﹁国語方言の発想法﹂(二)
愛
宕
八郎康隆
B造語発想法の諸相
造語発想法とは︑語詞製作のうえに食い出される発想法である︒
ここでは︑地方人のそれを見ようとするものである︒
造詣発想法と造語発想法との関係は︑藤原先生もおっしゃるよう
に︑ ﹁発想﹂に思いいたれば︑造語法も造文法も一つのもので
あることがわかる︒︵﹁方言の発想法﹂国文学敬第二十八号団.ω℃ω︶
⁝相互に密接な関係が見られる︒造語発想法は︑造文発想法の縮
形のようなもの︑ひな型のようなものと言えよう︒
わたくしたちは︑造語のしかたのうえにもまた︑じゅうぶんによ
く︑地方入の発想法を見ることができる︒
今回は︑とくに﹁名詞﹂に限定して︑その発想法を見ていくこと
にする︒ ﹁名詞﹂の造語発想法を見ていくのに︑これを︑次の三法に大別
することができる︒ ω 創出法 ② 転成法 ㈲ 複合法
これら三法のうち︑その主流をなすものは︑複合法である︒これ
は︑既存の素材語をさまざまに組み合わせて︑新発想の語詞を作成
する︑多彩で有力な造語法である︒
これに対して︑創出法というのは︑語詞そのものを︑まるまる創
製する造語法である︒これは︑先の複合法とは造語法上対照的であ
﹁国語方言の発想法﹂⇔︵愛宕︶ って︑それほどに栄えてはいない︒ 転成法は︑名詞外のことばを︑名詞に生まれかえさせる造語法で あって︑動詞連用形からの転成になるものが中核をなしている︒人 や事物の動きを表わしつつも︑ものとしては名のことば一動名詞 ともいうべきlIたりえているところに︑言語生活上︑おのずと重 宝がられるのでもあろう︒よく栄えており︑これがまた︑先の複合 法の複合要素としても︑大巾な活躍を示すのである︒ 今︑この三法を中軸に︑主な造語法を構造上体系化すれば︑次の ようになる︒ ω 創出法 ①擬声発想 ②擬態発想 ② 転成法 ① ﹁動詞連用形﹂から ② ﹁数詞﹂から ㈹ 複合法
①
②
③
b a
C
﹁名詞+名詞﹂
﹁和語名詞+和語名詞﹂
﹁和語名詞+漢語名詞﹂
﹁漢語名詞+和語名詞﹂
﹁名詞+動詞連用形﹂
﹁代名詞+名詞﹂
九
長崎大学教育学部人文科学研究報告 第二二号
④
⑤ ⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
以下︑
ω
﹁動詞連用形+名詞﹂
﹁形容詞︵語幹︶+名詞﹂
﹁動詞連用形+動詞連用形﹂
﹁副詞+動詞連用形﹂
﹁名詞+の+名詞﹂
﹁名詞+動詞連用形+名詞﹂
﹁名詞+動詞未然形+助動詞︵︵ズ︶︶﹂
その他 右の体系にしたがって︑記述していく︒ 創出法
これには︑①擬声発想と②擬態発想との二法がある︒
①擬声発想というのは︑生物︑物体の発する声や音を︑そのもの
の象徴としてこれをとらえ︑その音連続を︑そのままものの呼称と
する発想であり︑②擬態発想というのは︑生物や物体が示す︑特徴
的な様態を︑象徴音化して︑ものの呼称とする発想である︒ ①擬声発想
/・ワーワー 唖︵広島県能美島︶
2・ニョーニョー 読経︵長崎市︶
3・ニャンニャン 猫︵広島市︶
4︒シェーシェ 蝉︵五島奈良尾︶
5・コツコツ 木魚︵長崎市︶
6・チャンチャン 鐘︵長崎市︶
7・ドンドロ 雷︵広島県︶
8・ポンポラ 蒸気船の煙突︵広島県廿日市︶
9・カッポン いたどり︵能美島︶
/0・ボチャ 一風呂︵広島市︶
