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Vol.65 , No.1(2016)082金 炳坤「」身延山の海東仏教関連資料についてf

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全文

(1)

れ,そこで一時保管されることになった.それが 1976 年の完成を待って,再び宝 蔵に戻されることになったのであるが,収蔵スペース上の問題からか,この段階 で資料の一部(主に刊本類)がそのまま残ることになり,その後,1988 年に図書館 の建物が完成するに伴い,本館から図書館へと場所を変え,引き続き保管される ことになったと推測される. このようにして宝蔵の資料は,山内では身延文庫のほかに,身延山大学図書館 においても所蔵されるようになったのである.現在同館では,館内資料の管理用 として内部での利用を原則とする「身延山大学図書館所蔵古典籍目録」が作成さ れているが,この中には,身延文庫の一部であるこれらの資料に限らず,かつて より同館に所蔵されていた資料が区別されないまま一括して収録されている.そ のため,宝蔵由来の資料か否かを判断するためには,蔵書印の有無を確認する以 外はない.このような複雑な事情もあり,この「古典籍目録」が外部に公開され ることはこれまでになかった. ここで簡単に本目録の全体像について触れておきたい.本目録は 22 の部類に分 かれており,部類ごとの登録件数は下記のとおりである.そして,部類ごとに振 られている登録件数を合すると,その総数は 4,406 となる.  天台宗 941 日蓮宗 1,227 華厳宗 165 真言宗 126  浄土宗 40 浄土真宗 19 禅宗 65 俱舎論 61  唯識論 131 三論 68 律宗 25 仏・辞書 32  仏・歴史 49 仏・説法 49 仏・各宗 16 仏・その他 57  漢籍 256 唐本 104 和書 709 貴重本 196  貴重本・唐本 49 貴重本・身延山関係等 22 さらに同館には,坂本幸男(1899–1973)博士の蔵書をはじめ,11 件の個人文庫 が所蔵されており,そのうち 6 件については『坂本日深文庫蔵書目録』など文庫 ごとの「古典籍目録」が作成されている.

3.海東仏教諸師章疏について

本稿は,身延文庫並びに身延山大学図書館が所蔵する海東仏教諸師章疏につい て調査し,これを紹介することを目的とする.調査にあたっては『身延文庫典籍 目録』と身延山大学図書館が作成した「身延山大学図書館所蔵古典籍目録」(9 つ の Excel file)を使用した.これらの目録にみられる海東仏教諸師章疏をまとめる と,下記のとおりである2) 身延山の海東仏教関連資料について(金) (27)

身延山の海東仏教関連資料について

金  炳 坤

1.はじめに

身延文庫(身延山宝蔵)に蔵される海東仏教諸師章疏については『身延文庫典籍 目録 下』(p. 30)に記されるが如く,元暁(617–686)述『菩薩戒本持犯要記』の写 本 2 点(余宗 15/16)の所蔵が確認できるほか,2010 年には『身延文庫典籍目録 下』(p. 31)に記される「無量寿経述記巻第一」(余宗 24)が,それまで逸書扱いに なっていた義寂(7 世紀)撰『無量寿経述記』であることが,南宏信博士によって 明らかとなり,2013 年には,その影印・翻刻をはじめとする研究成果が『日本古 写経善本叢刊 5』において発表されている. 言うまでもないが,上二疏の所蔵並びに発見は『身延文庫典籍目録』の公刊な しでは知り得なかった,当蔵書目録に基づく成果の一つであると言わねばならな い.しかしながら,本目録の収録典籍は,西蔵に蔵される重要書・写本類に限る もので,東蔵や身延山大学図書館に委託保管されている板本書籍類は収録されて いない.また,本目録の作成にあたり,その中心的役割を担われた望月真澄博士 によると,数箱分の未調査資料が存在するとのことであるから,今後の追加調査 による新発見の可能性に期待を寄せるばかりである.

2.身延山大学図書館の身延文庫資料について

前述のとおり,現在,身延山大学図書館には身延文庫より委託保管されている 宝蔵由来の資料が所蔵されている1).その経緯については,当時の記録が残って いないために判然とせず,現時点では,当時のことに詳しい関係諸氏への聞き取 り調査による情報に頼るしかないが,これまでの調査によって分かったことをま とめると,次のようである. 今から 40 年ほど前の東西両蔵の新築に際して,宝蔵に保管されていた資料が, 現在の身延山大学の前身である身延山短期大学の図書館(現在の本館)に移動さ (26) 印度學佛敎學硏究第 65 巻第 1 号 平成 28 年 12 月

(2)

