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艦娘とは恋愛出来ないので鎮守府の外の子と仲良くしていたら艦娘でした ID:228980

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(1)

艦娘とは恋愛出来ない ので鎮守府の外の子と 仲良くしていたら艦娘

でした

茶蕎麦

(2)

︻注意事項︼

 このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にPDF化したもので

す︒

 小説の作者︑﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を

超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます︒

︻ あ ら すじ ︼

 なんということでしょう︒

(3)

  目    次   

│││││││││││アイドル 

1

││││││││ゴーヤかあさん 

12

││││││帰って来なかったら 

25

│││││││││││病みつき 

41

││││││││││││モテる 

60

││││││││││││ウザい 

77

││││││││ぱんぱかぱーん 

95

│││││││来ちゃいました♪ 

111

││││││ケッコンカッコカリ 

131

(4)
(5)

アイドル

 艦隊これくしょん︑というゲームがある︒

 知らない人は艦隊という言葉にすら首を捻るかもしれないし︑プラモデルを収集する

ゲームかなと勘違いするかもしれない︒

 或いはよく知っている人は長門かっこいい︑とかヌ級可愛いと語り出したり⁝⁝ん︑

ヌ級

?

 ま︑まあ個々の感想なんてのは色々とあるだろう︒

 そんな風に︑確かにその第二次大戦中の艦船をモチーフとした女の子︑が沢山出

てくるゲームはそれなりの知名度を持って存在する︒

 なんかだとアニメ化もしたことがあるみたいだし︑オタク層は聞いたことがあ

る人も多いのではないかな︑と思う︒

 だが︑今オレの周りにはそんなゲームの存在を知っている人なんて影も形もない︒

 しかし艦娘自体の知名度は抜群だったりする︒それこそ︑そこらの有名人なんて裸足

で逃げ出すレベルで国民的だ︒

﹁那珂ちゃんのファンってこの世界だと何人居るんだろうな⁝⁝﹂

 そのあおり︒鎮守府へ送られてきた彼女へのファンレターの内一通の熱烈な内容を

1

(6)

覗いて︑何の因果か死んだと思ったら艦隊これくしょんの世界に転生した挙げ句な

んてやっているオレはつい黄昏れてしまった︒

 軽巡洋艦︑那珂︒その艦娘であるところの那珂ちゃんは︑至極当然のようにこの世界

に来る前に見た通りの容姿をしていた︒

 彼女は茶目っ気のある明らかな美少女であり︑なるほどこれは愛らしいとは初対面で

感じたのをよく覚えている︒

 試しに頼み込んで歌を聴かせてもらったところ︑オレは感動で泣いた︒あれほど綺麗

な声で歌われた

"

うさぎおいし

"

を未だにオレは他に知らない︒

 こりゃ那珂ちゃんはかなりのものだ︒むしろこれは世界狙えるんじゃないかとすら

思った︒目指せグラミー賞︒いや︑今日本以外の世界がどうなってるかってのは︑今ひ

とつ分からないのだけれども︒

 まあそんな風にからの色眼鏡もあって思いつきで那珂ちゃんといえばアイドル

だろうと慰問やらテレビ出演やらそっちの活動に積極的になってもらったところ︑彼女

は今やこの鎮守府の看板艦娘である︒

 それどころか那珂ちゃんのアイドル活動︵仮︶でよく分からないパイプが沢山出来て

今や随分と太い支援が次々と鎮守府に送られるようになった程で⁝⁝これはもう︑これ

からは那珂ちゃんではなく那珂ちゃんさんと呼んだほうがいいだろうか︒

2 アイドル

(7)

 そんな那珂ちゃんさん本人はたまには陸じゃなくて海での活動もしたい︑と仰ってい

たがそうは問屋がおろさない︒

 国の星にすらなった彼女をオレなんかの一存で轟沈するような危険に晒すわけにも

いかないし︑そもそもマネージャーさん曰く︑既に予定は三年先まで埋まっているそう

だから︒

 というか︑何か妖精さんがおニューの衣装に改装してくれたよー︑とか言って那珂

ちゃんさんが披露してくれた姿はオレの記憶だと改二の衣装だったような⁝⁝だとし

たら彼女はアイドル活動︵仮︶でどれほどの経験を積んだのだろう︒芸能界も恐ろしい︒

﹁⁝⁝那珂ちゃんさんはあの前向きな性格的に特に芸能界に向いていたのかもしれない

が︑実際艦娘は誰も彼も取り上げられたらとても敵わないとアイドルが泣いて謝りそう

なくらいに整っているよなあ﹂

 そう︑オレが艦娘の遊興代の工面のために渋面を作りながら書類を認めながらも︑逃

避のように思い出してそう零してしまうくらいには︑彼女たちは花だった︒

 それが鉄の身体だった頃を忘れさせてしまうくらいのたおやかな美を纏って︑艦娘達

は海に立つ︒そして︑敢然と人類の敵︑深海棲艦に我先と立ち向かってくれるのだから

たまらない︒

提督  そんな太陽のような艦娘に触れたいと︑のような艦娘に近しい立場を欲するもの

3

(8)

は枚挙にいとまがない︒当然︑彼女らを求める人間の精鋭である海軍の者はほぼ全員が

艦娘という存在に惚れ込んでる︒

 それこそ恋愛的な意味で︑と豪語する提督のもごまんといる⁝⁝いや五万は言い過ぎ

か︒そもそも提督適性のある人間なんて一握りだった︒

 だがまあ︑その大半に酒を飲ませるとどこぞの艦娘と

??

したいなどというセリフが出

てくるのはその︑困る︒その都度憲兵さんにチクるオレの手間が増えるという意味で︒

﹁ったく︑提督が艦娘と恋愛するなんて︑以ての外だっての⁝⁝﹂

 オレは書類の那珂⁝⁝いや中に挟まれた今夜待ってマース︑と書かれた手紙を握り潰

して︑後で金剛には説教だなと思いながら呟く︒

 恋の駆け引きも何もそもそも︑男が夜間に艦娘寮に行くことが許される筈もないだろ

うに︒

 まあ︑堅物と知られるオレとて︑鎮守府内を恋愛禁止になんてしていない︒大井の北

上に対する恋を応援することだってあるし︑最近妖しげな鳳翔と龍驤の関係をふむと見

逃したりもしている︒

 憲兵と整備員がむさ苦しい口づけを交わしていたのを見たときは流石にうえっとし

たが︑まあそれも自由だし構わな⁝⁝いや︑そういえば何か同性で愛を育んでいる者が

多すぎじゃないか︑この鎮守府︒

4 アイドル

(9)

 まあ︑皆が皆そうではないということは︑身を以て知ってしまっているのだが︒

﹁はぁ︒後は好意の矢印をこちらに向けてくれなければ︑それでいいのだがなあ⁝⁝﹂

 ため息と共に言ってから︑オレはおもむろに引き出しから取り出した︑前衛的に赤ク

レヨンで丸のみで描かれ︑横にしれえと記された雪風から送られた肖像画にほっこりと

する︒

 そして︑こりゃ未来はピカソを超えるな︑と子煩悩にも思いながらそういやあの子ど

うしていくら言ってもスカートを履くの嫌がるのだろうなと考えたりした︒

 そんな全てが完全に︑添えられたもう一枚にたどたどしく書かれた︑しれえあいして

ます︑という雪風が書いたのだろう文からの現実逃避だ︒

 オレもまさか︑あんな小さな子から頬紅く︑しれえ受け取ってください

!

