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Tateo HASHIMOTO,Yoshir6KUWAOKAand皿deo YAMAGISHI

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(1)

Bulletin of Faculty of Education,Nαgasaki University:Cun・iculum and Teaching1990,No.14,33−46

    楽しい理科授業への模索

(m)小学校における「植物の社会」単元の学習

橋本 健夫*・桑岡 佳朗**・山岸 秀雄***

(平成元年10月31日受理〉

Experiments for the Pleasant Science Teaching

  (III)A Study on the Unit about Plant7s World.

        in Elementary Schools

Tateo HASHIMOTO,Yoshir6KUWAOKA and皿deo YAMAGISHI

(Recieved,October31,1989)

〈はじめに〉

 児童が自主的に又積極的に自然やその中で起こる現象に関心を持ち,それらの仕組みを 追求することによって,さまざまな原理や法則を再発見したり,体系的な自然科学の知識

を身につけていくことは,理科教育を行うにあたっての一つの大きな目標である。

 この目標の達成にあたっては,児童一人一人が理科学習に自主的に参加することが不可 欠な要因である。しかし,従来の理科学習の多くは,児童の自主的な参加が十分になされ ないままともすれば教師の描いた知識習得に向ってのラインの上を学習していくことを大 半の児童に強要してきたのではないだろうか。それは理科学習の内容が学習指導要領で規 定されている,または年間指導計画の中で十分な時間がないという理由によって正当化さ れ,現在に至っている。我々は,その全てを否定するものではない。しかし,楽しい理科 授業の実現を目指す我々にとって,そのような状態が続くことは児童たちにとって好まし いことであるとは考えられない。特に教室外で行われる理科学習にその傾向が如実にあら われているような気がする。このため,楽しい理科学習の展開が難しいといわれる理科の A領域の分野を取り上げ,児童が楽しく,授業に参加でき,目標や内容が十分に達成でき る理科授業の編成を試みたいと考えた。

〈新学習指導要領との関連について〉

本年の3月に学習指導要領が改訂され,小学校理科の各学年の目標や内容が大幅に変更

*長崎大学教育学部理科教育研究室,**長崎市立南陽小学校,***長崎市立横尾小学校

(2)

34 長崎大学教育学部教科教育学研究報告 第14号

表1 小学校理科の目標及び学年目標(A領域)の新旧対比

新学習指導要領 現学習指導要領

科の目 自然に親しみ,観察,実験などを行い,問題解 観察,実験などを通して,自然を調べると能力 決の能力と自然を愛する心情を育てるとともに,

然の事物現象についての理解を図り,科学的な

と態度を育てるとともに,自然の事物,現象につ ての理解を図り,自然を愛する豊かな心情を培

見方や考え方を養う。 う。

身近に見られる植物,動物及び人の体を比較し 身近に見られる生物を探したり育てたりしなが ながら調べ,見いだした問題を興味,関心を持っ ら生物の成長及び活動の様子を調べ,それらが季 3年 て追及する活動を通して,生物を愛護する態度を 節に関係があることを理解させるとともに,生物

育てるとともに,生物の体のつくりや成長のきま を愛護する態度を育てる。

りについての見方や考え方を養う。

身近に見られる植物,動物及び人の体を天気や時 生物を育てながら成長の様子を連続して調べ,

刻などと関係付けながら調べ,見いだした問題を興 成長には,段階があること,生命は連続している 4年 味,関心を持って追及する活動を通して,生物を愛 こと及び成長は養分や日光と関係があることを理 護する態度を育てるとともに,生物の活動や成長と 解させるとともに,生物を愛護する態度を育てる。

環境とのかかわりについての見方や考え方を養う。

生物の発生や成長をそれにかかわる条件に目を 生物の成長の様子及び体の仕組みを調べ,生物 5年

付けながら調べ,見いだした問題を意欲的に追及 る活動を通して,生命を尊重する態度を育てると

は環境の影響を受けて成長していることを理解さ るとともに,生命を尊重する態度を育てる。

共に,生命の連続性についての見方や考え方を養う。

 生物の体のつくりと働き及び環境を相互に関係 けながら調べ,見いだした問題を意欲的に追及

植物の成長や繁殖及び人体について調べ,生物 互いに影響しあって成長したり繁殖したりして 6年 する活動を通して,生命を尊重する態度を育てる いること,及び人体のつくりやはたらきを理解さ とともに,生物の体の働きの共通性や環境との関 せるとともに,生物の環境の相互関係について関 係についての見方や考え方を養う。 心を深め生命を尊重する態度を育てる。

