奈良教育大学学術リポジトリNEAR
ランタンイオン共存下の硝酸イオンのポーラログラ フ還元(還元波に及ぼす水素イオン濃度の影響につ いて)
著者 村上 光博
雑誌名 奈良教育大学紀要. 自然科学
巻 16
号 2
ページ 1‑8
発行年 1968‑02‑29
その他のタイトル Polarographic Reduction of Nitrate in the
Presence of Lanthanum ion (The effect of pH)
URL http://hdl.handle.net/10105/3194
ランタンイオン共存下の硝酸イオンのポーラログラフ還元
(還元波に及ぼす水素イオン濃度の影響について〕
村 上 光 博 (奈良教育大学化学教室) (昭和42年9月30日受理)
Polarographic Reduction of Nitrate in the Presence of Lanthanum ion (The effect of pH〕
Mitsuhiro MURAKAMI
(Department of Chemistry, Nara University of Education, Nara, Japan) (Received September 30, 1967)
In the presence of La , nitrate gives a reduction wave rising abruptly at ‑1.4‑
‑1.7 V vs. Hg poo王in a neutral or weakly acidic solution (pH value not less than about
3.5). In an acidic solution (pH value less than about 3‑5). it gives, prior to the one mentioned above, another wave having E^盲value ‑1.25‑‑1.35 V vs. Hg pool.
The addition of H十causes an increase in the height of the preceding wave to a
certain limiting value that corresponds to the NO3 concentration. The limiting hei一
ght of the wave is lineary proportional to the NO3 ranging in concentration from 1.0Xicr4 M to i.oX10‑2 M.
The least H十concentration, that is necessary to make the wave height get to the
limiting value corresponding to the NO3 concentration, is also proportional to the N03 concentration (the ratio is 3 : 1).
It seems to the author that these facts must have had a significant meaning to the
mechanism of the polarographiぐreduction.
緒 音
陰イオンのポ‑テログラフ的定量の研究の一環としてNO3一のLa3十による接触還元の波を検 討した N03が高荷電の陽イオンの共存の下で電解還元される事は, S. Prat, J. Ruzickaの研 究(1928)以来数多くの研究が有りし 2).(3;.(4ノ,その電極の反応及び接触還元の機構についても 種々の論議が行われている.しかしいづれの場合に於ても,反応はkineticなもので,波高の濃 度依存の直線性は極く狭い濃度範囲にしか見られず,特に波高が溶液のpHに極めて鋭敏に影 響されることが指摘されている La3+による還元波では,溶液中の水素イオン濃度によって波高
1
村 上 光 博
のみでなく披)酎こも著るしい変化が起り,波高値の再現性も充分でないので,この点について換 討したのである.
実 験
ポーラログラフは柳本製作所PA‑102を用い,基礎液としてKCl lM, LaCl3 10 2Mを使い, これにKNO,を1.0×10‑ ‑1.0×10 2Mに加え, HCl, NH3を適宜滴加してpHを調整し,非 緩衝状態のままで水銀対極で測定を行った.試薬はそれぞれの特級試薬をそのまま用いたが, LaCl3‑7H2つば和光純薬工業の一級試薬を,希HCl溶液から一度再結晶したものを使ってい
る.またポーラログラフと並行して日立掘場製のガラス電極pHメーターでpHの測定を行っ ている.水銀滴下極は水銀圧490mm 25oCでm‑1.5i mg/see.丁 =2.86sec.で温度は25.0±0.1
oCにした.
1)波形とpH
L乙3+の共存に於て NO,のポ‑ラログラフは共存するH+濃度によって3種の渡が消長して いる NO3濃度のかなり大きい時と,比較的小さい場合の代表的なものを第1図に示す.波は
/
! si
第1図
‑1.3V対水銀池,付近とこれに続く‑1.4‑1.7V対水銀池,付近に現われる第2波と,この2 波の車間に橋渡しに生ずる第3波とで,この3枚が溶液中の水素イオン濃度に依って隆替する.
