漁船保険制度議
星 野 良 樹
海上保険の一つとしての漁船保険は,最近わが国のそれを中華民国,韓国および琉球等が援用し,徐々 艇東南アジア諸国全般に波及されつつある。琉球においては,わが国漁船保険制度をそのまま採用し,
中華民国に至っては,半面半民的経営方法を採っている。しかも,手元に在る「新光産物保険股扮有限 公司」の保険証券および約款,即ち「漁船船体険保険単」・「本保険単云云発素絹後開各条款」は,わ
が国のそれが如何に強く影響を与えているかがわかる。このようにわが国漁船保険制度がアジアにおけ る漁船保険制度の主柱となってはいるが,それ自体幾多の問題を残している。其処で,それら問題点を 認識し究明していくことにより,アジアの範たらしめることは意義の在ることと思う。加えるに当小論 の掲載誌が長崎大学東南アジア研究所年報であることも念頭に置いたものである。
〔1〕
国家が社会的経済的政策に基いて保険制度を樹立するにしても,企業家が保険の経営方 策を確立するにしても,社会経済における活動であり,それに働きかける活動である限り,
その目的を達成せんとするためには,社会経済の必然性を把握し,且つ合法性に適従した ものでなければならぬこと周知の通りである。而して・一一搬的な意味においては,科学的 なる経営経済方策が把握されていなければならない。何となれば,科学的なる経営経済方 策こそ社会経済の合法性を捉えた方策に他ならぬからである。従って,唱える所がいかに 立派であっても科学的根拠を欠く保険方策は無意味となるであろう。それは,現実性を欠 くばかりか,大衆を惑し,国費を遍し,私保険にあっては少なくとも経営諸費用(:Loading)
を濫費し,惹いては国民生活を圧迫することとなろう。保険方策樹立のためには,正しい 指導原理を確立することが不可欠の要件となるが,現実に適応するものでなければ,いか
・に正しい指導原理なるといえど抽象的なそれに終り,本来の目的を達成することが不可能 となろう。従って,現実事態の認識が,また同時に不可欠の要件を成すのである。
論ずるまでもなく,資本主義経済の成長の言わば犠牲となった漁民の経済生活を保護し 育成することは刻下の急務である。しかし,いかに急務であることを強調しても,これを 実現しかつ達成するべき方策を考えるのでなければ,それは空意空論に終ること明らかで ある。其処で,われわれが考えねばならぬことは,その為の制度にあるのであって,饒舌 にあるのではない。然も,漁民の経済保護・育成を企図する限り,その国その国でその国 の漁業それ自体の性格を現実的に把握し得るがごときそれを考えるべきで,神秘的・空想
的・物真似的それに酔うことは許されるべきではない。
漁業政策として,漁業経済保護・育成をヨリ現実化せんがための方策は多くあるが保険 制度として,わが国漁船保険組合制度,琉球の漁船保険組合制度,中華民国のその有限公 司制度, もさることながら,タイ;インド;パキスタン等では,漁船建造技術および漁、
業技術の導入とその保険的保護策の制度的研究におくばせながらも多大の熱意を国が払っ ているのである。しかし,その制度を幾分でも効果的ならしめることは,現存未存を問わ・
ず,漁民の今一層の経済保護・育成が重要であるとする今日,極めて注目すべき問題とい・
わねばならない。母野らば,アジアでの漁船保険制度の支柱ともなるわが国漁船保険制度 にあって,就申その組合がいかなる組織および機能を有してわが国漁業経済政策を少なか・
らず達成し貢献しているのであろうか。
問題を,先ず以上のように限定することは,わが国漁船保険組合制度が,周知の通り,
昭和十二年法律第ご十三号漁船保険法を以て確立され,昭和二十七年法律第二十八号漁船 損害補償法へと発展的改正を含めてこの二十八年間幾多の社会的経済的政治的変貌の波に.
洗われつつ運営されてきたと言うことより以上に,保険という手段による漁業経済保護・
育成として重要な問題と考えるからに他ならない。その理由は次の点にある。すなわち,
e 漁業経済保護・育成とは,要は我漁民の九〇パーセント近くを占める小乃至零細漁.
