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36 音声言語医学 Cognitive Social 2 LSAS J 93 Motor 5.4 Linguistic Affective 図 吃音の多因子モデルとそのアプローチ はじめに社交不安障害 (social anxiety disorder: SAD) とは他人の注視を浴びるかもしれない場

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Academic year: 2021

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音声言語医学 54:35 ─ 39,2013 

症  例

社交不安障害(social anxiety disorder: SAD)を合併した

発達性吃音症の 1 例

菊池 良和  梅崎 俊郎  山口 優実  佐藤 伸宏 安達 一雄  清原 英之  小宗 静男

要 約:成人の吃音患者に,社交不安障害(social anxiety disorder,以下 SAD)が 40%以 上もの高い確率で合併する(Blumgart ら,2010).SAD においては,人と接する場面で強い 不安を覚えるばかりでなく,社会生活上に大きな支障を及ぼす可能性があり,精神科・心療内 科で薬物療法を行われることが多い.しかし,吃音に SAD が合併している場合は,吃音をよ く知っている言語聴覚士とも協力したほうが SAD から回復し,従来の生活に戻れる可能性が 高まる. 症例は 16 歳男性,授業で本読みをすることに恐怖を感じ,不登校となった.心療内科で SAD と診断され薬物療法を受けるが,本読みのある授業は欠席していた.耳鼻咽喉科に紹介 され,環境調整,言語療法,認知行動療法を併用した結果,3 週間後に授業を欠席せず登校可 能となり,通常の高校生活に戻ることができた.吃音症に SAD が合併した症例は,医師によ る薬物療法だけではなく,耳鼻咽喉科医・言語聴覚士の積極的介入が有用であると考えられた. 索引用語:吃音,言語聴覚士,社交不安障害,不登校,SSRI

An Adolescent Who Stutters Accompanied by Social Anxiety Disorder

Yoshikazu Kikuchi, Toshirou Umesaki, Yumi Yamaguchi, Nobuhiro Satou, Kazuo Adachi, Hideyuki Kiyohara and Shizuo Komune

Abstract: More than 40 percent of adults who stutter also present with social anxiety disorder (SAD). Patients who have SAD not only demonstrate anxiety toward talking with people but also exhibit great difficulty in their social life. We report a 16-year-old adolescent who refused to attend his high school classes for two months due to anxiety toward reading aloud. He took a selective serotonin reuptake inhibitor but absented himself from classes involving reading aloud. We wrote a letter to the school and he underwent stuttering therapy and cognitive behavioral therapy. He soon returned to his classes. People who suffer from stuttering accompanied by social anxiety disorder should not only take medication but also consult a speech language pathologist.

Key words: stuttering, speech language pathologist, social anxiety disorder, truancy, SSRI

九州大学耳鼻咽喉科:〒812-8582 福岡市東区馬出 3-1-1

Department of Otorhinolaryngology, Kyushu University: 3-1-1 Maidashi, Higashi-ku, Fukuoka 812-8582, Japan 2012 年 1 月 5 日受稿 2012 年 7 月 5 日受理

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は じ め に

社交不安障害(social anxiety disorder: SAD)とは 他人の注視を浴びるかもしれない場面に対して,ほぼ 毎回不安や恐怖を抱き,その不安・恐怖を回避するあ まり,社会生活に支障が生じている疾患である.ドイ ツおよびオーストラリアの統計では発症平均年齢は 15 歳で,全人口での発症率は 7~12%といわれてい る1–3).そして,半年で 8%,2 年で 20%,8 年経って も 36%の人しか自然治癒せず,自然治癒後も 4,5 年 で 30%の人が再発する難治性の疾患である4).ひきこ もりの約 15%に前駆症状として SAD が発症している ことも報告されている5).自殺企図は SAD 単独では 2.6%であり,うつ病単独の 1.1%よりも率が高い. SAD にうつ病が 20%合併するといわれ,合併すると 自殺企図が 7%に増加する6,7) 社交不安障害は,日本では 1930 年代には対人恐怖 として知られていたものの一部である.海外で広く知 られるようになったのは,1980 年の DSM-Ⅲで social phobia という疾患名が示されてからである.その後, 1994 年の DSM-Ⅳでは social anxiety disorder に名称 変更され,当初日本語訳では社会不安障害と訳されて いた.その後,2008 年に日本精神神経学会がより疾 患に適した名称「社交不安障害」に変更した. 社交不安障害の薬物療法は,選択的セロトニン再取 り込み阻害薬(SSRI)が第一選択薬である8).日本では, 2005 年にはフルボキサミン(ルボックス®,デプメロー ル®)が保険適応となり,2009 年にはパロキセチン(パ キシル®)が保険適応となっている. 今回,SAD と診断された吃音の高校生が,耳鼻咽 喉科医・言語聴覚士の治療により不登校状態から,登 校ができるようになった症例を経験したので報告す る. 症   例 16 歳(高校 1 年生),男性 主訴:吃音をなくしたい,治したい 家族歴:吃音の家族歴なし,1 人っ子 現病歴:小学 4 年生の頃から,吃音を自覚.吃音に 関して医療機関への受診・相談は行っていなかった. 高校 1 年の 7 月頃より,国語や英語の時間に「教科書 を忘れた」と言って,本読みをしなくなった.9 月に なり,「死にたい」と家族に言ったことから,家族が インターネットで吃音について情報を得て,言語聴覚 士に吃音の相談をしたが,2 回だけ通い行かなくなっ た.翌年 1 月中旬から,ラグビー部も休部し,学校も 不登校となった.近医より 3 月上旬に九州大学病院の 心療内科を紹介受診し,人前で発表する場面だけに不 安・恐怖が強く,その場面を回避して不登校になって いることから社交不安障害と診断され,フルボキサミ ンを処方された.しかし,その後も午前中の登校はで きず,午後からは登校し,本読みのある授業は欠席し ていた.心療内科から,吃音もあることから耳鼻咽喉 科に 3 月末に紹介された. 図 1 吃音の多因子モデルとそのアプローチ 行動療法 (回避していたこと を少しずつ行動) どもる自分がすべて悪い 他人に吃音を知られたくない 認知の修正 (誤った思い込み を修正)    本読みの 予期不安が強い 環境調整 (学校の先生へ  本読みの配慮) 苦手な言葉 長文だと吃音頻度が増加 約 2 ヵ月間の不登校 LSAS-J 93 点(重症) 吃音頻度 5.4% すべてブロック 随伴症状は膝を叩く 言語療法 (腹式呼吸,軟起声, 柔らかい構音)   Cognitive 認知 Social 社交 Motor 運動 Linguistic 言語 Affective 感情

