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地方を取り巻く課題と若者の生き方

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【要旨】

本稿では,地方を取り巻く課題を,雇用機会の面を中心に整理し,雇用機会の 地域間格差が若者の生き方にどう影響しているのかを考察する。

地方出身の若者が出身地を離れるタイミングは,本稿が用いたデータでは18歳 時の大学等への進学が中心だが,雇用機会の地域差は,学校を卒業するタイミン グで地元に戻れるか,戻りたいと思えるかに大きくかかわる。その地域差につい ては,従来,失業率や有効求人倍率などの指標をもって,雇用機会の「量」に関 する地域差が主に問題にされてきた。近年の雇用情勢をみる限り,こうした量的 な地域差は見かけ上縮小したが,雇用機会の「質」には地域差が多分にある。そ れは,ひとつには就ける仕事の選択肢(業種・職種)の地域差がある。地方では 大企業本社の立地が少ないこともあり,オフィスワーク等,大卒者の希望に沿う 雇用機会が相対的に乏しい。また,初任給の格差に代表される労働条件の地域差 も依然として大きい。地方でのヒアリング調査からも,地方都市と,都市部から 離れた地域の違いこそあれ,こうした要因の複合から若者流出の課題を抱えてい た。こうした中,地元企業の存在・魅力が十分知られていないことも,U ター ンを躊躇させている状況があることから,希望する若者が地元で仕事・生活して いける選択肢を示すため,地域では「働く場」を知ってもらう様々な方策が行わ れている。

キーワード:雇用機会の地域間格差,若者の地域移動,雇用機会の質 教育社会学研究第102集(2018)

地方を取り巻く課題と若者の生き方

―雇用機会の地域差から問題をみる―

高見…具広

労働政策研究・研修機構

(2)

1. はじめに

本稿では,地方を取り巻く課題を,雇用機会の面を中心に整理し,雇用機会の地 域間格差が若者の生き方にどう影響しているのかを考察したい。

近年の地方の状況に関しては,増田編著(2014)が,若年女性人口の将来推計を もとに「消滅可能性自治体」をリストアップしたことで議論が再燃したのが記憶に 新しい。そこでは,地方ほど人口減少のスピードが激しく,地域社会の存立危機に 陥りうることが問題提起された。加えて,わが国が直面している人口減少問題につ いても,地方からの人口流出が続くと,東京圏の少子化傾向と相まって日本全体の 人口減少を加速させることが主張された。こうした問題意識に基づき,いままさに

「地方の活性化策」が,国・地方自治体問わず活発に行われているところである。

人口の大都市集中は,近年に始まった話ではない。わが国では,産業発展の過程 で,東京など大都市への人口集中が付随的に起こり,一方の地方では「過疎」「限 界集落」といった問題が引き起こされてきた。1950年代後半からの高度経済成長期 に人口を引き寄せた大都市部は「三大都市圏」とも呼ばれたが,バブル経済期以降,

近畿圏・中京圏の相対的地域低下もあって「東京一極集中」の様相が強まってい る

ここで,「地方から大都市へ」という人口移動現象を考察する際,その背景に何 らかの地域間格差を想定するのが妥当だろう。では何の格差が関わるのか。日本 の状況をみるに,まず教育機会の地域間格差を抜きには考えられない。大学等の高 等教育機関の立地に地域的な偏りがあることで,若者が大都市に集中する現象につ いては,既存研究の豊富な知見が示す通りである

本稿では,教育機会とは別の地域差,「雇用機会の地域間格差」を検討の中心に 置いてみたい。地方では「仕事がないから,若者が出て行ってしまう」という話が 聞かれることが多いが,そこで問題になっているのはどのような地域差なのか。地 方出身の若者が地元で仕事・生活していくには何が必要なのか。本稿では,こうし た問いに答えることを目指す。次節以降で順に論じていこう。

2. 地方出身の若者が地元を離れるとき

最初に,地方出身の若者がいつ,どのようなきっかけで地元(出身地)を離れる のか,データから確認しよう。本稿では,個人対象のアンケート調査「若年期の地 域移動に関する調査」(労働政策研究・研修機構 2016)の結果をもとに,若者の

(3)

状況をみてみたい。 まず,地方出身の若者 が出身市町村を離れた きっかけをみると(図 1 ),「大学・大学院進 学 」 が 半 数 を 占 め る

(50.0%)。「就職」が約 15%,「専門学校進学」

が約10%でこれに続く。

次に,出身市町村を離 れた年齢をみると(図

2 ),転出年齢は18歳に約 6 割が集中していることがわかる。そして,18~19歳時 を過ぎると転出はほとんどみられない。先の図 1 の結果とあわせると,地方出身者 が地元を離れるタイミングについては,18歳時の大学・専門学校等への進学を機と したケースが多くのウェイトを占めることがうかがえる。地域の側から見ると,そ れは,教育機会(進学機会)の地域差を背景とした若者流出といえる

アンケート結果からみる限り,転出の直接の引き金となっているのは大学等への 進学機会の地域差であり,「仕事がないので地元を離れる」というケースは限定的 なように見える。だが,この数字をもって,雇用機会の地域差が若者流出にあまり 関係しないと考えるのは早計だ。大学等を卒業するタイミングで地元に戻れるか,

戻りたいと思えるかどうかに,地域の雇用機会が多分に関わると考えられるからだ。

図 1  出身市町村を離れたきっかけ(複数回答)

図 2  出身市町村を離れた年齢(年齢分布)

0 10 20 30 40 50 60 70

14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36

%

年齢

【地方出身者のうち出身県外居住者】N=1932

50.0%

15.3%

15.3%

9.6%

4.7%

4.5%

4.2%

4.0%

3.5%

3.0%

0.8%

1.7%

0% 20% 40% 60%

大学・大学院進学

【地方出身者のうち出身県外居住者】N=1933 就職

専門学校進学 実家の都合 短大・高専進学 高校進学 転職 結婚 転勤・配置転換等 住宅の都合 その他

(4)

