• 検索結果がありません。

シンポジウム「インドファッションの世 界 素材から考える装い」

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "シンポジウム「インドファッションの世 界 素材から考える装い」"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

■ 研究集会 ■

シンポジウム「インドファッションの世 界 素材から考える装い」

金谷美和

2019年7月13日に南アジア研究集会シンポジウムとして、「インド ファッションの世界 素材から考える装い」を開催した。主催は同年4 月に開学したばかりの国際ファッション専門職大学、共催は南アジア地 域研究国立民族学博物館拠点(MINDAS)である。シンポジウムは一 般聴衆にひらかれ、大学生や専門学校生も多数参加した 。会場は国際1

ファッション専門職大学の名古屋校で、同校の教員として着任した田中 雅一、金谷美和、安念真衣子の3名が企画実行をおこなった。

私たち企画者は、この大学の主催ということでまず、ファッションを テーマにすることにした。さらに、製品としてのファッションに焦点を 当てるのではなく、通常は消費者の目に触れないファッションの素材に 注目してシンポジウムを構成することにした。

素材に注目した理由は3つある。一つは、インドをはじめとする南ア ジアはファッションの多様な素材の生産地であり、すぐれた素材の特性 が世界のファッション市場を動かしてきたという歴史をもつからである。

南アジアは木綿の原産地であり、山岳地ではカシミア山羊毛の織物を産 する。薄い木綿布キャリコ、模様のついた木綿布チンツ、カシミア ショールがヨーロッパの服飾流行を生み出してきたことはよく知られて いる。

二つめの理由は、素材とその生産地、生産者に注目することで、南ア ジア地域を日本と地続きの世界であることを伝えられると考えたからで ある。サリーや地域ごとの民族衣装を紹介したとしても、遠い異国の出 来事として受け取られ、現代日本に暮らす私たち自身に関わりのある地

(2)

域であると理解してもらうのは難しいと考えたのだ。

三つめの理由は、ファッションの世界では昨今、サステナビリティ

(持続可能性)という言葉がキーワードになっており、環境に負荷をか けない素材の選択や開発に関心が高まっているからである。サステナビ リティは、2015年に国連サミットで採択された持続可能な開発目標

(SDGs)に伴って産業界ですすめられている。サステナビリティに結び 付けることで、ファッションに関心をもって来てくれる聴衆にうったえ かけられると想定したのである。

シンポジウムでは、金谷の趣旨説明に続いて、南アジア各地で素材の 生産者について調査をおこなってきた研究者3人に、素材の生産現場で 何が起こっているのか報告してもらった。さらに、3人のコメンテー ターのコメントをうけて、総合討論をおこなった。発表者と発表タイト ルは以下の通りである。

1)渡辺和之氏(阪南大学国際観光学部・准教授)

「2つの羊毛敷物 チベット絨毯とネパールのラリの生産と流通」

2)遠藤仁氏(秋田大学国際資源学研究科・客員研究員/人間文化研究 機構・研究員)

「南アジアの石製ビーズ産業の現在 インド国内における生産と消 費」

3)竹田晋也氏(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科・教授)

「熱帯アジアモンスーン林でのラック作りとその利用」

渡辺氏は、ネパールの山岳地で羊を飼育する牧畜民の研究をおこなっ てきた。古来より人類は羊毛を繊維素材として利用しているため品種改 良が進み、細く柔らかい毛が好まれるようになっている。渡辺氏の フィールドで飼育されているネパール在来の羊の毛は、固くてごわごわ しているが、その特徴を生かして、織りあげた後に熱と圧力を加えて フェルト状に加工する。ラリと呼ばれるこの布は、山岳地の厳しい環境 から身を守るものとして一定の需要を得ている。山岳地における現金収 入として貴重で、人々が出稼ぎに頼らず、村で生活をしながら生計をた てることを可能にしている。

遠藤氏はインドの石製ビーズについて論じた。ビーズは人類最古の装 飾品といわれ、世界各地の考古遺跡から出土している。インドでは驚く

(3)

べきことに、インダス文明以降3000年以上にわたって石製ビーズが作り 続けられている。遠藤氏は考古学者としてインダス文明の遺跡から出土 するビーズを研究しながら、現代のビーズの生産地と消費地でフィール ドワークを行っている。生産地はグジャラート州西部カンバ―トであり、

専業集団が石製ビーズの生産をおこなっている。石製ビーズはガラスや プラスチックに代替され、インド国内における消費は減少傾向にあり、

現在の主な消費者はインド北東部のナガ民族である。ナガのビーズは、

植民地支配やキリスト教化によりいったんは途絶したが、近年ではマイ ノリティとしての自己確認を支える象徴として重要性が高まっている。

竹田氏は、東南アジアや南アジアにおける森林資源利用について農学 の領域から研究してきた。ラックカイガラムシは赤色染料と天然樹脂と いう二つの希少な素材の原料となる昆虫である。樹脂としても染料とし ても安全性が高く、食品加工物などとして広範囲に利用されてきた。

ラックカイガラムシは四種類の特定の樹木を宿主木として生育するため、

ラック生産者は農地の周囲に宿主木を植生する。つまり、ラック生産は 自給色の強い農業の中に補完的に組み合わされてきた農林複合経営のひ とつの要素と捉えることができる。木材として伐採せずに利用すること のできる林産物のことを非木材林産物という。非木材林産物には、森の 木を伐採せずに継続的に利用し、そこから地元の人たちが利益を得てゆ ける利点がある。ラック生産は小農世帯の貴重な現金収入源であり、熱 帯林の多様性を維持しながら、多様性そのものを活かす利用方法だとい えるのである。

