能 性 で あ っ て 、 実 際 に 行 使 す る こ と を意 味 す る も の で は な い 。 株 式 持 合 い は 一 般 に は 両 社 の 一 定 の 協 調 関 係 の も とで 行 わ れ 、 持 合 い を通 じて 新 しい 相 互 信 認 の 関係 が 形 成 され る か らで あ る」12)。 「 会 社 間 で の 株 式 持 合 い が行 わ れ る と、 会 社 の 意 思 決 定 に お け る相 互 に お け る相 互 制 約 関 係 が 生 じ る。 株 式 所 有 の 著 しい 分 散 の も と で 、 直 接 的 に は 、A社 経 営 者 はB社 に 対 し、B社. 経 営 者 はA社. の意思 決 定. の 意 思 決 定 に対 し、 強 い 支 配 力 を 持 つ こ とに な る わ け で あ る。. しか し、 こ こで の 強 い 支 配 力 はA社 経 営 者 がB社. に対 して 一 方 的 に 株 式 所 有 に も とつ い て. 強 い 支 配 力 を 持 つ とい う子 会 社 ・関 係 会 社 の 場 合 とは 異 な り、A社 経 営 者 がB社 持 つ の と全 く 同 じよ うに 、B社 経 営 者 がA社. に対 して. に 対 して 持 つ とい う相 互 関係 に あ る の で あ る。. した が っ て 、 こ こ で は こ の 支 配 力 は い わ ば 潜 在 的 支 配 力 、 支 配 を行 使 で き る 可 能 性 で あ っ 9.
(11) て 、 特 殊 な 場 合 を 除 け ば 、 実 際 に支 配 と して 実 現 す る もの で は な い 。A社. の経 営 者 もB社. の 経 営 者 も 、 相 互 に右 の よ うに 強 い 力 を持 ち合 っ て い る こ と を認 識 して い る 下 で は 、 両 社 の 経 営 者 は 相 手 側 の 経 営 者 の 意 思 に 反 す る方 向 デ コ の 支 配 力 を 行 使 し よ う とは しな い の で あ っ て 、 相 手 側 の 経 営 者 も ま た そ の 支 配 力 を 自分 の意 思 に反 す る方 向 で 行 使 し な い だ ろ う こ と を 期 待 出 来 る 関係 に あ る。 そ れ ゆ え 、 両 者 の 意 思 に 大 き な 違 い や 対 立 が 生 じな い か ぎ り、 相 手 会 社 の 意 思 決 定 に か ん して は 、 そ の 経 営 者 に 全 面 的 に 委 任 す る こ と に な る。 新 し い 相 互 信 認 の 関 係 の 形 成 で あ る。 こ の 相 互 信 認 の 関係 は 原 理 的 に は 相 互 に 報 復 を 行 え る カ を 持 っ て い る とい う こ と に根 拠 を お く も の で あ る 」13)。 以 上 、 氏 の 戦 後 日本 の 法 人 株 主 構 造 に 関 す る 見 解 を要 約 す る と次 の よ うに な る 。 株 式 相 互 持 合 い を して い る 両 社 の 間 で 相 互 支 配 の 可 能 性 が 互 い に認 識 され た 上 で 、 相 互 信 認 され る 関 係 が 形 成 され る 。 故 に 、 経 営 者(会. 社 そ れ 自体 の 代 表 者 と して)は 実 質 的 な 支 配 中枢. とな り、 法 人 株 主 が 経 営 者 の 支 配 を支 持 し て い る とい っ た 見 解 で あ る。 前 述 の 奥 村 氏 の 見 解 と対 照 して み れ ば 、 両 者 の 見 解 に は微 妙 な 違 い が あ る こ と が わ か る。 奥 村 氏 の 主 張 は 法 人 株 主 と経 営 者 と の 問 に 相 互 支 配 の 関係 か ら相 互 信 認 の 関係 が 形 成 され る と い う こ と を 主 た る論 点 と して い た が 、 北 原 氏 は 奥 村 氏 の 見 解 の 基 礎 の 上 で 、 法 人 株 主 と経 営 者 と の 間 で 、 相 互 支 配 の 関 係 か ら相 互 信 認 の 関 係 が 形 成 され る原 因 を解 釈 す る議 論 を 展 開 した とい うこ とで あ る。 氏 は 法 人 株 主 と経 営 者 との 問 に お 互 い に 支 配 力 を 行 使 す る 可 能 性 が あ る と こ ろ か ら 、相 互 信 認 の 関 係 が 形 成 され る と い うこ と を 主 張 して い る。 氏 の 見 解 は 奥 村 氏 の 見 解 に あ る 問 題 点 の 大 部 分 を解 決 して お り、 そ の 点 か らす れ ば 、 北 原 氏 の 見 解 は 奥 村 氏 の 見 解 の 修 正 版 と言 っ て よ い 。 た だ 、 法 人 所 有 の 主 要 な動 機 は 支 配 す る 能 力 を持 つ た め で あ る とい う点 で 、 両 者 の 見 解 は 共 通 して い る。 こ う した 法 人 所 有 の 動 機 が 支 配 力 の 集 中 に あ る こ と を 強 調 す る 見 解 は 対 等 な 株 式 相 互 持 合 い 現 象 を説 明 す る も の と して は 有 効 で あ っ て も 、複 雑 な 法 人 株 式 所 有 構 造 の 現 実 の す べ て を説 明 す る議 論 と は 言 えな い。 第1に. 、 現 実 に は 、 相 互 持 合 い と は 言 え 、 両 社 の 間 で 常 に対 等 の 持 株 率 の 相 互 持 合 い が. 成 立 して い る わ け で は な い。A社 に 対 し10%の. はB社. に 対 し、 持 株 率 が0.1%で. あ る一 方 、B社. はA社. 持 株 率 で あ る場 合 、 両 社 は 相 互 に 対 等 の 支 配 力(支 配 す る可 能 性)を 保 持 し. て い るわ け で は な い 。 と こ ろ が 、 現 実 に は 、 こ の よ うに 株 式 相 互 持 合 い を して い る 両 社 の 持 ち株 率 に 大 き な 差 が あ る 現 象 こ そ 一 般 的 で あ る 。 ま た 、 株 式 を相 互 に 持 合 う両 社 の 規 模 に 大 き な 差 が あ る場 合 も少 な く は な い 。 資 本 金1 億 円 の 企 業 と資 本 金100億. 円の企 業 の問 に株 式 の相 互持 合 い が あっ て も、両社 が対等 な支. 配 力 を 持 つ とは 言 え な い 。 第2に. 、 巨 大 株 式 会 社 に お い て 、 法 人 株 主 の 数 は膨 大 な数 に の ぼ る。 多 くの 法 人 株 主 同. 士 で も持 株 率 は 同 じで は な い 。 一 般 的 に は5〜10%の の 法 人 株 主 の 持 株 率 は0.1%ま. た は0.01%で. 株 式 しか 所 有 し て お らず 、 ほ とん ど. しか な い 。例 え ば 、1980年 の 三 菱 銀 行 を見 れ 10.