その点を次節で検討しよう。

3. 雇用機会の地域間格差―その現在の形

3.1. 雇用機会の「量」の地域差

先に,雇用機会に地域差があることで,若者流出が引き起こされている可能性が あると述べた。では,どのような地域差が問題なのだろうか。この点,「雇用機会 の地域間格差」という言葉でなされてきた多くの議論では,いくつかの指標から雇 用機会の「量」に関する地域差を主に問題にしてきたといえる。例えば,失業率等 にみる雇用の受け皿に地域間格差があることが,学術的・政策的な関心事項であっ た。雇用失業情勢が厳しい時代,失業率には地域差が大きく,地方(の特定地 域)ほど失業問題に対処する必要があった

2000年以降でみると,リーマン・ショック後の地域の雇用情勢は大変厳しく,離 職した失業者等の雇用機会を創出するための公的な事業が推進された経緯がある。 その後,東日本大震災を経て,近年の景気回復期においては,地域の雇用情勢も変 化してきた。この点を,都道府県別の有効求人倍率の推移からみてみよう(図 3 )。

有効求人倍率は,求職者 1 人あたりに求人(雇用機会)がどのくらいあるのかとい う,雇用機会の量に関する代表的な指標である。同図表には,従来より有効求人倍 率が高い地域(東京都・愛知県・群馬県)と,有効求人倍率が低い地域(北海道・

青森県・高知県・宮崎県・沖縄県)について,2000年以降の推移を示した。 これをみると,まず2000年代半ばの景気拡大期には,前者の地域における有効求 人倍率が大幅に上昇した一方,後者の地域では有効求人倍率の上昇がみられず,雇 用機会の量の面で地域間格差が拡大したことが見てとれる。後者の道県で有効求人 倍率の水準が低いこととあわせ,「雇用機会の地域間格差」は,解消すべき政策課 題として顕在的にあらわれていた。その後,2008年のリーマン・ショックを機に全 国的に景気が落ち込み,前者の都県でも求人倍率が急落したことから,数値上は地 域間格差が縮小した。そして,近年の景気拡大期についてみると,2000年代半ばと は状況が一変していることが見てとれる。前者の都県において求人倍率がふたたび 上昇している点は同様であるが,注目すべきは,後者の道県においても求人倍率が 上昇したことであり,現在は全国の大半の地域において有効求人倍率が 1 倍を超え る状況にある。有効求人倍率を見る限り,雇用情勢の「良い地域」「悪い地域」

といった(外形的な)格差は縮小したといえるだろう。

では,「雇用機会の地域間格差」は解消したのだろうか。そう簡単に結論を下す

(5)

ことはできない。人口減少下では有効求人倍率で地域の雇用情勢を測るのに限界が あるのに加え,地域の雇用機会は,量的側面ばかりでなく「どのような仕事があ るのか」といった質的側面によっても議論されるべきものだからだ。そして,「雇 用機会の質」に関しては,地域雇用はいまだ多くの問題を抱えており,それは人材 流出にも関係している。次にそうした地域差をみていこう。

3.2. 仕事の選択肢の地域差

「雇用機会の質」の地域差について,まずは仕事の選択肢が地域によって異なる 点を検討する。歴史的な経緯や地理的な条件等から,産業構造には地域差があるこ とが知られる。そして,雇用は産業の派生需要であることから,就ける仕事にも地 域差が生じてくる。この点を,東京圏と地方圏の常用求人の職種構成を見比べるこ とで検討しよう(図 4 )。これをみると,東京圏では「専門的・技術的職業」「事 務的職業」「サービスの職業」の求人の割合が相対的に高い。これに対し,地方圏 では「農林漁業の職業」「生産工程の職業」「建設・採掘の職業」の求人の割合が相 対的に高いという特徴がある。そうした傾向は,地方でオフィスワークをはじめと したホワイトカラーの仕事が相対的に少ないことを示している。

先にみた有効求人倍率の数値も,業種・職種等を均した合計値であり,例えば業 種別・職種別にみた場合に,大きな不均衡が見てとれる場合が通例だ。これは「求

0.00 0.50 1.00 1.50 2.00

北海道 青森県 群馬県 東京都 愛知県 高知県 宮崎県 沖縄県 (年)

(出典:厚生労働省「職業安定業務統計」)

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

図 3  都道府県別・有効求人倍率の推移(新規学卒を除きパートタイムを含む)

(出典:厚生労働省「職業安定業務統計」)

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人・求職のミスマッチ」として表される現象であるが,地方ではこのミスマッチが 様々な形で先鋭化している。例えば,求職者側からは事務職希望などが多い反面,

個々の地域内でサービス等を提供する「域内市場産業」(医療・福祉や小売業,

建設業,運輸業など)では求人が充足せず,深刻な人手不足に陥っており,合計の 数値はそうした特定の業種・職種の状況を反映している部分が少なくない。つまり,

数値上は求人が多く出ているように見えながら,求職者が希望する求人は思いのほ か少ないと言うことができるだろう。

仕事の選択肢は,産業構造のほか,大 企業の本社機能の立地にも影響される。

事務職等のオフィスワークの需要がどの くらいあるかが,それに左右されるから だ。この点,常用雇用者300人以上規模 の企業について,都道府県別の立地割合 をみると(図 5 ),東京都が圧倒的に多 く(30.9%),大阪府,愛知県,神奈川県 などが続くが,地方ではその割合は小さ い。いくら地方に支社・支店や工場が立 地していても,大卒者の正社員としての 就職先は限られてしまう。大卒者の希 望に沿う就職先が地域的に偏って存在し 図 4  常用求人の職種構成(左:東京圏,右:地方圏)

(出典:厚生労働省「職業安定業務統計」)

