〔論 文〕
㈱北海道ネイチャーセンター
∼北海道体験観光のパイオニア∼
佐 藤 公 一
(北海道二十一世紀総合研究所調査研究部) 北海道十勝管内の鹿追町は大雪山国立公園内に位置しており,ここの標高810mに位置
する然別湖畔に,北海道はもとより日本を代
表するアウトドア観光事業者「株式会社北海 道ネイチャーセンター(以下ネイチャーセン ター)」がある。 ネイチャーセンターは,自然豊かな然別湖 およびその周辺をフィールドに様々なアウト ドア観光に携わっており,北海道内はもとよ り道外,さらに近年では外国人の観光客もア ウトドアを目的に多数ここを訪れている。 春から秋にかけては,然別湖でゆったりと カヌーを漕いだり,然別湖周辺の森の散策や 川の中の観察,さらに2005年にスタートした エアトリップは.森の中をロープを伝ってモ モンガのように空中を移動するアウトドアメ ニューであり,ネイチャーセンターの人気メ ニューのひとつだ。また,冬場においては,氷結した然別湖を舞台に氷上露天風呂,氷の
グラス作り,スノーモービル運転やスノーシ ュー(現代版の「かんじき」を履いて冬の森 の散策)など通年を通じたアウトドア事業を 展開しているのもネイチャーセンターの大き な特徴である。 さらにネイチャーセンターでは,自然環境 の保護とアウトドア観光の両立を常に第一義 に然別湖を舞台に様々なアウトドア観光を実践しており,職員による周辺の継続的な清掃
作業はもとより,植樹を組み入れた体験ツア ーなども行っている。 資料 ㈱北海道ネイチャーセンターの体験観光プログラム(2009年) 季 節 メニュー名 特 徴 熱気球 四季折々の北海道の雄大な風景をゆっくりと空から眺め畏
られる。冬季は早朝の然別湖上から−25℃の冷気を体験
しつつ,冬の北海道の雄大な自然の風景を楽しめる。 通年 ナイトウォッチング自然本来の暗闇を体験でき,忘れかけていた世界を見つ
めなおすことができる。星空観察のツアーではないが晴 」l■■■■■− れていれば星空を見ることが出来る。 カナディアンカヌー普段経験の無い視線から鳥の声,湖面に映る四季折々の
春から秋 木々や草花などが見ることが出来る。川に住む魚を中心に,それを取り巻く自然について見つ
ダッジオープンを使ってのアウトドアクッキング。 てのカヌー体験。陸上でこぐ練習をするので,誰でも安 心して体験できる。 湖上と地上との二つの視点から然別湖周辺・北海道の自 大自然を感じながら思い思いのイメージで土笛の製作に 白雲山∼東雲湖まで北海道の自然を満喫できる。 所要時間は8時間程。コースは条件に合わせて2コース用意。
下る。同じコースを2回下る。
てストラップを作成。体験無料。飲み物代は別途。
然別の雄大な自然の様子を上映。見学無料。
然別湖上で雪と氷で作られたロッジでの宿泊体験。一面,大平原となった然別湖上を進む。
専門のインストラククーが指導。 然別湖上の上をスノーモービルで疾走。 好みに合わせて2コースを設定。 出所:㈱北海道ネイチャーセンターホームページ http://www.netbeet.ne.jp/ ̄nature/index.html今では全国的に珍しくないアウトドア観光 であるが,実は我が国ではアウトドア観光の
歴史はまだ浅く,ネイチャーセンターがその
先駆けといわれている。 近年にかけての北海道観光客の減少はアウ トドア観光事業者の経営にも影響を与えてお り,現在経営状況が不振のアウトドア観光事 業者が多いと言われている中で,ネイチャー センターは安定した集客を確保し長年経常黒 字を維持している特異な存在となっている。 以下ではネイチャーセンターの成長過程と経営の特徴に着目し,ネイチャーセンター成
長の原動力について考察したい。1.北海道ネイチャーセンターの概要
(1)有限会社然別湖ネイチャーセンターの 誕生現在,ネイチャーセンターが位置する然別
湖付近には,もともと「ホテル福原」と「然
