はじめに
本稿は、第二次納税義務者が、第二次納税義務の納付告知を受け た段階で、本来の納税義務者に対する課税処分(以下、主たる課税 処分という。)に対してどのように争わせることが、行政法理論に とっても最も適合的であるかを考察することを目的とする。 この問題について、最高裁昭和 50 年8月 27 日判決(民集 29 巻 7号 1226 頁。以下、昭和 50 年最高裁判決という。)は、第二次納 税義務者が自己に対する納付告知の違法理由として主たる課税処分 の違法を主張することができないとした。これを受けて最高裁平成 18 年1月 19 日判決(民集 60 巻1号 65 頁。以下、平成 18 年最高 裁判決という。)は、第二次納税義務者が納付告知を受けた段階で第二次納税義務者に対する納付告知と
主たる課税処分との間の「違法性の承継」
~「たぬきの森」事件最高裁判決を受けての若干の考察~
藤 巻 秀 夫
はじめに 1.問題状況 (1)第二次納税義務とは (2)第二次納税義務者による争訟可能性 2.平成 18 年最高裁判決の問題点 (1)最高裁判決の概要 (2)争訟を提起する適格に関する問題点 (3)争訟を提起する期間に関する問題点 (4)取消判決の効力に関する問題点 (5)その他の問題点 3.昭和 50 年最高裁判決の問題点 (1)最高裁判決の概要 (2)違法性の承継を否定する理由 (3)「たぬきの森事件」最高裁判決における違法性の承継論 4.むすびに代えて~第二次納税義務者の権利保護のありかた~主たる課税処分に対して直接取り消しを請求できること、そして争 訟提起期間について第二次納税義務の納付告知を起算日とすること を認めた。これにより第二次納税義務者に違法な課税処分により租 税徴収処分が執行される危険を回避する機会が与えられ、第二次納 税義務者の権利保護の観点からは一応評価できる状態がもたらされ たことになる。しかし、表面的には一見平灰がとれているこの解決 策は、行政法理論的には数多くの問題を抱えており、かえって問題 を複雑にしているのではないかと考える。 このような状態は基本的には立法によって解決されるべきことで あるが、本稿では、いわゆる違法性の承継を最高裁判所としてはじ めて正面から認めたいわゆる「たぬきの森」事件・最高裁平成 21 年 12 月 17 日判決(民集 63 巻 10 号 2631 頁。以下、平成 21 年最高 裁判決という。)を手がかりに、第二次納税義務者に対する納付告 知の取消しを求める争訟において主たる課税処分の違法性を主張さ せることが行政法理論の観点からは適切であることを明らかにした い。 以下、1.において、第二次納税義務をめぐる法状況および第二 次納税義務者の権利保護の状況を整理した上で、2.平成 18 年最 高裁判決がもたらす行政法理論への影響とその問題点を浮かび上が らせる。3.では、いわゆる違法性の承継を消極的に解した昭和 50 年最高裁判決の論理を批判的に検討する。4.では、平成 21 年 最高裁判決を手がかりに、第二次納税義務者の権利保護のありかた について本稿の問題意識を展開する。
1.問題状況
(1)第二次納税義務とは 第二次納税義務というのは、確定した主たる納税義務につき、本 来の納税義務者の財産に対する滞納処分を執行してもなお徴収すべ き額に不足すると認められる場合に、租税徴収の確保を図るため、本来の納税義務者と人的、物的に特別の関係のある者に本来の納税 義務者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しないような場 合に、本来の納税義務者の納税義務に代わる義務を負わせることに よって、租税の徴収確保を図るものと説明される 1。 すなわち形式的には第三者に帰属している財産であっても、実質 的には本来の納税義務者にその財産が帰属していると認めても公平 を失わないようなときに、形式的な権利の帰属を否認してその形式 的に権利が帰属している者に対して補充的に納税義務を負担させる ものである。 第二次納税義務の類型については、国税法徴収法 33 条以下、地 方税法 11 条の2以下が定めている。 国税徴収法 33 条(地方税法 11 条の2)は、合名会社の社員又は 合資会社の無限責任社員は、それらの会社の滞納にかかる租税につ いて第二次納税義務を負うと規定する。なお、この場合において社 員らは連帯してその責めを負う。 国税徴収法 34 条(地方税法 11 条の3)は、法人が解散した場合 において、清算人及び残余財産の分配又は引渡しを受けた者(1項)、 又は一定の清算受託者及び残余財産受益者等(2項)は、法人の納 付すべき租税について第二次納税義務を負うと規定する。 国税徴収法 35 条(地方税法 11 条の4)は、同族判定株主の滞納 にかかる租税について、一定の要件に該当する同族会社は第二次納 税義務を負うと規定する。 国税徴収法 36 条(地方税法 11 条の5)は、実質所得者課税の原 則等の規定により課税された国税の賦課の基因となった収益が法律 上帰属するとみられる者又は実質判定の規定により課された国税の 賦課の基因となったその貸付けを法律上行ったとみられる者(1項・ 2項)、同族会社又は組織再編成等に係る行為計算の否認の規定によ り否認された納税者の行為につき利益を受けたものとされる者(3 1 金子宏〔2019〕162 頁以下参照。
項)は、第二次納税義務を負うと規定する。 国税徴収法 37 条(地方税法 11 条の6)は、滞納者と生計を一に する配偶者その他の親族でその事業から所得を得ている者又は同族 会社である納税者の同族判定株主等が、滞納者の事業遂行に欠くこ とのできない重要財産を有している場合などにおいて、その配偶者 等又は同族判定株主等は第二次納税義務を負うと規定する。 国税徴収法 38 条(地方税法 11 条の7)は、納税者から事業を譲 り受けた親族その他の特殊関係者で、かつその譲受人が同一とみら れる場所において同一又は類似の事業を営んでいる場合において、 その事業の譲受人は第二次納税義務を負うと規定する。 国税徴収法 39 条(地方税法 11 条の8)は、滞納者がその財産を 無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除、その他第三 者に利益を与える処分(無償譲渡等の処分)を行った場合において、 その無償譲渡等の処分により権利を取得し、又は義務を免れた者は 第二次納税義務を負うと規定する。この場合において、第二次納税 義務の範囲は、無償譲渡等の処分の時に滞納者の親族その他の特殊 関係者である者は無償譲渡等の処分により受けた利益の限度、その 他の者については無償譲渡等の処分により受けた利益が現に存する 限度である。 最後に国税徴収法 41 条は、人格のない社団等が租税を滞納した 場合において、これに属する財産の名義人になっている者(1項)、 滞納者である人格のない社団等から財産の払戻又は分配を受けた者 (2項)は、一定の範囲で第二次納税義務を負うと規定する2。 本稿で検討対象とする昭和 50 年最高裁判決は、法人税法上の同 族会社の滞納地方税につき地方税法 11 条の6により当該会社の代 表者(かつ、当該同族会社の判定の基礎となる株主でもある)に対 して第二次納税義務の納付告知を行った事案である(国税徴収法で 2 大崎満〔1975〕169 頁以下によれば、第二次納税義務は、①法人制度を利用す る租税回避を防止する規定、②実質所得者課税の原則等による賦課と徴収を調整 する規定、③詐害行為類似の事例等に関する規定に分類される。
