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18世紀~19世紀ドイツの手稿譜における教育的内容についての資料研究 1 ~ドイツ・アルテンブルクに残された手稿譜に焦点を当てて~

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(1)

 1 〜ドイツ・アルテンブルクに残された手稿譜に焦点を当てて〜

Author(s) 小野, 亮祐

Citation 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 66(2): 191‑201

Issue Date 2016‑02

URL http://s‑ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/7882

Rights

(2)

18世紀~19世紀ドイツの手稿譜における教育的内容についての資料研究 1

i

~ドイツ・アルテンブルクに残された手稿譜に焦点を当てて~

小 野 亮 祐

北海道教育大学釧路校音楽教育研究室

PedagogicalContentsinMusic-Manuscripts from18thto19thCenturyinGermany1

―FocusingonaManuscriptinAltenburgGermany―

ONORyosuke

DepartmentofMusicEducation,KushiroCampus,HokkaidoUniversityofEducation

ABSTRACT

 There were many musical instruction books for Keyboard in 18th-19th century in Germany. Of cource these were published.Former studies are focusing on only these publishedinstructionbooksthathavecontentsalmostforthevirtuosictechnic.Ontheother sidetherewaremanymanuscriptsforthemusicalinstruction,too.Butthesehavenotonly contentsforvirtuosickeyboardtechnic,butalsoseveralcontents(Song,Throughbassetc.).

Itismyobjectofthispaperthatadiversityofmusicinstruction,especialyofkeybord instruction(HarpsichordorPianoforte),areclarifiedwiththemanusctript.

1.教則本研究の現状と本研究の意図

 従来筆者は18世紀から19世紀のドイツにおける 鍵盤楽器を中心とした,音楽教授について研究を 行ってきた。また筆者以外の同種の研究を含むも の と し て は 岡 田(2008), 西 原(2010), 西 原

(2013/1995)があげられる。筆者のものを含め これらの先行研究においては主に出版されたも の,とりわけピアノ(鍵盤楽器)のための教則本

を中心に手がかりとしながら,当時の教則本やそ れを取り巻く音楽文化の研究が進められてきた。

 当時のドイツでは音楽教授の需要が高まり,並 行して鍵盤楽器用の教則本の出版数が高まってい た(19世紀初めのナポレオン時代の出版数の低下 する時代を除く)。特に1830年代からの伸びは顕 著である。それを当時の音楽文献目録および月間 の音楽出版目録を参考に時系列のグラフにしたの が,図1および2である。先行研究はこのような

(3)

時代背景を含め当時の音楽史的状況とパラレルに 論じている。すなわちこれが意味するのは,当時 の大作曲家の立ち並ぶ音楽史を土台に,当時の音 楽教授の高まりが述べられているということであ る。当時の音楽史では,鍵盤楽器の中ではピアノ が優位にたち,リスト・フェレンツのような超絶 技巧の作曲家および演奏家が活躍する時代へと変 化してゆくとされている。それに沿って当時の超 絶技巧的な教則本や,練習曲を集めたいわゆるエ チュード(練習曲集)を取り扱うことで,当時の 鍵盤楽器が技巧トレーニングに傾倒していたかの ように語られているのである。それはある意味で 正しいのだが,他方それ以外の鍵盤楽器教授の需 要はなかったのだろうか。すなわち一義的でない 当時の鍵盤楽器教授像の多様な側面はなかったの だろうかという疑問が浮かび上がる。

 また他方で,19世紀に至るまでは教師が生徒に 必要な楽曲や教材を随時書き,音楽教授が行って

いた。だとすれば,教授内容が含まれる手稿譜(手 書きの楽譜)は,当時の姿を正確に伝えているの ではないだろうか。しかしながら,従来手稿譜を 取り扱う同種の研究はなかった。

 以上の問題意識から,本研究では従来着目され てこなかった手稿譜(手書きの楽譜)に焦点を当 てることで,出版された教則本では明らかになり えなかった当時の鍵盤楽器教授の側面についてつ まびらかにしてゆきたいと考えている。まず本稿 では,音楽教授と教則本出版が高まりを見せる18 世紀に成立した手稿譜を検討したい。本稿で取り 扱う資料はドイツ・アルテンブルクにあるテュー リンゲン州文書館の音楽文庫iiに所蔵されている ものである。文書館のカタログにはNotenschule という見出しが付けられて以下のように記載され ている。このNotenschuleという名前は,実際の 手稿譜にはどこにも存在せず,それに代わるよう なタイトルも付されていないので,便宜上資料館 が付けたものである。

Notenschule„BeyderMusikhatmanbesonders Viererleyzumercken.“mitÜbungsbeispielen.