 とラブレ

ターを貰うとは思わなかったのだ︒

 ぶっちゃけ︑未だに動揺している︒ああ︑前世の年齢足すとこれくらいの子がいる年

だよな︑とこれまで娘みたいに可愛がっていたのに︒

﹁応えられないものを︑どう応えろと⁝⁝﹂

 それは︑雪風に対してにだけ向けた呟きではなかった︒やたら愛してると口にする金

剛や何故か影から見守ってくる時雨や︑何時の間にか布団にひんやり這入っている伊5

8などなど︒正直なところ︑彼女らの無垢な愛に応えられないのは︑辛い︒

5

(10)

 勿論︑男として物理的に番えないということはないのだが︒実際比較的に外見年齢高

めの艦娘たちがあられもない格好で帰投してきた時などに︑性欲を催すことだってあ

る︒

 だが︑心がどうにも付いてこない︒何しろオレにとって彼女らは︒

偶像 アイドル﹁そのものだからなあ﹂

 決して手を届かせてはいけない︑そんな高嶺の花であり続けて欲しいものなのだか

ら︒﹁ああ︑どこか普通の子と縁が出来ないものか⁝⁝﹂

 だからオレは︑そんな艦娘ファンに聞かれたら助走をつけて殴られそうな言葉を今日

も尽く盗聴器を潰した後の執務室にて呟くのだった︒

 ﹁提督︑つれないデース⁝⁝﹂

﹁しれぇ⁝⁝﹂

 大小二つの花が萎れて︑机にぺたり︒想い届かぬ悲しみに嘆きを交わす︒

 片や金剛型戦艦一番艦の艦娘︑帰国子女の金剛︑片や陽炎型駆逐艦の八番艦︑幼子然

とした雪風︒

6 アイドル

(11)

 この鎮守府では古参であり︑深海棲艦も恐れる練度を誇る彼女らは︑恋愛に負けて気

持ちを轟沈させていた︒

 そんな暗さを纏って食堂のテーブルひとつを占めている二人の横を︑通りかかったの

はしとりと三編みなびかせる時雨︒

 いや通りかかったというのは違うだろうか︒実際のところ︑慰めるのを諦めた陽炎ら

雪風の姉妹艦に元気づけるのを頼まれて現れたのが時雨だったのだから︒

﹁金剛さん︑また駄目だったんだね⁝⁝今日は雪風まで⁝⁝全く罪な人だよね︑提督は﹂

﹁提督ぅ⁝⁝﹂

﹁⁝⁝しれえ﹂

﹁わ︑ゾンビみたいに起きてきた﹂

 力なく︑誘蛾灯に寄せられるかのごとく時雨の発した提督という言葉に応じて起き上

がる金剛と雪風︒美人と美少女が暗い表情のままもぞりと蠢くのは少し気味が悪く︑思

わず時雨も揶揄してしまう︒

 それに応じたのは︑金剛だった︒そろそろ︑彼女が悲しみに浸るのも潮時だったのか

もしれない︒その瞳には少しずつ光が差しつつあった︒

﹁ゾンビというのは酷いデース⁝⁝もっとチャーミーなものに例えて下さいヨー﹂

﹁そんなことを言われても困るなあ︒えっと⁝⁝そうだね︒モーラーとか

?

7

(12)

﹁あのイモムシのような提督お気に入りの玩具と一緒にしないでくだサーイ

!

﹁もーらーってなんですか

?

﹁提督が持っている︑あの赤いぐねぐねした⁝⁝﹂

﹁あのおもちゃ︑もーらーっていうんですね

!

 雪風も一匹頂いています

!

﹁羨ましいデース

!

 提督のレトロ玩具の収集の趣味を知っている金剛は︑それを分けて貰った雪風を羨ま

しがる︒

 だが幸運の少女はうむむと見つめる金剛を知らず︑久しぶりに微笑んだ︒

﹁あ︑雪風笑ったね︒良かった︑皆心配していたんだよ

?

﹁あ︒うぅ⁝⁝申し訳ありません⁝⁝﹂

﹁それで︑何があったのさ

?

 こんなに落ち込むなんて︑君らしくない﹂

﹁あのー︑ワタシのことは無視デスかー

?

﹁いつもの事だし︑金剛さんはどうせ放っておいても戻るだろうから﹂

﹁酷いデース

!

﹁はいはい﹂

 酷いのはどちらの方かな清廉潔白なのが魅力の提督をたぶらかそうとして︑と内心思

いながらにこりと時雨は金剛の主張を受け流す︒

8 アイドル

(13)

 そうして︑心配な雪風の方へと彼女は水を向けた︒

﹁あのぅ⁝⁝実は雪風︑しれえにお手紙で告白をしたんです⁝⁝﹂

﹁なんですっテー

!

﹁おおっ︑それは凄いね︒⁝⁝あと金剛さんちょっと声大きいよ﹂

﹁Oh︑これはsorryネ⁝⁝﹂

 素直に両手で口を塞ぐ大きな犬のような愛らしい年上をたしなめながら︑時雨は雪風

のことを本当に凄いと思う︒

 何しろ時雨は提督とは今の距離で満足している︒だから︑その先なんて考えられない

ことだった︒

 金剛のようにばっちいくらいに近寄りたいという訳でもなさそうだし︑これは応援し

てもいいかな︑と彼女が思った矢先︒消え入るように雪風は言った︒

﹁でも︑ぅう︑断られてしまったんです︒ごめんな︑ってはっきりと﹂

﹁それは⁝⁝うん︒どう言えばいいのか⁝⁝ああやっぱり︑提督は真面目なんだね﹂

﹁なんだか時雨︑うれしそうデスネ

?

﹁やだな︒僕は友達の悲恋を喜ぶような人間じゃないよ

?

﹁そうデスカー

?

 ただ︑提督の変わらなさを悦ぶ艦娘ではあるけれど︑とまでは言わずに時雨は黙る︒

9

(14)

 そして気落ちする雪風にはっきりと告げた︒

﹁雪風︒気にしないでいいよ﹂

﹁⁝⁝どうしてですか

?

﹁金剛さんを見てみなよ︒彼女なんて︑あれだけ告白してそれだけ雑に扱われているけ

ど︑未だに見捨てられてない﹂

﹁Hey︑時雨ー︑喧嘩を売っているのなら買いますヨー

?

﹁ちょっと金剛さんは黙ってて﹂

﹁ムグ﹂ 後ろで文句を言っていた金剛は片手にてノールックでその口を押さえられる︒

 その時右手のひらに覚えた柔らかな唇の感触を嫌いながら︑時雨は祈るように口にし

た︒

 それは主に自分のための言葉であったが︑しかしそれは間違いなく目の前で消え入り

そうになっている雪風のためのものでもあったのだろう︒彼女はどこか優しげだった︒

﹁だから安心して︒提督は僕らのことを決して見捨てたりしないから﹂

﹁時雨さん⁝⁝﹂

 雪風は︑ごくりと納得を呑み込んだ︒そう︑隠れてよく見ている時雨も︑それ以外の

どの艦娘だって知っている︒

10 アイドル

(15)

 戦う者に余計な仕事を増やさないためと秘書艦のひとりもつけずに働いて︑安全を第

一に考えた艦隊編成にシフトを日頃から続けている提督は何より艦娘というものに対

して真剣だということを︒

 そうだ︒自分はこの鎮守府の皆が安心して過ごしていることに驚き司令に関心を覚

え︑そうして次第にその人柄に惹かれたのだ︒なら︑彼の懐の深さを疑うのは良くない

ことだと︑雪風も思い至る︒

 ならば自分は︒そう彼女が意気を燃やそうとした時︒

 ﹁⁝⁝提督が鎮守府から居なくなったー

!?