A管理的 職業0.6%

B専門的・

技術的職 22.6%

C事務的職業 10.3%

D販売の 職業 12.5%

Eサービス Eサービス の職業 の職業26.7%26.7%

F保安の 職業4.6%

G農林漁 業の職業0.2%

H生産工 程の職業5.6%

I輸送・機 械運転の職業

4.9%

J建設・採 掘の職業3.5%

K運搬・清 掃等の職

8.5%

A管理的 0.4%職業

B専門的・

技術的職業 18.6%

C事務的 8.9%職業 D販売の職

13.0% Eサービス Eサービス の職業 の職業25.0%25.0%

F保安の 2.1%職業 G農林漁業

の職業1.1%

H生産工程 の職業11.5%

I輸送・機械 運転の職業

5.2%

J建設・採掘 の職業4.9%

K運搬・清掃 等の職業

9.4%

(出典:厚生労働省「職業安定業務統計」)

図 5  常用従業者300人以上の企業立地

(都道府県別割合)

(出典:総務省「経済センサス」基礎調査2014年)

東京都30.9%

大阪府9.6%

愛知県6.5%

神奈川県5.2%

その他 その他47.9%47.9%

(7)

ていることの大きな背景を なしていよう

3.3. 労働条件の地域差 雇用機会の地域差につい て,次に,労働条件の地域 差を検討しよう。ここでは,

大学生の就職活動において 重要な指標となるであろう 大卒初任給について,その 都道府県間格差をみてみた い(図 6 )。これをみる と,大都市圏に比べて地方 の方が,大卒者の初任給が 低いことがわかる。東京

(214.9千円)を100としたときに,例えば青森県は89.4(192.2千円),新潟県87.9

(188.9千円),鳥取県85.2(183.2千円),高知県87.6(188.2千円),宮崎県86.4(185.7 千円),沖縄県81.5(175.2千円)となっており,県平均でみて東京と 2 ~ 3 万円程 度の差がある。こうした賃金水準の地域差は,若者が地方就職(U ターン就職等)

を躊躇するひとつの要因になっていよう。

もっとも,労働条件の地域差は賃金水準ばかりではない。労働時間面でみても,

土日休みでない仕事,夜間勤務を含む仕事といった,若者に敬遠されがちな条件の 仕事がある。先にみたように,地方では,オフィスワークの仕事が相対的に乏しく,

夜勤を含む医療・福祉や,土日休みでない販売業務,交替制勤務をともなう工場勤 務が,就業の選択肢として一定のウェイトを占める。こうした労働条件面の地域 差も,若者が地方就職を選びにくい背景になっていよう。

3.4. 地域にとっての人材流出問題

雇用機会の地域差は,人の移動にも影響を及ぼしうる。特に,既存研究からは,

高学歴者など階層的地位の高い個人ほど地域移動傾向が強いことが示されている。 地域に良質な雇用機会が乏しいと,移動可能性の高い「いい人材」ほど,好条件を 求めて大都市に流出してしまうといえるだろう。

図 6  都道府県別・大卒者の初任給(2017年)

出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査(平成29年)」より作成 210205

200195 190

単位:千円

(8)

高い人的資本を有した人材が,それに見合った仕事を求めて大都市部で就職する 傾向は,個人にとって合理的な行動といえる。また,国全体の経済発展にとっても,

そうしたマッチングは人材活用として効率的かもしれない。

一方,地域にとってそうした人材流出は,地域産業の人手不足を加速させること はもちろん,その地域の基盤産業をはじめとした地域経済の停滞をもたらそう。そ して,こうした地域の基盤産業の停滞は,企業の人材需要の低下となって跳ね返る。

具体的には,正社員をはじめとした質の高い求人が生じにくいことや,企業の定期 採用意欲が低くなることなどが考えられる。地域に良質の雇用機会が乏しくなるな らば,ますます人材流出が引き起こされよう。加えて,地域コミュニティにとって 若年世代の流出による急速な高齢化は,地域の維持コストを高め,存立危機を招き うる。このように,地域経済・社会は,雇用機会の地域差,人材流出を介した負の 循環に陥るリスクを抱えているとも言えるのである。

4. 地域雇用と若者流出-ヒアリング調査からみる地域の実情

指標面からみれば,「雇用機会の地域間格差」は以上のように整理でき,地域は 人材流出の問題を抱える。ここでは,地方での聞き取り調査をもとに,地域の実 情・課題を詳しくみてみたい

まず,前節では,都道府県単位で,東京に対する「地方」を論じてきたが,「地 方」の中にも,当然のことながら多様性がある。本稿で若者流出問題を扱う際も,

「地方」を大括りに扱うのでは,問題の所在を見失う恐れがある。具体的には,同 じ「地方」でも,その中での都市部(地方都市)と,都市部から離れた地域では,

どちらも若者流出に関わる地域雇用の問題があるにせよ,問題の重心が異なること に留意したい。ひとつには,都市部ほど雇用機会の選択肢が比較的豊富であろうと 容易に想像がつくからだ。本節では,地方都市と,都市部から離れた地域に分けて,

地域の事例を読んでみたい

4.1. 地方都市における状況・課題

まず地方都市の状況からみよう。地方都市においては,製造業等の地域に根付い た地場産業があり,企業が集積している地域も少なくない。ただ,そうした地域で も「高卒者の県外就職が多い」「大学進学者の U ターンが低調」といった課題が聞 かれる。

例えば,宮崎県延岡市は,長く企業城下町として栄え,現在でも中小製造業が集

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積する都市であるが,高卒就職を含め,地元就職は思うように進んでいないという。

2012年 3 月~2016年 3 月卒の新規高卒者の県外就職率は46.2%であり,そのうち男 性の県外就職率は53.0%,女性は35.0%である。県外の就職地域は,東京23.0%,

愛知22.6%,福岡13.4%,大阪12.0%の順となっている。求人の平均賃金が 5 万円 ほど東京の方が高いことや,都会へのあこがれ,県外企業の知名度などが,高校生 を県外就職に向かわせているようだという

長野県岡谷市においては,高卒就職では地元就職率が高いものの,県外に進学し た大卒者の U ターンは低調という。中小規模の企業が多いことから,大卒者を定 期的に新卒採用できる会社が多くないことなどが背景に挙げられる。

山形県鶴岡市でも,地元企業に(高卒・大卒とも)採用ニーズはあるが,学生や 親に十分知られておらず,高卒者の県外就職が少なくないのみならず,大卒者の U ターンも低調という

