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共生社会の法哲学

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特集 共 生社会 の法 と政 治〉

共 生 社 会 の 法 哲 学

1.は じめに 2.多 文化 と法 秩序

(1)多 文化 社会 の法秩 序 (2)法 秩序 の法 哲学 3.法 秩 序 の共 生性

(1)自 由主義 と許 容範 囲 (2)平 和 な共生 社 会 4.お わ りに

1.は じ め に

生 物 学 で 使 われ る共 生 も し くは共棲(symbiosis)と い う用 語 が 、 人 間 や 社 会 の あ り方 に 関 す る指 標 的 な 思 想 を表 す 言 葉 と して も用 い られ る よ うに な っ た 。

I)

この よ うな用 法 につ い て は、 建 築 家 の黒 川 紀 章 が1960年 代 か ら研 究 を本 格 化 し、

や が て 「共 生 」 とい う思 想 を独 自 に展 開 した と述 べ て い るが 、 そ の 文 献 リス ト に よれ ば、 と くに1980年 代 か ら この語 を用 い た文 献 が 多 い。 そ して黒 川 紀 章 は、

共 生 の概 念 につ い て 、 対 立 す る相 互 間 で 矛盾 し合 う事 柄 か ら創 られ る 「新 しい 創 造 的 な関 係 」、 対 立 す る相 互 間 で 理 解 し合 う 「ポ ジ テ ィ ブな 関 係 」、 対 立 す る 相 互 間 で 尊 重 し合 い 「共 通 項 を拡 げ よ う とす る関 係 」 で あ る と説 き、 それ ゆ え 共 存 、 調 和 、 妥 協 の各 概 念 とは異 な る と解 して い る。

とは い え 、 共 生 の概 念 規 定 につ い て は、 黒 川 紀 章 も未 だ 「過 程 に あ る」 と述 べ て い る よ うに、 一 般 的 に途 上 で あ る。 その た め に各 分 野 に お け る共 生 の用 語 や 思 想 は、 幅 広 い 自由 な定 義 や 解 釈 が用 い られ 、 さ ら に社 会 にお け る共 生 を実

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現 化 す る方 策 に 関 して も、 各 分 野 で独 自 に共 生 と考 え る概 念 が 使 わ れ て きた 。 そ して 今 日で は 、 文 化 、 社 会 、 教 育 、 環 境 、 平 和 な どの 広 範 な分 野 で 、 共 生 に つ い て の 探 求 や 提 言 が 盛 ん で あ る。 それ ら は共 生 に 関 す る基 本 的 な原 理 論 と、

あ る い は 共 生 に 関 す る具 体 的 な 方 法 論 とに大 別 で き るが 、 但 し それ らは本 格 的 な共 生 論 な の か 、 それ と も黒 川 紀 章 が 指 摘 す る よ うな 、 共 生 へ と至 る途 中 経 過 と して の 「中間 領 域 論 」 な の か 、 は た また 共 生 とい う用 語 や概 念 の誤 用 な の か 、 に つ い て は 定 か で な い。

さ て 、 法 哲 学 に お いて 共 生 」 とい う用 語 が 使 われ た 例 と して 、1980年 代 半 ぼ の 井 上 達 夫 著 共 生 の 作 法 』 が あ る。 そ こで は共 生 の重 要 な フ ァ ク タ ー と し 正 義 」 が 論 じ られ た が 、 そ の 点 で 、 共 生 の 哲 学 的 な探 求 に 関 して 、 法 哲 学 か らの ア プ ロ ー チ が 可 能 で あ る こ とを示 した と言 え よ う。 この よ う に法 哲 学 で は比較 的早 くか ら共 生 に 関 す る原 理 的 な 問題 が考 察 され て お り、1990年 代 以 降 、 法 哲 学 者 か らの 問題 提 起 と して 、 井 上達 夫 他 著 『共 生 へ の 冒 険 』 や 桂 木 隆 夫 編

2)

著 『共 生 と こ とぼ 』 な どが 刊 行 され た 。 中 で も 『共 生 へ の 冒 険 』 に お い て は、

異 質 な もの に 開 か れ た 社 会 的 結 合 様 式 」 とい う共 生 理 念 が 提 唱 され 、 共 生 とは convivialityの 意 味で あ る と解 され た 。 あ るい は共 生 関係 の前 提 とな る多 文化 論

につ いて は、 「多 文 化 時代 と法 秩 序 」 とい う統 一 テ ー マ で 日本 法 哲 学 会(1996年) が 開 か れ た し、 また竹 下 賢 ・角 田 猛 之編 著 『マ ル チ ・リー ガ ル ・カ ル チ ャー‑

3)

法 文 化 へ の ア プ ロー チ ー 』 も刊 行 され た 。

とき に 、 一 般 的 に共 生 とい う用 語 の用 い 方 や 、 また 共 生 社 会 とい う場 合 の特 色 に つ い て 、 多 様 な受 け とめ方 が され て きた が 、 本 稿 で も同 じ く幅 広 い 意 味 で 用 い て い る。 そ の 際 、 社 会 に お け る対 立 を解 決 す る に は 、 法 規 範 や 法 秩 序 が 不 可 欠 で あ ろ う。 す な わ ち共 生 社 会 は 法 規 範 や 法 秩 序 を支 え に して成 り立 つ の で あ っ て 、 そ れ ゆ え社 会 に お い て 分 裂 し対 立 す る異 質 な諸 関 係 を、 共 生 関 係 へ と 至 らせ る こ とに つ い て 、 まず は 社 会 に お け る対 立 関 係 の 法 哲 学 的 な考 察 か ら始

め る こ とが 必 要 で あ る。

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2。 多 文 化 と法 秩 序

(1)多 文 化 社 会 の法 秩 序

そ もそ も 「共 生 とは何 か 」 とい う概 念 の規 定 が 判 然 と しな い だ け に、 社 会 に お け る全 て の 対 立 関 係 を拾 うな らば、 膨 大 な数 に な るで あ ろ う。 け れ ど も社 会 的 な 対 立 関 係 か ら共 生 関 係 へ の創 造 こ そ、 平 和 な社 会 を築 くた め の 課 題 で あ り、

そ の 点 で 社 会 的 な 対 立 関 係 を取 り除 く こ とは急 務 で あ る。 それ ゆ え共 生 に 関 す る文 献 に は、 社 会 的 な不 均 衡 の分 析 に力 を注 ぎ 、 差 別 、福 祉 、 教 育 、 環 境 、 平

4}

和 な どを検 討 す る文 献 も多 い。 また政府 にお いて は 内閣府 に 「共 生社 会政 策 統 括官 」 を置 いて、共 生社 会実 現 のた めの政 策 が練 られ て い る。

そ こで 、現代 にお ける多様 な文化 や価値 観 か ら、社 会 生 活 のた めの基本 的 な 規範 や秩序 を どの よ うに確 立 す れ ぼ良い のか とい う問題 が 生 じる し、 その た め

5?

に は 多文 化 社 会 に お け る共 通 の 倫 理 ・道 徳 ・思 想 の状 況 を探 求 す る必 要 が あ る。

さ らに この 問 題 は、 近 代 社 会 の精 神 的 ・文 化 的 基 盤 と も関 連 す る の で あ っ て 、 人 々 が 社 会 生 活 に お い て種 々 の価 値 観 の 中 で 共 生 ・共 存 で き る の は 、 社 会 規 範 や 法 規 範 に よっ て 秩 序 あ る社 会 生 活 を して い る か らで あ る。 つ ま り近 代 社 会 に お い て 生 活 が 営 まれ て い る と こ ろで は、 程 度 の 差 は あ る にせ よ、 人 々 は寛 容 の 精神 を有 して 生 き て い る の で あ り、 さ ら に市 民 生 活 に お け る合 意 形 成 の 手 段 と

して 、 多 くは 多数 決 原 理 を用 い て物 事 を 決 め る こ と も取 り入 れ る。

そ して、 近 代 社 会 で は、 人 道 ・人 権 思 想 を共 通 項 と して、 平 和 で デモ ク ラシ ー 的 な精 神 ・文 化 ・社 会 の形 成 を 目指 す の で あ るが 、 そ こ に こそ 現 代 の法 秩 序 の

