奈良教育大学学術リポジトリNEAR
舞踊表現能力の発達に関する研究 ―表現内容と動 きのリズムについて―
著者 小黒 ウタ
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 17
号 1
ページ 187‑208
発行年 1969‑02‑28
その他のタイトル A STUDY ON THE DEVELOPMENT OF EXPRESSION ABILITY THROUGH DANCE ―CONTENTS OF THE EXPRESSION AND MOVEMENT RHYTHM―
URL http://hdl.handle.net/10105/3185
187
舞踊表現能力の発達に関する研究
‑表現内容と動きのリズムについて‑‑
小 黒 ウ タ (体育学教室)
は じ め に
『人間の身体がなすリズミカルな自然運動で我々の思想や感情を美学的法則によって表現する もの』が舞踊であり、舞踊の本質である。Cl)この舞踊を人間形成という教育目的を達成するため の手段方法として、現在は体育教育の中の重要な一分野として行なうO舞踊のもつ特性の上にた って、表現(舞踊創作)の学習過程で、望ましい人間になる為の心身の諸能力を育成し発展させ ようと意図するのである。すなわち機械文明の現代社会において憧界的に待望されている創造性 や美的情操を豊かに育て発達させることができるばかりでなく、健康であかるい表現的な身体を つくり、高いリズム能力、空間形成能力、即興能力、豊かな表現力や審美能力を育成することが できる。 C2)
いきいきとした舞踊表現、観照者たちに鮮明に印象づけ強い感動を与える舞踊表現にはいろい ろの条件があると考えられるが、その中で身体運動によってつくり出される動きのリズムにその 魅力や魔力のかぎがひそんでいる場合が多いり 身体運動形式や空間運動形式が良くても、それら の運動の中にひそむ、リズムを生みだす母体であるリズムパターンRhythm Patternが悪いと 面白さや快感を伴なうリズムが生れてこないばかりでなく、舞踊作品もはつらつとした生命力を 失ってしまう場合が多い。
主題のなにを表現するか、の表現内容のとらえ方により、その舞痢表現運動(身体そのものの 運動と身体のなす空間運動すなわち移動運動)は無限で、種々試行されるが、その舞踊表現運動 を通してのみ動きのリズムは出現し、感得され、快感をもたらし、観照者を魅了する。 h:動きの
リズムは舞弼芸術にとっては赤い血が絶えず流れる動脈のようなもの、とは舞踊芸術家の言(3)で ある。脈々と血の通う生命力のあふれる舞踊作品を構成する為に、動きのリズムの研究は欠くこ とのできない重要なものである。ここに動きのリズムおよび動きのリズムの内在する舞踊運動の 動因としての表現内容研究を意図した。
ここに使う実験資料は、前に私共有志の研究者たちが「舞踊表現能力の発達に関する研究」と 題して(1)生活調査、 (2)環境調査、 (3)言語表現、 (4)絵画表現、 (5)体格・健康状態、 (6)運動能力、 (7) 舞踊表現、 (8)性格、態度の観察(言語・絵画・運動・舞踊表現を通して)の各項目について共同 で調査実験をし既にその結果を発表し、報告(日本体育学会全国研究大会口述発表ならびに日本 体育学会編著の「体育学研究論文集」に掲載)したものの一部であるが、さらにその折の実験資 料について、ここに意図した観点により表現内容および動きのリズムに検討を試みたのでその結 果について報告しようとするものである。
188 舞蹄表現能力の発達に関する研究(小黒)
I 目 的
教育としての舞踊は、小学校ではリズム運動、中学校・高等学校ではダンス、大学では舞踊ま たはダンスとよび、体育教育内容の一つとして人間形成を目指して行なう。体育教育におけるリ ズム運動、ダンスの内容は指導要領の改正に伴い種々変化を重ねて今日に至った。その内容の一 つである「表現」は戦後新しい時代や社会の要求により指導要領にとりあげられたもので、実施 にあたり今なおいろいろの問題がある。たとえば心身の発達に伴って表現能力も発達するものと 考えられるが、何才の子どもにどの程度の表現内容や表現技能(リズム、空間、フォルム、形 式、その他)を取り扱うことが適当であるか、またどの程度まで出来なければならないかという
ことになると現在の段階では漠然としていて明らかでない。この問題が解決できれば表現の基準 がはっきりしてくるので子どもの発達段階に応じた教育が行なわれ、今迄主観的に陥る傾向のあ った評価も出し易く、正しく評価されることになる。そこで表現の基準となるものを見出すこと がすべての問題を解放する根本であることを痛感してこの問題をとりあげた。
ここでは、主題も風、を踊る時、とらえられた表現内容(モティフMotif)およびその舞踊表 現運動の中に兄い出される動きのリズムの発達の様相や男女の差異を把担し、舞蹄表現の基準と なるものを見出して発達段階に応じた的確な表軍学習指導を行なうことにより教育の効果を高め るための資料にしたい。
n 問 題
1・主題も風毎を踊るとき、 u)児童・生徒のとらえる表現内容に発達的傾向を示すか(2)性差 はあるか。
一・ I 、 、 ・「 ・ . ・ ・‑ ・ ‥ ‑一・I iT・
発達的傾向を示すか(2)性差はあるか、
Ⅲ 研 究 方 法
数者
験人被
a
l⊥ 午4: i r21
CO L O
¥n i d
男女午2
校尊
/
中学校 1年
要訟1216年要63)1?7 64)1Z/小.中.