業生産者の社会的経済的耐抗力の保持・強化に他ならぬから,少なくともこれがための保一 険事業を遂行せんとする漁船保険組合制度の確立存続が根本的必要条件である。 ここに言 う漁船保険組合とは小乃至零細漁業生産者にとっては唯一の生産手段たる漁船漁具および 漁網に生ずることあるべき損害に対する防衛の組織で,かかる組織を欠いて,彼等の社会 的経済的耐抗力が保持され強化されるとは考え得ないからである。しかし,
口 現在のその実際においては,補償法あるいは模範定款例に一応そのまま追従し,各 組合の場所的空間的独自的性格を持つものではなく,名目的には漁業経済政策的保険では.
あり得ても,必ずしも漁業経済政策的保険としての実を備え得ていないと言う結果に終っ ている。それは,漁民の利益を目標とした漁船保険政策が,ヨクその効果を漁民の経済生 活に滲透せしめる策を欠き空廻りするを余儀なくされたからである。
以上の意味において現在の漁船保険組合制度を調査研究して,当該保険組合制度ならび に組合活動および経営につき,今後の方向を与え,以て改善発展を遂げしむること1ま,意
義あることと思、う。
〔皿〕
漁船保険制度は,上述のごとく,漁業の社会的経済的特殊事情を背景にし,然も,小乃 至零細漁民を申心に,・彼等の唯一の生産手段たり,且つ重要財産たる漁船および漁具等が 海難により滅失殿損したる際にその損害を填補し,以て彼等が漁業経営を安定ならしめる
と同時に,漁船・漁具等を担保する金融の途を与えるべくして存在するものでなければな らない。金融に関する問題は後述するとし,先ず,漁船保険団体組成上の問題から論旨を 進めていこう。
(漁船保険団体組成のための基調) 抑々,その組成は,漁船漁具等に生ずることあるべ き「危険」(risk;Gefahr)の惹起する物的入用(Bedarf)を彼等が相協力して充足
(Deckung)せしめ,以て漁業経営の安定に資することを目的として制定せられたもので,
漁業経済政策に伴う一保険制度であり,その基調をなすところの原則は「互助共済の精神」
(Gegenseitigkeit)でなければならない。
(漁船保険団体組成の方法)保険団体(versicherte GrupPe)組成の方法は数々ある。或 は営利法人たる企業者(保険株式会社)が機関となって個別に保険需要者と(保険)契約を 締結し,かくしてこの機関を枢軸として保険団体が結成されることあり,或は同憂の同志 忌詞って相互団体(相互会社・保険相互組合)を結成し,爾後普ねく同志を募ってこれに加入 せしめるものあり,或は国家または公共団体が直接乃至は間接の機関となり,特定範囲の 人々をして義務的に加入せしめることによって保険団体が結成されることがある。これ等 何れの方式により保険団体が結成されるとするも,厩に結成されたる内部においては「互 助共済の精神」が基調となる。
(その基調を生かすべきヨリ良き漁船保険団体) Gegenseitigkeitを旗印とし,以てその発 展の実を企するならば,常々次の点を考慮せねばならない。それは,ヨリ多数の漁船所有 者をヨリ法き範囲より糾合することである。被救済者の側より眺むれば,自己の物的入用 を幸にして危険の影響を免れたる他の人の保険料の一部乃至は全部をそれに充足せしめる 結果となる。故に,その充足能力は同憂の同志が多数にして,且つその所有が広範囲に亘 るに従い増大すべく,その反対なるにおいては充足能力が次第に低下し,遂には保険とし ての機能を失なうに至らしめることとなるからに他ならない。然るに,これがためには,
第一,地方散在的多数の漁船所有者を獲得するよう努力すると共に,その方策を考えね ばならない。何となれば,保険技術上の問題,・例えば保険料の低廉化乃至は危険分散とい
う問題よりも,多数の漁船所有者は自己の所有する漁船および漁具等に生ずることあるべ きある種のある一定の危険に同様に(Gleichartig)脅威せらるる状態にあるからである。
第二に,保険の目的たるべき漁船を制限することである。すなわち,そこにおいては,
漁船保険本来の趣旨を生かすことを要する。何となれば,漁船保険制度の本来の目的より すれば,既述のごとく小乃至零細漁民の生産手段である小型漁船の補償にあって,大規模 漁業経営体の有する漁船等の補償にあるのではないと考えるべきであると言い得るからで ある。然も,保険の目的たる漁船にある一定のトン肝内の小型漁船と制限を設けることは.