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基礎 が あ る と言 え よ う。 そ して戦 後 日本 で は、 民 主主 義思 想や 自由経 済 制 度 が 指標 とな り、 それ らに合致 す る政 治制 度や 経済体 制 が構 築 され、 また法 の体 系 や制 度 も西 欧型が 参考 に され た。 さ らに西 欧型 の 自由主義 思想 の影響 は各 国 に 押 し寄せ 、西 欧先進 型 自由社 会 や市場 経済制 度 こそ、今 日で は世 界 的 な秩序 基 準 になって い る。

但 しその際 、 と りわ け少数 者 の権利 を承認 しな くて はな らな い。 ゲ オル ク ・

イ ェ リネ ク に よれ ば 、 社 会 の 民 主 化 の 前 進 は、 同 時 に多 数 決 原 理 の支 配 を拡 大 し、 そ して 民 主 的 多 数 者 以 上 に、 思 慮 が な く残 酷 で 、 個 人 の最 も根 源 的 な権 利 に敵 意 を抱 き、 寛 大 さ と真 実 を憎 み軽 蔑 して い る もの は あ りえ な い」 とい う。

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そ れ ゆ え 社 会 が 、 荒 廃 した精 神 的倫 理 的 軽 薄 さ と頽 廃 か ら 自分 を 防御 す る こ とが 唯 一 可 能 な道 」 と して 、 イ ェ リネ ク は 「少 数 者 の 権 利 の 承 認 」 を指 摘 した 。

す な わ ち 、 多 文 化 の 内 に存 在 す る各 個 別 文 化 間 に お い て 、 た とえ思 想 的 ・価 値 的 に相 互 が 相 容 れ な くて も、 各 個 別 が 近 代 市 民社 会 で共 生 ・共 存 す るた め に、

何 らか の 共 通 的 ベ ー ス が 無 け れ ぼ 、 社 会 に お け る共 存 関 係 を危 う くす るで あ ろ う。 そ れ ゆ え 対 立 す る各 個 別 に通 じ る よ うな ル ー ル の 芽 生 え こ そ共 生 ・共 存 へ の 第0歩 で あ る。 と くに ル ー ル は、 そ の 基 礎 と して 法 哲 学 が 中 心 とな り、 さ ら に 法 哲 学 の 考 察 に よ る正 義 理 論 を用 い て 、 そ の ル ー ル の基 礎 的 な構 成 を す る こ とが 重 要 で あ る。 そ して そ こか ら不 公 平 や 不 公 正 の 感 覚 が 沸 き起 こ り、 さ ら に 近 代 市 民 社 会 に お け る基 本 的 な法 価 値 観 に 基 礎 づ け られ た 法 感 覚 や 法 意識 が 、 確 固 と して 形 成 され ね ば な らな い の で あ る。

ま た 、 多 文 化 と似 通 っ た意 味 で 異 文 化 」 が あ り、 さ らに 異 文 化 的 多 元 性 を 内 包 す る社 会 と して 「多 元 社 会(pluralsociety)」 い う言 い方 も あ る。 そ こで

$}

多 元 社 会 に関 して 比 較 政 治 学 の観 点 か ら ダ ヴ ィ ッ ド ・ニ コル ス は 、 イ ギ リス 型 とア メ リカ 型 お よ び ア ジ ア ・ア フ リカ型 に 分 けて 、 そ れ ぞ れ に お け る多 元 主 義 や 多 元 社 会 を 分 析 し、 そ して 政 治 的 な多 元 主 義 を論 じた 。 ニ コ ル ス に よれ ば、

多 元 社 会 とい う観 念 は、1940年 代 にJ.S.フ ァー ニ ヴ ァル が 植 民 地 研 究 で 用 い 、 さ ら に フ ァー ニ ヴ ァル が 多元 社 会 とは植 民 地 特 有 の もの で あ る と解 した こ とが 発 端 で あ っ て 、 そ の 後 は論 者 に よっ て 多 様 な展 開 が な され 、 む しろ多 元 社 会 や 多 元 主 義 の概 念 の 多 様 性 す ら指 摘 され て い る。 この 点 で ニ コル ス は、 人 種 ・民 族 ・宗 教 に よ り区 分 けが 鮮 明 な 社 会 を 「断 片 的 社 会 」 で あ る と し、 そ れ に 対 し て そ れ らが 重 層 的 に構 成 され て い る社 会 を 「多 元 主 義 的 国 家 」 で あ る と説 く。

そ の 際 、 多 元 社 会 とは断 片 的 社 会 を 示 す とニ コル ス は解 す る の で 、 それ ゆ え 日 本 の社 会 は 決 して 多 元 社 会 で は な い と述 べ るの で あ る。

9)

あ るい は 、 法 の 経 済 分 析 の観 点 か ら グイ ド ・カ ラ ブ レイ ジ は 、 社 会 で の 種 々 の 理 想 ・信 念 ・態 度 に 関 して 、 「それ らを どの程 度 助 長 す るか 」 それ と も 「抑 制 す るか を決 定 しな けれ ば な らな い」 とい う点 に 関 心 を寄 せ た 。 そ して カ ラブ レ

イ ジ は 、 二 つ の 基 本 的 な価 値 問 に お け る二 者 択 一 とい う選 択 が 不 可 避 で あ っ て も、 「多 元 的社 会 とは 、 あ る世 界 観 の信 奉 者 の 多 数 が 異 な る種 類 の信 念 に対 して も強 く惹 か れ る もの を感 じ る社 会 」 と説 い た 。

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な お 、 社 会 人 類 学 や 比較 政 治学 な どで使 わ れ る多 元 社 会 とい う用 語 で あ るが 、 本 稿 で は それ を多 文 化 社 会 とほ ぼ 同 じ意 味 で 用 い て い る。 こ う して 多 元 的 か っ

多 文 化 的 な社 会 に は 、 各 個 別 間 にお い て 政 治 的 ・文 化 的 ・宗 教 的 ・民 族 的 ・言 語 的 な葛 藤 を有 し、 同 時 に イ デ オ ロ ギ ー 的 に対 峙 し合 う各 個 別 が 混 在 す る社 会 を呈 す るの で あ る。

(2)法 秩 序 の法 哲 学

多 文 化 社 会 に お け る法 秩 序 を法 哲 学 的 に基 礎 づ け るに は、 まず 法 哲 学 の 課 題 で あ る概 念 論 、 価 値 論 、 効 力 論 、 方 法 論 な どに及 ぶ 広 範 囲 な検 討 が 必 要 で あ ろ う。 と くに法 哲学 とは法 につ い て 究 極 まで考 え る学 問 で あ るが 、 そ の 際 、 「法 と は何 か 」 を示 す こ とか ら始 め ね ば な らな い 。 も っ とも約230年 前 にイ マ ヌ エ ル ・

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カ ン トが 、 「法 学 者 は、 法 の概 念 に対 す る定 義 を い まだ に尋 ね 求 め て い る始 末 で あ る」 と皮 肉 っ た よ う に、 今 日で も法 の定 義 は定 ま らな い 困難 な テ ー マ で あ る。

けれ ど も哲 学 者 は、 法 につ い て 自 由 な思 索 を め ぐ らせ 、 それ に よ り法 哲 学 は 「 弁 哲 学 」 とな り、 哲 学 者 は そ こで世 界 観 を語 る こ とが で き るの で あ る。 さ ら に カ ン トは、 「哲学 者 は 、 理 性の技 術 者 で は な くて 、 人 間 理 性 に普 遍 的 法 則 を与 え る立 法 者 で あ る」 と述 べ た が 、 この よ う に法 哲 学 者 も また 、 法 律 界 に普 遍 で 不 変 な法 則 を提 唱 す る こ とが 理 想 的 で あ る。

とは い え、 明 治 時代 に穂 積 陳 重 が 、 法 哲 学 の代 わ りに 「法 理 学 」 とい う名 称 を造 語 し提 唱 した よ うに 、 法 哲 学 の 学 問 性 に つ い て も諸 説 が あ る。 これ まで 広 義 で は法 理 学 は法 哲 学 とほ ぼ 同 じ意 味 で用 い られ て き た が 、 しか し狭 義 の 法 理 学 は、Rechtsphilosophieよ りも、む しろjurisprudenceに ア クセ ン トが あ り、

さ ら に両 者 が 区別 され る場 合 は、 法 理 学 が 英 米 型 の経 験 論 と して 、 法 哲 学 が 大

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陸 型 の 観 念 論 と して解 され る こ とも あ る。 こ の点 、 加 藤 新 平 に よれ ば、 法 理 学 は 「や や 幅 広 い研 究 を カバ ー し得 る柔 軟 性 」 と して 、 法 哲 学 は 「意 味 上 の 制 約 が 強 い よ うな 印 象 」 と して 受 け取 られ て い るが 、 加 藤 新 平 で は 、 哲 学 観 を 含 む