れ,そこで一時保管されることになった.それが 1976 年の完成を待って,再び宝 蔵に戻されることになったのであるが,収蔵スペース上の問題からか,この段階 で資料の一部(主に刊本類)がそのまま残ることになり,その後,1988 年に図書館 の建物が完成するに伴い,本館から図書館へと場所を変え,引き続き保管される ことになったと推測される. このようにして宝蔵の資料は,山内では身延文庫のほかに,身延山大学図書館 においても所蔵されるようになったのである.現在同館では,館内資料の管理用 として内部での利用を原則とする「身延山大学図書館所蔵古典籍目録」が作成さ れているが,この中には,身延文庫の一部であるこれらの資料に限らず,かつて より同館に所蔵されていた資料が区別されないまま一括して収録されている.そ のため,宝蔵由来の資料か否かを判断するためには,蔵書印の有無を確認する以 外はない.このような複雑な事情もあり,この「古典籍目録」が外部に公開され ることはこれまでになかった. ここで簡単に本目録の全体像について触れておきたい.本目録は 22 の部類に分 かれており,部類ごとの登録件数は下記のとおりである.そして,部類ごとに振 られている登録件数を合すると,その総数は 4,406 となる.  天台宗 941 日蓮宗 1,227 華厳宗 165 真言宗 126  浄土宗 40 浄土真宗 19 禅宗 65 俱舎論 61  唯識論 131 三論 68 律宗 25 仏・辞書 32  仏・歴史 49 仏・説法 49 仏・各宗 16 仏・その他 57  漢籍 256 唐本 104 和書 709 貴重本 196  貴重本・唐本 49 貴重本・身延山関係等 22 さらに同館には,坂本幸男(1899–1973)博士の蔵書をはじめ,11 件の個人文庫 が所蔵されており,そのうち 6 件については『坂本日深文庫蔵書目録』など文庫 ごとの「古典籍目録」が作成されている.

3.海東仏教諸師章疏について

本稿は,身延文庫並びに身延山大学図書館が所蔵する海東仏教諸師章疏につい て調査し,これを紹介することを目的とする.調査にあたっては『身延文庫典籍 目録』と身延山大学図書館が作成した「身延山大学図書館所蔵古典籍目録」(9 つ の Excel file)を使用した.これらの目録にみられる海東仏教諸師章疏をまとめる と,下記のとおりである2)

身延山の海東仏教関連資料について

金  炳 坤

1.はじめに

身延文庫(身延山宝蔵)に蔵される海東仏教諸師章疏については『身延文庫典籍 目録 下』(p. 30)に記されるが如く,元暁(617–686)述『菩薩戒本持犯要記』の写 本 2 点(余宗 15/16)の所蔵が確認できるほか,2010 年には『身延文庫典籍目録 下』(p. 31)に記される「無量寿経述記巻第一」(余宗 24)が,それまで逸書扱いに なっていた義寂(7 世紀)撰『無量寿経述記』であることが,南宏信博士によって 明らかとなり,2013 年には,その影印・翻刻をはじめとする研究成果が『日本古 写経善本叢刊 5』において発表されている. 言うまでもないが,上二疏の所蔵並びに発見は『身延文庫典籍目録』の公刊な しでは知り得なかった,当蔵書目録に基づく成果の一つであると言わねばならな い.しかしながら,本目録の収録典籍は,西蔵に蔵される重要書・写本類に限る もので,東蔵や身延山大学図書館に委託保管されている板本書籍類は収録されて いない.また,本目録の作成にあたり,その中心的役割を担われた望月真澄博士 によると,数箱分の未調査資料が存在するとのことであるから,今後の追加調査 による新発見の可能性に期待を寄せるばかりである.

2.身延山大学図書館の身延文庫資料について

前述のとおり,現在,身延山大学図書館には身延文庫より委託保管されている 宝蔵由来の資料が所蔵されている1).その経緯については,当時の記録が残って いないために判然とせず,現時点では,当時のことに詳しい関係諸氏への聞き取 り調査による情報に頼るしかないが,これまでの調査によって分かったことをま とめると,次のようである. 今から 40 年ほど前の東西両蔵の新築に際して,宝蔵に保管されていた資料が, 現在の身延山大学の前身である身延山短期大学の図書館(現在の本館)に移動さ

(3)