(12) ば 、 金 融 機 関 を含 め て 法 人 株 主 は1884人. 、持 株 率 合 計 が87.39%で. 人 株 主 一 人 当 た りの 持 ち 株 率 は0.05%で. しか な い 。10大 株 主 を 見 て も 、筆 頭 株 主 で あ る明. 治 生 命 の持 株 率 は5.95%、10位. あ る。単純 平 均 で、法. 目 の株 主 で あ る 三 菱 電 気 の 持 株 率 は1.46%で. しか な い 。. 上 記 三 菱 銀 行 の よ うに 、数 多 くの 法 人 株 主 が 分 散 的 に 大 部 分 の株 式 を所 有 す る とい う関 係 こ そ 戦 後 日本 企 業 の 株 式 所 有 構 造 に 共 通 す る現 象 で あ る。 法 人 株 主 の 持 ち株 率 を 個 別 的 に み れ ば 、 ほ とん どの 法 人 株 主 の 持 ち株 率 は わ ず か で しか な い こ と が わ か る。 す な わ ち 、 単 に持 ち株 率 で み れ ば 、 法 人 株 主 全 体 と して は 株 式 を所 有 され る 会 社 に対 す る支 配 力 を 持 っ て い る が 、 個 々 の 法 人 株 主 は 単 独 で 株 式 を 所 有 され る会 社 を 支 配 で き る わ け で は な い 。 法 人 所 有 の 主 要 な 動 機 は 支 配 力 を持 つ た め で あ る とす れ ば 、 こ う した わ ず か の 持 株 率 は 支 配 力 を 持 つ の に何 の 意 味 が あ るの か とい っ た 点 に 疑 問 の 余 地 が あ る。 第3に. 、 戦 後 に 形 成 され た 法 人 株 主 に よ る 株 式 所 有 構 造 を 見 る と、 法 人 企 業 間 の相 互 株. 式 持 ち 合 い だ け で な く 、 法 人 に よ る一 方 的 な 株 式 所 有 の 現 象 も広 くみ られ る。 つ ま り、A 社 はB社. の 株 式 を 所 有 し て い るが 、B社 はA社. の株 式 を所 有 して い な い とい う関 係 で あ る。. こ の 場 合 、 当 然 の こ とな が ら相 互 支 配 の 関 係 は 生 まれ な い 。 奥 村 氏 の 見 解 にせ よ、 北 原 氏 の 見 解 にせ よ、 こ う した 法 人 に よ る一 方 的 な株 式 所 有 とい っ た 現 象 を説 明 して い な い と思 わ れ る。 第3節. 松 井 和 夫氏 の 「 法 人相 互支 持 」説. 法 人 が株 式 を所 有 す る動 機 を どの よ うに 理 解 す る の か とい う点 に つ い て 、 奥 村 氏 、 北 原 氏 の 支 配 す る 能 力 を 持 つ た め で あ る とい う見 解 に 対 し 、 松 井 和 夫 氏 は 経 営 者 の 支 配 的 な 地 位 を支 持 す る こ と も含 め て 、 会 社 の 安 定 的 な成 長 を 支 持 す る た め で あ る こ と を主 張 した 。 氏 の 見 解 の 核 心 は 以 下 の3点 第1に. で あ る。. 、 相 互 持 合 い を 中 心 とす る法 人 株 式 所 有 構 造 は 経 営 者 の 支 配 の 基 礎 を提 供 し て い. る と い う こ とで あ る 。 氏 に よ る と、 「 取 引 関係 の あ る もの 同 士 の 間 で 法 人 間株 式 相 互 持 ち合 い(そ 在 は ま さに 日本 的 現 象)は. の広 汎 な 存. 、 既 存 の 経 営 陣(そ れ が財 閥 解 体 な どの 結 果 殆 ど偶 然 的 に そ の. 地 位 を 得 た に せ よ 、 同 族 支 配 会 社 に 経 営 の 能 力 と意 志 の あ る人 物 が い な か っ た 結 果 選 ば れ て そ の 地 位 を 得 た に せ よ 、 ひ とた び そ の 地 位 を得 る と)の 支 配 力 の よ っ て た つ 基 礎 を 提 供 して い る の で あ り、関係 会 社 ・金 融 機 関 の 経 営 陣 に よ る 『共 同 支 配 体 制 』を 維 持 し な が ら、 類 い ま れ な る 強 蓄 積 を進 め て 行 く た め に と られ た 最 も合 理 的 な 方 法(し 的 な も の 一事 の よ しあ し は別 と して)で 第2に. た がっ てま た必 然. あ る 」14)。. 、 株 式 相 互 持 合 い を 中 心 とす る 法 人 株 式 所 有 構 造 は 経 営 者 の 支 配 を 支 持 す る役 割. を 果 た して お り、 経 営 者 と法 人 株 主 が と も に 同 一 の支 配 グル ー プ を 構 成 し て い る と い う こ とで あ る。 氏 に よ る と、 「 従来 の 「 法 人 支 配 説 」、 「 機 関 支 配 説 」、 「 銀 行 支 配 説 」 の 誤 りの ひ とつ は 、 機 関 株 主(な. い し法 人 株 主 ま た は銀 行)と. 、 個 人 大 株 主=経 営 陣(支 11. 配 中 枢)と. を対 立 的.