その漁船に生ずることあるべき危険の強度一小乃至零細漁民個人の力にあっては,これ が脅威に耐えざるか,耐え得るとするもこれがため不経済を免れ得ぎる程度においての強 度rがある程度定まってくるからである。しかし,保険の目的の大小の開きをあまりに
も大きく持たせることは,危険の同質性を欠く反面,保険団体を構成する漁船の所有者間 に階層を作り,仮にこれを同一の法条の下に画一的規制をなすなれば,保険団体組成上お よびその経営上に問題を残すことになる。従って,漁船保険制度なるものが特に力を入れ るべき対象を適確に把握し,以てその対象となるべき多数人を広範囲に亘り糾合せしめる よう立法者等その他関係人は努力せねばならないと同時に,漁業とそれに携る漁民の社会 釣経済的地理的教育的実情とに対処すべき方策を十分野考慮し,且つ保険理論に立脚し,
以て所謂保険団体を組成せねばならない。然可らば,漁船保険にあっては,いかなる方式 により保険団体を結成したらよいであろうか,それがためには,漁業,漁民,漁村の実情 と条件並に漁業生産手段中特にその漁船の用途を併せ考えもって保険団体の組成を計るべ
きであろう。
それより,既述の,保険相互組合組織による間接国営保険乃至は公営保険が可なりと考え ると共に:地域的なそれと業種的なそれを類別し設け以て統合することが可なりと考える。
(先慮の方式を…採る理由と実際での方式)ここで先回の方式を採る理由につき,先ず個条し
て行こう。
←う保険相互組合制度採用の理由は乳 ω 加入者相互の協力体制を確保する。
(ロ)道徳的危険発生の防止に対する相互監視を強化徹底する。
の 保険経営者意識を個々の加入者に与えられるを以て,保険思想を普及する。
⇔ 間接国営保険制度採用の理由は,
α)漁業経済政策の一環としての漁船保険制度および漁船保険政策を法律命令を以て 強く打ち出し得ると共に,組合経営の足並をある程度そろえることが出来る。
(ロ)国営化するζとにより,漁船保険組合に対し,資力と信用とが与えられ,且つ低 保険料の実現が可能となると共に,間接国営化することにより,政府保険事業費の 節減と保険事業運営とがある程度簡単化されうる反面,組合の自主的民主的経営を 促すことになる。
㊨ 全国各地方骨に漁船保険組合を結成し,以て統合する理由は,既述のごとく,
ω 漁村並に漁船所有者の地方散在的密集と彼等の全国的統一感情が稀薄なるとの反 面,それによる地方的特異性の在る統一的感情が旺盛なるため地方毎にそれを結成 せしめ,且つその地方における漁業の特殊性を生かす。
回 各々の組合を統合することにより,合理的保険料率の基礎を算出することをある 程度可能ならしめると共に,組合事業の健全なる発展と組合機構の強化とを得さし めることが出来る。
其処で,上述の方式により結成されるべき漁船保険団体の姿と保険の機構を成立せしめ る基礎たる構成体(Gebilde)とを実際に照応せしめ図示すれば次のようになる。しかし・
ここに言う実際とは,わが国の漁船保険組合並にそれと同様の方式を採る琉球のそれを意
味するもので,中華民国でのそれではない。中華民国では,有限公司形態を採り,「依海 上保険之成規及慣例弁理之。」として一般海上保険会社のその組成及びその経営方法の色 彩を強くする。
組鍛立時 組合設立鋒(地域組合) (業態組合)
合㊥㊥
(△)一一漁船
(〔])…一一一・・漁船所有者
㊥ ③
冒三三欝臨]
(補償法に規定されたる漁船保険の趣旨及び機構)漁船保険組合の本来の目的及び機構につき 補償法においては次のごとく規定している(定歓例においては其第一条〜七条参照)。大 意においては,中華犀国のそれも変りない。
第1条 コノ法律ハ,漁船ニツキ,不慮ノ事故ニョル損害ノ復旧及ビ適期ニオケル更新ヲ容易ニシ,