弱酸性乃至アルカリ性溶液(pH8以上になるとLa(OH)3の析出を伴なう)からは, ‑1.3V付 近の第1波は殆ど消滅し‑1.3‑1.7V付近に急上昇(abrupt jump)する"上に凸な''披(第2 披)が大きく現われ, KolthofF>等の紹介しているものはこのものと思われる.次にH十濃度巷 段々大にして行くと, ‑1.3V付近に第1波が先行して立上り,この第1故はH+濃度の増大と 共に次第に高くなり,これにabrupt jumpの第2波が続くが,この両波は前駆故と主波との関 係に似て,両波高の和はほぼ‑定借に近い状態が暫らく続く.更にH+濃度が増すと,第1波と
i>H2.72 PH2.61 第1渡Gb 第1渡db 弔:**c ホヱtfcrf 第3竣bC
pH 2.50 pH 2.43 pli 2.36 pH2.5O pH2.4 pH2.36 pH2.50 打 pH2.36 (IH2.50 1214 pH2.36
第2図
算2波の連続がabruptでなくなり,新たに中間の披が出現したかのような感じになり,今迄の 上に凸な第2波は中間に現われた第3波の終末部に小さく続く波になってしまう.この第3故は H十濃度の増大と共に急激に長大となるから, H十の還元による波と考えられるが,この波高が充 分大になると第2波は第3波の後定常部分に埋没した形になって見別け難くなってしまう.第3 紋が現われ始めると第1波の成長は止って極限値に達したように見える.
第2波のabruptjumpはNO,濃度の余り大でない時は,弱アルカリ性になると再び滑らか な上昇となる(第1図D)が,これは前駆波の出現ではなく, Ko】thoff^がNaOHの微量の添 加によりN03 の波のabruptjumpが消失して通常の波形になると指摘していることと符合し ている.また波が次第に正側に移って行くことも見られる.
2)波高とpH
NOa 濃度を‑定に保ってpHを轟々の債に調整し(非緩衝溶液)て測った波高の数例を次に 示す.
このそれぞれのIl (第1波の波高)の値をpHに対してプロットしたのが第3図(図には他の CNO3 〕に於ける実測も含めてある)である.これによると各々のNO,濃度に於て第1波の波 高はH十濃度の増大と共に次第に大となり,一定の極限値に達することを示している.またこの 極限値に達した時のpH値とNO3 濃度との問にも一定の関係の在ることを予想させるが,こ れを示したのが琴4図である.即ち各々のN03濃度に,この時のH+濃度をプロットすると原 点を通る直線が得られる.各N03濃度では,それに比例したある一定のH+濃度以上の酸性で は波高は最大となるのである.
この表のI2値は前述の第2波の波高であるが,第3波の波高も含められている.この時の第 2波の極めて小さくなったものが観測されたのをI3で示してある. ((422))
種々のNO3‑濃度の時のIlの極限値を次に表示する. 〔iBとして示した)第5図はこれをプロ ットしたものである. (○に対してはi値は10倍したものを対応させる)
村 上 光 博
(3ォ) : 〔NO了〕‑6.67×10‑3M (310) : CNO了〕‑1.00xl0‑3M pH 第1披(Il〕pA第2枚(12)/;A pH 第1披(Il)第2披(I2)
3.29 2.00 100.6 2.60 16.6 90.6 .30 39.6 79.4
・13 49.8 74.4
・02 61.6 73.2 1.98 74.8 73.2 86.6 72.8
・78 96.4 72.4
・72 104.8 74.6
・66 107.4 84.8
・54 109.2 94.4
・42 112.0 130.4
・28 109.6
(3*9 : 〔NO3 〕‑4.44×10 3M pH
3.29 1.2 90.4 2.30 38.4 62.0
・02 60.2 63.0 l.f 70.8 62.0
・72 71.8 64.8
・63 72.0 86.0
・49 71.2 162.6 .31 70‑6 228.2
3.40 2.7 27.7 2.59 14.0 15.2 .31 16.5 26.7 .16 16.8 44.1 .03 16, 60.5 1.83 16.4 S.7 .69 16.6 136.1 .60 16.3 169.4 (422) :〔NO3 〕‑2.22×10‑4M
pH Ii 13 3.30 2.70 10.60
.03 5.32 8.08 2.1 6.46 2.82 .62 6.74 9.92 .46 6.42 17.12 .22 6.72 40.32 .09 6.52 61.0
.;
( D 0 0 0 0 M
<m oo to co
Th i
‑) i
‑H <
N
(4io):〔NO3 〕‑1.00×10‑4M
pH Ii
3.62 0.89 1.56 .50 1.05 1.28 .39 1.45 3.16 .19 1.51 3.43 2,97 1.62 7.34 82 1.55 11‑65 60 1.67 15.50
各〔NO3‑¥1に於けるLlとpH'
2 3 4
第3図
第1波の適当pHに於ける極限の波高を採る時は, iCの濃度依存性はNO3濃度の1.0×i0‑
へ1.0×10 2Mの範囲に亘って極めて良好である.