(13) に の み 把 え 、 両 者 が 共 に 同 一 の 支 配 グ ル ー プ を構 成 して い る点 を 見 逃 し、機 関(法 人 ・銀 行)に. よ る持 株 が 相 互 補 完 的 ・補 強 的 な も の で あ る こ と を 見 落 と した こ と に あ る よ うに 思. わ れ る(機 関 持 株 は ア ウ トサ イ ダ ー や 一 般 株 主 か らの 侵 入 を 阻 止 す る の に 貢 献 す る)」15)。 第3は. 、 経 営 者 の 支 配 権 を維 持 す る 法 人 所 有 は 階 層 的 な構 造 を形 成 して い る とい う こ と. で あ る。 図1に. 見 られ る よ うに 、経 営 者 と法 人 株 主 は と も に 同 一 の 支 配 グ ル ー プ を構 成 し て い る。. こ う した 支 配 グル ー プ に お い て 、個 人 大 株 主 と役 員 は 共 同 支 配 の 支 配 中 枢 を構 成 して お り、 同 系 企 業 間 の 相 互 持 合 い は 第1の 補 強 装 置 を構 成 し、 他 系 列 の 企 業 との 間 で の 相 互 持 合 い は 第2の 補 強 装 置 を構 成 して い る。 以 上 の よ うに 、 同 系 企 業 間 の 相 互 持 合 い 、 他 系 列 の 企 業 と の 間 で の 相 互 持 合 い 、個 人 大 株 主 の 持 分 、 役 員 の 持 分 は 補 強 装 置 と して 、 共 同 支 配 体 制 を支 え て い る が 、 同 系 企 業 間 の 相 互 持 合 い は 最 も 中核 な 部 分 で あ る。 氏 の 見 解 を ま と め て 言 え ば 、 次 の よ うに な る。 っ ま り、 法 人 株 主 と経 営 者 は 共 同支 配 グ ル ー プ を構 成 して お り、 個 人 大 株 主 と役 員 は 支 配 中枢 に位 置 し、 法 人 株 主 は補 強 装 置 と し て 、 こ う し た 共 同 支 配 体 制 を支 え て い る こ とで あ る。 以 上 で検 討 した よ うに 、 巨大 株 式 会 社 に お け る 支 配 体 制 に つ い て 、 「 法 人 株 式 所 有 に基 づ く経 営 者 支 配 」 とい う基 本 的 な 点 で 、 三 氏 の 見 解 は 共 通 して い る。 だ が 、 法 人 所 有 の 主 要 な 動 機 に つ い て の 見 解 に は 微 妙 な 違 い が あ る。 奥 村 氏 、 北 原 氏 は 法 人 所 有 の 主 要 な 動 機 が 支 配 す る能 力 を 持 つ た め で あ る こ と を 主 張 して い る の に対 し、 松 井 氏 は 経 営 者 の 支 配 を 支 持 す る た め で あ る こ と を 主 張 して い る。 前 述 の よ うに 、 法 人 所 有 の 主 要 な動 機 が 支 配 す る 能 力 を持 つ た め で あ る こ と を 主 張 す る 見 解 は 複 雑 な 法 人 株 式 所 有 の 現 状 の全 て を説 明 で き ず 、 法 人 所 有 の 主 要 な 動 機 が 経 営 者 の 支 配 を支 持 す る こ と を 主 張 す る 見 解 は も っ と も 合 理 的 、 現 実 的 な も の で あ る と思 わ れ る 。 そ の 理 由 と し て 、 以 下 の 諸 点 が あ げ られ る。 第1に. 、 法 人 に よ る株 式 所 有 を 一 括 して 法 人 所 有 と言 わ れ て い る が 、 現 実 に は 企 業 規 模. を含 め て 企 業 の 基 本 状 況 の 差 異 や 個 々 の 法 人 株 主 の持 株 率 の 程 度 な ど複 雑 な 現 状 が あ る。 に も か か わ らず 、 法 人 所 有 の 主 要 な 動 機 は 経 営 者 の支 配 を 中 心 に 、 株 価 の 維 持 ・向 上 な ど を含 め て 会 社 の 成 長 を支 持 す る こ と で あ る と理 解 す れ ば 、 わ ず か の 持 株 率 で も 、 株 価 の 維 持 ・向 上 な ど を含 め て 会 社 の 成 長 を支 持 す る の に 、 そ れ だ け の 意 味 が あ る 。 奥 村 氏 は 最 新 版 『法 人 資 本 主 義 の 構 造 』 に お い て 、 次 の よ うに述 べ て い る。 「トヨ タ 自 動 車 は1967年. 夏 の段 階で す で に 「 第 一 段 階 で は金 融 機 関 中 心 に 約50%の. 株 式 を安 定 化 し、. 第 二 段 階 は 鉄 鋼 メ ー カ ー 、下 請 け協 力 会 の 協 豊 会 メ ン バ ー 中 心 に は め 込 み 、現 在60%強 安 定 比 率 と い う。 これ を さ らに70%に. の. す る の が 目標 で こ こ1年 足 らず の 問 に は め 込 ん だ 株. 数 は ざ っ と1億 株 に の ぼ る 」 と され て い た 」16)。 こ の 場 合 、 法 人 株 主 に と っ て 、0.01%だ け の 持 株 率 は 支 配 力 を持 つ に は 何 の 意 味 も な い が 、 トヨ タ 自動 車 に とっ て は 、 少 しだ け の 株 を保 有 して くれ て も 、70%の. 安 定 保 有 率 とい う 目標 に 接 近 す る こ と に な る 。. 12.