上記の例でみられるように,人材流出には労働条件の地域差のほか,高卒就職で は地元企業・県外企業とのつながり,大卒就職では地元企業の認知(知名度)不 足が大きく関わる。後者については,地域経済の基盤となる企業に人材需要があっ ても,学生やその親に十分知られていないことから,地元就職が選択肢になりにく いという状況が各地で課題となっている。

4.2. 都市部から離れた地域における状況・課題

都市部から離れた地域など,産業基盤が相対的に脆弱な地域では,雇用機会の問 題はいっそう深刻だ。それは主に,若者の就職先となりうる雇用の受け皿(量)不 足としてあらわれる。具体的には,地域の求人が,医療・福祉や小売業,建設業な ど「域内市場産業」にほぼ限定され,就職先にヴァリエーションが乏しい。それが,

高卒就職者の地元外就職,大学進学者の U ターン不足をもたらす。新卒での就職 の選択肢が少なすぎることが,人材流出に直結していると言えるだろう。人材流出 と相まって,地域の医療・福祉,建設業,小売業などの産業は軒並み人手不足の課 題を抱えている。なお,地域によっては,親の地域に対する誇りが希薄であること や,子どものキャリアを考えて積極的に県外に送り出すケースもみられる。

例えば,愛媛県西予市・八幡浜市では,新規求人の産業別割合をみると,卸・小 売業,農・林・漁業,医療・福祉,食品製造が大きなウェイトを占める。こうした 状況の中,地元における就職先のヴァリエーションが乏しいこと,親が自分の子の 地元就職を望まないことなどから,出身者の地元就職が進まない点で課題を抱えて

(10)

いる

青森県十和田市でも,有効求人倍率こそ 1 倍を超えているものの,建設業と医 療・福祉の 2 業種で常用求人の半数以上を占めている点に特徴がある。また,非 正社員求人が全体の 3 分の 2 を占めることに加え,正社員の就業機会は,建設業,

医療・福祉がかなりの割合を占め,それ以外の業種は少なく,かつ正社員でありな がら条件の悪い求人も散見されるため,求職者が希望するような業種・条件の正社 員求人は少ない状況にある。出身者の地域移動については,県外に進学した大卒者 の U ターンが少ないことに加え,高卒就職でも県外への就職が 4 割を超え,県内 就職する者でも地元での就職は相対的に少ない。その背景については,条件面の格 差に加え,「職種に偏りがあるため,やむを得ず県外を希望する生徒もいる」とい われる。

このように,地方においては,都市部か否かによる重心の違いはあるものの,若 者流出にかかわる地域雇用の課題を抱えている。それは,「雇用の受け皿不足」「労 働条件面のミスマッチ」「地元企業の認知不足」とまとめられるだろう。

5. 若者が地元で仕事・生活していくには

5.1. 地方出身者の U ターン

前節までの検討で,雇用機会の地域間格差があることで,進学等で地元を離れた

図 7  出身県への U ターンのきっかけ(複数回答)

30.4%

19.0%

16.0%

8.0%9.6%

6.6%7.8%

3.3%4.4%

2.2%2.3%

1.8%2.0%

1.5%1.8%

1.3%1.3%

3.1%

0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35%

就職

【地方出身者のうち出身県Uターン者】N=1467 仕事を辞めた

学校卒業転職 親との同居 自身の異動(転勤等)

健康上の理由結婚 家族・親族の病気、怪我 子どもの誕生 配偶者の異動(転勤等)

住宅の都合 入学・進学 家業の継承 家族・親族の介護離婚 その他起業

(11)

地方出身者の U ターンが進まない現状をみた。ここでは,そうした中で,若者が 地元で仕事・生活していけるためのカギはどこにあるのか,探ってみたい。

まず,地方出身者の U ターン移動について,その実態を 2 節と同じデータから 示してみよう。まず,U ターンのタイミングからみる。出身県への U ターンの きっかけは,「就職」(30.4%)が最も多く,「仕事を辞めた」(19.0%),「転職」

(16.0%)がこれに次ぐ(図 7 )。 大 卒 で の 新 卒 就 職 ( U ターン就職)が,U ターンで 大きなウェイトを占めているこ とがわかる

なお,U ターン就職の意志 決定には親の影響が大きい。就 職活動の際によく相談した人に つ い て み る と ( 図 8 ),「 U ターン就職者」は「県外就職 者」に比べて,親に相談した割 合が高い。U ターン就職にあ

図 8  就職活動の際によく相談した人(複数回答)―Uターン就職の有無別―

39.0%

5.0%

24.2%

32.4%

32.4%

3.4%

34.8%

34.8%

23.4%

2.5%

23.1%

34.1%

34.1%

5.5%

40.2%

0% 20% 40% 60%

兄弟姉妹

学校の先生・職員・相談員

学校の友人・先輩等

バイト先の上司・先輩・友人

よく相談した人はいない

【地方出身者のうち県外進学の大卒者】

Uターン就職者(N=500) 県外就職者(N=731)

戻りたい14.5%

やや戻りたい 30.6%

あまり戻り たくない31.2%

戻りたくない 23.6%

【地方出身者のうち出身県外居住者】

N=2027

図 9  出身市町村へのUターン希望

(12)

たって,親の存在(意向や情報)が大きな役割を果たしていることがうかがえる。

5.2. U ターン希望の所在をみる

地域移動に関しては,若者のキャリア選択,ライフコース選択が尊重されるべき なのは言うまでもない。そうした中,雇用機会の地域間格差をひとつの背景にした 地域移動がみられる。若者が地元(地方)で仕事・生活していくためには何が必要 なのか。雇用機会の面では,どういうアプローチが求められるのか。

まず,当の若者に地元に U ターンする希望はどの程度あるのか確認しよう。地 方圏出身で現在は出身県外に居住している者を対象に,出身市町村への U ターン 希望がどのくらいあるのかをみると(図 9 ),「戻りたい」(14.5%),「やや戻りた い」(30.6%)を合わせて, 4 割以上の県外居住者に(潜在的な)U ターン希望が あることがうかがえる。地元で仕事・生活する希望を持つ者が少なくないことをう かがわせる。

