理科教材「電気」について
著者 松村 佳子
雑誌名 奈良教育大学教育工学センター研究報告
巻 3
ページ 45‑50
発行年 1980‑03‑08
その他のタイトル Science Education on Electricity
URL http://hdl.handle.net/10105/4659
松村佳子(物理教室)
Science Education on Electricity
Keiko Matsumura {Department of Physics)
Abstract
It is well known that the science is one of the difficult subjects for many students. An exami‑
nation was carried out, how well the colledge students understood the science, in particular, electricity (concerning the brightness of a small bulb) taught in both primary and junior high schools. As a result, it is found that they lack in understanding of the relation between various electrical phenomena although they understand well the separate phenomena such as Ohm s low, Joule heat etc.
The term electricity is used in various meaning so that it is important to understand the concept of electricity, although it is dimcult to learn because of its unvisible nature.
Key words:
Science education Electricity
(I) は じ めに
最近児童生徒の理科ざらいの傾向が問題にされている。中学生以上になると、理科のうちで も特に電気に関する単元は苦手なものの王位にあるときいている。ところが、小学校理科学習
1)
に関する永田氏の調査によると、 4年生では学習した13単元中「かん電池と豆電球」が「星」
の単元とならんでおもしろかった単元の上位を占め、よくわかった単元の中でも「物のうきし ずみ」に次いで第2位になっている。 5年生の調査では、 14単元中「電流と発熱」 (新指導要 領では中学校に移された)が楽しかった単元の3位になっている。小学生にとっては理科は好 きな教科であり、電気は興味をもって学習したおもしろい単元である。
中学校では、電気に関する単元で「オ‑ムの法則」や「電流による発熱」などを学習するが、
回路の電流と電圧との値から何らかの規則性をみつけ出させることが一つの指導目的になって いる.オ‑ムの法則をみつける実験ではニクロム線より抵抗値の大きなものを用いるなどの工 夫をし、電流による発熱のところでは、水の量を適当にしたり発生した熱が逃げないように電 流を流す時間を短かくしたり、室温の高い夏に実験をするなど、定量的な理解をさせるための
苦労をしているようである。このように1っ1つの単元は工夫して何とかこなしても、摩擦電 気(静電気)から電流(電子の移動)に移るところでとまどいが生じるようである。回路を扱 かうようになると、もう電子や帯電粒子の移動との結びつきは問題にされずに、メーターの使 用による電流や電圧の値の扱かいに主眼がおかれるために電気とはそんなものだと思ってしま
うらしい。電流と電力との関係も理解できにくいようである。電子の流れという目に見えない 現象を十分に理解できないまゝにメーターの針のふれや数式のとり扱かい等に慣れさせられて
しまうところに問題があるようである。この頃から電気がそろそろ苦手な単元の中に数えられ るようになるのであろう。
このようにして、小学校、中学校、高校を経て大学に来た学生に、小学校の理科の内容であ る「乾電池と豆電球」に関する一つの調査をしてみた。小学校や中学校で学習したことがどの ように理解されてきているかをみるために、そして、小学校課程の「理科教材研究」の内容を 検討する1っの目安にしたいためである。
(II) 調査の方法と結果
理科教材研究を受講している学生(総数130余名)に次のような内容の問に答えてもらった。
「図1のように乾電池に豆電球A、Bをつないだとき、AとBの明かるさにちがいがあるで しょうか。あるとすればどちらが明かるいでしょうか。その理由も書いて下さい」
これに対して大別して次のような答が得られた。(理由 は学生が答えたままの表現であり、各項で答の多い順に記 す)
1.AとBは同じ明かるさである。(33.6%)
○直列つなぎで条件が同じで流れる電流の強さは同様。
