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(ShearWave Elastography)を用いた 膝前十字靱帯再建術後における

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(1)

超音波剪断波エラストグラフィ

(ShearWave Elastography)を用いた 膝前十字靱帯再建術後における

再生半腱様筋腱弾性率の回復過程の検討

Recovery of the Elasticity of Regenerated Semitendinosus Tendon after Anterior Cruciate Ligament Reconstruction

菊川 大輔

1,2)

DaisukeKikukawa

加賀谷善教

1)

YoshinoriKagaya

中田 周兵

2)

ShuheiNakata

来住野麻美

2)

AsamiKishino

清水 邦明

3)

KuniakiShimizu

青木 治人

4)

HaruhitoAoki

●Key words

前十字靱帯再建術,半腱様筋腱,超音波剪断波エラストグラフィ

●要旨

 膝前十字靱帯(ACL)再建術後に再生した半腱様筋(ST)腱の安静時および伸張時の組織弾性 と術後時期との関係を検討した.対象は,ST 腱を用い ACL 再建術を行なった術後 1~18 ヵ月の 22 名とした.超音波剪断波エラストグラフィを用い,安静時および伸張時の ST 腱の弾性率を計測 した.安静時の ST 腱弾性率の健患比率と術後時期は,有意な線形回帰を示した.伸張時では有意 な線形,対数,2 次回帰を示し,対数で最も大きな r2値を示した.再生 ST 腱弾性率の回復過程 は,安静時は線形に,伸張時は対数的に回復した.回帰式より伸張時の腱弾性率は術後 3 ヵ月で健 側の 80%まで回復し,機能的特性はより早期に回復することが示唆された.

は じ め に

 半腱様筋(ST)腱を用いた前十字靱帯(ACL)再建 術では鵞足部から腱を採取するが,遠位端から筋腱移行 部を超えてほぼ全長が採取されるため,その機能は残存 するほかのハムストリングス(大腿二頭筋・半膜様筋)

に依存することとなり,膝屈曲筋力低下は避けられない と考えられる.しかし,採取した ST 腱は約 80%の割 合で再生することが報告1~6)されており,この再生 ST 腱が膝屈曲筋力の回復に重要な役割を担う可能性が示唆 されている.一方,再生 ST 腱の回復過程や機能的特性

に関する報告は少なく,術後リハビリテーションにおい て膝屈曲筋力トレーニングのプロトコルは科学的根拠が 乏しいまま進められているのが現状である.

 超音波による採取した ST 腱の再生過程を縦断的評価 した報告7)と,再生 ST 腱の生検による組織学的な成熟 度に関する検討2,6,8,9)によると,再生 ST 腱は術後 2~

3 ヵ月に再生過程のピークを迎え,術後 24 ヵ月に正常 腱と同等の組織となるまで成熟過程にあることが示唆さ れている.MRI を用いた ST 腱の再生と膝屈曲筋力の 関連を検討した研究では,ACL 再建術後に ST 腱の再 生が不良な者では,術後 1 年以上経過していても膝屈曲 筋力が有意に低いと報告10,11)されている.また Eriksson

菊川大輔

〒222-0036 横浜市港北区小机町 3302-5 日産スタジアム内

横浜市スポーツ医科学センター リハビリテーション科

TEL 045-477-5065/FAX 045-477-5052

1)昭和大学保健医療学部

ShowaUniversityofNursingandRehabilitationScience 2)横浜市スポーツ医科学センターリハビリテーション科

DepartmentofRehabilitation,YokohamaSportsMedicalCenter 3)横浜市スポーツ医科学センター整形外科

DepartmentofOrthopedicSurgery,YokohamaSportsMedicalCenter 4)横浜市スポーツ医科学センター

YokohamaSportsMedicalCenter

(2)

12)は,ST 腱の再生が不良な者では,ST の筋横断面 積は健側に比べて有意に小さいことを報告している.こ れらの報告から,ST 腱の再生は膝屈曲筋機能の回復に は重要であり,その再生や成熟の過程を定量的に評価す ることは,術後リハビリテーションにおける機能回復の 指標や,術後プロトコル設定の指標として重要であると 考えられる.

 関節トルク発揮において,筋の収縮による張力は腱に 受動張力として伝わることでトルクを発揮するため,腱 は非収縮性弾性要素としての役割を有する.そのため,

ST 腱の筋機能への貢献を明らかにするためには,受動 張力という力学的特性を評価することが必要であると考 えられる.近年,超音波組織弾性イメージング技術が生 体軟部組織の組織弾性を直接的に定量化する筋骨格系の 評価・診断に応用されており,筋や腱の組織弾性評価に も有用であることが認められつつある13,14).この手法の 一つである剪断波エラストグラフィ(ShearWaveTM Elastography;SWE)は,音響放射圧を用いて組織内 の関心領域に横波を発生させ,その波の伝搬速度から剪 断弾性率(弾性率)を算出し,組織弾性を絶対的に評価 する手法である.本技術では骨格筋のみならず,腱の測 定においても良好な検者間信頼性を示すことが報告され ている15).SWE によって評価した組織を伸張した際の 弾性率は,受動張力との間に高い相関関係があることが

報告16~18)されており,本技術を用いることで,再生 ST

腱の組織弾性および受動張力の回復過程を評価すること が可能であると考えられる.

 そこで本研究の目的は,ST 腱をグラフトに用いた ACL 再建術後患者を対象とし,ST 腱の安静時,および 伸張時の弾性率を横断的に測定し,術後時期との関連を 明らかにすることで,その回復過程を推定することとし た.

症例と方法

1.研究対象者

 本研究の対象は,当院に通院する患者 22 名(術後時 期:6.1±4.8 ヵ月[1 ヵ月~18 ヵ月],年齢:24.4±12.9 歳,身長:164±10.3cm,体重:58.6±14.3kg,男性 8 名,女性 14 名)とした.包含基準は,当院にて ACL 損傷と診断された者,ST 腱もしくは ST

/

G(薄筋)腱 をグラフトとして使用し ACL 再建術を施行した者,術 後 1 ヵ月以上経過しており術後リハビリテーションを当 院にて行なっている者とした.除外基準は,受傷から再 建術施行までの期間が 6 ヵ月を超えた者,ACL 損傷以 外の外傷によって整形外科的手術を施行したことがある 者とした.

 本研究への参加に先立って,研究の概要,目的,研究 への参加に伴う危険性について説明し,書面において同 意を得た.なお,本研究は横浜市スポーツ医科学セン ター倫理審査委員会の承認を受け実施した(承認番号:

2017-02).

2.ST 腱弾性率測定

 測 定 に は,SWE 搭 載 の 超 音 波 装 置(SuperSonic Imagine 社製,AixPlorer)およびリニアプローブ(50 mm,4~15Hz)を使用した.ST 腱弾性率は,超音波 装置に搭載されている SWE モードを用い,安静時およ び伸張時にてそれぞれ測定した.測定位置は,ST 腱の 走行を視診・触診および超音波 B モードにて確認した うえで,膝関節裂隙から約 2cm 近位の部位と規定した

(図 1A).

 安静時の ST 腱弾性率は,被験者をベッド上での腹臥 位,膝関節屈曲 30° 位で,脱力とした(図 2A).伸張時 の ST 腱弾性率は,被験者をベッド上での背臥位,股関 節屈曲 90° にて検者が徒手的に固定し,検者が他動的に 膝関節を最大伸展位とした(図 2B).測定位置で ST 腱 の弾性画像を SWE モードで健側,患側共に 2 枚撮影し

図 1 ST 腱の超音波像

A:B モード画像.矢印は ST 腱を示す.

B:SWE モード画像.関心領域内は剪断弾性率がリアルタイムでカラーマッピング化される.

(3)

た.安静時,伸張時共に,弾性画像の撮像時には皮膚加 圧による組織変形が起こらないよう,エコーゼリーを十 分に体表面上に塗布しながら注意深くプローブを操作し た.計測は全て同一検者が行なった.

3.データ処理・解析

 本装置は生体組織が等方性である仮定のもとヤング率

(Young’smodulus:E)を算出する.しかしながら筋骨 格系組織は組織に対して力を与える方向によって弾性特 性が異なる性質(異方性)を持つため,剪断弾性率

(shearmodulus:G)を用いることが妥当であるとされ ている19).そこで本研究では次の関係式をもとに,計測 によって得られたヤング率を 3 で除した剪断弾性率を腱 弾性率の指標として分析に用いた.