発表者たちは現地で購入した貴重な資料である羊毛布、石製ビーズ、

ラックカイガラムシを持参してくれた。講演のあいまに聴衆はそれらの 資料を実際に手にとり、まじかで観察する機会を得た。

コメンテーターは以下の3人である。

1)上羽陽子氏(国立民族学博物館人類文明誌研究部・准教授)

2)富澤修身氏(国際ファッション専門職大学・教授)

3)野田隆弘氏(一宮地場産業ファッションデザインセンター)

上羽氏は染織技術の観点から、富澤氏はファッション産業史の観点か ら、野田氏は愛知県と岐阜県にまたがる羊毛織物産業との比較の観点か らそれぞれコメントをした。総合討論では、3つの論点から議論が展開 された。それらをまとめると、次のようになる。

(4)

一つめは、石製ビーズがプラスチックビーズに変わりつつあるように、

多くの天然素材が人口素材に置き換わりつつあるなか、今なお天然素材 でものをつくる意義とは何か、また、天然素材の研究をする社会的意義 は何か、という問いである。

この点については、在来種の羊毛がヒマラヤ山岳地での生計を支えた こと、ラックカイガラムシの生産が森林保全や再生につながる点から、

天然素材の生産が地域社会や環境を保全する意義があることが述べられ た。また、石に病気治癒などマジカルな効用を求めるという文化的価値 は、まだプラスチックビーズには認められていないことから、人口の代 替素材でまかなえない文化的機能があることが指摘された。さらに、天 然資源研究の社会的意義としては、プラスチックの海洋汚染が問題に なっているなか、プラスチックに代わる機能をもつラック樹脂の研究は SDGs 実現に寄与するという点で重要だと述べられた。

二つめの論点は、素材の生産は今後も継続するのかという問いである。

これについては、それぞれの地域と素材の特性によって異なるという見 解が示された。ネパールの在来種の羊は生産者が減少しているため、今 後なくなる可能性がある。インドでは石製ビーズの原料である石は潤沢 にある。しかし、大型機械で大量に採掘する他産地が現れているため、

小規模採掘のインドは採掘では競争に負けてしまい、ビーズ加工のみが 残るということになるかもしれない。ラックは、地元の需要があれば小 規模であっても続くのではないかという。

3つめは、天然素材に注目することで、ファッションという分野で何 ができるかという問いである。ファッションのもつ物語を消費するとい う志向にうまく接続することができれば、新たな価値をうみだし天然素 材の需要を活性化させることができるのではないかという期待が語られ た。たとえばビーズは人類始原の装飾品といわれ、つねにファッション とともにあった。石の持つマジカルな効用に対する信仰がなくなっても、

パワーストーンとしての新しい価値がうまれており、ビーズのファッ ション素材としての存在感は失われていない。今後パワーストーンとし ての意味がなくなっても、きっと新たな物語がつむがれ石製ビーズは作 られ続けるのだろうと思わされた。一方でネパールの在来羊毛は、これ までファッションの市場で紹介されてこなかったため、今後ファッショ ンの文脈で新たな価値を付与されることが期待されると述べられた。

(5)

コメンテーターの富澤氏からも、ファッション産業では10年ほど前か ら「モノ消費からコト消費へ」ということが言われており、魅力的な物 語をつけることがファッション製品の開発には欠かせないと指摘された。

また、上羽氏は、素材の特性を見誤った物語の付与をしないように、素 材に対して見極める目を養うことが必要だと指摘された。最後に野田氏 から、聴衆の多くを占めていた学生に向けて、ファッションに取り組も うとするとき、ファッションといえばミラノ、パリ、ニューヨークのよ うな誰もが思うような場所ではなく、他の人が選ばないような南アジア 地域を選択するのは、差異化をはかるうえで重要だとメッセージが送ら れた。

サステナビリティの実現はファッション産業にとって不可欠になって いる。それは、ファストファッションに代表されるような大量生産、大 量消費をともなうライフスタイルに対して多くの人が疑問を感じるよう になっていることに呼応している。天然素材は、ファッションが今後す すむべき方法を示唆してくれる素材であると言える。ただし、天然素材 はあらゆる面において無条件に優れているというわけではない。天然素 材を使うことで、ものづくりの工程が増えて労働者の負荷がかかるとい う可能性もあり、無批判に合成素材から天然素材に移行することで問題 が解決すると思いこむと、あやまった「天然素材信仰」を生み出しかね ない。南アジア地域は、ファッションにかかわる天然素材が、在来技術 をいかすかたちで現在でも作られ、使われているという世界でも稀有な 地域である。本シンポジウムで報告されたそれぞれの生産現場に密着し た研究から真摯に学ぶべきことは多い。

なお、シンポジウム の 各 発 表 と コ メ ン ト の 詳 細 は『FAB』(国 際 ファッション専門職大学研究紀要)創刊号(2020年)に採録される。

1 シンポジウムの参加人数は、学生(大学生・専門学校生・高校生)が209人、南アジア研 究関係者40人、一般27人の計276人であった。

かねたに みわ ●国際ファッション専門職大学

参照

関連したドキュメント

[LD PSW,n]、[PUSH PSW]、[POP PSW]が用意されていますが、[LD PSW,n]、[PUSH  PSW]命令は

今月はさらに、春休みに実施されるベーシック・アニマルハンドリングプログラムで酪農

4.1 技術規制の見直しによる主な効果

[r]

2 図1「スポーツ活動諸室の整理」 図2「トイレ、スイート・ラウンジのBリーグ規定」 検査項目 基準要件 備考

[r]

The Japanese Association of Indian and Buddhist Studies..

The Japanese Association of Indian and Buddhist Studies..