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地 方 自治体財政 の情報公 開 とその可能性

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(1)

地 方 自治体財政 の情報公 開 とその可能性

蘭越 町バ ラ ンス シ ー トを手 が か りに

は じ め に

私 が 蘭 越 町 か らバ ラ ンス シ ー ト(貸 借 対 照 表)作 成 につ い て の 相 談 を 受 け た の は,一 昨 年(平 成11年)の 夏 だ っ た 。 当 時 も今 も余 り変 わ らな い が,地 方 自 治 体 の 財 政 制 度 で あ る とか 会 計 組 織 な どに つ い て ほ と ん ど研 究 す る機 会 もな く,そ ん な私 に何 を 聞 こ う と して い る の か,当 初 は本 当 に戸 惑 っ た 。 詳 し く話 を伺 う と,平 成10年 か ら蘭 越 町 の 財 政 課 職 員 が 中心 に な って,独 自の バ ラ ンス シ ー ト作 成 に着 手 して い た と の こ とで あ る 。 しか し,元 々町 の財 政 に は通 じて い て も企 業 会 計 に は疎 い の で 自信 が ない 。 そ こで 出 来 上 が っ たバ ラ ンス シ ー ト を見 て 欲 しい,で き れ ば バ ラ ンス シー トは 町 に と っ て も大 事 で あ る こ とを 講 演 して欲 しい,と い う依 頼 だ っ た。

私 自身 に とっ て も勉 強 と な る い い 機 会 だ っ た の で,本 学 の 松 本 康 一 郎 教 授 に 依 頼 して,松 本 教 授 が 中心 と な っ て,山 本 真 樹 夫 教 授,渡 辺 和 夫 教 授,籏 本 智 史 助 教 授 を巻 き込 ん で 蘭越 町 のバ ラ ンス シ ー トを改 善 す る プ ロ ジ ェ ク トが結 成 さ れ た 。 以 降2年 ほ ど蘭 越 町 バ ラ ンス シ ー トと も 関 わ っ て き たが,よ うや く地 方 自治 体 を取 り巻 く環 境 の 変 化 や 財 政 状 況 の 悪 化 を理 解 して きた 。 蘭 越 町 の 動 きは 決 し て偶 然 とい うか,話 題 づ く りだ け が 目的 な の で は な く,根 底 に一 つ の 狙 い が あ る こ と に気 づ い た 。 現 に バ ラ ンス シー トを作 成 す る 自治 体 はそ の後 相 次 い で お り,自 治 省(現 総 務 省)か ら も地 方 自治 体 が貸 借 対 照 表 を作 成 す る 際 の ガ イ ドラ イ ン「地 方 公 共 団体 の 総 合 的 な財 政 分 析 に関 す る調 査 研 究 会 報 告 書 」

(以 下 自治 省 ガ イ ドラ イ ン と略)が 昨 年 発 表 され た。 そ の 上 で ま だ そ の 試 み は

〔249〕

(2)

途 上 で あ り,決 して 成 功 した と は言 い切 れ な い とい う こ とに も気 づ か さ れ た 。 そ こで 本 稿 で は 蘭 越 町 のバ ラ ン ス シ ー トだ け を取 り上 げ る の で は な く,地 方 自治 体 を取 り巻 く近 年 の情 勢 を理 解 した 上 で,何 を改 善 して い くべ きか を検 討 す る。 こ こで い う地 方 自治 体 は,都 道 府 県 とい う よ りも も う少 し小 規 模 な 市 町 村 を対 象 とす る 。

地方財政危機の実態

東 京 都,大 阪 府,神 奈 川 県 な どの 大 都 道 府 県 の 「倒 産 」の可 能 性 が 噂 され る。

同時 に 「倒 産 」 の 危 機 を 回 避 す る とい う名 目で財 政 支 出 の 減 額 が 伝 え られ る。

こ の財 政 危 機 の 実 態 を分 析 して み る 必 要 が あ る 。

改 め て 自治 体 の 「倒 産 」 につ い て 考 え て み る 。 正 確 に は 「地 方 財 政 再 建 促 進 特 別 措 置 法 」(以 下 「措 置 法 」)の 定 め を準 用 す る 「準 用 財 政 再 建 団体 」 へ の転 落 の こ と を,俗 に 自治 体 の 「倒 産 」 と呼 ぶ1)。 具 体 的 にい う と,単 年 度 の 普 通 会 計 の 実 質 収 支(歳 入 と歳 出 の差 額 か ら翌 年 度 へ 繰 り越 す べ き財 源 を控 除 した 額)の 赤 字 額 が 標 準 財 政 規 模(標 準 税 率2)に よ る 法 定 普 通 税 ・目的 税+地 譲 与 税3)+交 通 安 全 対 策 特 別 交 付 金+普 通 交 付 税)4)の,都 道 府 県 で あ れ ば 5%,市 町村 の場 合 は20%を 超 え た と き(こ れ を赤 字 限 度 額 と呼 ぶ),起 債 制 限 団体 に指 定 され,公 共 ・公 用 施 設 の 建 設 の た め の起 債 を起 こす こ とが で きな くな る(措 置 法 第23条 第1項)5)。

1)平 成13年12月17日 付 の 日本 経 済 新 聞朝 刊26頁 に 財 政 再 建 団 体 に 陥 っ た 全 国 で 唯 一 の 自治 体 で あ る 福 岡 県 赤 池 町 に つ い て の 記 事 が あ る 。 も っ と も平 成13年 度 中 に 財 政 再 建 の 目処 が た っ た と の報 告 が 併 せ て な さ れ て い る 。

2)標 準 税 率 と は,地 方 自 治 体 が 課 税 す る 場 合 に 通 常 採 用 す べ き税 率 で あ る 。 3)地 方 譲 与 税 は,本 来 地 方 税 を 課 す べ き財 源 に対 して 課 税 の 便 宜 上 地 方 団 体 に 代

わ っ て 国 が 課 税 ・徴 収 し,そ の 収 入 額 を 一 定 の 基 準 で 地 方 に 譲 与 す る も の で あ る。

林[1999]51頁 参 照 。

4)標 準 財 政 規 模 は,地 方 税 や 地 方 交 付 税 な ど の 一 般 財 源 の 規 模 を 示 す 。 林[1999]

55頁 参 照 。

5)醍 醐[2000]59‑60頁 参 照 。

(3)

