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(1)

 憲法の立場に無理解な論者は、消費税増税の 根拠として、多額の借金(国債)を減らすため にとか、社会保障の財源として必要などという。

本稿はその誤りを克服し憲法に立脚する税財政 の確立への提言である。

一 財政活動

 日本国憲法 第 7 章は、憲法の章の 1 つである。

「財政」の章名で、日本の財政について規定し ており、83 条から 91 条までの 9 条からなる(注 1)

1 財政政策の重要性

 国や地方自治体は、その存立を維持・発展す るために収入を得て、それを管理・支出すると いう財政活動を行う。憲法は財政について、国 の財政活動は国会で決めて行使する(83 条)、

財政活動を行うために必要な経費をまかなうた めに、国民から強制的に法律に基づき租税を徴 収する(84 条)、国が支出する経費や借入金の 返済は国会で決める(85 条)、国の一会計年度 の収入・支出の見積りである予算もまた国会で 決める(86 条)と規定している。

 財政政策が重視しなければならないのは次の 点である。

 (1) 公共財の供給 道路・公園・下水道や 教育など、人びとの日常生活にとって必要 であり私的には供給がむずかしい公共財を 供給する。

 (2) 所得と富の再分配 所得の多い人ほど 高率の税金を納める累進課税制度を採用し て、分配の平等化をはかる。また、所得分 配が不平等となる原因の一つは、利子・配 当・地代のような所得を生む財産が不平等 に所有されていることにある。そこで、相

続税を課すことによって不平等を是正する。

 (3) 景気の調整 不況期には財政支出を増 大させ、好況期には財政支出をおさえる。

また、不況期には、税収が減るとともに、

社会保障費が増えて需要造出効果がうまれ、

景気に刺激をあたえる。反対に好況期には、

税収が増え、失業対策費などが減って景気 を抑制する。

 (4) 福祉の実現 財政政策は、たんに分配 の平等や雇用の維持だけでなく、豊かで安 定した社会をつくるために、社会保障の充 実をめざして運営する。

2 財政法

 財政法は財政運営の基本原則を定めており、

同法 1 条は、「国の予算その他財政の基本に関 しては、この法律の定めるところによる。」と 規定している。財政は民間企業会計とは異なり、

歳入と歳出をすべて予算に編入することを義務 づける総計予算主義が採用される。

 総計予算主義は、会計年度における収入はそ のすべてを歳入に、支出はすべて歳出に計上す る予算のことである。歳入歳出のすべてを予算 に計上することは、予算を審議する国会(地方 議会) の財政監督および行政部内の監査などを 容易にし、予算執行上の責任を明らかにするこ とになる。日本の国家予算は総計予算主義を とっている結果,収入支出の混同禁止を規定し

ている(注 2)。この禁止される混同とは,各省庁

の長がその収入金を国庫に納付することなく,

ただちにこれを使用することをいい、総計予算 主義に反する。また、地方公共団体の予算も総 計予算をたてまえとし「一会計年度における一 切の収入及び支出は,すべてこれを歳入歳出に 編入しなければならない」としている ( 地方自 治法 210 条 ) 。また、歳出はその年度の歳入に 浦野 広明

国家財政と消費税

(2)

よらなければならないことを定めた会計年度独 立の原則などを規定している。

 財政法は、「国の歳出は、公債又は借入金以 外の歳入を以て、その財源としなければなら ない」(4条)とし、国債の発行を原則として 禁止している。この規定は、戦前の侵略戦争が、

膨大な戦時国債の発行があってはじめて可能で あったことから、財政法制定にさいして設けら れた。憲法の前文および第9条の平和主義に対 応する。

 しかし一方で財政法第4条は「公共事業費、

出資金及び貸付金の財源については、国会の議 決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借 入金をなすことができる」というただし書きを しており、これにもとづき 1966 年(昭和 41 年)

以降、建設国債の発行が始まり、公共投資拡大 を恒常化した。さらに、1975 年度からは、財 政不足から、赤字国債を発行するにいたった。

1947 年から 1964 年までは国債の発行をしてい ないから借金はなかった。消費税率を 10%に 引き上げる口実として「お年寄りも若者も安心 できる全世代型の社会保障制度」への転換とい うが、実際には、全世代を生活苦や将来不安に 陥れる社会保障破壊を進めている。

3 財政法に反する予算編成

 冒頭に述べたが、税のあり方に係る憲法の立 場に無理解な論者は、消費税増税の根拠として、

多額の借金(国債)を減らすためにとか、社会 保障の財源として必要などという。

 表の 2020 年度予算案の税収は 63 兆 5,130 億 円、国債費を除く支出は 79 兆 3,065 億円である。

国債費を除く支出が税収より 15 兆 7,935 億円 多い(赤字)。赤字を穴埋めする新規国債(国 の借金)発行額は 32 兆 5,562 億円と税収入の 51%を超える。借金があれば元金と利息を支払 わなければならない。国債の元金支払償還と利 息の支払は「国債費」という歳出となる。予算 の「国債費」は 23 兆 3,515 円と税収の約 37%

を占める。この予算ではとても社会保障費に回 す金など出ない。この予算構造こそが国債を増 やし社会保障費を削減する元凶である。

 プライマリーバランス(基礎的財政収支)と は、国の財政収支を表わす指標である。①国の 収入のうち、国債発行による収入(つまり国の 借金)を除いたものから、②国の支出のうち、

過去に発行した国債の償還と利払いを除いたも のを比較した場合の収支バランスのことである。

税収入などの本来の収入で、国民のために使わ れるべき支出(地方交付税交付金、社会保障費、

公共事業費など)が、まかなわれているかどう かを示す。プライマリーバランスが赤字の場合、

借金返済(国債費)に追われて社会保障費に回 す金など出ない。将来世代の不安感を醸成する ことになる。

 20 年度予算の税収額は、19 年 10 月の消費税 の増税により、1 位消費税(217,190 億円)、2

2020 年度一般会計予算(2019 年 12 月 20 日閣議決定)