第2波の波高I2は,前述の様にH十の還元によると思われる波と重畳して来るので,或る極 小値を経て再びH+濃度と共に大となると云うことが見られるのみである.しかし,第1波が現 われていて第2波の披高が第1波のそれを凌駕している状態であるなら,第1波のIlは極限値 に達していると考えてよいようである.
考 察
1) NO3 濃度の測定に第1波のieを利用してよいと考える.Tokuoka,ォKolthoff(3)に依れば,La3+
によるNO3‑の波の濃度依存性は,精々で2.0×10‑ 1.2×1CT4M位の濃度範囲で.*蝣//〔Ncvn の値も4.75×10 4Mになると先の範囲の平均値の20%近くも小さくなり倒底直線関係と云い難 いが,上述の限界値をとれば NO3 濃度が10‑2Mになっても殆どie/〔NO3 〕値は一定値である.
但しNO3 濃度が余り大となると,これに相応してH+濃度を大にすると,電極の水銀の滴下が不
pH
i.:肺三 CNon
o 'NO,"〕×10 SM J 〔NO;〕×10"M
〔NCVDM ie MA
1.0 xI0‑2 167.
6.67×i0‑ 109. 6 4.44 〝 74. 8 3‑33 〝 57. 2 2.22 〝 37. 8 1. 0 〝 16.84 7.50×10‑ 12.56 5‑62 〝 9.60 4.22 〝 6.74 2.11 〝 3.38 1.05 〝 1.77
生になって完全なポーラログラフを得難くな る.
共存させるLa3+濃度も NO3此度の数10 倍はないと,波高が過小な値になると云うこ とであったが,これも NO, 濃度10‑2Mの 時はLa3十濃度と相匹敵した値であるが,そ れでも良い値の還元波高が得られている.
H十濃度がNO3 濃度の3倍以上になる迄は H+の還元政は現われず,N03のそれが濃度 に比例しない波高で現われる La3十の接触 によりH+もNO3 と共に還元していると思 われる.H+濃度が充分飽和すると,N03 の拡 散速度が反応を律速し,またH十の過剰分が 第3汝として還元波を生じている.即ち第3 波が充分発達している時の第1波高は,NO3 濃度によく依存しているのである.
第2姐は, Kolthoff等が6電子還元の接触 波と説明したもので, H+が還元波を生ずる ことなく NO3‑のみがLa3+に接触されて還
・i 卜)蝣>:n0,‑I :h‑一蝣I./
ie/〔NO3ー〕 /(A/mM
16.78 16.46 16.84 17.17 17.19 16.84
]2
16.74 17.08
呂
15‑97 16.02 16.85
';T>鯨附こ達Lた時の〔H*Jと〔NOI〕
第5図
r' 〔 NOI〕X 10‑I
6 村 上 光 博
元している波と考える. H十濃度が小さい時はこの型で還元されるNO3 のみとなるが, H+が 多量共存している時はもっと還元され易い第1波の型の還元が起り易いのであろう.
iL/〔NO3‑〕の値及びNO3 の拡散定数を25‑Cで当量伝導度より導いた値D0‑1.92×10‑
cm"1see‑ をIlkovicの式に代入すると,滴下極についてのm, Tの値は前記であるので
1 2 1 2 1
^‑605nD2 Cm盲t^‑KC ∴K‑iV〔NCV3‑16.84‑605×V19.2×io‑ ×1.5P X 2.86首xn
‑4.01n ∴n‑4.21
を得る Kolthoff<サによれば(このiLは第2汝が単独に現われている時1‑弱酸性乃至中性からの 披‑の値であって上記のIlより常に大きい)iC値が少し大きい値になり,従ってKの値も大き く, n‑6.1を得て,この時のN03 の還元を6電子還元としているが,今回の第1波によるiC からはn‑4.2でNO,のみの還元ではこれは考え難い.電子の幾分かまたは大部分がH+の還 元に消費されるものと考えねばならぬ.