  G=E

/

2(1+ν)

ν:ポアソン比,変形による体積変化がない場合は 0.5  撮影した弾性画像に,ST 腱線維含む関心領域を設定 し,関心領域内の腱線維上の近位,中位,遠位に直径 3 mm の円形領域を 3 箇所設定した(図 1B).各円形領域 内の平均ヤング率(Young’smodulus:E)を計測し,剪 断弾性率(shearmodulus:G)を算出し,ST 腱弾性率 の値とした.安静時,伸張時共に,1 枚の画像に付き 3 つの円形領域の平均を算出し,2 枚の画像から得られた 値の平均値を代表値とした.得られた計測値は,すべて 平均と標準偏差で示した.再生 ST 腱弾性率の回復の程 度の指標として,安静時および伸張時の ST 腱弾性率の 健患比率を算出した.

4.統計処理

 測定の検者内信頼性は級内相関係数 ICC(1.1)に よって再現性を検討した.再生 ST 腱弾性率と術後時期 の関係を検討するため,ST 腱弾性率の健患比率を従属 変数,術後時期を独立変数として回帰分析を安静時,伸 張時でそれぞれ行なった.回帰式は直線および曲線(対 数,二次)回帰を用い,決定係数(r2)を求めた.有意 水 準 は p<0.05 と し た. 統 計 処 理 に は,SPSSver.22

(IBM 社)を用いた.

結   果

 ST 腱の再生は包含した対象全例で確認された.ICC

(1.1)は安静時では 0.991,伸張時では 0.918 であった.

安 静 時 の ST 腱 弾 性 率 の 平 均 は, 健 側 が 120.7±27.8 kPa,患側(再生 ST 腱)が 66.4±38.3kPa で,健患比 率は 55.4±32.8%であった.伸張時の ST 腱弾性率の平 均 は, 健 側 が 155.7±9.4kPa, 患 側 が 132.8±34.9kPa で,健患比率は 85.5±21.9 であった(表 1).

 回帰分析の結果,安静時では ST 腱弾性率の健患比率 と術後時期との間に,線形で r2=0.183,p=0.047,対数 で r2=0.159,p=0.66,2 次で r2=0.197,p=0.12 の関係 を示し,線形回帰にて有意な回帰式を得た(図 3).伸 張時では ST 腱弾性率の健患比率と術後時期との間に,

線 形 で r2=0.232,p=0.023, 対 数 で r2=0.434,p<

0.001,2 次で r2=0.369,p=0.013 の関係を示し,いず れも有意な回帰式を得た.決定係数は対数回帰にて最も 大きな r2値を示した(図 4).

図 2 測定肢位

A:安静時.腹臥位,膝関節屈曲 30° 位.

B:伸張時.背臥位,股関節屈曲 90° とし他動的に膝関節を最大伸展.

表 1 安静時および伸張時の ST 腱弾性率

安静(kPa) 伸張(kPa) 安静時

健患比率(%) 伸張時

健患比率(%) 術後時期(月)

健側 患側 健側 患側

平均 120.7±27.8 66.4±38.3 155.7± 9.4 132.8±34.9 55.0 85.3 6.1

≦術後 6 ヵ月 118.8±29.7 57.5±36.6 155.5±10.0 125.5±40.2 48.4 80.7 3.1

>術後 6 ヵ月 126.1±25.3 81.9±38.3 156.0± 9.0 145.7±19.0 64.9 93.4 11.5 値は剪断弾性率の平均±標準偏差を示す

(4)

考   察

 本研究の目的は,ST 腱をグラフトに用いた ACL 再 建術後患者を対象とし,安静時および伸張時の ST 腱弾 性率を横断的に測定し,術後時期との関連を明らかにす ることであった.結果は,包含した対象全例で ST 腱の 再生が確認され,安静時・伸張時ともに再生 ST 腱弾性 率は,健側に比べ低値を示した.ST 腱弾性率の健患比 率と術後時期の関係から,安静時の再生 ST 腱弾性率は 術後時期の経過とともに線形に回復するのに対し,伸張 時の再生 ST 腱弾性率は術後時期の経過とともに対数関 係に回復することが示唆された.

 本研究では包含した対象全例で ST 腱の再生が確認さ れ,ST 腱の再生率は 100%であった.採取した ST 腱 の再生率に関して,Eriksson らはスウェーデン人を対 象として研究を行ない,75%1),83.3%2)であったと報告 している.日本人を対象とした研究では,ST 腱の再生 率 が Nakamae ら3)は 95.1 %,Tadokoro ら4)は 78.5 %,

Takeda ら5)は 100 % で あ っ た と 報 告 し て い る.Ta- dokoro らと Takeda らは,ST

/

G 腱をグラフトとして採

取した場合,G 腱に比べ ST 腱は高い再生率を示すと報 告しており,本研究の ST 腱の高い再生率と一致する.

ST 腱の高い再生率は,腱の再生が生じる大腿筋膜深層 で,ST 腱が筋膜に覆われているという解剖学的特徴が 要因として考えられている.しかし,これまで ST 腱が 再生しない症例も報告されており,再生を妨げる要因は 明らかではない.

 Suydam ら20)は, 機 械 加 振 に て 剪 断 波 を 惹 起 す る ContinuousShearWaveElastography と い う 手 法 を 用 い,ST 腱 お よ び ST

/

G 腱 を 用 い て ACL 再 建 術 を 行 なった術後 6 ヵ月から 24 ヵ月の者を対象とし,安静時 の再生 ST 腱の弾性率を測定した.結果は,ST 腱弾性 率の健患比率と術後時期との間に正の相関を認め,術後 12 ヵ月で健側の約 50%,健側と同等に回復するまで約 24 ヵ月を要すると報告した.本研究では,より術後早 期の 1 ヵ月から 18 ヵ月の者を対象として測定を行なっ た.本研究の結果は Suydam らと同様に,ST 腱弾性率 の健患比率と術後時期との間に正の相関(線形関係)を 認めた.回帰式より回復過程を推定すると,術後 12 ヵ 月では健側の 73%,24 ヵ月では健側と同等にまで回復 するという結果であった.健側と同程度となる時期は Suydam らと同様の術後 24 ヵ月であったが,術後 12 ヵ 月での回復の程度には違いが生じた.これは,Suydam らは術後 6 ヵ月以降の患者を対象としていることに対 し,本研究では術後 8 ヵ月以降の対象者が少ないことが 影響を及ぼしている可能性が考えられる.再生 ST 腱の 生検による組織学的な成熟度に関する検討は,術後 6~

28 ヵ月を対象に行なわれ,術後 12 ヵ月では組織学的に は未成熟であり,術後 24 ヵ月以降に正常腱に近づいて いる可能性があると報告2,6,8,9)された.Yoshiya ら6)は 術後 8 ヵ月の再生 ST 腱のコラーゲン線維は健側に比 べ,径が細く疎であったことを報告している.これらの 報告から,再生 ST 腱は術後 8 ヵ月から 12 ヵ月経過し ていても未成熟であり,組織学的な成熟には術後 24 ヵ 月という長期を要することが示唆されている.本研究の 結果より,組織学的に正常腱と同等となると報告されて いる時期と,安静時の再生 ST 腱弾性率が健側と同等に 回復する時期はおよそ一致しており,安静時の再生 ST 腱弾性率は,組織学的成熟過程を反映している可能性が 考えられる.

 また,本研究では安静時に加え,受動張力の回復過程 の指標として,伸張時の ST 腱弾性率を測定した.伸張 時の ST 腱弾性率の健患比率と術後時期との関係は,安 静時とは異なり,対数関係を示した.回帰式より,回復 過程を推定すると,術後 1 ヵ月では健側の 62%に,2 ヵ 月では 73%,3 ヵ月で健側の 80%まで回復し,約 11 ヵ 月で健側と同等に回復するという結果であった.この結 果より,伸張時の再生 ST 腱弾性率は,術後 3 ヵ月まで に急速に回復し,その後徐々に成熟していく可能性が考 えられる.超音波による再生 ST 腱の縦断的評価では,

図 3 安静時の ST 腱弾性率の健患比率と術後時期の関 係(線形)

図 4 伸張時の ST 腱弾性率の健患比率と術後時期の関 係(対数)

(5)

術後 2 週では再生の徴候はみられず,術後 4 週で低輝度 の再生像が確認され,2 ヵ月後をピークに腱が肥厚し,

12 ヵ月後には正常な腱とほぼ同等の形態の再生腱が確 認されたと報告7)しており,術後 2~3 ヵ月に腱の再生 過程のピークを迎えることが示唆されている.本研究の 結果より,伸張時の再生 ST 腱弾性率は,腱の再生過程 と考えられる術後 3 ヵ月までに急速に回復し,その後,

腱の成熟過程とともに徐々に正常腱と同等に回復するこ とが示唆された.