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評   価 吃音の問題点を認知,感情,言語,運動,社交の 5 つに分類する多因子モデル9)に従い,図 1 のように本 症例の問題点を分類した.自分の吃音に対する認知は, どもる自分がすべて悪い,他人に吃音を知られたくな いという認知をもっていた.そして,本読みの予期不 安がとても強い感情をもっている.言語の面では,自 覚的には,苦手な言葉は,ハ行,タ行であった.客観 的には,吃音頻度は 5.4%で,すべてブロック(阻止) であり,随伴症状は,声が出ないときに膝を叩くとい うものであった.なお,吃音頻度は,「ジャックと豆 の木」の音読における 84 モーラ中,吃音に特有な症 状(音節の繰り返し,引き伸ばし,ブロック(阻止)) の見られたモーラの割合として計算した10,11).社交面 では映画のチケットは友だちに買ってもらい,飲食店 に行っても自分で口頭では注文しないという回避性の 行動が多い状態であった.社交不安障害の重症度を測 る Liebowitz Social Anxiety Scale 日 本 語 版( 以 下, LSAS-J)を検査し,本症例の初診時の LSAS-J は 93 点(重度)であった(図 2).人前で話すのに,不安・ 恐怖を感じるだけでなく,その場面を回避する傾向が 図 2 本症例の Liebowitz Social Anxiety Scale 日本語版(LSAS-J)

P:performance(行為状況),S:social interaction(社交状況).○は初診時(2011 年 3 月): 93 点(重度),△は 2012 年 2 月:49 点(軽度).