 そんな誰かの悲鳴のような声が辺りに響いたのだった︒

11

(16)

ゴーヤ かあさ ん

 それは︑半ば突発的なことだったといっていい︒

 執務室で鎮守府近海の哨戒をしてくれた一人の艦娘を労っていたその時︑オレの口は

偶には外に出たいな︑という言葉を勝手にも口にしたのだった︒

 いやオレって奴はどれだけ出会いに飢えているんだよ︑とは思う︒思うが︑しかし自

分の懐古コレクションの一つ︑どうぶつ糊の曲線にまでいやらしさを覚え始めるくらい

に溜まっている現状は正直ヤバいとも感じる︒

 勿論慌てて口は閉じたが︑時既に遅し︒ソナーもかくやの彼女の聴力はちょっとした

ものであり︑オレの独り言を逃す筈がなかった︒

 にこりとした彼女に︑どう言い訳しようか考えるオレ︒しかし彼女は言ったのだっ

た︒

 なら︑一緒にここから抜け出すでち︑と︒

﹁てーとく︑こっちの方が人がいないでち

!

﹁ああ︑ありがとう⁝⁝﹂

 甲高くそしてどこか自慢げなその声を聞きながら︑オレは自分の現況に何となく目眩

12 ゴーヤかあさん

(17)

をすら覚える︒

 出会いを求めて仕事を抜け出そうとするオレ︒それを先導するように︑スクール水着

に上着を羽織っただけのめんこい子供がぺたぺた歩いている︒

 いや︑勿論その桃色髪鮮やかな彼女が我が鎮守府の頼もしき艦娘の一人であり︑この

スニーキングは彼女の了承済みのこととは分かっているのだが︑どうにも申し訳無さが

先に立ってしまう︒

 伊58︒どうしてか異様に懐いてくれる彼女には世話になってばかりだ︒

﹁すまんな︑伊58﹂

﹁気にしないで欲しいでち︑てーとく︒あと︑ゴーヤでいいんでちよ

?

﹁それも申し訳ない︒正直なところ︑人の愛称として用いたくないくらいにオレは︑あの

苦いウリが苦手でな⁝⁝﹂

﹁そうだったんでちか︒ゴーヤてっきり嫌われているのかと⁝⁝﹂

 こちらに向いた伊58の表情はどこか驚いたようになってた︒

 しかしオレが伊58を嫌っているなんて彼女がそんな勘違いをしているとは︒オレ

は首を振った︒

 何時もにこにこ笑顔の彼女には気持ち的にも助けられているし︑そもそもこの鎮守府

ではたった一人の潜水艦でその働きには特筆すべきものがある︒

13

(18)

 普段からオレの後を駆逐艦の子たちと仲良く付いてきて場を明るくしてくれるのも

とてもありがたい上に︑意外としっかり者で今回のように相談ごとを聞いてくれること

だってあった︒

 そうかと思えばお得意の入でオレの私室に知らない間に入って来てはゴミ捨てを

してくれてたり︑換気までしてくれてたりもする︒

 そういえば夜分お腹がすいてお腹を鳴らしていると︑それを察してほーしょうさんに

は内緒でちよ︑と素うどんを差し入れしてくれたりもしたな︒

 ⁝⁝伊58はオレのお母さんか

?

 いや︑母親はベッド下に知らない間にスク水少女

のグラビア集を忍ばせたりはしないはずだ︒

 まあ︑取り敢えずオレが伊58を嫌うなんていうことはあり得ない︒だからオレは強

めに否定する︒

﹁そんな訳ないだろう︒確かにお前が知らない間にベッドに潜り込んで眠りこけている

のに最初は困っていたが︑今はその都度新しく布団を敷いて寝るのにも慣れた﹂

﹁本当はゴーヤ︑てーとくに添い寝して欲しいのでちが⁝⁝﹂

﹁まあ︑そんな伊58の潜入技術が今は頼もしいな︒オレはてっきり警邏の者に袖の下

でも渡しているのかと勘違いしていたが︑まさかそれぞれの行動パターンを網羅して研

究し尽くしていたとは⁝⁝﹂

14 ゴーヤかあさん

(19)

﹁でち

!

 笑顔の伊58︒自慢げで稚気に溢れた彼女はとても愛らしいが︑その実やっているこ

とは完全にストーカーである︒それもかなり気合の入ったストーカーっぷりだ︒この

鎮守府の人数は百人に近いというのに︒

 いや︑その相手がオレであり︑被害が殆どないというからにはまあ問題ないのかもし

れない︒ぶっちゃけ妹みたいで可愛いからいいかなと︑放置しているオレが本当は一番

悪いのだろう︒

 なにやらオレの頭の上で伊58の乗組員のものと手旗信号しながらきゃっきゃして

いる妖精さんの無邪気さを聞き流しながら︑恐ろしいくらいに誰とも会わない脱出道中

を進んでいると︑ぽつりと伊58は言った︒

﹁それにしても外に出たい理由が出会いが欲しいからって︑てーとくはそんなに女の子

が好きだったのでちか

?

﹁む⁝⁝そう言われるとただのハレンチな奴にしか聞こえないが⁝⁝まあ︑人並みに異

性との新しい出会いには興味がある﹂

 そんな言い訳じみた返しをしながら︑オレは何故か頬を染めている羅針盤妖精さんを

無視して一考する︒

 これははっきり言って︑贅沢にも程がある望みだろう︒女所帯に勤めているからとは

15

(20)

いえ︑綺麗どころと関わることがたっぷり出来ていて︑向こうからも好意的に見られて

いるというのにそれを無視して余所見をするなんて︒

 ついつい︑恥じざるをえない︒こういう時︑自分の拘りがうざったくなりもする︒

 だがしかし艦娘は艦娘で││︒

﹁えへ﹂

 そんな風に思っていると伊58は止まり︑くるりと反転︒そして︑花の顔になった︒

少し悲しげなそれはあるいは雨に濡れる紫陽花か︒

 胸の中の雨滴を弾くように頭を上げてオレを見上げ︑彼女はオレに向けて言う︒

 ﹁あのね︑てーとく⁝⁝ゴーヤも女の子なんだよ

?

 そうしてへにゃりと笑んだ伊58は︑兵器でもましてお母さんでもなく︑その通りに

何より愛らしい女の子だった︒

 思わず︑胸が高鳴る︒だが︑それを嫌うかのように努めて冷静になりながら︑オレは

作り物の笑顔で返すのだった︒

﹁⁝⁝ああ︑そうだ︒伊58︒お前はオレには少し眩しすぎるくらいに︑愛らしい女の子

だよ﹂

16 ゴーヤかあさん

(21)

﹁でち⁝⁝﹂

 何を感じたか顔を下ろす伊58︒オレにはその時︒いじわる︑という言葉が聞こえた

ような気がした︒

 ﹁中々動かないな⁝⁝﹂

 青空の下︑オレと伊58は物陰に隠れて機を待つ︒

 しかし︑ここ鎮守府正面の警備員はびっくりするほど直立不動で感動的なほどに艦娘

やオレたちに危険が及ばないように真剣だった︒

 いや︑あの人本当に生きているんだよな︒置物じゃないよな⁝⁝あ︑ウミネコが頭の

上に乗っかった︒おいおい︑でも動かないのかよ︒あの人どんだけ首強いんだ︒

 どこかおかしいが︑しかしそんな真面目な彼を見ていると自分の行動のアホらしさが

浮き彫りになってくる︒

 なんというか︑やる気の伊58につられてしまったが︑時間を掛けて普通に外出許可

を得た方が良かったかな︑と思う︒

 執務室には急いで居なくなった後のことを認めて置いておいたが︑それでも艦娘たち

に迷惑は間違いなくかかるし︑そろそろ帰った方が良いか︒

 そんなことを考えていると︑未だ意気に燃える伊58がふんすと口走った︒

17

(22)

﹁あのけーびいんさんは真面目な人だから⁝⁝なら︑こうするでち

!

 ゴーヤがあの人

を引きつけるでちよ

!

 その隙にてーとくは一人で行くでち

!