別湖畔温泉ホテル風水」の2軒のホテルがあ
り,春,夏場は然別湖の自然とホテルの温泉 などを魅力に比較的観光客が多く訪れていた ものの,通年を通した集客,とりわけ冬場の 集客に大きな課題を抱えていた。一般的に集客を拡大するためには,駐車場
や施設の充実・リニューアルや観光エリアの魅力向上につながる開発投資などハー
ド面の整備が必要になるケースがあるが,然別湖は
国立公園の第一種,第二種の特別地域内にあ
り,法的規制が厳しくホテルの増改築ほかハ
ード面の整備による展開はほぼ不可能な状況 下にあった。 ネイチャーセンターの社長である坂本昌彦氏は,大規模リゾートホテルからホテル福原
に転職し営業部長を務めていたが,ホテルの
立地条件からハード面の整備に頼らず,然別
湖の自然を活かした体験観光による新たな集客を,ホテルの経営母体である福原グループ
の福原会長に提案。それが受け入れられたこ
とにより,1990年に分社化の形で「有限会社然別湖ネイチャーセンター(資本金500万
円)」が設立された。坂本氏は同社の代表取
㈱北海道ネイチャーセンター概要● 代 表:坂本昌彦
● 設 立:1990年9月1日(法人登記)
2003年8月1日(社名変更)
● 本 社:然別湖ネイチャーセンター〒081−0344
北海道河東郡鹿追町然別湖畔TEL O1566−9L8181 FAXO1566−9−8008
● 資本金:15,000,000円
● 従業員:正スタッフ(平成17年1月現在)
13名 日本気球連盟 熱気球パイロット レスキュー3 レベル1 (急流救助活動の国際的資格) 日本赤十字社 一般講習受講 ネイチャーゲーム指導員 北海道認定 山岳ガイド 自然ガイド カヌーガイド(レイクJ) カヌーガイド(リバー)名名名名名名
3 1 2 6 5 2 1(当時は許認可が下りず断念せざるを得なか った。 リゾー ト法(総合保養地域整備法)の関係 で各省庁や関係機関に提出する資料づくりを
担当した経験も,ネイチャーセンターの活動
を関係省庁に認めてもらう上で大変役立った ということである。 バブル絶頂の1990年代に入ると,社長室と いう経営中枢にいた坂本氏は,会員権方式に よるリゾー ト開発が既に限界を迎えていると 感じており,その後退職。 大学卒業論文のテーマが「観光業による地 域活性化」ということもあり,大学卒行事に は地方の観光協会への就職も検討したという 坂本氏が選んだ次の職場は然別湖だった。 トマム勤務時代から時々プライベートで然 別湖を訪れ,この地の雄大で手付かずの大自 然に大きな可能性を感じていた坂本氏が然別湖に活動のフィールドを移すのも,自然な流
れであった。2.ネイチャーセンター設立当初の状況
有限会社然別湖ネイチャーセンターを設立 した時に採用したのは3名の社員である。 一人は「然別湖温泉ホテル風水」を退職し たスタッフであり,ホテル退職後に然別湖で 熱気球やカヌーを個人で行っていたが,宿泊 者へのアピールはあまり出来ていなかった。 また残りの2名は帯広畜産大学で自然学を 学んだスタッフであった。 事業スタート当初のアウトドアメニューは 然別潮を舞台とした「カヌー」「熱気球(冬 場凍った湖上で実施)」「森の散策」などで あった。また秘湖といわれた然別湖近隣の東 雲湖へのガイドツアーなどをプログラム化して提供した。また,冬場のプログラムとして
以前から地元の人が行っていた,凍った然別 湖に「イグルー」や「′トさな露天風呂」を作 る小さなお祭りを,大規模なイベント化した りした。 しかしながら,活動当初はいばらの道の連 続であった。 まず,利用客がホテル宿泊の個人客に限ら 締役に32歳で就任することとなった。 坂本氏がネイチャーセンターを設立するにあたり,然別湖に残る自然をそのまま活用で
きること,1980年代中頃から然別湖の先述の 2軒のホテルが協力し,熱気球とカヌーのア ウトドアサービスを行っており,数人のイン ストラクターがいたこと,坂本氏自体が前職でアウトドアビジネスについて研究,海外視
