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第 134 回講演会 (2016 年 5 月 19 日本航海学会講演予稿集日,5 月 20 日 ) 4 巻 1 号 2016 年 4 月 20 日 3. 操船シミュレータ実験 TI シリーズスーパータンカー ( 以後 解析対象船舶 という ) が掲げる灯火を例に 前章で掲げた問題が実際に起こり得るの

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小型船舶から見た大型船舶が掲げる法定灯火の問題点

正会員 ○西村 知久(海上保安大学校) 非会員 深浦 勝紀(海上保安大学校)

要旨 船舶の長大化および専用化に伴い、前部マスト灯と後部マスト灯の水平間距離が著しく長い船舶、あるい は、後部マスト灯から船尾までの距離が著しく長い船舶が建造されている。本研究では、TI シリーズスーパ ータンカー(全長 380m、前後部マスト灯の水平間距離約 300m)を例に、夜間において肉眼での視覚による 見張りを行う操船者から、このタンカーがどのような船舶であり、また、どのような動静であるように判断 されるのか、操船シミュレータを用いた実験を行った。その結果、当該タンカーをあたかも 2 隻の船舶のよ うに錯覚したり、全長を過小に判断したり、進行方向を誤認したりする傾向が見られた。また、類似の問題 として、最近建造されているコンテナ船や従来から運航されている引船列の灯火の危険性について警鐘を鳴 らし、COLLEGS の改正を視野に入れた灯火に関する抜本的な改善策の必要性について指摘している。 キーワード:航海法規、海上衝突予防法、マスト灯、通路灯、操船シミュレータ

1.はじめに

総トン数 20 トン未満の船舶(以後、「小型船舶」 という。)を操縦する者にとっては、旅客船を除く総 トン数 300 トン未満の船舶に対するレーダの搭載義 務がないこと(1)等から、視覚が主たる見張りの手段 になっていることが考えられる。 このため、特に小型船舶の夜間における操縦にお いて、他船の動静(本研究では、船舶の全長、進行 方向、船種を含む。)を判断する際には、当該他船が 掲げる海上衝突予防法第 3 章に規定された灯火(以 下、「灯火」という。)の見え方が頼りとなる。 灯火の視認性に関する研究ならびに灯火が要因 として考えられる衝突海難事故分析に関する研究と しては、例えば、神田(2)、兪ら(3)、古莊ら(4)の研究が ある。しかしながら、灯火を掲げる船舶の動静に関 し、他船からどのように判断されるのかについて行 われた研究は殆ど例を見ない。強いて言えば、筆者 が行った研究(5)があるが、当該研究は、海上衝突予 防法施行規則第 23 条の特例が適用される艦船を対 象としたものである。いわば、例外規定に対する研 究例であり、一般的な法令に則って灯火を掲げた船 舶に対するものではない。 本研究では、海上衝突予防法施行規則第 23 条の 特例が適用されない船舶で、特に全長の長い船舶が 掲げる灯火の配置について、幾何学的な考察からそ の問題点を抽出する。一例として、大型原油タンカ ーが掲げる灯火の配置について、抽出された問題が 実際に起こり得るのか否かを操船シミュレータ実験 によって検証する。

2.幾何学的考察

本稿執筆時において、就役している世界最大級の 原油タンカーとしては、全長 380m の TI シリーズス ーパータンカー(現 FSO)が挙げられる(6)。当該船 舶の写真(7)から判断するに、前部マスト灯と後部マ スト灯の水平間距離(以後、「前後部マスト灯の水平 間距離」という。)は、300m 程度と推定される。 日本の船舶運航会社が管理する VLCC 級のタンカ ーは、TI シリーズスーパータンカーよりも全長が短 いものの、文献(8)(9)に掲載された写真から判断する に、前後部マスト灯の水平間距離は、270m 程度と 推定される。 このように、前後部マスト灯の水平間距離が 270m から 300m 程度と長くなっている船舶の場合、図 1 が示すように、あたかも 2 隻の船舶が存在している ように錯覚されたり、全長を過小に判断されたり、 進行方向を誤認されたりする問題が考えられる。 約 30 0m 小型船舶からの視点 図 1 2 隻の船舶に誤認される例

(2)

3.

操船シミュレータ実験

TI シリーズスーパータンカー(以後、「解析対象 船舶」という。)が掲げる灯火を例に、前章で掲げた 問題が実際に起こり得るのか否か、操船シミュレー タ実験によって検証する。

3.1 シナリオの概要

図 2 にシナリオの概要を示す。初期位置における 自船(被験者が乗船する船舶)と解析対象船舶の距 離は 1790m である。両船は、同図に示す針路および 速力を保ち接近する。シミュレーション開始から 225 秒後(両船の距離が 435m)となった時点で、シ ミュレーションを終了する。 仮に、シミュレーションを終了せずに継続させた 場合、自船はシミュレーション開始から 300 秒後に 解析対象船舶の船首部付近に衝突することになる。 解析対象船舶の他、全長 150m の貨物船舶をシミ ュレーション終了時に自船の左舷正横約 2 マイルで 航過するよう配置している。当該船舶を配置した理 由は、解析対象船舶に対し、過度に意識を集中させ ないようにするための囮(おとり)である。

3.2 被験者ならびに見張りの条件

海上保安庁の 30 メートル型巡視艇(PC 型巡視艇) の船長 33 人(一級海技士 1 人、二級海技士 31 人、 三級海技士 1 人)を被験者とした。 被験者に対しては、どの船舶が解析対象船舶であ るのかを知らせていない。また、小型船舶の操縦を 想定しているため、肉眼での視覚による見張りとし、 レーダ、コンパスレピータ、双眼鏡等の航海計器お よび航海用具の使用は一切認めていない。

3.3 調査項目

シミュレーション終了後、被験者に対し、自船の 周囲に存在する船舶隻数(問 1)、自船の針路を 12 時としたときの各船舶の進行方向(問 2)、各船舶の 全長(問 3)、自船と各船舶との接近状況(問 4)に 関するアンケート調査を行った。 なお、問 1 および問 2 については、自船との位置 関係図に記入させ、また、問 3 および問 4 について は、選択肢から選ばせた。 ここで、自船の周囲に存在する船舶は、解析対象 船舶(自船の右舷側)と囮の船舶(自船の左舷側) の計 2 隻である。したがって、問 1 において、仮に 自船の右舷側に 2 隻の船舶の記載があった場合には、 【自船の初期位置】 監視対象船舶までの距離1790m 針路029度、速力22.4ノット 【終了位置】 両船の距離435m 開始から225秒後 【解析対象船舶】 針路000度、速力15.0ノット 【囮の船舶】 航過距離約2マイル 図 2 シナリオ概要図 解析対象船舶をあたかも 2 隻の船舶が存在すると錯 覚していることが判明する。

4.実験結果と考察

アンケートに対する回答の内、囮の船舶に対する 回答を除外し、解析対象船舶について回答されたも のを抽出した。以下に集計結果を示す。

4.1 認識された解析対象船舶の隻数

解析対象船舶の隻数(問 1)に関する回答の集計 結果を図 3 に示す。被験者の 1/3 が 1 隻の解析対象 船舶を 2 隻の船舶が存在すると錯覚している。

4.2 2 隻の船舶と判断した場合の結果

1 隻の船舶と判断した被験者の回答との比較によ り、2 隻の船舶と錯覚した被験者に関する各問の回 答結果について議論する。以後、回答数の母数が異 なるため、百分率により結果を表示する。

4.2.1 進行方向に関する回答結果

進行方向(問 2)に関する回答の集計結果を図 4 に示す。正解は「11 時」である。 ここで、解析対象船舶を 1 隻の船舶と判断した被 験者の内、問 3 において「全長 50m 未満」を選択し た者(4 人)については、検討の対象から除外して いる。解析対象船舶の前部または後部マスト灯を認 識していない可能性があり、解析対象船舶の全容を 正確に把握していないことが考えられるためである。 1 隻の船舶と判断した場合、概ね妥当な回答結果 が得られている。一方、2 隻の船舶と錯覚した場合 は、解析対象船舶の前部マスト灯から判断された船 舶(以後、「前部の船舶」という)について、自船と 平行、あるいは、自船の針路よりも右方に進行して いるように感じている傾向が見られる。解析対象船 舶の後部マスト灯から判断された船舶(以後、「後部