モツテ漁業経営ノ安定二三スルコトヲ目的トスル。
第2条漁船損害補償ハ漁船保険組合が行ナウ漁船保険事業ニョリ行ナウ。
第3条コノ法律ニオイテ「漁船保険トハ,漁船法(昭荊25年法律第178号)第2条1項(漁船ノ定
義)二属スル漁船ヲイウ。以下同ジ。)ヲ保険ノ目的9トシテコノ法律ニヨリ行ナウ相互保険ヲ イウ。
第4条漁船保険組合(以下「組合」トイウ。)ハ,組合員ノ所有スル漁船二撃キ,漁船保険事業ヲ行 ナウコトヲ目的トスノセ。
第5条組合ハ法人トスル。
第6条組合ノ住所ハ,ソノ主タル事務所ノ所在地ニアルラノトスル。
,第7条 組合ハ地域組合及ビ業態組合トスル。
雌域組合ノ区域ハ,都道府県ノ区域トスル。但シ,北海道及ビ兵庫県ノ区域ニオイ.テ設立サ レルモノニツイテハ,省令デ特別ノ定ヲスルコトガデキル(施行令第1条)。
業態組合トハ,政令デ定メル特定ノ漁業二従事シ(施行令第2条),翠ハモ7パラ漁場ヵラ
漁獲物若シクハソノ製晶ヲ運搬スル漁船デアツテ政令デ定メ層ル総トン数以上ノモノノミヲ保 険ノ目的トスル組合ヲイウ(施行令第2条2項)。
第8条組合ノ名称中ニハ「漁船保険組合」トイウ文字ヲ用イナケレバナラナイ。
組合デナイモノハ,ソノ名称中二「漁船保険組合」トイウ文字ヲ用イテハナラナイ。
以上の規定および前図により明らかなるごとく,保険の目的(subject−matter of insur・
ance)たる漁船ρ所有者が相結んで,所謂保険相互団体を組成し,各人は団体のため,団
体はまた各人のため( Einen fUr alle, alle f廿r einen. )に行動せんとする一つの共同
経i済(Sammelwirtschaft)である。〔皿〕
本項は;わが国漁船保険事業を通じて,そこに内在する当面の問題を挙げ,以てこれか ち制度化せんとする国及び既に制度化されている国に対しての参考にしたい。
(漁船保険事業経営の問題点。)漁船保険組合の行なう漁船保険事業につき定歓心は次のご とく定めている。すなわち,
第5条コノ組合ノ事業ハ,普通損害保険事業,満期保険事業,特殊保険事業トスル(補償法第3時 半 3項,施行令第1条1〜皿項,告示第118号。
コノ組合ハ前項ノ事業ノ外二,漁船乗組員給与保険事業ヲ行ナウ。但シ,漁船乗組員給与保 険ニツイテハ,三二定メル漁船乗組員給与保険約款ニヨル。
漁船保険組合ぽ,漁船所有者のため,彼等の所有漁船をこめ組合め行なう三種め保険の いずれかに付することによって生ずる保険関係(Versicherungs−verhaltnis)を保持し,
保険の目的たる漁船を通ずることによってのみ,漁船所有者の経済生活を保護(Schutz)
す、うにとどまる・然も・勿保護は・漁船損舗灘で! うところの「懲⊥(Ye「rirher・
ungsschutz)に限られていること勿論で早る。換言するなちば,.ζこに言う「補償」とは,
ある一定の事故(Versicheraρgsfa1Pにより・ある一定の財(漁船)・に?き生じたる損害 々填補するという鳶味で・「補償」.という語を用いているものと解する。従って・漁船犀 験は社会保険ではなく.,あくまでも「損害の填補」($chadensersatz).という保険給付の 方法により,保険事故に因る被災組合員の財産的地位を,あたかも無事故同然の状態に復 元することを目的とすものと解するべきである。而して, .漁船保険組合制度自体としては 一定の意味を持つものであるが,それは保険者たる組合とその保険の目的たる漁船の所有 者との保険関係に限られ,わが国の漁業ならびにそれに携る全漁業生産者の経済蔀面に直 接言々するほどの機能はそこ}ビない。
然可らば,補償法第一条に規定する「……漁業経営ン安定三資スルコトヲ目的トズル。」