地 方 自治体 財政 の情 報公 開 とそ の可 能性

251

実 際 自 治体 が 倒 産 した 例 は ほ とん どな く,東 京 都 や 大 阪 府 は そ の 危 機 に あ る と はい え,ま だ 起 債 制 限 団 体 に 陥 って は い な い 。 だ が,ひ とた び 起 債 制 限 団 体 の指 定 を受 け る と,自 主 的 に地 方 債 を発 行 して 資 金 を調 達 で きな くな り,す べ て 政 府 資 金 に よ る融 資 に しか依 存 で きな い こ と に な る 。 現 在 の 地 方 財 政 は 地 方 債 へ の 依 存 度 が 極 め て 高 く,起 債 を抜 きに した 財 政 運 営 は非 現 実 的 で あ る 。 つ ま り,起 債 制 限 団 体 の指 定 を受 け な い よ う にす る た め に 自治 体 の 財 政 担 当 者 が 真 っ 先 に考 え るの は,実 質 収 支 が 赤 字 に な ら な い よ う にす る こ とだ と言 え る。

あ る い は た と え実 質 収 支 が 赤 字 に な っ た と して も赤 字 限 度 額 を超 え な い よ う に 対 策 を講 じる こ とが 財 政 担 当者 の 関 心 事 とい え る。

そ こで 実 質収 支 が 赤 字 に な らな い よ うに財 政 担 当者 が 施 す 策 に は どん な もの が あ るか 。 単 純 に考 え る と,歳 入 を増 や す か(増 加 した よ う に見 せ る こ と も含 む),歳 出 を 減 少 さ せ る しか な い 。 歳 入 を増 や す とい っ て も そ の 柱 で あ る 地 方 税 収 は ほ ぼ毎 年 横 這 い で あ る。 市 町 村 に お け る税 収 は 所 得 に対 す る もの と して は市 町村 民 税,消 費 に対 す る もの と して は 電 気 ガ ス税,資 産 に対 す る もの と し て は 固 定 資 産 税 が 基 本 的 な も の で あ る。 と こ ろが,一 部 の 市 町村 を除 い て 人 口 の増 加 が ほ とん ど見 られ な い 市 町村 で は,こ れ ら税 収 の 著 しい増 加 は ほ とん ど 不 可 能 で あ る 。 一 方 で歳 入 が た りな い か ら とい っ て,自 動 的 に歳 出 を減 らす こ とは現 実 問題 と して 難 しい 。 結 果 と して実 質 収 支 を黒 字 にす る た め に依 存 す る の が,地 方 債 と地 方 交 付 税,そ して 過 年 度 積 立 金 の取 り崩 しあ るい は積 立 金 へ

の繰 入 額 の減 額 と な る。

しか し1998年 段 階 で市 町村 に お い て 実 質収 支 が 赤 字 に陥 っ て い る 自治 体 は 全 国 で わ ず か28団 体 に過 ぎな い 。 注 意 が 必 要 な の は,実 質 収 支 に は現 れ な い,財 政 状 態 の 深 刻 な 悪 化 が 進 行 して い るか らで あ る。

そ こで 以 下 の 図1を 参 照 さ れ た い 。

(4)

歳 人

(当 年 度 個

人)

積 、 玩金取崩 額 前年度 か らの 繰越 金

翌年度 繰 越 財 源

歳 出

実質単年度

図1自 治 体 収 支 に つ い て (出所)醍 醐[2000],44頁

形 式 収 支

実 質 収 支1

単年 度収 支:

一 一一 一一一一一一一一 レ1

もっ と も厳 格 な 数 値 が 「実 質 単 年 度 収 支 」で あ り,も っ と も ラ フ な 数 値 が 「 年 度 収 支 」 で あ る。 な か で も 「実 質収 支 」 が起 債 制 限比 率 の 関係 で 最 も重 要 と さ れ る 。 しか し この 数 値 を算 出す る 際 に は,歳 入 に は前 年 度 か らの 繰 越 金 を含 め る事 が で きる ば か りか,増 発 した 地 方 債 収 入 を含 め る こ とが で きる 。 歳 出 に は積 立 金 繰 入 額 を含 め て も含 め な く と も よ い とい う特 徴 が あ る。 つ ま り実 質 収 支 が 苦 し くな れ ば,地 方 債 の 増 発 を行 っ た り,基 金 を取 り崩 した り繰 り入 れ を 停 止 した りす れ ば あ る程 度伸 縮 で きる 。 決 算 対 策 とい う言 葉 が あ る が,実 質 収 支 は ま さ に こ の決 算 対 策 に よ っ て調 整 が 可 能 な 数 値 で あ る 。 醍 醐[2000]の 葉 を借 りれ ば,

「い ず れ に して も,こ の ような決算 対策 で調 整が可能 な実質収支 の赤字 の多 寡 を指 標 に した起 債 制 限措 置 を発 動 して も,時 宣 を得 た 自治 体 財 政 の 早 期 是 正 措 置 に な らな い こ と は 明 らか で あ る 。 そ れ ど ころ か,こ の よ う に単 年 度 ご との 操 作 可 能 な実 質 収 支 赤 字 を 指 標 に した 起 債 制 限 制 度 を採 用 す る と,自 治 権 の放 棄 を 意 味 す る準 用 再 建 団体 へ の 転 落 を避 け た い 自治 体 と して は,赤 字 額 を 限度

(5)

地方 自治体 財 政の情 報公 開 とそ の可 能性253

ラ イ ン以 下 に押 さ え 込 む た め の不 定 財 源 対 策 に注 力 せ ざ る を得 な い 。そ の 結 果, 実 質 収 支 の黒 字 要 因 を先 取 りす る一 方(基 金 の 取 崩 し等),後 年 度 の 赤 字 要 因 を 増 加 させ る財 源 補 填 債 の発 行 等,「 問 題 先 送 り政 策 」(forbearancepolicy) が 誘 発 さ れ た 。

と断 じる。

で は 具 体 的 に 地 方 財 政 の 危 機 とは 実 態 と し て ど の よ う な 状 況 を 意 味 す る の か 。

次 の グ ラ フ を見 て い た だ きた い 。

地方 財政 危機 の実 態分析

55.7

兆 円 50

40

30

10

0198889909192939495969798(年 度)

図2市 町 村 の 歳 入 構 成 の 推 移

(出所)自 治 省 『 地 方 財 政 白書 』(平 成12年 度 版),39頁

こ れ は 醍 醐[2000コ91‑92頁 に あ っ た も の で あ る が,歳 入 が 基 本 的 に 増 加 傾 向 に あ り,そ の な か で ど の 源 泉 の シ ェ ア が 増 加 ・減 少 しつ つ あ る か わ か る 。 一

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(6)