歳入 歳出

税収入 所得税  法人税 消費税  その他税外収入 国債発行

63 兆 5,130 億円(61.9%)

19 兆 5,290 億円(19.0%)

12 兆 0,650 億円(11.7%)

21 兆 7,190 億円(21.2%)

10 兆 2,000 億円 (9.9%)

6 兆 5,888 億円 (6.4%)

32 兆 5,562 億円 (31.7%)

社会保障公共事業 文教科学振興 軍事費その他

地方交付税交付金 国債費 

35 兆 8,608 億円(34.9%) 6 兆 8,571 億円 (6.7%)

5 兆 5,055 億円 (5.4%)

5 兆 3,133 億円 (5.2%)

9 兆 9,605 億円 (9.7%)

15 兆 8,093 億円(15.4%)

23 兆 3,515 億円(22.7%)

合計 102 兆 6,580 億円 (100%) 合計 102 兆 6,580 億円 (100%)

1.建設国債 7 兆 1,100 億円、赤字国債 25 兆 4,462 億円。

2. 国+地方の債務残高は 2020 年度末で 1,125 兆円、国内総生産(GDP)の 197%になる見通し。

(3)

位所得税(19 兆 5,290 億円)、3位法人税(12 兆 650 億円)となった。

 先述のように予算案の税収は 63 兆 5,130 億 円、国債費を除く支出は 79 兆 3,065 億円で、

支出が税収より 15 兆 7,935 億円多く赤字であ る。赤字穴埋めの新規国債発行額は 32 兆 5,562 億円と税収入の 51%を超える。借金があれば 元金と利息の支払(国債費)が生ずる。予算 の国債費は 23 兆 3,515 円と税収の約 37%を占 めており、とても社会保障費に回す余裕がな い。事実、高齢化などに伴う社会保障の増額分 が厚生労働省の概算要求に比べ 1,189 億円も減 額、年金は年金給付額削減策(マクロ経済スラ イド)で減少、75 歳以上の医療の2割負担導入、

介護利用料負担増など、改悪が続く。

 一方で軍事費は5兆 3,133 億円と過去最大で ある。

 憲法 25 条は、社会福祉、社会保障および医 療制度の増進について国の努力義務を規定して いる。自公政権の下では憲法違反の生存権の侵 害政治が進む。

 消費税導入がされ 30 年を経て国民生活は悪 化の一途をたどっている。

4 総計予算主義に反する消費税の還付金  消費税の大きな目的は輸出免税制度である。

輸出売上にはゼロの税率が適用され、一方その 売上に対応する課税仕入の8%は控除される

(ゼロ税率の適用による完全非課税)。トヨタな ど世界中に輸出しているわが国の巨大企業は、

輸出免税制度によって消費税を負担するのでは なく巨額の還付を受ける(注 3)

 わが国の輸出製造業は、輸出免税制度によっ て消費税を負担するのではなく巨額の還付を受 けている(事実上の国庫補助金)。トヨタ自動 車の 2019 年 3 月期の単独決算によれば、表の ように消費税を 1 円も払わず 4,815 億 2,160 万 円の還付を受けている。

 東京新聞によれば、消費税の還付金額は 4 兆 1,000 億円である(19 年 9 月 18 日)。ところが 予算編成では歳入(消費税収)は還付金を差し 引いて計上しており。もちろん歳出には消費税 の還付金額は計上されていない。総計予算主義 に反しているのである。

(注 1)第 7 章は財政に関して次の規定をしている。

第八十三条 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基い て、これを行使しなければならない。

第八十四条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更す るには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

第八十五条 国費を支出し、又は国が債務を負担するには、

国会の議決に基くことを必要とする。

第八十六条 内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提 出して、その審議を受け議決を経なければならない。

トヨタ自動車株式会社の消費税計算(自 2018 年 4 月 1 日至 2019 年 3 月 31 日)

① 課税売上       12 兆 6,344 億円

ⅰ 輸出売上 8 兆 5,458 億円× 0% 0 円

ⅱ 国内売上 4 兆 0,885 億円× 8% 3,270 億 8,000 万円

ⅰ+ⅱ 3,270 億 8,000 万円

② 課税仕入       10 兆 1,075 億 2,000 万円× 8% 8,086 億 0,160 万円

③ 納税額       

①-②(納税ではなく還付) ▲ 4,815 億 2,160 万円

 課税仕入額は売上高の 80%と推算した。

(4)

第八十七条 予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議 決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出すること ができる。

2 すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の 承諾を得なければならない。

第八十八条 すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の 費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない。

第八十九条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しく は団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属 しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、

又はその利用に供してはならない。

第九十条 国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院が これを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、

これを国会に提出しなければならない。会計検査院の組織及 び権限は、法律でこれを定める。

第九十一条 内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少くと も毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない。

( 注 2) 会計法 2 条は次の規定をしている。

 各省各庁の長(財政法第二十条第二項に規定する各省各庁 の長をいう。以下同じ。)は、その所掌に属する収入を国庫 に納めなければならない。直ちにこれを使用することはでき ない。

( 注 3)東京新聞は次のように報じている。「税理士で元静 岡大教授の湖東京至(ことうきょうじ)氏が一七年度の決算 を基に大手企業への利息を除いた還付金額を推計したところ、

トヨタ自動車は三千五百六億円、日産自動車は千五百九億円、

パナソニックは二百二十億円。輸出企業だけが対象になる上、

加算金の高い利率も理由に、湖東氏は『輸出企業を優遇する 補助金と言わざるを得ない』と語る」(19 年 9 月 18 日)。

新自由主義と消費税

1 新自由主義の登場

 1970 年代になり西側諸国では、経済成長の 低下などにより福祉国家体制の根本的見直しの 構造改革論が強くなった。いわゆる、新自由主 義の登場である。

 日本における本格的な新自由主義の訪れは 86 年 4 月の「前川レポート」という形で現わ れた。このレポートの正式名称は、「国際協調 のための経済構造調整研究会報告書」であり、