察なども経験しアウトドア観光に関する知識 などが素地としてあったことが大きい。 (2)経営者坂本社長 ∼大学生時代から深 く観光に携わる∼坂本氏は函館市出身で,高校卒業後に東京
の大学に進学。学生時代,昼間は大学に通
い,夜はホテルの予約センターでアルバイト という生活だった。下宿はホテルの支配人の家であり,その家
ではホテル業界の若手勉強会が不定期に開催 されていたという。 1980年に大学を卒業し,その後はホテル分野の専門学校でさらに1年間勉強。在学中は
そこの主任講師に可愛がられ,私設秘書を務
めて国内はもとよりカナダやオーストラリア など海外の観光地を訪ねて回るなど学生時代 から観光業界に深く身を置いていた。 1981年に専門学校を卒業後,ホテルアルファに入社。札幌で勤務したのち,アルファリ
ゾートトマムの開業準備室に配属された。 アルファリゾートトマムは占冠村のトマム山麓に一大リゾートをつくるプロジェクト
で,まず1983年にスキー場とホテルが開業
し,その後分譲コンドミニアム,会員制ホテ ルなどが次々オープンした。 この間,坂本氏は,会員制ホテルの担当マ ネージャーを経て,社長室に移動し多忙な 日々を送っていたが,ここで世界各地のアウ トドアレジャー事情を視察できたことが,の ちのネイチャーセンター設立に大いに役にた ったということである。 まだラフティングがブームになる前の1980 年代に.空知川にラフティングを導入しようとしたのはトマム勤務時代の坂本氏である
店へ自らワープロで手作りで作成したパンフ レットを持参し営業活動を積極的に行った。 なかでも体験型ヘシフトしつつあった修学旅
行は重要なマーケットなると考え,有望校に
は直接売り込みを図っていた。 このような営業活動が功を奏し,1994年に 大阪のある私立高校一校が自然環境にふれる ことが出来るネイチャーセンターのプランを 採用することとなった。 この時のアウトドア観光メニューは「カヌー」「トレッキング」「ナイトウオッチン
グ」を主としたものであり,アウトドア観光
を取り入れた修学旅行は国内初であった。1994年以降は体験型のプランを修学旅行に
組み入れる高等学校が多くなり,公立の高校
を含めて修学旅行客が大きく増加し,1998年 には受入校数が100校を超えた。公立高校が増加要因として,ネイチャーセ
ンターが営業活動を行った地域の教育委員会 にアウトドア観光の概念と意義が理解された ことが大きく作用している。 公立の学校の修学旅行は中学・高校とも管 轄の教育委員会の「修学旅行実施基準」に従ったプランを実施する必要があり,公立学校
の修学旅行誘致については学校はもちろん教育委員会の理解が必要である。ちょうどこの
ころ文部科学省の方針で公立学校の修学旅行については,学校は直接旅行代理店との契約
が必要となったことから,ネイチャーセンタ
ーのアウトドア観光の価値を理解してくれた 旅行代理店が教育委員会への説明を熱心に実施してくれたこともあり,公立高校の修学旅
行学習プランにアウトドア観光メニューが組 み入れてもらえるようになった。 さらに,一般の観光客を呼び込むためアウ トドア観光メニューを充実させ,旅行代理店 にオプション商品として売り込みを図ることで,修学旅行以外の一般の団体客の増加にも
つながった。 (2)外国人観光客の獲得によりさらなる成長 今では然別湖で展開するネイチャーセンタ ーのアウトドア観光も浸透し,年間2万∼3れ,設立から2,3年ほどは赤字続きであっ
た。 また,当初は地元の理解や協力も十分得る ことが出来なかった。「グリーン・ツーリズ ム」が提唱され始めたのは1992年頃からであ るが,当時若手の地元農家と観光の話しをしていると,農業の上層部や役場の農政部門か
ら,「若者を水商売に引き込まないで欲し