という文言は,これをいかなる意味に解すべきであろうか6この文言は,この保険が漁業 経済政策の一環として運営されていることを端的に示したものであると解すべきである。
他の法条より考察すれば,・この政策がこの保険制度を通じて与える力は非常に限られた範 囲の漁民にしか及ぼさないものであることが誰の眼にも映るからである。すなわち,第一 に,この法律の目的を具現す為最大の作用は,三三の意味での「漁麟損害補償」で回り,
第二に・この保険を通じて漁業経営の安定という思恵に浴され得る者は・漁船の所有者で・
然もその漁船を既述三種の保険のいずμかに付することの出来る繹滞的能力を有する所有
者に限られているからである。 ・ . ・・. _『一 ..,....∵一
政府も,それ等の点を重視してか,④「保険料の」部国庫負担」・@「保険事業費一部 交付」・⑧「保険加入奨励金交付」・e「非課税項目の設定」。㊥「政府再保険」・㊦
「一部義務加入」・㊦「漁業協同組合組織の利用」等々あ策を採り芝.以て漁業経済政策的 意図をここに徹底させんとしている。とは言え,事実上はやはり以上の二点を拭い去るこ とは出来ず,公保険たるべき事業を遂行するはずの漁船保険組合が,私保険的事業経営へ の傾向を強めているといっても過言ではないめである。πそしで∫ その傾向を強めているの
は,極まるところ漁業経済政策なるものとその一一環としての漁船保険政策なるものとの差 があまりにもありすぎるという点にあるが,漁船保険制度そのものの内容にも問題がある。
その問題として,上記の内より特に「漁業協同組合組織の利用」と「一部義務加入」とを 挙げ,行を改め論究してみよう。
く⑳,イ(鰯\夢轍:男雀饗灘
船乃至は漁具漁網等に限られて 欝灘雷潔漏函蕪翼 いると言っても過言ではない所
経営化の傾向を強める。
より,協同組合的組織を必要と することは言うを侯たぬ処である。これより,漁業者にとって必要とされる組合組織は少 なくとも次の二つであるといい得る。
第一一 漁業並に漁業者の社会的経済的地位および性質から要求される組合一「漁業−協 同組合」。
第二 漁業者の生産手段(労働手段)の保護を目的とした組合一「漁船保険組合」。
なお,論旨の都合上,漁業共済は省略する。
しかして,これら両者が,その組織機態において相容れぬものであれば,現状のごとく 子種の組合を認める他なく,若しこれ等が一つの組合としての機能を満足し得るものであ
.れば,勿論,その便利なるに苦くはない。またそこに多少の閥題を生ずるにしても,これ を解決する方法を講じて,一組合をもって十分なる活動をなさしむることが効果的である ことは明らかである。
政府
漁船保険組合 漁業協同組合
@国庫一般会計,「幽 〔疏β)
漁.船再保険
チ・別会計
の 噛煽一一 一一・鞘
A組 D部
一◎一■o ia)
A組織
薄蛯フ
齦蝿レ s一Eざγ β け+c) (β 〕
任意加入 義務加入
c,
A..号保険加入者獲得部門
α=義務加入事務交付金γ 猪ウ点料
・≠義務加入漁船獲得
A =A部門の移行
β =組合保険資産の貸付
β =保険金。 =保険料一部国庫負担
現行補償法は;㌧蓋し,この点についても種々なる方策を講じてのものであるが,結局,
漁船保険組合匡おいては漁業協同組合の組織力の利用をなし得る規定を設け,而して,漁 船保険組合に組織力の拡充を賦与することにはなったが,それも「一部義務加入」に纒わ
る,所謂程度(わ問題であることは争われぬところである。
漁船保険組合が漁業協同組合の組織力を利用する理由は何か。と言えば,それは次の諸 点にあると言い得る』すなわち,
e 漁業経済政策の一環としてのこの保険制度を最少限度において機能せしめるため.
