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児童の選択を重視した学習活動による教育のインクルーシブ化の推進

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Academic year: 2021

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山形大学大学院教育実践研究科年報第 12 号(2021)

児童の選択を重視した学習活動による教育のインクルーシブ化の推進

学校力開発分野(20822009)内 和 愛

本研究は,小学校の通常学級における特別支援教育が十分に展開できていないのではな いかという課題意識を契機として,小学校の通常学級における学習面での多様なニーズに 応じた柔軟な支援のあり方について考えることを目的とする。すべての児童が自らのニー ズに応じて学習の場を選択できるような指導体制上の工夫をすることで,学習指導での教 師間の協働性が促進され,より児童のニーズに応じた指導を行えるようになることが,イ ンクルーシブ化を推進することについて論じる。

[キーワード] インクルーシブ教育,通常学級における特別支援教育,選択的な学習

1 問題の所在

本研究の目的は,小学校の通常学級におけるイ ンクルーシブ教育のあり方について再考し,より 多様で柔軟な仕組みを検討することである。

2012年,中央教育審議会による「共生社会の形 成に向けたインクルーシブ教育システム構築のた めの特別支援教育の推進(報告)」において, 「障害 のある子どもと障害のない子どもが,できるだけ 同じ場で共に学ぶこと」をインクルーシブ教育の 基本的な方向性とし, 「それぞれの子どもが,授業 内容が分かり学習活動に参加している実感・達成 感を持ちながら,充実した時間を過ごしつつ,生 きる力を身につけていけるか」どうかが最も本質 的な視点であるとされた。

「インクルーシブ教育」の概念は, 必ずしも一 様には捉えられておらず,しばしば誤解もあるよ うに思われる。中村(2018)によれば,ユネスコは 2005年に刊行した「インクルージョンのガイドラ イン:万人の教育へのアクセス確保」において,

従来の特殊教育には「どのように通常の教育を変 えるか,という取り組みが欠けていた」とし,教 育的ニーズを「子どもが持っている課題ではなく,

学校に多様性を扱う装備がないという教育システ ムの問題」として考えた上で,インクルーシブ教 育を「すべての学習者に関与できる教育システム の能力を強化していくプロセス」と定義したとさ れる。以上に基づけば, 「インクルーシブ教育」と は, 「すべての子どものニーズに対応しようとする 教育」と理解できる。

通常学級には多様な特性や背景を持つ子どもが 在籍している。障害種によっては通級による指導 を受けることができるが,文部科学省(2018)によ れば,2017年度の通級指導教室設置小学校数は全 体の22.2%に留まり,全ての小学校に設置されて いるわけではない。知的障害のある児童はその対 象にはならず,ニーズがありながらも専門家によ る診断・判断と保護者の同意がない児童は,通級 による指導を受けることはできない。また,交流 及び共同学習においては,特別支援学級在籍の児 童が通常学級の学習に参加することはあるが,通 常学級在籍の児童が特別支援学級の学習に参加す ることはほとんど行われていない。大久保・渡邉 (2018)は,特別支援学級担任教員の弾力的な対応 に関して「通常学級の児童集団から個別的に切り 離して場を設定することを必要とする対応」や 「実 施の際に保護者や本人の同意を得ることが必要な 対応」についての実施率が低いことを指摘してい る。

一方で,教師の特別支援教育の理解や実践力は 必ずしも十分とは言えず,通常学級の担任だけで は支援しきれない場合もある。校内の人的資源は 限られており,学級担任を支える教員の配置は難 しく,校内の支援体制が十分に構築,機能できて いないというのが現状である。2007年に特殊教育 から特別支援教育へ転換され10年以上経過するが,

特別な支援が必要であっても,通常学級で十分な 支援を受けられないままに義務教育を終えていく 児童生徒が存在するのではないかという懸念があ る。そこで本研究では,校内の限られた人的資源

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の中で,いかにインクルーシブ教育システムを推 進していけるか,通常学級における「多様な学び の場」の創出について,その具体的な方向性を考 えていきたい。

2 先行研究の検討

先述した中教審が示したインクルーシブ教育の 方向性においては「障害のある子どもと障害のな い子どもが,できるだけ同じ場で共に学ぶこと」

と「それぞれの子どもが,授業内容が分かり学習 活動に参加している実感・達成感を持ちながら,

充実した時間を過ごしつつ,生きる力を身に付け て」いくことという大きく2つのことが同時に達成 されるよう求められている。岩本(2018)は「同じ 空間で同じ学習ができにくい子どもがいる場合,