目で分 か る の が,都 道 府 県 ・市 町 村 と も に地 方 税 の シ ェ ア が横 這 い で あ るの に 対 し,地 方 債 の シ ェ ア は上 昇 傾 向 に あ る とい う点 で あ る 。 景 気 の 後 退 に 伴 っ て 税 収 が 減 少 した た め,そ れ を補 う た め に地 方 債 を増 発 した の で あ る。 特 に財 源 不 足 を補 うた め に発 行 さ れ た 財 源 対 策 債6),減 収 補 填 債7),減 税 補 填 債8),調 整i債9),臨 時 財 政 特 例 債10)の 総 額 は,1998年 度 末 の 地 方 債 現 在 高 の15%に す る(図3参 照)。 こ う した 地 方 債 の 増 加 は,将 来 的 な 財 政 負 担 を増 加 させ, 財 政 の弾 力 性 を弱 め る こ とに な る。 もち ろ ん地 方債 は公 共 サ ー ビ ス を 世 代 間 で 公 平 に負 担 す る た め に発 行 され る。 従 っ て単 純 に債 務 残 高 だ け を捉 え て 多 す ぎ る とか少 なす ぎ とい う議 論 は 近 視 眼 的 で あ る。 将 来 に 向 け た 視 点 を も って 地 方 債 につ い て は検 討 し な け れ ば な らな い 。 そ うで あ っ た と して も,将 来 の 財 政 負 担 を見 据 え て 自治 体 は地 方 債 を増 発 した の か。

地 方 債 の 発 行 に は 自治 省(現 在 は 総 務 省)の 許 可 が 必 要 で あ る。 安 易 に地 方 債 を発 行 す る こ とは 名 目上 で き な い こ と に な っ て い る。 だ が こ こ数 年,景 気 対 策 とい う名 目 で 公 共 事 業 が 増 発 さ れ,そ れ に 伴 っ て 地 方 債 が 大 量 に発 行 され た。

特 に地 方 自治 体 が 単 独 で取 り組 む地 方 単 独 事 業 を景 気 対 策 の 名 目で,地 方 自治 体 に引 き受 け させ るた め に 自治 省 は 次 の よ うな 方 策 を実 施 した 。 第 一 に,事 業 費 へ の 直 接 補 助 とい う形 で は な く,起 債 制 限 の 緩 和 に よっ て 財 源 を 保 証 した 。 第 二 に,単 独 事 業 の た め に発 行 さ れ た 地 方 債 の 元 利 償 還 に つ い て,後 日国 が 地

6)地 方財 政計 画 を策定 す る段 階で見 込 まれ た財源 不足 を補 填 す る措 置 と して増発 さ れる地 方債 。一 般 には地 方交 付税 を算 定 す る際の基 準財 政需 要額 を起 債 に振 り替 える方 法で措 置 される。 醍醐[2000]95頁

7)地 方税 が減収 見 込み とな り,地 方 自治 体 が他 の方法 を講 じて も財 源 の手 当が で き ない と き,減 収 見込 額 の範 囲内 で当該 自治体 の財政 事情 を勘 案 して 許可 され る地 方債 。 醍醐[2000]97頁

8)個 人住 民税 等 の減税 に伴 う地 方 自治体 の減 収額 を補 填 す るため に,1994年 度 か ら 特例 と して発行 が許 可 され た地方 債。 醍醐[2000]97頁

9)経 常経 費 の国庫 補助 負担 金等 の減 少相 当額 及 び国民 健康 保 険財 政対 策 に関 わる地 方負 担増 加 額等 を対 象 として認 め られ る地 方債 。醍 醐[2000]97頁

10)投 資 的経費 の 国庫補 助負 担率 の 引 き下 げ措 置 に伴 う地 方 自治体 の減収 相 当額 を補 填 す るた め に許可 され る地 方債 。1985年 度か ら1992年 度 までの 間 の暫 定 措置 と し て導入 された。

(7)

地方 自治 体財 政 の情報 公 開 とそ の可 能性

255

(兆 円) 125

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110 105

100 95

90

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45 40

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用源対策債 減収補翼債 減税補填債 調整債 臨時賜政特例債 その他

厚生福祉施設整備事業債 一般公共事業債 公営住宅建設事業債 義務教育施設整備事業債 一般単独事業債

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(注)

(出所)

1.地 方 債 現 在 高 は,特 定 資 金 公 共 事 業 債 を 除 い た 額 で あ る 。

2.減 収 補 填 債 は,1975年 度 分,1982年 度 分,1987年 度 分,1993度 分,1994度 分, 1995度 分,1997度 分 お よ び1998度 分 で あ る 。

自 治 省 地 方 財 政 白 書 』 平 成12年 度 版,39ペ ー ジ

図3地 方 債現 在 高の 目的別 構成 比

(8)

方 交付 税 で補 填 す る とい う形 を取 った の で あ る。 これ に よ り,地 方 債 が 増 発 され た ば か りか 地 方 交付 税 へ の 過 度 の依 存 体 質 を生 み 出す こ とに な っ た(図3参 照)。

歳 入 を補 填 す る財 源 は 地 方 債 だ け で は な く,地 方 交 付 税(こ こで は普 通 交 付 税 を考 え る)も あ る 。 地 方 交 付 税 は 各 地 域 の 財 政 力 の格 差 を是 正 す る た め に特 定 の 国 税 の 一 定 割 合 を 地 方 自治 体 に配 分 す る も の で あ る 。 とい っ て も無 制 限 に 交付 税 は交 付 され る の で は な く,一 定 の基 準 に従 っ て 交付 さ れ る 。 原 則 的 に標 準 的 な施 設 を維 持 す る場 合 に必 要 と され る 一 般 財 源 を 表 す 基 準 財 政 需 要 額 と名 地 方 自治 体 が 財 政 力 を合 理 的 な 方 法 で 測 定 した 基 準 財 政 収 入 額 との 差 額(財 不 足 額)と して 算 定 さ れ る。 式 で 表 す と以 下 の よ う に 表 され る。

普通交付税額 ≒基準財 政需要額 一基準財政収 入額=財 源不足額

基 準 財 政 需 要 額 の基 本 的 な考 え 方 は現 在 の 自治 体 施 設 を運 営 す るの に必 要 な 財 源 総 額 で あ り,必 要 最 低 限 度 の 需 要 額 を 表 す11)。 一 方 基 準 財 政 収 入 額 は 地 方 自治 体 が 標 準 税 率 で 得 られ る と予 想 さ れ る財 政 収 入 見 込 額 の,都 道 府 県 は 80%,市 町 村 は75%の 額 に地 方 譲 与 税 の 総 額 を加 え た も の で あ る12)。 つ ま り 標 準 的 な財 政 規 模 で 自 治体 を運 営 した 場 合 に 必 然 的 に不 足 す る額 を,国 税 か ら 地 方 に再 配 分 す る シ ス テ ム と して 普 通 交 付 税 は 本 来 あ っ た 。