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ゆ え に法 哲 学 の 名 称 が 選 ば れ た 。 また 田 中 成 明 で は、 両 者 の 比 較 後 、 む し ろ法 理 学 の 名 称 が 採 られ て い る。

この 「法 哲 学 か 法 理 学 か 」 とい う問 題 に は 、 そ れ ぞ れ の 支 柱 に あ る法 思 想 上 の バ ッ ク ボ ー ン が あ る の で 、 ど うい うス タ ンス か ら法 秩 序 の 基 礎 づ け が な され

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るか とい う点 で 重 要 で あ る。 す な わ ち思 弁 哲 学 的 な 基 礎 づ け か 、 それ と も経験

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科 学 的 な基 礎 づ けか とい う問 題 まで拡 が るの で あ るが 、 但 し矢 崎 光 囲 に よれ ば 、 考 察 方 法 で 両 者 が 重 な り合 い 交 換 可 能 な の で 、 「主 と して便 宜 の考 慮 か ら法 哲 学

とい う用 語 」 を採 用 し、 そ して 重 要 な の は 両 者 の 名 称 の 区 別 で は な く、 共 通 して 何 が 問 題 とされ 、 どの よ うに そ れ が 考 察 され るの か とい う こ とで あ る」 と い う。 そ こで 本 稿 も まず は この 説 を採 り、 次 へ と論 を進 め た い 。

さ ら に、 法 秩 序 を基 礎 づ け る法 哲 学 上 の課 題 と して は、 自然 法 論 と法 実 証 主 義 との確 執 が あ る。 両 者 の 分 岐 点 は、 法 の 根 拠 が ど こに 置 か れ るや 否 や で あ り、

自然 法 論 者 は法 律 外 に置 か れ る と考 え 、 法 実 証 主 義 者 は実 定 法 内 に 置 か れ る と 考 え た 。 この 点 、 確 か に近 代 初 期 に は、 自由 ・平 等 ・博 愛 の 根 拠 は 自然 法 思 想

に あ った が 、 しか し自然 法 的 な規 範 命 題 は次 第 に成 文 法 化 され て、 現 代 で は 「

か れ た 自然 法 」 と して 、 国 際 法 や 国 内 法 で条 文 化 され る よ う に な っ た 。 例 え ば 世 界 人 権 宣 言 、 また 自由 ・平 等 ・平 和 を標 榜 す る各 国 の 憲 法 な ど、 も はや 容 易 に変 更 さ れ て は な らな い 自然 法 的 な条 項 が 法 律 で 明 記 され て い る。 す な わ ち今 「自然 法 と実 定 法 」 につ い て は、 形 式 的 に は実 定 法 で あ っ て も、 内容 的 に は 自然 法 で あ る法 律 が 、 実 定 法 内 に 内在 化 した 。 こ う して 自然 法 論 か 法 実 証 主 義 か に 峻 別 され る の で は な く、 両 者 の 共 生 的 な領 域 と して の 第 三 の 道 」 が 模 索 され る よ う に な っ た。

I5J

も っ と も、 自然 法 論 者 か ら も、 例 え ば ホ セ ・ヨ ンパ ル トが 提 唱 す る 「実 定 法 に 内 在 す る 自然 法 」 の よ う に、 硬 直 的 で な く柔 軟 な 自然 法 論 が 展 開 され て い る

し、 あ る い は法 実 証 主 義 者 か ら も、 自然 法 的 な思 考 が 、 部 分 的 な が らi援用 され

Z6)

る よ う に な っ た 。 例 え ばH.LA.ハ ー トの 場 合 、 「自 然 法 の 最 小 限 の 内 容 」 と して 単 純 な 自明 の 真 理 が 指 摘 され て い る。 こ の ハ ー トの 見 解 に 関 して 、 ニ ー ル ・

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マ コー ミ ック に よれ ぼ、 「普 遍 的価 値 と自然 法 の最 小 限 の 内容 とい う彼 自身 の見 解 に お い て は、 法 は常 に道 徳 的 要 請 で も あ る よ う な、0連 の 要 請 を簡 潔 に表 明 して い な け れ ぼ な らな い 」 とい う こ とで あ り、 こ うい うハ ー ト解 釈 をハ ー トも 受 け入 れ るで あ ろ う とい う。

  

あ る い は 、 ロ ナ ル ド ・ ド ゥ ウ ォ ー キ ン の 場 合 は 、 「法 に お け る 統 一 性 」 に つ い て 述 べ て い る が 、 統 一 性(integrity)と い う考 え 方 は 、 柔 軟 な 法 実 証 主 義 の 展 開 と い う よ りは 、 こ の 見 解 と現 代 的 自然 法 論 との 差 は 殆 ど な い で あ ろ う。 す な

(7)

共生社会の法哲学

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わ ち ド ゥウ ォー キ ン は、 実 際 の 法 は包 括 的 な統0性 で 確 定 す るが 、 しか し別 の 法 で あ る 「法 を越 え る法 」 は 、 「自 らが 目指 す 企 て を は っ き り と示 して い る。 こ

の純 粋 な 法 は 、 完 壁 に純 粋 な統 一性 に よ っ て 定 義 され る。 この 法 は 、 現 実 の 法 に対 し最 善 の解 釈 を与 え る正 義 原 理 の 中 に存 す る」 と説 くの で あ る。

とき に 、 法 秩 序 を基 礎 づ け る法 哲 学 と して は 、 どの よ う な法 思 想 が 適 して い るの か とい う問題 が あ る。 例 え ば、 ネ オ ・ト ミズ ム 、 新 カ ン ト哲 学 、 ヘ ー ゲ ル 哲 学 、 マ ル クス 主 義 、 功 利 主 義 、 現 象 学 、 生 命 哲 学 、実 存 主 義 、 哲 学 的 人 間 学 、 実 質 的 価 値 論 、 言 語 哲 学 、 分 析 哲 学 、 正 義 理 論 な どの哲 学 的 な 思 考 。 ま た 自然 法 論 、 法 実 証 主 義 、 純 粋 法 学 、 分 析 法 学 、 経 験 法 学 、 法 政 策 学 な どの 方 法 論 的 な傾 向。 さ ら に資 本 主 義 、 社 会 主 義 、福 祉 主 義 に対 応 して 、 か つ 自 由主 義 、 平 等 主 義 、 人 道 主 義 に対 応 す る法 制 度 な どの諸 思 想 で あ る。

こ う して 法 哲 学 は特 殊 哲 学 と して 、 一 般 哲 学 の 成 果 を 踏 ま え る の で あ るが 、 し か し 戦 後 の 法 哲 学 界 は 、 法 科 学(Rechtswissenschaft)や 法 理 論 (Rechtstheorie)か ら、 既 存 の法 思 想 へ の 批 判 が 盛 ん に な され た 。 中 で も分 析 哲 学 か ら は、 自然 法 論 や新 カ ン ト派 の 法 哲 学 に 対 して 厳 しい 批 判 が あ り、 法 哲 学 界 は総 じて 法 実 証 主 義 的 な様 相 を強 めて い っ た 。

I9)

けれ ど も、 ジ ョ ン ・ロ ー ル ズ が 、 「公 正 と して の 正 義 」 を掲 げ て 実 質 的 正 義 論 を登 場 させ た こ とに よ って 、 科 学 的 な法 哲 学 ・法 理 論 の 勢 い は 弱 ま り、 人 間 ・ 社 会 ・政 治 を 哲 学 的 に構 成 す る理 論 が 、 法 哲 学 に も影 響 を与 え た 。 ロ ー一ル ズ の 正 義 論 は社 会 契 約 論 の復 権 で あ り、 功 利 主 義 を批 判 した の で 、 近 代 の リベ ラ リ ズ ム を め ぐ る論 争 が 活 発 化 した。 そ して今 日 の 自 由主 義 理 論 は、 ロ ー ル ズ の リ ベ ラル な社 会 的 正 義 論 か っ 福 祉 国 家 論 か ら影 響 を受 けて 、 公 正 、 自 由 、 平 等 、 分 配 、 権 原 、 財 産 、 福 祉 な どの テ ー マ が基 礎 学 術 の 関 連 分 野 で 探 求 され る よ う