○理由なし。
○直列つなぎだから。
○同じ電気量が流れるから。
02っともにかかる電圧は等しい。
○これが並列つなぎなら明かるさは同じ。
OABの明かるさの差が極わずかならば明かるさの比べ ようがない。
OA、Bも同じと思うが、電子はB→Aの途中で空気中 にのがれる。
2a.AとBとで明かるさにちがいが生じる(28.3%)
○抵抗の大小により明かるさがちがう。
OW数がちがえば明かるさが変わる。
○電圧がちがうからちがいが生じる。
○球の新旧のちがいによる。
○電流が直流だからちがいがある。
○直列にした場合、AとBに通る電流は加えたものである。故にAとBの抵抗値が異なれば 電圧の消費量にちがいが表われ明かるさがちがう。
2b.Aの方が明かるい(20.6%)
OAからBの方向へ電流が流れているため、BはAの抵抗分だけ弱い。
OAには少しながら抵抗があるので、電圧降下のため、Bには電圧が低いので明かるさもA に比べてほんのわずかながらBが低い。
○直列でAの方が抵抗が大きいから。
○(十)から出た電流がAで消費されるからBは少ない。
○電流はABともに同じで、フィラメントは抵抗と考えられるから(+)からAまでの電圧 の方がBから(一)までの電圧よりも高くなる。
○電流が下がるから。
OABにかかる電圧がちがうので電流は(+)→(一)に流れる。Aの方が先だから。
2C,Bの方が明かるい。(17.5%)
OBはAよりはやく電子が届くため、Bで多くの電子が使われる。
○直列つなぎの回路だからBの方がAよりも電圧が高くなる。
○電子はB→Aの方向に流れるから早いもん勝ち。
OBを通るさいに電圧降下が生じるため。
○電流は電子から成り、電子は(−)から(十)へ行き、Bでの電圧の方が高いから。
○(一)極から出た電子が先ずBに使われるのでAは使い古された電子を使うことになるの で。
○(一)から(+)に電流が流れ直列であるから。
○電子は(−)から(+)へ流れ、Bで先に電気が消費されることにより電圧が低くなるか ら。
○電子は(−)から(+)に流れる。BからAに行く途中に電子が空気中に逃げる。そのた めBの消費電力を上回る。
OBの方が電子の流れが強い。
このようにみてくると、先ず気がつくことは、ほとんどの答は自分の云いたいことを筋道た てて書き表わすことができず、舌足らずな文章になっていることである。これは多分高校まで にそのような練習が不足しているせいであろう。今後マークシート方式のテスト形式がふえる に従って、この傾向はますます強くなるのではないかと思われる。何よりも残念なのは、小学 校で学習する直列つなぎ、並列つなぎすら理解できていないのではないかと思えるような答が でてきたことである。大半の人たちは、オームの法則は法則としてわかっているけれども、電 子の流れと仕事や電力との関連において理解が不足しているまま、大学にきていることがわか る。
上記のような答を出した学生たちのうち半数には、実験方法と目的とを説明した後、実際に 豆電球と乾電池、電流計と電圧計とを使って豆電球の明かるさは何によって変わるのかを調べ て、豆電球が光る理由を一しょに考えてもらった。残りの半数のグループには自作のビデオフ イルム(内容のあらましは後述する)を見て、その後前と同じ問いに加えて豆電球が光るわけ を答えてもらった。
結果をみると、実験をしたグループのうち正しいと思える解答をしたのは%強、フイル ムをみた方のグループでは%程度の人が正しい解答を出した。このことから、テレビなど から受動的に学ぶことはできるが、器具を使って結果を出してその結果から自分たちの知って
いる法則なりを使って考察していくことが苦手な学生が多いことがわかる。これも、これまで の実験を伴う学習経験が少ないせいかもしれない。 電流計や電圧計の使い方がわからない者 や、電池と豆電球を使って自分たちが作ろうと思う回路図は書けても、それを実際に作れない 者もかなりいた。計器のしくみがわからないためであろうか、誤った使い方をして針がふれな
かったり、数アンペアも電流が流れているのに豆電球が光らないと云っては首をかしげている 者もあった。
ビデオフイルムのあらまし(約15分)
学生をモデルにして、実験をしながら解説を加えるという形式で次のような流れに従う。
○ 豆電球のつなぎ方には直列つなぎと並列つなぎとがある。それぞれのつなぎ方で明かるさ にちがいが生じるのをみる。
○ 豆電球の両端の電位差と豆電球を流れる電流値とを調べて明かるさとの関連をみる。
○ 図1の回路でA、Bの豆電球は直列つなぎだから流れる電流の大きさは同じである。明か るさにちがいがあるとすれば、2っの球の抵抗値のちがいによる。このことは、A、Bの両 端の電位差を測りオームの法則を使えばわかる。
○ 同じ豆電球については、それを流れる電流が多ければ明かるくなり、少なくなれば暗くな ることをみる。
○ 豆電球が光るのは、フィラメントに流れる電流の発熱作用によりフィラメントが高温にな り光を発する。明かるく光るということは豆電球から放射する可視領域の光が増大すること であり、そのときには、豆電球には明かるさの弱いときより多くの電気エネルギーが供給さ れていることになる。A、Bの明かるさにちがいがあるなら、ジュールの法則により明かる い光を出している球はより多くの電力を消費していることになる。