は同様な規定は 37 条に規定されている)。また、平成 18 年最高裁 判決は、知人が代表者を努めるある会社から同社の保有株式を譲渡 された者に対して、同社に対する法人税課税処分に基づく同社の滞 納国税について、国税徴収法 39 条に基づいて第二次納税義務の納 付告知を行った事案である3 。 第二次納税義務者から租税を徴収しようとするときは、第二次納 税義務者を特定して、徴収しようとする金額、納付の期限その他必 要な事項を記載した納付通知書によって告知しなければならない (国税徴収法 32 条1項。以下、納付告知または納付告知処分という)。 (2)第二次納税義務者による争訟可能性 第二次納税義務制度は、以上のように租税を滞納している主たる 納税者と特別の関係にある者に対して二次的に納税義務を負わせる 制度である。これは租税の徴収確保を優先する考えに基づくもので ある。すなわち、租税債務者が故意にその財産を親族等に移転し、 あるいはその事業を同族会社に組織替えをする等により滞納処分の 目的達成を不可能とする事態に対処するために立法された 。 本来の納税義務者に対する課税処分があることを前提とすると、 第二次納税義務者がその納税義務を免れるための争い方として考え られるのは、①自己に対する第二次納税義務の納付告知を争う方法 と、②本来の納税義務者に対する課税処分を争う方法とが考えられ る。そして、前者については、①a主たる課税処分が無効または不 存在であること前提として自己に対する納付告知が違法無効である ことを主張する方法、①b自己に対する納付告知の固有の瑕疵(た とえば第二次納税義務者には該当しないといった)を主張してその 取消しを求める方法、①c自己に対する納付告知が違法であり取り 消されるべきであるとする理由として、主たる課税処分に瑕疵があ 3 窪田良一〔2011〕11 頁以下によると、平成8年から平成 21 年の間に国税不服 審判所の裁決のあった第二次納税義務に関する審査請求は、179 件あり、このう ち4割以上(75 件)が国税徴収法 39 条に関する審査請求であったとされる。
ることを主張する方法がある。このうち①aと①bのような主張が できることは当然でありこの点については争いがない。そうすると 問題となるのは、①cのように主たる課税処分に瑕疵があるとして も何らかの理由4により取り消されていない場合において、第二次 納税義務の納付告知の段階になって、本来の納税義務者に対する主 たる課税処分に瑕疵があることを理由に、第二次納税義務の納付告 知が違法であり取り消されるべきであると主張できるか、である。 それとも②のように、第二次納税義務者は主たる課税処分の取消し を求めるべきであるかである。 第二次納税義務者の争訟可能性について、最高裁の見解が正面か ら示されているのは次の二件である。この論点について初めて判断 した昭和 50 年最高裁判決5は、「主たる課税処分等が不存在又は無 効でない限り、主たる納税義務の確定手続における所得誤認等の瑕 疵は第二次納税義務の納付告知の効力に影響を及ぼすものではな く、第二次納税義務者は、右納付告知の取消訴訟において、右の確 定した主たる納税義務の存否又は数額を争うことはできない」とす る。主たる課税処分に瑕疵があったとしてもそれが取り消されてい ない以上、第二次納税義務者は自己に対する第二次納税義務の納付 告知の取消訴訟において主たる課税処分の違法を主張できないとす る。このような判断は、それまでの多数の下級審裁判例を是認した ものであり、その後の裁判例の方向性を定めるものであった6。なお、 昭和 50 年最高裁判決は、第二次納税義務者が主たる課税処分を直 接争うことができるかについては判断していない。 これに対して平成 18 年最高裁判決7は、主たる課税処分に対して 第二次納税義務者が取消しを求めることを認めた。すなわち、「違 4 昭和 50 年最高裁判決の事案では納税義務者である法人の解散により争う主体 がないこと、平成 18 年最高裁判決の事案では不服申立て期間が徒過していたと いう事情があった。 5 最判昭和 50 年8月 27 日民集 29 巻7号 1226 頁。 6 田中啓之〔2011〕264 頁、及びそこで引用される裁判例を参照。 7 最判平成 18 年1月 19 日民集 60 巻1号 65 頁。
法な主たる課税処分によって主たる納税義務の税額が過大に確定さ れれば、本来の納税義務者からの徴収不足額は当然に大きくなり、 第二次納税義務の範囲も過大となって、第二次納税義務者は直接具 体的な不利益を被るおそれがある。他方、主たる課税処分の全部又 は一部がその違法を理由に取り消されれば、・・・第二次納税義務 は消滅するか又はその額が減少し得る関係にあるのであるから、第 二次納税義務者は、主たる課税処分により自己の権利若しくは法 律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあ り、その取消しによってこれを回復すべき法律上の利益を有すると いうべきである」と述べて、第二次納税義務者の不服申立適格を肯 定した。その上で、不服申立期間の起算日(国税通則法 77 条1項 所定の「処分があったことを知った日」)は、「当該第二次納税義務 者に対する納付告知(納付通知書の送達)がされた日をいい、不服 申立期間の起算日は納付告知がされた日の翌日であると解するのが 相当である。」とする。その理由として、第二次納税義務者の不服 申立適格を肯定し得ない段階で、その者について不服申立期間が進 行しているというのは背理であり、第二次納税義務を確定させる納 付告知があるまでは、不服申立適格があることを確実に認識するこ とはできないからであるとする。 以上の判例法理によれば、第二次納税義務者は、自己に対する第 二次納税義務の納付告知に対する取消訴訟においては主たる課税処 分の違法を主張できず、納付告知を受けた時点を起算日として本来 の課税処分の取消訴訟を提起する資格がある、ということになる。 主たる課税処分に対して第二次納税義務者が取消しを求める資格が あるかどうか争いを残したまま、昭和 50 年最高裁判決が主たる課 税処分と第二次納税義務の納付告知処分との間のいわゆる違法性の 承継を否定したため、第二次納税義務者の権利救済の可能性が閉ざ されていた中において、平成 18 年最高裁判決がそのような閉塞状 況に風穴を開けたという意味において多くの論者によって肯定的に
評価されている8。 しかし、平成 18 年最高裁判決は、行政法理論的にはなおクリア すべき問題を多く残していると考える。すでに、最高裁の判例法 理に対しては、平成 18 年最高裁判決の意見において泉徳治裁判官 が「第二次納税義務者は、独自に、納付告知処分の取消請求の中 で主たる課税処分の違法性を主張することができると解すべきであ る。・・・(昭和 50 年最高裁判決は)、第二次納税義務者の納税義務 が納付告知処分により成立し確定することを無視するものであっ て、変更されるべきである」と述べている9。筆者も結論においては 泉裁判官の主張を支持し、現行法の解釈としては第二次納税義務の 納付告知の取消しを求める争訟の中で主たる課税処分の違法性を主 張させるべきであると考える。このような解釈が主たる納税義務者 と第二次納税義務者の立場の違いに応じた整合性のある結論を導く からである。以下、第二次納税義務者の法的地位について行政法理 論の見地から検討することとする10。
2.平成 18 年最高裁判決の問題点