に な った 。 但 し1980年 代 に は ロ ー ル ズ に 「微 妙 な 変 化 」 が 起 きて い る とい う。

す な わ ち ロー ル ズ は、 「社 会 的正 義 よ り も政 治 的 正 義 、 平 等 主 義 的格 差 原 理 よ り も基 本 的 諸 自 由 の優 先 の基 礎 づ け 」 へ と重 点 を移 し、 ま た 正 義 原 理 の正 当 化 に 関 して も、 社 会 契 約 説 的 な 構 成 か ら 「政 治 的構 成 主 義 」 へ の傾 向 が 顕 著 に な っ た と評 され て い る。

ロ ー ル ズ に とっ て 重 要 な 課 題 は 「正 義 とは何 か 」 で あ り、 か つ て ロ ー ル ズ は 正 義 を公 正 と して 捉 え た が 、 こ の 点 に関 して は、 リバ タ リア ニ ズ ム を展 開 す る

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ロ バ ー ト ・ノ ー ジ ッ ク や 、 コ ミ ュ ニ タ リ ア ニ ズ ム を 展 開 す る ア レ ス デ ア ・マ ッ

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キ ン タイ ア な どか らロー ル ズ は批 判 され た 。 そ こで ロー ル ズ は 、 「政 治 的 リベ ラ リズ ム」 の構 想 に よ り、 政 治 の 場 に お け る正 義 の実 践 理 論 を考 え 、 や が て ロ ー ル ズ が 辿 り着 い た こ とは、 さ ら に政 治 的 リベ ラ リズ ム の 理 論 的 な拡 張 ・延 長 線

zz)

上 に あ る 「万 民 の法(TheLawofPeoples)」 の構 築 で あ った 。

ロ ー ル ズ に よれ ぼ、 万 民 の法 とは、 「国 際 法 と国 際 慣習 の 諸 原 理 や 諸 規 範 に適 用 され る、正 しさ(right)と 正 義(justice)に か ん す るあ る特 定 の政 治 的構 想 」

の こ とで あ り、 さ らに万 民 の法 に従 う各 国 の 民 衆 を 「万 国 民 衆 の社 会(Society ofPeoples)」 とい う表 現 で 呼 ん だ 。 ロー ル ズ は そ の よ うな試 み を 「現 実 主 義 的 な ユ ー トピ ア」 とい う着 想 で 展 開 す るの で あ るが 、 そ の ベ ー ス に は 「公 共 的 理 性 」 に お け る重 層 的 な コ ンセ ンサ ス の考 え方 が あ る。 また ロー ル ズ は、 万 民 の 法 の 客 観 性 につ い て 、 「それ が 互 恵 性 の基 準 を満 た し、 リベ ラル な諸 国 と良 識 あ る諸 国 の 民 衆 が 形 づ くる万 国 民 衆 の 社 会 の 公 共 的理 性 に属 す る もの で あ るか 否 か とい う こ とに か か っ て い る」 と述 べ 、 万 民 の 法 は普 遍 的 で あ る と解 した 。

こ の よ うな ロー ル ズ の 「万 民 の法 」 の 考 え方 は 、 国 際 社 会 に グ""̀バ ル な正 義 と共 生 の状 態 を もた らせ るた め の 基 礎 理 論 を打 ち立 て る に は有 力 な ヒ ン トに な る と思 わ れ る。 しか しか っ て 批 判 され た 原 初 状 態 、 格 差 原 理 、 カ ン ト的構 成 主 義 な どを 、 そ こで も基 礎 的理 論 に有 して い る こ とは今 後 と も論 争 に な るで あ ろ う。 た だ 現 代 社 会 に お け る法 秩 序 の基 礎 的 な法 価 値 と して 、 どの 正 義 理 論 が 適 して い る の か とい う選 択 問 題 に とっ て は、 そ れ らの論 争 は歓 迎 す べ き こ とで あ る。 結 局 、 法 秩 序 の 基 礎 論 に とっ て は、 む し ろ そ れ らの共 生 的 な第 三 の領 域 に も常 に 目 を 向 け る必 要 が あ る。

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そ の領 域 の ヒ ン トと して 、 まず マ ル テ ィ ン ・ハ イ デ ッガ ー が 、 哲 学 か ら多 く の個 別 諸 科 学 が 巣 立 っ た た め に起 こっ た 哲 学 の 終 焉 」 に つ い て の考 察 が 挙 げ られ るで あ ろ う。 そ して ハ イ デ ッガ ー は、 形 而 上 学 で は な く科 学 で もな い、 か つ 合 理 ・非 合 理 で 区 別 され な い思 考 が、 諸 科 学 に残 存 す る こ とを示 唆 した。 次

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に こ の 点 で 、 ハ ン ス ・リ ッ ヘ ル が 、 「残 余 部 門(Residualdisziplin)」 の 理 論 を 展 開 し、 法 の 残 さ れ た 哲 学 的 問 題 」 を 求 め る こ とが 可 能 で あ る と い う 。 そ れ は 個 別 科 学 に お い て で は な く、 法 哲 学 に 残 さ れ た 課 題 とは 何 か に つ い て 、 さ ら に 考 察 す べ き 問 題 な の で あ る 。

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共生社会 の法哲学

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また 、 法 秩 序 を基 礎 づ け る法 哲 学 に は 、 規 範 倫 理 学 や メ タ倫 理 学 か らの成 果 が影 響 す る。 そ して 法 解 釈 や 法 的 価 値 判 断 に お い て 、 倫 理 、 道 徳 、 条 理 、 社 会 通 念 な どを 的 確 に把 握 す る必 要 が あ る。 さ ら に実 定 法 は、 一 定 の 倫 理 観 ・道 徳 観 を前 提 に して お り、例 え ば、 善 意 や悪 意 、 公 序 良俗 や 信 義 誠 実 な どの 課 題 は、

倫 理 ・道 徳 的 な価 値 命 題 と密 接 に 関連 す る。 あ るい は私 的 道 徳 を め ぐ る リベ ラ リズ ム と、 リー ガ ル ・モ ラ リズ ム(legalmoralism)と の対 立 、 また 被 害 者 な き犯 罪(crimeswithoutvictims)」 を め ぐ る対 立 、 さ ら に法 的 パ タ ー一ナ リ ズ ム(1egalpaternalism)や 、 「公 然 た る不 快 」 な どの 諸 問題 が 、 倫 理 ・道 徳

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との 関 連 で 法 哲 学 の 課 題 に な るの で あ る。

な お 、 現 代 社 会 に生 じ る対 立 的 な諸 問 題 に法 哲 学 も積 極 的 に探 求 す べ きで あ る。 例 え ば 、 人 工 生 殖 、 中絶 問 題 、 脳 死 、 尊 厳 死 、 安 楽 死 、 さ ら に差 別 、 貧 困 、 環 境 、 戦 争 、 平 和 な どの 問 題 で あ る。 そ して 人 々 が よ り良 い 生 活 が で き る た め に、 また 人 間 に至 福 を与 え る た め に、 法 哲 学 か らの 寄 与 が 待 た れ るの で あ る。

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な ぜ な ら哲 学 と は 、G.W,F.ヘ ー ゲ ル に よ れ ぼ 、 「これ が 薔 薇 だ 、 こ こで 踊 れ (HieristdieRose,Hiertanze.)」 を 意 味 す る と い う。 こ れ は 「こ こ が ロ ド ス だ 、 こ こ で 跳 べ 」 とい う言 葉 を 、 へ 一 ゲ ル が 言 い 換 え た の だ が 、 ロ ドス と は エ ー ゲ 海 に 浮 か ぶ 伝 説 的 な 楽 園 の 島 「ロ ー ドス 島 」 の こ と で あ り、 ヘ ー ゲ ル は こ の 言 葉 で 、 今 あ る現 実 の 中 で 理 性 を働 か せ る べ き で あ る と解 し た の で あ っ た 。

3.法 秩 序 の 共 生 性

(1)自 由 主 義 と許 容 範 囲

社 会 に お い て 対 立 し合 う関 係 に あ る相 互 が 、 争 う こ とで 社 会 に 対 して 混 乱 と 無 秩 序 を及 ぼ す とき、 そ れ は社 会 で の 自 由活 動 とそ の 限 界 の 問題 に関 連 す る。