(III) 手作り教具の試作と今後の課題
実験などを通して説明するかわりに、テレビやVTRを使用することは、児童生徒たちの教 科内容に対する理解を助けるはや道であり、教室でもかなり利用されていることはよく知られ ている。しかし、それが理解を助ける一手段ではあるけれども、子供たちにとって、テレビや VTRを通して学習したことは単なる知識として記憶するだけに終っているのではないだろう か。実際に計器や道具を使って行なう実験やそれらの結果から何かをみつけ出すことなどはフ イルムを使った学習から身につけることがむずかしいように思える。大学生に対しても同様で はなかろうかと思う。
また電流計や電圧計のしくみに関することが教科書にないので、計器に対する親しみのよう なものが薄いようで、自分たちの習った知識と身のまわりの道具や現象との関連についても関 心がうすいように患える。そこで、理科が教室内だけの学習に終らないための一方法として、
2)
岡崎良吾先生のご指導のもとに手作り教具(電池ホルダー、可変抵抗器、電流計etc)の試作 をしてみた。写真1に市販の電流計と私作のものを示し、写真2には私作の道具による豆電球 の明かるさに関する実験例を示す。
これらを使えば、メーター等のカバーもなくしくみをじかに目で見ることができる。そして 日常生活で使われている電気機器への関心もわくのではないかと思う。けれども、同一精度の 器具をいくつも作ることはかなりむずかしいので、まだ試作のみに終っている。しかし、時間
が許すなら我々の身のまわりにあるものを使って教具を製作し、それらを使って学習をするこ はサイエンスを考える上でいい経験になるだろうと思う。
計器のしくみもわかり、豆電球の明かるさと回路を流れる電流との関係はみつけ出せたにし ても、なお問題は残る。小学校の教科書では電流とは電気の流れであると記されている。では
3)
「電気」とはいかなるものなのであろうか。東氏の指摘にもあるように、電気という言葉は日 常生活において多義的に使用されており、電気という概念は必ずしも自明なものではない。
が、「電気」ということばが電気現象を担う実体そのものを意味するものとして使われる場合 があるため、このことばのもつ内容を明らかにしなければならない。東氏は「電気現象を担う 実体についての理解抜きには、正しく電気現象を把握することは困難である。だからこそ、電 気という概念を明らかにしていく作業が、電磁気の指導においては必要となる」と述べている。
ではその概念を正しく理解させるにはどうすればいいのだろう。(II)の調査によってこの 概念をしっかりつかめていないと思える学生もあることに気がついた。豆電球の明かるさと電 流との関係をみるのみでなく、諸々の電気現象と電荷の存在およびその移動との関連において も十分理解して欲しいものだと思う。たとえば、電流を電気を帯びたものの流れとしてとらえ
るためのモデル実験に関して中田氏らの報告がある。これは、「ろ紙に電解質溶液を浸したも のを導体にして、その上に過マンガン酸カリウムの粉末を散布してろ紙の両端に電圧をかける」
という方法を使う。すると、過マンガン酸カリウムの粒子は一部溶解して負イオンになりろ紙 の上を電解に沿って移動する。30秒程度通電した後電源を切り、ろ紙の上に約1%程度の過酸 化水素水をかけ、過マンガン酸カリウムのイオンを二酸化マンガンに変化させ定着する。その 後水洗し乾燥させると写真3のような粒子の流れをみることができる。この方法は電流の発熱 作用のモデル実験にも使える。
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写真3(文献4より)
このように先輩諸氏が教育の 現場で苦労している面と、それ らに対する工夫やよりよい指導 方法とを学び、またどのように すれば児童生徒にも「電気」と いう目に見えないものに対する 理解を深める学習ができるかを 学生と共に考えていきたいと思 う。それには、教育の現場で活 躍しておられる先生方との交流 を深めることも大切であると考 える。教育実習期間中に理科の 各単元に関して深いところまで 学習するには時間が足りないと思うので、学生が先輩の先生方と研究会なり学習会なりを通し て学んでいってくれることを願うものである。
ビデオフイルムの製作に協力していただいた御所中学校の達本吉胤氏に感謝申しあげる。フ イルムは本学工学センタースタジオで作製した。
引 用 文献
1)永田四郎:小学校理科学習に関する一調査、奈教大教研紀要、Nn13、1977。
2)奈良教育大学理科教育研究会:「電解によるアボガドロ数の測定」のための装置一式の自作及び実験、
1979年9月〜12月例会。
3)東徹:小学校理科「電気」について、物理と教育、Nn6、1979。
4)中田哲史・横田穣一:新しい理科の指導例とその補助教材、物理と教育、Nn6、1979。