(3)

21 11 1 0 5 10 15 20 25 1隻の船舶 2隻の船舶 認識せず 回答 者( 人 ) 図 3 被験者が回答した解析対象船舶の隻数 0 10 20 30 40 50 60 6時 7時 8時 9時 10時 11時 12時 13時 14時 15時 回答率 (%) 進行方向 1隻の船舶 前部の船舶 後部の船舶 図 4 被験者が回答した解析対象船舶の進行方向 0 20 40 60 80 100 L<50 50≦L<150 150≦L<250 L≧250 回答率 (% ) 全長:L(m) 1隻の船舶 前部の船舶 後部の船舶 図 5 被験者が回答した解析対象船舶の全長 0 20 40 60 80 100 自船の 船首を航過 衝突 自船の 船尾を航過 自船の 船首尾線を 航過済み 回 答率(%) 1隻の船舶 前部の船舶 後部の船舶 図 6 被験者が回答した解析対象船舶との接近状況 の船舶」という)については、概ね妥当な回答結果 が得られている。

4.2.2 全長に関する回答結果

全長(問 3)に関する回答の集計結果を図 5 に示 す。正解は「250m 以上」である。 1 隻の船舶と判断した場合、概ね妥当な回答結果 が得られている。一方、2 隻の船舶と錯覚した場合 は、いずれの船舶に対しても、全長を過小に判断す る傾向が見られる。

4.2.3 接近状況に関する判断結果

接近状況(問 4)関する回答の集計結果を図 6 に 示す。正解は「衝突」である。 ここでも 4.2.1 に記述した理由により、解析対象 船舶を 1 隻の船舶と判断した被験者の内、問 3 にお いて「全長 50m 未満」を選択した者(4 人)につい ては、検討の対象から除外している。 1 隻の船舶と判断した場合、約半数が正解を選択 している。一部「自船の船尾を航過」を選択したの は、設定された衝突場所が解析対象船舶の前部マス ト灯よりも前方にあり、前部マスト灯の方位が徐々 に右に変化したためであると考える。 2 隻の船舶と錯覚した場合の前部の船舶について は、「自船の船首尾線を航過済み」を選択した割合が 最も高くなっている。4.2.1 で既述したように、当該 船舶の進行方向が自船と平行あるいは自船よりもや や右方向と認識していた結果によるものと考える。 2 隻の船舶と錯覚した場合の後部の船舶について は、「自船の船尾を航過」を選択した割合が最も高く なっている。既述のように、設定された衝突場所が 解析対象船舶の前部マスト灯よりも前方にあるため、 後部マスト灯の方位が、前部マスト灯の方位よりも 大きく右に変化したためであると考える。

4.3 実験結果から推察される危険性

被験者の 1/3 が 1 隻の解析対象船舶をあたかも 2 隻の船舶が存在しているように錯覚した。 解析対象船舶を 2 隻の船舶と錯覚した被験者は、 当該船舶の全長を過小に判断する傾向が見られた。 また、2 隻と誤認した船舶の内、前部の船舶につ いて、進行方向を誤認し、さらに、それぞれの船舶 との接近状況を誤って判断する傾向が見られた。 これらのことから、夜間において、前後部マスト 灯の水平間距離が著しく長い船舶に、視覚を主たる 見張りの手段としている船舶が接近する場合、例え ば解析対象船舶の中央に向けて航行しようとする等、 不適切な避航動作をしてしまう危険性が懸念される。

5.類似の危険性を持つ船舶

類似の問題として、近年建造されつつある全長 400m 程度の大型コンテナ船や従来から運航されて いる引船列が掲げる灯火が考えられる。 前者については、例えば、図 7(上)が示すよう に、船橋構造物の位置が船体中央よりも前方に設置 される傾向がある。同図から判断するに、船橋構造

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図 7 建造中の大型コンテナ船 物の上部に設置された後部マスト灯から船尾までの 距離は、200m 以上となっている。視覚を見張りの 手段とした場合、後部マスト灯よりも後ろには、あ たかも船体が存在しないように錯覚する懸念がある。 これについては、同図(下)が示す舷側上に設置 された通路灯(Passage Lights)を航行中においても 点灯する等の対策を講じている船舶も存在する。し かしながら、法定灯火ではないため、全てにおいて、 このような対策がなされているわけではない。 後者については、夜間において、引船列であると 認識できなかったため、曳航船と被曳船との間を航 行しようとして、曳航索に船舶が衝突した事例が存 在する(10)(11)

6.おわりに

本研究では、TI シリーズスーパータンカーが掲げ る灯火を例に、全長の長い船舶が掲げる灯火の問題 点について、操船シミュレータ実験の結果を基に考 察した。実験結果から、視覚を主たる見張りの手段 としている小型船舶を操縦する者にとっては、1 隻 の船舶をあたかも 2 隻の船舶が存在しているように 錯覚したり、船舶の全長を過小に判断したり、進行 方向について誤認したりすることが確認された。そ の結果、彼らに不適切な避航動作を取らせる懸念が あることを指摘した。 本研究で指摘した問題は、船舶の長大化および専 用化に伴い、既定の灯火を掲げるだけでは、船体形 状等の特徴が容易に判断できないことに起因する。 このような船舶に対しては、夜間においても、船 体形状等の特徴が視覚による見張りにおいても容易 に判断できるような対策が必要である。例えば、舷 側上の通路灯の装備および点灯を義務付ける、曳航 ロープの存在を明確にするような照明の点灯を義務 付ける等、海上における衝突の予防のための国際規 則に関する条約(COLREGS)の改正も視野に入れ た灯火に関する抜本的な改善策が必要であろう。

謝辞

川崎汽船研修所の伊藤耕二氏には、夜間において、 ご自身が運航された VLCC の船体中央に向けて、小 型漁船が接近してきたこと等、大型船舶の運航者か ら見た小型船舶の接近状況に関する経験談をご教示 いただいた。この場をお借りして、お礼申し上げる。

参考文献

(1) 船舶設備規程, 第 146 条の 12 第 1 項. (2) 神田寛:夜間における船舶灯の視認力に関する 実 験 的 検 討 , 日 本 航 海 学 会 誌 , 第 44 号 , pp.161-167, 1970.12. (3) 兪凡・鈴木三郎・古莊雅生:背景灯火の船舶運 航への影響, 日本航海学会論文集, 第 91 号, pp.121-129, 1994.9. (4) 古莊雅生・本間伸幸・嶋田博行:船尾灯の視認 に関するヒューマンエラー, 日本航海学会論文 集, 第 107 号, pp.61-68, 2002.9. (5) 西村知久:マスト灯の間隔が他船の避航判断に 及ぼす影響について- 護衛艦あたごと漁船清徳 丸の衝突を例に -,日本航海学会論文集, 第 131 巻, pp.33-39, 2014.12. (6) EURONAV: http://www.euronav.com/page.aspx?id=327, 2016.2.23. (7) http://www.aukevisser.nl/supertankers/id239.htm, 2016.2.23. (8) 川崎汽船株式会社: https://www.kline.co.jp/service/tanker/fleet.html, 2016.1.19. (9) 出光タンカー株式会社: http://www.idemitsu.co.jp/tanker/fleet/management. html, 2016.1.19. (10) 引船福丸引船列漁船大勝丸衝突事件(平成 22 年仙審第 30 号) (11) 引船第三十八山和丸引船列漁船第十八順洋丸 衝突事件(平成 20 年第二審第 14 号)

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韓国のプレジャーボート政策発展のための研究

学生会員○金 連珍(神戸大学)正会員 藤本 昌志(神戸大学)

正会員 藤原 紗衣子(神戸大学)正会員 渕 真輝(神戸大学)