//・ガリ 塩釜にこびりついた塩の塊くこれを落す時の﹁ガリガリ﹂ 一〇 という音をことばに仕立てている﹀︵石川県珠洲市︶ 8の﹁ポンポラ﹂は︑蒸気船の煙突から煙が︑強いリズムで放出 される音からの発想であろう︒○/の﹁カッポン﹂は︑あの中空の柔 らかめのいたどりを折る時の音から発想したものであろう︒10﹁ボ チャ﹂は︑湯面を叩く音からのものであろうか︒その他は︑説明す るまでもなかろう︒ 以上は︑全一語が擬声発想のものであるが︑一方には︑擬声要素 を部分とする作りの語詞も見受けられる︒ ・︒フースヤサン いかけ屋さん︵長崎市︶ は︑その一例であるが︑ ﹁ブース﹂は︑いかけ屋を象徴するふいご の音に出るものであろう︒ ②擬態発想 1・ギリギリ 旋毛︵石川県珠洲市︶ 2・アシャシャ とかげ︵珠洲市︶ 3・ベッタリ そば粉を練ったもの︵珠洲市︶ 4︒チョン猫︵珠洲市︶ 5・ゴッチン 飯粒に芯の残った状態︵長崎市︶ 6・チャワ そそっかしい人︵珠洲市︶ 7・ゾp 雑炊︵石川県石川郡白峯村︶ 8︒ドベ どべどべした泥︵珠洲市︶ 9︒チカ とげ︵広島県佐伯郡津田町︶ 2﹁アシャシャ﹂は︑とかげの気ぜわしげな動きに着目してのも のであろう︒土地人は︑ ・アシャシャモ イチダイ ナメクジモ イチダイ︒人問︑とか げのようにあくせく働いても一生︑なめくじのように働いても 一生︒ とも言っている︒
4﹁チョン﹂は︑なにか都会の猫とは違った︑山間地の猫の身軽
な跳躍を音化したものであろう︒5﹁ゴッチン﹂は︑生炊きの御飯
の歯あたり︑感触を表わしたもの︑7﹁ゾロ﹂は︑寒村特有の粗食 一菜っ葉︑小粒な馬鈴薯︑稗飯の残りなどを材料にした一貧し
い雑炊の表情音のようなものである︒○/﹁チカ﹂は︑とげの感触を
擬態音化したものであろう︒
一方に︑擬態要素を部分とする作りの語詞
︒カベチョロ やもりく壁をチョロチョロ遥うところからV︵長
崎市︶
も見られる︒
以上の擬声︑擬態発想の語詞は︑単直平明な作りを特色とし︑子
どもの創製︵あるいは︑子どもむけに創製する︶になると思われる
ものが︑かなり見られる︒ 造語法上の転成法︑複合法などが︑既存の素材語に依拠するとこ
ろが大きいのに対して︑この創出法は︑まったく新たに︑まるま
る︑ことばを創製するところに一大特徴を見ることができる︒ここ
には︑地方人の︑ことば造りのもっとも奔放自在な姿に接すること
ができる︒
ちなみに︑これが擬声︑擬態発想の副詞になると︑その栄えはま
た格別である︒ ︵﹁方言の擬声語・擬態語﹂室山敏昭.鳥取大学教
育学部研究報告﹃人文科学﹄第22巻/号参照︶
② 転成法 ①﹁動詞連用形﹂から
一・アルキ 用足し・遠足︵石川県珠洲市︶ 2︒ヒラキ開墾地︵富山県東礪波郡︶ 3︒ビッツキ 嫁がないで親もとで暮らす女︵石川県石川郡臼峯村︶
4︒ブシ ︿伏し﹀ 石の上に伏す習性の川魚・石伏し︵白峯村︶
﹁国語方言の発想法﹂口︵愛宕︶ 5・タラシ女たらし︵広島市︶ 6︒オドラカシ かかし︵珠洲市︶︑ 7・コpガシ 田植用の木わく︵珠洲市︶ 8・アヤマチ 怪我︵白峯村︶ 9︒シメリ 小雨︵広島県︶ /0・ニギリ けちんぼう︵広島市︶ /1・アタワリ 運命︵東礪波郡︶ /2・ステ 油かす・大豆のしぼりかす︵福岡県朝倉郡︶ /3・カタネー 地元の魚の行商人︵珠洲市︶ /4・オソレ 小心者︵広島市︶ /5︒ヨゴレ 身だしなみの悪い不潔な人︵広島市︶ 