限 りな い 自 由 が 認 め られ れ ば 、 そ れ は 「放 縦 な る 自由 」 を 謳 歌 で き る で あ ろ う が 、 「社 会 あ る と ころ法 あ り」 とい う如 く、 それ は ユ ー トピ アの世 界 にす ぎ な い 。 けれ ど も社 会 で の 自 由度 を限 界 まで 拡 充 す る こ とは現 代 法 思 想 の課 題 で も あ る。

す な わ ち リベ ラ リズ ム の許 容 範 囲 に関 す る諸 聞 題 の こ とで あ る。

これ は また 愚 行 権 」 と言 わ れ る問題 と も関 わ る。 な ぜ な ら社 会 に お い て 倫 理 的 ・道 徳 的 に 愚 か と思 わ れ る行 為 を、 どの程 度 まで 社 会 生 活 で実 現 で き るや

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否 や とい う こ とで もあ るか らで あ る。 そ の 際 、 一 定 の 行 為 が 愚 行 で あ るや 否 や につ い て は、 価 値 観 の相 違 が 生 じ る し、 また その 行 為 を社 会 的 に 許 容 で き る こ

とが 重 要 で あ り、 さ らに どの 面 で 争 い 、 どの面 で 争 っ て い な い の か とい う問題 もあ る。

あ るい は、 所 属 す る国 家 の イ デ オ ロ ギ ー と衝 突 し、 国 政 に 対 して 反 対 す る政 治 信 条 の 持 ち 主 で あ って も、 税 金 を納 め、 交 通 法 規 を守 り、 平 穏 な社 会 生 活 を して い る場 合 に 、 そ れ は共 生 と言 え るや 否 や とい う問 題 もあ る。 と りわ け近 代 的 な 法 秩 序 が 整 っ た 国 で は、̲̲.̲応その 国 の 法 秩 序 に従 い な が ら、 そ の 法 秩 序 に 沿 って 、 自己 の イ デ オ ロ ギ ー や 政 治 信 条 へ ともた らせ る よ うに計 る場 合 が専 ら

で あ る し、 ま た抵 抗 す る とき は合 法 的 な抵 抗 権 を用 い る方 法 も可 能 で あ る。

それ ゆ え、 争 う勢 力 問 で あ って も、 一 定 の 法 秩 序 の 中 で 解 決 が 試 み られ る と き、 また そ れ が 可 能 な法 制 度 が 確 立 して い る社 会 で は 、 両 者 は共 生 の 関 係 を保 つ こ とが 可 能 とな るで あ ろ う。 そ れ ゆ え 必 要 な こ とは 争 う両 者 も認 め る こ とが で き る 「基 本 的 な法 価 値 」 の存 在 で あ る。 それ は ま た倫 理 ・道 徳 の基 本 的 な諸 価 値 と関 連 す る こ とで も あ るが 、 この 点 、 法 哲 学 の 分 野 で は、 自然 法 論 あ るい は正 義 論 に お い て 、 基 本 的 な 法 価 値 に つ い て 論 議 され て きた こ とも あ っ て 、 法 哲 学 にお け る これ まで の諸 論 議 は 、 共 生 社 会 の法 哲 学 を考 察 す る上 で 役 立 つ の

で あ る。

そ こで 、 共 生 社 会 の法 哲 学 を考 察 す る場 合 、 まず 自然 法 論 に関 して は、 自然 法 の 存 在 根i拠 を探 求 す る の は 哲 学 の領 域 で あ るが 、 争 う相 互 が 共 生 社 会 を創 る 際 は、 そ の 自然 法 論 か ら の帰 結 を是 認 で き るや 否 や に関 心 が 向 け られ る。 そ れ は 「善 を な し悪 を避 け よ」 とい う 自然 法 的 な命 題 を受 け入 れ るや 否 や で あ って 、 それ を どの よ うに根 拠 づ け る の か は争 う両 者 に よっ て 異 な る場 合 が あ る。 それ は また 生 命 ・人 間 の 尊 厳 、 人 道 ・人 権 の 尊 重 、 人 間 の 平 等 、 平 和 主 義 な ど に関 す る近 代 の 重 要 な 自然 法 論 的 原 理 ・原 則 を受 け入 れ るや 否 や 、 とい う問 題 で も あ る。

さ らに、 正 義 に 関 して は、 相 互 に争 う両 者 が 正 義 の 一 定 の 原 理 ・原 則 を どの よ う に受 け入 れ るの か とい う問 題 が あ る。 そ の 際 、 争 う両 者 に共 通 の 正 義 感 覚 が あ るの か ど うか 、 あ る い は両 者 で 正 義 の概 念 が 異 な るの か ど うか とい う問 題 を も考 え ね ぼ な ら な い 。 結 局 、 相 手 の 立 場 と行 動 とを、 どの 程 度 まで 許 容 で き

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共生社会の法哲学

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るや 否 や とい う こ とは 、 争 う双 方 に関 わ る法 秩 序 の 課 題 で もあ る。 そ れ は 法 秩 序 の どの 部 分 が 受 け入 れ られ て 、 どの 部 分 が 受 け入 れ られ な い の か とい う問 題 で あ り、 また そ れ は寛 容 性 に関 わ る問 題 で も あ っ て 、 そ こか ら相 互 に基 本 的 な 価 値 を共 通 に受 け 止 め られ るや 否 や とい う問 題 を、 す な わ ち 「価 値 相 対 主 義 」 の成 否 に つ い て も考 えね ば な ら な い で あ ろ う。

さて 、 自 由や 自 由主 義 の 許 容 範 囲 につ い て は、 それ らの 自 由 を抑 制 す る根 拠

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を考 え ね ばな らな い 。 か っ て ジ ョン ・ス チ ュ ァ ー ト ・ミル は、 「自分 自身 の 責 任 と危 険 とにお い て な され る限 り」、 人 間 は 自 由 に述 べ 行 い得 るの で あ る が 、 そ の 際 、 「個 人 は、 他 人 の迷 惑 とな っ て は な らな い」 し、 また 正 当 の理 由 な し に他 人 に害 を与 え る行 為 」 が あ っ て もな らな い と解 した 。 この よ うに功 利 主 義 思 想 か ら は、 放 縦 な る 自由 の み で は社 会 が 成 り立 た な い こ とが説 か れ た が 、 自 由 に

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つ い て は 、 ア イ ザ イ ア ・バ ー リ ン が 、 「積 極 的 自 由 」 と 消 極 的 自 由 」 と に 分 類 し て い る。

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この バ ー リ ンの 自由 論 につ い て、 ジ ョン ・グ レイ は 、 バ ー リン が 、 合 理 主 義 に基 づ く積 極 的 自由 を拒 否 した こ とは正 当 で あ る とい う。 グ レイ に よれ ぼ 、 バ ー リ ン は 「自 由 の観 念 」 に は、 非 記 述 的 か つ 評 価 的 な判 断 、 道 徳 的 か っ 政 治 的 な 態 度 、 お よ び形 而 上 学 的 な観 点 な どが 入 っ て お り、 それ ゆ えバ ー リン は、 「自 由 につ い て の 判 断」 に は評 価 的 な 問 い が あ る の で 、 自 由 を孤 立 化 的 に把 握 で き な い、 と考 え て い た とい う。 さ らに グ レイ に よれ ば 、 バ ー リ ンの 自 由論 に は、 政 治 的 自由 に対 す る道徳 の役 割 と、 「異 な る 自 由 は共 通 の 尺 度 で は測 る こ とが で き

な い 」 とい う価 値 多元 論 的 な要 素 が あ るが 、 他 方 で バ ー リ ンの 消 極 的 自由 の 観 念 は 、 古 典 的 な 自 由主 義 の 伝 統 に基 づ い て い る、 と グ レイ は解 した 。

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あ る い は 、 ノー マ ン ・バ リー は種 々 の 自 由主 義 論 を 比 較 検 討 し、 結 局 バ リー は、 ハ イ エ クの影 響 を受 け て 、 古 典 的 自 由主 義 の復 権 を 目指 した 。 バ リー に よ れ ぼ、 か っ て 古典 的 な 自由 主 義 の矛 盾 を 克 服 す る社 会 民 主 主 義 や 福 祉 国 家 論 な どの修 正 的 な 自 由主 義 を新 自 由主 義 と呼 び、 そ の後 、 新 自 由主 義 の 行 き詰 ま り に よ り、 旧 自由主 義 の復 権 が な され た ので 、 バ リ.̲̲̲は、結 局 、 旧 自由主 義 は して 死 ん で い な か っ た 」 とい う。 そ して その 現 代 的 な 旧 自 由主 義 とは 、 シ カ ゴ 学 派 の経 済 ・社 会 理 論 を発 端 と して 、 リバ タ リア ニ ズ ム と称 され る政 治 思 想 、 経 済 思 想 、 社 会 思 想 、 倫 理 思 想 な どで あ るが 、 バ リー の 見 解 は 、 無 政 府 資 本 主