成立年代:18世紀(請求記号sig.227)

2.Notenschuleの全体構成と書き手

 Notenschuleの全体構成と内容をまとめたのが 論文末の表1である。表から見て取れる構築的な 内容構成からは,書き手ないしは,この手稿譜の 作成を考えた人物が,かなり意図的な構成を当初 から考えていたことが推測される。全体は5つの 部分からなっている。まず初めの部分が1r-6rま でで,主に楽典が占める部分である。最後には2 曲ほど楽曲が付されている。この楽曲が,次の部 分以降の楽曲の部分に連なると考えるべきか否か は難しいところであるが,あくまでこれ以降の部 分には見出しが付されて区切りを意図しているこ とは明白なので,この2曲は楽典部分に含めるこ ととした。

 次の部分は6v-9v.である。6vには見出しとして 0

1 2 3 4 5 6

1750 1755 1760 1765 1770 1775 1780 1785 1790 1795 1800 1805 1810 1815 1820 1825

図1:1750~1828年ドイツにおける鍵盤楽器のため の教則本出版数(Becker1836による)

0 5 10 15 20 25

図2:1829~1851年ドイツにおける鍵盤楽器のため の教則本出版数(Hoffmeister1829-1900による)

(4)

1.StuiteexCdurと記されている。文字通り読め ば「ハ長調の組曲」という意味であり,含まれる すべての楽曲がハ長調でできている。同様に,

10r.-16v.は2.SuiteexD「ニ長調の組曲」,17r.- 21v.は3.SuiteexDis「嬰ニ長調(変ホ長調)の組 曲」,22r.が4.SuiteexE「ホ長調の組曲」となっ ている。つまり,一音ずつ調性が上がる形の「調 性プラン」をもって構成されていることがわかる。

 確かに組曲1~3までは見出しの調性で書かれ た楽曲だけで構成されているのだが,第4組曲は 異なっている。第1曲目(22r.)タイトルなしの ムルキー風楽曲だけは見出し通りのホ長調で書か れているが,それ以降は調性プランを無視してい る。第2曲目(22v.)から5曲ほどヘ長調の楽曲 が続くことは,ホ長調の一音上の調性プランを意

識していることがうかがえるが,それもあまり明 確ではない。他方で楽曲内容については,ポロネー ズとトリオ付メヌエットがかなりの部分を占めて いて,明確には判じかねるがある種の統一性や意 図が見いだされる。以上のように留保付きではあ るものの,大きく分けて5つの部分で構成しよう としたことは間違いないといってよいだろう。

 書き手については,まったく資料上にもカタロ グ上にも伝えられていない。譜例1の冒頭ページ からも分かる通り一部を除き豪奢な印刷物かと見 紛う程の華麗な書体で書かれている。このことか らは,楽譜を浄書する仕事をしていた人物が,草 稿や成り行きではなく,周到に準備を行ったうえ で浄書稿としてまず作成に着手したことは間違い ないだろう。

譜例1:冒頭ページ(1r.)