どのような学習の進め方をするのかは難しい問題」

であるとし,授業のあり方を変えずに個のニーズ に対応しようと支援の教員を配置すると, 「通常学 級の中にその子と支援の教師との二人だけの世界 を構築」しかねず,通常学級の中に見えない「排 除」をつくり出してしまうことを危惧している。

これでは,結果的に障害のある子どもと障害のな い子どもが同じ場にいるに過ぎず,排除・分離し た特定のものをメインストリームの中に包摂しよ うとする従前の特殊教育におけるインテグレーシ ョン(統合教育)と変わりはない。

中井(2007)は,教頭職にあった2005年からの3年 間,山形県内のX小学校において「個に応じた指導 のできる特別支援教室」を校内に独自に設置した。

通常学級に在籍する知的発達の遅進が懸念される 児童も含む特別な支援の要する児童を対象に,自 身と教務主任を中心に,大学の学生ボランティア を活用しながら個別指導にあたった。その成果と して,X小学校の「特別支援教育の推進に大きな役 割を果たした」こと,児童は「自分を大切にして くれる教師がいて,そんな学習の場があることを うれしく思い,学級を離れて一人でも意欲的に学 習に励む」ことを挙げている。2020年に中井氏に 直接インタビューを行ったところ,支援室での個 別指導は当該児童に学習面での自信を回復させる ことと同時に,その担任支援にもつながったこと も述べていた。中井氏の実践は,特殊教育から特 別支援教育への転換期に,限りある資源を活用す ることで担任教諭の実践を支え,通常学級に在籍 する特別な支援を要する児童に対する学習保障に

貢献したという点において多大なる功績を残した といえる。されども別室での個別指導は,ややも すれば教師の指導に負担となる児童を「分離・排 除」することにもつながりかねず,また,支援が 必要かどうかの判断が担任教師に委ねられており,

すべての担任教師が児童自身の達成感や充実感の 程度を十分に考慮できているとは限らないように も思われる。

専門家による診断・判断のある児童は「多様な 学びの場」として,通常の学級,通級による指導,

特別支援学級,特別支援学校を選択することが保 障されている。しかし,インクルーシブ教育シス テムにおいては,すべての子どもに異なる教育的 ニーズがあることが前提であり,それぞれの「教 育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる,

多様で柔軟な仕組み」をいかに整備できるかが問 われる。無意識的であるにせよ,学校の制度や教 師側の事情により,学びの主体である児童が「分 離・排除」されてはならない。生活面だけでなく,

特に学習面においては,すべての児童が自らのニ ーズに応じた学びの場を自分で選択できることが,

学習に向かう姿勢・意欲の向上や学力達成に寄与 し,結果的に,すべての児童の多様なニーズに応 答するインクルーシブ教育の実現につながるので はないだろうか。

3 実践

すべての児童が学びの場を自ら選択できるシス テムとは,具体的にどのようなものであるか。こ こでは,学校内で児童が教師と個別学習相談をし ながら,自らのニーズに応じて学習の場を自分で 選択できる取り組みに注目し,その効果と課題に ついて検討する。

とある公立Y小学校の第3学年(4学級)では,算数 科「かけ算の筆算」 「□を使った式」 「かけ算の筆 算(2)」の学習において,学年オープンのニーズ別 の算数の学習を実施した。

(1)Y小学校第3学年の児童の特性

専門家の診断・判断とは別に,教員の実感とし て,学習面や情緒面において多様なニーズを抱え ている児童が他の学年に比べて多数存在している。

標準学力検査NRT(2020年7月処理)における学年総 合の学力偏差値は平均的ではあるものの,教科総 合の分布から児童の3割以上が学習における困難 を抱えていると想定される。しかし,実際にLD通

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山形大学大学院教育実践研究科年報第 12 号(2021)

級指導教室を利用している児童はごく少数である。

(2)ニーズ別の学習を行った背景

2020年度はコロナ禍での全国一斉臨時休業によ り,例年よりも教科学習の進度を早めるなどの対 応が取られる一方,担任による放課後の学習支援 も制限された。しかし,上述のように各学級には 多様なニーズのある児童が在籍し学力差も大きく,