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義 や 個 人 主 義 的 ア ナ ー キ ズ ム こ そ、 リバ タ リ ア ニ ズ ム の 典 型 で あ る と した 。 以 上 か ら、 自 由や 自 由主 義 に お け る 自 由 の 度 合 い が 問題 に な るで ろ う。 それ は社 会 で の 人 間 の 自 由 を 限 界 づ け る倫 理 ・道 徳 的 な 要 素 とも関 連 す る。 そ れ は また 、 リベ ラ リズ ム や リバ タ リア ニ ズ へ の コ ミ ュニ タ リア ニ ズ ム か らの批 判 点 に 、 表 され て い る こ とで もあ る。 す な わ ち マ ッ キ ン タイ ア は、 ロ ー ル ズ と ノー ジ ッ ク と に欠 け て い る要 素 、 つ ま り 「諸 徳 が そ の 中 心 に あ っ た 古 い古 典 的 伝 統 か ら残 存 して い る要 素 」 を指 摘 した 。 そ れ は真 価(desert)の 観 念 で あ り、 両 者 と も そ れ に触 れ て い な い とい う。 但 しロ ー ル ズ は、 正 義 と真 価 との 関 連 を論 じて い るが 、 「正 義 理 解 を真 価 の 上 に基 礎 づ け る こ とはで きな い 」 とロ ール ズ は 解 して お り、 ま た正 義 諸 原 則 の定 式 化 に よって 、 「真 価 で は な く、 合 法 的 な見 込 み 」 が 問 わ れ る と して い る とい う。

さ ら に、 マ ッキ ン タイ ア に よれ ぼ 、 ノー ジ ッ クの場 合 も、 「真 価 に は どん な位 置 も認 め る こ とが で き な い」 と して い るが 、 そ れ は、 ロー ル ズ も ノ ー ジ ック も、

社 会 は個 人 か ら構 成 され るの で 、 「共 通 の諸 規 則 を定 式化 す る必 要 が あ る」 とい う見 解 が 原 因 に な っ て い る とい う。 この よ うに ロ ー ル ズ とノ ー ジ ッ クの説 は、

個 人 が 第 一 で 、 社 会 が 第 二 」 とな り、 人 々 の 利 害 と 「諸 個 人 を結 ぶ 道 徳 的 ・社 会 的 絆 」 とは別 の 問 題 と して 扱 っ た 、 とマ ッキ ン タ イ ア は指 摘 した 。

そ れ ゆ え マ ッキ ン タイ ア は 、 「〈人 間 に とっ て の 善 〉 と 〈そ の共 同体 の 善 〉」 が 共 有 され る 「共 同体 とい う文 脈 の 中 」 で の み、 真価 の 観 念 を得 る こ とが で き る の で あ り、 そ こで個 人 の 利 害 は、 「善 に言 及 す る」 こ とで決 めね ぼ な らな い の で 、

この 点 で ロ ー ル ズ とノー ジ ッ ク を批 判 した。 す な わ ち マ ッキ ン タ イ ア に よれ ば 、 真 価 の観 念 こそ が、 「共 有 され る善 を追 求 す る際 の そ の共 同体 共 通 の 仕 事 に対 す

る貢 献 との 関 係 で 認 め られ 、 そ の観 念 が 徳 と不 正 に っ い て の判 断 の 基 礎 とな り

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う る」 と考 え るの で あ っ た 。

この よ う に コ ミ ュニ タ リア ン の見 解 は 、 共 生 社 会 の実 現 に とって も有 意 義 な ヒ ン トを与 え るで あ ろ う。 マ ッ キ ン タ イ ア の場 合 、 近 代 政 治 は道 徳 上 の コ ン セ ンサ ス に基 づ い て い な い と解 し、 また 正 義 に つ い て の実 践 的 な合 意 が 欠 けて い るの で 、 合 理 主 義 や 個 人 主 義 は 、 正 義 を 実 現 で きな い と も考 え る の で あ る。 そ して この よ うな 思 考 は、 共 同体 主 義 の一 つ の考 え 方 で あ るが 、 一 般 に そ れ は、

共 同 体 の 伝 統 と文 化 を尊 重 して 、 さ らに 共 通 の 善 と徳 を成 就 す る こ とに重 点 が

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共生社会の法哲学

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置 か れ る。 もっ とも共 同体 主 義 に は、 「保 守 的 な歴 史 主 義 的傾 向 」 と 「参 加 民 主 主 義 的傾 向 」 とが あ るが 、 前 者 は共 同 体 の 伝 統 を重 ん じ、 ま た後 者 は 共 同体 へ の 参 加 を重 ん じ る の で あ る。 と くに共 同体 主 義 で は、 正 義 や 共 通 善 が 、 共 同体

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文 化 との 関 連 にお い て 把 握 され る とい う。

とき に、 自由 主 義 の 許 容 範 囲 を考 察 す る際 、 自然 法 論 と自然 権 論 は 、 どの よ うに理 論 展 開 をす るの か とい う問 題 が あ る。 そ して 法 規 範 の 論 拠 を 、 実 定 法 外 の領 域 に基 礎 づ け る方 法 論 は 自然 法 論 の特 色 で あ っ た 。 例 え ば 、 実 質 的 正 義 、 自 由 と平 等 の原 理 、 人 間 と社 会 の 倫 理 的 な 規 範 、 ま た 自然 権 、 人 権 、 権 利 、 所 有 、 共 通 善 な ど、 そ れ らの 論 拠 は究 極 まで 検 討 され ね ぼ な らな い が 、 この 点 、 リベ ラ リズ ム、 リバ タ リア ニ ズ ム 、 コ ミュ ニ タ リア ニ ズ ム の 立 論 に よ っ て は、

近 代 の 自然 法 思 想 が 取 り上 げ られ る こ とが あ る。

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そ こ で オ トフ リ ー ト ・ヘ ッ フ ェ に よれ ば 、 契 約 論 の 論 証 に 関 して 、 「ブ キ ャ ナ ン は ホ ッ ブ ズ に 、 ノ ー ジ ッ ク は ロ ッ ク に 、 そ し て ロ ー ル ズ は ル ソ ー とカ ン トに 」 半 ば 戻 っ て い る と述 べ る の で あ る 。 あ る い は リバ タ リ ア ン の マ リ ー ゼロ ス バ ー

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ドは、 「理 性 と理 性 的探 求 とに基 礎 を置 く自然 法 」 とい う観 念 を受 け入 れ る。 そ して ロス バ ー ドは、 自然 法 理 論 が ジ ョ ン ・ロ ッ ク的 な 個 人 主 義 を有 す る も の と 解 し、 「自然 権 論 的 リバ タ リア ニ ズ ム」 を展 開 す るの で あ る。

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そ こで 、 自然 権 論 に 関 して は 、 か つ て レオ ・シ ュ トラ ウ ス が、 「自然 権 の 否 定 は必 然 的 に 悲 惨 な結 果 に至 ら ざ る を得 な い 」 と説 き、 自然 権 に本 来 備 わ っ て い た 古 代 ギ リシ ア的 か つ ア リス トテ レ ス 的 な 目的 論 的 宇 宙 観 や 目的 論 的 人 間 観 へ

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の 再 考 を促 した 。 また ジ ョン ・フ ィニ ス は、 自然 法 や 自然 権 論 を総 合 的 に考 察 し、 これ まで の 自然 法 や 自然 権 論 に 対 す る 自然 法 批 判 論 か らの誤 りを示 し、 さ らに政 治 、 社 会 、 法 律 、 倫 理 の基 礎 理 論 を統 合 す る よ うな 自然 法 ・自然 権 論 を