要旨 韓国では海洋レジャーは大衆化していないが、政府が新しい観光産業としての発展可能性に注目し、その 振興政策を推進している。徐々に増加しているプレジャーボートによる海難の急増が予想される中、その安 全を確保するための政策の検討が必要である。従って、韓国と外国のプレジャーボートに関する登録と検査 制度、操縦免許、安全管理政策、関連規制等を多角的に検討し、韓国での安全な海洋レジャー文化振興への 方法を模索する。 キーワード:立法政策、韓国、プレジャーボート、海洋レジャー

1. はじめに

1.1 研究の背景

韓国は歴史的に農業を優先とする内陸中心の文 化が発達した社会で、海洋文化の発達への努力は等 閑視されてきた。スポーツやレジャー施設に対する 投資も内陸優先でマリーナなどの海洋スポーツやレ ジャー施設が不足していた。 しかし 2000 年以降、政府は海洋レジャー産業を 国家の新成長戦略として注目し、その振興政策(1) 推進している。 国家レベルではマリーナ施設の拡充とマリーナ の新設、マリーナサービス産業の活性化対策、海洋 レジャー体験教室の支援、海洋スポーツ大会や海洋 レジャー博覧会の開催を支援する等、海洋レジャー の基盤の構築に取り組んでおり、自治体でも地域経 済の発展を図る各種海洋レジャーイベントを開催す るなど海洋レジャーを体験する機会を増やしている。 韓 国 で プ レ ジ ャ ー ボ ー ト の 登 録 制 が 始 ま っ た 2006 年にはその隻数が 235 隻に過ぎなかったが、毎 年持続的に増加し 2014 年には約 80 倍の 18,731 隻に 至っている。さらに 2011 年以降は登録隻数の増加が 加速する傾向も見せている(2) 全国で海洋レジャー活動を行うことができる海 域は 533 箇所あり、その内の 392 箇所(73.5%)が事 業場である。韓国での海洋レジャー活動は個人レベ ルの趣味活動が主流であり、同好会等の団体に所属 している活動者は全体の 9%程度であり、民間団体 等の組織活動は活発でない(3)

1.2 研究の目的

海洋レジャーに対する政策的努力と個人的関心 の高揚は、利用者の数と登録隻数の増加に繋がるも のと予想される。一定の海面を利用する船舶の増加 は、衝突などの海難発生の蓋然性を高めるものであ る。 このような現状において、プレジャーボート活動 の安全を確保するために韓国では規制中心の様々な 政策を推進しているが、増加する海洋レジャー需要 への対応として十分であるとは言えない。 従って本研究は韓国におけるプレジャーボート の安全政策を調査した上で、韓国よりプレジャーボ ート文化が発達している日本とイギリスの政策を参 考にし、韓国でより安全に海洋レジャーを楽しむた めの政策の立案に貢献しようとするものである。

2.韓国のプレジャーボート関連政策

2.1 船舶の登録と検査

韓国のプレジャーボートの登録と検査は水上レ ジャー安全法によって行われる。この法令上登録の 対象は推進機関を有する水上オートバイ、総トン数 20 トン未満のヨットとモーターボート、折りたたん で運搬できないゴムボートで日本のミニボートの登 録免除のような船体の大きさと機関馬力による例外 はない。 登録の対象になるプレジャーボートは例外なく 安全検査が必要である。検査は新規登録時の新規検 査、船舶の構造と装置を変更した際の臨時検査、登 録後 5 年毎に定期的に受検する定期検査がある。特 に、レジャー事業に用いられる船舶は毎年定期検査 を受けなければならない。

2.2 操縦免許

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韓国でプレジャーボートを操縦するためには「動 力水上レジャー操縦免許」が必要である。動力水上 レジャー操縦免許は 1 級と 2 級の一般操縦免許とヨ ット操縦免許に区分される。一般操縦免許の対象は ヨットを除く全ての最大出力 5 馬力以上の動力水上 レジャー機具でモーターボート、水上オートバイ、 ゴムボートなどである。2 級は一般操縦者、1 級はレ ジャー事業者用で、運航区域や操縦能力による区別 はない。免許取得のためには筆記試験と実技試験の 合格と安全講習の履修が必要であり、有効期限は 7 年、更新には安全講習の履修が必要である。

2.3 活動に関する規制

韓国は水上レジャー安全法と施行令において、プ レジャーボート操縦者の遵守事項を定めている。 衝突を予防するための航法及び運航時の危険を 防止するための運航規則から危険操縦の禁止、救命 胴衣等の安全装備の着用、遠距離レジャー活動の申 告、無免許操縦の禁止、夜間水上レジャー活動の禁 止、 飲酒操縦の禁止等の詳細な遵守事項が規定され ている。 プレジャーボートの活動範囲を制限する規制とし て、水上レジャー禁止区域と許可区域を指定してい る。 禁止区域とは、水上レジャー活動の安全確保の ため水上レジャー安全法で全てのレジャー活動を禁 止する区域で、海水浴場の周辺等を中心に全国に 183 箇所が指定されている。許可区域とは、海上交 通秩序の確保のため海事安全法により決められる区 域で、全国の主要港湾と漁港を含んでいる。許可区 域でのレジャー活動には、事前に管轄海洋警備安全 署長の許可が必要である。禁止区域や許可区域の違 反時には過料が科される。

2.4 海難の防止と対応

韓国におけるプレジャーボートの安全管理は海洋 警察が担当している。事業場での活動の割合が大き いので、海洋警察のプレジャーボート海難防止活動 も事業場の安全指導を中心に行われている。 2014 年海上で発生したプレジャーボート海難 238 件中、単純漂流 132 件、機関故障 43 件、衝突 18 件、 転覆 16 件、浸水 10 件、座礁 7 件、火事 1 件等で被 害の大きい衝突や転覆より被害が軽微な運航阻害事 故が多く発生した(4) 海上でプレジャーボートの海難が発生した場合、 海洋警察が対応することとなる。人命救助や応急措 置、また最寄りの港までの曳航などが行われている。

3.外国のプレジャーボート関連政策

3.1 日本の政策

日本のプレジャーボートの登録と検査は日本小 型船舶検査機構の主管で、総トン数 20 トン未満の船 舶の中で、登録と検査の対象類型を船体の大きさ、 機関出力等により分離適用している。 検査は受検時期と内容で定期検査、中間検査、臨 時検査、臨時航行検査に分けられ、船舶の種類によ ってその種類と期間が異なる(5) 日本の小型船舶操縦免許は、1 級・2 級小型船舶操 縦士と水上オートバイ用の特殊小型船舶操縦士免許 に区分されており、操縦可能な海域範囲の差でレベ ルが分けられている。事業者の場合、小型船で人を 運送する旅客船、遊漁船の操縦には小型船舶操縦士 試験の合格に加えて、小型旅客安全講習を受講し特 定操縦免許を取得する必要がある。 免許の有効期限は 5 年で、更新には身体検査と更 新講習の受講が必要である(6) 日本でプレジャーボートの活動を特別に制限する 法律はないが、安全を担保するための最低限のマナ ーとして、船舶職員及び小型船舶操縦者法に飲酒操 縦等の禁止、免許者の自己操縦、救命胴衣の着用、 見張りの実施等の遵守事項を規定している。 プレジャーボートの安全管理に関わる政府機関は 海上保安庁で、プレジャーボートの安全指導、海難 事故防止、沿岸域情報提供、救助活動等様々な政策 を実行している。 それらに加えて海上保安庁では、安全で秩序ある 海洋レジャーの発展を図るためには民間主体の安全 活動の展開が不可欠であるとして、各種民間団体と 緊密な協力関係を構築している(7)

3.2 英国の政策

(8) 英国のプレジャーボート関連政府組織 Maritime and Coastguard Agency(以下、MCAという)では、 各種民間団体と協力体制を構築し、民間団体の活動 を支援するシステムでプレジャーボートの安全を管 理している。 プレジャーボートの登録は義務ではなく、自主的 登録を進めている。 船舶の検査も船舶の大きさ、使 用目的、航行水域によって船級や民間団体で実施し ている。 プレジャーボートの免許制度も国家認定の免許

(7)