 しかし,この浄書部分は最後まで続いておら ず,22v.から,すなわち第4組曲の調性プランを ご破算にしたところから筆跡が明らかに変化す る。浄書稿部分である10r.(譜例2)と,筆跡が 変わる22v.(譜例3)を比較してみよう。浄書さ れた音符は非相互の間隔も均等で,音符自身の大

きさも常に一定で整然と書かれている。また,ラ ストラールで弾かれた五線もまっすぐにひかれて いる。

 しかし,22v.からは途端に一定であった音符の 間隔が乱れ始め,小節線の引き方も乱雑になる。

この傾向はさらにページが進むほどにひどくなる

(5)

傾向にある(譜例4:32v.)。しかしながら,拍 子記号の数字に着目すると,譜例2(10v.)と譜 例3(22v.)に書かれた拍子記号中の数字の3が 持つ特徴的な丸みや,鋭角的な数字の4はほぼ同

一である。つまり,浄書部分とそれ以降の草稿的 な部分は,一貫して同一人物が書いたと推測でき るのである。

譜例2:浄書譜風の手稿譜(10v.)

譜例3:草稿風の手稿譜(22v.)

(6)

 以上のことから全体構成について推測されるこ とは,以下の3点である。

1,作者(または注文者)は楽典を冒頭部分に配 置し,以下調性が上行するようにして練習曲群

(組曲と書かれているが)を配置するプランを 立て,浄書譜を作成しようとした。

2,しかし,計画通りに作成されたのは第3組曲 の嬰ニ長調までで,第4組曲のホ長調に入った ところで,何らかの理由で計画を中止せざるを 得なくなった。

3,しかし,その後も同一人物が調性プランに関 わらず楽曲を,随時記入していった。そのこと は,筆跡の変化からも明らかである。

3.Notenschuleの内容について

 Notenschuleの内容について,その特徴を部分 ごとに見てゆこう。

 

①楽典部分とそれに付随する2つの楽曲につい て(1r.-6r.)

 楽典の部分については,大きく分けると6つの 部分からなっている。一つ目はいわゆる音部記号 の説明,二つ目は表紙,三つ目は休符,四つ目は 音符についてである。ここまでは,ローマ数字の ナンバリングが付されて明確に項目分けされてい る。一方これ以降は,特に項目分けがされること もなく,種々の必要な知識について述べられてい く形をとっている。

譜例4:草稿風の手稿譜(32v.)

譜例5:楽譜上の音の配置と右手と左手の指示(5r.)

(7)

 5r.には,音階の説明の続きで上記のような楽 譜が掲載されている(譜例5)。これは五線上の 音の配置を示している楽譜であるが,バスには LinkeHand(左手),上声(Discantと記される)

の方にはRechteHandと記されており,鍵盤楽器 を習うことを意識してこの楽典部分が書かれてい ることがわかる。

 付随する2つの楽曲は両方とも舞曲である。初 めの(5v.)ポロネーズには作者G.F.Müllerが記さ れているものの,明確に誰の事を指しているのか は不明である。次のカルーセルは作者不明であ る。conTympanoetClarinoと書かれているよう に,ティンパニーとトランペットが奏でるファン ファーレ風の部分が冒頭に4拍子でつけられ,次 に3拍子部分が続く。カルーセルとはいわゆる馬 を使ったダンス(バレエ)の事を指しており,ま ず冒頭にファンファーレによる登場部分,その後 に3拍子の舞曲の部分が続いていると思われる。

 ②第1組曲(ハ長調)

 11曲からなる「組曲」であるが,いわゆるバロッ ク・スタイルの組曲ではない。この用語法につい てはこれ以降についても同様である。含まれる曲 種はポロネーズやメヌエットの舞曲,ムルキー,

ソナチネ,プレリュード,フーガ,コラール,ア リアなど種々のものからなる。ムルキーは1730年 代から18世紀末まで流行した楽曲様式で,左手が オクターブ音の交互の連打となっているのを特徴 とする。左手にとっては技術的に簡単なので,初 心者でも容易に伴奏をつけて演奏できるというも のである。18世紀の理論書においては批判されて きた曲種だが,この手稿譜においてもしばしば掲 載されているように,それだけ根強い人気があっ たことがわかる。

 若干の細かな検討を加えよう。7v.のソナチネ はハッセ作と書かれているが,これはおそらく18 世 紀 で 最 も 著 名 で あ っ た 作 曲 家JohannAdolf Hasse(1699-1783)を指すものと思われる。8r.