(1)最高裁判決の概要 この裁判は、訴外A社から同社の株式を低額で譲り受けたX(原 告、被控訴人、上告人)が、同社に対する法人税の決定及び無申告 8 例えば、山田二郎〔2006〕253 頁。ただし山田弁護士は内容的には平成 18 年 判決の解釈には批判的である。阿部泰隆〔2007〕7頁以下参照。占部裕典〔2015〕 162 頁も、納付告知の取消訴訟において主たる課税処分の違法事由を主張できる か否かという問題が理論的に残されているが、「本最高裁判決において第二次納 税義務者の権利保護は実質的には担保されたといえよう」と評している。 9 最判平成 18 年1月 19 日民集 60 巻1号 73 頁以下。また、三木義一〔1992b〕 102 頁以下も参照。 10 本稿は、本学大学院においてここ数年、筆者の指導の下で租税行政法にかかる 修士論文を作成する院生との議論の中で生まれた問題意識に基づいて執筆したも のである。租税法固有の議論については私自身の理解不足で思わぬ誤りがあるこ とを恐れるが、補正は他日を期したい。加算税賦課決定(以下、本件課税処分という11)に基づく同社の滞 納国税につき、国税徴収法 39 条に基づいて第二次納税義務の納付 告知(以下「本件納付告知」という)を受けたため、本件納付告 知から2ヶ月以内に本件課税処分に対する異議申立てをしたとこ ろ12、国税通則法 77 条1項所定の不服申立期間を経過した後にされ た申立てであることを理由に却下の決定を受けた13。審査請求も同 様な理由で却下されたため、同裁決の取消しを求めて出訴した事案 である。 第一審東京地裁は、Xが本件課税処分の取消しを求めるにつき法 律上の利益を有するとした上で、その不服申立ての起算日は第二次 納税義務者に対して納付告知がなされ、第二次納税義務が発生した 日の翌日であるとし、本件異議申立ては適法であるとした14。 原審東京高裁は、第二次納税義務者が主たる納税義務を争う訴権 は本来の納税義務者によって代理行使されているものとみてその本 来の納税義務者に不服申立ての途が与えられている以上、Xは本件 課税処分の取消しを求める不服申立適格を有しないから本件異議申 立ては不適法であるとして、Xの請求を棄却した15。 最高裁は、Xの不服申立適格を肯定して、「第二次納税義務者は、 主たる課税処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を 11 訴外A社に対する本件課税処分は、平成 14 年3月 29 日付けの麹町税務署長名 の通知書が同年4月3日にA社に到達したことによる。その内容は、A社の平成 10 年7月1日から平成 11 年6月 31 日までの事業年度に係る国税についての課 税処分であり、48億円余の法人税と7億円余の無申告加算税となっている。以 下、本件の事実概要については、田中啓之〔2011〕280 頁以下(注1)に詳しい。 12 Xに対する本件納付告知は平成 14 年6月8日に到達し、Xは平成 14 年8月6 日に、本件納付告知に対する異議申立てと本件課税処分に対する異議申立てを 行っている。 13 東京国税局長は本件納付告知に対する異議申立てについては納付限度額変更 の決定をおこなったが、本件課税処分に対する異議申立てについては、国税通則 法 77 条1項所定の不服申立期間は本件課税処分があったことを知った日の翌日 が起算日であるから、A社に本件課税処分が送達された4月3日の翌日から起算 して2ヶ月を経過する6月3日までであり、本件異議申立ては不服申立期間を徒 過したものであるとして却下の決定を行ったものである。 14 東京地判平成 16 年1月 22 日判例時報 1903 号 18 頁。 15 東京高判平成 16 年6月 15 日判例時報 1936 号 72 頁。
侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消しによっ てこれを回復すべき法律上の利益を有する」ので、「国税徴収法 39 条所定の第二次納税義務者は、主たる課税処分につき国税通則法 75 条に基づく不服申立てをすることができるものと解するのが相 当である」と結論づける。 その理由として、主たる課税処分と第二次納税義務の関係につい て次のように述べる。「主たる納税義務が主たる課税処分によって 確定されるときは、第二次納税義務の基本的内容は主たる課税処分 において定められるのであり、違法な主たる課税処分によって主た る納税義務の税額が過大に確定されれば、本来の納税義務者からの 徴収不足額は当然に大きくなり、第二次納税義務の範囲も過大と なって、第二次納税義務者は直接具体的な不利益を被るおそれがあ る。他方、主たる課税処分の全部又は一部がその違法を理由に取り 消されれば、本来の納税義務者からの徴収不足額が消滅し又は減少 することになり、第二次納税義務は消滅するか又はその額が減少し 得る関係にあるから」である、とする。 次に、Xの不服申立期間の起算日については、以下のように判示 する。 「国税徴収法 39 条所定の第二次納税義務者が主たる課税処分に対 する不服申立てをする場合、国税通則法 77 条1項所定の『処分が あったことを知った日』とは、当該第二次納税義務者に対する納付 告知(納付通知書の送達)がされた日をいい、不服申立期間の起算 日は納付告知がされた日の翌日であると解するのが相当である」と して、Xの異議申立ては不服申立期間内に提起された適法なもので あるとした。 その理由として最高裁は、「不服申立ての適格を肯定し得ない段 階で、その者についての不服申立期間が進行していくというのは背 理」であるとする。すなわち「本来の納税義務者以外の第三者が・・・ 主たる課税処分の存在を知ったとしても、当該第三者において、そ れが自己の法律上の地位に変動を及ぼすべきものかどうかを認識し
得る状態にはないといわざるを得ない。他方、第二次納税義務者と なる者に主たる課税処分に対する不服申立ての適格を肯定し得るの は、納付告知を受けて第二次納税義務者であることが確定したか、 又は少なくとも第二次納税義務者として納付告知を受けることが確 実となったと客観的に認識し得る時点からである」として、第二次 納税義務者による自己の不服申立適格の認識と不服申立期間の起算 とを連動させている。 平成 18 年最高裁判決は、主たる課税処分は第二次納税義務者と の関係において処分性を有するものであること、当該主たる課税処 分は第二次納税義務者の法律上保護された利益を侵害する内容を有 するものであり、その取消しによって回復すべき法律上の利益を有 すること、争訟提起期間の起算日は、主たる課税処分に対して争訟 を提起することができることを確実に認識した第二次納付告知の送 達日の翌日であるというものである。 この判断は、従前、第二次納税義務者と本来の納税義務者との間 に恒常的に強い一体性があるという前提に立って、第二次納税義務 者の訴権は本来の納税義務者によって代理行使されているとの理由 で第二次納税義務者の主たる課税処分に対する争訟を提起する適格 を否定する見解が、租税実務関係者の間においては当然の解釈とさ れていた状況にあっては16、第二次納税義務者について争訟適格を 肯定したことは、国税徴収法 39 条に基づく無償譲渡人等の第二次 納税義務者に限っての判断とはいえ画期的な判決である。 また、争訟提起期間の問題についても従前、様々な理由から主た る課税処分があった日を基準とする見解が流通していた17。第二次 16 たとえば、福岡国税不服審判所長であった圖子善信〔1996〕49 頁以下は、大 量反復してなされる課税処分について処分の相手方以外の者に対して原告適格を 認めることについては慎重であるべき、と最高裁平成 18 年判決を批判する。 17 大崎満〔1975〕201 頁は、主たる納税義務者と第二次納税義務者との間の親近 性からすると、納付告知の送達があるまで第二次納税義務者が主たる課税処分を 知りえないというのはありえないとか、吉良実(二・完)〔1972〕25 頁は、主た る納税者が出訴期間の経過等によって取消訴訟等を提起できなくなっているの に、第二次納税義務者だけに特例を認めることも誠におかしなことであるとして