された。新旧指導要領の各     表2 小学校理科の内容(A領域)の新旧対比 学年におけるA領域の目標

と内容を対比したものが表 1と表2である。この表か らもわかるように,現在小 学校6年生で教えられてい

る「植物の社会」という単 元は,新指導要領のもとで は削除されている。しかし,

新指導要領作成の根本精神 は,奥井氏も述べているよ

うに,より活発な直接経験の重視である(1)。特にA領域は,環境と人間との関わりを重視す る内容になっている。この点からいえば我々が追求した単元の構成方法は新学習指導要領 に示されたA領域の他の学習に充分に対応するものであると確信している。また,この10 年問の「植物の社会」に関する学習を分類整理し,それらに検討を加えておくことはこれ からの理科学習に必ず役立つものであるとも考えた。

学年 新学習指導要領 現学習指導要領 3

1.植物めつくりと育ち方

.動物のつくりと育ち方

.人の体のつくり

1.植物の成長と季節

.花のつくり

.動物の活動と季節

4

1.植物のくらしと天気・時刻・季節

.動物のくらしと天気・時刻・季節

.人のくらしと時刻・季節

1.いもの育ち方と日光

.昆虫の育つ順序とつくり

5

1.植物の受粉と結実

.動物の雌雄と発生

.男女ど母体内の胎児成長

1.植物の発芽と成長

。植物体の水の行方と蒸散

.魚の卵の変化と魚の食べ方

6

1.植物体のつくりとはたらき

.動物体のつくりとはたらき

.人体・人間の生活と環境との関係

1.森林(植物の社会)

.受粉と結実

.呼吸,消化,血液の循環

〈従来の「植物の社会」単元の展開法〉

 この10年間に雑誌等に記載された「植物の社会」に関する実践報告は多数見られるが,

そのうち単元配当時間,学習の流れ,そして児童の反応等が明確に記述されていて,単元

(3)

橋本・桑岡・山岸:楽しい理科授業への模索(m)小学校における「植物の社会」単元の学習  35

の展開の全容が把握できる実践報告は10例である(2)〜(11)。

 そして,これらに共通にみられる特徴は何らかの形で野外学習を組み込んでいることで ある。加えて植物を疎密に植え,その生育を調べる実験や密植した植物に対する 問引き の効果をみる実験等が併用されている。その代表的な展開図を示すと次のようになる。

[醗翻・「譲劉・[璽囲・劉

 この「間引き実験」は単に日当りと植物の関係で説明のつくものではない。つまり養分 との関係にも言及しなければならないのである。さらに本来の 間引き は丈夫な植物を 残すという意味で用いられてきたと考えるのが妥当である。これらの点からいえば,自然 界から直接学ぶべき単元に「実験の手法」を持ちこんで,論理的な立場を最優先させ,自 然が持つ雄大でかつ合理的なシステムに十分な時問をかけない点は,我々にとって納得が いかない。そのためかこの「間引き実験」は,地域の自然を授業に生かそうという提唱が 始まり(12)〜(14),全国でその実践研究が盛んに行われる昭和57年以降になると余り強調され ないようになる。

 またこれらの報告は,展開にあたってさまざまな工夫は見られるもののいずれも現行の 指導要領の内容を項目毎に1頂次達成していくという姿勢をとっている。つまり教師が目標 達成のための一つのめどとしている内容項目に沿って児童が学習していくことになる。ち なみに学習指導要領に書かれたこの単元の内容は次の通りである。

植物が繁茂しているところの様子を調べ,植物は互いに影響を与えながら成長 していることを理解させる。

 ア.密生している植物の一部が取り除かれると,日当たりなどが変わり,植物  の成長の様子が変わってくること

 イ.植物が繁茂しているところでは,内側と外側とで日当たり,温度などが違  い,植物の様子にも違いがあること

 この学習法,つまり内容項目を一つずつ順序だてて学習させる方法は,B領域の学習で よく用いられるものである(15)が,A領域,特にこの単元の学習に用いることはかえってマ イナスになるのではないかと考えた。この単元は1年生からのA領域,特に植物に関する 学習の総まとめになるべきものであり,また自然をトータルに見る目を育てる基礎を作る 役割を持っている。だから自然の中に児童を長く置き,自然とのふれあいの中で学習が進 められるべきだと考える。そうすれば各項目がほとんど同時に達成可能になるのではなか

ろうか。

〈単元編成にあたって〉

 そこで楽しく,児童が自主的に参加できる「植物の社会」の単元編成にあたっては,次 の観点からの調査,考察を加えた。

①児童の身近な自然を利用すること

②教師の役割を見直すこと

(4)