中曽根康弘首相(当時)の私的諮問機関、経済 構造調整研究会が取りまとめた報告書である。

研究会の座長である前川春雄元日本銀行総裁の 名から前川レポートと呼ばれた。レポートは多 国籍企業本位の「構造改革」を推進する提起と なっており、税制については、「公平・公正・

簡素・活力・選択に加え、国際的見地から見直 すべきである。上記の原則に照らし、貯蓄優遇 税制については、非課税貯蓄制度の廃止を含め、

これを抜本的に見直す必要がある」と述べた。

その立場が消費税導入へと進むことになったの である。

 直接税中心体制を崩すことを先導した中曾根 康弘は 82 年末、田中角栄元首相の支援を受け て総理大臣に就任した。中曽根は、首相就任後 の国会での施政方針演説で、「日本は今、戦後 史の大きな転換点」にあると強調し、「従来の 基本的な制度や仕組みをタブーなく見直す」と 述べた。いわゆる「戦後政治の総決算」であった。

 中曽根は「戦後政治の総決算」を行うのだと して、同時代の米国レーガン大統領や英国サッ チャー首相と同様に新自由主義の政策をとった。

中曽根は首相に就任早々訪米し、レーガン大統 領との会談において「日米両国は運命共同体」

であるとし、ソ連の侵攻がある場合は日本列島 を「浮沈空母」にし太平洋に通じる3海峡を封 鎖すると発言した。また、日本は武器輸出禁止 政策を採っていたにもかかわらず、アメリカの 要請に答え、「安保条約を優先させる。同盟国 たるアメリカに対して技術協力することに何ら 問題ない」として、アメリカに限っては技術供 与を解禁した。さらに、防衛費を大幅に増額さ せた。

 世界で初めて消費税を導入したのは、ドイツ、

フランスである。第 1 次世界大戦の戦費調達の ためだった。軍事力強化を進める中曽根内閣は、

消費税の導入をねらっていた。

 世界資本主義の長期戦略となっている新自由 主義の主な政策は、福祉の切り捨て、税におけ る応能負担原則の廃棄、大企業優遇税制の採用、

などである。消費税増税や庶民増税は、国家に よる賃下げである。労働者の生活を左右する実 質賃金は、国家政策のシステムで決まる。新自

(5)

由主義政策の下で名目賃金と実質賃金の開き は大きくなる一方である。そうなると、名目賃 金の決定交渉にとどまる使用者との賃上げ闘争 のみでは、労働組合の本来の機能さえ果たせな い。手に入るのは、名目賃金だけで、現実の生 活はできなくなる。だからこそ、労働組合運動 が、真に労働者の生活を守るためには、単なる 使用者との賃金交渉のわくをこえて、税金の払 い方と使い方という国家政策レベルの闘争まで 発展せざるを得ないのである。

2 中曾根首相の「公約」

 軍事力強化を進める中曽根内閣は、大型間接 税(消費税)の導入をねらった。中曾根は、86 年 7 月の衆参同時選挙において「大型間接税は やらない」と「公約」し、衆院で 300 議席を獲 得した。中曽根は、同年 12 月、売上税という 名称の大型間接税の導入を決めた。87 年 4 月 の統一地方選挙は、自民党は前年の衆参同時選 挙で「大型間接税はやらない」といいながら公 約に違反したので、国民は怒り、自民党を統一 地方選挙で敗北に追いやった。売上税は 87 年 5 月には廃案となり、中曽根内閣は 87 年 11 月 6 日に総辞職に追い込まれた。

 中曽根は次の自民党総裁に竹下登を指名した。

中曽根内閣の後に登場した竹下登内閣(87 年 11 月 6 日~ 89 年 6 月 3 日)は、87 年 12 月の 閣議において防衛費のGNP(国民総生産)1%

枠撤廃を決定し、防衛費が対GNP比 1 パーセ ントを突破する予算を組んだ。竹下内閣は、中

曽根が大型間接税はやらないと国民をだまして 獲得した 300 議席を力に 88 年 12 月 24 日、公 約違反の国税である税率 3%の消費税導入を強 行成立させた。

 89 年の消費税導入以来、消費税の税収は累 計 372 兆円であるのに対して、18 年度までの 法人3税(法人税・法人住民税・法人事業税)

の減税額は累計 291 兆円。つまり消費税の税収 の大部分が法人税減税の穴埋め(と軍事費)に 消えている。

3 参院選挙での安倍首相発言

 安倍晋三首相は参院選挙の第一声で「経済を 強くすれば税収だって増えるんです。税収は今 年、過去最高になった」と述べた(19 年 7 月 4 日)。税収が金持ち優遇の法人・所得税の減税分 を、消費増税で生活弱者に押しつけている構図に は一言も触れない。18 年度の国税収入は過去最 高を記録しているが、増えたのは国民に負担を押 し付けた消費税である。

 安倍内閣が「消費税(の増税分)をすべて還 元する規模の対策を講じる」と胸を張る総額 2.3 兆円の増税対策もマスコミと電子産業、金融業を 潤すものに過ぎない。

 キャッシュレス決済すれば、購入額の最大5%

をポイント還元する制度は 19 年 10 月から 20 年 6 月まで。たった 9 カ月間で終わる上、対象は中小 小売業者からの購入に限られる。低所得者や子 育て世帯が 2 万 5,000 円分の買い物可能な商品券 を、2 万円で購入できる「プレミアム付き商品券」

1990 年度と 2019 年度の主な国税収入の比較

税目 1990 年度決算① 2020 年度政府予算案② 増減(①-②)