納税義務者に対して主たる課税処分があったことを通知する制度も ないまま、したがって争訟提起にかかる教示もないまま、「一体で ある・親近である」という法制度外の要素を重視して、自己の権利 主張の機会を実質的に奪う解釈が、「徴税行政の安定性と能率性の 確保」のお題目の下、通用していた中において、「正当な」解釈が 平成 18 年最高裁判決によって提示されたことは一歩前進である。 しかし、平成 18 年最高裁判決の論理は複雑であり、錯綜している。 昭和 50 年最高裁判決との整合性を保ち、なおかつ不服申立期間の 起算日に関する議論とも整合性をとらなければならないことから生 じる限界ではないかと考える。以下、判決の問題点を検討する。 (2)争訟を提起する適格性に関する問題点 平成 18 年最高裁判決の問題点としてまずあげられるのは、争訟 を提起する適格性の前提となる処分性の有無について明確な判断を していないことである。最高裁は、第二次納税義務者の主たる課税 処分に対する不服申立適格が成立するのは主たる課税処分がなされ た時点ではなく、自己に対する納付告知処分がなされた時点である としている。このことは、納付告知処分の効果として「自己の法律 上の地位」の変動がもたらされているのであって、本来の課税処分 によって変動するものではないことが前提になければならない。つ まり、第二次納税義務の内容は、単に主たる課税処分がどうなるか によって影響を受け、違法な課税処分の全部または一部が取り消さ れれば、第二次納税義務が消滅したり、その額が減少する可能性が ある、という当然のことを言っているにすぎない。しかし、このよ うな事実上の影響あるいは関係があることから第二次納税義務者は いた。 最高裁平成3年1月 17 日判決(税務資料 182 号8頁)は、このような立場を 支持して、第二次納税義務者が主たる課税処分に対する原告適格を肯定しつつ、 しかし出訴期間の起算日は、時期に遅れた訴訟を許すことは徴税の安定と能率を 害するおそれがあるとして、主たる課税処分が本来の納税義務に告知された時を もって基準とすべきとしていた。
主たる課税処分の取消しを求めなければならないことにはならない だろう。 結局のところ、第二次納税義務者にとって自己の法律上の地位の 変動がもたらされるのは、自己に対する納付告知処分であると理解 するのが素直な解釈であろう18。したがって第二次納税義務者に対 して処分性の効果を有する課税処分は、主たる課税処分ではなく納 付告知処分であると解すべきである。 さらに第二次納税義務者の原告適格については、すべての類型の 第二次納税義務者に原告適格を認めるのか、それとも一部の限られ た第二次納税義務者の原告適格を肯定するにとどまるのかという問 題がある。 平成 18 年最高裁判決の事案は、国税徴収法 39 条所定の第二次納 税義務者に関するものであるが、同最高裁判決の論理からすれば、 その他の第二次納税義務者の原告適格を肯定することについては消 極的にならざるをえないであろう。すなわち、平成 18 年最高裁判 決は、国税徴収法 39 条所定の第二次納税義務者の訴権が本来の納 税義務者によっては代理されていないことを、原告適格を肯定する 一つの論拠にしている。その文脈において、国税徴収法 39 条所定 以外の第二次納税義務者にあっては、「本来の納税義務者と一体性 又は親近性のある関係」にない場合もあり、したがって「当然に、 本来の納税義務者との一体性を肯定して両者を同一に取り扱うこと が合理的」ではない場合もある。このような場合においては第二次 納税義務者の訴権は本来の納税義務者によって代理されているとみ 18 田中啓之〔2011〕266 頁以下は、第二次納税義務者の不服申立適格を肯定する 平成 18 年最高裁判決の論理を詳細に分析する。田中は、平成 18 年最高裁判決の 解釈を「異例」であり、かつ「整合しない」と評しつつ(同判決の主たる課税処 分により第二次納税義務者の法律上の利益が変動するのであれば、不服申立適格 の発生時を処分時とする思考が自然であるとする)、不服申立適格の発生時を納 付告知処分時とすることの整合的な解釈を試みている(278 頁)。 田中のような方向性も一つのありかたであろうが、技巧的にすぎるのではない だろうか。本稿ですべての第二次納税義務者は、納付告知処分の取消しを求める 争訟において主たる課税処分の違法性を主張できると考える理由もその点にあ る。
る余地もあり、その原告適格を肯定するには消極的にならざるをえ ないだろう19。 そうすると第二次納税義務者の中で、主たる課税処分の取消しを 求めることができる者と、できない者とが混在する可能性がある。 国税徴収法はすべての第二次納税義務者の法的な扱いについて同一 平面に置いているのであるから、一方で原告適格を肯定し他方でこ れを否定する合理的な理由は見当たらない。 さらに、平成 18 年最高裁判決を前提とすると、主たる納税義務 が申告によって確定する場合は第二次納税義務者が争訟を提起して 主たる課税処分を争う機会がない、という問題がある20。主たる納 税義務を確定する処分が存在しないのであるから、第二次納税義務 者に主たる課税処分の取消しを求める原告適格を認めたところで、 機能しない場合がありうる。主たる納税義務が申告により確定する か、賦課行為により確定するかで救済手段の有無という違いがある ことに合理的な理由は認められないだろう。 なお、更正の請求という制度(国税通則法 23 条、地方税法 20 条 の9の3)の活用が考えられるが、現行法においてはそれができる のは申告書の提出者に限られているようであり21、立法政策として は第二次納税義務者の更正の請求を認め、それに対する課税庁の判 断に対して直接的に争訟を提起するという途も検討されてしかるべ 19 平成 18 年最高裁判決の評釈の多くは、平成 18 年最高裁判決の射程は国税徴収 法 39 条所定の第二次納税義務者に限られ、他の第二次納税義務者には及ばない とするものが多い。重本達哉〔2009〕151 頁以下注 54 と注 55 を参照。なお、訴 権代理の議論については田中啓之〔2011〕268 頁以下が詳細に検討している。 20 佐藤繁〔1977〕407 頁や宇賀克也〔1989〕131 頁が、かねてから指摘している 問題である。第二次納税義務者による主たる課税処分に対する争訟提起を認めれ ば済む問題ではないことが明らかであり、たとえ第二次納税義務者と本来の納税 義務者が一体的な関係にあったとしても、違法な課税処分に基づいて強制的に徴 税されることを是認するわけにはいかない。高橋ちぐさ〔2013〕139 頁によると、 実務的には課税庁が申告内容について増額更正の必要を認める場合でも更正処分 が行われず、修正申告が慫慂され納税義務者はそれに従って申告を行っている現 状があるとする。そうだとすると第二次納税義務者にとってはますます自己の権 利を主張する機会が縮小することになる。 21 高橋ちぐさ〔2013〕138 頁以下による。
きであろう。もし、第二次納税義務者と本来の納税義務者とが一体 的関係にあるというなら、第二次納税義務者に更正の請求をする機 会を認める必要がある。いずれにせよ、第二次納税義務者について は現行法は整備不良の点が多すぎるといわざるをえない。 (3)争訟を提起する期間に関する問題点 平成 18 年最高裁判決は、第二次納税義務者はその納付告知を受 けたとき、主たる課税処分に対して不服申立てを提起することがで きるとする。このように第二次納税義務者の主たる課税処分に対す る不服申立適格を認めることにより生じる問題の一つに不服申立期 間の扱いがある(以下、取消訴訟の出訴期間とあわせて「争訟提起 期間」という)。 平成 18 年最高裁判決は、第二次納税義務者が主たる課税処分に 対する争訟提起期間の起算日である「処分をあったことを知った日」 (国税通則法 77 条1項)とは、「主たる課税処分の存在及び第二次 納税義務が成立していることを確実に認識することになる」日であ り、それは自己(第二次納税義務者)に対する納付告知がなされた 日であるとする。その理由として、納付告知により第二次納税義務 者が主たる課税処分に対して自ら不服申立適格があることを確実に 認識できることをあげている。要するに、主たる課税処分に対する 不服申立適格についての確実な認識と争訟提起期間の起算を連動さ せている。 これまでの判例や学説の大方の理解は、主たる課税処分に対する 第二次納税義務者の争訟を認めつつも、争訟提起期間の起算点を主 たる課税処分がなされた日とする解釈であり22、その結果、多くの 場合には第二次納税義務者が主たる課税処分に対する争訟を提起し 22 前掲注 17・注 18 を参照。北野弘久〔1977〕110 頁以下は、第二次納税義務者 が主たる納税義務者に対する課税処分があったことを知った日の翌日から不服申 立期間を計算すべきであり、そして、もちろん主たる納税義務者に対する課税処 分があった日の翌日から起算して1年を経過したときは正当な理由がない限りも はや不服申立てをすることができないとする。