一部(日蓮宗関連)と,B2 でも和装本(特殊文庫以外)に分類されている ⑲ は検 索できる.しかし,その他はまだ登録されていない.なお,⑫ の貴重本 174 は, 図書館のホームページに画像データが公開されている4) C に属する資料は検索できるが,C4 と C5 に関しては「古典籍目録」に記載さ れていない資料が数十点ほどあるとのことである.なお,検索できる資料は,該 当項目の注記において,刊記等の書誌情報を確認することができる. 従って以下では,これまでに未公開であったがために,書誌情報を確認するこ とができなかった B に属する資料を中心に,簡単ながら,今回の実見調査中に確 認できた一二点について記しておきたい.② の 2 点と ③ の 3 点はそれぞれ万治 二年(1659)と元禄九年(1696)の同版であるが版元は異なる.④ は光緒二十五年 (1899)の金陵刻経処のものである.⑤ の 3 点は元禄十四年(1701)の同版である が,前 2 者と後者は版元を異にする.⑫ の 2 点は同版であるが,刊記を有しない (江戸時代初期か).⑬ の貴重本・唐本 13 は光緒二十三年(1897)の金陵刻経処のも のである.ちなみに,⑦ は坂本幸男博士が昭和十一年(1936)に龍谷大学図書館 蔵本(263.2/26–W/1–2)を書写したものである5).⑩ は日蓮(1222–1282)の遺文に 直接引用がみられる唯一の海東章疏である6) 上記の 20 種は,すべて既知の文献であり,必ずしも同版を底本にしているもの ではないが,一応『韓国仏教全書』に ⑤,⑥(ただし復元を収録する),⑪ を除く すべてのテキストが収録されている. とくに,① 元暁述『菩薩戒本持犯要記』(以下,『持犯要記』)と,⑱ 諦観(?–970) 録『天台四教儀』(以下,『四教儀』)については,特記するべき事項があるため, 別項を設け若干の考察を加えることにしたい.

4.身延文庫本『菩薩戒本持犯要記』について

すでに『仏書解説大辞典』(9, 393)において指摘されているように『持犯要記』 は,① 承応三刊(1654,妙長寺文庫 31),② 貞享三刊(1686),③ 元禄元刊(1688) の 3 種の刊本が知られている.『大正』(1927)は,このうち ① を底本にしている が,筆者の調査によれば全同ではない.また『続蔵』(1909)は,古本としか明か さないため,その底本が定かでなかったが,今回の調査により,② を底本にして いることが判別できた.そして ③ は,① をベースに ② を参照して刊行したもの と考えられる.3 種の刊本は,共通して「寛元二(甲辰)十一月二十四日摸功畢/ 勧進大安寺僧信忍」という刊記を有するため,これにより,その大本が寛元二年 身延山の海東仏教関連資料について(金) (29) 【新羅撰述】 ①菩薩戒本持犯要記 新羅国沙門元暁述  (身延文庫・余宗 15/16,妙長寺文庫 31) …… 3 点 ②大乗起信論別記 海東沙門元暁撰(華厳宗 144,坂本文庫 764) …… 2 点 ③起信論疏 釈元暁撰(華厳宗 6~8) …… 3 点 ④大乗起信論疏記会本 唐海東沙門元暁疏幷別記(貴重本・唐本 7) …… 1 点 ⑤華厳経問答3)[錐洞記の異本] 沙門釈法蔵撰[義相説智通記]  (華厳宗 80/81,坂本文庫 289) …… 3 点 ⑥無量寿経述記 [釈義寂撰](身延文庫・余宗 24) …… 1 点 ⑦華厳経文義要決問答 皇龍寺釈表員集(坂本文庫 330) …… 1 点 ⑧瑜伽論記 釈遁倫集撰(坂本文庫 713) …… 1 点 ⑨大毘盧遮那経供養次第法疏 零妙寺僧釈不可思議撰(坂本文庫 449) …… 1 点 ⑩梵網経古迹記 青丘沙門太賢撰(妙長寺文庫 349) …… 1 点 ⑪頭書梵網経古迹記 青丘太賢撰(坂本文庫 633,妙長寺文庫 350) …… 2 点 ⑫菩薩戒本宗要 青丘沙門太賢撰(貴重本 173/174) …… 2 点 ⑬唐大薦福寺故寺主翻経大徳法蔵和尚伝 海東新羅国(中略)崔致遠結  (貴重本・唐本 13,坂本文庫 16/345) …… 3 点 【高麗撰述】 ⑭十句章円通記 [釈均如説](坂本文庫貴重本 46) …… 1 点 ⑮釈華厳旨帰章円通鈔 [釈均如説](坂本文庫貴重本 45) …… 1 点 ⑯華厳経三宝章円通記 [釈均如説](坂本文庫貴重本 47) …… 1 点 ⑰釈華厳教分記円通鈔 [釈均如説](坂本文庫貴重本 48) …… 1 点 ⑱天台四教儀 高麗沙門諦観録(天台宗 577~593,貴重本 71,坂本文庫 169,  平原文庫 62~68,松木文庫 30~32,妙長寺文庫 24,中谷文庫 31/32) ……32 点 ⑲大蔵目録 [釈守其](貴重本 176) …… 1 点 【朝鮮撰述】 ⑳禅家亀鑑 曹溪退隠述(妙長寺文庫 227) …… 1 点 なお,④ の会本と ⑪ の頭書は,後人の手が加えられたものであるが,それな りの資料的価値を有すると考えられるため,ここに加えることにした. 資料種別の内訳は,A 身延文庫(宝蔵)に 3 点,B1 身延文庫(図書館)に 4 点 (華厳宗 6/80,天台宗 581/582),B2 身延山大学図書館に 25 点,C 同館の個人文庫 中,C1 坂本文庫(坂本日深旧蔵)に 13 点,C2 平原文庫(平原要俊旧蔵)に 7 点, C3 松木文庫(松木本興旧蔵)に 3 点,C4 妙長寺(三重県)文庫に 5 点,C5 中谷文 庫(中谷良英旧蔵)に 2 点と,合計 62 点である. 図書館の蔵書検索システム(2016 年 8 月 31 日現在)からは,B に属する資料は基 本的には検索できないが,2016 年度より登録が始められ,B1(身延文庫和装本)の (28) 身延山の海東仏教関連資料について(金)