36 長崎大学教育学部教科教育学研究報告 第14号

③児童の活動を主体とした学習とし,教室外での学習を主とすること

④児童の感性を生かすこと

 ⑤ 生物界を総合的にとらえられるようにすること

①と③の観点については,前述の報告(12)〜(14)などを,あるいは具体的な実践として川上氏 らが揚げた論点を参考にした(16)。我々は児童が毎日接している自然を学習に取り込むこと によって,又地域の自然界を学習の場にすることによって,児童の感性が磨かれ理科学習 を支える自然に対する驚きや疑問が児童に容易に生まれ,それを原動力とした追求が積極 的になされること,また学習での既習事項をもとに日常生活においても自然界を機会があ るたびに見直すことができることなどを期待したのである。

 「身近な自然」を学習の場にするといっても「都市部の小学校では学校周辺には自然がな い」という意見がよく聞かれる。しかし本当に自然がないのだろうか。校庭の隅,近くの 公園など見落している場所があるのではないだろうか。我々はその問題を解決する一つの 手段として自然が比較的よく残っている郡部の小学校と,商業地,住宅地として機能して いる都市部での小学校,この両校における実践を考えることにした。この授業実践校と次 に述べる児童調査対象校の位置を示したのが図1である。

 また③と④の観点に関連することでは,児童が身近な自然をどう思っているかが一つの 大きなポイントとなる。つまり小林氏も指摘しているように,一般には農村部の児童は自 然に対して感動することが少ないのではないかと考えられている(13)。もしそうであるなら ば両校の実践方法に差をつけなければならないと考えた。そこで郡部と都市部の児童を対 象にして,身近な自然に対する印象を調査した。調査対象としたのは,長崎市の南部の野 母半島の郡部の7小学校と長崎市内の5小学校の児童,それぞれ1,037名,577名の計1,614 名である。これらの児童の学年は,1年から6年まで各学年にわたっているが,各学年の 人数は約300名を基準とした。そして発達段階

      

記載されている植物を見つけた児童の割合を 示したものが,表3と図2である。この調査

      o は野山,植物,動物,地層,星座などに関す      ▲岩屋山  。・O る印象や興味を聞いたものであるが,それら      奮稲佐山 を分析した結果は,表3や図2でも推測でき

るように,郡部と都市部の児童の間に,児童

      、 の身のまわりの自然に対する興味・関心に,

ほとんど差が見られないということである。

これは一般に郡部の児童は身近に豊富な自然 があるため,興味・関心の喚起が難しいと言 われている点に反している。しかし我々はこ の結果を当然と受け止めた。それは目的が異 なるが以前行われた離島と長崎市内の児童の 自然認識についての比較調査も同じような結

      野      o母

     半       O:調査校

    島◎

   o      ◎1実践校

  o   〃

図1 調査校ならびに実践校の所在地

(5)

橋本・桑岡・山岸:楽しい理科授業への模索(IIl)小学校における「植物の社会」単元の学習  37

表3 児童の野山に対する関心

は  い いいえ 何とも思わない 無回答

郡 部 都市部 郡 部 都市部 郡 部 都市部 郡 部 都市部 近くに野山は

  ありますか。

970

94)

457

79)

646︶ 117

20)

3︵0︶ 3︵1︶

近くの野山は

  美しいと思いますか。

661

59)

223

39)

109

11)

148

26〉

289

28)

196

34)

283︶ 102︶

近くの野山を大切に   したいと思いますか。

851

82)

424

73)

394︶ 38

7︶ 135

13)

103

18)

121︶ 12

2﹀

近くの野山で

  遊ぶのは好きですか。

681

66)

381

66)

211

20)

129

22)

130

13)

58

10)

151︶ 9︵2︶

近くの野山の花は   好きですか。

687

66)

310

54)

135

13)

119

21)

208

20)

143

25)

7︵1︶ 5︵1︶

近くの野山の虫は   好きですか。

705

68)

354

61)

198

19)

145

25)

130

13)

71

12)

4︵0︶ 7︵1︶

数字は回答人数を表す。()内の数字は%を示す。

論を出しているからである(17)。今までの学習 で郡部の児童の意欲の喚起が困難であったの は,何か工夫が足らなかったか,もしくは児 童の実態が把握されていなかった理由からで はなかろうか。このため我々は,郡部用,都 市部用といった授業を組む必要がないと判断 し,ほぼ同じ単元展開を考えていくことにし

た。

 ②の観点に関しては,理科のB領域の学習 に対しては学習指導要領の内容を項目毎又は 段階毎に教師が締めくくっていく方法がよく 用いられているが,この学習にそれと同じ形 態を持込むのは,児童の五感を使った自由な 活動を束縛するのではないかと考え,学習の 組み立ては児童の活動の結果を利用すること にし,この場合の教師の役割について検討を 加えた。その結果,まず児童を教室外に連れ 出し,学習の主な基盤を野外観察におくため には,教師がその場所の自然を熟知しなけれ ばならないと考えた。そこで学校内が学校周