所得税 26 兆 0,000 億円 19 兆 5,290 億円 ▲ 6 兆 4,710 億円

法人税 18 兆 4,000 億円 12 兆 0,650 億円 ▲ 6 兆 3,350 億円

小計 44 兆 4,000 億円 31 兆 5,940 億円 ▲ 12 兆 8,060 億円

消費税 ( 3%) 5兆 8,000 億円 ※ (7.8%)21 兆 7,190 億円 15 兆 9,190 億円 50 兆 2,000 億円 53 兆 3,130 億円 3 兆 1,130 億円  ※地方消費税(2.2%)含めると、10%= 27 兆 8,449 億円となる。

(6)

の発行は、20 年3月で終了。他の対策も1~2年 間限定で、負担増の痛みを先延ばしたに過ぎない。

4 証券への誘導と安倍政権高支持率  2003 年度〈平成 15 年度〉税制改定は、上場 株式の配当や売却益所得については分離して、

10%(所得税:7%、地方税:3%)の課税とし た(証券優遇税制)。この税率は 2014 年〈平成 26 年〉1 月から 20%(所得税:15%、地方税:5%)

になった(その他に復興特別所得税が 13 年か ら 25 年間所得税額に 2.1%が上乗せされる)。

 資本主義における経済の発展がつくりだす所 有の特徴は、生産手段の所有と労働の分離であ る。そして、労働生産物に対する所有は、生産 労働をするものではなく、生産所有者に帰属す る。この資本主義的所有は、労働から分離され た、労働にもとづかない所有であり、他人の労 働の支配と搾取にもとづく所有である。資本主 義的所有のもとでは、所有権の不可侵性や自由 を強調する思想は、他人の労働の支配と搾取の 自由を公認し、他人の生活を脅かす自由を擁護 するものとなる。

 さて、資本の集中と独占の形成を担保するの は「株式会社」である。株式会社が社会で大き な役割を演ずるようになると、所有の機能は変 化する。株式会社が大手を振るうようになると、

企業に投資し予測できない危険を負う者と、そ の企業を経営し、利潤を追求するものとが分 離する。この二つの機能は株式会社の巨大化に よって、消極的株所有と、積極的株所有とに分 裂する。

 消極的株所有は、企業に投資し危険を負うが、

企業経営には関係せず、責任も持ちえない所有 である。積極的株所有は、逆に、現実に企業を 支配し、経営を管理する所有である。この所有 の分裂に対応して、経営者と結びつき、経営を 支配する少数の株主が現れ、他方に経営と切り 離された株主大衆が出現する。

 株主大衆にとって、ささやかな資本所有(株 式所有)は、人間を金利生活者(預金や債券の 利子、株式配当で生活する人)の地位におとし いれる機能しかもちえない。独占企業(大企業)

を支配する大資本家は、無力な庶民の零細なお 金をかきあつめ、これを資本集中の手段として 利用すると同時に、「無力」な庶民の意識を、「無 力」どころか、小資本家的意識ないし小所有者 意識にかりたて、私有財産制につなぎとめる手 段として利用する。

 貯蓄から投資への政策は、庶民に小資本家的 意識を持たせ、政権の支持率を下落させない役 割をはたす。

5 消費税の歴史

 消費税の税率は、19 年 10 月以後 8%から 10%に上がった。年間所得が 200 万円と 1,000 万円の人が、100 万円の消費をして、10%の消 費税を仮に 10 万円負担した場合、所得に占め る消費税負担割合は、前者が 5%、後者は 1%

である。高所得者に比べて低所得者に重く憲法 14 条(法の下の平等)に違反する。  売上税 は取引高税、製造者売上税、卸売売上税、小売 売上税、付加価値税、消費税などのように企業 の売上を課税標準として賦課される税の総称で ある。

 売上税は、第 1 次大戦〔1914 年~ 1918 年〕

前には主要諸国の税制にはなかった。16 年に ドイツが導入し、大戦末期から戦後の数年間広 く各国で採用された。

 日本では、37 年、馬場税制改革案(大蔵大 臣馬場鍈一の名前から馬場税制改革案と称され た。)において、売上金額の0.1%(百貨店は0.

3%)を課税する取引高税として提案されたが、

実現しなかった。後の税制改革に大きな影響を 与え、第 2 次大戦後の 1948 年に取引高税とい う形で実行された。

 

(7)

わが国における消費税の動き

首相 摘要

広田弘毅 林銑十郎 近衛文麿

1937  取引高税が戦費調達を目的として案出されたが、政情不安から議会には 上程されなかった。

東條英機 1943  日本経済連盟会調査部編『戦時税制の諸問題』(産業図書株式会社 1944 年 9 月 15 日)には、日本経済連盟会・同税制問題会が「売上(取引)税 の新設について」各社の意見を聞いている(1943 年 8 月)。以下は、各社 意見のうちの反対意見である。

▲所得税があるので新設不要(鉄鋼)▲悪税なり(金属)▲一般取引税の 新設は最も優良な税源だが現行物品税で充分(石炭)▲物価高を招く(石油・

機械)▲買方に課すならいいが、売方にはだめだ(車両製造)▲法人につ いては不可。個人には可(化学工業)▲煩雑に耐えない(セメント)▲物 価が上がる(製粉)▲何度も立ち消えた。売上という外形標準にとらわれ 収益を考慮していない(製糖)▲利益に課税する(瓦斯)▲現行物品税と 競合(海運・鉄道)▲人件費の増加を来たす(商事)▲物価引き上げのお それ(銀行)▲結局消費者に転嫁(その他)