﹁お︑おい⁝⁝﹂

 そして︑伊58は駆け出す︒ぺたぺた裸足で掛けてくるスク水少女に︑普通に知り合

いである警備員は特に驚かず︑そしてその頭に乗ったウミネコも彼女を見かけたことが

あるのか慌てることもなかった︒

 たっぷりと余裕を持ち︑それでいて警戒を怠らない重石のような警備員︒その上であ

くびをする寛ぎモードのウミネコといい︑そう簡単につられるようには思えなかった︒

 だがしかし︑彼は伊58が発した次の珍妙な発言によって目を剥くこととなるのであ

る︒﹁けーびいんさん︑たいへんでち

!

 あのむきむきまっちょまんのけんぺいさんが︑すっ

ぱだかで伸びているんでち

!

﹁な︑なんだって⁝⁝ごくり︒あのムキムキマッチョマンの憲兵さんが裸で

?

﹁そうでち

!

 はむすとりんぐすにあぶどみなるの隅々まで現在進行形でおっぴろげな

のでち

!

﹁おお⁝⁝それは見逃しては︑いいや早く介助してあげないとなあ

!

 今行くぞ

!

﹁こっちでち

!

18 ゴーヤかあさん

(23)

 意欲︑いいや肉欲に燃える警備員は︑立ち番の職務を放り投げて︑掛ける伊58の後

を追い出す︒

 突然の動きに彼の頭から転がり落ちたウミネコは何事かと驚きながら︑みゃあと鳴い

た︒

﹁⁝⁝男の異性愛ってひょっとしてここじゃマイナーなのか

?

 残されたオレは︑同性の職場の仲間たちが最初からいやにフレンドリーだったその理

由をここでようやく察する︒

 そうして暑い日差しに灼かれながら少しの間︑どう異動を申し出ようかな︑と思い悩

むのだった︒

 ﹁⁝⁝ということで︑つまり提督は少しの間視察のため忍んで鎮守府から出ていかれた

ようなのです︒その理由も帰宅時間も書かれた手紙はここにあります︒ご覧になりた

い方は後で私︑大井の方まで相談してくださいね﹂

 ちょっとした体育館のような広間││催しごとの度に使われている││にて︑広がっ

た提督不在の噂に動揺する数多の艦娘たちを前にして︑この鎮守府最古参の艦娘である

重雷装巡洋艦大井は微笑む余裕を見せながらそう語りきった︒

19

(24)

 本当ならば館内放送にて周知させても良かっただろう︒だがしかし︑それでもし提督

を慕う艦娘たちが真似して各々外に向かうようになってしまっては良くない︒そのた

めに設けた︑全員集合の場である︒

 ったくあの小僧ったらちょっと立派になったと思ったら直ぐこれね︑と大井は胸の中

で黒く思いながら︑続ける︒

﹁そして︑その手紙の中には臨時の秘書艦として大井を任命し︑そして鎮守府の運営を任

せる︑ともありました﹂

﹁え︑大井っち提督代理ってこと

?

 すごいじゃん﹂

﹁うふふ︒そういうことになりますね︑北上さん﹂

 壇上からこの場にちらほらと姿のない艦娘の名前を不真面目ねと思い返しながら︑愛

しの北上││同じ重雷装巡洋艦である││に向けて︑大井はウィンク︒

 照れることもなく当たり前のように北上はそれを受け取った︒

 提督がこの場に居たら︑二人の仲はやはり深いものだと勘違いしてしまうだろう︑そ

んな光景︒だがしかし︑その実︑北上と大井はこの時言外で火花を散らせていたりする︒

 実の所︑普段は交わす言葉が少ない二人のその内心を知ったら提督はきっと︑なにこ

れゲームと違う︑と驚くことだろう︒

﹁ちょっと待ってくだサーイ

!

 提督の初めての秘書艦︑是非ワタシが務めたいのです

20 ゴーヤかあさん

(25)

ガー

!

 そんな中︑運悪く姉妹艦の建造に恵まれていないためにブレーキ不足である金剛が空

気を気にせず前へと出た︒

 手を挙げてぴょんぴょん︒そんな子供のように元気な彼女を大井は宥めすかす︒

﹁金剛さんごめんなさいね︒あの人ったら私が良いみたいで⁝⁝手紙の中に

個人的な私信を私に向けているくらいなのよね﹂

﹁むむぅ⁝⁝提督ったらイケずデース

!

 形だけ申し訳無さそうにする大井︒その前でそれを真っ直ぐに受け取り︑仕方ない人

だと提督への想いをまた募らす金剛︒

 彼女は大井がした言葉の強調に気づくこともない︒金剛は癒やし︒そう感じるもの

はこの場に少なくなかった︒

﹁あら︑天龍ちゃんはいいの

?

 提督のお仕事やってみたいって前に言ってたじゃない﹂

﹁あー⁝⁝なんかやる気が出なくてさ︒だってアイツ今居ないんだろ

?

 それじゃあた

だ面倒なだけじゃねぇか﹂

﹁ふふー︒それもそうねー﹂

﹁司令官さん︑何時帰ってくるのでしょう⁝⁝﹂

﹁あの司令官だもの︑きっとご飯の時間には帰ってくるわ

!

21

(26)

﹁つまんないわ︒⁝⁝おやつの時間までに帰って来ないかしら

?

﹁暁︑司令官が居なくて寂しいんだね﹂

﹁そ︑そんなことないわよ

!

 そして︑緩んだ空気に私語がぽつりぽつりと溢れてくる︒

 誰もがお開きになりそうだという感じで言葉を交わして動きはじめる中︑それに取り

残された一人が呟いた︒ 

﹁しれぇ⁝⁝どこに行っちゃったんですか

?

﹁雪風⁝⁝﹂

 消え入りそうなそんな声に︑隣に並んでいた時雨も掛ける言葉を失う︒

 何時でも会いに行ける筈の︑大好きなあの大きな背中はどこに︒もう一度抱きつきた

いと思っていたところで︑遠くに行ってしまうなんて︒

 そう思いながら彼女は小さな手を強く握りしめて溢れそうな感情を堪える︒そんな

雪風の強張りを解すかのように︑優しく手のひらを重ねたのは︑やはり時雨だった︒

﹁帰ってくるさ︒ちょっと待つだけで︑また直ぐあえるよ︒それに︑何時も僕らは鎮守府

で提督を待たせてたんだ︒偶には出ていく側と待つ側が逆になってもいいんじゃない

かな

?

﹁そう︑ですね⁝⁝そうです

!

 何時もしれぇはこんなに心細かったのですね⁝⁝なら

22 ゴーヤかあさん

(27)

雪風も︑我慢しないといけません

!

﹁ふふ⁝⁝その意気だよ﹂

 今泣いた烏がもう笑う︑ではないがそれと決めた雪風は毅然に目の端の涙を拭って再

び前を向きはじめる︒

 大きなどんぐり眼から赤みは中々とれはしないが︑それでもいい表情になったと時雨

が思っていると︑間近の扉がばんと開かれた︒

 誰かと振り返るその場の皆︒するとそこにぺたぺた現れたのは伊58ことゴーヤ

だった︒彼女は疲れた表情をして︑呟く︒

﹁うう︑すっごくしぼられたでち⁝⁝﹂

 ゴーヤがくたびれ果てているのは︑警備員の一時間近くの説教を彼女が真面目に聞い

ためである︒

 憲兵のナイスバディを見ることが出来ずに酷くがっかりした彼のゴーヤに対する叱

りはそれほど長く続いたのだった︒

 人の恋路を茶化すものじゃなかったでち︑とふらふら反省するゴーヤに︑何かに気づ

いた様子の雪風は話しかける︒

﹁そうだ

!

 ゴーヤさんは︑しれぇがどこに行ったか知りませんか

?