レ ン ケ ソ ウ

カ  タ  ハ  ミ

オ  オ  バ  コ

ノ  ノ  バ  リ

ノ  ユ  ク  サ

ン ロッ メ ク サ

カラスノエントウ

ス     く    レ

オオィスノフゲワ

0 50 1000ク

● ◆ ■ o

□堵1〜rI」部の児 コ 郡部の児ら1

図2 都市部と郡部の児童が教科書に記載さ   れている植物を見つけた割合

辺の植物の名前やその生育状況といった植物社会に関する調査を,植物生態学的手法を用 いて行った。この手法は,宮脇昭氏らの著書でわかりやすく説明されている(18)。その結果 2校周辺の植物社会としては,公園の芝生の植物社会,陽地の土手の植物社会というよう に11に分類することができた。この方法によれば,その場所での植物が的確に把握できる こと,また標本の整理も各植物社会毎に行えるため,学習展開時の戦力として非常に有効

(6)

長崎大学教育学部教科教育学研究報告 第14号 38

表4 小学校の校庭に生育する植物

A B C D E F G A B C D E F G

オオアレチノギク O O O O ウ マ ゴ ヤ シ O O

オ  オ バ  コ O O O O エ ビ ヅ ル O

オ  ヒ  シ  バ O O O O オニヤブソテツ O O O

カ タ バ  ミ O O O カ キ ド オ シ O O O

ツ ボ  ク サ O O O O O O シマカンギク O O O

ハルノノゲシ O O O O シロツメクサ O O O

ヘクソカズラ O O O O O O スズメノエンドウ O O O

メ  ヒ  シ  バ O O O O O O O タチツボスミレ O

ヨ  モ   ギ O O O O テイカカズラ O O

イ ノ コ ズ チ O O O O O O ト キ ワ ハ ゼ

オニタビラコ O O O O O O ナ  ツ  フ  ジ O O O

カ  ラ  ム  シ O O O O O O ハ ナ タ デ O O O

ギョウギシバ O O O O O O ハ マ ス ゲ O O O

コニシキソウ O O O O O ヤハ ズ ソ ウ O O

ス   ス   キ O O O O ヤ ブガ ラ シ O O O

ス ベ リ ヒ ユ O O O O O ア オ  ビ ュ O O

セイヨウタンポポ O O O O O O ア   ケ   ビ O O

タカサブロウ O O O O O O イ ヌ  ビ ワ O O

チ   ガ   ヤ O O O O O ウ シ ハ コ ベ O O

ニ ワ ホ コ リ O O O O O オ オ イ タ ビ O

マ ツ バゼ リ O O O O O O カ ゼ  ク サ O

イ ヌ タ デ O O O O O キュウリグサ O O

エ ノ キ グサ O O O O O キ ラ ン ソ ウ O O

カ  ニ  ク  サ O O O O O ク サ イ チ ゴ

コ ミカンソウ O O O O ク      ズ O

ヂ  シ バ  リ O O O O O コゴメガヤツリ

ド ク ダ  ミ O O O O O コセンダングサ O O

ノ チ  ド メ O O O O O コ ナ  ス  ビ O O

ア オ イ ゴ ケ O O O O コモチマンネングサ O O

イ ヌ ガ ラ シ O O O サルトリイバラ O O

イ ヌ  ビ ュ O O O ス   イ   バ O

イノモトソウ O O O ス   ギ   ナ O O

カ ラ ス ウ リ O O O センニンソウ O O

ギ シ ギ シ O O O タンキリマメ O O

キ   ズ   タ O O O オ  ウ  バ  ナ O

キツネノマゴ O O O O ノ キ シ ノ ブ O O

キンエノコロ O O O ノ  シ  ラ  ン O O

ス   ミ   レ O O O O ハスノハカズラ O O

チ カ ラ シバ O O O O ヒ ガ ン バ ナ O O

チ チ コ グサ O O O ヒ メ ク グ O O

ツ  ル  ソ  バ O O O ヒメムカシヨモギ O

ツ   ル   ボ O O O O ヒヨドリジョウゴ O O

ツ ワ ブ キ O O O フウトウカズラ O O

ナワシロイチゴ O O O O フ      ジ O O

ノ ・ブ  ド ウ O O O O ヘ ビイ チ ゴ O

ヒ メ ド コ ロ O O O ボタンボウフウ O O

ホ  シ  ダ O O O O ママコノシリヌグイ O O

マルバス ミ レ O O O ムラサキカタバミ O

ヤ ク シ ソ ウ O O O ムラサキサギゴケ O

アオツヅラフジ O O O メ ド ハ ギ O O

アキノノゲシ O O O ヤブチョロギ O O

イ シ カ グマ O O ヤ  ブ マ  オ O

イ ヌ  ビ ェ O O O

(7)