 腱は,筋腱複合体において非収縮性弾性要素としての 機能を有する.ST においては筋の収縮による張力は ST 腱に受動張力として伝わることで膝屈曲トルクを発 揮する.そのため,筋の収縮力のみならず,膝屈曲トル クの伝達効率に大きな影響を及ぼす腱の受動張力を反映 した,伸張時の腱弾性率を評価しながら治療を進めるこ とは非常に重要であると考えられる.本研究の結果よ り,伸張時の腱弾性率は術後 3 ヵ月で健側の 80%まで 回復することが示された.このことから組織学的に未成 熟とされている術後 3 ヵ月でも,すでに ST の筋収縮力 は膝屈曲トルク発揮に貢献している可能性が考えられ る.このことは組織学的回復過程よりも,機能的特性で ある受動張力を反映した伸張時の腱弾性率がより早期に 回復する可能性を示唆している.

 本研究の限界として,横断的に再生 ST 腱弾性率と術 後時期との関係を検討しており,回復過程やリハビリ テーション内容の個人差が結果に影響している可能性が 考えられる点が挙げられる.特に安静時の線形回帰で示 された r2の値は小さく,今後さらに縦断的に検討する 必要がある.また,伸張時の ST 腱弾性率の測定におい て,伸張の程度を定量化し,統一することができていな い点が結果に影響している可能性が考えられる.本研究 によって得られた知見は,ST 腱を用いた ACL 再建術 後のリハビリテーションにおいて,従来術後 2~3 ヵ月 ごろから積極的に行なわれている膝屈曲筋力トレーニン グの開始時期に科学的根拠を付与し得ると考えられる.

しかし,今回の検討からは再生 ST 腱の弾性率がどの程 度回復すれば,ST が筋力を十分に発揮できるかは明ら かではない.これらを明らかにするため,今後は術後早 期から再生 ST 腱弾性率を縦断的に評価し,再生 ST 腱 弾性率と膝屈曲筋力との関係を明らかにしていくことが 必要であると考えられる.

結   語

 本研究は,超音波剪断波エラストグラフィを用いて,

ACL 再建術後に再生した ST 腱の安静時および伸張時 の組織弾性と術後時期との関係を検討した.安静時の再 生 ST 腱弾性率は術後時期の経過に伴い線形回帰し,伸 張時の再生 ST 腱弾性率は対数回帰することから,機能 的特性である受動張力を反映した伸張時の腱弾性率がよ

り早期に回復する可能性が示唆された.

利 益 相 反

 本論文に関連する利益相反はない.

文   献

1)ErikssonKetal:Semitendinosusmuscleinanteri- or cruciate ligament surgery: Morphology and function.Arthroscopy,17:808-817,2001.

2)ErikssonKetal:Thesemitendinosustendonre- generatesafterresection:amorphologicandMRI analysisin6patientsafterresectionforanterior cruciate ligament reconstruction. Acta Orthop Scand,72:379-384,2001.

3)NakamaeAetal:Three-dimensionalcomputedto- mographyimagingevidenceofregenerationofthe semitendinosustendonharvestedforanteriorcru- ciateligamentreconstruction:acomparisonwith hamstringmusclestrength.JComputAssistTo- mogr,29:241-245,2005.

4)Tadokoro K et al: Evaluation of hamstring strengthandtendonregrowthafterharvestingfor anteriorcruciateligamentreconstruction.AmJ SportsMed,32:1644-1650,2004.

5)TakedaYetal:Hamstringmusclefunctionafter tendonharvestforanteriorcruciateligamentre- construction:evaluationwithT2relaxationtimeof magneticresonanceimaging.AmJSportsMed,34:

281-288,2006.

6)YoshiyaSetal:Revisionanteriorcruciateligament reconstructionusingtheregeneratedsemitendino- sustendon:analysisofultrastructureoftheregen- eratedtendon.Arthroscopy,20:532-535,2004.

7)PapandreaPetal:Regenerationofthesemitendi- nosustendonharvestedforanteriorcruciateliga- mentreconstruction.Evaluationusingultrasonog- raphy.AmJSportsMed,28:556-561,2000.

8)FerrettiAetal:Regenerationofthesemitendino- sustendonafteritsuseinanteriorcruciateliga- mentreconstruction: ahistologic studyofthree cases.AmJSportsMed,30:204-207,2002.

9)OkahashiKetal:Regenerationofthehamstring tendonsafterharvestingforarthroscopicanterior cruciate ligament reconstruction: a histological studyin11patients.KneeSurgSportsTraumatol Arthrosc,14:542-545,2006.

10)NishinoAetal:Knee-flexiontorqueandmorphol- ogyofthesemitendinosusafterACLreconstruc-

(6)

tion.MedSciSportsExerc,38:1895-1900,2006.

11)NomuraYetal:Evaluationofhamstringmuscle strengthandmorphologyafteranteriorcruciate ligamentreconstruction.ScandJMedSciSports, 25:301-307,2015.

12)ErikssonKetal:Semitendinosustendonregenera- tion after harvesting for ACL reconstruction. a prospectiveMRIstudy.KneeSurgSportsTrauma- tolArthrosc,7:220-225,1999.

13)DeWallRJetal:SpatialvariationsinAchillesten- donshearwavespeed.JBiomech,47:2685-2692, 2014.

14)ShinoharaMetal:Real-timevisualizationofmus- cle stiffness distribution with ultrasound shear waveimagingduringmusclecontraction.Muscle Nerve,42:438-441,2010.

15)PeltzCDetal:ShearWaveelastography:repeat- abilityformeasurementoftendonstiffness.Skele-

talRadiol,42:1151-1156,2013.

16)ChernakLAetal:Lengthandactivationdepen- dentvariationsinmuscleshearwavespeed.Physi- olMeas,34:713-721,2013.

17)KooTKetal:Relationshipbetweenshearelastic modulus and passive muscle force: an ex-vivo study.JBiomech,46:2053-2059,2013.

18)MaïsettiOetal:Characterizationofpassiveelastic properties of the human medial gastrocnemius muscle belly using supersonic shear imaging. J Biomech,45:978-984,2012.

19)RoyerDetal:Ontheelasticityoftransverseiso- tropic soft tissues(L). J Acoust Soc Am, 129:

2757-2760,2011.

20)SuydamSMetal:SemitendinosustendonforACL reconstruction:Regrowthandmechanicalproperty r e c o v e r y . O r t h o p J S p o r t s M e d , 5 : 2325967117712944,2017.

(7)

小学生野球選手における腹臥位

release push テストと内側上顆の形態変化との関係

Relationship Between Release Push Test in Prone Position and Abnormality of the Medial Epicondyle among Youth Baseball Players

高橋 晋平

1,5)

ShinpeiTakahashi

村木 孝行

1,5)

TakayukiMuraki

石川 博明

1,5)

HiroakiIshikawa

永元 英明

2,5)

HideakiNagamoto

黒川 大介

3,5)

DaisukeKurokawa

高橋 博之

4,5)

HiroyukiTakahashi

●Key words

Throwing,Releasepush テスト,Abnormalmedialepicondyle

●要旨

 投球時の肘外反ストレスを軽減させるために,肘伸展位でボールをリリースすることが重要であ る.筆者らは肘伸展位でリリース動作を行なう力を評価する releasepush テストを考案し,上腕骨 内側上顆の形態変化との関係を検討した.対象は小学生野球選手 239 名とし,腹臥位および立位で リリースする位置まで手を挙げ,肘伸展位のまま筋力計測器を押すよう指示した.その結果,腹臥 位での releasepush テストと内側上顆の形態変化に有意な関連が認められたが,立位 releasepush テストでは内側上顆の異常と有意な関連が認められなかった.腹臥位 releasepush テストは,小学 生野球選手の肘関節内側障害の機能的要因を評価できる可能性が示唆された.

は じ め に

 肘関節内側障害は投球動作の肘関節外反ストレスが増 強することにより生じるとされている1).この肘関節外 反ストレスが増大する要因として,肘関節屈曲角度の増 大,体幹早期回旋,体幹の矢状面,前額面での傾斜角度 の増大などが報告されている2,3).この肘関節外反スト レスを軽減させるために,肘関節伸展位でボールをリ リースできることが重要であると考えられる.しかし,

そのための機能を評価する方法は報告されていない.そ こで筆者らは,ボールリリース動作を模した release push テストを考案した.