のプレリュードとフーガは両方ともごく短いもの であるが,バッハの平均律クラヴィーア曲集や,

教会用のオルガン曲にしばしばみられるように,

セットとみてい良いだろう。またその続きに教会 で演奏されるコラールが前奏,間奏付きで掲載さ れている。この8r.の3曲は意図的に一連の教会 音楽のジャンルをセットにしたものとも考えられ る。それに続き,8v.から9v.までは3つの有節歌 曲が続く。コラールまでは教会のオルガンなど鍵 盤楽器で演奏することが想定されるので,こう いった鍵盤楽曲を中心とした曲集に入っているこ とは理解しやすい。しかし,歌詞を持った歌曲が そのまま掲載されていることは,現代のわれわれ には若干奇異な感を受ける。ここからは当時音楽 を習うという行為が,鍵盤楽器を中心としていた としても,それにとどまらなかったのではないか と推測される。また,前述のコラールと9r.-v.の 有節歌曲には数字付低音が付けられている。鍵盤 楽器奏法を練習しながら,通奏低音の練習も意図 されていると考えてよいであろう。

 ③第2組曲(ニ長調)

 14曲から構成されている。曲種としては,第1 組曲のようにメヌエット,ポロネーズの舞曲のほ か,有節歌曲(有節歌曲),プレリュード,フーガ,

協奏曲,ソナチネ,ムルキーなどである。ムルキー と題されたものは1曲(16v.)しかないが,10r.

の有節歌曲と11r.のアリアも事実上のムルキー風 の伴奏となっている。ここでも前述のとおりムル キー人気がうかがえる。

 作者が示されている楽曲が3曲含まれている。

11r.のAriadiMr.FaschはJohannFriedrichFasch

(1688-1758),11v-12rのSonatine di Mons:

SorgenはGeorg Andreas Sorge(1703-78),

ConcertodiFoersterはChristophFörster(1693- 1745)のものと考えられる。いずれも17世紀末か ら18世紀半ばにかけて大変著名だった作曲家であ る。13v.は第1組曲にあったもの(8r.)と同様に

「プレリュード・フーガ」のセットとコラールと い う 組 み 合 わ せ と な っ て い る。14v.-15r.の Concertoは文字通り強弱の交代によって協奏様 式によって書かれている。これは,J.S.バッハの イタリア協奏曲のように,強弱の対比を用いてソ ロ楽器とトゥッティの交代を模した,鍵盤楽器ソ

(8)

譜例8:歌曲の書き込み ロ用の協奏曲となっている。それに続くAllegro

とMarchも強弱の交代(譜例6)が指示されてい て,原曲のフェルスターの協奏曲に含まれる楽章 か,それとも意図的に同じ様式の別の曲を配した ものと考えられる。

  ま た,11v-12rのSonatine,13r.のMenuetに 手 の交代が現れ,第2組曲ではそのようなレベルの 技能を要求することを想定したとも考えられよう

(譜例7)。

 ④第3組曲(嬰ニ長調=変ホ長調)

 第3組曲は12曲からなっている。これまでと同 様に,ポロネーズ,メヌエットの舞曲を中心に歌 曲,ムルキーが含まれる。この中で作曲者が記さ れ て い る の は,19v.のAriadiMonsKirchhofと MenuetdiMr.Kirchhofである。ここのKirchhof とはGorrfriedKirchhof(1685-1746)のことと考 えられる。ここでも,17世紀末から18世紀半ばの 作曲家の曲が含まれている。

 ⑤第4組曲(ホ長調)

 第4組曲はどこまでがその範囲であるかの判断 が難しい。ホ長調という意味では,22r.のみとい うことになる。しかし,区切れはどこにもされて いないことからは,最後までとするのもやむを得 ないと考える。ここでは一応,形式上の区切りと

して最後まで含むものと考えて以下検討してゆき たい。

 唯一調性プランに則ったのは,1曲目のタイト ル無しのムルキー風楽曲である。それ以降は29v.