で は な く 、 英 国 王 立 ヨ ッ ト 協 会 (Royal Yachting Association;以下、RYAという) が一般活動者と 事業者用の資格証を発給している。RYAはレジャ ー活動に関する情報の提供、教育訓練プログラムの 運用を主に行っている。 英国ではプレジャーボートの活動や事業に関す る規制は存在しない。法的規制より教育活動を重視 し、子供を対象とした安全教育、各種イベントを活 用した親子教育などの実施で、長期にわたる安全文 化を造成している。 英国のプレジャーボート安全対策は徹底して民 間が主導しているが、特に救助活動も民間団体であ る 王 立 救 命 艇 協 会 (Royal National Lifeboat Institution )が主導的に活躍している。MCAと緊 密に協力しながら海岸に救助要員の配置、パトロー ル活動等で全国的救助活動を展開している。

4. 韓国海洋レジャー発達のための提案

4.1 レジャー活動区域制限の廃止

韓国の海事安全法は、海上交通の秩序を確保する 名目で港湾区域や漁港区域をレジャー活動許可区域 に指定している。海上交通の秩序は交通主体相互の 注意が要求されることであり、どちらか一方の排除 のみで確保されることではない。 海域は全ての利用者に公平に利用する権利があ るにも係らず、現在の海事安全法は漁ろうや物の輸 送という過去の海域の利用形態に合わせられている と考えられる。 許可区域での活動には事前に書面による許可が 必要であるため、活動希望者の時間的便利性も、場 所的便利性も阻害されている。 この時間的、場所的便利性が確保できないと、海 洋レジャー施設に如何に莫大な予算を投入しても、 政策的に活性化努力が継続されても、活動者は増え 難く、その発達は遠のくであろう。 海洋レジャーの活性化と海洋文化振興のために は海への距離を縮める必要がある。海への時間的、 場所的距離を遠くする海洋レジャー活動許可区域は 廃止する必要があるものと考える。

4.2 利用者教育の強化

海洋レジャー活動許可区域はプレジャーボート を海上交通の頻繁な区域から遮断してきた。そうす ることによって衝突など大規模なプレジャーボート 事故は予防されてきたと言えるであろう。 従って海洋レジャー活動許可区域の廃止を推進 する為には、増加が予想される海難を防止する方策 も講じなければならない。海難の防止は安全意識の 強化が最も大事であるため、活動者教育の強化が目 下の急務である。現在のプレジャーボート教育は免 許取得教育と 7 年後の更新講習に限られている。 これからは様々な媒体による海洋安全の知識や 海域安全情報の提供、教育機会の拡大等を工夫する 必要がある。安全遵守義務違反の際、過料の賦課よ り安全講習を履修させることもいい方法になると考 えられる。

4.3 海洋警察の活動強化

現在、韓国のプレジャーボートに対する安全活動 は海洋警察に依存しているが、大部分が海難の防止 よりも事故発生後の対応に集中している。 事業場指導中心の事故防止活動や一般海域に対す る安全活動などを強化しなければならない。これか らの推進が望ましい活動を以下のように提案する。 ・ 事故防止のための持続的パトロールの実施 ・ 海域別危険区域などの情報提供 ・ 救助装備の拡充 ・ 救助スキルの向上のための教育と訓練の強化

4.4 民間の安全活動支援

海洋レジャー活動者の増加に従い、同好会などの 団体も増加することが予想される。親睦や情報交換 を目的とした団体活動に、教育や救助活動を加える ことによって公益活動としての側面を持たせること が効果的であると考える。 義務として強制されない同好団体での教育や安 全活動は、義務化されている免許更新講習より習得 の効果がよいと考えられる。このような自律的安全 活動の拡大は海洋レジャーの安全確保に寄与するも のである。 レジャー活動者の量的成長と共に活動者の安全 意識の質的成長を促すためには、民間の自律的安全 活動をサポートする必要がある。安全教育の資料提 供、救助方法の指導、法規改定などの情報提供など は安全で楽しい海洋レジャー環境作りに貢献するも のと思われる。

5. 終わりに

韓国はプレジャーボートの安全を確保するため に規制中心の政策を運用してきた。しかしプレジャ

(8)

ーボートの活動が活発で大衆化している日本や英国 は、国主導の管理より民間の自主的活動を支援する ことで海洋レジャーの発達と安全を守っている。 韓国において安全で楽しい海洋レジャー文化が 根付くためには規制の力ではなく、個人の自主的努 力で安全意識を高めなければならない。 今後、韓国政府は海洋レジャーの普及のための施 設投資と共に、活動規制に対する段階的改定と民間 団体への支援方向に対しても検討すべきである。

参考文献

(1) 국토해양부(国土海洋部): 제 2 차해양수산발전계획(第 2 次海洋水産発 展基本計画), pp. 137-138, 2010 (2) 재난안전포탈(災難安全データポータル): 동력수상레저기구등록현황(動力水上 レジャー機具登録現況) https://data.mpss.go.kr/Portal/ (3) 한국해양수산개발원(韓国海洋水産開発院): 해양레저스포츠 진흥을 위한 정책방향 연구 (海洋レジャースポーツ振興のための政策方向 研究),pp.19, 29, 2013 (4) 韓国国民安全処水上レジャー総合情報システム から提供を受ける。 (5) 日本小型船舶検査機構:トップページ http://www.jci.go.jp,2016.2.2. (6) 日本海洋レジャー安全・振興協会:免許の取得, https://www.jmra.or.jp/license,2016.2.2. (7) 海上保安庁:海上保安レポート 2014 (8) 해양경찰청(海洋警察庁):수상레저활성화를 위한 중장기 발전방안 연구(水上レジャー 活性化のための中長期発展方案研究), pp.37-42,2012

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海上輸送の安全管理から見た

大陸棚資源開発の安全管理の現状と課題

正会員〇大河内美香(東京海洋大学) 正会員 逸見 真 (東京海洋大学)

正会員 黒川 久幸(東京海洋大学) 正会員 竹本孝弘 (東京海洋大学)

要旨 本稿は、海上輸送と船舶運航の安全管理に関する条約・国内法の規制内容と運用・履行方法を調査し、こ れを大陸棚資源開発の安全管理と比較考察することにより、大陸棚資源開発の安全管理の現状と課題を明ら かにした。考察の結果、海上輸送と船舶運航の安全管理は IMO の国際条約による安全性に関する諸項目の国 際的統一基準による規制と運用が確保されているが、大陸棚資源開発の安全管理の現状は個別海域の関係国 や事業者の取組み以外には未整備であった。従って大陸棚資源開発においても海上輸送と船舶運航の安全管 理にならい、船体・設備等の安全管理、人的要因の安全管理、航行・開発海域の安全管理の各項目について、 国際的統一基準の整備と国内実施の仕組みを構築することが課題であるとの結論を得た。 キーワード:物流・海運、安全運航、国際条約、資源開発、環境保全

1.はじめに

本稿は、大陸棚に賦存する石油・ガス等の開発(以 下「大陸棚資源開発」という。)における海上輸送 (shipping)と船舶運航(navigation)の意義を整理し、海 上輸送と船舶運航の安全管理の視点から大陸棚資源 開発の安全管理の現状と課題を整理する。 本稿では、海上輸送と船舶運航の安全性とは事故 防止であり、事故防止に必要かつ有意義な諸項目の 規制を安全管理と定義する(1)。かかる前提に立つと、 大陸棚資源開発の安全性は、事故(暴噴、船舶と海 洋施設の衝突、船積み時の油の排出等)の防止のた めに整備すべき項目について、適切な内容の法的規 制を設け、これを実効的に運用・履行することで確 保されることとなる。この意味での大陸棚資源開発 の安全性に関する多数国間条約は未整備であり、海 上の人命の安全に関わる喫緊の課題である。 これと対照的に、海上輸送と船舶運航の安全性は、 事故防止のために整備すべき船舶の堪航性、乗組員 の訓練、航行海域の支援設備等の項目について規制 が確立している(2)。関係規則としては、国際海事機