と こ ろが,こ の 基 準 財 政 需 要 額 は 国 の 財 政 動 向 に左 右 され て お り,決 して 標 準 的 な 地 方 自治体 の財 政 需 要 を示 して い る とい う わ け で は ない 。 田 近,油 井, 佐 藤[2001]に よ る と基 準 財 政 需 要 額 は教 育,1警 察,消 防 な どの 地 方 自治 体 が 提 供 す べ き基 本 的 なサ ー ビス を保 障 す る た め に 必 要 な額 と され る 。 しか し実 態 は そ うで は な く,国 の 意 向 に添 っ て 増 減 で き る もの で あ る 。 前 述 した よ うに,

11)基 準 財 政 需 要 額 は財 政 需 要 を 各 行 政 費 目 ご と に 経 常 経 費 と投 資 的 経 費 に 区 分 し て 算 定 した 額 の 合 計 額 で あ り,こ の 経 費 は単 位 費 用 ×測 定 単 位 の 数 値 ×補 正 係 数 に よ っ て 計 算 さ れ る。 一 見 透 明 性 が 高 い よ う に感 じ られ る が,補 正 係 数 は お 手 盛 り に 決 定 さ れ う る も の で あ り,単 位 費 用 に含 め られ る 行 政 費 目 も行 政 の 判 断 で 変 わ る 。 林[1999]185‑186頁 参 照 。

12)従 っ て 普 通 税 の20%も し くは25%及 び そ の 他 の 税 収 は基 準 財 政 収 入 額 に含 ま れ な

い の で,こ れ らの こ と を 留 保 税 額 と い う。 林[1999]186頁 。

(9)

地方 自治 体財 政 の情報 公 開 とその可 能性

257

こ こ数 年 に行 わ れ た 景 気 回復 の た め の 財 政 出動 の 際,自 治 省 は元 利 償 還 費 を基 準 財 政 需 要 額 に含 め る こ と を容 認 して い た。 この 結 果,1988年 度 と1998年 度 の 地 方 自治 体 全 体 で の 土 木 費 を 比 較 す る と,実 に1.5倍 強 に 増 加 して い る 。 こ の う ち 地 方 単 独 事 業 の シ ェ ア は,1988年 度 は26.7%に 過 ぎ な か っ た の に対 し, 1998年 度 で は実 に 約40%に まで 至 っ て い る。 増 加 し た土 木 費 の うち,か な りの 部 分 が 地 方 単 独 事 業 と して 実 施 さ れ て い る と推 測 され る(醍 醐[2000])。 こ の 費 用 の ほ とん どは乱 発 さ れ た 地 方 債 収 入 に よ っ て 賄 わ れ た わ け だが,結 果 と し て 景 気 回 復 は達 成 され た の で あ ろ うか 。 残 っ た の は債 務 だ け で あ る 。 しか も地 方 交 付 税 に よ っ て 将 来 の元 利 償 還 費 は 国 が 負 担 す る と思 わ れ て い た が,昨 今 の 構 造 改 革 の 議 論 な ど に よ り帳 消 し と され そ うな 雲 行 き で あ る。 現 に,平 成13年

8月30日 の 日本 経 済 新 聞朝 刊2面 で は地 方 交 付 税 制 度 を抜 本 改 革 し,国 の財 源 補 償 範 囲 を縮 小 す る と報 じ られ て い る。 こ う した 状 況 の背 後 に あ る 最 大 の 問 題 点 と して,自 治 体 の 住 民 が どの 程 度 債 務 を抱 え て い る か を ほ と ん ど分 か らな い で い る とい う会 計 制 度 に あ る。

以 上 を ま とめ る と次 の よ う に な る 。 バ ブ ル崩 壊 後,国 は 景 気 対 策 と して大 規 模 な財 政 出 動 を行 い,そ れ を地 方 自治 体 に も地 方 単 独 事 業 と して応 じ させ る こ と に な っ た 。 結 果 と して 地 方 債 の発 行 残 高 は膨 大 な もの と な り,一 方 で償 還 の 目処 は ほ と ん ど立 っ て い な い 。 しか も償 還 財 源 と して見 込 ん で い た 地 方 交 付 税 が 将 来 的 に減 額 され る可 能性 が 高 い 。 こ れ が 地 方 財 政 危 機 の 実 態 とい わ れ る も の で あ る 。 こ の よ う な財 政 危 機 の根 底 に は会 計 学 の視 点 か ら見 て 大 き な構 造 的 欠 陥 が 隠 され て い る。

根底 に あ る問題

地 方 財 政 危 機 の 要 因 は,主 と して 国 の景 気 対 策 に乗 っ た 形 で地 方 債 を乱 発 し た とい う点 に よ る と こ ろ が 大 きい 。 そ う した 事 態 を抑 制 す る責 任 官 庁 た る 自治 省 が,率 先 して 景 気 回復 の た め に 地 方 自 治体 財 政 に 明 らか な財 務 的 な負 担 を課 した こ と につ い て は,そ の 責 任 を厳 し く問 わ れ る の は 当 た り前 で あ る。しか し,

(10)

だ か ら とい っ て地 方 自治 体 の責 任 が 免 責 され る は ず は な い。 そ こで こ の 問 題 の 根 底 に あ る構 造 的 な 欠 陥 を見 直 す 。

根 本 に あ るの は債 務 の 存 在 の み な らず 資 産 及 び負 債,資 本 とい っ た財 政 状 態 を常 時 確 認 で き る状 態 に な っ て い な い 自治 体 会 計 制 度 に 問題 が あ る。 自治 体 会 計 制 度 は,基 本 的 に 現 金 の収 支 だ け に着 目 した現 金 主 義 会 計 に よ っ て い る。 企 業 会 計 で は 当 然 と され るバ ラ ンス シ ー トは 作 成 され て は い な か った の で あ る。

そ れ で もい くつ か の都 道 府 県,市 町 村 の 中 で はバ ラ ンス シ ー トを作 成 した と こ ろ も少 な く ない 。現 に 一 昨 年 自治 省 ガ イ ドラ イ ン も公 表 さ れ て い る。とは い え, バ ラ ンス シ ー トに代 表 され る ス トッ ク情 報 を重 視 した 会 計 シ ス テ ム に 地 方 自治 体 が 移 行 した と は とて も言 え な い 。 自 治 体 会 計 が 未 だ に現 金 主 義 に基 づ い て い る理 由 に つ い て は ま た の 機 会 に 検 証 す る と して,こ の 会 計 シ ス テ ム の 下 で は債 務 の 存 在 を 意 識 す る こ と は で き ない 。 結 果 と して,こ れ が次 の 二 つ の 失 敗 を生 ん で い る 。