い」と注意を受けたという。また,起業時の課題は集客面だけではな
い。その一例が保険の問題である。自然の中
での活動は一定のリスクを伴い,旅行代理店 でも保険加入が取引条件となるなど,アウト ドア観光に保険は今や必須である。 しかし当初は体験観光が新しい事業領域で認知されていなかったため,引き受ける保険
会社がなかった。 坂本氏は学生時代のネットワークなどを探 して保険会社の本社に乗り込み,ようやく保 険を引き受けてもらえるようになった。また,1996年には自然公園法の改正によ
り,スノーモービルや熱気球の実施,看板の設置等について法規制を受け,スノーモービ
ルや熱気球に関しては全面的に禁止される動 きがあった。これに対しネイチャーセンターの主導により「然別湖開発委員会」を開催
し,環境庁,北海道開発庁,北海道藤,営林
署,鹿追当などの参加を得て,然別湖での環 境保全と観光のあり方について議論することとなった。この委員会の成果により,従来行
っていた夏場の熱気球や,林道でのスノーモ ービルはできなくなったものの,冬場凍結し た然別湖上でのスノーモービルや熱気球の実施は特認されることとなり,会社経営への影
響を最小限に食いとどめることができた。3.ネイチャーセンターの成長期
(1)修学旅行の受入を契機に顧客が増加 「あと1年我慢して実績が出なければ事業 をやめる」と考えていたときに転機が訪れる。 然別湖の2つのホテルの個人客だけでは,事業がなりたたないと考えた坂本氏は,道外
マーケットを重視し,東京や大阪の旅行代理
が,その後1994年の修学旅行の誘客を契機に
順調に顧客が増加し,台湾をはじめとする海
外からのインバウンドの誘致にも成功したこ となどから,今では25,000人前後で推移して いる。 また,売上においても設立当初は400万∼500万円程度であったが,今では約7,000万円
程度と10倍以上に成長している(近年にかけての経常利益は300万円程度で推移とのこ
と)。 ネイチャーセンターの利用者は「ホテル福 原」の宿泊者が全体の約6剖を占め,「ホテ ル風水」の宿泊者が約2割,日帰り客やその 他の地域からの人込みが約2割という構成に なっている。ネイチャーセンターの利用者は事前予約を入れる人が多いが,中には然別湖
に到着してから予約を入れる人もいるため, ホテル福療とホテル風水ともに館内の内線電 話でアウトドア観光の申し込みができるよう になっている。チェックインが集中する夕方 には,両ホテルに申し込みカウンターを設け スタッフを派遣し,アウトドア観光の受付と メニューの説明・相談などを行っている。 利用者の道内・道外比率は,ホテル福原の宿泊者ベースでみると大体4:6で道外が主
体となっているが,ネイチャーセンターの利
用者は約5:5となっている。これは札幌地
区にリピーターが多いことが要因と考えられ ている。さらに個人客と団体客の比率について現在は概ね5:5となっている。個人客は
30∼40代の女性を中心にリピーターが多くなっている。ネイチャーセンターでは,固定客
確保のために,会員組織を作っている。「コ
タンクルーカムイ」という会報を年に4回発 刊している。年会費は1,000円である。会員に は割引料金制度がある。現在1,200人ほどい る。多いときは年に100から300人くらいのペ ースで増えていたが今では50人くらいずつ増 えているという。季節ごとに見た集客の状況については,冬
季でも夏季の約3割程度の顧客を維持してお り,昨年度においては2月単月で異字を達成 万人程度の利用者があり,そのうちの約1割 が台湾人を中心とした外国人観光客が占める に至っている。 台湾からの顧客をネイチャーセンターが受け入れるきっかけとなったのは,2000年の7
月に,日本の旅行代理店やマスコミ関係者か
らネイチャーセンターの話を開いた,台湾の 有力財閥である「統一企業」の朱光彦副稔経 理が然別潮を訪ねたことに始まる。当時,統一企業グループには統一OAO自