ようとしたときにはすでに争訟提起期間が徒過してしまっていた。 結果として第二次納税義務者の権利救済の機会が閉ざされてしまっ ていた中においては23、平成 18 年最高裁判決が示す解釈は画期的で ある。しかし、理論的には解決すべき課題が多くあり、第二次納 税義務者が主たる課税処分の取消しを求めるという平成 18 年最高 裁判決が採用する基本構造それ自体を再検討する必要性を示してい る。 第一の課題は、いわゆる客観的な争訟提起期間の起算日である。 すなわち、平成 18 年最高裁判決のように、自己の争訟提起適格を 確実に認識した日が処分があったことを知った日であるとすると、 処分があった日の翌日から一年を経過したときは争訟提起を許さな いとするいわゆる客観的争訟提起期間の起算日をどのように考える べきかという問題がある。処分があった日を主たる課税処分があっ た日とすると、第二次納税義務者にとっては自己の争訟提起適格が 成立していないのであるから、これを争訟提起期間の起算日とする ことは平成 18 年最高裁判決とは論理的に矛盾する24。他方で主観的 争訟期間が徒過した場合に、さらには第二次納税義務にかかる納付 告知を受けた時点ですでに、客観的な争訟期間も徒過している可能 性もある。平成 18 年最高裁判決は、「不服申立ての適格を肯定し得 ない段階で、その者について不服申立期間が進行していくというの は背理というべきである」とするが、この論理からすれば、第二次 納税義務者にとっての処分があった日とは、自己に対する第二次納 税義務の納付告知があった日と解するのが自然ということになる。 しかし、第二次納税義務者に対する徴収関係が終了するまでには 23 たとえば今井文雄〔1976〕132 頁は、違法な行政処分は処分の相手方が争わず 出訴期間が経過したとしても職権取消しが可能であるし、同様に主たる納税義務 者がこれを争わず同人との関係では確定したとしても、第二次納税義務者がこれ を争い、行政庁が職権取消しをし、争訟の結果それが取り消されることがあった からといって、違法な処分が取り消されるのであるから、何ら不合理ではないと する。 24 田中啓之〔2011〕128 頁も参照。
長期間を要するものもあり、また複数の第二次納税義務者が存在し 次々と納付告知をせざるを得ないケースもある。このような場合に おいては主たる課税処分の内容がなかなか確定しないことになり、 争訟提起期間を制限する制度がその趣旨とする行政法関係の早期安 定(租税行政においては徴税の安定と能率の確保)と国民の権利利 益の救済との調和は破られてしまうことにもなりかねない25。この ような状況は行政法制度が予定している状況ではなく、これを常態 化することはよほどの場合を除いて回避しなければならない。 (4)取消判決の効力に関する問題点 平成 18 年最高裁判決は、国税徴収法 39 条にかかる第二次納税義 務者が主たる課税処分に対して争訟を提起できることを認めた。こ の争訟において第二次納税義務者が勝訴した場合、その判決の効力 は本来の納税義務者にも及び、本来の納税義務者との関係において も取り消されることになるのだろうか。それとも主たる課税処分は、 第二次納税義務者との関係においてのみ取り消されることになるの だろうか。いわゆる取消判決の効力の問題である。 取消判決の効力としての形成力は、取消判決によって処分の効力 は遡及的に消滅し、処分は初めから存在しなかったことになる、と いうものである。そしてこのような形成力は訴訟当事者だけではな く第三者にも及ぶ(いわゆる取消判決の第三者効。行政事件訴訟法 32 条)。原告とは対立的な利害をもつ第三者に対しても取消判決の 効力が及ぶことを前提として、当該第三者は訴訟に参加できるほか、 25 田中啓之〔2011〕279 頁は、平成 18 年最高裁判決の解決は「諸刃の刃である」 と評する。そして不服申立適格なくして不服申立期間が進行しないという命題は、 客観的不服申立期間についても妥当し、本判決の論理を徹底すれば、主たる課税 処分は潜在的な第二次納税義務者との関係において無制限に争訟の対象として開 かれ続けることになると指摘する。また、重本達哉〔2009〕152 頁も参照。 これに対して、最高裁調査官・川神裕〔2006〕96 頁以下は、納税告知が新た な独立の処分ではないこと、課税関係を早期に安定させようとする趣旨から、処 分があった日とは、取消しの対象となる主たる課税処分があった日と解すべきと する。その上で、第二次納税義務者との関係においては処分の日から1年経過後 であっても、同項ただし書にいう「正当な理由」の解釈に委ねることが適当とする。
第三者再審といった制度が用意されている(行政事件訴訟法 22 条、 34 条)。これに対して、原告と利益を共通する第三者についても取 消判決の効力が及ぶのかという問題がある。この問題については、 利益を共通する者にも取消判決の効力が及ぶとする絶対的効力説 と、利益を共通する第三者には取消判決の効力が及ばないとする相 対的効力説とが対立している26。 平成 18 年最高裁判決にかかる調査官解説は、「行政処分について の複数の原告適格を有する者がいる場合、原則として、各別に取消 訴訟を提起でき、いずれかの訴訟における勝訴判決に従って処分が 取り消されれば、その効果は当然に他の者にも及ぶことになる」と する27。これに従うと、第二次納税義務者が主たる課税処分に対す る取消争訟に勝訴したときは、その取消判決の効果として本来の納 税義務者の納税義務も消滅することになる。すなわち本来の納税義 務者が主たる課税処分に対して争訟を提起していなくても、また本 来の納税義務者が提起した取消争訟に敗訴した場合28であっても、 主たる課税処分が取り消されることになる。 訴訟法理論の通説的な理解からすれば以上のような結論にならざ るを得ないが、そのような処理は、正義衡平感に適わないのではな いだろうか。本来の納税義務者は違法の課税処分に対して自ら適切 26 大橋洋一〔2012〕162 頁以下(注6)。相対的効力説を主張するものとして、 小早川光郎〔2005〕219 頁以下、絶対的効力説に立つものとして、塩野宏〔2015〕 193 頁、阿部泰隆〔2009〕262 頁などがある。最高裁は(保育所廃止条例の制定 について最判平成 21 年 11 月 26 日民集 63 巻9号 2124 頁、土地区画整理事業計 画の決定について最大判平成 20 年9月 10 日民集 62 巻8号 2029 頁(近藤崇晴裁 判官による補足意見))、多数人にかかわる行政活動の処分性を肯定し、取消訴訟 の提起を認める理由として、取消判決に第三者効(対世効)があることを重視し ている。 27 川神裕〔2006〕97 頁。 28 藤原淳一郎〔1973〕162 頁は、本来の納税義務者が敗訴した場合、第二次納税 義務者が本来の納税義務者の得た判決と抵触する可能性のある内容の判決を求め 得るような地位に立つものではないので、第二次納税義務者は別訴を提起できな いとしていたが、同種の利害を有する者のいずれかの原告が敗訴したとしても、 その既判力は他の者に及ばないというのが大方の理解である。川神裕〔2006〕97 頁を参照。