では,どういう人に U ターン希望が多くあるのか。属性でみると,未婚女性で やや低いことや,転職経験者で低いといった特徴がみられる。また,出身地域に よる違いをみると,同じ「地方」でも,規模の大きな地方都市出身者ほど U ター ン希望が多くある。これは,大都市ほど雇用機会の選択肢や労働条件面,生活環 境の面で優位な状況にあり,U ターン希望に反映されるものと考えられる。

雇用機会に関してここでみたいのは,別の部分にある。高校時代までに地元企業 の存在を知っていたかどうかと U ターン希望との関係をみると(図10),地元企業 を「よく知っていた」人ほど「戻りたい」「やや戻りたい」の割合が大きいのに対 し,「あまり知らなかった」「全く知らなかった」人では U ターン希望の割合が小

図10 出身市町村への U ターン希望―高校時代までの地元企業の認知程度別―

27.7%

16.0%

12.4%

12.0%

36.1%

36.3%

31.3%

20.5%

20.0%

32.8%

36.5%

23.9%

16.1%

15.0%

19.9%

43.6%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

よく知っていた(N=155)

少し知っていた(N=595)

あまり知らなかった(N=809)

全く知らなかった(N=468)

戻りたい やや戻りたい

【地方出身者のうち出身県外居住者】

あまり戻りたくない 戻りたくない

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さい。U ターン希望には,地域の雇用機会が「あること」と同時に,「知っている こと」も大きく関わるのである。

なぜ転出前に地元企業を知ることが後々の U ターン希望につながるのか。この 点,本稿では地元愛との関係で考えたい。U ターン希望は出身地への愛着の程度 によって大きく左右される。では,何が愛着に関係するか。親(実家)との関係,

地元の友人関係,地域コミュニティの取組み・一体感など様々な要素が関係するで あろう。こうした要素に加え,子どものときに地元企業を知ることが地域への愛着 につながる可能性,そして U ターン希望につながる可能性がある。高校時代まで に地元企業をよく知ることが,地元を離れた後も愛着として残り,U ターン希望 に反映されると考えられる

ここで,地元企業を知るといっても,「どのように知るのか」には地域差がある。

例えば,マスメディアで名前を知られるような有名企業は,都市規模が小さいほど 限られるだろう。この点,地元企業を知るきっかけとなった出来事を,出身地域別 にみてみたい(表 1 )。同じ地方でも「大規模な地方都市」では,マスメディア

(新聞・TV 等)で地元企業を知る機会が,中小都市や都市部以外の地域と比べる と多い。これに対し,「中小規模の地方都市」「都市部から離れた地域」の出身者で は,「学校の行事(企業見学等)」「職業体験」のウェイトが大きい。また,都市部 から離れた地域では「家族・親族からの情報」「友人・知人からの情報」の占める 割合が高いことにも特徴がある。マスメディアに名前が出るような有名企業が少な い地域では,学校行事,職業体験などの機会を積極的に持つことで地元企業の認知 を広めることの重要性が大きいだろう。加えて,人づての情報,特に親の影響の重 要性もうかがえる。親に地元企業がよく知られていないという課題が各地で聞かれ るが,あらためて,親に対しての認知度を上げることが,その子どもへの情報提供 につながり,中長期的に U ターンにつながりうることが示唆された。地方におけ る「地元企業が知られていない」という課題への取組みの方向性を示していよう。

表 1  地元企業を知ったきっかけ―出身地域類型別―(出身県外居住者)※複数回答

学校の行事

(企業見学 等) 職業体験

働いている 人の話を個 人的に聞く 機会

マスメディ ア(新聞・

TV等)

あなた自身 の情報収集

自治体が 発行する広報誌

地域で行わ れたイベン ト(展示会 等)

家族・親族 からの情報友人・知人

からの情報 大規模な地方都

市(N=372) 34.7% 20.7% 16.7% 27.4% 28.2% 10.8% 7.8% 37.1% 20.2%

中小規模の地方

都市(N=304) 49.7% 24.7% 15.8% 17.8% 26.6% 9.5% 8.6% 36.8% 21.1%

都市部から離れ

た地域(N=69) 46.4% 24.6% 15.9% 15.9% 26.1% 8.7% 8.7% 44.9% 29.0%

(14)

5.3. 地元の「働く場」を知らせる方策

現在,地方では UIJ ターン促進・支援のために,空き家バンク制度等の居住支 援,子育て支援の拡充,転居費用の助成,無料職業紹介や職業情報提供などの就業 支援など様々な施策が展開されている。そうした施策とは別に,早くから地元企業 の存在・魅力を知らせることで,将来的な U ターンという選択肢をインプットし ようという方策が各地で行われている。例えば,長野県岡谷市では,地元の小中高 校生などに対し地元企業の魅力や製造業の楽しさを伝える取組みを行っている。 小中学生向けにはじめた「ものづくりフェア」は15回(15年)を数える。また,

「若者未来の就職応援事業」として,地元の中学校において企業が訪問授業を行っ ている。職業観の育成,進路選択の手助けなどキャリア教育がメインであるが,地 元企業を知ってもらうきっかけづくりの意味合いもある。講師となる企業は製造業 だけではない。さらに,小学生向け企業研究ガイドブック「わたしたちの街おか や:岡谷お仕事ハンドブック」を作成し,小学校 5 , 6 年生向けに配布している。

このように同市では,就職を考えるはるか前の段階から,地元企業の存在・魅力を 知ってもらい,将来的な地元就職に結び付けようという「早くからの意識付け」を 図っている。

都市部から離れた地域の取組みについては,福井県大野市が好例だ。同市では,

地域の若者が,地元の魅力を知らず,地元の人とのつながりを持たないまま,ある いは地元での未来の切り開き方を知らないまま地域を離れている現状に危機感を もった。そして,若者に地元の魅力を伝える「大野へかえろう」プロジェクトを開 始し,その中で,転出前に地元企業・働く大人を知ってもらうために,高校生によ る地元企業・店舗のポスター制作というユニークな取組みを行っている