(4)

一部(日蓮宗関連)と,B2 でも和装本(特殊文庫以外)に分類されている ⑲ は検 索できる.しかし,その他はまだ登録されていない.なお,⑫ の貴重本 174 は, 図書館のホームページに画像データが公開されている4) C に属する資料は検索できるが,C4 と C5 に関しては「古典籍目録」に記載さ れていない資料が数十点ほどあるとのことである.なお,検索できる資料は,該 当項目の注記において,刊記等の書誌情報を確認することができる. 従って以下では,これまでに未公開であったがために,書誌情報を確認するこ とができなかった B に属する資料を中心に,簡単ながら,今回の実見調査中に確 認できた一二点について記しておきたい.② の 2 点と ③ の 3 点はそれぞれ万治 二年(1659)と元禄九年(1696)の同版であるが版元は異なる.④ は光緒二十五年 (1899)の金陵刻経処のものである.⑤ の 3 点は元禄十四年(1701)の同版である が,前 2 者と後者は版元を異にする.⑫ の 2 点は同版であるが,刊記を有しない (江戸時代初期か).⑬ の貴重本・唐本 13 は光緒二十三年(1897)の金陵刻経処のも のである.ちなみに,⑦ は坂本幸男博士が昭和十一年(1936)に龍谷大学図書館 蔵本(263.2/26–W/1–2)を書写したものである5).⑩ は日蓮(1222–1282)の遺文に 直接引用がみられる唯一の海東章疏である6) 上記の 20 種は,すべて既知の文献であり,必ずしも同版を底本にしているもの ではないが,一応『韓国仏教全書』に ⑤,⑥(ただし復元を収録する),⑪ を除く すべてのテキストが収録されている. とくに,① 元暁述『菩薩戒本持犯要記』(以下,『持犯要記』)と,⑱ 諦観(?–970) 録『天台四教儀』(以下,『四教儀』)については,特記するべき事項があるため, 別項を設け若干の考察を加えることにしたい.