動詞連用形からの転成名詞は︑もとより︑共通語世界にもよく見 受けられる︒が︑地方語世界には︑一それが︑短小な一動詞の連 用形を駆使してのことば造りではあるが一共通語には見られな い︑発想の角度を指摘することができる︒ このような転成名詞は︑方言生活での必要に応じて具象物から抽 象事に及ぶ︑きわめて広範な世界を満たして多彩である︒ ② ﹁数詞﹂から 前者①のものの活況にくらべれば︑これは︑かなり限られたもの と言えよう︒が︑ここには︑方言人がみずからの機智とか滑稽とか を楽しむ風情のことば造り︵B発想法︶が見られる︒ 今︑奥能登珠洲方言から事象例をあげてみよう︒ 1・ハチリ ︿八里V 馬鈴薯 2・ハチリハン ︿八里半﹀ 馬鈴薯 3︒ヒッチャクハッカ ︿七百二十日﹀ よく働く人 4︒ハチモン ︿八文﹀ 能なし・少し足らない人間 5・クモン ︿九文V 少しましな人間 二
長崎大学教育学部人文科学研究報告 第二二号
6︒ジューイチモン ︿十一文﹀ 賢いすばらしい人
/﹁ハチリ﹂は︑栗を九里に見立て︑それに一里︵少し︶及ばな
い味のものという発想であり︑2﹁ハチリハン﹂も同巧のものであ
る︒3﹁ヒッチャクハッカ﹂は︑一年で二年分︵三百六十五日の約
倍数←七百二十日︶の仕事をするという発想に基づくものであり︑
4﹁ハチモン﹂は︑十文に少し及ばないというところから︑5﹁ク
モン﹂は︑ ﹁ハチモン﹂よりは少しましなという発想のもの︑6﹁
ジューイチモン﹂は︑十文を上まわるというので︑並以上のすぐれ
た人間を表わすという趣向である︒
4のような発想は︑珠洲方言にとどまらず相当に広く見られる︒
同義のことばで﹁テンポーセン﹂などとも言っているところがらす
れば︑明治期天保銭が八文に通用したところがら生まれたものであ
ろう︒ 広島市をはじめ瀬戸内海域に︑
7︒センミツ ︿千三ツ﹀ 嘘つき
ということばがある︒千に三つしか本当のことを言わないというユ
ーモラスな発想のものである︒
㈲ 複合法
造語発想法という観点で言えば︑これは︑ことばを組み合わせて
する発想法ということである︒
①﹁名詞+名詞﹂
a ﹁和語名詞+和語名詞﹂
1・キイシ ︿木石V 珪化木︵石川県珠洲市︶ 2・キバリ ︿木針﹀ とげ︵竹・木などのとがった細片の人の肌
につきたったもの︶ ︵珠洲市︶ 3・ノイネ︿野稲﹀陸稲︵長崎市︶
4︒ミモノ 穀物︵長崎市大崎︶ =一
5︒オキビツ 漁夫が沖へ持っていく弁当箱︵珠洲市︶
6︒カイズナ 貝砂︵珠洲市︶
7︒カドミセ 角店︵長崎県愛野町︶
8・スジモミ 種籾︵長崎県時津町︶
﹁種籾﹂という発想に対して︑血筋などの筋を取り用いている発想
がおもしろい︒
9・トリモミ 鳥籾︵熊本県天草上島教良木︶
苗代田に播く種籾が︑よく鳥についばまれるので︑始めに︑種籾を
播き︑その上に薄く土をふり播き︑その上に︑鳥にくれてやる籾を
播く︒その籾を﹁トリモミ﹂と言う︒
10・ヤマフグ こんにゃく︵広島県湯来町︶ 湯来町は︑こんにゃくの名産地︒こんにゃくを︑ふぐちりのように
料理するが︑その味がふぐにも匹敵するというので︑山でとれるふ
ぐ︵1ーヤマフグ︶としたものであろう︒
/1・ナシイモ 馬鈴薯︵珠洲市︶ 馬鈴薯の表皮が︑梨のそれと似ているところがらの発想︒
/2・クマネコ 黒猫︵珠洲市︶
13︒ヤマイナカ 山村︵長崎市大崎︶
