Title
農業経営者能力の形成と育成支援方法に関する研究( 内容の
要旨 )
Author(s)
酒井, 貞明
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(農学) 乙第100号
Issue Date
2005-09-14
Type
博士論文
Version
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/3117
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。氏 名(本(国)籍) 学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与年月 日 学位授与の要件 学 位 論 文 題 目 審 査 委 員 会 酒 井 貞 明 (岐阜県) 博士(農学) 農博乙第100号 平成17年9月14日 学位規則第3条第2項該当 農業経営者能力の形成と育成支援方法に関する研究 主査 岐阜大学 教 授 今 井 健′ 副査 岐阜大学 助教授 荒 井 聡 副査 信州大学 教 授 佐々木 隆 副査 静岡大学 教 授 小 嶋 睦 雄 論 文 の 内 容 の 要 旨 1 研究の背景ならびに目的 今日では農業経営の高度化に伴い高い農業経営者能力を持った農業者の育成が 施策の重点課題となってきている。これまで農業経営能力に関する研究は,その観 測や分析が決して容易ではないといったことに加えて,これまでの農業政策の主流 が主産地形成による出荷組織整備や集団転作などの営農組織育成にあったため,既
往の研究成果は少ない。一般経営学では経営行動の主体として経営者を捉え,経営
管理過程論や記述的意志決定論を構築し,企業理念の確立や情報活動の意義を明ら かにしてきた。 本研究では、農業経営者能力に関する課題と形成過程について実証的に分析し, その支援活動をおこなう農業改良普及センターの取り組みによる農業経営者能力の 育成支援についての理論構築を目的としている。 2 研究の方法 (1)農業経営者ならびに青年新規就農者に対する,経営管理状況や経営に関する考 えなどの調査結果の分析。 (2)農業経営者能力ならびに意識の類型化や、モデル化による経営体への支援活動 を進める上での問題点の抽出と分析。 (3)分析結果を基にした農業改良普及センターにおける経営体支援活動の実証と, 農業経営者能力の育成支援についての理論構築。 3 分析結果ならびに結論 第1に,岐阜県中濃地域108名の農業者に対し,経営管理状況や経営者の考え方 などの聞き取り調査をおこない,個別出荷と農協出荷の2つの販売方法に大別して, 農業経営者能力の違いを分析した。 個別出荷者では,農協出荷者に比べ明確な経営ビジョンを持ち,積極的な情事艮収 集を展開するなどの活動を展開していることが判明した。農協出荷者は、作業計画 の作成や生産技術情報の収集など生産中心の活動に偏っていた。また,経営に対す る考え方(意識)では,個別出荷者は農協出荷者に比べ,環境変化への積極的な対応をするなど,企業的農業経営者に必要な意識を備えていることが明らかとなった。 このような能力の差異が生じた原因には,組織目標の形骸化や情報収集活動の依 存といっ・た協同出荷組織による弊害があり,経営環境の変化に対応できる企業的農 業者となるためには,組織のあり方を見直し,経営者能力育成を進めることの必要 性を提起した。 第2に,農業経営者能力と売上高や経営規模といった経営成果との因果関係を解 明するとともに,経営者能力から経営行動の予測を試みた。方法は,岐阜県内の大 規模稲作経営体代表者102名に対する調査結果を基に,共分散構造分析を用いたモ デル構築による。 調査により得られた24項目の観測係数を経営者意識,経営管理行動,生産販売行 動,経営成果,政策対応の5つの潜在係数に集約して,それらの関係を共分散構造 分析によって,構造モデルにあらわした。構造モデルから経営者意識の醸成によっ て,情報収集活動などの経営管理行動が盛んになり,それが規模拡大や売上増加と いった経営成果に結びつく因果関係を解明した。また,米政策改革について農業者 の政策対応をモデルによって予測した結果,農業経営者能力の形成によって,政策 への対応が積極化されることを明らかにした。 第3に,農業経営者能力の形成過程を明らかにするために,経営者として成長過 程にある全国100名の青年新規就農者にアンケート調査を実施した。分析にあたっ ては,情報収集活動と経営者意識を中心に,経営的な成長にともなう農業経営者能 力の変化を解析した。 はじめに,経営者としての成長と情報収集活動との相関関係について分析し、経 営目標がある,経営責任が重い,経営が安定したといった経営者としての成長が進 むに従って,受動的で限られた情報収集活動から能動的で高度な情報収集活動へと 変化している実態を明らかにした。 つぎに,経営者としての成長にともなう経営者意識の変化を,双対尺度法分析を 用いて解析を試みた。分析結果から経営者としての成長に従って,技術的な情報収 集や経営の計数管理といった限られた項目から経営ビジョンの確立や新規事業の企 画,環境変化への対応といった項目へと関心が広がり,経営者としての意識が変化 していることを解明した。 