 本研究の目的は,小学生野球選手において release

push テストと内側上顆の形態変化との関係を検討する ことである.

方   法

 2018 年に野球肘検診に参加した仙台市内の小学生 239 人(平均年齢:10.9 歳,8 歳 1 人,9 歳 16 人,10 歳 56 人,11 歳 104 人,12 歳 62 人)を対象とした.測定時に 疼痛が出現する選手,肘関節障害のために投球などの外 反ストレスが生じる動作を禁止されている選手は除外し た.投球側の肘関節伸展制限がある選手は 2 名確認され た.

 releasepush テストは腹臥位と立位で行なった.腹臥 位 releasepush テストは,腹臥位でボールをリリース

高橋晋平

〒980-8574 仙台市青葉区星陵町 1-1 東北大学病院リハビリテーション部 TEL 022-717-7677/FAX 022-717-7678 E-mail takahashishinpei0701@yahoo.co.jp

1)東北大学病院リハビリテーション部

DepartmentofRehabilitation,TohokuUniversityHospital 2)栗原中央病院整形外科

DepartmentofOrthopaedicSurgery,KuriharaChuoHospital 3)JCHO 仙台病院整形外科

DepartmentofOrthopaedicSurgery,JCHOSendaiHospital 4)気仙沼市立病院整形外科

DepartmentofOrthopaedicSurgery,KesennumaCityHospital 5)スポーツ医科学ネットワーク

SportsMedicalScienceNetwork

(8)

する位置まで手を挙げてもらい,肘関節伸展位のまま床 を押すよう指示をした(図 1).立位 releasepush テス トは,投球時のステップ幅に足を前後に開き,リリース 位置に手を挙げ,肘関節伸展位のまま押すよう行なった

(図 2).手首の位置に筋力計ミュータス(アニマ株式会 社)を置き,押す力を計測した.計測時の肩関節挙上角 度は,どちらの体位でも肩甲骨面上で 120~130° の位置 であった.リリース時の肘屈曲角度は約 20° であるが4), その角度を保持して押すことが困難でばらつきがでやす いため完全伸展位での計測とした.肘関節の屈曲角度が 増大すると外反ストレスが増大するため2),肘関節の伸 展角度を固定し肩・肩甲帯で押せないことが問題ではな いかと考え,肘関節完全伸展位での計測を行なった.本 テスト中には代償動作が極力出ないように計測前に練習 し十分に理解してもらってから計測した.代償動作が確 認された場合は計測のやり直しを行なった.

 releasepush テストの測定信頼性として,前実験で級 内相関係数を求めたところ,腹臥位では ICC(1,2)=

0.982,立位では ICC(1,2)=0.998 と高い信頼性が得ら れた.測定は投球側,非投球側で行ない,投球側の押す 力が非投球側より弱い場合を陽性とした.

 また,従来の機能評価として,棘上筋,僧帽筋下部の 筋力,肩関節水平内転可動域および股関節内旋可動域を 計測した.棘上筋は立位での emptycantest を行なっ た際の筋力を評価した5).僧帽筋下部は腹臥位で肩関節 を外転 135°・外旋位に位置させ,上肢を挙上させた状 態で前腕遠位部に抵抗をかけて検査した6).投球側の筋 力発揮が非投球側より弱い場合を陽性とした.肩関節水 平内転可動域は背臥位にて肩関節を 90° 外転させ,肩甲 骨外側縁を前方から固定した状態から他動的に水平内転 させて計測した.投球側の可動域が非投球側より 5° 以 上制限されている場合を陽性とした.股関節内旋可動域

は背臥位で股関節を 90° 屈曲させ他動的に内旋させて計 測した.股関節内旋が 45° 以上の場合は陰性,45° 以下 の場合を陽性とした.可動域の計測にはゴニオメーター を使用,投球側と非投球側を計測した.

 内側上顆の形態変化は,野球肘検診の経験がある整形 外科医が超音波診断装置を用いて診断した.画像上で内 側上顆の不整,分離,分節,突出のいずれかが見られた ものを形態変化とした.

 統計解析には IBMSPSSStatisticsversion24 を用い た.上腕骨内側上顆の形態変化と各検査項目の関係を調 べるためにχ2検定を用いて統計学的検討を行なった.

統計解析の結果は危険率 5%をもって有意とした.

結   果

 腹臥位 releasepush テストの平均値と標準偏差は投 球側 5.7±1.5kgf,非投球側 5.7±1.4kgf であった.立位 releasepush テストの平均値と標準偏差は投球側 5.0±

1.2kgf,非投球側 4.7±1.1kgf であった.

 腹臥位 releasepush テストは 239 名のうち陽性が 102 名(43%),立位 releasepush テストは 239 名のうち陽 性が 78 名(33%)であった.

 腹臥位 releasepush テストが陽性であった 102 名の うち,内側上顆の形態変化あり群が 64 人(63%)で あった(図 3).腹臥位 releasepush テスト陽性と内側 上顆の形態変化には有意な関係が認められた(p=

0.019).一方,立位 releasepush テストが陽性であった 78 名のうち,内側上顆の異常あり群が 47 人(60%)で あった.立位 releasepush テストの陽性と内側上顆の 異常とは有意な関係は認められなかった(p=0.175).

非投球側股関節内旋可動域と内側上顆の形態変化は有意 差が認められた(p<0.05).一方,棘上筋筋力,僧帽筋

図 1 腹臥位 release push テスト

(9)

下部筋力および肩関節水平内転可動域,投球側股関節内 旋可動域と内側上顆の形態変化は有意差が認められな かった.

考   察

 投球動作では肩関節最大外旋時からボールリリース後 まで肩関節が内旋する7).肘関節はボールリリース直前 に伸展角度が最大となり,ボールリリース直後に肩関節 内旋運動の角速度が最大となる4).この肩関節内旋運動 時に肘関節が伸展位であれば内反トルクが小さくなるた め8),リリース直前の肘関節は伸展位であることが望ま

しい.また,肩関節最大外旋後の上腕三頭筋と回内筋の 活動により肘関節外反ストレスは軽減する9).肘関節を 十分に伸展させずにボールをリリースするということ は,上腕三頭筋の作用を半減させ,肘関節外反ストレス が増大するかもしれない.本研究では腹臥位 release push テストが内側上顆の形態変化と有意な関連があっ た.しかし,本研究は横断的研究であり,今回採用した 検査項目以外の要因も影響している可能性がある.今 後,縦断的研究によって因果関係を調べていく必要があ る.

 立位 releasepush テストは内側上顆の形態変化と有 意な関連が認められなかった.腹臥位 releasepush テ ストは体幹・下肢が地面に接して安定しており,リリー ス肢位で押す力は肩甲帯・上肢の機能を反映していると ころが大きい.一方,立位 releasepush テストは腹臥 位と比較すると不安定な体勢であり,リリース肢位で押 す力は体幹や下肢の影響も大きく受けやすい.腹臥位 releasepush テストは肩関節の水平内転や伸展が主運動 になるため,大胸筋や三角筋前部線維,広背筋が主動作 筋になると思われる.立位 releasepush テストは全身 の筋活動が必要であり,上記以外に腹筋群や大腿四頭筋 などの体幹・下肢筋群も動員されると考えられる.今回 の結果では全身の運動連鎖が必要な立位 releasepush テストが腹臥位と比べて陽性が少ない結果であった.こ れは,肘関節伸展位で押すための肩甲帯・上肢機能が弱 くても,立位では他の機能で代償して押す力を発揮して いる可能性がある.例を挙げると,肘関節伸展位でボー ルを強く押せないため,代償的に体幹の早期回旋やグラ ブ側への体幹傾斜を利用して腕を振っている可能性も考 えられる.これは肘関節の外反ストレスが増大する要因 となりうる2,3)

 先行研究では肘関節障害の発生因子として股関節内旋 可動域制限10)が関連していると報告されている.本研 究では先行研究を支持する結果となった.腹臥位 re- leasepush テストも,これらの因子に対する評価と同様 に,小学生野球選手の肘関節内側障害の機能的要因を評 価できる可能性が示唆された.今回は,腹臥位,立位だ けのテストであったが,坐位や片膝立ち位など,他の姿 勢での評価を行なうことで,筋力低下の原因となる部位 を特定することができると考える.