橋本・桑岡・山岸:楽しい理科授業への模索(III)小学校における「植物の社会」単元の学習  39

であると考えられる。続いて7つの小学校を選び,その校庭に生育している植物も調査し た。その結果を表4として示す。この表からもわかるように,校庭には約50種の植物(草 本)が共通に見られることがわかった。この表を利用すれば,校庭で理科学習を行うにあ たって教師が知っておくべき植物がある程度明確になる。

 続いて野外学習を行う場所について検討を加えた。これは児童の安全面や学習時間を考 慮にいれなければならず,また植物社会が豊富に存在している場所でなければならない。

そこでこれらの条件を充たす観察適地を探し,それに至るまでを観察コースとして決定し た。また学習展開時の教師は,情報提供者としての役割を果たさなければならないと考え,

その役割を教師自らが口頭で行うのではなく,視聴覚教材を用いた方がより児童の活動を 活発にすることができると判断した。このため郡部の小学校ではスライドを,市内の小学校 ではVTRを使うことにし,観察コースや観察場所の予備的な情報を提供する準備をした。

 ④と⑤の観点については,児童の学習活動をより自由にそして活発にすることによって 我々が意図する学習が達成されるものと判断し1教師は安全面に充分な配慮をするように

した。また学習内容としては,指導要領に記載された内容は,児童の活動が十分保証され たならば十分達成できるものと予想し,学習内容を越えるものについても時間の許す限り 学習させたいと考えた。なお自然界を総合的にとらえるための手だては児童の活動結果を 総括すれば必ず見つけることができると予想した。

 このような観点を検討し,それぞれの学校が持つ条件を考慮した結果,表5のような単 元の展開を考えた。郡部のA校と都市部のB校における単元展開の差は,A校が豊富な自 然を毎時間利用するのに対して,B校ではまず校庭を学習の場とし,ついで校外の学習へ

と展開させたことにある。この実践から都市部の学校であっても校内には予想以上の植物 が見られ,陽なた,陽かけを利用すれば植物社会の差もかなり明瞭に区別できることがわ   (1)A校周辺      (2〉B校周辺

N

小学校

無_ 海水浴場

橘湾 ︐霧.ヒ.彪冨

,観察場所

図3 実践校の自然環境

(8)

40 長崎大学教育学部教科教育学研究報告 第14号

表5 「植物の社会」の単元展開

   し    ロ    ロ

校     3時問 A  第1次 巴匝匪塵  剖      市      都   3時間  2時間  校第2次     第3次  B    2時間第1次    4時間    2時間第2次    第3次

学校周辺の林を撮影したスライドをみるとともに,植物に関す 既習事項の想起と林の中の植物について考える。

林の中での観察を行い,各自のテーマで調査する。

密生した植物の様子とそうでない植物の様一 樹木以外の植物の育ち方に対する興味,関心

林から離れた場所における草本植物社会を観察する。

林の中の草本植物の社会を観察する。

植物社会だけでなく自然界全体の調和に対する興味,関心

観察時の気付きをもとに植物社会に影響を及ぽす要因を考える。

して,自然界についても考える。

校内の植物社会のVT Rを見るとともに,既習事項の点検,整 を行う。

校内の植物社会を観察する。

        陽当たりと植物の関係 外の植物社会の興味,関心

観察コースのVT Rを見て,各自の観察目標を決める。

観察コースや観察場所での植物観察を行い,さまざまな気付き 感想を持つ。

VT Rをもう一度見ることによって,その時の気付きや感想を 理する。

各自の気付きを発表しあい,植物社会に影響を及ぼす要因を考

,自然界全体とのかかわりを考える。

かった。その意味では,校内は教師にとっても児童にとっても非常に新鮮な教材となりう るだろう。なお両校の学校周辺のようすを図3として示した。表5の単元展開からわかる ように,A校ではスライドを教材として活用して,豊富な周囲の自然が残る校外の観察場 所での学習を行った。またB校では,教師も児童と一緒に活動することにより自由な児童 の活動が生まれてくるものと期待し,VTRを利用した。VTRは校内や観察コースの自 然を内容として持っており,授業展開の指示も教師に代って行えるように編集した。

(9)

.橋本・桑岡・山岸:楽しい理科授業への模索(m)小学校における「植物の社会」単元の学習  41

〈学習時の児童の活動及び気付

き〉

 A校,B校共に学習展開は表5 のスケジュールに従って行うこ とができた。A校では学校のす ぐ近くの林や雑草が繁茂する場 所を利用できたことにより,単 位時問内で観察や討議をスムー ズに進めることができた。そし て各児童が自分の調べるテーマ を持ったためか,一般にいわれ ている植物への無関心さは伺え ず,児童の活動結果による討論 でもって問題を明らかにするこ とができた。その結果従来の理 科学習時の態度とは異なり,非常 に楽しく学習できたようである。