一 つ は債 務 の み な らず,保 有 資 産 に つ い て の ス トッ ク情 報 が 欠 如 して い る た め に,財 政 の 健 全 性 の 維 持 と規 律 向上 が 進 まず,財 政 悪 化 の 認 識 を遅 らせ る こ と に な っ た とい う 点 で あ る。 企 業 会 計 で もそ うで あ るが,負 債 の 存 在 は 財 務 的 負 担 で あ る と 同時 に,規 律 効 果 を生 む 。 経 営 者 は負 債 を返 済 し よ う と無 駄 な 出 費 を抑 え て 利 益 最 大 化 を 目指 して 経 営 を行 う。 地 方 自治 体 で は 負 債 を 意 識 す る に も財 産 目録 の 上 で しか 把 握 で きず,そ れ 故 規 律 効 果 も期 待 で き な い 。 さ り と て そ う した 債 務 に つ い て の情 報 も不 足 して い る の で あ る。 こ う した必 要 不 可 欠 の は ず の 情 報 が 入 手 で き な い状 況 を,「 情 報 の 失 敗 」 と呼 ぶ 。 地 方 自治 体 財 政 の 悪 化 の 原 因 の一 つ に は,こ れ が あ っ た と考 え られ る。 ま た 負 債 の返 済 計 画 も バ ラ ンス シー トが あ っ て,初 め て綿 密 な 返 済 ス ケ ジ ュ ー ル が 立 つ もの で あ る。

実 際 バ ラ ンス シ ー トを市 政 に 導 入 した 藤 沢 市 の財 政 担 当者 に い わせ る と,バ ラ ンス シ ー トに よ っ て よ うや く長 期 的 な 視 点 に立 っ た 財 政 計 画 が 立 て られ る よ う に な っ た と答 え て い る13)。 バ ラ ンス シ ー トは ス ト ッ ク情 報 を提 供 す る の と 同

13)小 樽 商 科 大 学 バ ラ ン ス シ ー ト ・プ ロ ジ ェ ク ト[2001]30頁 。

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地方 自治体 財 政 の情報 公 開 とその可 能性

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時 に,長 期 的 な視 点 に立 っ た 経 営 計 画 策 定 に とっ て も重 要 な役 割 を果 た す 。 こ う した情 報 を財 政 担 当者 や 町 政 責 任 者 らが 把 握 で き な か っ た こ とが,結 果 と し て 財 政 の 悪 化 を食 い 止 め られ なか っ た 理 由 と して 考 え られ る。これ が 第 一 の 「 報 の 失 敗 」 で あ る 。

い ま 一 つ と して,ス トック 情 報 の不 足 が 住 民 の 自治 意 識 の 欠 如 と統 制 の 不 備 を生 み,地 方 財 政 を深 刻 な危 機 に至 ら しめ る大 き な要 因 と な っ た とい う点 で あ る。ス ト ック情 報 は そ の 経 営 主 体 の 将 来 像 を 予 測 す る た め の 重 要 な 指 標 で あ る。

これ に係 る情 報 が不 足 して い た が た め に,地 域 住 民 は 当該 地 域 の将 来 像 を共 有 で きず,結 果 と して 自治 意 識 が 希 薄 と な っ て し ま った とい う点 で,こ れ は別 の 意 味 で の 「情 報 の 失 敗 」 とい え よ う。 地 域 住 民 の 自治 意 識 が あ れ 程 度 あ れ ば, 財 政 危 機 に直 面 して い る か ど うか を 監 視 しよ う とい うイ ンセ ン テ ィブ も生 ま れ る。 こ れ にバ ラ ンス シ ー トの よ う な情 報 が 加 わ る こ とで,有 効 な ガ バ ナ ン ス機 能 を住 民 は 果 たす こ とが で き る。 これ と は別 の 意 味 で,財 政 危 機 で は ない に も 関 わ らず,情 報 が不 足 して い る た め に地 域 住 民 の 不 信 感 を生 む可 能 性 も あ る 。 地 域 住 民 の 自治 意 識 の 高 ま りに応 え られ な い とい う点 に つ い て も問 題 で あ る 。 こ の情 報 の 失 敗 とい う 問 題 を解 決 す る た め に は,地 方 自治 体 は次 の 二 つ の 方 策 を採 ら な け れ ば な らな い と考 え る 。 一 つ は 自治 体 財 政 にバ ラ ンス シー トを 導 入 して ス ト ック情 報 を作 成 し,自 治 体 職 員 全 員 が 常 に ア クセ ス で き る よ う な状 態 に して お く。 今 ひ とつ は,で きる 限 りの情 報 を地 域 住 民 も常 に ア クセ ス で き る よ うな 状 態 に して お く こ とで あ る 。 こ の 問 題 の 解 決 を 目的 と して(い た か ど うか は確 認 した わ け で は な い が),蘭 越 町 で は 平 成10年 度 か ら独 自の 方 針 に よっ て バ ラ ンス シ ー トを作 成 して きた。 続 い て,蘭 越 町 のバ ラ ンス シ ー トを見 て い き な が ら,い か な る問 題 を解 決 し,い か な る 問 題 が 未 解 決 で あ る か を 検 証 す る。

蘭越 町 の試 み

中 間 報 告[2001コ に よ る と,蘭 越 町 は 人 口6318人(平 成12年11月1日 現 在), 年 間財 政 規 模 が 約76億 円(平 成11年 度 一 般 会 計 予 算),実 質収 支 は121百 万 円 の

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黒 字,実 質 単 年 度 収 支79百 万 円 の黒 字 で あ っ た(い ず れ も平 成11年 度 決 算)。

決 して財 政 危 機 に 瀕 して い るわ け で は な い 。 規 模 と して は,北 海 道 内 にお い て は 中程 度 の 自治 体 と な る だ ろ う。

平 成11年,蘭 越 町 は宮 谷 内 留 雄 町 長 の 発 案 に よ りバ ラ ンス シー トを作 成 す る こ とを決 定 し た。 大 分 県 臼杵 市 の バ ラ ンス シ ー トを参 考 に,町 の 決 算 書 お よ び 事 項 別 明細 書 よ り平 成10年 度(1999年3月31日 現 在)の バ ラ ンス シ ー トを作 成