(14) 第2に. 、 周 知 の よ うに 、 法 人 所 有 は 「 安 定株 主工 作」 に よって急 速 に進 んで きた。 「 安. 定 株 主 工 作 」 の 歴 史 を み る と 、 あ る会 社 が 乗 っ 取 りの 防 止 や 株 価 の 維 持 ・向 上 な ど の 目的 で、 関係会 社 に 「 株 式 を 持 っ て くれ 」 とい う要 請 を 出 し、 合 意 の 上 で 、 関 係 会 社 が 一 定 の 株 式 を 保 有 す る と い う関 係 が 「 安 定 株 主 工 作 」 の 一 般 的 な 形 態 で あ る こ と が わ か る。 こ う した 法 人 所 有 の 歴 史 か ら考 えれ ば 、 法 人 会 社 は 支 配 す る能 力 を 持 つ た め に 、 積 極 的 に 他 の 会 社 の 株 式 を 保 有 す る と い う よ り、 関係 会 社 の 経 営 者 の 支 配 的 な 地位 を 支 持 す る こ と も含 め て 、 関係 会 社 の 安 定 的 な成 長 を支 持 す る た め に 、 関 係 会 社 の 要 請 を 受 け て株 式 を保 有 す る こ とが 現 実 的 で あ る。 第3に. 、 法 人 所 有 の 目的 が 政 策 投 資 と し て 、 取 引 関 係 を維 持 、 強 化 す る た め で あ る こ と. は い ず れ の 株 式 会 社 の 有 価 証 券 報 告 書 に も書 か れ て い る。 法 人 所 有 と取 引 関係 の 維 持 ・強 化 と の 内在 的 関 連 につ い て 、 法 人 保 有 の 主 要 な 動 機 は 支 配 力 を 持 っ た め で あれ ば 、 取 引 関 係 の あ る企 業 の 株 を 持 っ こ と に よ っ て 、 影 響 力(支 配)を. 及 ぼ す こ とが で き る か ら、 株 式. を 所 有 され る 会 社 は株 式 を 所 有 す る会 社 と の 取 引 関係 を 解 消 しな い 、 ま た は し よ う と して も で き な い こ と と な る。 現 実 に は 、 現 代 資 本 主 義 社 会 に お い て 、 企 業 同 士 が 取 引 関 係 、 人 的 関 係 、 資 本 関係 を 含 め て 多 種 多 様 な 関 係 を持 っ て い る の は 一 般 的 な 現 象 で あ る。 こ うい う企 業 間 の 関係 を 長 期 的 、 安 定 的 に 維 持 す る こ とは 企 業 成 長 上 極 め て 重 要 な 意 味 が あ る。 そ こ で 、 関 係 の あ る企 業 同 士 は必 要 だ と思 え ば 、合 意 の 上 で 、 相 互 に 一 定 の 株 式 を 持 合 い 、 ま た は 一 方 的 に 低 率 の株 式 を もつ こ と とな る。 株 式 を持 つ こ と に よ っ て 、 相 手 企 業 の 経 営 者 の 支 配 権 を安 定 さ せ 、 さ らに 、 企 業 の 安 定 成 長 に 貢 献 す る。 そ れ で 、 も と も と友 好 的 関係 の あ る企 業 が 成 長 して い け ば 、 取 引 関係 が 当 然 に 維 持 ・強 化 され る わ け で あ る。 す な わ ち 、 法 人 所 有 が 取 引 関 係 を維 持 、 強 化 す る と い う役 割 を果 た す 原 理 は 相 手 会 社 の 株 式 を 所 有 す る こ とに よ る 支 配 力 を通 じて 、 取 引 関係 を 維 持 、 強 化 す る こ とが で き る わ け で は な い 。 も と も と友 好 的 関 係 の あ る 企 業 の株 式 を所 有 す る こ とに よ っ て 、 相 手 会 社 の 経 営 者 の 支 配 権 を安 定 させ る こ と も含 め て 、 相 手 の 会 社 の 安 定 的 な 成 長 を 支 え る。 相 手 会 社 が成 長 して い け ば 、 自 ら との 取 引 関 係 が 当 然 に 維 持 ・強 化 され る わ け で あ る。 以 上 で 検 討 した よ うに 、 法 人 所 有 の 主 要 な 動 機 が 経 営 者 の 支 配 を 支 持 す る こ と を 主 張 す る 見 解 は も っ と も合 理 的 、 現 実 的 な もの で あ る と思 わ れ る。 た だ 、 法 人 保 有 の 主 要 な 目的 は 経 営 者 の 支 配 的 な 地 位 を 支 持 す る た め で あ る と は言 え 、 法 人 株 主 の 経 営 者 に 対 す る制 約 力(支. 配 力)を. 全 く無 視 す る こ と も で き な い 。. 巨大 株 式 会 社 の 株 式 所 有 構 造 の 実 態 を 見 る と 、 表1が. 示 す よ うに 、 戦 後 、 事 業 会 社 と金. 融 機 関 を含 め て 法 人 株 主 の持 株 率 は 徐 々 に 増 加 し、70年 代 か ら、す で に50%を 1990年 に 、 法 人 株 主 の 持 ち株 率(信. 託 銀 行 除 き)は60.6%に. さ ら に 、 旧 六 大 企 業 集 団 を み れ ば 、表2が 率 は ほ とん ど20%を. 超 え て い る。. 達 した 。. 示 す よ うに 、70年 代 か ら、集 団 内 の 株 式 所 有. 超 え て い る。企 業 集 団 内 法 人 持 株 率 の 合 計 だ け で は20%以 13. 上 で あ るが 、.