 本研究の限界は,リリース動作を模した静的な肢位で あるため,実際の動的な負荷とは異なる点である.今 後,関与する筋活動の分析や検討していかなければなら ない.また,releasepush テストが肩肘障害の全てに適 応するわけではない.ボールリリース前後のメカニカル ストレスが影響する肩肘障害の評価方法として適切に使 用できるよう今後の検討が必要である.

図 2 立位 release push テスト

図 3 腹臥位 release push テストと内側上顆の異常と の関連

(10)

結   語

・小学生野球選手 239 名を対象に腹臥位 releasepush テストと肘関節内側上顆の形態変化との関連を検討し た.

・腹臥位 releasepush テストと内側上顆の形態変化は 有意な関連を認めた.

・股関節内旋可動域も内側上顆の形態変化と有意な関連 を認めた.

・腹臥位 releasepush テストは小学生野球選手の肘関 節内側障害の機能的要因を評価できる可能性が示唆さ れた.

文   献

1)AndrewsJR:Bonyinjuriesabouttheelbowinthe throwingathlete.InstrCourseLect,34:323-331, 1985.

2)MatthewJSetal:Elbowflexionpostballreleaseis associatedwiththeelbowvarusdecelerationmo- ments in baseball pitching. Sports Biomech, 20:

370-379,2021.

3)MatthewJSetal:Sagittalplanetrunktiltisassoci- atedwithupperextremityjointmomentsandball

velocityincollegiatebaseballpitchers.OrthopJ SportsMed,6:2325967118800240,2018.

4)宮西智久ほか:投球動作における肘・肩関節の 3 次 元動力学的研究―投球上肢の運動パターンと障害発 生 の 可 能 性 と の 関 連―. 体 力 科 学,48:583-596, 1999.

5)JobeFWetal:Delineationofdiagnosticcriteria andarehabilitationprogramforrotatorcuffinju- ries.AmJSportsMed,10:336-339,1982.

6)TrakisJEetal:Musclestrengthandrangeofmo- tioninadolescentpitcherswiththrowing-related pain: implications for injury prevention. Am J SportsMed,36:2173-2178,2008.

7)MichelleBSetal:Humeraltorqueinprofessional baseballpitchers.AmJSportsMed,32:892-898, 2004.

8)DavidFSetal:Relationshipofbiomechanicalfac- torstobaseballpitchingvelocity:withinpitcher variation.JApplBiomech,21:44-56,2005.

9)WernerSLetal:Biomechanicsoftheelbowduring baseballpitching.JOrthopSportsPhysTher,17:

274-278,1993.

10)SteveSetal:Associationsamonghipandshoulder rangeofmotionandshoulderinjuryinprofessional baseballplayers.JAthlTrain,45:191-197,2010.

(11)

スポーツ外傷の坐骨結節裂離骨折に対し,

観血的整復固定術を施行した 2 例

Two Case Reports of Open Reduction and Internal Fixation for Ischial Tuberosity Avulsion Fractures

大島 淳文

1,2)

AtsufumiOshima

内田  訓

3)

SatoruUchida

筑田 博隆

2)

HirotakaChikuda

●Key words

坐骨結節裂離骨折,観血的整復固定術,成長期スポーツ障害

●要旨

 スポーツにおける坐骨結節裂離骨折に対し,手術加療を施行した 2 例を経験した.骨盤部裂離骨 折では保存加療の報告も多いが,スポーツ復帰に関しては手術が有利とされている.坐骨結節裂離 骨折においてはハムストリングの牽引力が強く,偽関節になりやすい.今回は 2 例ともスポーツ活 動性が高く,手術加療を選択した.ともに良好な骨癒合を認め,5 ヵ月,9 ヵ月でスポーツ復帰し た.患者満足度も高く,手術加療は有効であった.筋力改善やスポーツ復帰には有利な一方,装具 等の工夫を要するなど後療法は慎重にならざるを得ない.保存加療も一定の良好な成績が報告され ていることから,手術適応に関しては個々の症例に合わせた判断が重要であろう.

は じ め に

 骨盤部の裂離骨折に関しては成長期のスポーツ障害と して一般的であり,骨端線の解剖学的脆弱性が一因とさ れている.上前腸骨棘,下前腸骨棘,坐骨結節,腸骨稜 に発生頻度が高く,筋付着部の牽引により力学的に弱い 骨端線部の裂離が生じる.坐骨結節裂離骨折はハムスト リングの牽引により起こると思われ,牽引力が強いため 転位が生じやすく骨癒合しにくいことや,たびたびハム ストリング断裂と誤診されることもあり,注意が必要で ある1).今回,われわれは坐骨結節裂離骨折に対し,観 血的整復固定術を施行した 2 例を経験したので,若干の 文献的考察を加えて報告する.

症   例

症例 1

症例:13 歳 女性

現病歴:100m 走で疾走中,急に膝崩れ感があり走れな くなった.前医初診時に単純 X 線画像では異常を指摘 されず,ハムストリング筋損傷と診断されていた.受傷 後 2 週経過時点で他医が画像検査の再評価をしたとこ ろ,坐骨結節裂離骨折と診断され,当院へ紹介となっ た.

既往歴:特記すべきことなし

スポーツ歴:中学 2 年生,陸上部で専門種目は高跳び 受診時画像所見:単純 X 線像(図 1a),CT 画像(図 1b,c,d)ともに坐骨結節裂離骨折を認める.骨片の大 きさは 4.5cm×2.4cm×0.3cm 程度であり,前下方に 1.2cm 程度の転位を認める.

大島淳文

〒371-8511 前橋市昭和町三丁目 39 番 15 号 群馬大学大学院医学系研究科整形外科学 TEL 027-220-8269

1)JCHO 群馬中央病院整形外科

DepartmentofOrthopaedicSurgery,JapanCommunityHealthCareOrgani- zationGunmaCentralHospital,Gunma,Japan

2)群馬大学大学院医学系研究科整形外科学

DepartmentofOrthopaedicSurgery,GunmaUniversityGraduateSchoolof Medicine,Gunma,Japan

3)医療法人山崎会サンピエール病院整形外科

DepartmentofOrthopaedicSurgery,SaintPierreHospital,Gunma,Japan

(12)

 転位の大きさや,当院初診時点ですでに 2 週以上が経 過していたこと,女性であり手術瘢痕も残ることなども 考慮し,保存加療も検討したが,早期のスポーツ復帰を 希望されたため,手術加療を選択し,受傷後 24 日目に 手術を予定した.

手術所見:腹臥位,全身麻酔下に手術施行した.ビキニ ラインを意識した皮膚切開(図 2a)を置き,坐骨神経 を直視下に剥離し展開した.ハムストリング付着部の裂 離骨片とその母床を同定し,腱付着部に縫合糸をかけて 牽引して整復操作を行なったが,ハムストリングの緊張 が強かったため,膝関節屈曲位で牽引することで整復位 を 得 た. メ イ ラ 社 製ϕ4.0mm の canulatedcancerous screw(CCS)3 本,ϕ4.5mmCCS1 本で固定した(図

2b,c,図 3a,b,c).

術後経過:膝関節伸展位でハムストリングの緊張を認め たため,術後 4 週間は股関節屈曲 20°,膝関節屈曲 30°

以上での固定とした.肢位の維持のため,骨盤帯,膝関 節ヒンジ付きの装具(図 4)を作成し,膝関節屈曲 30°

以上を保ったまま屈曲訓練は行なった.術後 4 週から膝 関節ヒンジを緩め,伸展を許可した.6 週で装具を終了 し,部分荷重を許可,10 週後に全荷重歩行を許可した.

b

c d

a

図 1 症例 1 術前画像検査 a:前医初診時 X 線.

b, c, d:術前 CT(b:体軸断 c:冠状断 d:

矢状断).

b

c a

図 2 症例 1 術中写真 a:皮膚切開.

b:ハムストリングを牽引し整復.

c:CCS 固定後.

(13)

術後 5 ヵ月時点で股関節,膝関節可動域に左右差なし,

BIODEX による筋力評価でも股関節伸展―膝関節伸展 筋力は腱患側差を認めず,患側の膝関節屈曲筋力は健側 の 75%まで改善した.術後 7 ヵ月でランニング可能と なり,9 ヵ月でスポーツ活動に復帰した.この時点で大 腿周径も腱患側差 1.5cm まで改善しており,骨癒合は 良好であった(図 5).術後 1 年 3 ヵ月現在,大腿周径 は左右差なしに改善し,本人の希望で高跳びから幅跳び に種目変更はしたものの競技に復帰している.