した(北 海 道 新 聞,1999年9月18日 付 記 事14))。

た だ し蘭 越 町 も一 般 的 な地 方 自治 体 の 一 つ で あ るた め,自 治 体 会 計 を全 面 的 に見 直 して 複 式 簿 記 を導 入 し発 生 主 義 会 計 に大 転 換 した,と い うわ け で は な い 。 地 方 自治 体 は昭 和44年 以 降,決 算 統 計 とい う統 計 デ ー タ を 自治 体 の 決 算 書 を 下

に作 成 す る こ とが 決 め られ て い る。 実 は バ ラ ンス シ ー トを作 成 す る他 の 自治 体 の ほ とん どが,同 じ よ う に決 算 統 計 デ ー タ を基 に し て い る 。 しか しな が ら,蘭 越 町 は か な り以 前 か ら町 政 懇 談 会 とい う一 種 の タ ウ ン ミー テ ィ ング を実 施 して お り,そ の 中 で公 表 す る こ と を 目的 と して バ ラ ンス シ ー トを作 成 した と い う こ とで あ る 。 バ ラ ンス シ ー ト作 成 を言 い 出 した の は,町 長 だ っ た 。 自分 の 妻 が経 営 す る商 店 で はバ ラ ンス シ ー トを作 る の に,町 で作 らな い の は なぜ か と い う疑 問 が 出発 点 で あ っ た ら しい 。 町 長 の号 令 の も と財 政 課 職 員 が 作 成 に取 りか か っ た もの の,具 体 的 な 実 務 指 針 等 は そ の 当 時 は な く,作 成 手 法 は独 特 の も の で あ った 。 内容 的 に は 自治 省 ガ イ ドラ イ ン と は一 線 を画 し,企 業 会 計 で よ く見 られ るバ ラ ンス シ ー トを範 に取 っ た との こ とで あ る 。

自治 省 ガ イ ドラ イ ン に よ るバ ラ ンス シー トは や は り決 算 統 計 を基 礎 に作 成 す る こ と を前 提 と して い る。 そ の 内容 は 予 算 の款 ・項 を下 に 固 定 性 配 列 法 で作 成 す る こ と を求 め て い る。 自治 省 ガ イ ドラ イ ンに従 っ て作 成 され たバ ラ ンス シ ー トの 公 表 は最 近 相 次 い で お り,昨 年 度 調 査 に訪 れ た 藤 沢 市 で も独 自 に作 成 した バ ラ ンス シ ー トと同 時 に,自 治 省 ガ イ ドラ イ ン に準 拠 して作 成 した 貸 借 対 照 表

14)北 海 道 内 の 自治 体 で は 先 陣 を き る 試 み で あ っ た(北 海 道 新 聞,1999年10月19日 付

記 事)。

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地方 自治体 財 政の 情報公 開 とその可 能性

261

の 両 者 を比 較 で きる 形 で 公 表 して い る 。

蘭 越 町 に話 を戻 す と,バ ラ ンス シ ー トを使 っ た情 報 公 開 の 試 み は先 に述 べ た 情 報 の 失 敗 を 防 ぐ と い う点 か ら も有 効 で あ る。 第 一 の 情 報 の 失 敗 に よ る財 政 健 全 性 の ゆ が み に 対 して は,長 期 的 な 視 点 に立 っ た 財 政 計 画 が 可 能 に な る とい う効 果 が 見 られ る。 貸 借 対 照 表 を作 成 した こ とで,ど の 程 度 の 資 産 を保 有 し て い て,そ れ に 対 応 す る形 で どの 程 度 の 負 債 を 抱 え て い る か を初 め て理 解 し た と町 長 は以 前 語 っ て い た 。 バ ラ ンス シ ー トを活 用 した 地 方 債 返 済 計 画 が 進 行 中 と の こ とで あ る 。 さ ら にバ ラ ン ス シー ト公 表 を 契 機 と し て,町 の財 政 は 決 して 逼 迫 して い る わ け で は な い が,か とい っ て 豊 か な状 態 に あ る わ け で は な い と い う認 識 が 職 員 の 問 に も広 が りつ つ あ る。 こ の た め無 駄 な 費 用 は で き る だ け節 約 し,町 民 を 向 い た 町 政 に 転 換 しつ つ あ る とい う報 告 も受 け て い る。

第 二 の 情 報 の 失 敗 で あ る 住 民 の 町政 へ の不 信 感 は 町 政 懇 談 会 に よ っ て 払 拭 され て い る よ うで あ る。 町 政 懇 談 会 を 通 じた 情 報 公 開 は 着 実 に 成 果 を 上 げ て お り,町 民 も町 政 に参 加 して い る と い う 自覚 が 芽 生 え て い る と思 わ れ る15)。

だ が,会 計 学 者 と し て この バ ラ ン ス シ ー トをみ た 場 合,い くつ か の 問 題 点 が 依 然 残 さ れ て い る と考 え る。 そ れ に つ い て は小 樽 商 科 大 学 蘭 越 町 バ ラ ンス シ ー トプ ロ ジ ェ ク ト[2001]に 述 べ て あ る の で こ こで は簡 単 に触 れ て,そ 上 で こ う した 問 題 点 を ど の よ う に解 決 して い くか を考 え る 。

蘭 越 町 バ ラ ン ス シ ー トの 問題 点 とそ の解 決

第 一 の 問 題 点 は,バ ラ ンス シ ー トの 正 味 財 産 区分 に あ る 。 正 味 財 産 と は負 債 以 外 で 地 方 自治 体 が 資 金 調 達 を行 っ た 資 金 源 泉 を表 す 。 負 債 が 債 権 者 か ら 資 金 調 達 を行 っ た結 果 を 示 す も の で あ る とす れ ば,正 味 財 産 は そ の他 の 資 金

15)町 政 懇 談 会 の 資 料 は 中 間… 報 告[2001]26頁 以 下 。 こ の 中 に 蘭 越 町 の バ ラ ン ス シ ー

ト も含 ま れ る 。

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調 達 源 泉 を示 す は ず で あ る 。 しか し,蘭 越 町 の バ ラ ンス シ ー トで は そ の 点 が 明 確 で は な い 。 自治省 ガ イ ドライ ンで は 正 味 財 産 は1.国 庫 支 出金,2.都 道 府 県 支 出 金,3.一 般 財 源 等 に 分 類 す る よ う指 示 す る。 こ の形 にす る こ とで,資 金 源 泉 別 の 調 達 額 が 解 り,そ の 依 存 度 も明 白 とな るで あ ろ う。