(15) そ の 他 の 法 人 持 株 率 を入 れ れ ば 、 法 人 持 株 率 合 計 は さ ら に 高 くな る わ け で あ る。 こ の よ う に 、 法 人 株 主 は ひ とつ ひ とつ の 会 社 に 対 して は せ いぜ い 数%の 株 式 を 所 有 して い る に す ぎ ず 、 これ だ け の 持 株 比 率 だ け で は 会 社 支 配 で き る とは 言 え な い が 、 法 人 株 主 の 持 株 を全 部 合 わ せ る と数 十%の. 比 率 とな り、 か な りの 支 配 す る 能 力 を持 っ て い る わ け で あ る。. た だ 、 こ うい う支 配 力 は 松 井 氏 が 指 摘 され た よ う に潜 在 的 な も の で あ り、 特 殊 な場 合 を 除 け ば 、 基 本 的 に は 行 使 され な い 。 しか も 、 法 人 保 有 の 動 機 も こ うい う支 配 力 を持 つ た め で は な く、こ う した 支 配 力 は た だ 理 論 的 に 、支 配 証 券 とい う属 性 の 面 で 、株 式 を 持 つ 限 り、 持 分 だ け の 支 配 力 を 所 有 して い る だ け で あ る。 す な わ ち 、 法 人 株 主 と経 営 者 との 間 で 、 法 人 株 主 は 場 合 に よ っ て は 、 経 営 者 を支 配 な い し制 約 す る可 能 性 も あ る が 、 経 営 者 の 支 配 を 支 持 す る の が 一 般 的 な 形 態 で あ る。 そ して 、 法 人 株 主 と経 営 者 との 関 係 は 実 質 的 に 法 人 企 業 と法 人 企 業 と の 結 合 関係 と な る か ら、 企 業 の 結 合 関係 を 考 え る 場 合 に も 、 支 配 一 被 支 配 と い う対 立 の 関 係 よ り、 相 互 に 協 力 し、 依 存 す る 関 係 の 方 が 本 質 的 な も の な の で あ る。 第4節. 小括. 前 述 の よ うに 、 奥 村 氏 、 北 原 氏 、 松 井 氏 の 見 解 に は 微 妙 な 違 い が あ る が 、 法 人 所 有 の 主 要 な 役 割 が 経 営 者 の 支 配 的 地 位 を 安 定 化 させ る こ と に あ る と い う点 で は 共 通 して い る。 なぜ 経 営 者 の 支 配 的 な 地 位 を 安 定 化 させ る 必 要 が あ る の か 、 そ の 理 由 に つ い て は 、 す で に 奥 村 氏 、 北 原 氏 、 松 井 氏 を始 め とす る 多 くの 研 究 者 に よ っ て 指 摘 され て い る。 つ ま り、 株 式 所 有 が 極 度 に 分 散 化 した 巨 大 株 式 会 社 に お い て 、 外 部 第 三 者 に よ る敵 対 的 な 経 営 介 入 や 乗 っ 取 りの 危 険 が 高 く な っ た た め 、 所 有 に 基 づ か な い 経 営 者 の 支 配 基 盤 は極 め て 不 安 定 とな っ た た め で あ る 。 逆 に 考 え る と 、 巨 大 株 式 会 社 に お い て 、 外 部 第 三 者 に よ る敵 対 的 な 経 営 介 入 や 乗 っ 取 りの 危 険 が あ る 限 り、 経 営 者 の 支 配 地 位 を 安 定 化 させ る 株 主 構 造 が 常 に 必 要 だ とい うこ と で あ る。 経 営 者 の 支 配 的 な 地 位 を 安 定 化 させ る必 要 性 に つ い て 、 さ ら に 北 原 氏 は こ う述 べ て い る 。 「 米 国 巨 大 企 業 に お い て 会 社 そ れ 自体 に よ る 実 質 的 所 有 が 成 熟 し、 そ れ に 基 づ く支 配 を 代 行 す る経 営 者 が 出 現 して い る と こ ろ で は 、 企 業 規 模 ・資 本 規 模 の 著 しい 巨 大 化 の 進 展 の も とで 、 個 人 や 一 族 の 持 ち 株 比 率 の 顕 著 な 低 落 、 株 主 数 の 激 増 、株 式 の 顕 著 な分 散 化 が 進 ん だ の で あ る。 そ こ で は 株 式 の 顕 著 な 分 散 化 に よ っ て 経 営 中枢 を 掌 握 す る に は 低 率 の持 株 で 良 く な っ た に も か か わ らず 、そ れ は(低 率 とは 言 え)極 め て 膨 大 な 資 金 を 必 要 とす る た め 、 個 人 や 一 族 あ る い は 少 数 の 家 族 が そ れ だ け の株 式 を所 有 し株 式 所 有 に 基 づ く支 配 を行 う こ とが ほ とん ど不 可 能 とな っ た の で あ る 。 現 実 に そ の よ うな 支 配 を行 い うる 少 数 巨 大 株 主 が 存 在 し な く な っ た とい うだ け で は な く、 個 人 や 一 族 あ るい は 少 数 の 連 合 した 大 資 産 家 が株 式 取 得 を つ う じて 経 営 中 枢 を掌 握 可 能 性 一 い わ ゆ る乗 っ 取 り一 も ほ とん ど封 じ られ て い る とい う状 況 に お い て一 し た が っ て 多 数 の 株 主 の す べ て が 株 式 所 有 に 基 づ く経 営 へ の 参 加 の 権 利 を 実 質 的 に行 使 で き な く な っ て い る状 況 に お い て 一 こ の こ との 基 礎 上 に 、 会 社 そ れ 自 14.