症例 2

症例:14 歳 男性

現病歴:体育のリレーで疾走中,踏ん張った際に大腿後 面に pop 音を自覚,疼痛出現し歩行不可となり,同日 当院救急搬送された.

既往歴:特記すべきことなし

スポーツ歴:プロサッカーユースチーム所属.ポジショ ンはゴールキーパー.

受診時画像所見:単純 X 線像(図 6),CT 画像(図 7a, b,c,d)ともに坐骨結節裂離骨折を認める.骨片の大き さは 3.9cm×2.2cm×0.3cm 程度であり,ハムストリン グ牽引により前下方に 2.3cm 程度の転位を認める.

 早期診断症例であり,プロサッカーユースチームレベ

ルのアスリートであり,高次元のスポーツ活動レベルが 要求されるため,手術加療を選択し,受傷後 8 日目に手 術を予定した.

手術所見:症例 1 と同様に腹臥位で手術を行なった.新 鮮例でもあり,ハムストリング緊張は強くなく,膝関節 軽度の屈曲位で容易に整復可能であった.メイラ社製 ϕ4.0mmCCS1 本,ϕ4.5mmCCS3 本で固定した(図 8a, b,c).

術後経過:術後 4 週間は骨盤帯,膝関節ヒンジ付き装具 装着し,股関節屈曲 20°,膝関節屈曲 30° 以上での固定 とした.術後 4 週から膝関節ヒンジを緩め,股関節,膝 関節の伸展を許可した.6 週で装具を終了し,部分荷重 を開始,10 週から全荷重歩行を許可した.術後 3 ヵ月 時点で膝関節完全伸展可能となり,股関節,膝関節可動 域制限なく,ジョギングを開始した.創部周囲の感覚障 害等合併症は認めなかった.術後 5 ヵ月で競技に復帰 し,骨癒合も得られていた(図 9a,b,c,d).

c b

a

図 3 症例 1 術後画像検査 a:術後 X 線画像.

b, c:術後 3DCT 画像.

図 4 症例 1 装具

骨盤帯,膝関節ヒンジ付装具 術後 6 週まで装 着した.

(14)

考     察

 坐骨結節裂離骨折は,成長期スポーツ障害として多数 の報告がされている1~11).骨端線の脆弱性が原因と考え られ,スポーツ活動時のハムストリングの牽引力により 起こる1).坐骨結節の骨端線は 13 歳~15 歳で出現し,

16 歳~18 歳で閉鎖する2)とされ,今回の 2 例はともに 骨端線出現後の好発年齢であった.坐骨結節裂離骨折の 頻度としては全骨盤裂離骨折の約 10%程度とされ,牽 引力の強さから他の裂離骨折よりも偽関節になりやす く3),偽関節症例では 45%でスポーツ復帰困難,27%で 臀部痛などの症状が残存する4).そのため,新鮮骨折は

もとより,陳旧性骨折に対する手術加療も報告されてい る5).術式に関しては本症例のように CCS を用いて固定 する方法の他,吸収性アンカーを用いた方法が抜釘不要 な術式として行なわれている6)

 近年,若年アスリートの裂離骨折全体に関して,保存 加療に比較して手術加療での良好な臨床成績や高いス ポーツ復帰率が報告されており7),要求される運動レベ ルの高い患者や 1.5cm 以上の転位,受傷後 4 週以内の 図 6 症例 2 術前 X 線画像

c d

b a

図 7 症例 2 術前 CT 画像 a:3DCT.

b, c, d:CT 画像(b:体軸断 c:冠状断 d:

矢状断).

図 5 症例 1 術後 9 ヵ月 X 線画像 骨癒合を認める.

(15)

新鮮例では手術が推奨されている8,9).また,スポーツ 復帰までの期間に関しては骨盤部の裂離骨折全体では保 存加療で平均 3.1 ヵ月,手術加療で平均 2.4 ヵ月という 報告がある8).坐骨結節裂離骨折に限定しても,スポー ツ復帰率に関しては同様に,システマディックレビュー において保存加療では 86%,手術群で 100%とされてい るが9),一方で復帰までの期間に関しては,坐骨結節裂 離骨折のみに限定したまとまった報告は得られなかっ た.強い牽引力から偽関節リスクが高いこと,ハムスト リングの筋力低下が起こることなど,また,再発防止の 観点から,他の症例報告でも同部位では 3 ヵ月以降に

b c

a

図 8 症例 2 術後画像 a, b:術後 X 線画像 . c:術後 3DCT 画像.

図 9 症例 2 術後 5 ヵ月画像検査 骨癒合を認める.

a:X 線画像.

b, c, d:CT 画像(b:体軸断 c:冠状断 d:矢状断).

a

b c d

(16)

ジョギングなどの軽い運動から復帰しており,手術加療 でも比較的復帰には時間を要していた10,11)

 本症例の症例 1 では初診時にはハムストリング断裂と されており,後に画像再評価により裂離骨折と診断され た.初診時に陥りやすいピットフォールと思われ,受傷 機転や好発年齢から本疾患も念頭に置き,注意深く画像 評価を行なうことが必要と思われた.また,治療の選択 においては症例 1 では陳旧例,症例 2 では新鮮例であっ たが,ともにスポーツ活動性が高かったため手術加療を 選択した.骨癒合良好であり,高レベルでのスポーツ復 帰も可能で,患者満足度も高く,手術加療は有効であっ た.

 手術加療では早期の筋力改善を見込め,スポーツ復帰 には有利と考えられる.一方で,術後は装具作成の必要 性やハムストリングの緊張,牽引力の強さによって後療 法は慎重になることが多い.保存加療でも一定の良好な 成績も報告されていることも考慮すると,その適応に関 しては個々の症例に合わせた個別の判断が重要であろ う.

文   献

1)鈴江直人ほか:スポーツ選手における骨盤障害.

Orthopaedics,23:12-19,2010.

2)KujalaUMetal:Ischialtuberosityapophysitisand avulsionamongathletes.IntJSportsMed,18:149- 155,1997.

3)BarnesSTetal:Pseudotumoroftheischium.A latemanifestationofavulsionoftheischialepiphy-

sis.JBoneJointSurgAm,54:645-647,1972.

4)SundarMetal:Avulsionfracturesofthepelvisin children:areportof32fracturesandtheirout- come.SkeletalRadiol,23:85-90,1994.

5)今里浩之ほか:陳旧性坐骨結節裂離骨折の治療経 験―手術適応と後療法―.日臨スポーツ医会誌,

25:269-273,2017.

6)FolsomGJetal:Surgicaltreatmentofacutever- suschroniccompleteproximalhamstringruptures:

resultsofanewallografttechniqueforchronicre- constructions.AmJSportsMed,36:104-109,2008.

7)CalderazziFetal:Apophysealavulsionfractures ofthepelvis.Areview.ActaBiomed,89:470-476, 2018.

8)EberbachHetal:Operativeversusconservative treatmentofapophysealavulsionfracturesofthe pelvisintheadolescents:asystematicalreview withmeta-analysisofclinicaloutcomeandreturn tosports.BMCMusculoskeletDisord,18:162,2017.

9)HijlekeJ.A.Nautaetal:Satisfactoryclinicalout- comeofoperativeandnonoperativetreatmentof avulsion fracture of the hamstring origin with treatmentselectionbasedonextentofdisplace- ment: a systematic review. Knee Surg Sports TraumatolArthrosc,2020.

10)廣橋紀ほか:坐骨結節剥離骨折の 1 例.中四整外会 誌,17:335-338,2005.

11)芝山浩樹ほか:徒手整復不能であった坐骨結節裂離 骨折の 1 例.東日整災外会誌,30:211-215,2018.

(17)

上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の保存治療成績

Results of Conservative Treatment for Osteochondritis Dissecans of the Capitellum

三田地 亮

1)

RyoMitachi

高原 政利

1)

MasatoshiTakahara

佐藤  力

1)

ChikaraSato

宇野 智洋

2)

TomohiroUno

●Key words

上腕骨小頭離断性骨軟骨炎,小頭骨化,保存治療成績

●要旨

 肘離断性骨軟骨炎 18 例の保存治療成績を調査した.投球を平均 7.4 ヵ月で開始し,完全スポーツ 復帰:10 例,不完全復帰:5 例,および未復帰:3 例であった.平均 18.8 ヵ月の X 線経過観察で完 全癒合:8 例,部分癒合:7 例,および癒合なし:3 例であった.成績は優:8 例,良:2 例,可:5 例,および不可:3 例であった.8 ヵ月以内に小頭中央に骨化を認めた群の完全癒合率(87.5%)が 有意に高く,成績が有意に良好(優良 100%)であった.完全癒合率は小頭中央の骨化前に投球を 開始した群では 16.7%であり,骨化後に投球を開始した群(77.8%)に比べ有意に低下した.小頭 中央の骨化出現までは投球を待機するべきである.