第 二 の 問 題 点 は,バ ラ ンス シー トそ の も の に あ る。 バ ラ ンス シ ー トを作 成 し た の は,町 長 の一 声 だ け で は な く,町 民 か らの 町 財 政 は危 機 的 状 態 に あ る の で は な い か とい う投 書 の 存 在 も理 由 の一 つ で あ っ た 。 こ う した 不 信 感 を 払 拭 す る た め に もバ ラ ンス シー トは不 可 欠 で あ った 。しか し作 成 して み て気 づ い た の は, 負 債 額 の 多 さ とい う よ り も,正 味 財 産 が 非 常 に多 い と い う こ とで あ っ た 。 こ れ は何 も蘭越 町 に と ど ま らな い 。 バ ラ ンス シ ー トを作 成 した都 道 府 県,市 町 村 い ず れ に お い て も結 果 は 同 じで あ っ た16)。 こ れ に は 実 は理 由 が あ る 。 保 有 資 産 を時 価 評 価 す る と,大 概 は増 価 され る の で 負 債 よ りも資 産 の 方 が 多 く な りが ち で あ る。 結 果 と して 正 味 財 産 が 算 出 され,財 政 危 機 で は な い とい う説 明 が さ れ る。 こ れ は 本 当 で あ ろ う か 。 これ につ い て 社 会 経 済 生 産 性 本 部 の水 田 氏 に尋 ね た と こ ろ 次 の よ うな 回 答 を得 た17)。

… …(前 略)と い うの も ,み な正 味 財 産 が 大 き け れ ば 大 き い ほ ど満 足 して お ら れ る。

結 局 正 味 財 産 と は な ん だ ろ う と考 え て み ます と,今 ま で 住 民 の 方 が税 金 等 を 通 じて 買 い 終 え て 蓄 え ら れ た ス トッ ク の 部 分 な ん で す 。 で す か ら,こ の 部 分 は こ れ か らの 住 民 の 方 は 代 金 を 支 払 わ な く て も使 え る ス トッ ク の 部 分 に な る わ け で す 。 こ の 部 分 が 大 きい の が い い か ど うか わ か ら な い の に,大 きい ほ うが い い,大 き い ほ うが 余 裕 が あ る と い う こ と に な る と,そ れ は老 人 の 在 宅 ケ アや 訪 問 ケ ア をす べ て 削 っ て,建 物 や 土 地 や 道 路 を ど ん ど ん 造 れ ば よ い とい う こ と に な りま す 。 こ れ が い わ ゆ る箱 も

の 行 政 で す 。 正 味 財 産 が 大 き い こ と が よ い とな る と,大 変 な こ と に な っ て し ま うわ け で す 。 正 味 財 産 比 率 の 大 き さ だ け見 て い る と,箱 もの 行 政 を 助 長 す る こ と に な っ

16)小 樽 商 科 大 学 バ ラ ン ス シ ー ト ・プ ロ ジ ェ ク ト[2001]8頁 参 照 。 他 に調 査 し た と

こ ろ で も負 債 総 額 が 資 産 総 額 を 超 過 す る 債 務 超 過 に あ る 地 方 自治 体 は な か っ た 。

17)小 樽 商 科 大 学 バ ラ ン ス シ ー ト ・プ ロ ジ ェ ク ト[2001コ26‑27頁 参 照 。

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地方 自治 体財 政 の情報 公 開 とその可 能性

263 て し ま い ます 。 自治 体 に よ っ て は そ う い っ た 側 面 を 隠 し て,正 味 財 産 が 大 き け れ ば 良 い と い う言 い 方 を す る と こ ろ も あ り ま す 。 … … 結 果 と して 負 債 は 大 きい が,そ れ を 補 う ほ どの 正 味 財 産 が あ る と い う主 張 を し ま し た 。 本 当 に こ れ で い い の か わ か

り ま せ ん 。 結 局 正 味 財 産 の 大 き さ を ど の く らい に も っ て い くか が,政 策 当 局 の 手 腕 な の で す 。 極 論 を 言 え ば,資 産 残 高 が い く らあ る と か,負 債 残 高 が い く ら あ る とか は 実 は そ れ ほ ど重 要 な 問 題 で は あ り ませ ん 。 そ うい っ た もの は 結 構 公 表 さ れ て い ま す 。 お そ ら く,バ ラ ンス シ ー トを作 成 す る一 番 の 意 義 は正 味 財 産 を 計 算 す る こ と だ と思 い ま す 。 そ して 政 策 担 当 者 が 最 も重 視 し な け れ ば な ら な い の は,正 味 財 産 の 大 き さ だ と 思 い ます 。 … …(後 略)

正 味 財 産 が 多 くな れ ば な る ほ ど,固 定 資 産 等 が 増 加 す る こ と に な り,そ の分 行 政 か らの ソ フ トサ ー ビ ス が圧 迫 さ れ て しま う。 正 味 財 産 が 多 け れ ば 財 政 危 機 下 に は な い と言 え て も,そ れ は何 の情 報 提 供 に も な らな い 。 正 味 財 産 を ど う管 理 す る か につ い て の 説 明 が 情 報 と して 必 要 な の で あ る。

第 三 の 問 題 点 と して,正 味 財 産 と密 接 に 関 わ るの だ が,バ ラ ン ス シ ー トだ け で は行 政 サ ー ビ ス提 供 の た め の コ ス トが 把 握 で き な い。 バ ラ ンス シ ー トは あ く まで 資 金 の 調 達 源 泉 とそ の 資 金 を何 に 運 用 した か を示 す もの で あ る 。 行 政 サ ー ビス 提 供 に係 る コス ト計 算 書,つ ま り行 政 コ ス ト計 算 書 を 併 せ て作 成 し,両 者 に よ っ て 行 政 の 効 率 性 や 有 効 性 を 検 証 す る 必 要 が あ る18)。 バ ラ ンス シ ー トだ けで 全 て が 終 わ りな の で は な く,バ ラ ンス シ ー トか ら発 展 させ た様 々 な計 算 書 類 に よっ て 行 政 評 価 す る必 要 が あ る 。 また 会 計 シス テ ム を 現 行 の現 金 主 義 か ら 発 生 主 義 に近 い もの に転 換 し,減 価 償 却 費 や 各 種 引 当金 を 計 上 して 将 来 の 事 態

に備 え て お くこ と に よ り,計 算 書 の有 用 性 も よ り高 ま る で あ ろ う。

第 四 の 問 題 点 と して,自 治 体 全 体 の バ ラ ンス シー トは 大 きす ぎる とい う こ と で あ る 。 バ ラ ンス シー トを行 政 の投 資 活 動 評 価 に利 用 した い と い う声 は現 場 に