(16) 体 に よ る所 有 が 実 質 的 な も の と して 成 熟 し、 会 社 そ れ 自体 に よ る所 有 に 基 づ く支 配 を 代 行 す る経 営 者 が 登 場 して 、 か か る経 営 者 が 多 数 の 個 人 株 主 の 意 思 か ら独 立 して 、 経 営 政 策 の 決 定 ・企 業 活 動 の コ ン トロ ー ル を行 うこ と が で き た の で あ る」17))。 以 上 の 引 用 か ら わ か る よ うに 、 北 原 氏 の 見 解 に よ る と、 会 社 の 規 模 が ア メ リカ の 巨 大 企 業 の よ うに 、 あ る程 度 拡 大 して い け ば 、 敵 対 的 な 経 営 介 入 や 乗 っ 取 り に は 極 め て 膨 大 な 資 金 が か か る か ら、 個 人 や 一 族 な どの 外 部 第 三 者 か らの 敵 対 的 経 営 介 入 や 乗 っ 取 りは 基 本 的 に 不 可 能 と な る た め 、 経 営 者 の 支 配 的 地 位 を 安 定 化 させ る構 造 は 必 要 で は な く な る。 す な わ ち 、 株 式 所 有 が 極 度 に 分 散 化 した 場 合 、 有 力 支 配 株 主 が お らず 、 い ず れ の株 主 も 経 営 に 介 入 す る 能 力 も意 欲 も な い の で 、 経 営 者 は 委 任 状 の勧 誘 な ど の 手 段 を 通 じて 、 株 主 総 会 で 自 ら の 意 思 を 貫 徹 す る こ とが で き る。 だ が 、 同 時 に 、 発 行 され た 株 式 の 全 て も浮 動 株 と な り、 経 営 介 入 や 乗 っ 取 りを行 お う とす る外 部 第 三 者 が い れ ば 、 誰 で も 、 い つ で も、 株 式 流 通 市 場 か ら 、容 易 に 株 式 を 買 い 占 め る こ とが で き る 。当 然 な が ら 、前 提 条 件 と して 、 買 い 占 め に 膨 大 な 資 金 が 必 要 で あ る。 株 式 会 社 の 規 模 が 拡 大 す れ ば 拡 大 す る ほ ど、 買 い 占 め に か か る資 金 も多 く な る。 故 に 、 株 式 会 社 が あ る程 度 拡 大 して い け ば 、 個 人 や 家 族 な ど 自然 人 は 買 い 占 め る こ と が で き な く な る。 と こ ろ が 、 株 式 会 社 や 機 関 投 資 家 な どの 法 人 に と っ て 、 い く ら膨 大 な 資 金 で も、 調 達 で き な い こ と は な い で あ ろ う。 今 日の 現 実 に 照 ら して 見 れ ば 、TOBな. どの 企 業 買 収 上 の 規. 制 措 置 が 緩 和 され た し、 貨 幣 資 産 も実 物 資 産 を何 十 倍 も上 回 っ て い る 。 巨 大 企 業 の規 模 は 1980年 代 と比 べ 、 何 倍 も 拡 大 した に も か か わ らず 、 個 人 や 一 族 は 巨 大 企 業 へ の 経 営 介 入 、 乗 っ取 りは 不 可 能 か も しれ な い が 、 会 社 や 運 用 機 関 な どの 法 人 が 巨 大 企 業 へ の 経 営 介 入 や 乗 っ取 りは 政 策 上 も 、 資 金 上 も可 能 とな る条 件 が 存 在 す る。Pension & lnvestments る と 、世 界 の運 用 機 関 が 運 用 す る資 金 は43.1超 べ る と東 証 の 時 価 総 額 は8 .9%に. 米 ドル(2010年)に. 誌 によ. 達 して お り、 これ に 比. 過 ぎ な い 。 運 用 機 関 が 運 用 資 金 の ご く一 部 を 動 か す だ け. で 日本 企 業 を 買 収 で き る の が 現 状 で あ る し、80年 代 よ り、 さ ら に容 易 に で き る よ うに な っ た と も言 え る 。 実 際 に も 、 近 年 、 国 内 外 で は 、 巨 大 企 業 に対 す る 敵 対 的 買 収 の 案 件 は少 な い とは言 えない。 今 日で は 、 巨 大 企 業 の 規 模 は さ ら に 拡 大 した と は 言 え 、 第 三 者 に よ る 経 営 介 入 や 乗 っ 取 りの リス ク は 逆 に 高 く な り、 経 営 者 の 支 配 基 盤 は さ ら に 不 安 定 化 し て い る と言 え よ う。 故 に 、 今 日の 巨 大 企 業 の 経 営 者 に とっ て 、 自 らの 支 配 的 な 地 位 を 安 定 化 させ る株 主 構 造 が 依 然 と して 必 要 で あ ろ う。 株 式 所 有 が 極 度 に 分 散 化 した 巨 大 株 式 会 社 に お い て 、 経 営 者 の 支 配 的 地 位 を安 定 させ る 株 主 構 造 は 常 に必 要 で あ る と考 え られ る。 株 式 会 社 の 原 理 は 一 株 一 票 、 資 本 多 数 決 で あ る か ら、 株 式 会 社 で あ る 以 上 、 最 終 的 に 所 有 に 基 づ か な い 支 配 は あ りえ な い と思 わ れ る。 す な わ ち 、 経 営 者 に とっ て は 、 自 らの 支 配 権 を侵 犯 され 、 支 配 権 を 奪 い 取 られ る脅 威 が 常 に. 15.
