ものづくりの高度化に関する研究
オンマシンウェルディングシステムの試作
竹下朋春*1 野中智博*1 中村憲和*1 安部年史*1 石田康弘*2 中村裕章*3 谷川義博*4
Studies and Developments of Tradition System in Manufacturing Skill
Studies and Developments of welding System
Tomoharu Takeshita,Tomohiro Nonaka,Norikazu Nakamura,Toshifumi Abe Yasuhiro Ishida,Hiroaki Nakamura,Yoshihiro Tanigawa
現在,工業製品は,消費者ニーズの多様化や商品サイクルの短縮化により,高品質な製品を短納期で製作する必 要にせまられている。そのため,いかに低コスト化,短納期化を図るかが企業の生き残り策となっている。しかし 設計変更や加工ミスが発生しても,納期の変更ができない。そこでこのような問題を解決でき,企業のセールスポ イントとなるようなオンマシンウェルディングシステムの開発を行っている。今回は,工作機械上で肉盛溶接作業 を行うことが可能な装置のハードウェア試作と基本ソフトの整備を行った。
1 はじめに
現在,消費者ニーズの多様化により,金型加工メー カも短納期で高品質な製品の要求が高まっている。し かし受注後の設計変更も多く,納期厳守のまま金型加 工メーカも対応している。またCAD/CAMシステムの 発達により,装置を導入することで3次元形状の加工 が可能となっている。しかし作業者や CAM データの ミスなどで,金型企業では1型あたり4,5件,加工ミ スが発生しているのが現状である。
このような設計変更や加工ミスの発生時には,熟練 した技能者が溶接機を使用して手動で肉盛溶接を行っ ている。しかしこのような作業は大変な熟練を要すが,
年々の熟練工の減少は,即座の対応ができないため経 営者の不安材料となっている。また金型の意匠にかか る箇所においては,県内の企業ではできにくいため,
大阪の業者に依頼している。したがって往復の輸送時 間と費用がかかっている。
そこで,この問題を解決するためにオンマシンウェ ルディングシステムの開発を行う。
*1 機械電子研究所 生産技術課
*2 機械電子研究所 電子技術課
*3 機械電子研究所 機械技術課
*4 福岡県工業技術センター 企画管理部 2 試作開発のコンセプト
2−1 オンマシンウェルディングシステムの概要
図−1に,工作機械上でのオンマシンウェルディン グシステムを示す。
溶接ヘッド
工作機械
CAD/CAM
サブテーブル 溶接機本体
図−1 オンマシンウェルディングシステム
このオンマシンウェルディングシステムは,既存の 工作機械を使用して自動化を行うものである。通常,
工作機械の主軸ヘッドには工具ホルダを介してドリル やエンドミルなどの切削工具が取り付く。この部分に 溶接ヘッドを取り付けて肉盛溶接を行うものである。
この溶接ヘッド部分は,3 次元形状の肉盛溶接を行う ために,溶接トーチの旋回,傾斜,溶接棒送り動作が
可能である。1)
また溶接装置は,パソコン側から溶接電流や溶接パ ルスをコントロールし最適溶接条件で溶接する。さら
にCAD/CAM装置の部分は,3次元形状の肉盛溶接を
行うためのNCデータを作成する部分となる。また従 来は、肉盛溶接のために毎回工作機械から金型をおろ して溶接作業を行い,再度工作機械に載せ直して段取 りを再度行い再加工していたが、このシステムでは,
工作機械上に金型を載せたまま溶接,再加工を行うた めのサブテーブルを用いる。このテーブルは溶接熱を 工作機械本体から遮断し,工作機械に熱影響を及ぼさ ない機構としている。
2−2 溶接ヘッドの試作
溶接ヘッドは,設計ミスを極力無くすために,ソリ ッドタイプの3次元 CAD を用い,全ての部品と構造 を3次元的に設計した。3次元 CAD には,溶接用C AM開発システムに利用可能なCADを使用した。
試作した溶接ヘッドは,全体をコンパクトにまとめ るとともに,主要部分にアルミを用い,軽量化を図っ た。また,安全性を考慮し,工作機械主軸が回転して も装置が壊れないように工夫している。3次元CADを 用いることにより,CAMデータ算出時の溶接トーチの 干渉などを考慮することが可能となる。図−2に,3 次元 CAD で設計を行った装置を示す。また,図−3 に,試作した溶接ヘッドを工作機械の主軸に取付けた ものを示す。
図−2 組立図(3次元)
図−3 溶接ヘッド
2−3 サブテーブルの試作
オンマシンウェルディングシステムを実現する上で 考慮すべき重要な技術課題の一つとして,工作機械上 で溶接を行う場合に,工作機械本体に悪影響を与えな いことが挙げられる。悪影響の大きな原因として,溶 接熱が工作機械本体に伝わり,熱による変形によって,
機械の精度を悪くする可能性が考えられる。そこで,
ワークをのせるための断熱機構を持つサブテーブルを 試作した。図−4に試作したサブテーブルを示す。
図−4 サブテーブル 2−4 制御装置の試作
工作機械上で様々な形状をもつ金型の補修溶接を行 えるようにするためには,溶接ヘッド部の溶接棒を溶 接条件に合わせて適切に供給すると同時に,従来の人 手による溶接時の手の動き(ウェビング)を自動化す る必要がある。また,溶接棒先端部が金型表面形状と 一定距離を保って形状に沿って動くように工作機械本 体を制御する必要がある。そこで,これらの制御方法 を確立することを目的として制御装置を試作した。図