4.身延文庫本『菩薩戒本持犯要記』について

すでに『仏書解説大辞典』(9, 393)において指摘されているように『持犯要記』 は,① 承応三刊(1654,妙長寺文庫 31),② 貞享三刊(1686),③ 元禄元刊(1688) の 3 種の刊本が知られている.『大正』(1927)は,このうち ① を底本にしている が,筆者の調査によれば全同ではない.また『続蔵』(1909)は,古本としか明か さないため,その底本が定かでなかったが,今回の調査により,② を底本にして いることが判別できた.そして ③ は,① をベースに ② を参照して刊行したもの と考えられる.3 種の刊本は,共通して「寛元二(甲辰)十一月二十四日摸功畢/ 勧進大安寺僧信忍」という刊記を有するため,これにより,その大本が寛元二年 【新羅撰述】 ①菩薩戒本持犯要記 新羅国沙門元暁述  (身延文庫・余宗 15/16,妙長寺文庫 31) …… 3 点 ②大乗起信論別記 海東沙門元暁撰(華厳宗 144,坂本文庫 764) …… 2 点 ③起信論疏 釈元暁撰(華厳宗 6~8) …… 3 点 ④大乗起信論疏記会本 唐海東沙門元暁疏幷別記(貴重本・唐本 7) …… 1 点 ⑤華厳経問答3)[錐洞記の異本] 沙門釈法蔵撰[義相説智通記]  (華厳宗 80/81,坂本文庫 289) …… 3 点 ⑥無量寿経述記 [釈義寂撰](身延文庫・余宗 24) …… 1 点 ⑦華厳経文義要決問答 皇龍寺釈表員集(坂本文庫 330) …… 1 点 ⑧瑜伽論記 釈遁倫集撰(坂本文庫 713) …… 1 点 ⑨大毘盧遮那経供養次第法疏 零妙寺僧釈不可思議撰(坂本文庫 449) …… 1 点 ⑩梵網経古迹記 青丘沙門太賢撰(妙長寺文庫 349) …… 1 点 ⑪頭書梵網経古迹記 青丘太賢撰(坂本文庫 633,妙長寺文庫 350) …… 2 点 ⑫菩薩戒本宗要 青丘沙門太賢撰(貴重本 173/174) …… 2 点 ⑬唐大薦福寺故寺主翻経大徳法蔵和尚伝 海東新羅国(中略)崔致遠結  (貴重本・唐本 13,坂本文庫 16/345) …… 3 点 【高麗撰述】 ⑭十句章円通記 [釈均如説](坂本文庫貴重本 46) …… 1 点 ⑮釈華厳旨帰章円通鈔 [釈均如説](坂本文庫貴重本 45) …… 1 点 ⑯華厳経三宝章円通記 [釈均如説](坂本文庫貴重本 47) …… 1 点 ⑰釈華厳教分記円通鈔 [釈均如説](坂本文庫貴重本 48) …… 1 点 ⑱天台四教儀 高麗沙門諦観録(天台宗 577~593,貴重本 71,坂本文庫 169,  平原文庫 62~68,松木文庫 30~32,妙長寺文庫 24,中谷文庫 31/32) ……32 点 ⑲大蔵目録 [釈守其](貴重本 176) …… 1 点 【朝鮮撰述】 ⑳禅家亀鑑 曹溪退隠述(妙長寺文庫 227) …… 1 点 なお,④ の会本と ⑪ の頭書は,後人の手が加えられたものであるが,それな りの資料的価値を有すると考えられるため,ここに加えることにした. 資料種別の内訳は,A 身延文庫(宝蔵)に 3 点,B1 身延文庫(図書館)に 4 点 (華厳宗 6/80,天台宗 581/582),B2 身延山大学図書館に 25 点,C 同館の個人文庫 中,C1 坂本文庫(坂本日深旧蔵)に 13 点,C2 平原文庫(平原要俊旧蔵)に 7 点, C3 松木文庫(松木本興旧蔵)に 3 点,C4 妙長寺(三重県)文庫に 5 点,C5 中谷文 庫(中谷良英旧蔵)に 2 点と,合計 62 点である. 図書館の蔵書検索システム(2016 年 8 月 31 日現在)からは,B に属する資料は基 本的には検索できないが,2016 年度より登録が始められ,B1(身延文庫和装本)の

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板であり,巻末に諦観法師伝と四教儀本末注書総目が載っている.この異本にヨ A 平原文庫 65,ヨ B 平原文庫 62,ヨ C 平原文庫 68,ヨ D 天台宗 584 があるが, 詳細は紙面の関係上省略する.以上は版心を四教儀とするのが特徴である. レに該当する天台宗 581~583/586/587/591/592,平原文庫 63/64 は,嘉 永四年(1851)の刊本で,東叡山蔵版の嘉永再刻であり,巻末に慧澄(1780–1862) の跋が付いている.ネに該当する天台宗 585 は,明治十一年(1878)の刊本で, 東叡山蔵版の明治三刻であり,巻頭に諦観法師真像が,巻末に東叡山寛永寺蔵版 目録が載っている.天台宗 589/590,平原文庫 66 は,明治十八年(1885)の刊本 で,ネに似ているが同版ではなく,四周単辺が特徴である. 松木文庫 31,中谷文庫 31/32 は,明治十九年(1886)の刊本で,義水智泉の頭 書傍註である.坂本文庫 169,松木文庫 32 は,明治二十一年(1888)の刊本で, 町元呑空の冠導である.松木文庫 30 は,明治二十一年(1888)の刊本で,森井国 雄の冠導傍訓である.平原文庫 67 は,明治二十八年(1895)の写本で,レかネを 底本に書写したものと考えられる.ナに該当する天台宗 593 は,出版年不明の刊 本(題簽に新板校正とある)で,平楽寺村上勘兵衛のものである. 海東での本書の刊行史は『朝鮮史料集真 続』にその図版(pl. 15)が載っている 大安五年(1089)の海印寺重刻よりこれをたどることができる.日本でも上記に あげた身延山資料からも分かるように,幾度もなく刊行され,本書を学門の基礎 に据える伝統が築かれている.そして筆者もその恩恵に与った一人である.