6. まとめ

本稿では,「雇用機会の地域間格差」という観点から,現在の地方が抱える若者 流出に関わる課題を整理した。地方では,都市部か否かによる重心の違いはあるも のの,「雇用の受け皿不足」「労働条件面のミスマッチ」「地元企業の認知不足」と いった,若者流出にかかわる雇用機会の課題を抱えている。そして,こうした課題 に対処し,人材定着・還流の流れをつくるために,地域は様々な取組みを行ってい る。

いうまでもなく地域間移動は,当の若者のキャリア選択・ライフコース選択に基 づくものであり,その志向・選択が最大限に尊重されるべきであろう。その上で,

(15)

地元に U ターンしたい,住み続けたいという希望をもつ若者が,その希望を妨げ られることのないよう仕組みを整えることも重要と考えられる。

なお,本稿では十分議論されなかったが,規模の大きな地方都市においても,若 者流出の問題に無縁ではない。問題の中心は,東京等に比べて,大卒者(特に文 系)の希望に沿う雇用の受け皿が乏しいことにある。東京等に本社をもつ大企業の 支店・支社が立地するものの,そこでの就職の受け皿が乏しいなどにより,オフィ スワークがどうしても限られてしまうからである。この課題については,地域限定 正社員(勤務地限定正社員)として採用する仕組みがあると有用と考えられるが,

現在の広がりは限られる状況にある。関連して,全国転勤の企業慣行を見直すこ とへの議論もなされている。企業にとって,本社一括採用,全国転勤という慣行は,

一定の合理性をもつとも考えられるが,一方で地域限定正社員を採用している企業 では人材確保のメリットも感じている。こうした限定正社員の受け皿が広がるな らば,地方都市で就職する生き方も,選択肢としてより魅力的になる可能性がある。

加えて,大学生の就職活動のあり方にも再考の余地があろう。大学生の就職活動 においては,大企業・有名企業志向が強いと言われるが,これは地方就職にとっ て大きな足かせになっている。地方でも技術的に優れた企業,働きやすい環境を提 供する企業は少なくないが,一般的な知名度をもつ企業は,大都市に比べて相対的 に少ない現状にあるからだ。早期離職の高さをみても,就職活動におけるある種の 価値観の内面化が,若者の生き方を狭めている可能性も否定できない。当人に合っ たキャリア選択・ライフコース選択を導くための多様な選択肢を,社会が示せるこ とが望ましいだろう。

〈注〉

⑴ なお,長期時系列的にみたときに,地方から大都市への人口集中傾向が強まっ ているわけではない。太田(2010),山口ほか(2000),労働政策研究・研修機構

(2015a)など参照。

⑵ 地域間格差と人口移動の関係については,人口移動が自由に行われるならば,

人は効用の低い方から高い方へ移動するものと想定する経済学的な考え方が代表 的だ。経済学的研究は,人口移動の背景にある地域間格差として,主に賃金格差 などを検討してきた(Tabuchi(1988)など)。また,雇用機会の地域差と人口 移動との関係についても,景気変動とのかかわりで考察してきた。

⑶ 例えば磯田(2009)など参照。

(16)

⑷ 本調査は,インターネット登録モニターを対象に,労働政策研究・研修機構

(JILPT)が2016年 1 月に実施したものである。主な調査目的は,若年期の地域 移動(転出・U ターン・地方移住)の実態把握,行政支援ニーズの把握である。

調査対象は,地方出身者(三大都市圏以外の道県出身者)のうち,出身県(中学 卒業時の居住県)と現在の居住県,地域移動経験(中学卒業後の他県での居住経 験有無)をもとに「出身県定住者」「出身県 U ターン者」「出身県外居住者」を 区分し,それぞれ一定のサンプルを集める割付調査の設計とした。また,25~39 歳で,現在就業している者に対象を限定している。なお,本稿では特に言及しな いが,他に,大都市圏出身の地方移住者(I ターン者)も調査対象にしている。

調査の詳細や調査結果については,労働政策研究・研修機構(2016)を参照のこ と。

⑸ 本稿では出身県外居住者のみで集計したが,その後出身県に U ターンした者 における傾向をみても,大きな相違はない。詳細は労働政策研究・研修機構

(2016)参照。

⑹ 図表は割愛したが,出身市町村を離れた理由を集計すると,「地元には進学を 希望する学校がなかった」が最も多く(35.8%),「地元から通える進学先が限ら れていた」(20.8%)も含め,進学先が限られることが主な理由であり,「親元を 離れて暮らしたかった」「都会で生活したかった」「地元以外の土地で生活した かった」といった生活の場の選択も合わさった結果であることがわかる。

⑺ 樋口(2005),勇上(2007)など。

⑻ 例えば炭鉱の閉山地域など,産業構造の変化の中で厳しい雇用情勢に見舞われ た地域が,地域雇用政策の主要な対象になってきた。地域雇用政策の歴史につい ては,佐口(2004)も参照。

⑼ 近年の地域雇用政策の展開と,不況期の雇用創出策については,高見(2014)

に整理した。

⑽ 従来より有効求人倍率が高い地域には他に福井県や岡山県などがあり,低い地 域には他に秋田県,長崎県,鹿児島県などが挙げられる。

⑾ 都道府県のレベルでみると,2017年12月現在,有効求人倍率が最も低い沖縄県 でも1.15倍であり,全ての都道府県で 1 倍を超えている。こうした中,雇用情勢 に関して近年言われるのは,全国的な人手不足傾向である。

⑿ それは,有効求人倍率が示すのが,求人数・求職者数のバランスであることと 関係する。つまり,求人数が変わらなくても,地域の求職者数が減少すれば,計

(17)

算上は有効求人倍率が上昇する。少子高齢化に加え生産年齢人口の流出も続く地 域では,この求職者数の減少が著しいことにまず留意したい。

⒀ 常用求人には,正社員のほか,常用的パートタイムも含まれる。また,東京圏 とは,埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県のこと。地方圏とは,三大都市圏以外 の道県を指す。