最後に,これまでの農業経営者能力の分析結果を踏まえて,経営者能力の育成支 援に向けた新たな理論の構築をおこなった。 方法として,はじめに農業者への中心的支援機関である農業改良普及センターの 活動を整理して,これまでの活動の問題点を抽出した。その結果,新技術や市況動 向といった外部情報の提供や各々経営状況に応じたアドバイスなど内部情報の提供 活動はおこなわれているものの,一般経営学でいうマネジメントサイクルを考慮し ない断片的な情報提供であって,農業経営者能力の育成支援にはなっていないこと を指摘した。 そのため,新たな活動理論としてマネジメントサイクルを基礎とした,経営目標 の設定や経営計画の作成支援によって農業経営者の意識的な変化を促す経営力ウン
セリングと,経営目標に対し具体的な経営改善提案をによる農業者の戟略的な行動 を促すさらに,実際にこれらの理論を援用し,農業改良普及センターにおける活動 の企画と実践をとおして,その体系化を試みた。 その結果,①経営体支援情報データベースによる対象の絞り込み,②経営力ウン セリングによる農業者の経営改善意識の醸成と経営目標作成支援,③経営コンサル
ティングによる具体的な経営改善碍案と経営行動の促進支援,④支援結果のデータ
ベースヘのフィードバック,という一連の農業経営者能力の育成支援システムを構 築した。 審 査 結 果 の 要 旨 本研究は、農業経営者能力の形成過程について実証的に分析し,農業改良普及センタ ーなどの支援活動をおこなう公的機関による農業経営者能力の育成支援システムに関す る理論の構築を目的としている。 本研究では第1に,岐阜県中濃地域108名の農業者を対象として,経営管理状況や経 営者の考え方などについて個別出荷と農協出荷の2つの販売方法に大別して調査し、個 別出荷者は,農協出荷者に比べ明確な経営ビジョンを持ち,積極的な情報収集を展開す るなどの活動を展開していること、また経営に対する考え方では,環境変化への積極的 な対応をするなど企業的農業経営者に必要な意識を備えていることが明らかにした。 第2に,農業経営者能力と売上高や経営規模といった経営成果との因果関係の解明と 経営者行動の予測を試みるために、岐阜県内の大規模稲作経営体代表者102名に対する 調査結果を基に,共分散構造分析を用いたモデル構築により分析した。 その結果、経営者意識の醸成によって,情報収集活動などの経営管理行動が盛んに なり,それが規模拡大や売上増加といった経営成果に結びつく因果関係を解明した。ま た,農業経営者能力の形成によって,政策への対応が積極化されることを明らかにした。 第3に,農業経営者能力の形成過程を明らかにするために,経営者として成長過程に ある全国100名の青年新規就農者にアンケート調査を実施し、情報収集活動と経営者意 識を中心に解析した。 その結果、経営者としての成長と情報収集活動との相関関係について、経営者として の成長が進むに従って,受動的で限られた情報収集活動から能動的で高度な情報収集活 動へと変化している実態を明らかにした。また,双対尺度法分析を用いて解析し、経営 者としての成長に従って,技術的な情報収集や経営の計数管理といった限られた項目か ら経営ビジョンの確立や新規事業の企画などへと関心が広がり,経営者としての意識が 変化していることを解明した。 最後に,農業改良普及センターの活動を分析し,外部情報の提供や経営内部情報の提 供活動はおこなわれているが、農業経営者能力の育成支援にはなっていないことを指摘 した。そのため,新たな活動理論としてマネジメントサイクルを基礎とした経営目標の 設定や経営計画の作成支援によって農業経営者の意識的な変化を促す経営力ウンセリン グと,経営目標に対し具体的な経営改善提案をによる農業者の戦略的な行動を促す経営 コンサルティングを提起し、その体系化を試みた。そして①経営体支援情報データベー スによる対象の絞り込み,②経営力ウンセリングによる農業者の経営改善意識の醸成と 経営目標作成支援,③経営コンサルティングによる具体的な経営改善提案と経営行動の促進支援,④支援結果のデータベースヘのフィードバック,という一連の農業経営者能 力の育成支援システムを構築した。 以上のように本研究の成果は、農業経営者能力の育成とその支援システムの構築に重 要な示唆を与えるものとして高く評価できる。 以上について,審査委員全員一致で本論文が岐阜大学大学院連合農学研究科の学位 論文として十分価値あるものと認めた。 学位論文の基礎となる学術論文 1.酒井貞明 普及活動における経営支援手法と支援ツール 農業・食料経済研究50-1、 19-26、2003.11. 2.酒井貞明・石川嘉奈子 販売形態の違いによる農業経営者の意識ならびに行動に関 する考察 農業普及研究9-2、58-66、2004.12. 3.酒井貞明 大規模稲作経営における経営者意識と行動に関する考察 農業・食料経 済研究51-2、29-39、2005.7. 既発表学術論文 1.辻井博・酒井貞明 共同製茶工場の投資計画及び経営分析の理論と応用 農業経済 研究65-3、181-190、1993.12. 2.酒井貞明 農業経営管郵旨導におけるIT活用と課題