然学校という組織があり日本での業務提携先 を探していたという。ネイチャーセンターを紹介された朱光彦副総経理は,今後台湾
OAO自然学校の然別湖での開催や,台湾へ
のインストラクタ一派遣をして欲しいという 話をしている。 この出来事を契機に,2001年から台湾の小 中学生を夏休みに受け入れ,2003年は子会社 である統一友友旅行者から台湾の一般客の体 験型団体商品や体験型個人商品が販売・送客されている。今では台湾内の旅行代理店,マ
スコミ関係や一般企業を紹介されるなど,ネ イチャーセンターの新たなビジネスにつなが っている。4.ネイチャーセンターの経営の特徴
(1)ネイチャーセンターの売上と顧客数の 推移 北海道においては,現在,ニセコのラフテ ィングや釧路川のカヌーなど,今ではアウト ドア観光が各地で盛んに行われている。アウトドア観光が盛んになった背景とし
て,これまで北海道観光といえば旅行代理店 が手配した景勝地や温泉地などのルートを団体客がめぐるものが多かったが,個人・小グ
ループ型の旅行スタイルが伸びつつある中で 新たな観光ニーズが生じてきていることと, 観光客を受け入れる側が地元の自然資源を見直し,アウトドア観光のような形で観光客へ
訴えていこうとする動きが活発になったこと があるといわれている。 ネイチャーセンターにおいては,1990年の設立当初の顧客数は2000人足らずであった
に偏る∼ アウトドア観光は1990年代から盛んに行わ
れるようになり,今では法人格を有するアウ
トドア観光事業者数は北海道内に50前後あるといわれている。北海道においては,こうし
たアウトドア観光事業者が実践する体験観光の多くが今でもキャンプや釣り,カヌーなど
夏季のみに集中しており,冬の需要は殆どな
いのが特徴である。このためアウトドアガイ
ドによる収入は限定的であり,アウトドアガ
イドの多くは,正社員ではなくあくまでアル
バイトとしてアウトドア観光に従事せざるを 得ないケースが多いと言われている。 ∼経営維持のため団体客の受入れが重要∼ 近年にかけて,旅行形態も変化しており, これまでの団体によるマスツーリズムから価 値追求型の個人・小グループ旅行が増えつつある。このため多くの観光事業者が個人・小
グループ型顧客の獲得に向けた対応を進めているところであるが,アウトドア観光事業者
においては規模も小さいところが多く,事業
のスタート段階においてはむしろ個人や小グ ループが顧客を中心とした旅行代理店を通さ ない集客がほとんどである。 もともとは個人・小グループの受入れから スタートしてきたアウトドア観光業界であるが,安定した事業収益を考えると団体旅行の
受入れや旅行代理店を通じた集客が近道であり,そのため多くのアウトドア観光事業者が
旅行代理店とのつながりを深めるべく体制整 備を行っている。現在では,団体旅行の受入れを行っている
アウトドア観光事業者の収入の約6剖が修学
旅行に依存していると言われている。修学旅
行は団体旅行の形態の一つであり,アウトド
ア観光事業者にとって修学旅行マーケットは 一度の受入れで多くの収入につながる貴重な 顧客の位置づけである。しかしながら,このように修学旅行を含め
て団体客を受け入れるには旅行代理店とのつながりが不可欠であり,さらにカヌーやマウ
ンテンバイク,ラフティング用ボートなどを した。また,ネイチャーセンターが設立され る以前のホテル福原の2月の利用客数は概ね 400人程度であったが,現在では3,500人程度を維持しており,設立当初の目標であった冬
場の集客については十分成果があがっている ものと評価できよう。 (2)北海道のアウトドア観光事業者の基本 状況 北海道ネイチャーセンターの売上と顧客数の推移 千円 人 ヨ5.000 ∋0,000 ヱ5.000 20.0(】0 15.000 10.000 5,000 120.000 100′000 80,000 60.000 40′000 20.800 ず♂♂ぜ♂♂㌔♂ず♂ぜ♂♂♂♂♂♂【声♂♂ ⊂=コ売上(単位千円) 一会一人数(延べ人数) 職員数の推移 人 14 1Z 10 8 6 4 2このように,1990年代後半から堅調に経営