18)行 政 コ ス ト計 算 書 に つ い て の 詳 細 は小 樽 商 科 大 学 バ ラ ンス シ ー ト ・プ ロ ジ ェ ク ト

[2001]14‑17頁 参 照 。

(16)

あ る。 と こ ろが 投 資 案 件 そ れ ぞ れ につ い て のバ ラ ンス シ ー トを作 成 しな い こ と に は,行 政 評 価 に結 び つ か な い 。 自治 体 そ の もの に つ い て のバ ラ ン ス シー トは 地 域 住 民 との 利 害 調 整 や 情 報 提 供 とい う観 点 で は 有 効 で あ る 。 しか し行 政 効 率 や 行 政 効 果 の 測 定 とい う観 点 か らす る と現 行 のバ ラ ンス シ ー トはや や大 きす ぎ る。 各 投 資 的 経 費 ご と にバ ラ ンス シ ー トを作 成 して 事 業 の効 率 性 を評 価 で き る 体 制 を作 る べ きで あ ろ う。

第 五 の 問 題 点 と して,普 通 会 計 の貸 借 対 照 表 だ け で は 自治 体 の 財 政 実 態 を表 して い な い とい う こ とで あ る 。 現 行 の 蘭越 町 バ ラ ンス シ ー トは 一 般 会 計 及 び そ れ に準 ず る4つ の特 別 会 計 を対 象 と した,い わ ゆ る 普 通 会 計 を主 体 とす る もの で あ る。 普 通 会 計 が 蘭 越 町 の 主 要 な活 動 を示 す もの で あ る とい う点 に つ い て は 首 肯 で きる もの の,町 の 財 政 を 網 羅 して い る もの で な い こ とは 明 らか で あ る。

そ こで 地 方 自治 体 全 体 の 財 政 状 態 及 び行 政 活 動 の状 況 を公 表 す る企 業 会 計 上 の 連 結 財 務 諸 表 を参 考 に し た もの の 作 成 が 必 要 で あ ろ う。 しか し連 結 財 務 諸 表 そ の も の に も多 数 の欠 陥 が あ る こ と は一 般 に知 られ る と こ ろ で あ る。 詳細 は避 け る が,こ う した 問 題 点 を踏 ま え る と,連 結 財 務 諸 表 制 度 を地 方 自治 体 に 導 入 す る の が よ い 判 断 とは い え な い と考 え られ る。 む しろ 関 係 す る特 別 会 計 や 公 益 事 業 会 計 を す べ て 一 列 に 並 列 し,結 合 さ せ る 「結 合 財 務 諸 表 」(combining statements)を 導 入 す る ほ うが,自 治 体 の財 政 状 況 全 体 の 包 括 的 な表 示 法 と し

て は適 して い る19)。

地 方 自治体 の情 報 公 開 と その 可 能性 に つ い て

地 方 財 政 の み な らず,日 本 経 済 全 体 に これ ま で 以 上 の 経 済 成 長 を望 む の は, 正 直 困 難 で あ ろ う。 少 子 高 齢 化 時 代 を迎 え,成 長 一 遍 型 の 高 度 経 済 経 済 をの ぞ む の で は な く,低 成 長 を甘 受 し なが ら現 状 を維 持 しつ つ,社 会 全 体 が あ る程 度

19)結 合 財 務 諸 表 に つ い て の 詳 細 は 小 樽 商 科 大 学 バ ラ ン ス シ ー ト ・プ ロ ジ ェ ク ト

[2001]19‑23頁 参 照 。

(17)

地 方 自治体財 政 の情 報公 開 とその 可能性

265

の豊 か さ を享 受 で きる よ う な社 会 を 目指 さ な け れ ば な らな い で あ ろ う。

そ う な る と,税 収 につ い て も そ れ ほ どの伸 び は期 待 す べ きで は な く,身 の 丈 に あ っ た 自治 体 経 営 を志 向 し て い か な けれ ば な ら な い。 少 ない パ イ を納 得 で き る形 で 調 整 して い く財 政 運 営 が こ れ か らは求 め られ て くる 。 そ う した 状 況 下 に 求 め られ る の は,中 央 か らの 補 助 金 や 助 成 を求 め て 地 域 に 目 を 向 け な い 行 政 で は な く,住 民 を 説 得 して税 収 や 手 数 料 の 拡 大 を図 る 自治 体 行 政,住 民 全 員 が納 得 して参 加 で きる 自治 体 行 政 で は な い か と思 わ れ る。 こ れ を 目指 す 際 に まず 成 さね ば な ら な い の は,地 域 住 民 に 向 け た 積 極 的 な 情 報 発 信 で あ り,住 民 と の対 話 で あ る 。 そ して こ う した対 話 を通 じた 地 域 の 将 来 像 の確 認 が 必 要 な の で は な い か と思 わ れ る 。

蘭 越 町 が 行 う 町 政 懇 談 会 や バ ラ ンス シー トを通 じ た情 報 公 開 ・情 報 発 信 は非 常 に有 用 なモ デ ル と考 え られ る。 情 報 公 開 を積 極 的 に行 う こ とで,情 報 の 失 敗 を防 ぐ こ とが で きる の で は な い で あ ろ うか 。 しか し こ れ に つ い て の解 答 は ま だ は っ き り して い な い 。 蘭 越 町 の 今 後 の 試 み が そ の 答 え を 出 して くれ る の だ ろ う か 。

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参 考 文 献

小 樽 商 科 大 学 蘭 越 町 バ ラ ン ス シ ー トプ ロ ジ ェ ク ト[2001]『 蘭 越 町 貸 借 対 照 表 の 検 討 と課 題(中 間 報 告)』

小 樽 商 科 大 学 蘭 越 町 バ ラ ン ス シ ー トプ ロ ジ ェ ク ト[2001]『 蘭 越 町 貸 借 対 照 表 の 検 討 と 課 題 』

醍 醐 聡[2000]『 自治 体 財 政 の 会 計 学 』(新 世 社) 林 宜 嗣[1999]『 地 方 財 政 』(有 斐 閣 ブ ッ ク ス)

田 近 英 治,油 井 雄 二,佐 藤 主 光[2001]「 地 方 交 付 税 の 何 が 問 題 か 一 ゆ る む

地 方 の 財 政 規 律 と阻 害 さ れ る 財 政 努 カ ー 」 『 税 経 通 信 』 第56巻,第12号,9月 号,

23‑33頁 。

参照

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