芦田均 1948  取引高税という名称の消費税が、米軍占領下の 1948 年 9 月に導入され

た。すべての売上に 1%を課した。売主は領収書に取引高税印紙を貼り消 印をして買主に渡すこと、一方で買主は売主から取引高税印紙を貼った領 収書を受け取ることが義務付けられた。罰則も過酷なもので、逋脱(ほだ つ:税をのがれること)額の 20 倍の罰金、情状によっては 5 年以下の懲 役若しくは逋脱額の 20 倍を超え 40 倍以下の罰金が課された。商工業者 は1%の税負担と取引高税印紙を貼った領収書発行事務が困難で猛反発を した。

 苛烈な税の廃止を求めた日本共産党は 49 年の総選挙で 4 議席から 35 議席へと大躍進をしたことが要因となり取引高税は 1 年 4 か月で廃止と なった。 

吉田茂 1950  50 年のシャウプ税制において、一般消費税ではないが、企業税として

事業税に代わる「付加価値税」が府県税として法制化されたが、一度も実 施されないで、54 年に法律から削除。

佐藤栄作 1968  68 年から 71 年にかけて政府税調は、EC型付加価値税を検討したが国

民の猛反対によって国会提出を断念。

大平正芳 1979  79 年度税制改正大綱で大平正芳内閣は一般消費税の導入を決定し、総

選挙(同年 10 月)で「一般消費税導入」をとなえた。総選挙の結果、自 民党が惨敗し、一方で日本共産党・革新共同が 17 議席から 41 議席に躍 進し、導入を断念。

(8)

中曽根康弘 1986  86 年 7 月の衆参同時選挙において自民党中曾根内閣(82 年 11 月 27 日

~ 87 年 11 月 6 日)は「大型間接税はやらない」と公約、衆院で 300 議 席を獲得した。ところが、同年 12 月「売上税」導入を決めた。反発は大 きく 87 年 4 月の統一地方選挙で自民党が敗北、5 月に廃案。87 年 11 月 6 日中曽根内閣は総辞職し、中曽根は次の自民党総裁に竹下登を指名。

竹下登 1988  88 年 12 月 24 日、大型間接税はやらないとして獲得した、300 議席を 力にして、竹下登内閣(87 年 11 月 6 日~ 89 年 6 月 3 日)は、公約に違 反する消費税導入を柱とする税制改革法案を強行成立させた。消費税導入、

リクルート事件(未公開株をめぐる贈収賄汚職)の影響により、追及され る場面が増えた竹下内閣は、88 年 12 月 27 日に内閣改造を行った。しか し、わずかひと月の間に、リクルートとの不適切な金銭問題を指摘された 2 大臣が辞任することとなった。そして、消費税導入やリクルート事件へ の世論の反発で、末期には内閣支持率が 5%前後と歴史的な低支持率を記 録。89 年 6 月に退陣に追い込まれた。

村山富市 1994  94 年 11 月 25 日、社会党委員長である村山富市内閣 ( 自民、社会、新 党さきがけ連立、94 年 6 月 30 日~ 96 年 1 月 11 日 ) の手によって、消 費税が 3%から 5%(1%は地方消費税)に引き上げられた。増税の実施 は 97 年 4 月 1 日(附則一条)となっていたが、増税法の附則は 96 年 9 月末を期限とした「検討(見直し)条項」を定めていた。検討条項は、消 費税と新設される地方消費税の税率について、「社会保障等に要する費用 の財源を確保する観点、行政及び財政の改革の推進状況、租税特別措置等 及び消費税に係る課税の適正化の状況、財政状況など」を総合的に勘案し て検討を加えるとしていた(平 6 法 109 附則 25 条、平 6 法 11 附則 12 条)。

96 年 5 月 12 日付の朝日新聞の社説は、「5%への増税と来春の実施を当 然視し、いまの時期に固めきってしまうのは問題だ。消費税法を改正した ときに盛り込まれた検討項目の論議が不十分なまま、政治的思惑から既成 事実化を急いでいるように見えるためだ」として検討(見直し)をしない ままの 5%アップに疑問をなげかけていた。見直しについては、増税法を 成立させた村山首相自身が、「引き下げ可能なのか等々もふくめて十分検 討せなきゃならぬといふうに思っております」(衆議院「税制改革に関す る特別委員会」94 年 10 月 24 日)と約束していた。しかし、約束を果た さず 96 年 1 月 11 日突然辞任(自民党の橋本龍太郎が後継首相になった)。

同月党名を社会民主党に変更し、党首となるが、9月に退任。高齢によ り衆議院議員を辞職。96 年 10 月 20 日に行われた衆院選挙で社民党が 30 議席から 15 議席に半減した。

橋本龍太郎 1997  97 年 4 月 1 日からの消費税の増税について橋本内閣は、附則が 1996 年 9 月末を期限としていた「経済条項」、を無視して(3%から5%)を 強行した。自民党(橋本龍太郎首相)は 98 年の参院選挙で改選 65 議席 が 44 議席と惨敗。橋本内閣は総辞職した。

09 年度税制改正大綱で自公政権は「消費税を含む税制抜本改革を経済状 況の好転後に速やかに実施」するとした。

(9)

麻生太郎 2009  09 年度税制改正大綱で自公政権は「消費税を含む税制抜本改革を経済 状況の好転後に速やかに実施」するとした。

 総選挙(09 年 8 月 30 日)で自民は公示前 300 議席から 119 議席と惨敗、

公明は 31 議席から 21 議席に。民主党(115 議席から 308 議席)が政権 を得た(09 年 8 月 30 日)。

野田佳彦 2012  2012 年、民主党は消費税増税(5%を 8%そして 10%にする)を決めたが、

衆議院選挙で 230 議席から 57 議席に(2012 年)、参院選挙で改選議員が 44 議席から 17 議席に(2013 年)激減した。

安倍晋三

2014  4 月税率8%に引き上げ。

2014  11 月、15 年 10 月の引き上げを 17 年 4 月 1 日に延期。

2015  経済条項廃止

2016  6 月、17 年 4 月 1 日の引き上げを 19 年 10 月に延期。

2019  10 月、10%に増税。

6 ポツダム宣言とシャウプ勧告

 米・英・中は 1945 年 7 月 26 日、ポツダムに おいて、日本に対する降伏勧告および戦後処理 方針の宣言をした(のち、8 月 8 日、ソ連参戦 と同時に参加)。