−5に試作した制御装置を示す。
図−5 制御装置外観
構成としては,ノート型パソコンからPCMCIAカー ドを介して,外部インターフェースであるモータコン トローラにWindowsから指令を送ることにより,ステ ッピングモータドライバに位置指令パルスが送られる ことで,ステッピングモータが動作する構成となって いる。
2−5 CAM 基本機能の試作
オンマシンウェルディングシステムを開発する場合,
溶接ヘッドが,複雑な曲面を持つ金型の表面上から一 定距離を保つように工作機械本体を制御する必要があ る。そこで,金型用3次元CAD/CAMシステムを使っ て,その制御用のNCデータを作り出せるかどうかが システムを実現するための重要な技術要素となる。
従来のCAD/CAMシステムでは,円筒形や球形をし
た工具を用いて形状を切削加工する場合のNCデータ は作り出すことができるが,本システムの溶接ヘッド を想定した金型表面形状と一定の距離を保ったNCデ ータを作り出す CAM 機能はない。そこで,溶接ヘッ ド制御用の NCデータを作り出すCAM 機能を開発す ることが必要になる。
福岡県とコンピュータエンジニアリング社で共同特 許を取得した「干渉線投影法」2)と呼ばれる計算アル ゴリズムを使用しプログラム基本部分の開発を行こな い,基本動作CAMが算出できることを確認した。
また,この基本動作 CAM が算出したデータをもと に,溶接ヘッドの動作を CAM と連動して行うことが 可能な基本ソフトを整備した。整備した基本ソフトの 操作画面の一例を図−6に示す。このソフトを用いる ことで旋回軸,仰角軸,溶接棒送り軸の3軸のモータ の原点復帰動作が可能となり,原点位置からの絶対値 NC 動作を行えることを確認した。また,モータ回転 中は,角度,溶接棒の繰出し距離を逐次表示すること が可能となっている。
図−6 溶接ヘッドコントロールソフト基本画面 この試作ソフトとオンマシンウェルディング用基本 CAM機能を用い,実際に溶接動作が可能なことを評価 実験により確認した。
3 結果と考察
3-1 システム基本性能評価試験結果と考察
開発したシステムを用いて,簡単な3次元形状モデ ルを用いて溶接実験を行い,その動作確認を行うとと もに,その性能を評価した。またサブテーブルの熱影 響については,熱伝達のシミュレーション評価を行っ た。
図−7に傾斜面に対して直線溶接を行ったワークを 示す。直線溶接については,ピッチ3.5mmで均等に溶 接されていることが確認できた。
図−7 傾斜面の直線溶接例
またNC 工作機械を使用するため,図−8に示すよ うな,曲率半径20mmの曲線溶接なども可能となるこ とが判った。このような作業については,熟練した作 業者にとっても困難な作業となるため,オンマシンウ ェルディングシステムの優位性が高まると考えられる。
また,オンマシンウェルディングシステムで行った 溶接についてせん断検査を行った結果,溶接のみが剥 脱するようなことはなかった。
図−8 曲線溶接例
さらに,工具顕微鏡を用い溶接部断面の組織観察を 行った。組織観察顕微鏡写真を図−9に示す。溶接部 は溶接母材に溶け込み深さ 1.3mmでしっかり溶け込 んでいることが確認でき,気孔,溶接割れなどの溶接 欠陥も観察されなかった。
図−9 組織観察写真
このことから,オンマシンウェルディングシステム としての機能を満足していると判断できる。
CAD/CAM ソフト上で熱解析を行うことが可能な ソフト(コスモスワークス)を使用し,サブテーブル 上のワークに熱を加えた場合の熱の伝わり方のシミュ レーションを行った。シミュレーション結果の一例を 図−10に示す。
図−10 熱伝達解析(溶接10分後)
溶接時間 10 分ではサブテーブル上で溶接熱を受け ることができ,工作機械のテーブルには熱の変化がな いことがわかった。このことから,サブテーブルを用 いることで,工作機械に熱影響を及ぼすことなく溶接 できることが判断できた。
さらに、スペクトラムアナライザを用い溶接機が出
す電磁ノイズをピークホールドモードで測定した。パ ソコンに比べて放射レベルが大きいが,常時存在する 電磁ノイズではないため,実害はそれ程大きくないと 考えられる。測定結果を図−11に示す。
加工機1・ON時垂直30M〜300MHz (200A)
0 20 40 60 80 100 120
0 100 200 300
周波数(MHz)
受信レベル(dBμV)
P1
図−11 ノイズ測定結果
また,オンマシンウェルディングシステムを用いる ことで熟練者でもできないような正確な形状溶接など が行えることがわかった。このことは,今後補修溶接 ばかりでなく,部品製作において削りだしで作成して いた部品の製作においても,肉盛溶接後加工すること で,多量なくず鉄となる切粉の排出量を大幅に減らす 効果があることもわかった。このことから,今後の新 たな製品のセールスポイントとなると考えられる。
4 まとめ
本年度は,オンマシンウェルディング装置のハード ウエアの試作と,基本ソフトの整備を行うとともに,
基本的な溶接実験を実施し,製品化が可能な「オンマ シンウェルディングシステム」開発の基礎技術を確立 した。
5 参考文献
1) 竹下朋春他:工作機械上での溶接システム (特願 2000-79621)
2) 野中智博他:工具経路算出方法 (特許番号 第3010002号)