⒁ 「域内市場産業」については中村(2014)参照(60~63ページ)。中村は,まち

(地域)の外(にいる需要者)を主たる販売市場とした産業を「域外市場産業」

と呼び,農林漁業,鉱業,製造業,宿泊業,広域の運輸業などが該当すると述べ る。これに対し,地域内で発生する様々な需要に応じて財やサービスを生産する 産業を「域内市場産業」と呼び,建設業,小売業,対個人サービス,公共的サー ビス,公務,金融・保険業(支店・営業所),不動産業などが該当するとする。

域外市場産業は,地域経済成長の原動力で所得の源泉となることから,基盤産業 とも呼ばれる。黒田・田渕・中村(2008)も参照。

⒂ 勤務地限定正社員や地方拠点採用の状況を調査した労働政策研究・研修機構

(2015b)によると,支社・支店を有する企業でも,勤務地限定正社員や地方拠 点採用を制度化している企業は少ない現状にある。

⒃ もっとも,実際の就業構造をみると,大卒者でも販売・サービス職やブルーカ ラー職に就く傾向が,特に1990年代以降の労働市場において見られるようになっ ており,大卒者の仕事は実際には多様になっている。ただ,大学生の就職希望を みると,学校の専門分野との関連,企業の業種・仕事内容を重視する傾向は近年 でも強く(労働政策研究・研修機構2016参照),ここでは,そうした希望に沿う 仕事が地域的に偏って存在していることを指摘したものである。

⒄ 塗られている色が濃いほど,その都道府県の初任給水準が高いと読むことがで きる。

⒅ この点は, 4 節で扱うヒアリング調査において聞き取れた内容である。詳細は 労働政策研究・研修機構(2015c)参照。

⒆ 進学時の地域移動は多大な金銭的負担を伴うものであり,地域移動の可否には 親の社会経済的地位による格差が存在することも指摘されてきた。例えば,林

(2002)は,地方出身者において,父職別に高等教育進学率とそれに占める就学 移動率を検討し,父職が専門・管理という上層ホワイトカラーにおいて就学移動 率およびそれを含めた高等進学率が高くなっていることを示す。

⒇ 本稿で扱うヒアリング調査は,地方自治体の雇用労働担当部局,移住定住担当

(18)

部局,公共職業安定所,商工会議所等の機関を対象に,人口変動や雇用情勢等の 地域の状況・課題,雇用創出や移住定住支援といった取組みを調査したものであ る。ヒアリング実施時期は,地域によって,2014年10月から2016年12月までの幅 がある。本稿で取り上げる地域のヒアリング時期は,事例に言及する際に注で示 す。

 以下では,市町村を,一定規模の人口集中地区(DID)をもつかどうかで,都 市か否かを区分して考察している。地域雇用の状況・課題をみる際のこの区分の 有用性については,高見(2016)も参照。

 ヒアリング実施時期は2016年 9 月。詳細は労働政策研究・研修機構(2017)参 照。

 岡谷市で高卒就職の地元就職率が高い背景は,製造業などの就職先が豊富にあ ることに加え,高校と地元企業とのコネクションが挙げられている。詳細は労働 政策研究・研修機構(2015c)参照。ヒアリング実施時期は2015年 1 月。

 県外に大学進学で出た者のうち,その後県に U ターンしているのは約 3 割。

進学で地元を離れた人は,就職のタイミングで U ターンを考えたとしても,地 元企業を知らないので,どこに戻ったらいいのかわからないという。詳細は労働 政策研究・研修機構(2016)参照。ヒアリング実施時期は2015年12月。

 高卒就職における地域的な特徴については,地域の労働市場(需給の状況や求 人の特徴),高校の就職指導類型に基づく堀(2016)の整理がある。本ヒアリン グ調査でも,その知見と整合的な結果が得られている。

 労働政策研究・研修機構(2017)参照。ヒアリング実施時期は2016年11月。

「昨年の管内の新規高卒者(727名)のうち,187名が就職を希望し,40名が管内,

91名が管外,56名が県外に就職した。管外への就職先は主に松山や東予地域(今 治,西条,新居浜)である。」「管内には小規模な会社しかなく,南予地域の親は,

子供の管内就職を望まず,大手や有名企業等への就職のため一度は外に出てほし いと考えている傾向が強い」などが指摘される。

 ここに記した十和田市の状況については,労働政策研究・研修機構(2017)参 照。ヒアリング実施時期は2016年 8 月。

 なお,県外に転出した地方出身者のうちどのくらいの割合が U ターンしてい るかは,このデータからは答えられない。一般的な傾向としては,国立社会保 障・人口問題研究所『第 7 回人口移動調査』(2011年)を二次分析した労働政策 研究・研修機構編(2015a)をみると,例えば,地方出身の男性の大学・大学院

(19)

卒の居住パターンとして,若い世代ほど「U ターン」の割合が高くなっている ことがわかる(20代では28.7%,30代では23.9%)。

 図表は割愛したが,U ターン年齢の分布をみると,U ターン年齢のピークは 22歳時にあった。

 なお,地元に戻るといっても,出身市町村に戻るわけではない「J ターン」も 少なくない。特に,都市部から離れた地域の出身者では,出身県に U ターンす る場合でも,出身市町村に戻るというより,県の中心的大都市に U ターンする 場合が少なくないことが,データからうかがえた。

 また,図表は省略するが,U ターン就職希望者は,そうでない者に比べ,「実 家から通えるため」「親の意見・希望があったため」という理由を挙げる。労働 政策研究・研修機構(2017)の36~37ページ参照。

 「現在,中学卒業時にお住まいだった市区町村,もしくは県に戻りたいご希望 はありますか」という設問における「a. 中学卒業時に住んでいた市区町村」への 回答を集計している。

 転職経験者のほうが U ターン希望が低いという結果は,U ターンが, 1 度目 の離転職の際に起こる部分があることをうかがわせる。

 労働政策研究・研修機構(2016)(2017)参照。

 図表は割愛したが,本データからも,出身市町村への愛着の度合いと U ター ン希望との関連は強いことが示された。労働政策研究・研修機構(2016)(2017)