 宣言は日本の軍国主義の除去、軍事占領、主 権の制限、戦争犯罪人の処罰、再軍備禁止など について表明した。日本は 45 年 8 月 15 日に宣 言を受諾して連合国に無条件降伏した。太平洋 戦争後の日本を占領・管理するための最高司令 部としてGHQ(General Headquarters 連合 国最高司令官総司令部)が 45 年東京に設置さ れた(GHQは 1952 年サンフランシスコ講和 条約の発効で廃止された)。

 連合国最高司令官の要請によってアメリカか ら来日したシャウプ博士を団長とする税制視察 調査団はわが国の税制および税務行政について 調査し、勧告書を提出した(1949 年)。同調査 団は 50 年にも来日し、第2次勧告書を提出し ている。これら第 1 次および第 2 次勧告書が

「シャウプ勧告」と呼ばれる。

 勧告書は税制全般について理論的、実務的な 面から詳しく検討したもので、わが国の第2次

大戦後の税制を知る上で重要な文書となってい る。北野弘久教授はシャウプ勧告の特徴につい て、①所得税、富裕税などの直接税中心主義を 明確にした、②不公平税制を基本的に許容しな い形での応能負担・公平課税の原則採用、③地 方自治の尊重、④税務行政の民主化・合理化、

の4点にあったと述べている(「シャウプ勧告 と戦後日本税制」『経済』新日本出版社、2005 年 5 月)。

 シャウプ勧告は 1950 年の税制改正でほぼ全 面的に採用され、一定の民主的側面を持った。

しかしその後の日本税制はシャウプ勧告の民主 的側面を崩壊させる道をたどっている。 

 シャウプ勧告によって、第2次大戦後の日本 税法は、直接税(国税においては法人税、所得 税)を中心とする体系が曲がりなりにも、消費 税導入まで 40 年近く続いた。

 消費税率を 10%にする直前の 19 年 7 月 21 に行われた参議院選挙は次の結果を残した。

(1)全国 32 の1人区のすべてで野党統一候補 を実現し、10 の選挙区で大激戦を制して勝利 した。6年前の参議院選挙では、1人区で野党 が獲得した議席は2議席だった。多くの自民党 現職議員を打ち破って 10 議席に躍進した。

(10)

(2)野党統一候補の得票が、4野党の比例票の 合計を上回った選挙区は、3年前の 28 選挙区 から 29 選挙区に拡大した。

(3)自民・公明・維新などの改憲勢力が、改憲 発議に必要な3分の2を割った。自民党は改選 比で9議席を減らし、参議院での単独過半数か ら大きく後退した。16 年の参議院選挙で、改 憲勢力は、衆議院に続いて参議院でも3分の2 を獲得、自民党は 27 年ぶりに参議院での単独 過半数を獲得していた。

三 税と日本国憲法

 近代市民社会の成立前は、封建領主や国王 が、国民の自由や財産に対して勝手に干渉して いた。このような封建社会を倒したのが市民革 命(ブルジョア民主主義革命)である(たとえ ば 1789 年のフランス革命)。市民革命によって 国民を代表する議会が税法を作ることになった。

このような歴史を経て、日本国憲法にも法律に よる納税(30 条)と法律による課税(84 条)

の原則が規定された(注1)

 国民が尊重される税制は、税の支払い方と税 の使い方(広義の納税者の権利)において憲法 の精神を生かすことによって実現する。税制に ついて述べる論者の大半は憲法の観点が欠けて いる。

1 応能負担原則〈応能原則〉(憲法に基づく 税負担のあり方=能力税原則)

 憲法に基づく税負担のあり方は応能負担原則

(応能原則)と呼ばれる。この原則は、税は負 担する能力に応じて支払うものであるとする決 まりである。 根拠とする主な憲法条文は、「個 人の尊重・幸福追求権」(13 条)、「法の下の平 等」(14 条)、「生存権」(25 条)、「財産権」(29 条)などである。憲法 13 条は、「すべて国民は、

個人として尊重される。生命、自由及び幸福追 求に対する国民の権利については、公共の福祉 に反しない限り、立法その他の国政の上で、最 大の尊重を必要とする。」と述べている。この 規定は、自由と人権が長い期間にわたる世界諸 国民の絶えざる努力によってかちとられたもの であることを忘れてはならないと強調している。

応能原則という人権はそれを主体的に追求する 権利を行使する者のうえに訪れる(つかみとる 権利)。 

 応能原則は具体的に次の点を重視する。

 (1)直接税(所得課税)を中心に据える。 

 (2)各種所得を総合(一つにまとめ)して、所 得が多くなるに応じて高い税率を課す累進 課税を採用する。

 (3)生計費には課税しない。

 (4)勤労所得には軽い課税、不労所得には重い 課税をする。

 憲法を尊重するならば、国税、地方税、社会

国保税額比較

年間国保税額(2019 年度)

2 人世帯所

得 200 万円 所得に占め

る割合 4 人世帯所

得 200 万円 所得に占め

る割合 4 人世帯所

得 300 万円 所得に占め る割合

蕨市 190,500 円 9.5% 197,700 円 9.9% 295,500 円 9.9%

川口市 287,800 円 14.4% 327,000 円 16.4% 474,300 円 15.8%

戸田市 268,000 円 13.4% 298,400 円 14.9% 437,200 円 14.6%

草加市 259,900 円 12.8% 289,100 円 14.5% 425,500 円 14.2%

さいたま市 285,900 円 14.3% 327,000 円 16.4% 475,800 円 15.9%

2 人世帯:45 歳の夫婦。4 人世帯:夫 45 歳、妻 45 歳(専業主婦)、子ども高校生 1 人、中学生 1 人。資産割ゼロで計算。軽減 される世帯は軽減後の額。