までポロネーズとメヌエット(トリオ含む)で構 成されている。これまでの組曲でもこの両舞曲は 必ず含まれる中核の曲種であった。そのような意 味で,中核となる舞曲を多く配したことは曲種の 点で言えば大きく外れてはいないと考えられよ う。ただ,メヌエットはトリオを含むことが殆ど で,比較的規模の大きな舞曲になっている。調性 の面から見てみると,前述のとおり22v.から5曲 続くヘ長調をホ長調の次の調性として意図的に配 したものと考えれば,まだ調性プランのルールへ のこだわりがあるとも見ることができる。その後 は概ね調号が3つくらいまでの調性で構成されて いる。

 ただし,これまでの組曲にあった歌曲はほぼ姿 を消し,習作のような小さな歌が最後に掲載され ているのみである(譜例8)。

 また,29r.-30v.には第3組曲にも見られた協奏 様 式 に よ る ヘ ン デ ルGeorgFriedrichHändel

(1685-1759)の鍵盤楽器ソロ用の協奏曲がみら れ る。 ま た,32v.-33rに は グ ラ ウ ン の オ ペ ラ

(Britannico)のシンフォニア(前奏曲)が配さ れているが,この作者グラウンはCarlHeinrich Graun(1704-59)である。ここでも,17世紀末

-18世紀半ばの作曲家の楽曲が配されていること がわかる。

譜例6:フェルスター『協奏曲』(14v.)

譜例7:メヌエット(13r.)の手の交代部分

(「dextra=右手で」の指示)

(9)

 第4組曲は調性プランの放棄から,当初の計画 を大きく外れているかのように見えた。一方で含 まれる曲種を見ると,ポロネーズやメヌエットの 舞曲,協奏曲,ムルキーなどを含み,この点では これまでの組曲のルールを大きく逸脱するもので はないと考えてよいだろう。

4.まとめ

 以上,アルテンブルクのテューリンゲン州資料 館所蔵のNotenschuleについて,その構成と内容 について見てきた。まずはじめに作者ないしは,

作成依頼者はある種の構成的な意図をもってこの 手稿譜の作成に臨んだものと考えられる。それは,

鍵盤楽器を演奏するに必要な楽典事項をまとめ,

その後調性を上行させる形で,まとまった組曲(練 習曲集)を配する計画である。そこには,メヌエッ ト,ポロネーズの舞曲を必ず含みながら,様々な 種類の鍵盤楽曲のみならず,有節歌曲やオペラア リアも含まれている。また,プレリュードとフー ガ,コラールも含み教会音楽的な曲種も含まれて いた。また,当時流行のムルキーをよく含んでい たことは,当時の鍵盤楽器教授の様相をよく伝え ている。調性プランは,1~3組曲までは順調に 踏襲されたが,第4組曲のはじめに頓挫し,冒頭 からの美しい浄書譜はそこで途切れた。その後は 草稿のような形で同じ書き手によりポロネーズ,

メヌエットなどの舞曲,協奏曲などのこれまでの 組曲でもベースになっていた曲を中心に楽曲が収 められている。

 資料館のカタログによれば,このNotensammlung の成立年代は18世紀となっていた。含まれる楽曲 のうち,作者が明確なものをまとめると概ね17世 紀末~18世紀半ばの作曲家によるものが多かっ た。また,ムルキーが流行したのが18世紀の半ば から末までであることを合わせて考えると,概ね 18世紀半ばの成立ではないかと考えられる。

 そのようなことから考えると,18世紀半ばの 人々が鍵盤楽器を学ぶことは,一義的に鍵盤楽器 ばかり学ぶことばかりではなく,歌曲や,歌曲の

伴奏としての通奏低音奏法,時には教会様式の音 楽をも含む多様なものであったと考えられるので ある。

(10)

表1:Notenshuleの内容構成一覧

ページ 原題 曲種等 備考

1r. Ⅰ.Signa,oderZeichenderunterschiedenenStimmen 音部記号 1.v

2r. Ⅱ.Tacte 拍子

2v. Ⅲ.Pause 休符

3r. Ⅳ.Noten 音符

3v.

4r. Scala 音階 音階の他に変位記号,半音階

4v.