(17) あ る。 故 に 、 経 営 者 は 自 らの 支 配 権 を 保 持 す る た め に 、 常 に 何 らか の 形 の 安 定 的 な 株 主 を つ く ろ う とす る。 ま た 、 経 営 者 の 支 配 基 盤 が 不 安 定 とな る と、 経 営 者 自身 が 企 業 の 成 長 の 利 益 を 享 受 で き な く な る か も しれ な い か ら、 長 期 的 に 企 業 成 長 に 努 力 せ ず 、 企 業 経 営 上 の 長 期 か つ 安 定 な 計 画 が 立 て られ な い こ と とな る。 す な わ ち 、 企 業 に とっ て 、 事 業 の 成 長 を 考 え る上 で 、 経 営 の 安 定 化 は 不 可 欠 な も の で あ る。 経 営 者 の 支 配 基 盤 が 不 安 定 化 す る と企 業 は 激 しい 競 争 に 勝 ち 残 る こ とは で き な い 。 故 に 、 一 時 的 、 個 別 的 な 現 象 と し て 、 株 主 が い ず れ も浮 動 株 主 と い う状 態 に落 ち る か も しれ な い が 、 長 期 的 、 全 体 的 に み れ ば 、 経 営 者 の 支 配 は 何 ら か の 形 の株 式 所 有 に よ っ て 支 え られ な けれ ば な らず 、 経 営 者 の 支 配 的 な 地 位 を 安 定 させ る構 造 が 崩 壊 す る こ と は な い と 思 わ れ る。鈴 木 健 氏 が 指 摘 した よ うに 、 「 株 式 会 社 形 態 を と る会 社 で あれ ば 、濃 淡 の差 は あ る が 、『支 配 中枢 』 は 『安 定 株 主 構 造 』 を形 成 しよ う とす る し、 ま た 一 定 の 強 度 を 持 っ 『安 定 株 主 構 造 』 が 形 成 され る の は 一 般 的 な 傾 向 と考 え て よい 」18)。 以 上 で 検 討 して き た よ うに 、 安 定 株 主 構 造 と い うの は 一 定 の 強 度 を 持 っ 経 営 者 の 支 配 的 な 地 位 を安 定 化 させ る株 式 所 有 構 造 とい うこ と で あ る。株 式 会 社 形 態 を と る会 社 で あ れ ば 、 安 定 株 主 構 造 が 形 成 され る の は 一 般 的 な 傾 向 と考 え られ る。 こ う した 理 解 の基 礎 上 で 考 え れ ば 、 戦 後 形 成 され て き た 法 人 所 有 は 日本 企 業 に お け る安 定 株 主 構 造 の1つ. の形 態 に過 ぎ. ず 、 法 人 株 主 構 造 が 崩 壊 して も、 安 定 株 主 構 造 が 崩 壊 し 、 不 安 定 株 主 構 造 とな る こ と を 意 味 す るわ け で は な い 。. 第2章 第1章. 法人 株 主構 造 につ い て で 、 戦 後 日本 企 業 にお け る株 式 所 有 構 造 に 関 す る代 表 的 な 理 論 を 検 討 した 。 そ こ. で 得 られ た 結 論 は 株 式 所 有 の 極 端 に 分 散 し た 巨 大 株 式 会 社 に お い て 、 経 営 者 に と っ て は 自 らの 支 配 的 地 位 を 安 定 化 させ る安 定 株 主 構 造 が 常 に必 要 だ とい う こ とで あ る。 経 営 者 の 支 配 的 な 地 位 を 安 定 化 させ る株 主 構 造 を 安 定 株 主 構 造 と規 定 す れ ば 、 株 式 相 互 持 合 い を 中 心 とす る法 人 株 主 構 造 は 安 定 株 主 構 造 の1つ. の 形 態 に過 ぎ な い と考 え られ る。 本 章 で 、 安 定. 株 主 構 造 の 視 点 か ら、 安 定 株 主 構 造 と して の 法 人 所 有 の 形 成 の 歴 史 、 そ の 要 因 、 特 徴 、 意 味 な ど の諸 側 面 に つ い て 検 討 す る こ と に す る 。 第1節. 法人 株 主構 造 の歴 史. 安 定 株 主 と して の 法 人 株 主 構 造 を理 解 す る入 り 口 と し て 、 そ の歴 史 を 明 瞭 に知 っ て お か な け れ ば な ら な い 。 本 節 で は 、 法 人 所 有 とい う形 の 安 定 株 主 が 形 成 され る歴 史 を簡 単 に振 り 返 っ て お く こ とに した い19)。 1、1945‑1949年:こ. の 時 期 、 財 閥 解 体 に よ っ て 、 株 式 所 有 は 強 制 的 に 再 配 分 され 、急 速. に 分 散 化 した 。 そ の 結 果 、 法 人 株 主 の 持 株 率 が 大 幅 に 減 少 す る一 方 、 個 人 株 主 が 大 幅 に 増. 16.