関(International Maritime Organization/IMO)の海上人 命安全条約(International Convention for Safety of Life at Sea/SOLAS 条 約 ) と 国 際 安 全 管 理 コ ー ド (International Safety Management Code for the Safety Operation of Ship and for Pollution Prevention Code/ISM コード)、及び同コードに基づいて船舶管 理 会 社 に 対 し 義 務 づ け ら れ る 安 全 管 理 シ ス テ ム

(Safety Management System/SMS)、並びに条約の履 行のための国内法(国内担保法)が挙げられる。

加えて、1960 年代以降の船舶の大型化による衝突 海難時の油濁の重大性や、近年の環境脆弱性の高い 北極海航路の航行の実現は、船舶起因汚染の防止か らも船舶運航の安全性に関する規制を促進した(3)

海洋汚染防止条約(International Convention for the Prevention of Pollution from Ships/MARPOL73/78 条 約)と国内担保法が、かかる規制として挙げられる。 以上の海上輸送と船舶運航の安全性に関する法 的規制は概ね、①船体・主機等の設備の管理、②乗 組員資格・訓練等の人的要因の管理、③航行海域の 管理に分類できる。本稿では、①~③を海上輸送と 船舶運航の安全管理と定義する。こうした安全管理 は、大陸棚資源開発で得た資源の途絶のない輸送の ために不可欠である。加えて、近年の大水深(水深 300m 以深)・超大水深(2,100m 以深)や北極海を含 む遠隔海域(離岸距離 100 ㎞以遠)の開発における 特殊船舶と高度な運航技術の必要は、大陸棚資源開 発における安全な船舶運航と安定した海上輸送の重 要性を増している。 先行研究では、海上輸送と船舶運航については北 極海航路の航行可能性や経済計算等の分野で蓄積が ある。しかし、探査・試掘・掘削・生産・輸送とい う大陸棚資源開発の工程全体における船舶運航の意 義を整理し、海上輸送と船舶運航の安全管理の視点 から、大陸棚資源開発の安全管理の現状と課題を整

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理した研究は見られない。 以上より、本稿は、大陸棚資源開発における海上 輸送と船舶運航の意義を整理し、その安全管理に関 する条約・国内担保法の規制内容と運用・履行方法 を調査することにより、大陸棚資源開発の安全管理 の現状と課題を明らかにした。

2.大陸棚資源開発と海上輸送

2.1 大陸棚資源開発の開始と輸送の意義

大陸棚は領海の外側に接する海底とその下(海洋 法条約 76 条)であり石油・天然ガス等の資源が豊富 に賦存する。1949 年、旧ソ連の大陸棚資源開発が、 カスピ海の距岸 40 ㎞の地点で、沿岸から鉄製の輸送 用桟橋を建設して開始された(4)。1960 年代には北海 油田群が発見され、ノルウェーが 1971 年に生産を開 始したエコフィスク油田は水深 60m であり、同国と 英国の陸上精製施設まで主にパイプラインで輸送し、 残部をタンカーで輸送した(5)

2.2 大陸棚資源開発の発展と輸送の意義

ノルウェーの大陸棚資源開発は、2000 年以降、バ レンツ海やノルウェー海へ発展・拡大し、2007 年生 産開始のスカブ油田や、2000 年発見のゴリアテ油田 は水深 300m を超えるため、原油は浮体式生産貯蔵 積出設備(Floating Production Storage and Offloading system/FPSO)からタンカーで輸送されることとなっ た(6)。またロシアでは「ヤマル半島開発計画」によ りサベッタ港から LNG が出荷されているが、この 計画は当初から北極海航路による LNG 輸送の実現 を前提とし、そのための港湾整備、砕氷船の建造を 含むものであった(7)

2.3 大陸棚資源開発に関連する船舶運航

大陸棚資源開発における海上輸送と船舶運航の 意義は、大水深・遠隔海域での開発の進行に伴い変 化した。従来、石油開発工程のチェーンは河川にた とえられ、開発・生産を上流、輸送・精製・販売を 下流と大別されてきた。しかし現在、探査・試掘・ 掘削・生産・貯蔵・積出・輸送の全工程で特殊船舶 の運航の必要が生じ、地震探査船、掘削船、FPSO、 その他オフショア支援船等、大陸棚資源開発に関連 する船舶の運航が増加している。 大陸棚資源開発と船舶運航の関係の変化は、ノル ウェーに顕著である。図1はノルウェー登録の船舶 の船種別総トン数変化である。そのうちオフショア 船舶の登録総トン数を図2に示した。さらに、ノル ウェーに寄港したタンカーとオフショア船舶の総ト ン数変化を図3に示した(8) 図1 ノルウェー登録船舶の船種別の割合 図2 ノルウェーに登録されたオフショア船舶の 総トン数の変化 図3 ノルウェーに寄港したタンカーとオフショア 船舶の総トン数変化 大陸棚資源開発における海上輸送と船舶運航は、 大水深、遠隔海域、極域の航行環境のもと、本来的 な輸送業務に加え、開発工程でも不可欠の意義を有 しつつある。従って、海上輸送と船舶運航の安全管 理の内容と運用を確認することは大陸棚資源開発の 安全管理を構築する一助となると考えられる。

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3.海上輸送の安全管理に関する法整備

3.1 国際条約による海上輸送の安全管理

まず海上輸送と船舶運航の事故防止に関する規 制は、国連海洋法条約に見られる。同 94 条は船舶の 旗国の義務を定め、同条 3 項は、海上安全の確保の ために(a)船舶の構造、堪航性、(b)乗組員の配乗、訓 練、(c)衝突の予防等に必要な措置を義務付ける。環 境保全については、192 条が、いずれの国も海洋環 境保全すべき一般的義務を負うことを定める。 こ れ ら の 一 般 的 義 務 以 上 の 規 制 を 行 う 条 約 は IMO 等の専門機関で採択され、締約国が国内担保法 を制定し実施する運用方法が確立している。海上輸 送と船舶運航、大陸棚資源開発の安全性に関する法 的規制の一覧を示す。大陸棚資源開発の安全管理に 関する多数国間条約が未整備であることがわかる(9) 表 1 海上の安全管理に関する法的規制とその内容 法的枠組 地域的取組 規制対象 海上輸送・船舶 運航 海洋環境保全 大陸棚資源開発 主体、海 域、活動ご と 海洋法条約 上の一般的 義務 94条(旗国の義 務)、194条 (b)(船舶起因汚 染、事故防止、 運航安全) 192条(一般的義 務)、194条(予 防原則) 193条(資源開発 の権利)、194条 (c)(海底開発起 因汚染、事故防 止) 海洋法条約 237条(特別 の条約の義 務) 海洋法条約 の汚染源の 規制 211条(船舶)、 219条(堪航 性)、221条(海 難) 210条(投棄) 208条(海底活 動) 197条(世界 的・地域的 基礎の協力) SOLAS条約 LL(満載喫水線) 条約 STCW(船員の訓 練、資格、当 直)条約 COLREG(衝突 予防)条約 MARPOL73/78 条約の海洋施設 バレンツ 海、北海 世界的取組 専門的条約 IMO'S non-binding Codes and Guidelines for Offshore Vessels MARPOL73/78 条約 ロンドン72/96 条約

3.2 条約と国内担保法による安全管理

3.2.1 SOLAS 条約による船舶運航の安全管理

SOLAS 条約は、海上の人命の安全を図るため国際 基準を定めている。 条約の規制内容は概ね、①堪航性のための船体・ 設備・運航機器に関する規定、②事故防止に有効な 乗組員訓練・資格に関する規定、及び③航行海域で の衝突回避・航行援助施設に関する規定に分類でき る。各項目に関する専門的な条約が整備され、さら に IMO 採択の条約では、付属書の改正が容易かつ迅 速に成立する機関決定方式を採用している。 これらの規制内容の運用・履行方法も実効性を備 え て い る 。 履 行 の 義 務 を 負 う 旗 国 は 、 た と え ば SOLAS 条約 9 章「船舶の安全運航の管理」に取込ま れ強制化された ISM コードを実施するが、ISM コー ドは、船舶管理会社が SMS を構築し、運航マニュア ル、緊急事態対応計画を策定し実施することを要求 している。こうした、条約上の義務を締約国と企業 を通じ実現する ISM コードの仕組みは、船舶管理に おける最善の実行と評価されている(10)