各担任は例年以上に授業の照準をどこに定めてい いか迷ったという。また,当学校では年度毎の学 級編制替えに伴い担任団の4名のうち3名が交替し た。教師たちは自学級だけでなく学年の児童の特 性を把握し, 「複数の目で学年の児童を見る」体制 を具体的に取りたいと感じていた。そこで,2学期 の運動会が終了した時期から,学年をオープンに した算数のニーズ別の学習を行うことにした。

(3)算数科での実施理由

Y小学校の教員によれば,算数科の学習が他の教 科よりも個々の児童のニーズに応答しにくく習熟 度の差が開きやすい教科であることが,実施の第 一の理由として挙げられる。ニーズ別の学習を予 定していた時期の学習単元は「かけ算の筆算」で あり,例えば「九九をよどみなく言えるかどうか」

という点は児童にとっても自己判断しやすい。

(4)学習の場の設定と選択肢

算数のニーズ別の学習を行うにあたり,教師は 児童たちに自分でコースを選択するように伝えた。

教師から一方的に与えられるものよりも,児童が 自分で選択したり決定したりする方が,遥かに意 欲が高まることを教師たちが経験的に認識してい たためである。学習グループの選択においては,

「もっとしっかりわかるようになりたい。 」と,自 分の学力よりも下位のグループを選択した児童が いたように,児童たちは教師が思っている以上に 自分と向き合い,人目よりも自分の願いを大切に していることがうかがえた。

児童たちの選択に基づき,特に学級での一斉学 習では意欲を持ちづらく理解に時間のかかる児童 たちに対して,充実感や達成感を持たせることに 重点を置いた学習グループを編制した(表1)。担当 教師は,学習グループのメンバーを考慮しながら 教師側で判断し決定した。低位のグループを少人 数に編制したものの,どのグループにも多様なニ ーズのある児童が混在することは「同じ場で共に」

学ぶことにつながると言える。

(5)児童と教師の変容

①「かけ算の筆算」(9月実施)

自分に合ったペースで学習に向かえるようにな ったことで,特に低位のグループの児童たちは自 分で課題を解決する満足感を得られ,学級の学習 では見られないような生き生きと学ぶ姿が多く見 受けられた。ニーズ別の学習後に,学級で成績に 関係なく学習について話題にできることがさらに 自信につながり,他の学習においても意欲が持続 するようになった。教師側も学習のねらいを焦点 化しやすく,教材研究の負担感が軽減された。グ ループ間での学習の進度を揃えることで教材の共 有も進み,具体的な児童の姿を伝え合うことがで きるようになった。

②「□のある式」(12月実施)

「かけ算の筆算」の学習において,教師たちは ニーズ別の学習に一定の手応えを感じていた。本 単元の学習は整数の計算が中心になるという判断 から,前回と同様のグループと担当教師で学習を 行った。複数の児童にニーズ別の学習に対する感 想を尋ねてみたところ, 「他のクラスの人とも仲良 くなれる」 「自分のペースにあっている」といった 理由で「楽しい」と答える一方で, 「暇(になる)。 」 (上位グループ), 「(学級でもニーズ別の学習でも わからなさは)変わらない。 」(低位グループ)とい う感想もあった。また上位グループであっても,

問題を読み取り,図や式にする過程で苦戦する児 童の姿が見受けられた。教師側でも,下位グルー プの児童に比べて,上位グループの児童に活気や 積極性を感じづらいことを気にかけていたところ,

複数のグループの児童から「もっと色んな先生と 勉強してみたい。 」との要望が出された。

③「かけ算の筆算(2)」(12,1月実施)

児童の学習グループは変えずに担当教師のみを 入れ替えた。前単元で「暇。 」と述べた上位グルー プの児童は,集中して学習に向かう時間が増えた。

「(わからなさは)変わらない。 」と言っていた下 位グループの児童は,本単元での学習でも「変わ らない。 」との感想であった。

(6)考察

表1 ニーズに応じた学習の場(グループ)の選択肢 (九九をよどみなく言えて)どんどん進みたい: 上位層児童 (「どんどん」と「しっかり」の)その間がいい: 中上位層児童 (「どんどん」と「しっかり」の)その間がいい: 中下位層児童 しっかり確認しながらやりたい: 低位層児童