 ゴーヤが提督に近いというのは皆知っているところ︒実際彼女のストーカーじみた

23

(28)

スニーキング振りが発覚しているということはないのだが︑それでも二人の距離感が近

いというのは誰から見ても理解できた︒

 だから︑この提督が消えた事態の肝心な部分を知っているかもしれないゴーヤの返事

が気になり︑雪風をはじめ多くが耳をすませることとなる︒

 そんなみんなの注目に目を白黒とさせながら︑ゴーヤは︒

﹁ん

?

 てーとくならお嫁さんを探しに行ったでちよ

?

 あっけらかんと︑そんな爆弾発言を投じるのだった︒

24 ゴーヤかあさん

(29)

帰って来なかった ら

 ﹁ふむ︑暑いな⁝⁝﹂

 鎮守府方面から一人歩いてきた男の正体が気になったのか根掘り葉掘り聞き出そう

としてきた︑オレを拾って街まで送ってくれたタクシーの運ちゃんの禿頭の輝きから別

れてしばし︒

 三十分は乗り込んでいたクーラーの効いた車内との温度差に︑じわりと背中に汗をか

きはじめてきたオレは思わずそう呟いた︒

 伊58に毎度染み抜きして貰うというのは心苦しいこともあり︑それを着込んでいる

時は大好きなカレーうどんをろくに食えなくなってしまった︑あの白すぎる軍の制服を

脱いだ軽装とはいえ︑流石に夏の日差しはキツいものがある︒

 こういう時は冷たいものを頂くか︑或いは冷房の効いた場所に再び身を置けば楽には

違いない︒それを皆実践しているだろう︑平日の午前の日向に人影は少なかった︒

 この時期になると鎮守府の男衆はこぞって身体を日焼けさせるためにか休み時間の

度に半裸で防波堤近くに寝そべっていたが⁝⁝まあ︑集団で筋肉の天日干しをするよう

25

(30)

な奴らなんて本来そうそういるはずもない︒

 執務室の窓から見える︑魚拓のようにコンクリートに彼らが残していった数々の汗ジ

ミが乾いていく速さで今日の暑さを計っていたことすら思い出して︑変な染まり方をし

ていたな︑とオレは反省するのだった︒

﹁出会いがどうのこうのの前に倒れてしまうなんてアホらしいことだし︑どこか喫茶店

にでも入るか﹂

 これでも随分と鍛え込んだ方であるからしばらく歩くことくらいは平気だろうが︑ろ

くろく人も居ないのにうろうろとしていては不審者扱いされるのがオチだろう︒

 オレの肩に乗っかっている妖精さんたちもだいぶヘタれてきたことだし⁝⁝あれ︑何

時の間に彼女らは水着に着替えたんだろうか︒そんな土管のプロポーションでセク

シーポーズを取られても反応に困るんだが︒

 ⁝⁝まあ︑自由な彼女らをオレは無視して︑オレは直ぐ近くにあった趣深い喫茶店へ

と向かう︒扉を開けるとカランコロンと︑懐かしい音色が頭上で響いた︒

﹁いらっしゃい﹂

 すると渋いオヤジさんがカウンター越しに挨拶をしてくれた︒ロマンスグレーが似

合いの彼の感じの良さを受け︑それだけでオレは何となくいい店を引き当てたような気

持ちになる︒

26 帰って来なかったら

(31)

 そして彼のエプロンに印字されたPUKA│PUKAの文字を見て︑オレは遅れてこ

の店の名前を知るのだった︒

 それにしても︑焦げたような色合いが目に優しい︒オレが︑客入りが少ないのが不思

議なくらいに趣味の良い大正レトロな内装に魅せられていると︑店主が続けて声を掛け

てきた︒

﹁どこにでも好きに座っていいよ︒ちなみに︑注文は決まっていたりするかい

?

﹁わかりました︒注文は⁝⁝アイスコーヒーで﹂

﹁了解︒丁度今朝︑小笠原から良い豆が届いたところでね︒お客さんは運が良かった﹂

﹁へぇ⁝⁝﹂

 嬉しそうな店主の話を聞いて︑オレはにやけそうになる口元を抑えることに苦労す

る︒

 それもそうだろう︒なにしろ彼がコーヒーを仕入れているのだろう小笠原諸島の哨

戒線を守るのに︑我が鎮守府の面々が一役買っているのだ︒

 自分の指揮のもとに行われたことが実際人の役に立っていることを知って︑嬉しく

なってしまうのも仕方のないことだろう︒特に頑張ってくれていた朝潮あたりへの土

産話としようかと思っていると︑フェルトの花が目の前に置かれた︒

 これは何かと思っていると︑どうやらコースターだったようで続いてグラスが載っけ

27

(32)

られる︒からりと︑珈琲色の中で氷が踊った︒

﹁ごゆっくり﹂

﹁ありがとう﹂

 そのままグラスに口をつけたオレは︑透き通った雑味一つない美味いコーヒーを飲み

込んでから︑一息つく︒

 そしてオレは久しぶりの︑何に急かされることもないゆったりとした時間を味わっ

た︒

 氷の溶け落ちる音を聞きながらこの店は艦娘たちにもおすすめ出来るなと考えなが

ら︑ただ駆逐艦たちにはちょっと背伸びがいるかもしれないな︑とも思う︒

 そのまま︑前に間違って運ばれてきた暁仕様のコーヒーのじゃりじゃりしたほぼ砂糖

水な全容に閉口したことなどをオレが思い出していると︑ぱたぱたと店の奥から駆けて

くる音が聞こえた︒

 何となくそちらの方をオレが向いてみると︑ちょっと赤みがかった大粒の瞳の女の子

が長い黒髪をしっぽのようにふりふりやってくる︒幼気な彼女はオレを見て︑言った︒

﹁知らないお客さんだー

!

﹁こら︑お前︒お客さんに⁝⁝﹂

﹁オレは大丈夫です︒元気でいいじゃないですか︒君は︑店主さんの⁝⁝お孫さんかな

28 帰って来なかったら

(33)

?

 幾つだい

?

﹁六さい

!

﹁そっか︒来年は小学生かな

?

 楽しみだね﹂

﹁うん

!

 頷いた少女は︑満開の笑顔を見せる︒未来に幸が溢れていることを信じきっている︑

そんな無垢な表情にオレもつい頬を緩めた︒

 実に微笑ましく︑そしてだからこそオレも頑張らないとなと強く思う︒彼女のような

子どもたちが夢見る世界を︑この国の将来を今より明るくするためにも出来ることがあ

るオレは努めなければ︒

﹁⁝⁝そうと決まれば︑出会いとか言ってる暇なんてないな﹂

﹁お兄ちゃん

?

﹁いや︑なんでもない﹂

 そんなことを考えていたら︑下心なんてどこかへ行ってしまった︒幼女見て冷静にな

るとか見方を変えればヤバい気がするが︑それはそれ︒

 お礼として何か︒ああ︑丁度これがあった︒オレは肩に掛けている鞄の中からおもむ

ろに︑びよんとカラフルなそれを取り出す︒

﹁丁度いいのを持っていた︒これをあげるよ﹂

29

(34)

﹁なあに︑これ

?

﹁レインボースプリングというおもちゃだよ﹂

﹁わ︒これびょんびょんするー﹂

 プラスチックで出来た伸び縮みするスプリングの︑その振動すら鮮やかさに変える綺

麗さを見て目を輝かせる少女︒

 近くまでやって来た店主は︑夢中で遊ぶ子供の隣に立ち︑オレに話しかける︒

﹁どうしてそんな古い玩具を持ち歩いているのか知らないが︑貰ってしまって良いのか

?

﹁ええ﹂

﹁ありがとう︒それと⁝⁝あんた︑ロリコンじゃないよな

?