2)第2波の性格はKolthoff等の指摘のようにNO3ーそのものの多電子還元である.これに比し 第1波は,波高の温度係数,水銀圧変化の影響の測定よりして,第2波よりも更に非可逆の反応
I 0
iE値の水鋭圧による変化 1311 {蝣AII)'
譲ごd
‑r一一一‑(.1¥.I!
5‑ 6"' 7" 8‑ 日 珂
10
i,i巨の濫度変化
r二二二二二二(4 Cd、ノIl
in au 、与.0 T T二、.
rwir/MHZr:,
第6国
電流的性格が著るしい. (第6図)ではCdZ÷の10×10"*Mの波と比較して示してあり. G30.C45) の記号はそれぞれ〔NO3 〕 =1.0×10"3M, 〔NO3 〕 5.0×10 4Mを意味している.
Il, I2の値をとり,第1波,第2波のIogi /{ii‑i)を電位に対してプロットすると第7図を得 る. 2例だけであるが,第1波ではほぼ直線を得るが,第2枚ではどの場合にも直線は得られな かった KolthoffもLa3十によるNO3‑の還元波ではこのlog‑plotは直線にならず, uo22+によ る時は直線を罷 この傾斜より得るnの値厄1であったと云う. (見かけ上は‑電子反応と云う 訳である).第1披からのnの値は大凡0.5となり,単なる拡散電流ではないと考え得る.
Meites〔4)はLi+, Ce4十によるNO37の還元波について, H+‑ Hが主反応で,水素の過電圧を接 触的に変化させる水素波であると述べているが, La3」‑の第1波の場合がこれに当ると思うが,極
LE
log, ‑‑7
‑1.0 ‑1.2 ‑1.4
‑1.6
V( vsHg.pool ) V( vsHg.poot)
第7図
限値をとることより前記のようなHNO,TJ Laによる集団乃至結休の生成を電極釦こ仮定 したい.
3)NO3"の高荷電陽イオンによる接触還元の多数の例を見ると,これらはいづれもかなり後放 電性のイオン群で,荷電数により還元波を生ずる電位は一定している点よりして類似の機構によ るものと思われる.即ちそれらのイオンが単独に還元される電位よりかなり正側にNO3 の波を 生じている.所がUOa2+による場合,或はCrm鍍体による場合(6)またCom錐体,Cr(CNS)63つこ 於ても見られるのであるが,これらの還元は紐体が単独に還元披を生ずる電位にNO,の接触 作用による"エギザルテ‑ショ./"のような型で高い波を生じている.田中・伊藤(6)はCrl鑑体 の例について,結体が電極反応で還元された低酸化数状態の生成物が,二次的にNO3 と反応し て酸化され,再び電極反応を受けるのであると云う機構を説明してい'る.(この際N03の還元 生成物も勿論生じておりNH,OHを見出している)しかし,La3十の場合,La3+単独で還元され る電位より造かに正側にずれているのでこの型の機構を当て難いのであるが,反応生成物等の検 討を行っている.
結語
NO3ーの定量にLa3+の接触作用によるポ‑ラログラフを利用することを検討し,充分酸性の状 態から行えば‑1.3Vvs.Hgpool付近の汝を用いれば,広い濃度範囲1.0×10‑1 4.ox10‑2M
亘にって良好な濃度依存性の有ることを見出した.またこの時の還元波は水素イオンの還元が主 となる反応電流である事を推定した.この研究に当り,終始懇切な指導助言を頂いた広島大学教 養部今井日出夫教授にあらためて厚く感謝する.
この研究の要旨は口木化学全第20年会(1967)に於て講演発表した.
00
村 上 光 博
文 献
(1〕 M. Tokuoka; Collection Czechoslov, Chem Communs. , 4 444 (1932).
(2) M. Tokuoka, J Ruzicka; ibid. 6 339 (1934).
(3) I. M. Kolthof, W.E. Harris, G. Matsuyama;/. Am. Chem. Soc, 66 1782 (1944〕・
(4) L. Meites; ibid, 73 4115 (1951).
(5〕 J.Collat, J.J. Lingane; ibid, 76 4214 (1954).
(6) N. Tanaka, T.Ito; Bull. Chem. Soc. Japan, 39 1043 0966).