 一方,学校の立地環境などに より,学習の展開そのものを児 童の活動に頼らざるを得なかっ たB校における学習状況は次の ようであった。

 B校で用いたVTRは担当教

諭が前もって校内や学校周辺そ して観察コースや観察地の植物 を映し,それらを10分程度に編 集したものである。この中には 一般に見られる植物や数種の目 にふれにくい植物の様子が含ま れており,児童の気付きを促す ような若干のコメント(これは 学習内容とは関係なく,教師個 人が気付いたことを児童に誇ら しげに語ったものである)も付 け加えた。このようなVTRを 校内用,野外観察前用,野外観 察後用として3本用意した。こ れらのVTRによって教師も児 童と同じように観察などの活動

に入ったり,自分の意見をまと

表6 学習時の児童の「気付き」(校内)

・植物に対して興味をもつ  目        標

・これまでの植物分野の学習 を思い出す。

・同じ植物でも日の当たり方 によって成長のようすが 違っていることに気付く。

・密生している植物は互いに 日光をさえぎり,日影を 作っていることに気付く。

・日陰のじめじめした所を好 む植物があることに気付く。

・植物には,たくさんの種類がある。

  児童 の 気付 き

・どうしていろんな形の植物があるの だろうか。

・植物の名前はどうしてつけたのだろ

うか。

・自然の植物はどうして人が水を与え ないで育つのかo

・どうして旧校舎の裏は花が少なかっ たのだろうか。

・カンナは草だろうか。

・ホラシノブはどこがきれいなのだろ

うか。

・草は野菜とちがうのだろうか。

・あらためて草を見ていったのは初め てだった。

・球根と種は育ち方はちがう。

・どうしてコケにねばりがあるのか。

。ツルドクダミはどんなドクダミだろ

うか。

・みんな自然にできたものだろうか。

・カンナやオオバコを見つけてうれし かった。

・どこにでもある植物もあるのに,

一ヵ所にしかない植物もあるのはど うしてだろうか。

・クズの葉の形は変わっていた。

・名前が少しずつわかっていった。

・校舎にへばりつく植物はないのだろ

うカ㌔

・シダは何種類くらいあるのだろう。

・家のまわりの植物を調べてみたい。

・植物は身近にあることがわかった。

・ひなたを好む植物は日陰には育たな いのだろうか。

・きれいな花はとられてしまってかわ いそうだ。

・スミレの種をみつけてみたかった。

・植物の育ち方は季節によってちがう。

・日当りのいいところと悪いところは 生えている植物がちがう。

・植物は雨が降るとよく伸びる。

・日のあたり方によって育ち方がちが

つo

・植物はいろんな条件をもって成長し ている。

・ちがった環境のところになぜ同じ植 物が育つのか。

・草に隠れていても花が咲いていた。

・植物は同じ種類どうし何本か集まっ ていた。

・植物や建物の影や湿ったところにコ ケやシダがある。

・シダは湿ったところにもあったが日 の当るところにもあった。

・シダの裏には胞子がある。

・シダにも多くの種類があった。

・胞子にはいろんな種類があった。

・シダやコケはがけに多かった。

・日陰の植物はよく育つなあ。

・生き物を大切にしたい。

人数 12

6 5 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1

1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 4 1

121 2 1 1

13

1 7 34一2−一3

(10)

42 長崎大学教育学部教科教育学研究報告 第14号

表7 学習時の児童の「気付き」(校外)

植物が繁茂しているところの様子を調べ植物は互いに影響を与えながら成長していることを理解させる。

ア.密生している植物の一部が取り除かれる イ.植物が繁茂しているところでは,内側と外側と と,日当たりなどが変わり,植物の成長の で,日当たり,温度などが違い,植物の様子にも

様子が変わってくること。 違いがあること。

・同じ杉林でも杉の大きさによって,まわ 5(人) ・林の中は木の葉のひかげですずしかった。 18(人)