要66) 74)1402年要681 76!年若66) 72)138合計
夏雲S"銘
b.被験者の選び方
全学年を被験者にしたいと噸ったが、実施が困難な為に小学校は2、 4、 6年とした。
男子は指導要領においては小学校のみにリズム運動として実施されているが、中学では実施 されていない。しかし舞踊表現は人間共有のものであるので男子も被験者に加え実施した。
被験者については次の観点により摘出した。
○リズム運動、ダンスの指導計画を調べ、普通に行っている学校.
琴埠表現能力の発達に関する研究(小黒) 189
○知能、運動能力、態度、性格を調べ、担任と相談して中等程度のものを選んだ。
〇校種別に 同じ学校の児童・生徒を被験者とした。
C.被験者の分布領域
北海道札幌市、岩手県盛岡市、山形県山形市、新潟県高田市、長野県長野市および上田 市、埼玉県大宮市、茨城県水戸市、東京都武蔵野市および豊島区、神奈川県横浜市、静岡県 静岡市、愛知県安城市および小牧市、奈良県奈良市、岡山県岡山市、広島県福山市、熊本県 熊本,lr
2.調査実験期日
小学校 昭和35年7月〜同年8月 中学校 昭和36年6月〜同年8月 3.実験方法
6m 体育館の床に左図のような矩形を書き、この車で誰にも見ら l れないようにして被験者を1人づつ導入し、主題も風、を与え L て踊らせ、主題を与えてから踊りはじめるまでの反応時間と、
踊りはじめてから踊り終るまでの踊っている時間を計測して記 録しー踊り終ってからすぐに表現内容について内省の報告を求め記録した。また踊ると同時 に動きに現われた時間的なものをリズム譜で速記した。なお踊りはじめてから30秒間の動き を8ミリ撮影した。
Ⅳ 結果 と 考 察
1.主題も風、の表現内容(モティフ)
主題、風、を踊るとき、 (1)児童・生徒のとらえる表現内容に発達的傾向を示すか(2)性差はあ るか。の問題について、 (1)発達的傾向を示すであろう(2)性差もみとめられるであろう、との予 想をたて、次の各観点により分析解明をこころみた。
V 1:13 、里、 LTl夫IW;<s│'吉について
内省報告の記録により、主題、風勺の表現内容を分類、整理して、表1、図1、の結果を 得た。その内容を大別すると も吹いているところqk というような不明確な漠然としたとらえ方を
して踊っている者と、内容を明確にとらえて踊っている者とに分けることができる。漠然とした とらえ方をしている者は、校種別に学年上昇とともにしだいに減少しているが、小中学校を通し てみると予想に反しているようである。小学校2年、 4年、 6年と表1、図1で明らかなように しだいに下っているのに申1になると、また多くなっているのは、感情情意の発達の断層であろ うか、小学校の最高学年で自覚と優越的な誇をもっていた6年生から中学生の最下学年となった 心理的解放感や退行現象によるものであろうか。何れにしても小学校でリズム運動中の表現学習 経験の浅深度合が相異している者の集りである為の原因は否めないものと考えられる。
表現内容の明確なものの内容をみると、表1ー図1でみられるように、風そのものをいろいろ な姿でとらえたものすなわち風の性質、情景、感覚、感じ、思想、その他に分類することができ た。風そのものでは もはやい風、 §ゆっくりとした風、毎速さに変化のある風§ Qt渦巻風、など 風の性質を運動として現わし易いようなとらえ方をして動いている者が多く、その中でとくに ヽ
190 舞踊表現能力の発達に関する研究(小黒) 表1 主 題、風、 の 表 現 内 容
‑;r‑
性
殊 女男女
そ の 他
男 4 6 .3 1 1 .5 0 0 4 6 .1
女 2 3 . 1 0 0 1 1 .3 o 2 .8
4 .3
学 年 6 4 .7 ! 1 0 .7 1 0 .7 6
舞踊表現能力の発達に関する研究(小黒) 191
強い速い風、は小・中学校の男女児童・生徒ともに多い。敏捷性の時代といわれる小2を最高に 学年上昇にしたがってとらえている率はしだいに少くなっている。しかし他の内容に比べ小2‑
32.53?、小4‑27.35%、小6‑22.* 、中1‑20.096、中2‑20.1^、中3‑13.896と高率を示 しているO 身体発達の旺盛な、活頑な運動要求の時期でもあり当然の結果であろう.これについ で風の性質の中では、男子は渦巻風を、女子は、そよ風、 、ゆるやかに吹いている風、などのゆ っくりの風をとらえて表現しているものが多いが、これは男女の‑般的性格特性による要求から の現象であろうと考えられる。また も冷い風、 、やさしい風、などのように感覚や感情をともな ったものや、 、浜辺の風、 、東の方から吹いてくる風、 §秋のこがらし、などのように場所や方 向・季節をともなった特殊な風を内容としているものもあるが、共に数が少ないので発達的傾向