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提 示 した。 そ して ロイ ド。L.ウ ェイ ン レ ブ も、 法 哲 学 と政 治 哲 学 との 緊 密 性 を 指 摘 し、 法 実 証 主 義 の 前 提 を再 検 討 して 、 自然 法 と 自由 ・平 等 ・正 義 との 架 橋 を試 み た 。 あ るい は権 利 基 底(right‑based)と い う用 語 が 、 自然 権 と代 替 的 に使 わ れ る場 合 が あ る し、 また 自然権 を権 原(entitlement)と す る考 え方 もあ る。 そ して ロ ー ル ズ は基 本 的 人 権 と自 由原 理 を 、 ノ ー ジ ッ ク は個 人 的 自 由権 と 最 小 国 家 論 を、 ドゥオ ー キ ン は権 利 基 底 的 自由 権 と平 等 原 理 を重 点 に置 い た 。

こ う して 自然 権 論 は、 正 当 な権 原 か ら得 られ 、 基 本 的 権 利 と して の 絶 対 性 を、

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自然 権 は特 色 とす る の で あ るが 、 そ の 際 、 基 本 的 人 権 や 自 由権 に対 して 、 公 共 の福 祉 に よ る国 家 か らの 制 限 や 、 また パ タ ー ナ リズ ム に よ る行 政 か らの制 限 な どが 生 じ る とき、 個 人 と国家 ・行 政 との間 で 軋 礫 が 生 じ る。 そ れ は 自 由 と強 制 とに 関 す る法 哲 学 上 の課 題 で あ り、 また 秩 序 や 安 定 、 さ らに人 間 ら しい 倫 理 的 な歩 み を 、 諸 学 と共 に考 察 す る課 題 で も あ る。

(2)平 和 な 共 生 社 会

多 文 化 社 会 に お い て 、 平 和 な 共 生 社 会 の 実 現 と存 続 は 待 ち望 まれ る こ とで あ る。 そ れ に は第 一に社 会 的格 差 の 是 正 、 第 二 に寛 容 主 義 の啓 蒙 で あ ろ う。 この

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点 、 ウ ィ ル ・キ ム リ ッカ に よれ ば、 「マ イ ノ リテ ィの権 利 が 人 権 と どの よ うに共 存 す るの か 」、 また マ イ ノ リテ ィ の権 利 が 個 人 の 自 由、 民 主 主 義 、社 会 的 正 義 とい っ た 諸 原 理 に よ って どの よ う に制 約 され る の か 」 につ い て 考 察 しな くて は な らな い とい う。 さ らに キ ム リッカ は、 「自 由主 義 と寛 容 とは、 歴 史 的 に も概 念 的 に も密 接 に関 連 して い る」 と述 べ 、 そ れ こ そ西 洋 で の 宗 教 的 な寛 容 に符 合 す

る こ とで も あ る と解 す るの で あ る。

キ ム リ ッカ に よれ ぼ、 文 化 とは 「社 会 構 成 的 文 化(societalculture)」 の こ とで あ る。 す な わ ち それ は、 「公 的 領 域 と私 的領 域 の 双 方 を 内包 す る人 間 の活 動 の す べ て の範 囲 」 に お い て 、 「有 意 味 な 生 き方 を そ の成 員 に提 供 す る文 化 」 で あ

る とい う。 そ の 際 、 価 値 や 正 義 原 理 の共 有 の み で は、 社 会 的 な統 一・に対 して、

必 ず し も十 分 で は な い とキ ム リ ッカ は考 え る。 す な わ ち社 会 的統 一 の 要 素 は、

ア イ デ ンテ ィ テ ィの 共 有 とい う観 念 」 で あ る とキ ム リ ッカ は解 した。 そ の例 と して キ ム リ ッカ に よれ ば 、 ア メ リカ人 た ち に は共 通 の価 値 が な くて も、 互 い に 結 びつ けて い る理 由 は 、 「ア メ リカ 人 と して の ア イ デ ン テ ィテ ィ を共 有 して い る とい う事 実 」 で あ って 、 これ に対 して ス ウ ェ ー デ ン人 とノル ウ ェ ー一人 とは共 通 の価 値 が あ りなが ら も、 国 と して 分 か れ て い る理 由 は 、 「共 有 して い るア イ デ ン テ ィテ ィが な い」 か らで あ る とい う。

この キ ム リ ッカ の 指 摘 の よ う に、 民 族 間 で 、 ま た 多 文 化 間 で 共 有 の ア イ デ ン テ ィテ ィが な け れ ば、 争 う双 方 に平 和 は訪 れ な い こ とに な るで あ ろ う。 そ こで ア イ デ ンテ ィテ ィ は、 どの よ うな もの で あ ろ うか とい う問 題 を考 えね ぼ な らな い。 キ ム リ ッカ に よれ ば、 そ れ は歴 史 、 言 語 、 宗 教 な どの連 帯 的 な共 通 性 が 関

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共生社会 の法哲学

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連 して お り、 それ らは また 「市 民権 をテ ー マ と した彼 らの文 学 や 学 校 の カ リキ ュ ラム に お い て 絶 えず 強 化 され て い る」 と述 べ て い る。

さ て 、 争 い 対 立 し合 う集 団 間 に お い て 、 相 互 に 不 寛 容 な 関 係 に あ り、 ま た そ れ ぞ れ が 固 有 の アイ デ ンテ ィ テ ィ を主 張 して紛 争 状 態 に あ る と き、 そ の 両 者 と

も受 け入 れ る よ う な共 生 領 域 は 、 どの よ うに して 実 現 す るの か とい う問 題 が あ る。 そ れ は ま た平 和 状 態 の創 設 の こ とで あ り、 さ らに平 和 状 態 を到 来 させ るに は 、 そ の 反 対概 念 で あ る戦 争 状 態 を 招 来 しな い こ とに尽 き るで あ ろ う。 そ こで 平 和 とは、 「戦 争 が な くて 世 が安 穏 で あ る こ と」(広 辞 苑)と い う意 味 が まず 与 え られ るが 、 しか し為 政 者 が 強 権 と恐 怖 とに よ り、 また 圧 政 か つ 圧 制 に よ っ て 不 正 義 や 人 権 躁 躍 に満 ち て い るな ら、 い くら戦 い な き秩 序 状 態 を保 持 して も、

そ れ は平 和 状 態 で は な い。 それ ゆ え平 和 状 態 の 内 容 を 問題 に しな くて は な らな

い 。

そ の 際 、 正 義 に適 う戦 争 は どの よ うに考 え るべ きか とい う難 問 が 待 ち 受 けて い る。 す な わ ち正 戦 論 の 可 否 に つ い て で あ り、 ま た 誰 が どの よ うに して 正 戦 を 決 定 で き る の か とい う問題 で もあ る。 この 点 に つ い て 、 ア ル トゥー ル ・カ ウ フ

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マ ン に よれ ば、 「ヒ トラー に 対 抗 す る戦 争 は 、 とに か くそ の 目標 の 方 向 と して は 必 要 で あ っ た し正 当化 され た」 と解 して 、 「正 義 に適 っ た戦 争 」 で あ る正 当 な 防 衛 戦 争 の み を認 め た 。 そ れ ゆ え カ ウ フ マ ン は 、 絶 対 的 平 和 主 義(absoluter Pazifismus)の 立 場 を現 実 的 に考 え れ ば不 可 能 で あ る と解 した が 、 しか し 「 義 に適 っ た核 戦 争 」 まで 容認 す るの で は な い とカ ウ フマ ンは い う。 す な わ ち 「 島 や 長 崎 へ の核 爆 弾 の 投 下 は 、 決 して 正 義 に適 う こ との な い戦 争 行 為 」 で あ っ た とカ ウ フ マ ン は批 判 し、核 兵 器 の 全 面 放 棄 と通 常 兵 器 の 軍 備 を 「で き る だ け 同程 度 の、 低 い水 準 に落 ち着 か せ る こ と」 を 提 唱 した 。 そ して カ ウ フ マ ン は、

正 義 に適 っ た 平 和 」 へ の 道 を考 え、 そ こで は 「生 命 の優 位 」 と 「理 性 あ る者 の

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コ ミ ュニ ケ ー シ ョ ン共 同体 」 との樹 立 が 必 要 で あ る と説 い た。

こ の点 、 敷 術 して言 え ば 、 も し も第 二 次 大 戦 に連 合 国 軍 が 参 戦 し勝 っ て い な か っ た ら、 今 日 ま で も ナ チ ス は続 い て お り、 また ユ ダ ヤ 人 へ の ホ ロ コー ス トも 続 い て い るで あ ろ う。 そ こで 、 人 類 ・民 族 ・国 民 は、 絶 滅 を避 け るた め に 武 力 抵 抗 が 許 さ れ るの か 、 それ と も、 武 力 抵 抗 を拒 否 す るガ ンジ ー 的 な 非 暴 力 主 義 を貫 くの が 、 平 和 へ の近 道 で あ る の か とい う問 題 が待 って い る。 この 点 で イ マ