﹁それは違います﹂

 言いにくそうに聞いてきた店主にオレは酷く冷静に答える︒確かにオレは子供好き

だが︑普通に大人の女性の方が好きだ︒

 似たような勘違いをした朝潮型の制服をピチピチに着込んだ金剛にこれでどうデー

スとドヤ顔されたこともあるが︑それは違う︒

 下手に誤解されないうちに会計をすまそうかと思い︑財布を開くオレ︒それに店主は

待ったをかけた︒

30 帰って来なかったら

(35)

﹁いいよ︒いいもの貰ってしまったことだしお代はいらない﹂

﹁しかし⁝⁝﹂

﹁気がとがめるのなら︑また来てくれればそれでいいさ﹂

﹁わかりました﹂

﹁お兄ちゃん︑ありがとー︒またね

!

﹁ああ︑またね﹂

 入り口まで見送ってくれた店主にお辞儀をし︑ぶんぶんびょんびょんとレインボース

プリングと一緒に手を振る少女に手を振り返して別れる︒

 そうしてオレは︑早く鎮守府に戻ろうとタクシーを捕まえるために駅へと足を向け

た︒

 暑気に早々と汗を流しはじめたが︑気分は冷房の効いた鎮守府で書類に追われていた

頃よりもずっと良い︒守るべき日常を久しぶりに見て取った︑そのことがいい薬になっ

たのだろう︒

﹁まあ︑出会いはなかったけれどな﹂

 さっきの少女なんてあと十年もすれば誰もが放っておかない美人になるだろう愛嬌

のある子だったが︑今現在はただの子供︒

 当初求めていた出会いは得られなかった︒これは伊58には悪いが︑場当たり的な行

31

(36)

動では中々成果なんて出ないということだろう︒

 オレがさて色々と任せてしまった大井にはどう言い訳をしようかと思ったその時︒

﹁きゃ﹂

﹁おっと﹂

 オレは曲がり角で人と出くわした︒目の前の女性の括った髪が跳ねて︑どさりとその

手から鞄が落ちる︒

 これは申し訳ない︒ぶつかりこそしなかったが︑驚かせてしまったようだ︒不注意

だったなと反省しながら彼女の鞄からこぼれてしまった中身をオレは拾い出した︒

 そしてリングノートに筆箱に︑何故かあった袋に入った芋けんぴとかを纏めて手渡

す︒

﹁ありがとうございます⁝⁝って﹂

﹁ん

?

 すると︑何やら絶句したかのように女性がオレを見て来た︒視線と視線が合って︑困

惑する︒そうして︑自ずと彼女の見た目が情報として入ってきた︒

 見た目としては黒髪をひとつ結びにした素朴な女性︒彼女には何というか︑うちの鎮

守府だと戦艦扶桑のような淑やかさを覚える︒いやむしろ以前演習で見かけた空母赤

城の方が雰囲気が近いかもしれないか︒

32 帰って来なかったら

(37)

 しかし︑彼女らよりも子供らしさが残ってもいる︒年の頃としたら大学生か︑社会人

になりたての辺りだろうか︒

 そんな彼女はオレを見ていた︒正確に言えば︑オレの肩あたりを︒もっと言えば︑ど

うしてか手を振っている水着姿の妖精さんを︒

 今度はオレの方があ然としてから︑問うた︒

﹁││君︑この子達が見えるのかい

?

﹁えっと︑はい︒ちっちゃな女の子が私に手を振って⁝⁝﹂

﹁はは︒こんなところで提督適性のある子と出会えるとは思わなかったな⁝⁝﹂

﹁提督適性

?

 可愛らしく首を傾げる女性に︑オレはどう説明していいものか迷う︒

 妖精さんの存在は基本的にシークレット︒そうであるが︑全国で行われている身体検

査に紛れ込ませる形で出張してもいた︒

 目の前に妖精さんを置いて︑見えるか聞こえるかどうかある程度以上の年齢の子は知

らずにさせられていると思うのだが︑まさか適性検査漏れがあったなんて︒

 まあ実際は妖精さんに関われるだけが提督適性ではないそうだし︑もし自分に適性が

あったと知ったところでこの女性が提督の道を志すかどうかは分からない︒だが︑目の

前の可能性の塊を無視することはオレには出来なかった︒

33

(38)

 ある程度ぼかして︑探りを入れるようにオレは話し出す︒

﹁あー⁝⁝近くに鎮守府があるのは知ってると思うけれど⁝⁝まあオレはそこで働いて

いてね︒そのために︑提督という仕事にどういう適性が必要なのかは知ってるんだ﹂

﹁そうですか⁝⁝あれ︑ということは貴方はあの那珂ちゃん鎮守府の人っていうことで

すか﹂

﹁そうだけれど⁝⁝﹂

﹁あの私︑那珂ちゃんの大ファンなんです

!

 しかし︑話の腰は途中で折れてしまう︒何しろ彼女は︑不思議の塊であるだろう妖精

さんのことも目に入らないくらいに︑興奮しているようだから︒

 というか︑近い︒一気に荒くなった息が当たりそうだ︒これは落ち着くまで話を聞か

なければいけないだろう︒流石︑那珂ちゃんさん︒一般人気は凄まじいものがある︒

﹁そうなのか⁝⁝はは︑きっと那珂ちゃんさんもそれは喜ぶと思うよ︒後で伝えておこ

うか

?

﹁はい

!

 出来るなら⁝⁝あ︑申し遅れました

!

 そこでようやく異性に近づきすぎていたことに気づいたのか︑ぴょんと離れて︒彼女

は顔を真っ赤にして名乗りだす︒

﹁│││私︑上坂吹雪といいます

!

34 帰って来なかったら

(39)

﹁え

?

 そしてそんな聞き覚えのある名前に︑オレは再び驚かされたのだった︒

 更に同時刻︒

﹁おじいちゃん︒そういえばびょんびょんくれたあのお兄さん︑肩にお人形さん乗っけ

てたね

!

﹁そうだったか

?

 どこかでそんな会話があったとかなかったとか︒

 ﹁お嫁さん

?

﹁えらいこっちゃー﹂

﹁提督⁝⁝﹂

 ゴーヤの爆弾発言に︑広間は揺れる︒僅かに残っていた規律もさっぱり消え去り︑思

い思いに言葉が溢れてうるさくなっていく︒

 そこでようやくあれ︑これはひょっとしてやってしまったかな︑と思い始めるゴーヤ︒

一気に扉を背にした彼女へ輪が迫る︒

35

(40)

 そんな中で︑誰より早く一歩を踏み出してゴーヤに問いかけたのは雪風だった︒

﹁│││本当︑ですか

?

﹁でち

?

﹁しれぇがお嫁さんを探しに行ってしまったって﹂

﹁そう︑でちが⁝⁝﹂

 常に笑顔眩しい雪風の何時もと違う無表情に気圧されるゴーヤ︒彼女は問い詰めら

れて︑素直に返すしかなかった︒

 それを聞いた雪風は眦を決壊させ︑涙をぽろりぽろりと零し始める︒

﹁しれぇは雪風に︑愛想を尽かしてしまったのでしょうか﹂

 そう︑少女は言った︒当然ながら実際にはそんなことはないのだが︑タイミングが悪

い︒

 好きと告白したすぐ後に︑想い人が他に恋愛相手を探す︒それをあてつけのように感

じてしまうのは︑仕方のないことだろう︒

 次々と瞳から溢れる滴︒それを堪えるために︑その場で身体を丸めようとしたその

時︒

﹁そんなことはありませんヨ﹂

﹁金剛︑さん⁝⁝﹂

36 帰って来なかったら

(41)

 優しく︑雪風は金剛に抱きしめられた︒

 驚き見上げる雪風に︑金剛はハッキリと告げる︒

﹁提督は︑そんな人じゃありまセン︒それに雪風︒貴女が好きになった提督は︑簡単に貴

女を嫌うような人でしたカ

?

﹁ぐす⁝⁝違い︑ます⁝⁝﹂

﹁OK

!

 なら心配いりまセーン︒貴女が好きな提督を信じまショウ

!