3.2.2 国内担保法による船舶運航の安全管理

日 本 で は 、 海 上 輸 送 と 船 舶 運 航 の 安 全 管 理 は SOLAS 条約、ISM コード、船舶安全法に従い履行さ れ る 。 ま た 船 舶 起 因 の 環 境 汚 染 防 止 は MARPOL73/78 条約、海洋投棄規制条約(International Convention for the Prevention of Marine Pollution by Dumping of Wastes and Other Matter/ロンドン 72/96 条 約)、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律に従 う。船舶安全法は条約の規制内容を国内で確実に実 施するため国土交通省の仔細な検査を通じて船体・ 設備等の技術基準の遵守を国内企業に強制している。 また米国における条約上の義務の実施・運用方法 は、米国運輸省長官が船体・運航機器・乗組員資格 等について国際基準又はより厳格な規則を制定して、 海上安全と海洋汚染に関する法的規制を整備する。 法規の執行は沿岸警備隊が連邦規則に従い行う。こ れらの条約上の義務は、連邦法 46 編と連邦規則(行 政機関が定める規則)、連邦法 33 編と連邦規則に取 込むことにより米国で履行されることとなる(11)。た とえばエクソン・バルディーズ号の事故を機に制定 さ れ た 1990 年米国油濁法( Oil Pollution Act of 1990/OPA90)は、事故対応計画策定、2027 年までの タンカーのダブル・ハル化を義務付けている(12)

4.考察

4.1 大陸棚資源開発の安全管理の現状

大陸棚資源開発の規制は、海洋法条約 192 条の海 洋環境保護の一般的義務が法的基礎となる。加えて、 同条約 194 条 3 項(c)は、海底の開発に関して生じる 汚染を最小にする措置をとる義務を課している。同 項は、「海底及びその下の天然資源の探査又は開発 に使用される施設及び機器からの汚染(特に、事故 を防止し及び緊急事態を処理し、海上における運用 の安全を確保し並びにこのような施設又は機器の設

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計、構造、設備、運航及び人員の配置を規制するた めの措置を含む。)」と定める。同条をうけ、208 条 は沿岸国が国際基準に従い法令を制定し必要な措置 をとることを定める。 海洋法条約以外に大陸棚資源開発に関連する規 制内容を備えた条約・法規では、環境保全の目的か ら MARPOL73/78 条約が海洋施設からの油等の排出 を禁止する。また施設・設備については移動式海底 資源掘削ユニットに関する IMO の非拘束的コード (non-binding Code for the Construction and Equipment of Mobile Offshore Drilling Units/MODU)があるが(13)

適用対象が限定され、かつ法的拘束力はない。 従って、大陸棚資源開発の安全性に関する規制の 整備と運用は、海洋法条約を法的基礎とする点は海 上輸送及び船舶運航と同様であるものの、それらが IMO 採択の多数国間条約による統一的な国際規則 の確立と国内実施を実現しているのに対し、大陸棚 資源開発にはかかる規制が未整備である。 ただし、大陸棚資源開発の安全管理の統一的な国 際規則は未成熟であるが、開発海域の地域的取組み には一定の進展が見られる。 国家間の取組みでは、ロシアとノルウェーが 1988 年「バレンツ海における油流出防除計画」に合意し ているほか、ノルウェーと英国は 2005 年「石油開発 に関する枠組み協定」に合意した(14)。また開発事業 者間の取組みでは緊急時の相互援助対応計画、損害 賠償責任について合意したものがある(15)

4.2 大陸棚資源開発の安全管理の課題

地域的取組み及び企業間の安全管理方式の課題 は、安全管理のための規制内容と運用方法が、多数 国間条約による国際基準の確立と各国の国内実施に よる履行の仕組みを有していない点である。大陸棚 資源開発の安全性に関する諸項目の規制内容・運用 方法において、海上輸送と船舶運航の安全管理の仕 組みは一つのモデルとなるものと考えられる。

5.結果

考察の結果、本稿は次の結論を得た。 (1) 海上輸送と船舶運航は、大陸棚資源開発の発展 に伴い、本来の輸送に加え開発において不可欠 の意義を担うようになった。 (2) 海上輸送と船舶運航の安全管理は、国際条約と 国内法の規制内容・運用方法が確立している。 (3) 大陸棚資源開発の安全管理は、多数国間条約が 未整備であり地域的取組みに依存している。 (4) 海上輸送と船舶運航の安全管理にならい、大陸 棚資源開発の安全管理の法的規制内容と運用方 法を整備することが課題である。

6.おわりに

本稿は、海上輸送と船舶運航の安全管理のための 規制内容と運用・履行方法を調査することにより、 大陸棚資源開発の安全管理の現状と課題を明らかに した。大陸棚資源開発に特有の設備・人的要因・海 域の環境要因を把握することが次の課題である。

参考文献

(1) Yvonne BAATZ: MARITIME LAW, 2nd ed., p. 387,

Sweet and Maxwell, 2011.

(2) Malcolm SHAW: INTERNATIONAL LAW, 4th ed.,

p. 629, Cambridge University Press, 1997.

(3) Robin CHURCHIL and Vaughan LOWE: THE LAW OF THE SEA, 3rd ed., p. 353, Manchester

University Press, 1999. (4) 村上隆:サハリン大陸棚石油・ガス開発と環境 保全,p. 4, 北海道大学出版会,2003. (5) ノルウェー石油監督局: http://www.npd.no/Global/Engelsk/3-Publications/F acts/Facts2014/Facts_2014_nett_.pdf, p. 17, 2016. 3. 1. (6) Ibid., p. 21, 2016. 3. 1. (7) http://www.total.com/en/energy-expertise/projects/o il-gas/lng/yamal-lng-cold-environment-gas, 2016. 2. 29. (8) ノルウェー統計局: https://www.ssb.no/statistikkbanken/selectvarval/sa veselections.asp, 2016. 3. 9.

(9) Vaughan LOWE: INTERNATIONAL LAW, p. 255, Oxford University Press, 2007.

(10) Yvonne BAATZ: supra note 1, p. 388. (11) Title 46 U. S. C. A. §3703 (a).

(12) Title 33 U. S. C. A. §3202.

(13) IMO Assembly Resolution A. 1023 (26) of 2009. (14) https://www.gov.uk/government/uploads/system/upl

oads/attachment_data/file/273282/6792.pdf, 2016. 3. 1.

(15) Jonathan SIDE: North West Europe-Clean Seas and Emergency Services, Marine Pollution Bulletin, Vol. 19, No. 4, p. 153, 1988. 4.

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BRM と法的責任

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水先人の重過失海難を手掛かりとして

-正会員 逸見 真(東京海洋大学)

要 旨 民事責任にいう重過失とは、伝統的に「故意に近似」する重大な注意義務違反とされてきた。要するに、 誰もしないような不注意に対する責任と捉える法的な解釈であるが、近年の人間行動に関する科学の発達は、 誤りを犯さない人間は皆無であるとの常識を確立させている。周知の通り、航海業務における過失の回避に 人間行動に基づくヒューマン・ファクターの考え方を取り入れたシステムが BRM(Bridge Resource Management)であり、その実践と励行が海難防止のための重要な手法として認識されている。この BRM の 構成員の行為に過失が問われ、他の構成員の行為が当該過失の一因となる可能性について法的な責任問題に 関する検討はこれまで見られなかった。そもそも BRM 自体は法的な責任追及のためのシステムではないが、 従前の民事責任の考え方に従って BRM に準ずるべき航海者の責任が追及された場合、チーム・ワークとい う BRM の必要原理よりすれば、責任発生の一因と看做され得る他の構成員の責任も問われる必要性が看取 できる。本稿では民法の一般原則の観点より、水先人による重過失海難の判例を素材に検討する。 キーワード:水先人、重過失、BRM、委任契約、信義誠実の原則(信義則)