も男女の差異も明らかでない。
風の性質的な表現内容についで多い内容は も木の葉を舞い上げる風、も木の葉を散らす風ヽな ど情景を内容としたものであるO これは小・中学校を通して学年上昇につれ小2‑17.1%、小4
‑18.2#、小6‑19.796、中1‑27.9S中2‑27.851?、中 qo co/、としだいに多くなって居 り、その傾向はとくに男子に顕著にみられるO (小2男‑is.; 中3男‑12.4 、小2‑18.5
%〜中3女‑23.630。なにごとに対しても男子は比較的に全体的綜合的把握を、女子は比較的に 部分的把捉をする傾向があるといわれるが、ここにもその傾向が見られるのであろうか。
当ヒ風の寒さ、というような感覚や、 §そよ風のさわやかな感じ、というような感じ、 、風は 自由にとび廻れる、 、自然の力(風)には勝てない、というような思想など、内面的抽象的な内 容をとらえて踊った児童・生徒は0.796‑3.6%と大変少なかった。未分化から分化へ、組織化や 深化へ向って育ちつつある精神発達の過程にあるこの時機の段階では当然の結果と考えられる が、男女を比較してみると女子に比べ男子の方が僅かに多い傾向性を示していると考えられる。
以上表1、図1、の結果から、分類項目内容により相異はあるが、概して児童・生徒の発達特 性の上にたって、僅かな巾をもちつつ発達的傾向性を示しているものと考えられるが、明確なこ
とは云い得ない。表現内容のとらえ方の男女差については、小学生では、男子は漠然が女子より 多く、また風の性質の中、ほやい風、渦巻風が女子に比べてやや多い。女子はゆっくりの風、情 景が多い。中学生では、男子は想像的・体験的・描写的なものが多いのに対して女子は内面的、
性質的なとらえ方が多く男女の差異が多少みられる。
舞踊表現にふさわしい表現の可能性をもった内容を選択する能力は、舞踊の経験と結びついて 発達するもの、と考えられるが、このことについては今後の課題である。
2)主題Qt風、の表現内容の複雑さについて、
とらえた表現内容の複雑さについてみると、表2、図2、のとおりである。単純なとらえ 方をしているものの方が全体に50%以上の高い率を示し̀複雑は低い。しかし学年上昇につれて 単純な把趣は次第に減少の方向に向い、複雑な把握は反対に次第に高くなっている。これは予想 通りの傾向性である。男女を比較してみると、単純把捉について女子は発達につれ校種別に減少 傾向を示し、複雑な把握は校種別に上昇傾向を示しているのに対し、男子は小学生では女子と同 じ傾向を示しているが、中学生では1年生で単純、複雑が急減・急増し、女子とは反対の様相を 示している。このことについては判然としないので残された問題として今後の解明にまちたい。
3)主題、風、の表現内容の部分的および全体的なとらえ方について、
表現内容のとらえ方を部分的把握と全体的把握とに分けてみると、表3、図3、のとおり
192 舞踊表現能力の発達に関する研究(小黒〕
図1.主題も風、の表現内容 表2 主題も風、の表現内容の複雑さ
\ 学 年
\、.性N % 項漂
小 2 小 4 小 6 中 1 * 中 3 N 〜穆
N % 〜
N % }
回 0/0
N % N %
複 雑
罪 13 2 2 .4 17 2 9 .3 2 0 3 1 .7 3 2 5.5 2 4 3 5 .3 2 5 3 7 .9
女 16 2 4 .6 2 1 3 3 .3 2 4 3 7 .5 2 0 2 7 .0 2 3 3 0 .3 3 1 4 3 .1
学 年 2 9
I
2 3 .6 3 8 3 1 .4 4 4 3 4 .6 5 2 3 7 . 1 4 7 3 2 .6 5 6 4 0 ‑6
であるo h鳳の吹くところ、もやさしい風pなどのような全体的綜合的なとらえ方に50%以上の 高い率を示している。学年上昇にしたがって次第に低い率を示し予想に反するような現象にみえ
るが、これは低学年になる程も風の吹いているところ、という漠然としたとらえ方を包含したか
舞踊表現能力
中 小 小 中 中
2 4 6 1 2
図2.主題ヽ風、の表現内容の複雑さ
小 中 小 中 中 中 学年
2 4 6 1 2 3
図3.主題、風、の表現内容のとらえ方(部分、全体)
らで発達につれ漠然は減少、
明確かつ質的に高いとらえ方 をしているものが内容になっ ている結果であろうと考えら れる。