﹁⁝⁝はい﹂

 努めて明るい金剛の言葉に︑雪風はこくりと頷いた︒

 顔をごしごしと擦る少女を見つめて︑金剛は満足げな笑みを浮かべる︒花は二輪で束

ともなれるもの︒恋のライバルに塩を送ってあげるのも︑友情だった︒

 そして少し経って雪風からそっと離れた金剛は︑今度は少しむくれてゴーヤへと向

く︒

 自分かと己の顔に指をさすゴーヤに頷いてから︑金剛は質問を始めた︒

﹁ただ︑ワタシの知っている提督はこんなに浮気性じゃありませんでシター︒ゴーヤ︑何

があったのデス

?

﹁でち

?

 てーとくは出会いが欲しかったと言ってたでちよ﹂

﹁あら⁝⁝提督ったら︑私達だけでは満足出来なかったのかしら

?

 イケナイ人だわ﹂

37

(42)

﹁ったく︑鳳翔の言う通りだぜ

!

 世界水準を軽く超えてるオレを無視して他所の女に

走るなんてなぁ﹂

 ゴーヤのした話は提督を想う艦娘たちの心に波及する︒

 笑みを崩さない鳳翔も余裕ありそうに見せている天龍も︑皆どこか気がそわそわして

いた︒

 だって︑うかうかしていて下手をしたら誰かに提督という居場所が汚されてしまうか

もしれない︒それを強く思ったのは︑潔癖なところのある時雨だった︒彼女は親指の爪

をかりと噛みながら︑言う︒

﹁⁝⁝僕は︑提督に何かある前に連れ戻した方が良いと思うな﹂

﹁そうね

!

 お嫁さんを見つけてくるまでどれくらいかかるか分からないけれど︑その

間に司令官に何かあったら大変だわ

!

﹁電は︑司令官さんのことを信じてあげたいのですが⁝⁝﹂

 そんな時雨の言に︑提督想いの艦娘たちも乗っかる︒次第に︑様々な提督に対する心

配が重なって渦巻き︑その場の雰囲気を酷く重くしていった︒

﹁ったく︒なあ龍田

!

 お前は提督が行ったところに心当たりとかないか

?

﹁そうねー︒提督の私物に付けておいた発信機は全部外されちゃってるし⁝⁝人の多い

ところを人海戦術で探すのが一番早いんじゃないかしら

?

38 帰って来なかったら

(43)

﹁よっし

!

 ならそうするか

!

 そして︑そんな場の空気を嫌った天龍が疾く動こうとし始める︒

 気が早い彼女は大股で出口へ足を走らせて︒

 ﹁止めなさい﹂

 そして︑それは大井が壁を叩いた轟音に驚かされることで︑停まった︒

 強かにぶつけて凹んだ壁から血が滴る拳を下ろしてから︑大井は皆の前で毅然と宣言

をする︒

﹁私が提督代理︑いいえ︑あの人に代わりを頼まれているからには︑勝手はさせません﹂

 断言︒この場の艦娘達の中で一番はじめにこの鎮守府に配属された最古参である彼

女の台詞には重みがあった︒

 殆どの艦娘達が縛られたかのように動けなくなる中︑ぽつりと金剛がこぼす︒

﹁ですガ⁝⁝﹂

﹁大丈夫ですよ︒提督は帰ってきます︒あの子は嘘を吐いても約束を破るような子じゃ

ないわ﹂

 そう言う大井は︑まるで弟のことを信じる姉の表情︒明らかに︑常ならざる感情を抱

39

(44)

いて彼女は待つことを選択する︒

 静まり返る周囲︒誰もが言い返す言葉を持てない中︒周囲をそれとなく観察してい

た︑愛しの相方であるはずの北上が大井に発言する︒

﹁大井っち︒でも万が一提督が適当な女を捕まえて帰って来なかったらどうするのさ﹂

﹁そうですね︒いい人を見つけるというのは素晴らしいことだけれど︑もしあの子が約

束を破って私達を捨ててしまったその時は⁝⁝﹂

 一拍の間︒少しばかり考えてから︑ぱんと手を叩いて彼女は目尻を下ろす︒

 そして︒

 ﹁草の根分けてでも探し出してから⁝⁝⁝⁝提督を殺して私も死ぬわ﹂

 とても上等に微笑んで︒あっけらかんと︑大井はそう言った︒

40 帰って来なかったら

(45)

病み つき

 駅が直ぐ目の前とあれば︑一休み出来る場所にはこと欠かない︒オレが今も人好きの

笑みを見せている吹雪さんを連れて来たのはまあよくあるファミリーレストランだっ

た︒

 そろそろお昼ということでオレ自身お腹が空いているということもあってお昼にし

ようと気になり︑そして何より目の前の話をしている相手が大きな腹の虫を鳴かせてし

まえば無視することなんて出来やしない︒

 ふと思って︑これ別にナンパじゃないからね︑と言いはるオレに︑そういえばこのシ

チュエーションってナンパっぽいですねー︑とむしろ目をキラキラさせ出した吹雪さん

はなんとも愉快だった︒擦れてなさすぎだ︒

﹁なるほど︑その吹雪という名前はご両親が艦娘からあやかって付けたと⁝⁝そうか︑大

体君くらいの年の子が生まれた頃というと︑丁度艦娘の情報がちらほら世に出回りだし

た頃だものなあ﹂

 ある程度の会話の後︑オレは納得に頷いて︑その際に目にした食べ終えたばかりのパ

41

(46)

スタ皿の底に溜まったソースの茶色に満腹から魅力を覚えなくなっていることを感じ

る︒

 だから︑甘いものは別腹ですとカレーを頂いた後にタワーパフェなる代物を楽しそう

に削っている吹雪さんの健啖ぶりに呆気にとられるのだった︒

 いや︑最初はこのパフェ甘味を重ねに重ねた扶桑タワー並みの違法建築振りだったん

だが︒それを十分も経たずに削りきりそうな勢いで呑み込んでいる辺り︑凄まじいもの

がある︒

 大食艦とはこれまで縁がなかったが︑この子は下手をしたら赤城なんかの大物達とい

い勝負するんじゃないかな︑と思わざるを得ない︒普通にびっくりで︑正直なところ上

手く笑顔を作れているか自身がない︒

 だが目の前の男性に一流のフードファイターと同列と思われていることを知らず︑底

のチョコレートムースを頂いてから朗らかに︑吹雪さんはオレに返事をした︒

﹁はい

!

 その中でもテレビに映る駆逐艦の艦娘さんが鎮守府で働き回る姿がお父さん

お母さんには印象的だったそうで⁝⁝私もあんな風に笑顔で頑張れる子になって欲し

かったんだって言っていました﹂

﹁なるほど︒あの時代は領海をろくに取り戻せていなくてノウハウもなくまだ駆逐艦種

を持てあましている頃だったから⁝⁝看板役を務めたのが比較的手空きの彼女ら吹雪

42 病みつき

(47)

型だったのも自然の流れか﹂

﹁はぁ⁝⁝なるほど︒確か親も最初は艦娘ってちっちゃな子ばかりかと思ってた︑と

言っていましたが︑そういう背景があったのですねぇ⁝⁝﹂

 カラン︑とこのパフェ専用の特製だろう柄の長いスプーンを空の器の中に安置させて

から︑どうやら妖精さん作ではなく純粋に人の子であるらしい吹雪さんは知られざる事

実に納得したようである︒

 そう︑彼女は有名人から我が子の名前を取るのと似たようにして︑艦娘から名前を

貰っただけの一般人だった︒

﹁ふふー⁝⁝かわいい﹂

 まあ︑その割にはとそっと妖精さんを撫で付ける吹雪さんを見る︒何時の間にか吹雪

型の制服を着込んでいる妖精さんは想像以上に彼女に懐いているようである︒

 あ︑妖精さんめ︑ふざけて撫ぜる手をぺろりと舐めたな︒まあ吹雪さんはむしろ喜ん

でいるから良いのだが︑しかしあまり彼女から反応を引き出させ過ぎないで欲しい︒

 ぶっちゃけ︑他の人の目が痛い︒妖精さんを見ることが出来ない普通の人から見た

ら︑吹雪さんは中空を撫でてきゃっきゃ言っている女の子となる︒

 それはちょっとまずい︒まあ比叡カレーよりは大丈夫そうだとはいえ︑無視すること

は出来ずにそっと妖精さんを借りてから︑オレは話の続きを始める︒

43

(48)

﹁にしても︑そんな艦娘と同じ名前の子がまさかこの子等を見ることが出来るっていう

のは面白いな︒⁝⁝吹雪君はひょっとして︑水の上に立てるなんていう特技を持ってい

ないかい

?