1. 水先人による海難と重過失の判断

(1) 海難の概要と重過失の判断 平成 21 年 7 月、わが国において水先人嚮導の外 国籍貨物船が座礁事故を起こし、船主は事故が水先 人の重過失に起因したものとして水先人及び所属の 水先人会等に損害賠償を請求、平成 27 年 9 月、本件 を所管した神戸地裁は水先契約違反(民法第 415 条) 及び本船所有権侵害(同法第 709 条)を理由に船主の 請求をほぼ認め、水先人に対する高額な賠償金を認 定した(1) (以下、本件判例という)。 上記海難の直接的な原因は、水先人による灯浮標 識の誤認にありとされた。即ち嚮導本船の進路側方 に位置していた浅瀬の存在を示す灯浮標を、浅瀬の 切れ目にある水路の標識と誤認した水先人が誤った 方向へ転舵号令を発し、本船を導いて座礁せしめる に至った事案である。本件判例ではこの水先人の所 作が重大な過失、いわゆる重過失に因るものか否か が争点となった。 わが国において水先人が惹起した海難事故に関 わる民事過失については、水先人が利用する標準水 先約款第 21 条の免責条項に準じて責任を免れ得る が、水先人の過失が重大であった場合には同条第 3 項が適用される。同項には「水先人の故意または重 大な過失に基づく責任については、適用しないもの とする。」とある。 重過失の概念について、民法学では伝統的に「故 意に近似する過失」として捉えられてきた。この概 念は家屋の失火責任を扱った事案において、「わずか の注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見 することができた場合であるのに、漫然とこれを見 過ごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠 如の状態」(2)とした最高裁判例より示された定義で ある。「故意」を行為のもたらす「結果の発生を認識 しながらそれを容認しつつ行為するという心理状 態」(3)とすれば、重過失とは「故意に近似」する程 に重大な、責め咎められるべき義務違反と表現でき よう。また民法第 709 条にいう不法行為の要件とし ての「故意又は過失」を、「故意があればもちろん過 失でも」不法行為が成立する(4)との表現と捉えれば、 重過失を「故意に近似」させて不法行為の成立を容 易にする学説的な意義も見出せる。 本件判例では、水先約款第 21 条 3 項にいう「重

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過失」を「注意義務違反の程度が故意と同視し得る ほど顕著」なものとして上記の「故意に近似する過 失」と解釈し、「水先人が通常要求される程度の注意 を払うまでもなく、それ以下の僅かな注意を払うこ とを怠らなければ、容易く違法かつ有害な結果を予 見し、これを回避できたにもかかわらず、その僅か な注意を払わなかったため、上記違法、有害な結果 を予見し、回避することができなかった場合をいう ものと解するのが相当」とされた(5)。一方で、水先 人の「注意義務違反の程度は、他に「特段の事情」 が認められない限り、故意と同視し得るほど重大で あるといわざるを得ない」とされ、「特段の事情」が あれば重過失認定の猶予もあり得ることが示唆され ている。 (2) 本件判例における「特段の事情」と BRM その「特段の事情」の主たる一つとして、本件判 例では水先人と「本船の船長ら乗組員との間で適切 な BRM が励行されず、本件座礁事故の防止に向け 通常であれば行われるであろう情報交換等が行われ なかった点」が検討されている(6) 本船に乗船した水先人はその業務の開始前に本 船側に対して「BRM の一環として、本船側に対し、 見張り及び適当な間隔での船位測定、海図への記入、 航行監視等を行うよう要請し」ていた。しかし座礁 発生時、船長は降橋し、在橋の当直航海士は水先人 による座礁の原因となった転舵号令の前に本船の位 置を海図に記入して「認識」し、水先人の転舵号令 に対して「少し不安を感じていたにもかかわらず」、 水先人に「報告したり、あるいは問い質すこと」を しなかった。この事実について判決は、「仮に適切に これらの情報交換等が行われていたならば」、水先人 の「行為が行われることなく、本件座礁事故も未然 に防止できた可能性は少なくない」と述べている。 しかしまた水先人も、当直航海士に対して本船の位 置や同航船に取るべき航法の説明をせず、またこれ に対する乗組員の意見を求めなかったことより、水 先人と「本船の船長ら乗組員との間で適切な BRM が励行されず」、「情報交換等が行われなかったこと は」、「「特段の事情」を基礎づける具体的な事実関 係には当たらず」、「重過失に関する判断を左右しな い。」と、本件判例は結論付けている(7)

2. 海難の回避における BRM の重要性

BRM の基本理論は、「人間の行動パターンとそれ ぞれの行動パターンを認識して、望ましくない行動 を回避し、または望ましくない行動を見越して有害 な出来事の連鎖を断ち切る。」ものと説明されている (8)BRM 実践の最終的な目的は無論、海難事故の回 避にある。 人間の行動パターンはヒューマン・ファクターと 表現され、ストレス、自己満足や注意散漫等の精神 的特性、疲労という身体的特性、水先人との融和等 の行動特性と具体化できる。人を望ましくない行動 へと導く上記の諸要素は近年の脳科学、遺伝学とい う総合的な人間科学の研究により、人にとり不可避 なものと理解されている。人の注意力を削ぐという、 これら間接的な海難の諸因子を考慮した過失回避の ための有効な手法が、BRM において重視されるブリ ッジ・チームの中のコミュニケーションであり、チ ーム・ワークの励行である。チームには船長、乗組 員をはじめ水先人等、船橋で職務に就く者の全てが 含まれる(9)。この BRM 実践の重要性は本件判例でも 認識されている通りである。 同様にチーム・ワークが求められる専門職による 実践にチーム医療がある。医師や看護師の他、医療 に必要な複数の関係者がチーム医療に携わるにあた り必要不可欠なものが、相互の情報交換とその理解 であり、これを包括したコミュニケーションである 旨(10)、BRM と同様の指摘がある。 チーム・ワークとてこれを構成する人の行為如何 による基本的な性質を考慮すれば、上記のヒューマ ン・ファクターが入り込み BRM の機能不全に繋が って事故を惹起するおそれは否定できない。海難の 回避という BRM 実践の目的よりすれば、ヒューマ ン・ファクターによる影響を断ち切るチーム員個々 の対応こそが BRM の鍵であり、例えばチーム員は 船長等のリーダーが誤りを犯していると思われる場 合、それを告げる義務を持つ(11)との理解がある。チ ームの構成員それぞれの役割は、個々の自発性に依 存する性質のものではないと考えて良い。 事故の原因が法の認める注意義務に対する違反 と認定されれば法的な責任が生ずるが、BRM は法の 定める制度ではない。そのため原則、BRM の構成員 の間に法の求める権利義務の関係は生ぜず、従って 事故の要因となったチーム員の職務不履行、不徹底 に対しても、法に基づいた責任の追及は予定されて はいない。しかしチームの一員が事故と因果関係の ある自己の行為に対し法的な責任が追及されて違法 性を問われ、他のチーム員の行為がその違法行為発 生の一因となる可能性ありとされた場合、これをど

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のように解釈するかが問題となる。本件判例でいえ ば、水先人の転舵号令に「少し不安を感じていたに もかかわらず」異を唱えなかった当直航海士の不作 為について、検討する必要があるように思われる。