6.おわりに

かくして本稿では,身延文庫と身延山大学図書館の未公開資料を含め,海東仏 教関連資料について紹介し,その全体像を明らかにした.ことに『持犯要記』と 『四教儀』については,それらの資料的価値について詳述した. さて,身延山大学東洋文化研究所は 2012 年より韓国の金剛大学校仏教文化研究 所と身延山内の資料に関する共同研究を行っており,また 2015 年からは東国大学 校仏教文化研究院と学術交流協定を締結し同趣の共同研究を企画している. このような中,両研究機関より身延山の海東仏教関連資料のリスト提供の要請 を受け,同研究所の副主任である筆者がその役を務めることになった.本稿はそ の要請にこたえるためのものでもある. 〈付記〉本稿の作成にあたり,身延山大学図書館の望月真澄館長,宇佐美玄秀氏,佐野賀 身延山の海東仏教関連資料について(金) (31) (1244)のテキストであることが推定できる.このテキストについては,摸板一枚 (末尾)が西大寺に在ることと,これが大安寺版であることが,大屋(1923, 191)に おいて指摘されており,大屋 1926 には,所在を明記していないが,別なるもう一 本(巻子本)の巻末の図版(pl. 22)が掲載されている. さて,身延文庫所蔵の写本 2 点であるが,結論からいうと,身延文庫本は,現 時点で確認できる最古の版本である,この大安寺版を忠実に書写したものと考え られる.それは,あくまでも上記の図版(12 行)との比較による推定にすぎない が,1 行 20 字とする版式が全く一致するからである.ただし,身延文庫本は 2 点 とも奥書を有しないため,書写年代は不明とせねばならない.身延文庫本のほか に『持犯要記』の写本は「寛永二十年(1643)/舜興(1593–1662)蔵」の識語をも つ正教蔵文庫本(312–239–5)と「弘安六年(1283)」の識語をもつ同文庫本(312– 239–6)があり,筆者は未見であるが『金沢文庫古書目録』に記される「持犯要記 /湛睿(1271–1347)手沢本」(p. 313)と「菩薩戒本持犯要記」(p. 449)の,計 4 点 が知られている. 必ずしも古本が善本とは限らないが,その歴史的な展開を鑑みれば,それがよ り原典に近い形を保っていることは否定できない.従って身延文庫本は,テキス トクリティークの観点より,古本なり善本に基づく『持犯要記』の定本化に向け て,欠くことのできない一資料として位置づけられることを,ここに指摘してお きたい.

5.諦観録『天台四教儀』の諸本について

とりわけ,32 点と最多である『四教儀』については,多種多様なる資料がそ ろっているために,以下では身延山大学図書館が所蔵する『四教儀』の諸本につ いて分類しておくことにしたい.これにはニからナまでの日本の 18 種の刊本をあ げる『昭和現存天台書籍綜合目録』での分類が,一応の目安になると考えらえる ため,それとの対応関係を示しつつ,そこに指摘のない異本や未分類の諸本につ いては,筆者による新たな分類を提示しておきたい. ヘに該当する貴重本 71 は,寛永三年(1626)の刊本で,尾題がないのが特徴で ある.ルに該当する天台宗 577/578 は,延宝四年(1676)の刊本で,中村五兵衛 の開板であり,巻末に承応三年(1654)の日峯の跋が付いている.妙長寺文庫 24 は,この異本で,巻末に蓍屋宗八版の目録が載っている. ヨに該当する天台宗 579/580/588 は,元禄六年(1693)の刊本で,東叡山蔵 (30) 身延山の海東仏教関連資料について(金)

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板であり,巻末に諦観法師伝と四教儀本末注書総目が載っている.この異本にヨ A 平原文庫 65,ヨ B 平原文庫 62,ヨ C 平原文庫 68,ヨ D 天台宗 584 があるが, 詳細は紙面の関係上省略する.以上は版心を四教儀とするのが特徴である. レに該当する天台宗 581~583/586/587/591/592,平原文庫 63/64 は,嘉 永四年(1851)の刊本で,東叡山蔵版の嘉永再刻であり,巻末に慧澄(1780–1862) の跋が付いている.ネに該当する天台宗 585 は,明治十一年(1878)の刊本で, 東叡山蔵版の明治三刻であり,巻頭に諦観法師真像が,巻末に東叡山寛永寺蔵版 目録が載っている.天台宗 589/590,平原文庫 66 は,明治十八年(1885)の刊本 で,ネに似ているが同版ではなく,四周単辺が特徴である. 松木文庫 31,中谷文庫 31/32 は,明治十九年(1886)の刊本で,義水智泉の頭 書傍註である.坂本文庫 169,松木文庫 32 は,明治二十一年(1888)の刊本で, 町元呑空の冠導である.松木文庫 30 は,明治二十一年(1888)の刊本で,森井国 雄の冠導傍訓である.平原文庫 67 は,明治二十八年(1895)の写本で,レかネを 底本に書写したものと考えられる.ナに該当する天台宗 593 は,出版年不明の刊 本(題簽に新板校正とある)で,平楽寺村上勘兵衛のものである. 海東での本書の刊行史は『朝鮮史料集真 続』にその図版(pl. 15)が載っている 大安五年(1089)の海印寺重刻よりこれをたどることができる.日本でも上記に あげた身延山資料からも分かるように,幾度もなく刊行され,本書を学門の基礎 に据える伝統が築かれている.そして筆者もその恩恵に与った一人である.