(18) 加 した 。金 融 機 関 を含 め て 国 内 法 人 の 持 株 率 は1945年 少 した 、 個 人 株 主 の 持 株 率 は1945年. の53%か. の35.8%か. ら1949年. ら1949年. の69.1%に. の15.5%に. 減. ま で 増 加 した2°)。. 株 式 会 社 の 支 配 構 造 か ら言 え ば 、 誰 で も株 式 市 場 で 容 易 に 大 量 な 株 式 を 買 い 占 め る こ と が で き る よ うに な っ て お り、 戦 前 の 財 閥 本 社 の 所 有 を根 拠 とす る 経 営 者 の 支 配 基 盤 は 休 息 に崩 れ て し ま っ た が 、 な お 新 た な 支 配 基 盤 は 形 成 され な い. 「 混 乱 状態 」 とな った。 当時、. 一連 の株 式 買い 占め事件 が起 こ り. 、 陽 和 不 動 産 の よ うな 財 閥 本 拠 で あ る企 業 さ え 、 株 式 の. 買 い 占 め の 対 象 と され た ほ ど で あ る。 2、1950‑1955年:前. 述の 「 混 乱 状 態 」 の も と で 、 企 業 経 営 者 は 自 らの 支 配 的 な 地 位 を. 安 定 化 させ る た め 、 安 定 株 主 の 創 出 を 開 始 した 。 安 定 株 主 を創 り出 す 方 法 と して 、 株 式 相 互 持 合 い を 中 心 とす る 法 人 所 有 が 広 範 に採 用 され た。 奥 村 宏 氏 に よ る と 、 当 時 、 自社 株 所 有 が 禁 止 され 、 そ して 広 範 に大 衆 投 資 家 が 株 式 を 所 有 す る基 盤 は な く、 これ に 代 わ る有 力 な機 関 投 資 家 も 存 在 しな い と い う状 況 で あ っ て み れ ば 、 会 社 が 会 社 の 株 式 を 相 互 に持 っ 以 外 に は 方 法 は な か っ た21)。 1950年. ご ろ か ら、財 閥 本 社 の 解 体 に よ っ て株 式 が 大 幅 に分 散 した 旧財 閥 系 企 業 は 系 列 金. 融 機 関 を 中心 に株 式 の 買 集 め を 積 極 的 に行 い 、 各 分 野 に お け る 巨 大 企 業 も下 位 企 業 の 株 式 を積 極 的 に 取 得 し、企 業 の集 団 化 と 系 列 化 が 急 テ ン ポ で 進 ん で き た 。 そ の 結 果 、1949年 か ら1955年 一方. ま で の5年. 間 に 、金 融 機 関 を含 め て 国 内 法 人 の 持 株 率 が 倍 増 し、32.7%と. 、 個 人 株 主 持 株 率 が69.1%か. 有 比 率 は1950年. の23.6%か. ら53.2%に. ら1955年. 減 少 した(表. の36.8%へ. な った. 一1参 照)。 そ の た め 、 安 定 保. と増 加 し、相 互 持 合 い を 中 心 とす る法 人. 所 有 とい う形 の 安 定 株 主 構 造 が で き た22)。 3、1956‑1964年:こ 主(金. の 時 期 、 法 人 へ の 株 式 所 有 の集 中化 現 象 が 停 滞 して お り、 法 人 株. 融 機 関 、 事 業 法 人)の. 持 株 率 が1956年. の37.6%か. 持 株 率 の 伸 び が 鈍 化 して い る。 金 融 機 関 を 含 め て 国 内 法 人 の ら1964年. の40%へ. と 、10年 間 で2.4%し. そ の 内 に 、金 融 機 関(信 託 銀 行 除 く)の 持 株 率 は0.2%減. か 増 加 して い な い 。. 少 し 、事 業 法 人 持 株 率 が2.6%増. 加 した(表 一1参 照)。そ の た め 、安 定 保 有 比 も大 幅 に 増 加 して い な い 。安 定 保 有 比 率 は1956 年 の41.7%か. ら1964年. の47.9%へ. と、6%ほ. ど しか 増 加 して い な い23)。. そ の 原 因 に つ い て 、 奥 村 氏 は 次 の よ うに 指 摘 し た。 「 何 よ り法 人 の 株 式 所 有 は企 業 に対 す る支 配 集 中 の 武 器 と し て使 わ れ て い る の で あ る か ら 、 企 業 集 中運 動 の 局 面 に よ っ て そ の 進 み 具 合 も変 わ っ て こ ざ る を え な い 」24)。「1956‑1964年. の 間 に 、 日本 の 産 業 構 造 は繊 維 、. 石 炭 を 中 心 とす る構 造 か ら重 化 学 工 業 を 中 心 とす る構 造 へ 転 換 した 。 産 業 構 造 の 急 激 な 変 化 と い う事 態 に機 能 的 に 対 応 す る 結 果 が 企 業 間 結 合 の 弛 緩 、 そ して 法 人 の 株 式 所 有 増 大 傾 向 の 停 滞 、 相 互 持 合 率 の 低 下 と な っ て 現 れ た 」25)。具 体 的 に 言 え ば 次 の も の に な る。 第1は. 、 産 業 構 造 の 急 激 な 変 化 に よ っ て 、 企 業 間 結 合 関係 が 弛 援 した 。 こ の 時 期 に 、 合. 成 繊 維 、 石 油 化 学 、 家 庭 電 気 、 乗 用 車 な ど が 新 しい 産 業 と し て 登 場 し、 い わ ゆ る 重 化 学 工 業 化 が 進 展 した 。 こ れ ら の新 分 野 に 参 入 し よ う とす る企 業 が 続 出 し、 こ こ で 同 一 集 団 内 で 17.
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