りの植物がずいぶん違う。 ・林の地面は湿って,ボコッとへこんで柔らか 24

・小さい杉の林は日がよく当たるため,シ 7 かった。

ダなどの代わりにヨモギなどがあった。 ・木の下は乾きが悪いのでじめじめしている。 4

・大きな杉林は入るととてもひんやりして, 30 ・林の中の木は外側にだけ葉があり,中は枝だけ 29 シダ類やコケやキノコがたくさんあった。 だった。

・日があたるところに枝が伸びている。 1

・太陽の光が少ししかあたらないところは葉も少 1

ない。

・日なたと日蔭では同じ植物でも育ち方が違う。 18

・十字路や原っぱのヨモギなどは学校のより大き 1

かった。日当たりがいいのだろう。

・林の中には珍しい植物がいっぱいあった。 1

・木の下のジメジメしたところにはコケやシダや 12 キノコがあった。

・光のあたらないところにも多くの植物があった。 1

表8 この単元の目標を離れたところでの児童の気付きの例

1.反対側の斜面から見ると山の色がちがっていた。

2.ふつうの山と杉林は遠くからでも区別できる。

3.人のあまり通らない道の端には草が生い茂っていた。

4.人に踏まれないので上のほうに伸びるのだろう。

5.生い茂った草は日の当たる方向へ伸びている。

6.人の通る道には少ししか草がなかった。

7.オオバコは地面にへばりついているので踏まれ強い。

8.小さな弱い花は踏まれると茎が折れたり,花がつぶれたりするのでし  だいに生えなくなるのだろう。

9.つるにはとげのようなものがついていた。

10.雑草と思っていたものにりっぱな名前がついていた。

11.シダの胞子が全部シダになったら,そこらじゅうがシダだらけになる。

12.林の中では小鳥の鳴き声が聞こえた。

13.わき水が冷たくてとてもおいしかった。

14.学校の中よりも外の方がたくさん植物があった。

めたりするのであるが,教師個人の意見は極力述べずに,児童の求めに応じて児童の活動 を助けるアドバイザーに徹した。そして校外においてはヘビ等の被害に会わぬよう安全面 の指導に万全を期した。このような学習展開の中で児童たちが持った「気付き」を学習内 容との関係でまとめたものが表6と表7である。

 これらの表を見てわかるように教師が観察の視点を細かく指示しなくとも,学習指導要

(11)

橋本・桑岡・山岸:楽しい理科授業への模索(皿)小学校における「植物の社会」単元の学習  43

領に記載された内容はほと んどの児童が気付いており,

その結果として日当たりと 植物の因果関係を類推する ことも容易であった。特に 表6や表8に見られるよう にこの単元の学習内容を超 える自然界や植物社会につ いての気付きがかなりたく さんあり,それらを利用し て統合的に自然を考える時 間が持てたのは有意義で

あった。

 また授業終了後,児童の この授業に対する意見も調 査した。その結果を図4と

先生と一緒に学ぶ授業は楽しかったか

   とても楽しかった    楽しかった    余り楽しくなかった    わからない

野外での授業をふやしてほしいか

   は   い    い い え    わからない

観察前にみたV T Rは役に立ったか

   は   い    い い え    わからない

観察後にみたVT Rは役に立ったか

   は   い    い い え    わからない

50 100%

図4 授業に対する児童の反応

して示す。・これからわかるようにこの授業形態は,おおむね好感をもって迎えいれられた ようである。またVTRに対する拒否反応もなく,約3割の児童がVTRにとまどってい た様子が伺えるものの大半の児童がVTRの有効性を認めていた。

〈考  察〉

 本来最も楽しいはずの野外における理科学習が,①適当な自然が存在しない,②児童の 興味が散慢しがちである,③野外へ出る時間がない,④教師が自然に対する知識を充分に 持ち合わせないなどの理由で,学校現場において実施されることが少なくなってきている。

例え実施されたとしても時間の短い非常に形式的な授業になっているとの話を多数の教師 からよく耳にする。近年地域の自然をとり入れた学習が強く叫ばれている現在においても その傾向は余り変っていないように感じている。

 我々は楽しい理科学習の実践を目指す一環として,野外学習を取り込まざるを得ない小 学校6年生の「植物の社会」の単元をとり上げ,その学習展開を考え,それを実践したい

と考えた。「植物の社会」の単元編成を考えるにあたって,上記の野外学習の阻害要因を考 慮にいれ,次の3方面からの調査を行った。

 ①地域の自然(特に植物社会)についての調査

 ②児童(郡部あるいは都市部)の自然に対する関心についての調査  ③単元展開時の方法についての調査

 これらの結果は上述したように,①に関しては今までの植物分類学的な手法による調査 よりも生態学的な手法の方が,標本などの整理に有効であり,また場所毎の植物社会を把 握しておくことは,学習展開時の戦力になることがわかった。また各学校内に生育してい る植物は共通種が多く,各地域毎の学校が協力すれば,植物の調査も非常に簡単に済むこ とが考えられる。このように地域の自然を生かした理科学習を実践するにあたっては,そ の地域(各市,各郡毎)の自然についての教師用の手引き書を全体の財産として作成する

(12)