6.おわりに

かくして本稿では,身延文庫と身延山大学図書館の未公開資料を含め,海東仏 教関連資料について紹介し,その全体像を明らかにした.ことに『持犯要記』と 『四教儀』については,それらの資料的価値について詳述した. さて,身延山大学東洋文化研究所は 2012 年より韓国の金剛大学校仏教文化研究 所と身延山内の資料に関する共同研究を行っており,また 2015 年からは東国大学 校仏教文化研究院と学術交流協定を締結し同趣の共同研究を企画している. このような中,両研究機関より身延山の海東仏教関連資料のリスト提供の要請 を受け,同研究所の副主任である筆者がその役を務めることになった.本稿はそ の要請にこたえるためのものでもある. 〈付記〉本稿の作成にあたり,身延山大学図書館の望月真澄館長,宇佐美玄秀氏,佐野賀 (1244)のテキストであることが推定できる.このテキストについては,摸板一枚 (末尾)が西大寺に在ることと,これが大安寺版であることが,大屋(1923, 191)に おいて指摘されており,大屋 1926 には,所在を明記していないが,別なるもう一 本(巻子本)の巻末の図版(pl. 22)が掲載されている. さて,身延文庫所蔵の写本 2 点であるが,結論からいうと,身延文庫本は,現 時点で確認できる最古の版本である,この大安寺版を忠実に書写したものと考え られる.それは,あくまでも上記の図版(12 行)との比較による推定にすぎない が,1 行 20 字とする版式が全く一致するからである.ただし,身延文庫本は 2 点 とも奥書を有しないため,書写年代は不明とせねばならない.身延文庫本のほか に『持犯要記』の写本は「寛永二十年(1643)/舜興(1593–1662)蔵」の識語をも つ正教蔵文庫本(312–239–5)と「弘安六年(1283)」の識語をもつ同文庫本(312– 239–6)があり,筆者は未見であるが『金沢文庫古書目録』に記される「持犯要記 /湛睿(1271–1347)手沢本」(p. 313)と「菩薩戒本持犯要記」(p. 449)の,計 4 点 が知られている. 必ずしも古本が善本とは限らないが,その歴史的な展開を鑑みれば,それがよ り原典に近い形を保っていることは否定できない.従って身延文庫本は,テキス トクリティークの観点より,古本なり善本に基づく『持犯要記』の定本化に向け て,欠くことのできない一資料として位置づけられることを,ここに指摘してお きたい.

5.諦観録『天台四教儀』の諸本について

とりわけ,32 点と最多である『四教儀』については,多種多様なる資料がそ ろっているために,以下では身延山大学図書館が所蔵する『四教儀』の諸本につ いて分類しておくことにしたい.これにはニからナまでの日本の 18 種の刊本をあ げる『昭和現存天台書籍綜合目録』での分類が,一応の目安になると考えらえる ため,それとの対応関係を示しつつ,そこに指摘のない異本や未分類の諸本につ いては,筆者による新たな分類を提示しておきたい. ヘに該当する貴重本 71 は,寛永三年(1626)の刊本で,尾題がないのが特徴で ある.ルに該当する天台宗 577/578 は,延宝四年(1676)の刊本で,中村五兵衛 の開板であり,巻末に承応三年(1654)の日峯の跋が付いている.妙長寺文庫 24 は,この異本で,巻末に蓍屋宗八版の目録が載っている. ヨに該当する天台宗 579/580/588 は,元禄六年(1693)の刊本で,東叡山蔵