漁業協向組合に画面かの関係を有する漁船をして義務的に加入せしめる。
口 そこにおいて保険料率算定上の基礎をつくる。
日 組合員意識あ育成と相互監視の強化。
四 漁業協同組合を通じての,地方散在的漁民に対する保険思想の普及と宣伝。
㈲ 保険資産め運用。
等がそれである。然も,これら理由中,9,ωがその主たるもので,日,四,㈲は従たる 理由である。換言するならば,漁船保険組合が漁業協同組合の組織力を利用し・以てそこ
に義務的加入制を設けたのは,『この保険制度の最後の防波堤とでも言うべきものである。
この事実は漁船保険統計がはっきりと示している。すなわち,義務加入が,全加入の95%
以上を示し,任意加入はその2〜3%にすぎないのである。この事態は,また加入者側よ りすれば,任意加入の方式を採り加入するよりも漁業協同組合の組合員となり,而して後 に所有漁船を付回した方が,何かと利点が多く,これはまた漁業協同組合にとっても利す るところ大なることを物語っている。
(漁船保険組合と漁船保険中央会。) 然可し乍ら;漁船保険組合が漁業協同組合の既存の
組織力を利用するだけで,既述諸点に内在する問題が解決されるであろうか。少くとも,
漁船保険組合が漁業−協同組合の既存の:地盤を利用し,以てその拡充を企図する以上,経済
・行動も漁業協同組合と密接に関連し,共に漁村の経営経済中枢機関として活動せしめるこ とに在る。従って漁船保険事業関係者は,その目標に向って組合の経営方針を樹立し,経 営を活発ならしめるべきであり,政府は今後の在り方を深く考慮し之が指導監督に当るべ
きである。然も,漁業経済の質的改善が呼ばれている今日,少なくとも漁船保険経営方策 としては次のごとき問題を重点に置き再検討せねばならないであろう。然可らば,その問 題とは何か。それはすなわち,
e 漁船保険組合内部の問題
④ 漁船保険組合各個の経営一組合および組含員の指導監督ならびにその方策 ◎ 漁船保険三二の強化と組合員獲得のための必要な諸手二丁方策
61漁船保険組合の連絡統制一その方法と機関 {=)漁船保険組合の外部的問題
④ 政府に対する必要諸施設の要望 ◎ 漁業関係諸団体との連絡,関係の調整 ⑤ 漁船保険組合運動の大衆化
等がそれである。以上の諸問題を解決せんがため,現行漁船保険組合にあっては,各組合 閥の連絡・統制機関として「漁船保険中央会」なるものを設け,以て漁船保険組合経営の 合理化を推し進めんとしている。このことは補償法第百三十二条に規定するその事業内容 より明らかである。
第132条1項,保険料率ノ算出
2項 損害ノ発生ノ予防及ビ防止二関スル事項ノ調査及ビ指導
3項 会員タル組合ノ二二ニョツテスル保険引受ノタメノ漁船ノ調査及ビ保険ノ目的タル漁船r
ツイテノ損害ノ調査4項 漁船保険ノ普及宣伝
5項 会員タル組合ノ職員ノ指専及ビ福利厚生
6項 ソノ他漁船保険事業ノ健全ナ発展ヲ図ルタメノ調査及ビ指導
7項 前各号ノ事業二附帯スル事業とは言うものの,その実は政府がこの保険事業を遂行せんがための出先機関乃至は監督指 導;機関化すると共に,各組合がその組合内で当然に処理すべき経営上の業務の委托機関乃 至は漁船保険料率算定機関と化し, Einen f廿r alle, alle far einen〜 という,所謂
(保険)団体組成上の指導原理をそこにそれほど強く反映させているとはいい難い。
かかる実情を構成しているものは・漁村に根強く残存する封建的諸関係と教育機関の不 完全とから来る保険思想の欠除が基因して,組合員たる者も組合員たるづき者も,そして 組合もその「意識」(Bewubtsein)が甚だ低いということにある。
果レてこれで漁船保険組合の一層の発展が期せられるか甚だ寒心に堪えぬ次第であるが・
これが対策としては,漁船保険組合自らが組合員に対しこの保険の意義およびその内容に 関する教育を行なうと相侯って政府が漁業ならびに漁村に対する方策を考慮した上で,漁 船保険組合に対する方策を樹立し,腿て強く漁民に対し保険思想を浸透せしめることによ る外はない。漁業経済政策としてのこの保険に対する以上の点につき方策の確立を望むと すれば,組合ならびに中央会は蓋し次の点を考慮すべきである。
e 組合および組合員に対する保険教育の強化とその機関の設置
口 漁船保険の強制保険(Zwangsversicherung od. Pflictversicherung)化
勿論何事においても一時に解決されるものではないこと明らかであるが,漸進的にせよ.