も台風、など、全体的分節 的なとらえ方をしているもの が低い率を示し学年的発達は 考えられないO も浜の風、な どと部分的なとらえ方をして いるものが全体的分的節とら え方よりや、高い率を示して いるが、学年上昇により次第 に高い率を示す傾向にある。
これも小学校低学年では漠然 とした内容が多く、その内容 をこの分類では前記のように 全体的綜合的な項目内容に入 れて集計しているし、また主 題、風、の性格からも低学年 児童には部分的なものを明確 に把握できなかった故ではな いかと考えられる。
この観点項目での整理結果 では、全体として量的には予 想に反するような様相を示し ているが、分析のしかたや集 計整理上に問題があるし、主 題ht風、の性格上の問題もあ ろう。なお質的な面の追求が 必要であると考えられる。
4)主題も風、の表現内容の具象と抽象について
表現内容のとらえ方をさらに具象と抽象に分けてみると、表4、図4のとおりである。主 題ヽ風、の性格から目に見えないものを具象とすることには問題があると考えられるが、ここで は、強い風、も渦巻風、など風そのものを一応具象的な側面に、感覚、感じ、思想などを抽象的 な側面として分類した。表4、図4、でみられるように抽象に比べ具像ははるかに高い率を示し ている。学年上昇により僅かな減少が見られるが、僅かながらも発達的な傾向性が考えられる。
また女子が男子より僅かに高い率を示しているが、男女の差についてはあるとは考えられない。
しかし僅かな上昇傾向から一抽象一発達的傾向性のきざしは感じとれるし、質的な面の検討から
舞踊表現能力の発達に関する研究(小黒)
巴^^^^^^^^Ej^^^^^^^^H*]ロ
図4.主題、風、の表現内容の具象・抽象
表4 主題、風、の表現内容の具象・抽象
195
も同様なことが感じとれる。
以上、主題も風、の表現内 容について4つの観点から分 析し考察をこころみたが、こ の資料の整理にあたり、分類 項目設定の妥当性に問題があ ると考えられるので、この段 階では納得のいく資料を得る までには至らなかった。今後 さらに検討を加えて良い資料 にしたいと考えているが、こ の表現内容は次の研究内容
『動きのリズムパターン』を 内蔵する舞踊表現運動の動因 であるため、大まかな発達の 傾向性と性差の把握をした。
2 小 4 小 6 中 1 中 2 中 3
N N N % N ‑; 形
∫ ㍉
2.主題も風、の舞踊運動に出現する動きのリズム
主題も風、を踊るとき、 (1)児童.生徒の舞帝運動に現われる動きのリズムパターンの出現量 およびその内容に発達的傾向を示すか(2)性差はあるか。の問題に対し、その予想として(1)発達 につれ動きのリズムパターンの出現量を増し、その内容は量・質ともに発達を示すであろう(2) 性差も示すであろう。を考え、実験時の動きのリズム記録および8ミリで撮影したフィルム映写 観察により1)動きのリズムノヾターンの有無と出現量の状態、 2)動きのリズムパターンを有 するものについて、身体各部位の運動によって構成される相野的、単一、複合の各リズズムパタ ーンの出現状況と出現パターンの様相 3)それらリズムパターンの構造の完全さについて記録 分類し、分析解明をこころみた。
舞踊表現運動は、表現しようと意図する内容からひき出される。前述1.の表現内容で明らかに
196 舞踊表現能力の発達に関する研究(小黒)
されたように、主題も風毎の表現内容は、風の性質や種類すなわち も吹いているところ、 §そよ 風、 tt強い風、 、渦巻風、などや、情緒や感覚を伴ったものもやさしい風、毎冷い風、 、さらに 感覚や感じ、思想などの内容であっが、それらの内容を表現しようとする被験者たちの舞踊表現 運動は次の3種類に分けられた。
a.身体運動だけで表現するもの。
b.空間移動運動だけで表現するもの。
C.身体運動と移動運動の両方で表現するもの。
これら舞踊表現の運動を前述の観点により整理し、考察した。
〔註〕この動きの.)ズムに関しての対象は、主題も風、を与えた時舞贋表理を行なった者で8ミリフイルム に鮮明に損影されている者のみをとり上げ、不鮮明の分は省いた。したがって表現内容の被験者数とは 人数が相異している.
1)主題も風、の舞踊表現運動に現われた動きのリズムパタ‑ンの有無と出現量について、
〔註〕動きのリズムパタ‑ンを以下リズムパタ‑ンと略称略記する.
主題も風、で踊ったものについて、その表現運動の中に現われたリズムバク‑ンの有無を みると、表5、リズムパターン有の男女の発達様相をみると図5のとおりである。このリズムパ