を維持しているネイチャーセンターと,他の
一般のアウトドア観光事業者との経営上の差 異はどこにあるのか。 ネイチャーセンターが順調にアウトドア観光事業を展開できている要因を探るために
は,アウトドア観光業界における活動の現状
および業界特有の経営課題を把握するとともに,それを踏まえたネイチャーセンターの取
組を整理する必要がある。
∼北海道ではアウトドア観光メニューは夏季十分に揃えるための投資も必要となる。 −ガイドのレベルアップが重要∼
アウトドアは常に危険と隣り合わせであ
り,ガイドにおいては常に安全を意識した質 の高いレベルの対応が求められ,そのために は常日頃ガイドの質の向上に向けた訓練や研 修が望まれているが,アルバイトの身分のま までは十分な訓練・研修を受けることが困難 な状況である。 (3)ネイチャーセンターの取組 以上のように北海道でアウトドア観光事業 を効果的に実践していく上では,「冬季間の 体験メニューの提供」「通年での磯貝雇用体 制」「質の高いガイドの育成と確保」「団体 客を受入れるための体制」などが事業者に必要となる。特に「冬季間の体験メニューの提
供」と「通年での職員雇用体制」と「質の高 いガイドの育成と確保」については相互に密 接に関連している。 アウトドア観光を育てるためには,優秀な ガイドが必要であり優秀なガイドを育てるた めには,アウトドア観光を実践するきちんと した組織が必要となる。組織=企業体として アウトドア観光を進めるためには,春∼秋だ けではなく冬季のアウトドア体験プログラム を開発・提供し.ガイドとなる社員を通年雇 用できる仕組みを作る必要がある。 以下これらの事項に関するネイチャーセン ターの取組についてまとめる。 (D 通年での雇用を目指して −通年でのアウトドア観光メニューの開発∼ 北海道内の多くのアウトドア観光事業者が 冬場の活動に課題を抱える中,ネイチャーセ ンターはもともと,然別湖における冬季間の 集客を目的の一つに設立された経緯もあり, 冬場のアウトドアメニューには力を入れてい た。活動フィールドである然別湖では,従前か
ら冬場に氷結する湖の上でイベントが行われ ており.ネイチャーセンターではそれを進化 させさまざまな体験プログラムを開発した。 氷上露天風呂は世界初と言われており,さ らに氷結した然別潮の上でのアイスバーやス ノーモービル,さらに雪の上を専用の履物で 散策するスノーシューなど,冬場の体験メニ ューを充実させるとともに,ナイオウオッチ ングや熱気球など通年で提供可能な体験プロ グラムなども開発した。 ∼多角経営の実施一通年でのアウトドア観光メニューの整備
は,組織として継続した事業を実施していく 上で重要な要素となるが,アウトドア観光自体が天候に影響を受けやすい性格などもあ
り,経営の安定化を図るための工夫が必要と される。 ネイチャーセンターでは,ガイド収入のほ かにも収益を安定させるため.1994年頃から 鹿追町や国などの委託事業(北海道営のキャ ンプ場の管理・運営.駐車場やトイレの清掃 業務,地元鹿追自然ランドの運営など)や主 に冬場に旅行代理店の旅行商品企画代行,北 海道拓殖大学における観光講座などを通じた事業収入を得ることで,通年での経営の維持
につなげている点が大きな特徴となってい