44 長崎大学教育学部教科教育学研究報告 第14号

必要があると考えている。それを利用すれば各校毎の特殊性をつけ加えるだけで教材研究 が可能になり,時間不足の要因もいくらかは緩和されるのではなかろうか。

 ②に関しては,郡部と都市部の児童の間に自然界に対する興味・関心の差はほとんど見 られなかった。これは長崎県特有の現象かも知れないが,この結果に従えば郡部の児童と 都市部の児童を区別する必要がないのではなかろうか。これに関連する調査結果は野山に 関する関心のみを掲げたが,海や川そして星空に対する印象についても郡部,都市部とも に同じような傾向を示しており,共に無関心な児童の数は少なかった。この結果から野外 学習で児童が活発に活動しないというのは児童側に問題があるのではなく,教師側ないし は学習展開の方法に問題が含まれていると考えるようになった。

 ③に関しては,我々が最も苦労した点である。従来の理科学習では,児童の活動を優先 させているようにみえるものの,実際は教師の敷いたレールの上での学習を強要してきた のではないかという反省に立ち,この学習においては教師の主導性を極力排除する方針で 臨んだ。しかしそれに対して一まつの不安が残ったためと生徒の視聴覚教材を好む傾向を 考え,スライドやVTRを作成し,展開時の導入部あるいは終末部で使用した。かえって

これが児童にも好評で予想した以上の効果があったと考えている。

 そして最も大きな収穫と考えられるのは,この学習展開の成否が児童の活動,つまり児 童が何をどのように気付いてくれるかにかかっていたのであるが,予想通.り学習すべき内 容以上の「気付き」を記録してくれたことである。もちろん原因ど結果を示すような「気 付き」は少なかったものの,それを使用することで討議が深まり,問題解決にむけての時 問が少なくてすんだと感じている。さらに学習すべき内容以上の「気付き」を討議の場に 出すことによって,植物社会の構成や自然界の仕組みにまで児童の考えが及んだことは非 常に有意義であったと考えている。

 しかし,この学習展開に問題がないわけではない。それは植物社会を調べる時間と労力 が教師にとってかなり負担になるということである。学校全体あるいは地域全体の協力体 制を組織する必要性を強く感じた。

 またVT Rやスライド作成の時間も無視することはできず,またVT Rにまかせると いってもどうしても教師の意図が入ってしまうこともあり,この点についての改善を工夫 しなければならないと感じている。そして教師の感性と児童の感性のずれを常に補正する 必要のあることを痛感するとともに,教師自身の感性の研磨が強く求められる学習展開で あることも感じた。

 そして学習展開時は植物に目を輝かせていた児童達は,学習の終了とともにその輝きを 徐々に減少さぜ,植物が話題にのぼることも少なくなったことは「今後の大きな課題として 残った。

〈おわりに〉

 楽しい理科学習の実践を一つの課題にあげて,この「植物の社会」の単元を取り上げ,単元 編成にあたっての調査,単元編成,授業実践と一連の作業を行ってきたのであるが,現場の 一教師にとっては過重負担になることも多く,それらの軽減や,児童の興味・関心の一年 間を通しての持続が課題として残った。このためにはある学習のために地域の自然を利用 するという姿勢から,地域を総合的に理解するためにその学習を生かすという方針に転換

(13)

橋本・桑岡・山岸:楽しい理科授業への模索(lll)小学校における「植物の社会」単元の学習  45

すべきではないかと考えている。

〈要  約〉

 小学校の教育現場において本来楽しいはずの野外学習が,ざまざまな要因に阻害されて 充分実践されない状況が続いている。そこで我々は,楽しい理科学習を模索する一環とし て,6年生の「植物の社会」の単元をとりあげ,その実践を試みた。まず身近な自然界に おける植物社会を教師が知るための手だてとして植物生態学的な方法が非常に有効である

ことを見つけるとともにそれを利用した標本の整理も試みた。つづいて郡部と都市部の児 童の自然に対する関心度を調査し,両者の問には余り差がないことを確かめた。

 そして観察コースや観察場所を設定するとともに,スライドやVTRに従来の教師の役 割を演じさせて,児童のより自由な活動を基礎にした学習展開を行った。

 その結果,予想通り児童のr気付き」は学習内容を十分に充たすものであり,それをも とにした問題解決も非常にスムーズに進んだ。さらに自然界を総合的にみる目の育成にも この学習は役立ったと考えている。

 しかし教師の負担が大きいことや学習終了とともに児童の植物や自然に対する関心が失 われていくことなど今後改善すべき点が残った。

 この研究を進めるにあたって,前田由貴子先生(元大村市立三城小学校),枡田忍先生(崎 戸町立江島小学校),古瀬洋二先生(長崎市立西北小学校),水頭潤一先生(長崎市立土井 首小学校)の御協力を得ました。この場を借りてお礼申し上げます。

引用文献

(1)奥井智久=

23﹄任︻﹂

(6)中村幸成

789m

(11)金子美智雄

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(14)

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参照

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