: ‑ ∴ 二∵ 二.
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7 7
ント(表5)にもとづいて、角変換法による2 計 (悼)×6 (学年)の分散分析(4)を行なった。その
〜 結果表6で明らかなように2つの主効果がともに 表6 角変換法による2 (性) ×6 (学年)
の分散分析表
変動因 SS df X2‑SS/aw2
2 3 5‑寸 LO C:︑
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男 女(A) 252.9090 学 年(B) 194.2158 交互作用(AB) 137.4913
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2 7 2 9 9 2 J C C O f
LO ‑I CO
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計(群問 584.6161 ll
群 内 <nォ2 ‑16. 3242 K‑36070. 4640
有意であることがわかった。これは女子が男子よ りもリズムパターンの出現量が多いこと、および 学年によってリズムパタ‑ンの出現量がことなる ことを示すものである。表5を見ると、小学校で 出現量が多く、中学では少ないことがわかる。ま た性と学年の交互作用は有意でないので、学年に よって男女の出現率がことなるとはいえない。
以上を考察すると、学年的発達の傾向に関し、
中学生よりも小学児童にリズムパターンが多く出 現しているのは、小学児童の発達段階では、衝動 的といわれるような単純素朴な2拍子などの拍節的(拍子的)リズムパターンが多い割合で出現し
舞碗表現能力の発達に関する研究(小黒)
図5 .リズムバク‑ンの発達様相
197
ているのに対し中学生では拍節的リ ズムパターンが激減し、比較的長い 単一リズムバク‑ンや複雑な複合パ ターンを有する方向に、すなわち質 的に発達しているからである。
男女についてみると、図5で明ら かなように全学年を通じ男子より女 子に出現量が多いが、このように男 女の差がみられることについては、
女子は男子に比べ一般にリズミカル で軽快な運動を継続的に行なうこと を愛好し、幼児がキャッチボールな どに興味をもって遊ぶ頃から女児は 縄とび、まりつき、どむひもとび遊 びなどリズミカルで軽快な遊びや、毎かどめかどめ§ もたんすなかもち、毎あんたがたどこさ、
などの、わらべ歌を伴なう郷土的遊び(踊り)を経験していることなどが多いので、このような リズミカルな遊びを通して無意識のうちに自然にリズム練習を重ねてきたことの結果であろうと 考えられるし、また小学校体育時に行なうリズム運動についても女児の方が男児より愛好して行 なうので、ダイナミックな比較的瞬発的特徴をもつ力運動を好む男児にくらべ女児の方がリズム 感は発達していくのであろうと考えられる。中学においては女子はしだいに出現率が上昇発達し ていくのに反し、男子は逆に下降し退歩していくかにみられる。これは中学校の体育教材ウエイ トが男女によって異なり、女子には年間20‑2596のウエイトでダンス学習(学習内容は表現とフ ォークダンス)が行なわれるのに対し、男子の体育教材にダンスはとり入れられていない。相当 重いウエイトで積極的にダンス学習を行なう女子生徒と、全然学習経験の機会をもたない男子生 徒との問には、年月経過期間の増大とともに発達のひらきが大きくなることは当然の結果であ
・Vo
リズムバク‑ンを有していない者について言及すると、リズムパタ‑ンをもたない者は小学児 童より中学生に多い。その原因をさぐってみると、小学児童では、ただ単純に上肢や上半身を固 定静止させて、遅速、強弱、アクセントを伴なわない平板な歩・走・かるい眺による移動運動だ けでぐるぐるとひろくまたはせまく動きまわる者や、また平板な1拍1動作の運動を行なうので 動きがタクトにかえり、リズムパターンをなさないために、それはリズミカルではあってもそこ からはリズムを発生しない結果になる。学年が高まるににつれて相当複雑な動きが出てくるが、