出所:大桑雅彦・川口民主商工会事務局長(『NO消費税』2019 年 9 月 25 日)

(11)

保険料(限定使途の目的税)などは、すべて応 能原則にかなったものにしなければならない。

2 税の使途原則

 憲法は、全世界の国民が平和のうちに生存す る権利を有することを確認(前文)し、国権の 発動たる戦争の永久放棄・戦力不保持および国 の交戦権の否認(9 条)、生存権(25 条)をう たっている。平和と生存権を重視している憲法 の下での税金使途原則は「全部の税が福祉社会 保障目的税」となる。国民が「納税の義務を負 う」(憲法 30 条)のは、払った税金が平和に生 存するために使われることを前提にしている。

 市政においても税の使途原則を活かすことに よって、国保税の負担は異なる。

3 所得再分配

現代社会は市場競争で勝ったものが多くの富を 手にする。競争の勝者と敗者との間に貧富の差 が生ずるのは必然の帰結であり、財産(富)の 偏在や所得の配分の不平等が避けがたい。この 状態を放置すると、所得の不平等な分配が拡が るので、富の再分配(所得再分配)が要請され ることになる。

所得再分配は、租税・社会保障・福祉・公共事 業などによって、社会の中で富を移すことにな る。所得再配分は、多額の所得や資産に対して 累進的に課税することで得た富を、社会保障や 福祉などを通じて弱者に移すことである。公共 事業で雇用を創出し所得をもたらすのも一種の 所得再分配といえよう。裏を返せば所得再分配 は、社会に存在する富に対して個人が分け前を 請求する権利である(社会権)。

4 米国の法外な要求

 政府は 19 年 12 月27日、中東への自衛隊派 兵を閣議決定した。防衛省設置法4条の「調査・

研究」に基づくもので、国会審議も経ないまま、

トランプ米政権(トランプ)の対イラン有志連 合構想への参加要請に事実上、応えるものであ る。国会承認は必要とされておらず、歯止めの ない派兵拡大につながる恐れがある。

 米軍は 20 年 1 月2日トランプの指示で無人

機によりイラクを攻撃し、イラン革命防衛隊の ソレイマニ司令官を殺害した。国連のグテレス 事務総長は3日、報道官を通じて発表した声明 で、事態の激化に「深い懸念」を表明。「各国 指導者は最大限の自制をすべき時だ。世界には、

新たな湾岸戦争に対応する余裕などない」と警 告した。

 在日アメリカ軍の駐留経費の日本側の負担、

いわゆる「思いやり予算」をめぐり、アメリカ のメディアは、ことし7月、トランプ政権の高 官が4倍に増やすよう日本政府に求めたと報じ た。それによると、ことし7月に日本を訪れた 当時のボルトン大統領補佐官が、在日アメリカ 軍の駐留経費の日本側の負担「思いやり予算」

を、現在の年間およそ 20 億ドルから4倍の 80 億ドル、日本円にしておよそ 8700 億円に引き 上げるよう日本側に求めたという(アメリカの 外交専門誌、「フォーリン・ポリシー」19 年 11 月 15 日)。

 「思いやり予算」をめぐっては、5年ごとに アメリカ側と特別協定を結んでいて、日米両政 府は来年、交渉を行うが、大幅増額につながる 危険がある。途方もない要求を突き付けられる こと自体、安倍晋三政権がみくびられているこ とを示している。安倍政権の対米追従外交が招 いた深刻な事態である。

 19 年 11 月1日における米ミシシッピ州での 選挙集会でも、トランプ氏は、裕福な同盟国を 防衛するために米国民の負担で米軍を駐留させ ていると不満を示し、「これらの国は金を払わ なければならない」と強調している。しかも、

トランプ氏はこの時、安倍首相との会談にも言 及し、「日本の首相には大きな敬意を抱いてい るが、首相に『長年どうやってこのこと(駐留 経費の支払い)から逃げ切れたんだ』と尋ねた ら、彼はちゃんと答えられなかった」と述べ。

 安倍政権はこれまでもトランプ氏の言われる ままに、もともとは「防衛力整備計画」に入っ ていなかった陸上配備型ミサイル迎撃システム

(イージス・アショア)や、105機もの最新 鋭ステルス戦闘機F35など、超高額な米国製 兵器の大量購入を決めている。「イージス・ア ショア」は総費用 6,000 億円以上とされ、北朝

(12)

鮮からハワイ、グアムなどに向かう弾道ミサイ ルを監視・迎撃する「米国防衛」のためのもの である。

 憲法違反の安保法制=戦争法が施行され、ア メリカが起こす戦争に自衛隊が参戦する危険が 高まっている。

 安倍政権は「イージス・アショア」をはじめ、

「いずも」型護衛艦にステルス戦闘機F35B を搭載するための「空母化」など「専守防衛」

の建前さえかなぐりすてる大軍拡を進めている。

その規模は、5年間で 27 兆 4,700 億円もの軍 事費を投入するというもの。しかもこの大軍拡 は、トランプ米大統領のいいなりに米国製高額 兵器を「爆買い」するものである。

 日米貿易協定(19 年 11 月 19 日衆院本会議 で可決)でも、米国産農産物は関税を撤廃・削 減するのに、日本製自動車の関税撤廃は見送る という一方的な譲歩をしている。トランプ氏 べったりの安倍首相が米軍駐留経費負担の大幅 増額でも狙い撃ちされているのは明らかである。

 米軍基地の日本人従業員の労務費や施設整備 費などからなる「思いやり予算」は、19 年度 予算で 1,974 億円に上る。このほか、沖縄県の 辺野古米軍新基地建設など「米軍再編関係経費」