一定の見通しと方針との下に行なわれるならば仮令,そのことが効果の小なるものにして も,漁船保険事業およびその事業を遂行せんとする組合が,漁業経済社会全体に対し与え るものは決して小さなものではないであろう。二三し乍ら現在の漁船保険組合制度は,そ の効果が漁船所存者で然もその内にあっては資力があり,且つ漁業協同組合に何等かの闘 係の有る者の利益を専ら保護するものとして作用しているという事実に注意せねばならな い。漁船保険組合が,自己の組合への加入者を獲得するため漁業協同組合の組織力乃至ば 機関を利用し,そしてそのために一部義務加入制を設けてはいるが,以上の二点を蔑にし ている下で・果して幾何の効果があるか問題であろう。さらにまた,漁業金融事情が低帯 しているところより漁船保険資金の運用が問題となっている。以下,この問題を述べよう。
〔皿〕
本項も,前項〔11[〕と同様の立場に立って論ずる。
拠て・漁船保険組合制度を通じて・彼等の漁業経営が安定し・且つ金融の途が開かれた かというと必ずしもそをではない。このζとは・今日なお・漁業金融の実情をみるに・冒 険貸借的方法が存在していること,あるいはまた漁民の三一「漁船保険加入者たる我々 は勿論,非加入者および漁船・漁具等の非所有者に対しても積極的に組合の有する保険資 金を融資してもらいたい。」・「組合にこの積極性があれば,我々も加入したい。」・.「何か 保険料を支払うだけのような気がする。保険料の無事もどしはあるが」一等からも推知 し得るように,漁業乃至漁村金融のいかに円滑を欠き困難であるかをそれは物語るもので
ある。
しかし,漁船保険組合が漁業乃至漁村金融に何の働きをもなし得ていないというのでは ない。定款例第百条は保険資金の運用につき次のように規定し・且つそれに基て運用して
いるのである右すな・わち,
第100条1項 ゴノ組合ノ資金ノ運用ハ,普通保険会計及ビ特殊保険会計二系ル資金ニアツテハ左二掲
ゲル方法ニヨル。e 郵便局二貯金スルコト。
口 農林中央金庫,漁業i協同組合連合会若シクハ総会野州総代会デ定メタ漁業協同組合若シク ハ銀行二預金スルコト。
日 国債,証券,他方債証券ソノ他農林大臣ノ認可ヲ受ケタ有価証券ヲ保右スルコト。
2項 前項第3号ニヨル資金ノ運用ハ,準備金・特別準備金ノ積立金ノ全額及ビ責任準備金ノ半
額二相当スル金額ヲ限度トシ,理事ノ過半数ノ同意ヲ得テシナケレ・ミナラナイr
3項 省略
とするのがそれである。かかる資金運用の方法をとるのは,漁船保険の責任準備金の構成 上当然のごとであり,且つ漁船保険組合の利潤実現という点でも有利である,とは必ずし
も言い得まいが,国民経済の堅実な運営という立場および小乃至零細漁民から支払われた 保険料の集積たる責任準備金の運用という立場からすれば,郵便貯金,農林中金,漁 協,
び地債のごとき部門に振り向けることは望ましくもあり,その意義とするところ大なるも 国債およのであろう。しかし,上述のごとき漁船保険資金も,組合が定款例第百条に従い 運用できるのは政府再保険という関係上,その全体の一割にすぎないのである。すなわち,
保険料の九割は政府再保険料として政府漁船保険特別会計へ流入して行くのである。従っ て,各々の組合の有する保険の金融機能はその力が微々たるものなのである。そこで問題 となるのは政府再保険料の積立金の運用である。水産庁漁船保険課の有する比較貸借対照 表をみると,剰余金のみをとりあげれば,昭和35年は20億円,36年は26億円,93年には 30億円を越さんとするほどである。この剰余金は,政府をしていかに運用していくのであ