その複雑な動きが不規則且つ断続的で、これまたリズムパタ‑ンをなさないという質的な相異 がある。 これは発達につれ、青年期前期特有なしゅうち心や精神発達による思考の深化や複雑 化により、頭に描かれたイメージ表現にあたり身体運動による表現テクニックの貧困によるアン バランスのためであろうと考えられる。男女についてみると、小学校・中学校とも女子にくらべ 男子にリズムパターンをもたない者が多く、その数は中学においてとくに著るしく、 2年・ 3年 は半数の50%を占めている。これは中学男子にダンス教材が課せられていないため、小学校期に リズム運動を学習した段階よりあまり進歩していないことや、青年期男子特有のてれくささなど の退行現象によるものであろうと考えられる。
198 舞踊表現能力の発達鞍関する研究(小黒⊥
2)主題、風、の舞踊表現運動に現われた動きのリズムパターンの内容とその様相につい て。
〔註〕●拍節的リズムパターンとは、拍節と同じ強弱関係をもつ1)ズムの原型。
●単一リズムパターンとは、 ①身体部位の1つ(上肢または下肢)が主になって他は従属的にな り、相互に影響し合わず単一なリズムに感じとれるl)ズムの原型O ⑧上・下肢それぞれが重要な運 動を行なうが、上下肢ともに同じ道動を行なうリズムの原型0
●複合リズムパターンとは、身体部位(主K上下肢)がそれぞれ同程度の運動を行なうが、それぞ れの部位が独立して独自のリズムの運動を行ない複合して複雑な一つのリズムに感じとれるリズム
唱ォJ.。
われわれ人間身体が上肢、下肢、頭、胴体の部位をもち、それらの部位がいろいろに関連 し結びつき合い、また別々な性質の運動をするようにできているため、各部位が諸々の関係にお いてでき上る様相がでてきているが、リズムパターンを有している者についてその内容を構成上
より拍節的、単一、複合、の3種のリズムバク‑ンに分類することができた。拍節的リズムパタ ーンは広い意味では単一リズムバク‑ンの不完全なものに包含されようが、アクセントの数や位 置が固定しているのでここでは独立させて分類したO これら3種類のパターンの出現量をみる とー表7、図6のとおりであるOリズムパターンの内容を検討するため表7の小学4年以上の各 表7 主題h風、の舞踊表現運動に現れた動きのリズム
パターンの内容 拍節的リズ
ムパターン
単一リズム パターン
% N %
複合リズム バク‑ン
N
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学年の男女をあわせた人数にもとづい てX2検定を行ななったところ、 X2‑
116,899、′ df‑%、 P <.OOlで有意と なった。すなわちリズムパターンの内 容は発達的にことなるといえる。これ を表7および図6でみると、低学年で は拍節的リズムパターンが多く、学年 がすすむにつれて単‑および複合のリ ズムパターンが多くなっていることが わかる。男女についてみると単一リズ ムパターンでは男子がやや多い傾向を 示し、複合リズムパターンでは発達に つれて多く出現している学年の殆どに 女子が優位している。これは女子のダ
ンス学習のすすむにつれての技能の高 まりや、また他の分野のリズム的関心 やリズム経験と相まって発達したもの
と考えられる。
44 つぎに、出現したリズムパターンの 72 様相をみると、図7、図8、図9のと
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舞踊表現能力の発達に関する研究(小黒) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 %
199
成された短いものが多くそれらパタ‑ンのく りかえしによって生ずる動きのリズムは拍子 的であり、タクトカルな感じに亨受される。
大部分のものが上肢の運動を主体にしている のは、無意識的にも意識的にも上肢の運動が 豊かな表現性をもつ故であろうし、低学年で は衝動にも近い日常動作の習慣からでもあろ う。しかし身体運動がこのように拍子的で平 板素朴であっても、同時に表現内容を空間移 動運動で強調しようとする意図が多く見うけ られた。ここでは空間運動をとりあげていな いのでその関係を具体的に述べることはでき an
単一リズムパタ‑ンの様相のおもなものを あげると図8のとおりであり、出現したパタ
‑ンのすべてがこれらのタイプのいずれかに 属する。上肢の運動を主にした者が拍節的リ ズムパターンの場合と同じく多い。上肢が主 なる運動を行い、下肢が歩・走・かるい跳躍 のような従的な運動を行っている様相(パタ ーン番号‑P.N0.‑16, 17, 18, 19, 20, 21, 24, 26, 27, 46, 51)や、上下肢が同程度に 重要な運動を行うが上肢下肢ともに同じリズ ムの運動を行っている様相(P.No.23, 28) がみられたし、また上肢を固定し(静止)下 肢のみで行っているものもあったがその様相 はこの発達段階では未だ単純素朴であり、主 題も風、のもつ特徴からも空間移動運動を強 調一右往左往またはぐるぐる渦を巻くような 素朴な様相で‑するものが多くみられた。