5r. (種々の楽典事項) 和音 長三和音,短三和音,音楽用語

5v Polonoise.ComposéedeG.F.Müller ポロネーズ G.F.Müllerは不明。

6r. CarrouselconTympanoetClarino カルーセル ファンファーレ(両手:4拍子)→舞曲(片手3拍子)。

1.SuiteexCdur(以下9v.までハ長調)

6v. Polonoise.   ポロネーズ

Murki ムルキー

7r. Menuet メヌエット

Polonoise ポロネーズ 左手がムルキー風

7v. SonatinedelSign.Hasse ソナチネ JohannAdolfHasse作曲か?

8r.

Praeludium プレリュード 2曲セットの「前奏曲とフーガ」か?

Fuga フーガ

Nach auf mein Hertz, Nun laßt uns Gott. O Jesu

meineSonne コラール 前奏,間奏付き。数字付低音。

8v. Aria"Ichbinvergenügt" 歌曲 4番までの有節歌曲 右手重音(鍵盤楽器用)

9r. Aria"VergenügteStundendaichgefunden" 歌曲 2番までの有節歌曲,数字付低音

9v. Aria"LiebteFreiheit" 歌曲 ダ・カーポアリア,数字付低音,強弱指示(エコー効 果)

2.SuiteexD(以下16.v.までト長調)

10r. AriaenMurki."WotreffichJesum" 歌曲(ムルキー) 3番までの有節歌曲。

10v. Menuet メヌエット 左手がムルキー風。

Polonoise ポロネーズ

11r. AriadiMrFasch アリア JohannFriedrich(父)ま た はCarlChristanFriedrich Fasch(子)の作?アリアとあるが歌詞なし。左手がム ルキー風。ピアノとフォルテの指示。

11v. SonatinediMons:Sorgen ソナチネ GeorgAndreasSoergeの作?手の交代,強弱の指示 12r. あり。

12v. Affetuoso アフェットゥオーソの指示のみ。

13r. Menuet メヌエット 手の交代の指示。

13v. Praeludium プレリュード 「前奏曲とフーガ」の2曲セットか。

Allabreve フーガ的様式

14r. VonHimmelhochdakamm,VonhimmelkamderEngel-Schaar コラール 前奏,間奏付き。数字付低音

14v. ConcertodiFoerster 協奏曲

3曲セットでChristophFörster作の可能性。3曲と も強弱の交代による協奏様式。

15r.

15v. Allegro アレグロの指示

16r. のみ

March 行進曲

16v. Murki ムルキー

3.StuiteexDis(以下21v.まで嬰二(変ホ)長調)

17r. IchhabemeinGlückedemHimmelbefohlen 歌曲 4番までの有節歌曲。拍子の変化(3/8→2/4)

17v. Andante."AriedellOperaScipAfricanus" 歌曲 オペラ・アリア。ドイツ語。

18r.

18v. AriaconIstromenti(Sic)"troppobella,Troppocara" 歌曲 「楽器伴奏付きアリア」の指示。強弱の交代。イタリ ア語歌詞。

19r.

19v. AriadiMonsKirchhoff. アリア GottfriedKirchhoff作か? 歌詞なし 手の交代。

MenuetdiMr.Kirchhoff. メヌエット GottfriedKirchhoff作か?

20r. Polonoise. ポロネーズ

(11)

20v. AirenMurki (アリア) ムルキー風アリア。歌詞なし

Polonoise ポロネーズ 強弱の交代の指示。

21r. Murki ムルキー

Menuet メヌエット

21v. Menuet メヌエット 2曲セット。手の交差。

Trio(MenuetdaCapo)  トリオ

4.SuiteexE(22r.のみホ長調)

22r. タイトルなし タイトル無し ムルキー風

22v. Pol:VII ポロネーズ これ以降筆跡が変わる(草稿風)【ヘ長調】

23r Polonesa. ポロネーズ 【ヘ長調】

Polonesa. ポロネーズ 【ヘ長調】

23v. Men(sic.)  メヌエット

2曲セット【ヘ長調】

Trio(トリオ) トリオ

24r. Polonesa. ポロネーズ 【イ長調】

Polonesa. ポロネーズ 【ト長調】

24v. Polon.(sic) ポロネーズ 【ト長調】

Pol.(sic) ポロネーズ 【ニ長調】

25r.