な争訟的対応をする「義務」があるにもかかわらず、他人のふんど しによって果実を得る結果となる。本来の納税義務者と第二次納税 義務者との間の利害は、行政計画や行政立法等の取消しによって同 種利害を有する第三者とは利害状況が大きく異なる。 第二に、本来の納税義務者に主たる課税処分の取消しの効果を及 ぼすことは、まさに徴税行政の安定と能率を阻害する結果になる。 本来の納税義務者本人は、主たる課税処分が違法無効でない限り、 不可争性により争訟を提起することができなくなっているにもかか わらず、かなり期間が経過した後においても取り消されることがあ りうる状態となる。主たる課税処分がいつまでたっても安定しない ことになりかねない。 以上の理由から、第二次納税義務者が提起する争訟によって、本 来の納税義務者の納税義務に影響を与えないような処理を考える必 要がある。 この場合、いわゆる相対的効力説に立って、主たる課税処分が取 り消されるのは第二次納税義務者との関係だけであって、第二次納 税義務の前提となる主たる課税処分が違法であるがゆえに第二次納 税義務が消滅する、と考えることも可能ではないだろうか。主たる 課税処分が違法とされたことについては、本来の納税義務者との関 係においては課税庁に職権取消しその他の措置を委ねるという処理 も可能かもしれない。 しかし、このような対応は、第二次納税義務の納付告知に対する 取消訴訟において主たる課税処分の違法を主張することと変わらな いものであり、このことからも第二次納税義務者に主たる課税処分 を争わせる必要性または積極的理由は見当たらない。 (5)その他の問題点 行政不服審査法は法制定の当初から処分について教示を義務づけ ている(行審 82 条・83 条)。国税通則法は教示制度の適用を除外 していないので(税通 80 条1項)、第二次納税義務の納付告知にお
いても課税庁は教示を義務づけられることになる。したがって課税 庁は不服申立てをすべき行政庁および不服申立てをすることができ る期間を第二次納税義務者に教示しなければならない。利害関係人 から教示を求められた場合も同様である(行審 82 条2項)。さらに、 2004 年の改正により取消訴訟についても教示制度が採用されてい る(行訴 46 条)。 平成 18 年最高裁判決は、第二次納税義務の納付告知処分があっ た時点で、第二次時納税義務者は主たる課税処分に対する取り消し を求めることができるとしている。この場合、第二次納税義務の納 付告知処分においてどのような内容の教示をすべきだろうか。教示 制度は、処分の相手方に対して争訟提起の便宜を図るためのもので あるから、第二次納税義務の納付告知処分についての争訟可能性、 争訟提起期間および争訟の被告を教示することが求められるが、主 たる課税処分の争訟について教示することはないだろう29。平成 18 年最高裁判決の趣旨を活かすなら第二次納税義務の納付告知処分に あたってその争訟可能性等を教示するとともに、主たる課税処分に ついての争訟可能性、争訟提起期間および被告を教示することが必 要になると思われる。 第二次納税義務の納付告知処分についての教示制度の実務上の運 用に関する情報を得ることができなかったが、納付告知の処分に対 する争訟提起期間内に、主たる課税処分の取消し可能性についての 教示がないのであれば、第二次納税義務者の権利保護は著しく劣化 したものになるだろう。 同様の問題は、処分についての理由提示義務のあり方にも生じて いる。2011 年の国税通則法改正30により、原則としてすべての国税 29 納付通知書の書式(国税徴収法施行令 11 条第1項各号「納付通知書の記載事項」 に掲げる事項を記載した規則3条「書式」に規定する別紙第1号書式)によると、 この納税通知書の記載事項として、不服がある場合における救済の方法及び取消 訴訟を行う場合の被告とすべき者、出訴期間等を記載することが求められている。 30 この改正により国税に関する国民の権利・利益の保護を図ることが目的規定(1 条)に追加され、更生の請求の期間の延長、質問検査の手続の整備、理由附記制
に関する処分(申請に対する拒否処分および不利益処分)について その理由を提示することが義務づけられた。いわゆる滞納処分(納 税の告知、督促、差押さえおよび換価)は徴収手続の一環を形成 するものであって納税義務を確定する効果を有しないが31、争訟行 為との関係においては処分として扱われているので、第二次納税義 務の納付告知にあたっても、当然に理由を提示しなければならな い32。処分理由の内容ないし程度については、一般論としては、処 分の性質と理由提示を定める法律の規定の趣旨・目的から決せられ るべきものであるが、少なくとも処分の根拠法条を示すだけでは不 十分であり、処分に至った判断を基礎づける事実関係を明らかにす るとともにいかなる法規を適用して当該処分がなされたのかを、処 分の記載自体から処分の相手方が了知しうるものあることが求めら れている33。この場合において処分とは第二次納税義務の納付告知 処分であるから主たる納税義務者が滞納状態にあることを前提とし て、納付通知書には①納税義務者の氏名及び住所又は居所、②滞納 に係る国税の年度、税目、納期限及び金額、③第二次納税義務者か ら徴収しようとする金額、納付の期限及び場所、④適用される第二 次納税義務の規定、を記載することになっている(国税徴収法施行 令 11 条1項)だけで、注 29 に示されている書式には理由を付記す る欄が設けられていない。ましてや主たる課税処分の理由を付記す ることは考えられない。 そうすると第二次納税義務者は、主たる課税処分の処分理由を知 らずにその違法を主張して取消しを求めなければならないことにな る。処分について行政手続法が一般的に理由の提示を要求するのは、 度の一般的採用など懸案であった重要な手続が整備された。金子宏〔2017〕843 頁以下参照。 31 早乙女浩一〔2014〕132 頁は、形式的には独立の課税処分という性質を併せ持 つものとしている。 32 黒坂昭一〔2013〕399 頁以下は、督促、差押を不利益処分と位置づけている。 早乙女浩一〔2014〕151 頁以下も同旨。 33 参照、久保茂樹〔1995〕137 頁以下、拙稿〔1993〕153 頁以下。
第1に処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制する こと、第2に争訟の提起に便宜を与えることにあるが34、第二次納 税義務者と主たる納税者との関係が近いものがあるとしても、主た る課税処分の理由を知らせなければ第二次納税義務者に防御の機会 を与えているとはいえないであろう。 以上のように、平成 18 年最高裁判決は第二次納税義務者の権利 主張の途を表面的には開いたものの、多くの理論的難点を抱えてお り、この判例理論は見直されるべきであると考える。平成 18 年最 高裁判決は、昭和 50 年最高裁判決の判例理論が前提となってその 難点をクリアするために強引な解釈を採用したのであるから、昭和 50 年最高裁判決の見直しないし判例変更が必要であると考える。
3.昭和 50 年最高裁判決の問題点