ろうか。私は,既述のごとき漁業乃至漁村金融の現情より,漁船保険組合が漁村本位の金 政府再保険金
馨一1001簑畿 [亟]
○。: 奮養(保無
政府再保険金 積立部分の運用
(9A而)
再保険耳
讐野蝉
但し純保険料
O OO O
。墾・
口 O
O OO O隈々辮責任)
(利益積立金)
(責任準備金),
融仲介機関として,彼等の金融の相談所として機能するか,或は,漁船保険財団として漁 船保険の担保危険により生じた損害を一早く填補させ,法的諸問題はそこに於て,組合員 に代って受けるような機関をそれにより設立し,且つ保険教育の場として活動するがごと きを要望するものである。
漁業金融の方法としては,従来,漁業権漁船および漁具等の担保貸付あるいは下等業者 に対する信用貸付等が行なわれている。 とは言え,漁業権・漁船等は担保価値が極めて低 く,信用貸付は貸付危険が一層大である。漁業協同組合も個々的には相対的に貧弱なるた
め漁業金融に対したとえ漁業財産抵当法・農業動産信用法,漁協あるいは金融公庫に関す る諸規則を改正し,漁民への融資の窓口を広げているとはいえ,今日,なお十分とは言え ないのである。このように漁業および漁村金融の困難なる理由は,
(→ 漁業経営が合理的に行なわれがたいこと。
口 漁業金融に対する諸法諸規則が所謂漁業経営において必要なる要件を満足していな いこと。
日 金融機関が漁業に対する認識を欠き,漁業経営の実情について正当なる判断を下し 得ず,一概に危険座すること。
四 以上のごとき諸事情を解消乃至緩和するための必要なる対策の講ぜられぬこと。
等がその主たるものと言い得る。低利資金の融通さえ円滑に行かないのであるから,上述 せる要望の政府再保険剰余金を仮令,漁民のために利用するも,これら事情が存する限り 決して漁村金融が円滑に行くとは考えられぬが,何れにしても漁船保険組合は経営を合理
『的に且つ健全なものとして一般の信用を高めると共に,各種の金融機関の漁業に関する認 識と理解を深めしめなければならない。加えるにまた,漁船保険組合事業が,漁船保険事 故に因る罹災被保険者たる組合員の唯一の財産である漁船・漁具を,あたかも無事故同然 の状態に復元させることのみをその目的とするに終らず,さらに幅広い漁民のための組合 経営を必要とする段階に至っていることを知る必要がある。
結 論
以上,漁船保険制度の問題について一応私見を述べたが,漁業経済政策の一端として要 望され設立され早くも28年の歴史を有するこの制度の運営の状況をみるとき,そこに遺憾 の点の多いことを認めねばならない。然もこの制度が,わが国のそれを範として・東南ア ジア諸国が導入せんとする時に至っては,諸種の問題を解決すべく努力する必要にせばま
:れよう。
また,一つの政策の中に保険を導入したとき,その保険の活動範囲がいかに狭隆なもの であるかということも考えねばならない。仮に漁船保険を漁業保険として,漁業経済政策 中に漁業保険制度を設けても,保険として活動させる場合そこには自ずと限界が生ずるで あろう。これはむしろ当然のことではあるが。しかし,漁船保険に関する官民の認識と理
:解は著しく不足しているように思われる。これはまた,漁民の経済的社会的更生への官民 の努力の不足にも通ずるものと言い得よう。