1,679 億円や、「SACO(沖縄に関する特別行 動委員会)関係経費」256 億円も計上している。

これらは、在日米軍の維持経費を「日本国に負 担をかけないで合衆国が負担する」と明記した 日米地位協定に反する(注 2)

 もともと在日米軍は、「海兵遠征軍」や「空 母打撃群」などの海外遠征部隊であり、「日本 防衛」を任務にしていない。来春には21年度 以降の「思いやり予算」に関する特別協定の日 米交渉が本格化する。「思いやり予算」は廃止 が当然、大幅な増額を受け入れる道理はない。

(注1)1889 年(明治 22 年)2 月 11 日、大日本帝国憲法(明 治憲法)発布。帝国議会が 1890 年(明治 23 年)11 月 29 日(第 1 回 128 年前)~ 1947 年(昭和 22 年)3 月 31 日(92 回)ま で行われた。1946 年(昭和 21 年)11 月 3 日、日本国憲法が 公布、1947 年施行。1947 年 4 月 20 日第 1 回参院選、同4月 5日衆院選実施。1947 年 5 月 20 日、日本国憲法に基づき第 1 回国会召集。

(注 2)朝日新聞は次のように報じている。

最新鋭ステルス戦闘機F35の生産拠点となっている米ロッ キード・マーチン社のテキサス州フォートワースの巨大な工 場では、最終組み立て段階の機体がずらりと並ぶ。工場内は 機密情報があらゆるところにあるため、取材許可の確認に 30日を要し、撮影ポイントも1カ所に限定された。

 F35は計3359機が製造される予定で、日本を含め 13カ国が導入する。日本は米国に次いで多い147機を導 入する方針で、総額6.7兆円かかる見通しだ。一方、米国 では巨額の維持費や部品供給の不備などが課題となっている。

各国に「バイ・アメリカン(米国製品を買おう)」を迫るト ランプ米大統領の思惑も指摘される。(19 年 11 月 22 日)

四 総合累進課税による税収

 応能負担原則による総合累進課税で次の税収 が確保できる。

1 所得税

(1)申告所得税

 74 年当時に適用されていた税率を適用する と新たに 13 兆 3,797 億円の税収が確保できる。

(2)源泉所得税

 消費税導入前の源泉分離課税(35%)を 17 年度に当てはめると 5 兆 5,041 億円の増収とな る。

(3)相続税

 相続税の機能の一つは、被相続人が生存中に 受けた税制上の優遇措置によって蓄積した財産 の清算する所得税の補完税的役割、もう一つは 富の過度な集中抑制である。相続税は累進税率 を適用して富の再分配を行うという役割をにな う。相続税が採用している累進税率の一種であ る超過累進課税は、課税対象に段階的な区分を 設け、その段階ごとに異なる税率を適用する方 式である。15 年から相続税の最高税率は 50%

から 55%になった(課税価格 6 億円超)。この 改定は富裕層増税だといえない。なぜなら、相 続税の税率は、2002 年まで 10%、15%、20%、

25%から出発して、各相続人の法定相続分が 5 千万円超~ 1 億円以下= 30%、1 億円超~ 2 億

(13)

円以下= 40%、2 億円超~4億円以下= 50%、

4億円超~ 20 億円以下= 60%、20 億円超=

70%だった。相続税の税率は、2003 年から引 き下げられ、10%からはじまり、5千万円超~

1億円以下= 30%、1億円超~3億円以下=

40%、3億円超= 50%と改定された。それに よって、20 億円超の相続税率が 70%から 50%

へと 20%もの巨額減税となったのである。

 15 年から税率を少し変えても、依然として 上の部分の税率は低く、富裕層優遇となってい る。富裕層増税というなら、憲法の応能負担原 則に則り超高額相続における相続税の累進構造 強化をすべきである。

土地の相続税評価額は土地の売却額に基づき

算定されているが、土地がどのように利用され ているかによって評価額を決めるべきである。

応能原則からいえば売ることを予定しない生存 権的財産は非課税にする、そして大きな利益を 生む巨大ビルの敷地はその収益を基準に評価額 を定めることが重要になる。

5 億円超~ 100 億円超の相続財産にについて 88 年の相続税の最高税率を摘要すると、1 兆 1,079 億円(2,094,489 百万円- 986,513 百万円)の増 収となる(課税価格を課税遺産額とみなした)。

2017 年分申告所得税額の概算計算(1974 年の超過累進税率適用)

課税所得階級 税率

課税所得金額①

単位:億円 所得階級別

税率%② 納税額 ①×② 単位:億円

120 万円以下 12 3,426 11 376

300 〃 18 52,303 14 7,322

500 〃 24 50,492 17 8,583

1,000 〃 38 76,471 25 19,117

2,000 〃 50 73,908 36 26,606

6,000 〃 65 71,163 52 37,004

8,000 万円超 75 87,373 75 65,529

合計 41 兆 5,136 16 兆 4,537

(注 ) 1. 国税庁統計情報に基づき計算した。

   2. 納税額は億円以下切り捨て。

   3. 2017 年度予算の申告所得税の概算収入額は 3 兆 740 億円である。74 年の超過累進税率を適用すれば 13 兆 3,797 億円の税     収が確保できる。

   4. 所得階級別税率:中林健次郎『所得税精説』(酒井書店 1976 年)

消費税導入前の源泉分離課税による 2107 年度(平成 29 年度)増収額(単位:百万円)

①支払金額 ②実際源泉

徴収額 ③ 35%源泉

(①× 35%) ④増収額

(③-②)

利子所得 2,222,172 357,624 777,760 420,136

配当所得 24,722,424 4,292,488 8,652,848 4,360,360

特定口座株式譲渡 所得金額

3,661,389 557,872 1,281,486 723,614

合計 30,605,985 5,207,984 10,712,094 5,504,110

(注)国税庁統計情報に基づき計算した。

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