参照。

 この点は,関連する変数を統制した計量分析でも確かめられた。労働政策研 究・研修機構(2017)参照。

 ここでは,代表的な都市圏分類である金本・徳岡(2002)の都市雇用圏設定基 準を参考に,地方圏にある大都市(圏)と中小都市(圏)を区分した。都市

(圏)には,中心の市と郊外の市町村を含み,「都市部から離れた地域」は,都市 圏外の地域としている。

 労働政策研究・研修機構(2018a)第 4 章を参照。

 同市では,他にも,地元を離れた者へ,地元で働く大人の姿を伝え,地元を思 う・帰るきっかけを与え続けるなど,U ターンへのきっかけづくりや道しるべ を示すことに力を注いでいる。労働政策研究・研修機構(2018a)第 4 章を参照。

 労働政策研究・研修機構(2015b)参照。

 労働政策研究・研修機構(2015b)によれば,企業が勤務地限定正社員を採用

(20)

する理由には,「社員の仕事と生活の両立を支援するため」とともに,「地元の優 秀な人材を確保するため」が多く挙げられる。逆に,勤務地限定正社員を採用し ない理由としては,地方拠点に採用権限がない問題が大きく,採用基準を統一す る必要のほか,地方拠点のマンパワー不足も理由として挙げられる。

 大学生の就職観については,永野編著(2004)において,大手有名企業で自分 の能力を発揮しようという「根強い安定志向」などが指摘されている。近年の調 査でも,労働政策研究・研修機構(2018b)において,就職活動開始時の希望就 職先として,「海外展開もしている企業」「全国規模の企業」の希望割合が,男子 学生を中心に高いことが示されている。

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(21)

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Tabuchi,… Takatoshi,… 1988,… ”Interregional… Income… Differentials… and… Migration:…

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勇上和史,2007,「雇用失業情勢の都道府県間格差とその要因」労働政策研究・研 修機構編『地域雇用創出の新潮流』プロジェクト研究シリーズ No. 1 .

(22)

ABSTRACT

Challenges in Japan’s “Regions” and Young People’s Life Course:

Focusing on Regional Disparities in Employment

TAKAMI, Tomohiro

…(The…Japan…Institute…for…Labour…Policy…and…Training)

4-8-23,…Kamishakujii,…Nerima-ku,…Tokyo,…Japan,…177-8502 takami@jil.go.jp This…paper…discusses…the…challenges…facing…Japan’s…“regions,”…especially,…the…re- gional…disparities…in…employment…as…a…factor…in…young…people’s…migration.…The…ex- istence…of…economic…disparities…between…major…metropolitan…areas…and…regions…has…

been…seen…as…a…problem…for…Japan,…and…regional…revitalization…has…frequently…been…

positioned…as…a…policy…issue.…Moreover,…migration…(movement…from…the…regions…to…

cities),…particularly…the…movement…of…young…people,…has…garnered…attention…as…a…

phenomenon…associated…with…the…disparities…in…economic…conditions…and…employ- ment…opportunities.

What…kinds…of…disparity…are…problematic?…Certainly,…if…one…only…looks…at…the…

quantity…of…job…opportunities,…it…does…not…presently…seem…to…be…the…case…that…sim- ply…being…in…an…outlying…region…means…that…jobs…are…scarce.…However,…a…look…at…

employment…opportunities…in…terms…of…their…“quality”—in…other…words,…from…the…

standpoint…of…the…kinds…of…employment…that…are…available—shows…that…large…dis- parities…exist…between…the…large…cities…and…the…regions.…Under…such…circumstances,…

stopping…the…outflow…of…young…people…to…large…cities…presents…a…serious…challenge…

for…Japan’s…regions.…Of…course,…the…regional…disparities…in…educational…opportunities…

(e.g.…universities)…are…also…a…major…factor…behind…young…people’s…leaving…their…home…

regions,…but…the…above-mentioned…regional…disparities…in…employment…opportuni- ties…cannot…be…overlooked.

It…should…be…noticed…that,…even…though…collectively…called…“regions,”…these…areas…

are…diverse…and…there…exists…a…hierarchy…among…them.…According…to…our…survey,…

in…regional…small…and…medium-sized…cities,…an…employment…mismatch…is…emerging…

in…terms…of…wages,…working…hours,…and…other…labor…conditions,…and…many…compa- nies…there,…particularly…SMEs,…have…low…general…recognition…among…the…public.…In…

the…case…of…districts…that…are…far…from…urban…areas…(i.e.,…rural…areas),…at…the…core…of…

the…problem…is…the…limited…variation…in…job…opportunities.

(23)

Meanwhile,…survey…data…shows…that…slightly…less…than…half…of…the…people…who…re- side…in…another…prefecture…want…to…return…to…their…home…municipality.…An…analysis…

of…the…kinds…of…people…who…wish…to…return…to…their…home…area…revealed…that…many…

had…a…strong…attachment…to…the…area…or…possessed…a…good…knowledge…of…local…com- panies…prior…to…leaving.…The…former…result…is…reasonable,…as…attachment…to…one’s…

home…area…is…key.…In…the…case…of…the…latter,…it…is…thought…that…having…opportunities…

to…learn…about…the…existence…of…local…companies…before…leaving…the…area…will…help…

people…feel…that…they…can…get…along…even…if…they…return,…and…this…helps…to…generate…

a…desire…to…return…later…on.

One…consequence…of…regional…disparities…in…employment…is…inadequate…U-turn…

migration…(the…return…of…people…who…are…originally…from…regions…to…those…regions…

or…prefectures)…of…new…graduates,…partly…because…local…businesses…are…not…suffi- ciently…recognized…as…possible…employers.…Some…areas…are…addressing…this…problem…

by…improving…labor…conditions,…on…the…one…hand,…and…by…disseminating…information…

on…local…businesses…and…building…local…people’s…awareness…on…the…other.

Keywords: Regional Disparities in Employment, Young People’s Migration, Qual- ity of Job Opportunities

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