緒   言

 上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(肘 OCD)は投球障害の 一つである.肘 OCD の保存療法では投球禁止などの上 肢への負荷禁止が基本である1).OCD の修復に関して,

高原は自然修復には 1 年から 1 年 6 ヵ月を要するとして いる2).保存治療の成績に関して,松浦らは保存療法に より初期の 90.5%,進行期の 52.9%が修復し,修復に要 した期間は初期で平均 14.9 ヵ月,進行期で平均 12.3 ヵ 月であったとし,さらに修復例のうち初期の 86.8%,進 行期の全例が元のレベルの野球に復帰したと報告してい る3).しかし,肘 OCD の保存治療において投球開始時 期と治癒過程との関係を明らかにした報告はほとんどな い.

 本研究の目的は,当院における肘 OCD の保存治療成 績を調査し,投球開始時期と治癒過程との関係を検討す ることである.

対象と方法

 2015 年 1 月 1 日から 2018 年 12 月 31 日までに当院を 受診し,保存治療で 3 ヵ月以上の経過観察を行なった 18 例を対象とした.

 性別は全例男性であり,初診時の平均年齢は 12.3 歳

(10~14 歳)であった.Sauvegrain 法による骨年齢スコ アでは平均 17.3 点(10~26 点)であった.スポーツは 野球:17 例,ハンドボール:1 例であった.肘痛があっ たのは 14 例(77.8%)であった.肘関節可動域は平均 131.4 度(115~150 度),combined abduction test

(CAT)陽 性 率 は 33.3 %,horizontalflexiontest

(HFT)陽性率が 22.2%,Sleeper’stest 陽性率が 33.3%

であった.

 保存治療は投球禁止を主体とし,日常生活においても 肘関節に圧迫や剪断力が加わるような過負荷となる行為 を 禁 止 し た. 経 過 観 察 期 間 は 平 均 18.8 ヵ 月(3.5~

41.1 ヵ月)であった.

 保存治療最終観察時の肘痛の有無,手術移行の有無を 調査した.スポーツ復帰状況を調査し,痛みなく普段通

三田地 亮

〒981-3121 仙台市泉区上谷刈字丸山 6 番 1 号 医療法人泉整形外科病院

TEL 022-373-7377/FAX 022-374-2481

1)医療法人泉整形外科病院 IzumiOrthopaedicHospital 2)山形大学整形外科

DepartmentofOrthopaedicSurgery,YamagataUniversityFacultyofMedi- cine

(18)

りの投球が可能な場合を完全復帰,復帰して OCD 由来 の痛みがある場合や普段通りの投球(80%以上の投球)

が困難な場合を不完全復帰,また復帰しなかった場合を 未復帰とした.初診から投球開始までの期間と完全復帰 に至るまでの期間を調査した.

 45 度屈曲位正面 X 線像にて小頭の外側(外側壁)と 中央(関節面側)にある OCD の治癒過程をそれぞれ評 価した4).治癒過程をⅠ期:透亮(一部石灰化のあるも のを含む),Ⅱ期:遅延骨化または骨片4~6)(図 1),およ びⅢ期:骨癒合4~6)または正常化に分類した4).治癒過 程の進行に要した日数を調査した.また,小頭の外側の みが癒合したものを部分癒合,中央も癒合したものを完 全癒合,両者が癒合しなかったものを癒合なしとした.

 保存治療の成績として,完全癒合で完全復帰した場合 を「優」,部分癒合で完全復帰の場合を「良」,部分癒合 で不完全復帰を「可」,および復帰にかかわらず癒合な しを「不可」とした.

 スポーツ復帰,X 線評価,および保存治療の成績に関 与する因子を検討した.検討した因子は,年齢,骨年 齢,身体所見,投球開始時期,および上腕骨小頭中央の 骨 化 で あ っ た. 統 計 学 的 検 討 に はχ2検 定 と Mann-WhitneyU 検定を用いた.p<0.05 を有意差あり とした.

結     果

 保 存 治 療 最 終 観 察 時 に 肘 痛 が あ っ た の は 3 例

(16.7%)であり,手術が行なわれた.さらに 4 例では 骨化の進行が認められないため手術を勧めたが,うち 1 例(5.6%)は追跡不能になった.手術施行例は 6 例

(33.3%)であった.

 15 例は初診から平均 7.4 ヵ月(0.9~13.6 ヵ月)後に 投球を開始した.スポーツ復帰状況は,完全復帰:10 例,不完全復帰:5 例,および未復帰:3 例であった.

未復帰の 3 名には投球許可より先に手術が勧められた.

完全復帰(10 例)までの期間は平均 16.3 ヵ月(5.4~

30.5 ヵ月)であった(表 1).

 初診時の肘関節 45 度屈曲位正面 X 線像にて小頭中央 の評価がⅠ期:17 例,Ⅱ期:1 例であり,外側はⅠ期:

10 例,Ⅱ期:7 例,およびⅢ期:1 例であった.最終観 察時には小頭中央はⅠ期:6 例,Ⅱ期:4 例,およびⅢ 期:8 例であり,外側はⅠ期:1 例,Ⅱ期:2 例,およ びⅢ期:15 例であった(表 2).小頭中央がⅠ期からⅡ 期に進行したのは 11 例であり,その進行に平均 197.3 日(69~380 日)を要した.また小頭中央がⅡ期からⅢ 期に進行したのは 8 例であり,その進行に平均 217.8 日

(118~378 日)を要した.

図 1 上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の治癒過程初診時の肘関節 45 度屈曲位正面像(A)では小頭外側(矢頭)

に透亮像と石灰化,小頭中央(矢印)には透亮像を認めた.4 ヵ月後(B)には小頭外側(矢頭)の骨 化が進行し,骨癒合または正常化がみられ,小頭中央(矢印)には骨化の出現を認めた.

表 1 投球とスポーツ復帰

投球とスポーツ復帰 症例数 要した期間

平均(範囲) 最終経過観察期間

平均(範囲)

投球開始 15 7.4 ヵ月(0.9~13.6 ヵ月) 18.8 ヵ月( 3.5~41.1 ヵ月)

80%以上の投球 13 17.6 ヵ月(5.4~30.5 ヵ月) 22.1 ヵ月(10.0~41.1 ヵ月)

完全復帰 10 16.3 ヵ月(5.4~30.5 ヵ月) 21.4 ヵ月(10.0~41.1 ヵ月)

不完全復帰 5 14.4 ヵ月(0.9~25.0 ヵ月) 20.8 ヵ月( 6.8~26.8 ヵ月)

未復帰 3 7.0 ヵ月( 3.5~12.7 ヵ月)

(19)

 完全癒合は 8 例(初診から完全骨癒合までの期間:平 均 364.3 日), 部 分 癒 合 は 7 例(経 過 観 察 期 間: 平 均 675.6 日),および癒合なしは 3 例(経過観察期間:平均 279.3 日)であった(表 3).保存療法の成績は,優:8 例, 良:2 例, 可:5 例, お よ び 不 可:3 例 で あ っ た

(表 4,図 2).

 初診時所見(年齢,骨年齢,身体所見)と成績(X 線 評価,スポーツ復帰,および保存治療成績)との間には 有意な関係は見出せなかった.また,初診から投球開始 までの期間と成績との間にも有意な関係はなかった(表 5,6,7).

 6~10 ヵ月以内の小頭中央の骨化と完全癒合との関係

を調査した.8 ヵ月以内に小頭中央に骨化がみられた 8 例のうち 7 例(87.5%)に完全癒合が得られたが,8 ヵ 月以内に骨化がみられなかった 10 例のうち完全癒合が 得られたのは 1 例(10.0%)のみであった.8 ヵ月以内 の小頭中央の骨化が完全癒合と有意に関連していた(p

<0.01)(表 5).小頭中央の骨化前に投球を開始した 6 例のうち 5 例(83.3%)では完全癒合が得られなかった が(表 5),骨化後に投球を開始した 9 例のうち 7 例

(77.8%)に完全癒合が得られた.小頭中央の骨化前に 投球を開始すると完全癒合率が有意に低下した(p=

0.04).