3. BRM に求められる法的責任

(1) 当直航海士の不作為の法的評価 当直航海士の不作為についての検討として、第一 に水先契約への抵触の問題が挙げられる。 標準水先約款第 12 条は「船長は、見張りを厳重 に行い港内又は特殊な水域航行中は適当な場所に見 張り員を配置し(中略)異常を認めたときは速やかに 水先人に通知するものとする。」とし、水先人への情 報通知の協力義務を規定している。本条項は船長を 名宛人とするが、船長不在の船橋において当直に立 つ航海士にも適用される。 同条にいう「異常を認めたとき」に水先人に通知 するという条件が、本件当直航海士による「少し不 安を感じていた」とき、即ち業務上の不安の感知が 異常の認知に含まれるについては条文上、明らかで はないが、運輸安全委員会による本件座礁事故に関 する事故調査報告書記載の事故原因として、水先人 の船位未確認と共に「乗組員による進言がなされな かったこと」が挙げられている(12)ことより、当直航 海士の不安の感知は客観的にも水先人に対し報告さ れるべき情報であったと認めることができる。 一般に本船側には、水先人は所属する水先区に生 起する全ての事象の把握を前提に嚮導に就いている との先入観があるが、水先人の能力をもってしても 自然現象の急変や他船の動静は予期できない。その 上、人である水先人はヒューマン・ファクターから 完全に逃れることもできず、約款に規定されるまで もなく、安全航行のための本船側乗組員による水先 行為への積極的な協力は不可欠といえるだろう。 第二に、当直航海士の不作為による情報の未提供 の重大性が挙げられる。重要情報の未報告の問題で ある。当該不作為について本件判例では「仮に当直 航海士に上記のような過失行為が介在していたとし ても」水先人の行為について「本件座礁事故との相 当因果関係は否定されない」(13)として結論付けてい る一方で、本情報の提供により本件事故が回避でき た可能性が示されている点を注視すれば、当該不作 為は軽視できる程度には留まらないように思われる。 換言すれば、本件事故に基づく損害は、被害者であ る本船側の対応により回避または縮減可能であった のである。 (2) 水先契約の性質と信義則 水先業務は水先人と船長(船舶所有者)との間の契 約に基づく行為であり、民法にいう典型契約中の委 任契約(民法第 634 条)に該当する。委任契約は契約 の当事者それぞれが委任と受任の関係に置かれ、委 任者による受任者への信頼が契約の基礎を形成する。 水先契約では船長が委任者(債権者)、水先人が受任 者(債務者)の構図となる。 この信頼関係に基づく受任者の義務が善良なる 管理者の注意義務、いわゆる善管注意義務(民法第 644 条)といわれるものであり、その注意義務の内容 は当事者間の知識・才能・手腕の格差、委任者の受 任者に対する信頼の程度に応じて判断されることと なる(14)。ただ信頼に基づく義務を負うのは受任者の みではない。そもそも委任に限らず契約という法律 行為そのものに当事者相互の信頼が確知できる上、 その信頼関係が特に要求される委任契約では委任者 の行為にも信頼が求められると解釈されている(15) 水先契約を具現化した前掲の標準水先約款第 12 条 は、水先人が水先契約の本旨を履行するに不可欠な 船長の協力義務を定めたものであるが、例えば水先 契約と同様に委任の契約形態を取る医師と患者との 医療契約では、医師に対する患者の義務として医師 への自己病歴、診療中の変化の通知、医療の安全や 効率的な実施のための診療行為への積極的な参加、 医療の限界の認識等が挙げられている(16)。実際にも、 医師の問診に適切に情報提供しなかった患者の過失 相殺が認められた事案がある(17) 委任契約における委任者の義務の一般的な準則 として用い得るのが、信義誠実の原則(信義則、民法 第 1 条 2 項)である。信義則とは、一般に社会生活上 の一定の状況下、一方の行為者が相手方が抱くと予 想される正当な期待に沿うよう行動することを意味 する。その信義則の機能とは契約上の権利義務の調 整であり、具体的な義務として表されるが、事案に 従い契約当事者に別なく適用される。例えば信義則 の示す保護義務とは、契約一般における債権者・債 務者の間において、相互に相手方の生命・身体・所 有権他の財産権の侵害を戒める義務とされる(18)。ま た契約の事例の一つとしての取引(契約)における信 義則は、債務者による債務の履行とその提供を受け る債権者が相互に協力する義務として、協力・通知・ 報知・説明の各義務を具体化している。 これらの義務に対し一方当事者が違反、即ち信義

(16)

則に反すれば、当該信義則違反に起因した他方当事 者の債務不履行、履行遅滞の責任追及は妥当と看做 されなくなるのである(19)。この信義則の類型の一つ として、契約関係にある相手方の損害の発生・拡大 を防止するために一定の作為義務を課す機能が挙げ られる(20)。本件事故について考えれば、本船側当直 航海士の不作為が該当する可能性がある。

4. 結びに代えて

BRM が海難回避の手段として定着している今日、 ブリッジ・チームの一員が犯した過失が個人的な注 意義務違反として処理される本件判例には、BRM が 順当に機能せず且つ当該過失の重大性を否定し得な いとしても、BRM 実践の目的や精神より見て不可解 を覚えざるを得ない。BRM が航海者という専門家集 団の下でのシステムであると観念した上でチームの 構成員に法的な責任を問うのであれば、過失との因 果関係、直接的、間接的影響に拘わらず、構成員の 行為は BRM 実践の状況に準じて一律に評価される 必要があるように思われる。従前の債務不履行や不 法行為の理論のみでの責任の追及は、BRM 実践の目 的と意義を没却しかねない。 近時の重過失は「故意」という表現の持つ行為の 重大性より離れ、故意と軽過失の中間形態としての 「著しい注意義務違反」と看做される傾向にある(21) この「著しい注意義務違反」には「適切な行動パタ ーンからの逸脱の程度が著しいもの」及び「行為義 務(注意義務)それ自体の水準が高められている場合 における、その違反」の二通りの類型がある(22)「故 意に近似」した責め咎められるべき重過失の意義が 失われる方向性は、人の行為におけるヒューマン・ ファクターの考慮からも説明できよう。更に BRM の実践と励行はチーム医療同様、過失の行為者の特 定と責任追及の必要性を希釈するのと共に、航海業 務における過失に軽重を問う法的な評価を無意味な ものへと変質させるのではなかろうか。そして水先 人の在り方もまた、ブリッジ・チームの一員として 船長の助言者たる地位を喪失するように思われる。

引用・参考文献

(1) 平成 24 年(ワ)第 2525 号 損害賠償請求事件. (2) 最高裁昭和 32 年 7 月 9 日判決(裁判所判例検索). (3) 内田貴: 民法Ⅱ第 3 版 債権各論, 355 頁, 2011 年. (4) 大村敦志: 基本民法Ⅱ債権各論(第 2 版), 188 頁, 2010 年. (5) 本件判決録 29 頁. (6) 前掲: 30~31 頁。運輸安全委員会による本座礁 事故に関する船舶事故調査報告書(平成 22 年 8 月 27 日付(MA2010-8))14 頁にも同様の記載があ る。 (7) 前掲注(5): 31~32 頁. (8) Michael R. Adams, 廣澤明訳: ブリッジ・リソー ス・マネージメント, 2 頁, 2011 年. (9) 水先人が BRM におけるブリッジ・チームの一 因であることについて前掲: 134 頁. (10) 水本清久・岡本牧人・石井邦雄・土本寛二編: イ ンタープロフェッショナル・ヘルスケア 実践 チーム医療(実際と教育プログラム), 14~63 頁, 61~70 頁, 2011 年. (11) 前掲注(8): 153 頁. (12) 前掲注(6)報告書: 15 頁. (13) 前掲注(5): 49 頁. (14) 前掲注(3): 291 頁. (15) 平野裕之: 民法総合 5 契約法, 636 頁, 20. (16) 総合病院聖隷三方原病院「『患者の権利と義務』 に関する宣言」。同様の義務は他に多くの病院が 定めている。 (17) 東京高裁平成 11 年 6 月 10 日判決(判例時報 1706 号 41 頁). (18) 谷口知平・石田喜久夫編: 新版 注釈民法(1)総 則(1)改定版, 112 頁, 2002 年. (19) 加藤亮太郎: 取引における信義誠実の原則, 112 ~113 頁, 神戸学院法学第 36 巻第 3・4 号所収. (20) 前掲注(18): 91 頁. (21) 奥田昌道編: 新版 注釈民法(10)債権(1)債権の 目的・効力(2), 223 頁, 2011 年. (22) 前掲: 224 頁.

図 4  GPS 位置データによる 6 モード船体運動の計測 結果と 3D カメラによる計測結果の比較  4.参考文献 (1) 国土交通省運輸安全委員会:船舶内作業に関連する死傷等事故の防止に向けて、船舶事故分析 集、運輸安全委員会ダイジェスト、第 3 号,  2012
Table 1 Calculation condition at model scale
Fig. 5 Wave load acting to the structure
Fig. 8 Air pressure and water level in the chamber
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参照

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