/4︒ババサンザエ ひねたさざえ︵珠洲市︶ む 15︒ボブラカオ 青ぶくれした顔︵珠洲市︶
﹁ボブラ﹂はなんきんのこと︒
16・チンバザカ ちんばをひかなければ︑登り下りのできないよう な坂︑石段︵長崎市︶
坂の多い長崎の生活から生まれた発想語︒
/7・コンカオジ 弟の卑称︵珠洲市︶ ﹁コンカ﹂は小糠で︑ほとんど役立たぬもの︑﹁オジ﹂は弟であ
る︒奥能登珠洲社会では︑次男以下は︑郷土で分家するゆとりは乏
しく︑他郷に出て生活することが多い︒しぜんに︑弟︵オジ︶を︑
ありがたくないものとする発想に基づく︑次のようなさまざまの語
詞が生まれた︒
7︒モチオジ 餅のように手につく︑やっかいなオジ
7︒ダッコオジ ﹁ダッコ﹂は肛門 31
つ 7︒ネカオジ ぬかオジ 41
る所︑その薪をいろりにくべるような雑用をつとめるオジの 一 矧︒キバラオジ ﹁キバラ﹂は︑いろりの近くにある薪を納めてあ 75 Rッパオジ ﹁コッパ﹂は︑木片
意か 77︒エンキョオジ 隠居オジ つまり︑この世に役立たないオジの / 意
これら一連の語詞は︑当該社会の生活背景をよく表わしていよう︒
/8・ツキヨマ 月夜間 旧暦十四日から十八日までの五日間の休漁 日を言う︵長崎県奈良尾︶
奈良尾町は︑有名な遠海漁業の基地で︑遠く東支那海などへ︑まき
網船団を送り出している︒漁獲の乏しい旧暦/4日〜18日までの五日
間は︑基地に帰っての休漁日となり︑町はにわかに活気づく︒
当地には︑
︒ツキヨマピジン 月夜間美人
ということばもある︒漁船の乗組員の妻たちが︑﹁ツキヨマ﹂の夫
たちの帰りを︑化粧し着飾って美人になり待ち受けるというわけで
ある︒ 以上︑a﹁和語名詞+和語名詞﹂で︑注目されるのは︑一つに︑
事物に即して︑力まず︑単直に︑かつ︑自在にことばを連ねてする
造語発想であり︑ ︵成形要素としての両語の関係に︑ ﹁の﹂格を思
わせるものの多いことは︑単直さと無関係でなかろう︒︶︺つに︑
﹁国語方言の発想法﹂⇔︵愛宕︶ 自在な連想裏に成形を見せる︑いわば比喩発想の造語である︒10︑ 1/︑12︑/4︑/5︑/6︑/7などは︑いずれもそれである︒比喩発想の 造語法は︑このa﹁和語名詞+和語名詞﹂の構造のものに限らず︑ 国語の造語法全般に︑広く見られる︑まことに注目すべきものであ る︒文学世界の比喩語とはかならずしも軌を一にしない方言語詞の それは︑生活臭の強いものと言うことができよう︒ b ﹁和語名詞+漢語名詞﹂ 1︒クチロン ロ論︵富山県福野町︶ 2︒ノドーグ 野道具︵石川県珠洲市︶ おか 3︒ウカニョーボ ︿陸女房﹀ 田畑を作る女︵珠洲市︶ 4︒ナマリハンチャク ︿三半着﹀ 半農半漁のように一業に徹し ない姿︵珠洲市︶ これは︑ハンダ付けに擬した造語法である︒ 5︒ヒシテコータイ 一日交代︵珠洲市︶ このような﹁和語+漢語﹂の成形のものにくらべて︑ 語﹂のものが︑よく惑い出される︒ c ﹁漢語名詞+和語名詞﹂ /・ギョバ 漁場︵長崎県奈良尾町︶ 2・ガイムシ 害虫︵長崎市時津町︶ 3・マンシオ 満潮︵珠洲市︶ 4︒カンシオ 干潮︵珠洲市︶ 5︒ギューチチ 牛乳︵珠洲市︶ 6︒ハンヌマ 半湿田︵珠洲市︶ 7・ドードシ 同年︵広島県廿日市町︶ 8・イジンゴメ 外米︵長崎県南高来郡︶ 9・イジンカマギ 唐米袋︵長崎県南串山︶ /0・トージンブネ 唐船︵長崎市︶
一三 ﹁漢語+和
ノ