25v. Polonesa. ポロネーズ 【ニ長調】強弱の交代の指示。

Pol:(sic) ポロネーズ 【ニ長調】

26r.

Minuetto メヌエット 【ハ長調】

Minuetto  メヌエット 【ハ長調】

Pol:(sic) ポロネーズ 【ホ長調】

26v. Polonesa. ポロネーズ 【イ長調】

Polonesa. ポロネーズ 【ニ長調】

27r. Minuetto メヌエット

【ニ長調】Min:altern付きの2曲セット

Trio トリオ

27v.

Polonesa. ポロネーズ

【ト短調】2曲セット

Trio トリオ

Men.Alter: メヌエット 【ヘ長調-ヘ短調】2曲セット

28r. Trio トリオ

Menuetalter メヌエット 【ヘ長調】2曲セット

28v. Trio トリオ

無題(4分の2) 【ヘ長調】

Men.alt メヌエット 【ニ長調-ニ短調】2曲セット

29r. Trio(Dacapo) トリオ

Men:alter メヌエット

【ニ長調】2曲セット

Trio トリオ

29v. Polonoise 【ニ長調】

ConcertodiHandel 鍵盤楽器ソロの

ための協奏曲 【ハ短調】ヘンデル作曲? 30v.で中断 30r.

30v.

31v.rは消失

32r. Mourqey ムルキー 【ト短調】Murky。上声がト音記号。間違いの訂正。

32v.

Sinfonia.AllegrodellSgr.Graun,OperaBritannico オペラの前奏曲

の編曲 【イ長調】グラウン作曲

33r.

33v.

(無題) 【ハ長調】4分の2拍子,4+4小節。習作?

DerFloh(蚤) 歌曲 【変ホ長調】習作?

同上のメロディのみ。 旋律のみ 【ニ長調】に移調。一段とんでいる(大譜表を意図?),

ヴァイオリン(ト音記号)

(12)

ⅰ 本稿は2014年度日本音楽教育学会北海道支部例会

(2014年8月2日)での口頭発表に基づく。

ⅱ この音楽文庫は創立(1924年)以降,地域の個人所 蔵の楽譜,音楽書などを収集し成立した。所蔵品の年 代は1639-1963年のものである。ほとんどが小品で,例 えば,歌曲,賛美歌,歌曲,舞曲,行進曲,ソナタ,

宗教音楽などである。作者は有名なものから無名な者 までアルテンブルク周辺や,近隣の地域の出身者が多 い。加えて,賛美歌集,歌曲集,教則本,著名なオペラ,

管弦楽レパートリーなども含む。手書きのものが多く 所蔵される。特に手書きの場合は筆写譜のほかに希少 な自筆譜も含まれる。

引用・参考文献

岡田暁生(2008)『ピアニストになりたい!19世紀もう ひとつの音楽史』春秋社

西原稔(2010)『ピアノ大陸ヨーロッパ』アルテスパブリッ シング

西原稔(2013/1995)『ピアノの誕生』青弓社

C a r l F e r d i n a n d B a k e r ( 1 8 3 6 ) S y s t e m a t i s c h - chronologische Daretellung der musicalischen Literatur.Leipzig

Hoffmeister Musikalisch-literarischer Monatsbericht (1829~1900)Leipzig(本稿ではネット公開されたデー タベース版URL:http://www.hofmeister.rhul.ac.uk/を 使用:2015年9月17日アクセス・確認済み)

Eberl,Kathrin(2003)„Kirchhoff,Gottfried“Die Musik in der Geschichte und Gegenwart (=MGG2), Pesonenteil Bd.10.S.149-150

Schilling-Wang,Britta(1997)„Murky“MGG2Sachteil Bd.6.S.633-735.

Wagner, Undine (2001) „Förster, Christopf“ MGG2 PersonenteilBd.6.S.1495-1499

 本稿はJSPS科研費24720057の助成を受けた研究である。

(釧路校准教授)

参照

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