前述のように昭和 50 年最高裁判決は、主たる課税処分に瑕疵が あったとしてもそれが取り消されていない以上、第二次納税義務者 は、自己に対する第二次納税義務の納付告知の取消訴訟において 主たる課税処分の違法を主張できないとする35。このような命題は、 いわゆる違法性の承継論において違法性の承継が認められない代表 例として課税処分と滞納処分との関係が取り上げられてきたことを ベースとしている。本節では、このような命題が妥当するのはどこ までの範囲かという観点から、いわゆる平成 21 年のたぬきの森事 件最高裁判決が示した解釈を踏まえて、昭和 50 年最高裁判決を再 検討しようとするものである。 (1)最高裁判決の概要 本件の第二次納税義務者(X)は、法人税法上の同族会社である 34 最判昭和 38 年5月 31 日民集 17 巻4号 617 頁。 35 結論において同旨の最高裁判決として、最判昭和 63 年7月 15 日税務資料 165 号 315 頁、最判平成6年 12 月6日民集 48 巻8号 1451 頁がある。A株式会社の代表取締役であり、かつ、同族会社判定の基礎となる 株主であった者である。Xは、自己所有の土地および建物をA会社 の事業遂行に不可欠な財産としてA会社に使用させていた。 A会社は、法人事業税などの地方税について県税事務所長(Y) から更正処分を受けたが、当時すでにその所有財産全部を他に譲渡 して解散していたため、更正にかかる税額を納付する資力がなく、 これを滞納した。Yは、A会社の右滞納税額につき、Xを地方税法 11 条の6第2号所定の第二次納税義務者にあたるとして第二次納 税義務の納付告知をした。これに対してXは不服申立てを経て納付 告知処分の取消しを求めた事案である。 最高裁は、次のように判示してXの請求を棄却した。 具体的に確定した主たる納税義務について滞納処分等をしてもな お徴収すべき額に不足すると認められる場合に、「租税徴収の確保 を図るため、本来の納税義務者と同一の納税上の責任を負わせても 公平を失しないような特別の関係にある第三者に対して補充的に課 される義務であって、その納付告知は、形式的には独立の課税処分 ではあるけれども、実質的には、右第三者を本来の納税義務者に準 ずるものとみてこれに主たる納税義務についての履行責任を負わせ るものにほかならない」(判旨①)。「この意味において、第二次納 税義務の納付告知は、主たる課税処分等により確定した主たる納税 義務について徴収処分を受けた本来の納税義務者と同様の立場に立 つに至ったものというべきである」(判旨②)。そして結論として「主 たる課税処分等が不存在又は無効でない限り、主たる納税義務の確 定手続における所得誤認等の瑕疵は第二次納税義務の納付告知の効 力に影響を及ぼすものではなく、第二次納税義務者は、右納付告知 の取消訴訟において、右の確定した主たる納税義務の存否又は数額 を争うことはできないと解するのが相当である」(判旨③)。 昭和 50 年最高裁判決は、第二次納税義務者が納付告知の取消訴 訟において、主たる課税処分の違法を主張できないという命題を導 く根拠として、第1に、「第二次納税義務の納付告知は、主たる課
税処分等により確定した納税義務の徴収手続上の一処分としての性 格を有し」ていること、第2に、したがって「右納付告知を受けた 第二次納税義務者は、あたかも主たる納税義務について徴収処分を 受けた本来の納税義務者と同様の立場に立つ」ことをあげている。 すなわち、第二次納税義務は本来の納税義務と別個独立に発生する ものではなく、第二次納税義務の納付告知は実質的にはその義務の 発生を知らしめる徴収のための処分にほかならず、第二次納税義務 者と本来の納税義務者との一体性を強調する。同一の納税義務者に 対する課税処分と徴収処分(滞納処分)の関係と同じもしくは類似 するものとみている点が、昭和 50 年最高裁判決の大きな特徴であ る3637。 36 佐藤繁〔1977〕409 頁によれば、昭和 50 年最高裁判決は、「第二次納税義務者 と主たる納税義務者との間の親近性ないし一体性を理由に、第二次納税義務者は 徴収処分を受けた主たる納税義務者の身代わり的立場」に置かれるものとみてい る。また、「主たる納税義務の存否等についての第二次納税義務者の訴権利益は、 主たる納税義務者によっていわば代理されているものとみることも不可能ではな い」として、主たる納税義務者が主たる課税処分の段階で争訟の機会が与えられ ている以上、「第二次納税義務者が別途にこれを争うことを認めないという制度 をとったとしても、あながちそれを不合理なものであるとはいいきれない」とし て、商法 80 条と 147 条を引用し、合名会社の社員および有限会社の無限責任社 員は会社の債務について債権者から敗訴判決を受けたときは右社員はその債務を 争えないとの解釈を示しているが(同 410 頁注7)、国税徴収法においてはその ような解釈を類推しうる手がかりは規定されておらず、やや強引な参照のように 思われる。 37 なお、田中啓之〔2011〕268 頁以下は、本来の納税義務者(判決の表現では主 たる納税義務者)と第二次納税義務者の関係に関する昭和 50 年最高裁判決の判 示を詳細に分析し、三通りの解釈が可能であるとする。第一は、本来の納税義務 者が徴収段階ないし滞納処分の段階で主たる課税処分の違法性を主張できないの と同様な意味において両者ないし両行為を理解し、納付告知処分の段階において 主たる課税処分の違法性を争えないとする、第二は、第二次納税義務者の訴権利 益は本来の納税義務者によって代理されている関係にあるから、そもそもどのよ うな段階であれ第二次納税義務者は主たる課税処分を争えないとする、第三は、 主たる課税処分は、本来の納税義務者に対しても第二次納税義務者に対する関係 においても課税処分であり、したがって第二次納税義務者は徴収処分である納付 告知処分に係る争訟において自己に対する課税処分の違法を主張できないことに なる。田中は、平成 18 年最高裁判決と昭和 50 年最高裁判決とを整合的に理解す るためには、第三の解釈において理解されるべきであるとする(同 271 頁)。 以上の分析は、主たる課税処分と第二次納税義務の納付告知とが、同一納税者 に対する課税処分と滞納処分のアナロジーとしか捉えてこなかったこれまでの研 究に重要な視点を加える見解であり、大いに参考になるが、第二次納税義務者が
(2)違法性の承継を否定する理由 いわゆる違法性の承継論において、課税処分と滞納処分は違法性 の承継が否定されるもっとも典型的な場面の一つとして説明されて きた38。すなわち違法性の承継とは、有力な学説によれば、「数個の 処分が相連続して行われ、全体が一連の手続として一定の法律効果 を生ずる場合に、先行処分が違法であるときは、これに続く後行処 分も、その違法性を承継し、これもまた違法処分となるかどうかが、 ここでいう違法性の承継の問題である」として、そして相連続して 行われる各行為が互いに別個の目的を有し、独立の効果を生ずる場 合は、同一手続ということはできず、先行処分の違法性は後行処分 に承継されないのであるから、後行処分に対する争訟の段階におい て先行処分の違法性はもはや主張できないことになる39。租税の賦 課処分と滞納処分とは、法律的効果を異にする別個の手続に属する 処分であって、両者の関係は同一手続中の各段階的操作と構成する 各行政処分の関係と異なる、と説明されてきた40。昭和 50 年最高裁 主たる課税処分に対して十分な争訟提起の機会が保障されていないことが問題な のであって、田中の第三の解釈に立つ場合、主たる課税処分に際して第二次納税 義務者の存在を確認し、教示なり通知等をすべきといった立法的対応を求めるこ とになるのだろう。 38 塩野宏〔2015〕165 頁以下。田中啓之〔2011〕287 頁(注 28)によれば、租税 手続上の処分は、制定法上、賦課処分(更正、決定および賦課決定)、徴収処分(納 税告知および督促:国税通則法第三章第二節)そして滞納処分(財産の差押、差 押財産の換価、換価代金の充当:国税徴収法第五章)の三段階に分かれる。これ まで賦課処分と滞納処分の「違法性の承継」が議論されてきたが、これを賦課処 分と徴収処分との間で論証なく同様の議論をすることに警鐘を鳴らしている。 39 田中二郎〔1974〕330 頁注④。田中二郎(1956)325 頁も参照。違法性の承継 という問題提起をしたのは、明治憲法下における美濃部達吉博士であり、行政 裁判における列記主義により出訴事項が制限されていたため、先行行為の違法性 を後行行為において主張することの必要性から違法性の承継を認めるべきと主張 されたものであり、美濃部が提唱した定義および基準が一般概括主義を採用する 現行行政事件訴訟制度下においても、すなわち戦後の学説および裁判実務にほぼ そのまま引き継がれたものである。美濃部説の意義と内容、戦後の学説における 美濃部説の不完全な継承については、海道俊明〔2014〕(一)98 頁以下、100 頁、 104 頁以下を参照。 40 金子宏〔2019〕1015 頁以下。たとえば租税判例百選(別冊ジュリスト 17 号、 1968 年)でとりあげられている広島高裁昭和 26 年7月4日判決は、「租税賦課 処分と租税滞納処分とは全然別個の手続に属する行政処分であって、両者の関係 は同一手続中の各段階を構成する各行政処分(例えば農地買収手続における買収