る。 現在,ネイチャーセンターでは,アウトド アガイドによる収入が全体の約6割程度残り が委託事業や大学からの収入となっている。 ② 人材確保・育成 アウトドア観光サービスの提供には訓練さ れた専門ガイドによる丁寧な指導・誘導に基 づく安心なサービス提供が重要であることか ら,ネイチャーセンターは起業時から人材育 成に力を入れている。 アウトドアガイドには様々な知識・ノウハ ウが必要となるため,育成にも時間がかかり 単なるアルバイトでは無理があること,また ガイドがしっかりできないと利用者の満足度 も上がらないことから,ネイチャーセンター では正社員としてガイドを採用し,オフシー ズンを研修の時間にあて,長いスパンで人材育成を行うことにしている。その結果.旅行
代理店や利用者からは他所と比較してガイド の質が高く評価されている。 ∼スタッフの採用と研修∼ ネイチャーセンターは基本的に通年雇用,生涯雇用を基本方針としているが,未経験者
についてはアルバイトとして勤務してもら
い,人間性を見極めてから正社員として登用するステップを踏んでいる。ガイドの仕事は
非常に奥深く様々な知識・ノウハウが必要になることから,アルバイトとして採用後の数
年間は徹底したガイド教育を行っている。 ネイチャーセンターでは顧客が比較的落ち込む秋口,春先などを中心に道内外で実地研
修を定期的に実施し,社員のレベルアップに
注力している。道外での研修では,例えば鹿児島県の屋久
島のアウトドア事業者にスタッフを派遣し, 現地の事業運営に携わるとともに現地のスタッフと共同で研修事業を行っている。また,
冬の間は西表島や奄美大島にスタッフを派遣 しベテランインストラクターを主対象に研修 を実施している。 また,研修旅行として海外に行くことも多 く,メキシコのバハ・カリフォルニア湾でシ ーカヤック体験を行ったり,提携しているス ウェーデンのユツカスヤルビのホテルから, 「然別湖コタン」の運営ノウハウを学んだり している。 ネイチャーセンターでは,こうした研修を実施することにより,参加スタッフのガイド
カの向上とともに,若いインストラクターヘ
の指導力を磨いている。 また,ネイチャーセンターではガイドの質 の向上や新たな体験プログラムの企画などを 目指した社員会議を頻繁に設けており,エア トリップなど,ここから生まれたプログラムも少なくない。また,ネイチャーセンターの
利用者から寄せられたニーズをもとにスター トさせたプログラムもあり,地域の農業者と のネットワークにより農業体験なども実現さ せている。さらに,台湾の統一グループのOAO自然
学校とも業務提携を結んでおり.お互いのス
キルアップを目指した交流事業も行ってい
る。 このようにネイチャーセンターが専門ガイドの人材育成を重視し,道内外・海外を含む
実地研修を定期的に実施するとともに社員のレベルアップに注力し,高品質のサービス提
供につなげてきたことが評価され,2009年には「サービス産業生産性協議会」の第6回
「ハイ・サービス日本300選」に選定されて いる。 (勤 旅行代理店とのつながりの強化 ∼旅行代理店とのつながり強化に向けた取組∼アウトドア観光事業者にとって,団体客や
パック旅行客の獲得は安定収益をあげるため重要となるが,そのためには旅行代理店との
つながりが必要不可欠となる。ネイチャーセンターでは,活動の初期の段
階から営業活動として旅行代理店ヘアウトド ア観光メニューの売り込みを行っていた。旅行代理店に対しては,キャリア系
(JAL,ANAなど航空会社系),ノンキャリ
ア系(JTB.日本旅行,近畿日本ツーリス
トなど)のすべてにアプローチをかけてい
る。 当初は旅行代理店とのつながりを持つことはなかなかできなかったが,坂本社長のホテ
ルアルファ時代からの人脈や,旅行関連団体
の事務局を坂本社長が自ら引き受け,宿泊, 運輸,観光事業者などに人脈を広げるほか, 旅行会社の要望に合わせてボランティアで企 画書や行程表などを作成することなどにより 信頼関係を構築していくことで旅行代理店と のつながりを徐々に深めていった。 1993年ころまでは団体の集客ができず,個 人旅行が主体であったが旅行代理店とのつな がりが深まってからは団体旅行客の割合も増 加していった。現在ではJTBを中心に,日本旅行,近畿日