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高麗大蔵経初雕本所収の『普超三昧経』について

宮 崎 展 昌

1.はじめに

『普超三昧経』(以下,『普超経』と略称)は,初期大乗経典である〈阿闍世王経〉 *Ajātaśatrukaukṛtyavinodana の現存する漢訳の一つであり,西暦 286 年(太康七年) に,長安で竺法護によって訳出されたと伝わる1) 1.1. 本研究の方法と目的および本稿で扱う資料 本稿では,以下に掲げる 4 種の大蔵経関連の資料所収の『普超経』について, 主に異読の共有関係にもとづき,それらの相互関係を調査・検討する. ①高麗蔵初雕本:11 世紀に高麗で雕造.南禅寺に所蔵されていた版本が近年発見 され,2010 年に Web で公表され,のちに影印版が刊行.10 世紀に四川で開板 された開宝蔵の覆刻とされる.[形式]1 行 14 字,1 紙 23 行,「恭」字号. ②高麗蔵再雕本:13 世紀に高麗で雕造.版木は韓国・海印寺に現存.雕造に際し て開宝蔵や初雕本,契丹蔵などを用いて校訂が施されたとされる.底本につい ては,柳[2015]によれば,開宝蔵によるものと初雕本によるものが混在する が,『普超経』は開宝蔵を底本とするとみられる.形式その他は初雕本と同じ. ③聖語蔵経巻:「唐経」に分類され,中国で筆写されたものとみられる.奥書な し.押されている「東大寺印」から 7 世紀後半以前の筆写とみられる.(田中 [1999]参照),[形式]1 行 17 字,1 紙 26 行から 28 行. ④房山石経:北京近郊の房山雲居寺に現存する石経群.『普超経』に刻年は残され ていないが,陳[1995]によれば,遼の道宗代(1056–1093)に作成されたとみ られる.唐代刻経と同じく,縦長の形式で彫られるが,「鞠」字号が振られ,他 の遼・金代刻経同様,契丹蔵を底本としたとみられる. 本稿ではいわゆる江南諸蔵は調査対象としないが,江南諸蔵はいずれも 4 巻本 構成であり,大正蔵の脚注にもあるように江南諸蔵でのみ共有される読みが相当 数確認できる.3 巻本構成となっている上記 4 種の資料と江南諸蔵とは異なるグ 印度學佛敎學硏究第 65 巻第 1 号 平成 28 年 12 月 (33) 津子氏,寺田文代氏,沼田晃祐氏に様々なご高配を賜った.心より感謝申し上げる次第 である.  1)身延文庫典籍調査会(2005, 676–677)に「身延山大学図書館に近代以降の典籍が所 蔵されている.この中には,過去に身延文庫に所蔵されていたものも含まれており, 今後の確認調査が必要とされる(望月真澄)」とある.  2)書名は該当資料の内題か尾題により,著者名等は内題に続くものを,また不明記の 場合は『韓国仏教全書』によった.  3)金剛大学校仏教文化研究所(2012)参照.  4)http://www.min.jp/library/bosatukai.html 参照.  5)金天鶴(2014, 68(n. 71))参照.この点については金天鶴博士よりご教示戴いた.記 して深く感謝申し上げたい.  6)金炳坤(2009, 30(n. 52))参照. 〈参考文献〉 小野玄妙編 1935『仏書解説大辞典 9』大東出版社. 大屋徳城 1923『寧楽刊経史』内外出版. ――― 編 1926『寧楽古経選 下』便利堂コロタイプ印刷所. 金沢文庫編 1939『金沢文庫古書目録』巌松堂書店. 金天鶴 2014「新羅仏教における慧遠の受容様相――『大乗義章』を中心として」『仏教学 研究』40: 41–81. 金炳坤 2009「日蓮撰『注法華経』の佐後注記説に対する疑問―― 「法華翻経後記」 を手 がかりとして」『大崎学報』165: 1–32. 国際仏教学大学院大学日本古写経研究所文科省戦略プロジェクト実行委員会編 2013『日 本古写経善本叢刊 5 書陵部蔵玄一撰 『無量寿経記』;身延文庫蔵義寂撰 『無量寿経述 記』』国際仏教学大学院大学日本古写経研究所文科省戦略プロジェクト実行委員会. 金剛大学校仏教文化研究所編 2012『金剛学術叢書 9 華厳経問答をめぐる諸問題』CIR. 渋谷亮泰編 1978『昭和現存天台書籍綜合目録 上 増補版』法蔵館. 東国大学校仏典刊行委員会内韓国仏教全書編纂委員編 1979–2004『韓国仏教全書』全 14 冊,東国大学校出版部. 朝鮮史編修会編 1937『朝鮮史料集真 続』朝鮮総督府. 南宏信 2010「新出 義寂撰『無量寿経述記』写本の検討」『仏教学レビュー』7: 101–122. 身延文庫典籍調査会編 2005『身延文庫典籍目録 下』身延山久遠寺. 〈キーワード〉 元暁,諦観,坂本日深,海印寺,大安寺,身延文庫,『菩薩戒本持犯要記』, 『天台四教儀』 (身延山大学准教授,博士(文学)) (32) 身延山の海東仏教関連資料について(金)

参照

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