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あった. 治療の内容 認知の歪みに対しては,医師が「吃音のあるあなた は悪くない」と伝え,認知面の修正を行った.また, 本症例は本読みの予期不安が強く,医師が担任の先生 に本読みの配慮の手紙を書いた.また,ラグビー部の 監督にも同様の吃音が原因で休部していたことを伝え る手紙を書いた.吃音に対しては,言語聴覚士が軟起 声,柔らかな構音,腹式呼吸の言語療法を行った.吃 音があるために避けていたことのうち,できることか ら少しずつ行う行動療法を,医師が主導して行った. 経   過 初回面接(3/17):本症例の問題点を伝え(図 1), 今後の治療の内容を説明した.2 回目(3/23):自分 で映画館のチケットが買えた.4 回目(4/6):飲食店 で自分の欲しい食べ物を口頭で注文ができた.5 回目 (4/15):高校 2 年生の新学年が始まって,担任の先生 と部活の先生に吃音の配慮事項を書いた手紙を自分で 渡すことができ,全授業に出席できるようになり,不 登校状態から登校できる状態になった. 九州大学病院が遠く,通院を休みがちだったので, 土曜日も診療可能な近隣の病院の言語聴覚士に引き続 きフォローをお願いした.5 月には,英語の担当の先 生と本読みについて相談し,短い文章だけ指名しても らうようにした.ラグビー部にも行くようになった. 6 月には文化祭の劇においても回避せず,本番で一言 を言えた.ラグビーで,スタメン出場した.7 月には LSAS-J 79 点(中等度),吃音頻度は 2.4%に軽減した. その後も,学校を欠席することなく,部活も続け,翌 年の 2 月には LSAS-J 49 点(軽度),吃音頻度は 3.6% であった. 考   察 2 ヵ月間不登校であった吃音のある高校生が,欠席 なく登校することができた.吃音のある子に対して最 も配慮が必要なのは,「本読み」であるという報告が ある12).本症例は,高校 1 年の 7 月頃より,国語や英 語の時間に「教科書を忘れた」と言って,本読みをし なくなったり,心療内科で投薬を受けても本読みのあ る授業は欠席していたので,医師が「本読み」の配慮 を学校の先生に伝えることが,不登校の状態を解消す るのに有効だった.「本読み」の配慮とは,学校に行 く代わりに最初の 1 ヵ月だけは本読みを免除してもら い,それ以降は本人と本読みをするかどうか直接話し 合ってほしいというものであった.その結果,英語の 先生は 1 ヵ月経ち,短い文章を当てるようになった. この配慮も吃音は短い文章の音読ほど吃音頻度が低下 するので13),妥当な配慮である.吃音患者の 40%は, 吃音を理解してくれる先生を必要としているという調 査があり14),本症例も以前より「本読みは精神的に楽 になった」と感想を述べている.難発性吃音は声帯の 過緊張であり15),本症例は軟起声などの言語療法によ り吃音を少しコントロールできる自己有用感がもて, 今まで回避していた行動を少しずつ挑戦するきっかけ となり,不登校状態から回復する一因となった.そし て,回避していたことができたときは,医師や言語聴 覚士が一緒になって喜び,さらなる行動意欲につな がった.脱感作の順序は,本人の自発的な意思を尊重 し,本人が主導でできる範囲で行った. このように多因子モデルの認知,感情,言語,運動, 社交はそれぞれ独立したものではなく,1 つが軽減し ていくとそれ以外の要因も軽減していくものであ る9).そのため,認知,感情,言語,運動に介入する ことが,不登校の状態の解消につながったと考える. 成人吃音患者は,約 40%の高頻度で SAD を合併す る3,16).そのことからも,SAD で加療されている吃音 患者は,積極的に吃音を理解している言語聴覚士に紹 介し,包括的に支援する必要があると考える. 結   語 吃音症に SAD が合併した症例は,医師による薬物 療法だけではなく,耳鼻咽喉科医・言語聴覚士の積極 的介入が有用であると考えられた 文   献

1)Schneier FR, Johnson J, Hornig CD, et al: Social phobia. Comorbidity and morbidity in an epidemiologic sample. Arch Gen Psychiatry, 49(4): 282-288, 1992.

2)Beesdo K, Bittner A, Pine DS, et al: Incidence of social anxiety disorder and the consistent risk for secondary depression in the first three decades of life. Arch Gen Psychiatry, 64(8): 903-912, 2007.

3)Blumgart E, Tran Y and Craig A: Social anxiety disorder in adults who stutter. Depress Anxiety, 27(7): 687-692, 2010.

4)Keller MB: The lifelong course of social anxiety disorder: a clinical perspective. Acta Psychiatr Scand Suppl 417: 85-94, 2003.

5)Koyama A, Miyake Y, Kawakami N, et al: Lifetime prevalence, psychiatric comorbidity and demographic

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correlates of "hikikomori" in a community population in Japan. Psychiatry Res, 176 (1): 69-74, 2010.

6)Stein MB, Fuetsch M, Müller N, et al: Social anxiety disorder and the risk of depression: a prospective community study of adolescents and young adults. Arch Gen Psychiatry, 58(3): 251-256, 2001.

7)Ohayon MM and Schatzberg AF: Social phobia and depression: prevalence and comorbidity. J Psychosom Res, 68(3): 235-243, 2010.

8)Stein DJ, Baldwin DS, Bandelow B, et al: A 2010 evidence-based algorithm for the pharmacotherapy of social anxiety disorder. Curr Psychiatry Rep, 12: 471–477, 2010. 9)Healey EC, Scott Trautman L and Susca M: Clinical

applications of a multidimensional model for the assessment and treatment of stuttering. Contemp Issues Commun Sci Disord, 31: 40-48, 2004.

10)Kell CA, et al: How the brain repairs stuttering. Brain, 132: 2747-2760, 2009.

11)Kikuchi Y, et al: Spatiotemporal signatures of an abnormal auditory system in stuttering. Neuroimage,

55(3): 891-899, 2011.

12)見上昌睦,森永和代:吃音者の学校教育期における吃音の 変動と通常の学級の教師に対する配慮・支援の要望.聴覚 言語障害,34(3):61-81,2006.

13)Tornick GB and Bloodstein O: Stuttering and sentence length. J Speech Hear Res, 19(4): 651-654, 1976.

14)中川志穂,小林宏明:吃音がある人の小学校における教師 の支援に対する要望に関する調査―言友会会員の方を対象 と し て ―. コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 障 害 学,25:164-171, 2008.

15)Conture EG, McCall GN and Brewer DW: Laryngeal behavior during stuttering. J Speech Hear Res, 20(4): 661-666, 1977.

16)Stein MB, Baird A and Walker JR: Social phobia in adults with stuttering. Am J Psychiatry, 153(2): 278-280, 1996. 別刷請求先:〒812-8582 福岡市東区馬出 3-1-1       九州大学耳鼻咽喉科

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