本ツーリスト,JAL,ANAなど主要旅行代理
店とビジネスのつながりを有している。 ネイチャーセンターが旅行代理店とのつな がりを深めることができた要因として,ネイ チャーセンターの一人ひとりのガイドのレベ ルが高いこと,大人数での受入れが可能なア ウトドア観光メニューと必要機材を有してい たこと,保険など旅行商品を作る上で必要な 知識を十分有していたことなど,ネイチャー センターに優れたバックグラウンドがあった ことはもちろんであるが,こうした地道でか つ積極的な営業活動を同時に実践したことが あったことは間違いない。 ∼旅行代理店業への進出∼ ネイチャーセンターでは卓越したアウトド ア観光事業の実践とホテル経営のノウハウか ら,旅行代理店に単にオプション商品の売り
込みを図るだけではなく,徐々に旅行代理店
が取り扱う旅行商品そのものの企画のサポー トも行うようになっていった。 旅行代理店とネイチャーセンターが共同で 商品企画・開発を行うには旅行業の免許が必 要となることから,2003年にはネイチャーセ ンターのグループ会社として(有)アークス トラベルを設立し,第2種旅行業の免許を取 得している(ネイチャーセンターの親会社で ある株式会社福原は2002年にアークスグルー プと経営競合)。これにより,直接ネイチャ ーセンターが絡んだ旅行商品の販売を行うこ とが出来るようになり,また国内外の旅行代 理店のツアーオペレ一夕ー(旅行会社の委託 を受けて海外旅行の現地手配を行う会社)の機能を果たすことが出来るようになり,国内
だけでなく台湾を中心に海外からの観光客の 受入拡大にも大きく寄与することとなった。 ④ 福原グループ(アークスグループ)の強 みを活かした展開 ネイチャーセンターは,資本金500万円の有限会社として発足したが,資本金のほか事
務所やスタッフの住居に関しても福原グルー プからのサポートを受けている。 アウトドア観光は,修学旅行など大人数を 受け入れるのには初期投資がかかるのが特徴である。例えば200人の団体を受け入れる場
合,マウンテンバイクなら200台が必要になり,カヌーは2交代でやってもらうにせよ
100名乗せるには50偲が必要になる。現在でこそ,アウトドアショップが増加
し,値段も安価になってきているが,当時は 北海道にアウトドア用品を扱う店は乏しく,マウンテンバイクひとつとっても当時は1台
10万円ほどするありさまであった。
このように,アウトドア観光事業を核とし た展開には様々な初期投資が必要であるが, 資金調達の面においても親会社の福原からの 融資や保証などのサポートがあった。 また,ネイチャーセンターは同じ然別湖畔 に位置するホテル福原との連携を設立当初か ら行っており,ホテル宿泊とアウトドア観光 をセットにした宿泊パックを企画・販売して いる。 このように,ネイチャーセンターは福原グ ループの強みを活かした展開が可能であった ことが,その後の成長に大きな意味を持って いる。5.アウトドア業界全体の底上げのために
(1)アウトドア観光を中核とした地域間連 携の取組 自然環境に恵まれた北海道の優位性を活か したアウトドア活動等のアウトドア観光は, 多彩な体験メニューや様々な地域資源と組み合わせることで,観光入り込み客数や観光客
の滞在日数を増やし,観光消費額の拡大や地 域経済の発展に大きく寄与することが期待さ れる。 また,安全で質の高いアウトドア体験サー ビスを提供するアウトドアガイドの育成や健 全なアウトドア事業を行うアウトドア事業者 の発展に努めることは,利用者にアウトドア活動の楽しさ・素晴らしさを伝えるととも
に,アウトドア産業の振興につながっていく と考えられる。 ネイチャーセンターでは,西十勝地区をモ デル地区とし平成13年度から14年度にかけ北の市場が縮小してしまう恐れがある。