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ヌ エ ル ・カ ン トに よれ ぼ、 国 家 的 常 備 軍 の 全 廃 を説 い た が 、 但 し 「国 民 が 自発 的 に0定 期 間 に わ た って 武 ・器使 用 を練 習 し、 自分 や 祖 国 を 外 か らの攻 撃 に対 し て 防 備 す る こ とは、 これ とは ま っ た く別 の事 柄 で あ る」 とも述 べ て い る。

確 か に、 世 界 平 和 に とって 非 武 装 化 は 理 想 的 な あ り方 で あ るが 、 現 実 の世 界 に は紛 争 の 火 種 が 各 国 各 地 に あ り、 また い つ 武 力 衝 突 に な るか 、 いつ 戦 争 状 態 に な るか 、 とい う こ とや 、 さ らに い つ 狂 気 に よ る絶 滅 作 戦 が 遂 行 され るか 、 と い う危 険 が 、 今 日 も な お世 界 に は 残 っ て い る と言 え よ う。 そ れ ゆ え他 に と るべ

き手 段 が 全 くな い と き に は、 如 何 に して 人 類 ・民族 ・国 民 を護 る方 法 が あ るの か 、 とい う難 問 が 残 され た 課 題 で あ る。

と き に、 争 い 対 立 し合 う両 陣 営 に とっ て も選 択 で き る よ うな基 本 的規 範 価 値 が あれ ば 、 両 陣 営 の 共 生 は さ ほ ど困 難 で は な い で あ ろ う。 そ れ は共 同 体 で 社 会 生 活 を す る た め の倫 理 ・道 徳 に関 連 す る。 そ こで コ ミュ ニ タ リア ンか ら、 新 し い 黄 金律(TheNewGoIdenRule)が 提 唱 され た 。 す な わ ち ア ミタ イ ・エ チ

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オ ー 二 に よれ ぼ 、 「新 しい黄 金 律 とは 、 自己 の ほ しい ま ま の選 択 と、 美 徳 に則 っ た選 択 との 間 の 乖 離 を埋 め よ う とす る もの で あ る」 と解 して 、 「あ な た は、 社 会

に対 して あ な た の 自律 を尊 重 し支 持 して ほ しい と願 う よ うに 、 社 会 の 道 徳 秩 序 を尊 重 し支 持 しな さ い 」 と説 い た 。 そ して この黄 金 律 が 社 会 で 展 開 さ れ る と こ ろ こそ 善 き社 会 で あ るが 、 そ の 際 、 「善 き社 会 とは、 社 会 的 な美 徳 秩 序 〉 と個 人 の権 利 と を、 と もに 生 か す よ うな社 会 で あ る」 と述 べ る。 さ ら に社 会 に お け

る美 徳 に つ い て エ チ オ ー 二 は、 一 つ は 「自発 性 に も とつ い て形 成 され る道 徳 秩 序 」、 も う一 つ は 「個 人 とサ ブ グル ー プが保 有 す る節 度 あ る 自律 」 で あ る とい う。

す な わ ち 「価 値 規 範 と して の 道 徳 秩 序 と 自律 」 こそ 、 コ ミ ュニ タ リア ン に とっ て は 、 基 本 的 な 美 徳 にな るの で あ る。

エ チ オ ー 二 に とっ て は、 ア メ リカ社 会 に お け るモ ラル の 回 復 が 課題 で あ り、

そ こで コ ミュニ テ ィ にお け る人 格 的 な 関 係 が 重 視 され る。 そ して コ ミュ ニ テ ィ に お い て 人 々 は 、 相 互 に 連 帯 性(solidarity)や 、 また 補 完 性(subsidiarity) を有 し、 さ らに コ ミ ュニ テ ィ で は、 共 有 的 な価 値 が 尊 ぼ れ る。 そ れ は例 え ば、

環 境 保 護 、 生 命 尊 厳 、 健 康 、 安 全 、 人 権 、 伝 統 な どの 諸 価 値 で あ る。 そ して コ ミ ュニ タ リア ン は、 この諸 価 値 を実 現 す る た め に も、 学 習 、 対 話 、 教 育 を 重 ん

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じ る の で あ る 。

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共生社会 の法哲学

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4.お わ り に

以 上 の よ うに本 稿 で は、 争 い 対 立 し合 う両 者 に とっ て 、 どの 価 値 な ら受 け入 れ る こ とが で き るの か 、 ま た は 受 け 入 れ るた め の寛 容 性 が 発 揮 され るの か とい う こ とが 検 討 さ れ た 。 さ ら に争 い 対 立 し合 う両 者 は 、 社 会 的 な諸 価 値 の うち 、 基 本 的 な 価 値 を受 容 で き るや 否 や とい う こ とに 、 対 立 状 態 か ら共 生 状 態 へ の 可 能 性 が あ る と本 稿 で は考 え られ た 。 なぜ な ら基 本 的 な規 範 価 値 が 共 有 され る な

らぼ 、 そ こに は法 秩 序 の確 立 が 可 能 に な るか らで あ る。

そ の点 で 、 ハ ー トの 「自然 法 の最 小 限 の 内容 」、 また ロー ル ズ の 万 民 の 法 」、

さ らに エ チ オ ー 二 の 新 しい 黄 金 律 」 の 考 え方 に は 、 社 会 に お け る基 本 的 な 価 値 規 範 が 提 唱 され て お り、 共 生 社 会 の基 底 で は不 可 欠 な 内容 で あ ろ う。 また そ れ らは社 会 に お け る倫 理 ・道 徳 の基 本 的 な価 値 規 範 を含 ん で お り、 恰 も 自然 法 的 な 命 題 と似 通 っ た 内容 を呈 して い るか の よ うで あ る。 それ ゆ え 法 規 範 や 法 秩 序 の 法 哲 学 的 な支 柱 と して 、 そ れ らの 内 容 は機 能 す る の で あ るが 、 そ の よ うな 法 思 想 を 展 開 す るの が 、 法 実 証 主 義 者 の ハ ー ト、 リペ ラ リス トの ロ ー一ル ズ 、 コ ミ ュニ タ リア ン の エ チ オ ー 二 で あ る点 で 、 相 互 に法 思 想 上 の共 生 関係 が 打 ち 立 て られ た み た い で 興 味 深 い こ とで あ る。

さ らに 、 共 生 社 会 の実 現 化 に は平 和 も不 可 欠 な状 態 で あ り、 そ こで 平 和 状 態 を壊 す 正 義 に適 っ た 戦 争 」 にっ い て も検 討 した 。 す な わ ち正 戦 や 防 衛 戦 争 の こ とで あ るが 、 これ も国 際 社 会 に お け る平 和 な共 生 社 会 を 覆 す要 因 の 一 つ で あ る。 なぜ な ら多 くの戦 争 は、 正 戦 や 防 衛 を理 由 に戦 わ れ た こ とが 歴 史 上 か ら指 摘 で き るか らで あ る。 あ る い は、 共 生 を 拒 否 す る民 族 浄 化 や 大 量 虐 殺 を 防 ぐた め に は、 如 何 な る手 段 を有 す る の か とい う問 題 も困 難 な こ とで あ る。 結 局 、地 球 規 模 の 、 また 世 界 規 模 の グ ロ ーバ ル な平 和 状 態 を実 現 す る道 を、 カ ウ フ マ ン が 示 した よ うに 、 生 命 の優 位 と とも に、 理 性 あ る者 の コ ミュニ ケ ー シ ョ ン共 同 体 の 樹 立 に 向 か っ て 、 諦 めず に歩 み続 け る以 外 に道 は な い で あ ろ う。 そ して何 よ りも平 和 状 態 の 達 成 は知 力 を尽 くして 実 現 され ね ぼ な ら な い。 も しそ う しな い の な らば 、 紛 争 は続 き、 秩 序 の な い 混 乱 社 会 を創 るだ け で あ る。 と同 時 に 知 力 に よ っ て 、 安 定 社 会 を形 成 で き た と して も、 倫 理 と正 義 とが 欠 け た社 会 は 、 平 和 な社 会 とは 呼 べ な い し、 そ こに は共 生 社 会 も創 れ な い で あ ろ う。

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