単一リズムバク‑ンは量的な面で発達傾向 を示しているばかりでなく、様相の内容をみ ると質的な面でも発達傾向を示していること がわかる。すなわちパターンの長さがしだい に長くなる傾向があり、強やアクセントの数 や位置の変化(P.No.19, 21, 22, 25, 26, 27)、また速度についても細分や延長的な要素 を加えて(P.No.18, 21, 23, 26, 28)、単純 なものからしだいに複雑化しているし、それらを打ち出している身体部位や運動の種類・性質も
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舞蹄表現能力の発達に関する研究(小黒)
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図8. 単一リズムパタ‑ンの様相
複合リズムパターンのうちでおもな様相をあげると図9のとおりであり、出現したパターンの すべてがこれらパタ‑ンのいずれかに類似している。未発達な段階にある小学2年生には未だ出 現していないが、 4年生以上の児童・生徒に出現しているパターンの様相をみると、長さの短い
ものからしだいに長いものになっている(P.No.32, 33, 34, 42, 44, 50, 52, 53),その構成 内容も発達につれて質的にもしだいに高まり複雑化している。すなわち亨受者に強い鮮明な印象 を与えたり、快感や感動を与える大切な要素であるアクセントの数や位置が、定数化した平板 単調な拍節の数や位置とはちがった定形を破った全く自由かつ変化に富んだものとなっている (P.No.29‑44, 45, 47, 48, 50, 52, 53)上に、身体部位によるちがった種類や性質一上肢の 急激な振りあげ下しや急速な前後側廻旋、下肢の急激な探屈膝・爆発的な跳躍、さらに急激な体
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39
舞踊表現能力の発達に関する研究(小黒)
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図9. 複合リズムパターンの様相
前屈、 1拍1動作の体自転の運動‑など、細分や延長の遅速の加わった変化ある運動が、それぞ れ同程度の重要さで相異した独自のリズムをもって行われ、それらの運動の複合されたものが観 者には一つのリズムとして亨受されるので、複雑かつ新鮮な印象をもたらし、感動的で興味深い ものとなっているのである。
〔註〕単一、複合のリズムパターンのうちで構造の完全なものは重複をさけ完全リズムパタ‑ンの方にのみ 記した(図11〕。したがって完全リズムパターンは単一、複合のリズムパターンのいずれかの構成をも
舞踊表現能力の発達に関する研究 203
っているので、それぞれの様相を完全l)ズムパタ‑ン図11で同時をこ見る必要がある。
3)主題も鮎の舞踊表現運動に現れた動きのリズムパターンの有無と構造の完全さについ て。
リズムバク‑ンの構造の艮否が、美的快感をよび起し、身体的フォルムや空間性と相まっ て舞踊表現(作品)の新鮮さや生命を決定づける重要な要因となるのであるが、主題、風、の表 現運動に現れたリズムパターンの有無と構造の完全さについては表8、図10のとおりであるo こ 表8 主題、風、の舞踊表現運動に現れた動きの
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の図表で明らかなように、ここではリ ズムパターンを有するものの多くは不 安全な構造をもち、完全な構造をもつ 計 リズムパターンをもつものは少ない。
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ズムパターンを有しているものは小学 2年生73.21.と最も多く、学年上昇 につれてしだいに減少しているのに対 し、完全リズムパターンは単一.複合 の両パターンの中にみられ、小学4年 生から僅かに出現し、不完全リズムパ ターンくらべて出現量は少いが発達に つれてしだいに多くなり、発達的傾向 性を示していると考えられる。これは 舞踊表現学習経験の深まりや他の芸術 観照経験のつみ重ねの結果であろう.