判決も明示的ではないものの、租税賦課処分と滞納処分の関係と同 視する立場にたって第二次納税義務の納付告知処分に対する取消訴 訟においてはもはや主たる課税処分の違法を主張できないとしたも のと考えられる。 しかし、そもそもなぜ課税処分と滞納処分との間で違法性の承継 が否定されるのか、いいかえれば滞納処分の取消しを求める段階で 課税処分の違法性の主張を否定するのかについては実質的な理由は 示されていない。素朴な公定力感にもとづいて、先行行為たる課税 処分が取り消されていない以上それは有効に存在しているのであっ て滞納処分の違法を構成するものではないと説明されていたにすぎ ない。他方で、そのような概念的な説明を否定して、制度設計の選 択として「手続的には、課税要件の存否に関する争いの早期確定と 滞納処分手続の安定を考慮して、滞納処分の取消訴訟においては、・ ・・・ 課税要件不存在の主張をもはや許さないとする政策的選択もあ りうる」として、そのために制度的に課税処分に理由付記を求めた り、通知書の送達を課税処分の成立要件とし、課税処分の段階で不 服を主張させる手続を整備しているとの説明がある41。 このような観点からすれば、相連続して行われる各行為が互いに 別個の目的を有し、独立の効果を生ずるから違法性の承継が否定さ れるのではなく、先行行為の違法を後行行為の段階で是正させるこ とによって行政過程に混乱を招くことを回避するために先行行為を 早期に確定させる仕組みを採用しているだけのことである。この場 合においては当然に先行行為を適時にかつ実効的に争う仕組みが用 計画と買収処分)間の関係とは異なるから、賦課処分の違法が当然滞納処分の違 法を招来するものとはいえない」と判示している。 目的・効果に基づく承継否定論に対しては、岡田春夫〔2008〕65 頁以下(初 出 1985)は、税金を徴収するという目的からいうと、課税処分をしただけでは 達成できず滞納処分とあいまって一つの目的を追求する手続であるという素朴な 疑問は否定しがたく、これまでの公式によるだけでは課税処分と滞納処分との間 で違法性の承継を否定することは困難ではないかと指摘していた。また、三木義 一〔1992b〕103 頁以下も、課税処分と滞納処分との間の一体性・連続性を重視 して違法性の承継を認めるべきとする。 41 小早川光郎〔1976〕388 頁。
意されていなければならないことになる。 したがって、数個の処分が相連続して行われ、全体が一連の手続 として一定の法律効果を生ずるから違法性の承継が肯定されるので はなく、各処分の段階で当該行為の効果を確定する仕組みがないと きまたは不十分なときは、それらの仕組みが整備された段階または 最終段階で争わせることになろう。課税処分についてはその仕組み が十分に整備されているから、滞納処分の段階で先行行為の違法の 主張を拒絶することに合理性がある。また今日一般的に違法性の承 継が認められている土地収用の事業認定と収用裁決についても事業 認定に対する権利保護の手続が整備されることにより、違法性の承 継が否定されることもありうる、ということになる42。 かねてから先行処分の違法性が後行処分に承継されないとする伝 統的な基準(手続・効果の単一性基準)の理由や根拠については明 確な説明がなく、具体的な内容の曖昧さも指摘されてきたところで ある43。このような基準だけで違法性の承継を認めるかどうかの具 体的な判断基準として用いることについては留保が必要である。そ の意味では、違法性の承継についての「本格的な判断を示した」と される平成 21 年最高裁判決(いわゆるたぬきの森事件判決)をベー スに、課税処分と滞納処分との間の違法性の承継問題を再検討する 必要がある。 (3)「たぬきの森」事件最高裁判決における違法性の承継論 一 最高裁判決の概要 ここでは、最高裁として初めていわゆる「違法性の承継」を正 42 宇賀克也〔2017〕352 頁以下は、2001 年の土地収用法改正により事業認定に対 する事前手続が整備されたことで、収用裁決への違法性の承継が否定される可能 性を指摘する。ただし、山本隆司〔2012〕408 頁注 18 は、なお収用に見合うだ けの手続保障が整備されたとはいえないとする。 43 最高裁調査官・倉地康弘〔2011〕83 頁、福井秀夫〔1998〕255 頁参照。なお、 海道俊明〔2014〕(三)88 頁以下は、伝統的な基準を違法性承継の具体的認否の 基準として用いることは困難であるとして、独自に基準の類型化を試みている(89 頁、特に 94 頁以下)。
面から認めた44最高裁平成 21 年 12 月 17 日判決(民集 63 巻 10 号 2631 頁。以下、平成 21 年最高裁判決という。)を検討することによっ て、第二次納税義務者に対する納付告知に対する争訟において「先 行する」主たる課税処分の違法を主張できるかという本稿の問題意 識に対して手がかりを引き出したい。 この事件は、建築基準法 43 条1項の接道義務にかかわる安全認 定と建築確認との間の違法性の承継が問題となった事案である。 建築基準法は、平常時の通行および災害時における避難、消火お よび救助活動をスムーズに行うため、建築物の敷地は道路に2m以 上接することを求め(43 条1項)、そして一定規模以上の建築物に ついて、避難、通行の安全の目的を十分に達成しがたいと認めると きは、条例で必要な制限をすることができると規定する(同条2項)。 これに基づいて東京都建築安全条例(以下、本件安全条例)は、延 べ面積が 1,000㎡を超える建築物の敷地はその延べ面積に応じて所 定の長さ道路(本件の場合には8m以上)に接しなければならない と定める。しかし、本件建築物にあっては敷地の形状との関係から 実質的に8m接しているとはいえない状態であった。 ただし、このような場合であっても、本件安全条例は「建築物の 周囲の空地の状況その他土地および周囲の状況により知事が安全上 支障がないと認める場合」には本件条例を適用しないと規定する(同 条例4条3項)。つまり、火災などの発災があっても隣接する建築 物やその居住者に重大な被害が発生しないと知事が認定すれば(安 全認定)、建築基準法 43 条1項により2mの接道が義務づけられる だけとなり、本件建築物はこれをクリアしていた。 ある建築主は、新宿区長(都条例により安全認定に係る権限を有 する)に安全認定を申請し、その5日後に安全認定を受けた。同建 築主は、その後、新宿区建築主事に対して本件建築物の建築計画に ついて建築確認申請を行い、建築確認を受けた。 44 倉地康弘〔2012〕968 頁は、「いわゆる違法性の承継を最高裁が正面から肯定し た初めての事例ともいえ、実務的にも理論的にも大きな意義を有する」と評する。