﹁まさか

!

 そんなことが出来たら私︑艦娘さんみたいじゃないですか

!

﹁いや⁝⁝よく考えたら艤装も付けずにそんなことが出来るのはアメンボくらいだった

な⁝⁝変な質問だったか﹂

 オレは思い直して頬を掻く︒

 そう︑いくら艦娘とはいえ妖精さんが手掛けた艤装がなければ︑海に立つことだって

出来やしない︒その上で妖精さんの支援がなければ海上戦闘なんて夢のまた夢だ︒

 また︑もし艦娘が艤装も付けずにずっと水に浮くものだとしたら︑入渠すら出来なく

なってしまう︒

 小破した彼女らが尽く風呂に浸かれずに悲しい顔をしながら湯気の上に団体で座り

込んでいる図を思いついて︑オレは苦笑いしてしまった︒

﹁そんなことはないですが⁝⁝ぎそー︑ですか﹂

﹁言葉だけ聞いても分からないよなあ︒たとえば那珂ちゃんさんが海上ライブで付けて

いる衣装の⁝⁝まあメカっぽい部分がそれさ﹂

﹁わあっ︑あのマイク︑ぎそーって名前が付いていたんですね

!

 あれがあるから那珂

44 病みつき

(49)

ちゃんは水に立てる⁝⁝メモしておかないと﹂

﹁いや︑そっちじゃなくて腰に付けている銃みたいなのとか︑太ももに付けているボトル

のようなのとか︑靴とかだな﹂

﹁そっちでしたか

!

 間違えちゃいました

!

 可愛い勘違いに︑舌を出す吹雪さん︒普通ならばあざといとすら思ってしまうその仕

草を︑オレは素直に可愛らしく思う︒

 なんというか︑素朴だ︒いや︑十分に彼女も綺麗どころではあると思うのだが︑整い

きった艦娘と過ごしていたがために麻痺してしまったのだろうか︒

 とにかく︑そんながオレには魅力的だった︒吹雪さんが小首を傾げる仕草︑そ

んな些細なことにすら目を惹かれてしまう︒

﹁それであの⁝⁝結局そのちっちゃな子︑何なのですか

?

 とても可愛いですけど⁝⁝﹂

﹁ああ︑この子は⁝⁝まあ言ってしまってもいいかな︒妖精さんだ﹂

﹁妖精さん

?

 なら⁝⁝あれ︑背中に羽は付いてないみたいですね﹂

﹁ま︑妖精といっても色々といるっていうことさ︒学生の頃︑身体検査している時とかに

彼女らを見たことはなかったかい

?

﹁えっと⁝⁝はじめてだと思います︒ただ⁝⁝﹂

﹁ただ

?

45

(50)

﹁一回風邪で身体検査を休んじゃった翌日に︑個別に呼ばれてお医者さんに採血された

ことがありました﹂

﹁なるほど⁝⁝そんなことが︒よく覚えていたね﹂

﹁血を採られた時に怖くってわんわん泣いちゃったんです︒そのことが未だに記憶に

残って⁝⁝わ︑妖精さん慰めてくれるの

?

 ありがとう

!

 吹雪さんは︑また妖精さん相手に声を上げて隣席のプリンを食べていた総白髪のオジ

サンにガン見される︒だがそれに注意する余裕もなく︑オレは思考の海に沈んだ︒

 オレがそうであったように︑恐らく妖精さんを見ることの出来る提督適性のあるだろ

う吹雪さんは︑幼い頃から妖精さんを見ることが出来ただろう︒

 そんな彼女が初見であるということはつまり︑彼女が偶々休んだというその日︑身体

検査の際にその地域での適性捜査は行われたと見ていい︒

 きっとその際に︑検査から漏れたのだ︒妖精さんも忙しいものだから︑何度も同じ人

間の適性検査のために出張らせるようなこともないことだし︒

 そして︑話を聞く限り︑妖精さん視認の検査の代替検査が採血なのだろう︒血で適性

を見ることが出来るというのは︑オレも初めて知ったが︑それはきっと精度が高いもの

ではないのだ︒

 もしそれだけで確実に分かるのだったら︑そもそも妖精さんを方々に出張させる必要

46 病みつき

(51)

はない︒だが未だにそんなことをしているということを考えると︑血液検査は完全に信

頼できるものではないに違いなかった︒

 だからこそ︑吹雪さんは血液検査からも漏れた︒そうオレが結論付けて顔を上げる

と︒

﹁えへへ﹂

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした吹雪さんをバックに︑よく知るアイドル顔がド

アップに︒そして彼女はオレに飛びついた︒

﹁きゃは♪ どーん

!

﹁うおっ﹂

﹁提督︑久しぶりー﹂

﹁那珂ちゃん

!?

 そして︑えっ︑て︑提督さんだったんですか

?

 そしてオレにハグする我らがアイドル那珂ちゃんさん︒慌てる吹雪さんを気にも留

めずに︑那珂ちゃんさんはオレの胸元にスリスリした︒

 こんな柔いぬくもり︑男としてとんでもなく嬉しくはある︒だが︑流石にこれはパパ

ラッチ的な意味でヤバいと思ったオレは︑彼女の両肩を持って引き剥がしてから言う︒

﹁那珂ちゃんさん︑久しぶり⁝⁝一つ聞きたいんだが︑どうやってオレを見つけたんだ

?

47

(52)

﹁んー︑なんとなく

?

 勘かなー︒というか︑提督︒さん付けなんてぷんぷんだよ

!

 那

珂ちゃんと提督の仲じゃない﹂

﹁いや︑確かにオレと那珂ちゃんさんとの仲は良好だが︑そんな中にあっても尊敬という

ものを示したいと思ってな︒中々︑那珂ちゃんさんにはお世話になっていることだしな

あ﹂

﹁まあ︑提督が那珂ちゃんを嫌っていないって言うなら良いんだけど⁝⁝﹂

 せめてさん付けくらいしていないと刺されるだろうこれ︑とファンらしき周囲の人垣

からの鋭い視線を恐れて言った︑なんだかなかなかとうるさくなってしまったオレの台

詞でも那珂ちゃんさんは何とか納得してくれたようだ︒

 しかし︑オレには未だに納得出来ない部分がある︒本当に︑どうやって那珂ちゃんさ

んはオレを見つけてくるのだろう︒

 他の艦娘は盗聴器などのテクノロジーに頼っているようだが︑那珂ちゃんさんはひと

味違う︒勘というか第六感というかそんなもので︑オレを探知してくるのだった︒

 そうしてオレを見つけ出す度に那珂ちゃんたちって運命の糸で結ばれてるんだね︑と

うそぶく那珂ちゃんさん︒

 何となくで百発百中なんて︑まるでチンチロリン無敗を誇る雪風のようだ︒果たして

これも那珂ちゃんさんの練度の高さに所以するものなのかどうか⁝⁝オレは別に彼女

48 病みつき

参照

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