男女についてみると、完全リズムパ
量が多くなっているのに反し、男子は しだいに減少している。前にも述べた ように中学男子生徒には舞踊表現学習 が行われない(教材として無い)ための結果であろうと考えられる。しかし男子に出現している 完全リズムパターンの構造をみると良い構造をもったものもあるので、男子のリズム構成能力が 女子に劣るとは考えられない。学習させることにより中学男子生徒もめきめきとこの能力は高め られ発達するであろうと予想されるし、人間教育の立場からもきわめて大切なことであると考え られる。
つぎに、出現しているリズムパターンのうち完全な構造をもつパターンのおもな様相をあげる と図11のとおりであり、出現パターンのいずれもこれらのタイプに類似している. 8タクト、 16 タクト、 18タクトの長さで組みたてられており、呼吸との関係や記憶上からみて快くくりかえさBS れる長さであり、また前半の運動(1種類以上の運動でなりたち、 「間」の性質をもった運動)
204
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舞踊表現能力の発達に関する研究(小黒)
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図10. 主題も風、の舞踊表現運動に現れた動きの リズムパタ‑ンの有無と構造の完全さ
と後半の運動(1種類以上の運動でなりたち saa「答」の性質をもっている運動)で結合連続 し、一連のものに組みたてられており、その前 半後半の両運動が均衡し調和してまとまりを もち、一つの印象一意図する表現内容の‑香 与えているので、運動のもつ特性である時間 性と空間性から、音楽のリズムパタ‑ン構造 の法則とは相異した動きのリズムパターン構 造上の原則に合致したものになっている(5)
。
学年上昇につれてしだいに出現量が多くなっ ているとともに、様相の状態を観察すると、
質的にもよい構造をもった高級なパターンへ と高まっていることもみられる。すなわちア クセントの数や位置が定形化を破って配置さ れるとともに、一つのバク‑ンの中の強部と 弱部とが細分や延長を伴った、時間的に異っ た長さの変化ある種類や性質の運動で複雑に 組みたてられ、表現内容意図が鮮明で強い印 象を与えているという高級なバク‑ンの様相 がみられるのである。およそ16タクトぐらい の長さの高級な完全リズムパタ‑ンは、舞踊 作品制作にあたり表現しようと意図する表現 内容(モティフ)を内蔵させて十分に印象させ る運動モティフにもなりうるのであるが、こ こに出現している完全リズムパターンの中に もその可能性をもったものがいくつかみられ た。またも風、の舞踊表尋良否の評価を8ミ リ映写により観察した舞踊専門家5人の平均 評価基準にてらしてみると、上・中・下・の 三段階評価のうち、完全リズムパターンを内 蔵している表現はいずれも優れた評価をなさ れており、とくに単一リズムバク‑ンで構造 の完全なものにくらべ、複合リズムパターン いちにで完全な構造をもっているものの方が一二を のぞいて殆ど全部上位に入り、優れた評価を なされていた。このことは、運動部位、運動 の性質・種類その他の諸要素が複合して構成 されるところの複合リズムバク‑ンで完全な 構造をもつものが、表現の良否に一つの大きな条件になっていることを明らかにしているものと 考えられる。すなわち、いきいきと脈うつ舞踊表現の新鮮さや生命を決定づける重要な源泉は動