いつも通り通級の先生と勉強したい: 通級利用児童

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以上の実践から得られた知見は次の2点である。

第一に,ニーズ別学習は,児童自身のそれぞれ のニーズへの自覚を促し,学習に向かう姿勢・意 欲を高める効果があるという点である。特に低位 のグループの児童の多くにとっては,自分のペー スに応じて学習することによって「授業内容が分 かり学習活動に参加している実感・達成感を持ち ながら,充実した時間」を過ごせたのではないか と考えられる。ただし, 「 (わからなさは)変わら ない。 」との感想を述べた児童がいたように,低位 のグループの中での学力の幅が大きいことも示唆 された。学年担任団による選択肢だけでは,すべ ての児童のニーズに応答することは現実的に困難 であり,通級による指導や特別支援学級との交流 及び共同学習の柔軟で弾力的な運用が望まれる。

第二に,ニーズ別学習の導入により,教師の教 材研究に対する負担感の軽減が図られるとともに,

教師間の協働性も促進された点である。自らが担 任する学級以外の児童と実際に学習することを通 して,認識していた多様な児童の実態を教師それ ぞれが経験的に理解し,学年間で共有することで,

「複数の目で学年の児童を見る」ことを実質的に 遂行していたといえる。

一方,低位グループに比して,上位グループで は消極的な感想が目立った。この取り組みは,教 師間の協働により,多様なニーズを抱える児童た ちの学習活動の質の底上げを図るとともに,教師 個々の教材研究に対する負担感を軽減することに より,多忙の中でキャリアの浅い教師のサポート にも一定程度貢献したものと思われる。しかしな がら,児童にとって,自らのニーズに合った学習 の場を適切に選択できるだけの十分な選択肢や情 報があったか,また,それぞれの学習の場での取 り組みや教材等が,児童の学習ニーズに適応して いたのか,という視点から,教師による授業づく りのあり方をさらに見直していく必要がある。

4 今後の課題

本研究では,校内の限られた人的資源の中で,

いかにすべての児童のニーズに対応する多様な学 びの場を創出できるかについて考えてきた。Y小学 校での算数科におけるニーズ別の学習は,学級で の学習では理解に時間がかかる児童を救い上げる ことがねらいの一つだった。しかし,ニーズがあ るのはすべての児童である。同じ算数科の学習で

あっても,単元や内容によって活用する認知能力 は様々である。教師は個別相談を充実させ,学習 単元や内容ごとに求められるレディネスの程度を 確認し,学びの場の選択肢をより丁寧に検討して いくべきであろう。児童の個別の知的機能や創造 性の特徴も考慮しながら,児童のニーズに応じた 教材や場を工夫していくことが一層求められる。

今回は,通常学級在籍児童を対象にしたニーズ 別の選択的な学習に注目したが,それだけでは教 育のインクルーシブ化が図られるとはいえない。

通級指導教室や特別支援学級などのすでに学校に 設置されているあらゆる「多様な学びの場」を,

すべての児童が必要に応じて柔軟に活用し,すべ ての児童の多様な学びが保障されるような教育シ ステムを構築していくことが,さらなるインクル ーシブ化につながると考える。

引用文献

岩本由紀(2018)「フル・インクルーシブ教育の学 校&授業づくり(4)大阪市のインクルーシブ教育 大空小学校の取り組みより」 , 『教育zine』 ,明 治図書online,https://www.meijitosho.co.jp /sp/eduzine/finc/?id=20180818 (最終閲覧日 2020年12月17日)

文部科学省(2012)『共生社会の形成に向けたイン クルーシブ教育システム構築のための特別支援 教育の推進(報告)』 .

文部科学省(2018)『平成29年度通級による指導実 施状況調査結果について』 .

中井義時(2007)「大学の研究室と連携した学生ボ ランティアの活用 山形市立第五小学校」 ,文部 科学省『特別支援教育関係 ボランティア活用事 例集』 ,19-21.

中村信雄(2018)「インクルーシブ教育の視点によ る学校教育の変革の可能性について–ユネスコ のインクルーシブ教育の理念と実践について-」,

『東京理科大学教職教育研究』 ,第4号,119-128.

大久保賢一・渡邉健治(2018)「公立小学校におけ る特別支援学級担任教員による通常学級支援を 目的とした弾力的対応の実態」Journal of Inclusive Education,VOL.5,34-52.

Promoting Inclusive Education Through Learning Activities that Emphasize Children’s Choices Ai UCHIWA

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参照

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