 8 ヵ月以内に小頭中央に骨化がみられた選手 8 例全例

(100%)の保存療法の成績が優良であり,8 ヵ月以内に 骨化がみられなかった選手 10 例のうち,成績が優良 だったのは 2 例(20.0%)であった.小頭中央の骨化が 8 ヵ月以内にみられた選手は,保存療法の成績が有意に 優良であった(p<0.01)(表 7).

表 2 初診時と最終観察時の X 線評価

小頭 OCD の X 線評価 症例数

初診時 最終観察時

中央 Ⅰ期 17 6

Ⅱ期 1 4

Ⅲ期 0 8

外側 Ⅰ期 10 1

Ⅱ期 7 2

Ⅲ期 1 15

表 3 X 線評価と癒合の評価

X 線変化と癒合の評価 症例数 要した期間:平均(範囲)

小頭の中央 ⅠからⅡに進行 11/17 例

(元々Ⅱは進行から除く) 197.3 日( 69~ 380 日)

ⅡからⅢに進行 8/12 例 217.8 日(118~ 378 日)

OCD の癒合 完全 8 例 364.3 日(118~ 598 日)

部分 7 例 675.6 日(322~1114 日)

なし 3 例 279.3 日(105~ 590 日)

:経過観察期間

表 4 保存治療の成績

保存治療の成績 症例数 経過観察期間:平均(範囲)

優(完全癒合+完全復帰) 8 17.2 ヵ月( 7.2~30.5 ヵ月)

良(部分癒合+完全復帰) 2 19.9 ヵ月(10.7~29.0 ヵ月)

可(部分癒合+不完全復帰) 5 22.0 ヵ月(12.7~26.8 ヵ月)

不可(癒合なし) 3 5.0 ヵ月( 3.5~ 6.8 ヵ月)

図 2 保存治療成績「優」~「不可」の代表的な最終観察時 X 線画像

(20)

考   察

 松浦は無症候例の肘 OCD にも投球禁止のみならず打 撃,腕立て伏せや重量物保持の禁止を指示し,完全修復 が 得 ら れ た の は 無 症 候 例 33 名 の う ち 投 球 中 止 群

(48.5%)の 93.7%,ポジションや投球側を変更した群

(36.4%)の 41.7%であり,投球を継続した群(15.1%)

では 20%にすぎなかったとしている7)

 本研究において小頭中央の骨化は 12 例(66.7%)で 平均 6.0 か月であった.8 ヵ月以内に小頭中央の骨化を 認めた群の完全癒合率(87.5%)が有意に高く(表 5),

成績が有意に良好(優良 100%)であった(表 7).小頭 中央の骨化が 8 ヵ月以内に出現することを一つの指標と

して保存療法を徹底すべきである.さらに小頭の骨化前 に投球を開始すると完全癒合率(16.7%)が有意に低下 した.小頭中央に骨化が出現するまでは投球を開始すべ きではないと考える.

結   語

1.肘 OCD の 18 例に対し,保存治療を行ない,最終観 察時に肘痛があったのは 3 例(16.7%),手術が必要 とされたのは 7 例(38.9%)であった.スポーツ復 帰は完全:10 例,不完全:5 例,および未復帰:3 例であった.

2.完全癒合は 8 例(44.4%)に初診から平均 364.3 日で 得られ,部分癒合は 7 例(38.9%)に得られた.保 表 5 X 線評価と年齢,身体所見,投球,および骨化との関係

関連する因子 小頭 OCD の X 線評価

完全癒合(8 例) 部分癒合・癒合なし(10 例) p 値

初診時年齢(平均) 12.3 歳 12.3 歳 12.2 歳 0.8241

初診時骨年齢(平均) 17.3 点 17.8 点 16.6 点 0.7213

CAT(14 例)# 良 9 例 1 例(11.1%) 8 例(88.9%) 0.0949

不良 5 例 3 例(60.0%) 2 例(40.0%)

投球開始までの期間(平均) 7.4 ヵ月 7.3 ヵ月 7.5 ヵ月 0.4511

小頭中央の骨化(8 ヵ月以内) あり(8 例) 7 例(87.5%) 1 例(12.5%) 0.0029 なし(10 例) 1 例(10.0%) 9 例(90.0%)

小頭中央の骨化前後の投球開始(15 例) 前(6 例) 1 例(16.7%) 5 例(83.3%) 0.0406 後(9 例) 7 例(77.8%) 2 例(22.2%)

#:調査した 14 例で検討,:投球開始した 15 例で検討

表 6 スポーツ復帰と年齢,身体所見,投球,骨化との関係性

関連する因子 スポーツ復帰状況

完全復帰(10 例) 不完全復帰・未復帰(8 例) p 値

初診時年齢(平均) 12.3 歳 平均 12.4 歳 平均 12.0 歳 0.1096

初診時骨年齢(平均) 17.3 歳 平均 17.5 歳 平均 17.1 歳 0.5926

CAT(14 例)# 良(9 例) 5 例(55.6%) 4 例(44.4%) >0.9999

不良(5 例) 3 例(60.0%) 2 例(40.0%) >0.9999 投球開始までの期間(平均) 7.4 ヵ月 平均 7.9 ヵ月 平均 6.5 ヵ月 >0.9999 小頭中央の骨化(8 ヵ月以内) あり(8 例) 5 例(62.5%) 3 例(37.5%) >0.9999

なし(10 例) 5 例(50.0%) 5 例(50.0%)

小頭中央の骨化前後の投球開始(15 例) 前(6 例) 2 例(33.3%) 4 例(66.7%) 0.0889 後(9 例) 8 例(88.9%) 1 例(11.1%)

#:調査した 14 例で検討,:投球開始した 15 例で検討

表 7 保存治療成績と年齢,身体所見,投球,骨化との関係

関連する因子 保存療法の成績

優・良(10 例) 可・不可(8 例) p 値

初診時年齢(平均) 12.3 歳 12.4 歳 12.0 歳 0.5634

初診時骨年齢(平均) 17.3 点 17.5 点 17.1 点 0.8236

CAT(14 例)# 良(9 例) 3 例( 33.3%) 6 例(66.7%) 0.5804 不良(5 例) 3 例( 60.0%) 2 例(40.0%)

投球開始までの期間(平均) 7.4 ヵ月 7.9 ヵ月 6.5 ヵ月 0.5161

小頭中央の骨化(8 ヵ月以内) あり(8 例) 8 例(100.0%) 0 例( 0.0%) 0.0011 なし(10 例) 2 例( 20.0%) 8 例(80.0%)

小頭中央の骨化前後の投球開始(15 例) 前(6 例) 2 例( 33.3%) 4 例(66.7%) 0.0889 後(9 例) 8 例( 88.9%) 1 例(11.1%)

#:調査した 14 例で検討,:投球開始した 15 例で検討

(21)

存治療の成績は,優:8 例,良:2 例,可:5 例,お よび不可:3 例であった.

3.初診から 8 ヵ月以内に小頭中央の骨化を認めた群の 完全癒合率(87.5%)が有意に高く,成績が有意に 良好(優良 100%)であった.

4.小頭中央の骨化前に投球を開始すると完全癒合率

(16.7%)が有意に低下した.

文   献

1)新井猛ほか:上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の保存療法 の成績と限界 .整スポ会誌,31:17-20,2011.

2)高原政利:肘離断性骨軟骨炎の診断と治療 .リウマ チ科,32:89-97,2004.

3)松浦哲也ら:肘離断性骨軟骨炎に対する保存療法の

有効性と限界.Orthopaedics,25:7-11,2012.

4)TakaharaMetal:Progressionofepiphysealcarti- lageandbonepathologyinsurgicallytreatedcases ofosteochondritisdissecansoftheelbow.AmJ SportsMed,49:162-171,2021.

5)TakaharaMetal:Naturalprogressionofosteo- chondritisdissecansofthehumeralcapitellum:ini- tialobservations.Radiology,216:207-212,2000.

6)MatsuuraTetal:Conservativetreatmentforos- teochondrosis of the humeral capitellum. Am J SportsMed,36:868-872,2008.

7)松浦哲也:上腕骨小頭障害の病態と治療.菅谷啓 之・能勢康史(編集),野球の医学.第 1 版,文光 堂,東京:182-186,2017.

図 1 ASIS 骨端部の MRI(T2 強調脂肪抑制 横断像)

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