熊本大学教養部紀要自然科学編第31号;17-21(1996)
CuBrとCuIの有効電荷と
短距離相互作用パラメータ
安仁屋勝
熊本大学教養部物理学教室
(平成7年10月2日受理)
Effective Charges and Short Range Interaction Parameters in CuBr and CuI
Masaru ANIYA
DepartmentofPhysics,FacultyofGeneralEducation,
KumamotoUniversity,Kumamoto860,Japan (ReceivedOctober2,1995)
AbBtmct
Thetemperaturedependenceoftheeffectivechargeandshortrangeintcraction parameterinCUBrandCularereported・Inthetemperaturerange75K<T<300 K,theshortrangemteractionparameterofbothmaterialsdecreaseswiththe mcreaseoftemperature・TheeffectivechargebehavesdifferenUy.Theeffective●
chargemCuldecreasesmonotonouslywiththemcreaseoftemperature・Onthe otherhand,inCuBrtheeffectivechargelncreaseswithTintherange5K<T<● Z50KanddecreasesfOrT>250K.Abriefdiscussionabouttherelationship betweentheeffectivechargeandamechanismofiontransportmsupenomc●●
materialsisalsoglven.
1.はじめに
超イオン導電体と呼ばれる物質群は,融点よりはるかに低い温度で,溶融塩と同程度の高いイオン 伝導度を示すため,固体電解質材料や機能性素材としての利用が注目されている.また,基礎科学の 対象としても,固相と液相のはざまにある超イオン導電物質が示すさまざまな物性は実に興味深い
しかしながら,超イオン導電現象が何故特定の物質でのみ現れるのか,またその発現機構は如何なる ものか等といった,本質的な疑問はまだ完全には解明されていない.
超イオン導電体においては,枠イオンの間を拡散する可動イオンが主役であるため,電子系の役割
安仁屋勝
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というものは,一般にはあまり認識されていない.しかし,凝縮物質論の原点に立ち返り,超イオン 導電現象とは何かと問うた場合,イオンのダイナミックスだけを独立に論ずることは不可能である.
上で述べたような疑問に答えるには,超イオン導電物質をイオンと電子からなる多体系としてとらえ る必要がある.筆者はこのような問題意識のもと,超イオン導電体の電子論的研究の必要性を主張す ると共に,化学結合論の立場から,超イオン導電物質とその性質を統一的に理解する試みを展開して きている[1]・
本論文では,まず最初に,筆者が提案しているイオン伝導機構の概要を紹介する.次いで,超イオ ン導電物質であるCuBrとCulの,有効電荷と短距離相互作用パラメータの温度依存性について述
ぺる.
2.超イオン伝導のメカニズム
超イオン導電物質が示す実験事実を基に[2],図1に示すような概念を抽出し,これに基づいて超 イオン導電現象の理解を試みている[11図に示されているようなプロセスを考えたときの,ミクロ な電子状態の変化がどの様なものであるかは今のところわからない.しかし,イオンを動かす力の元
超イオン導電体
イオン系十電子系 砿⑪露
イオンの位湿のゆらぎ 駆動力
「衆
L電〒
○:,,。ns.
。□△:AvaIIabIesItesforAglons.
電子嚢分布の変化が鴎起されやすい 局所的な化学桔合の変化
I図1超イオン導電物質とイオン伝導機織の概念図.図2局所的に起こる化学結合のゆらぎを示す概略図‘
が,局所的な化学結合の変化であると考えると,超イオン導電現象を自然な形で理解できる[2]・典
型的な超イオン導電体であるAglに,このイオン伝導機構を適用すると,図2のようになる[2].ここで,大きい○印はIイオンを,□,△,小さい○印はAgが取りうる可能なサイトを表す[3].
また,Agイオンのサイト占有率は温度上昇と共に,□で減り,○と△で増えることが中性子散乱実
験等から明らかにされている[4].要するに,提案しているイオン伝導機構では,熱撹乱によるイオ
ンの位置のゆらぎが,電子雲分布の変化を誘起し(局所的な化学結合の変化),これが別のサイトの
イオンを動かす力の場をつくり出し,連鎖的に多数のイオンが動かされ,超イオン導電性が現れると
考える[2].
CuBrとCulの有効電荷と短距離相互作用パラメータ
19前頁で途ぺたイオン伝導機構は,結晶性超イオン導電体だけでなく,超イオン導電ガラスが示す高 イオン伝導度の理解も可能にする[5].更に,この機構は最近,アモルファス・カルコゲナイドが示 す光誘起原子移動の模型にも適用された[61
図1に示されているように,超イオン導電物質の特徴は,電子雲分布の変化が誘起されやすい点に あると思われる.このことは,擬ポテンシャル法を用いた計算で,ある程度確鬮された[7,81また,
図2に示されているようなサイト間をイオンが動いたとき,これが実空間擬ポテンシャルに与える変 化も求められている[91
通常,4配位サイト(図2中の□印)はより共有性結合的,6配位サイト(図2中の小さい○印)
はよりイオン性結合的である[101イオンが固体中を動き回るときは,実験的に確認されているよう
に[3,4],色々なサイトを通過する.従って,低温相においては,可動イオンは4配位サイトを占め るため,共有結合的に結ばれているが,温度上昇と共に,イオン性結合サイトを占める可動イオンの 数は増える.ただ,6配位サイトはエネルギー的に不利なので,可動イオンはごく短い時間しかそこ に留まらない.別の言葉でいえば,局所的なイオン性結合のサイトはゆらぎとして生じ,そのサイト 数は温度と共に増える.化学結合の揺らぎに基づく模型から導かれる-つの結論は,試料のイオン度 が温度上昇と共に大きくなるということである.この予想通りのことが,実際起こっていることは,
Ag3SIとAglの有効電荷の温度依存性の振舞いから確認された[11].更に,Ag3SIに関しては,広
い温度範囲の有効電荷の振舞いから,イオン伝導機構の妥当性に加え[2j7],擬ポテンシャル法によ る計算の妥当性も[7-9],サポートする結果が得られている[121
3.CuBrとCuIの有効電荷と短距離相互作用パラメータ
上で述ぺたように,有効電荷の振舞いは提案しているイオン伝導機構と密接に関係している.従っ て,超イオン導電物質であるCuBrとCulの有効電荷の振舞いを調べることは,超イオン導電現 象の謎の解明につながる.また,短距離相互作用パラメータも,超イオン導電現象と密接に関係して いる物理量である[13-15]・
RigidlonModelでは,有効電荷と短距離相互作用パラメータは次の式で与えられる[161
e*2=(似v/4宛)(のi-の;)
(1)
Ro=(似/3)(のi+2の:) (2)
ここで,e*は有効電荷,Roは短距離相互作用パラメータ,似は換算質量,vは基本単位胞の体積,
のLとのTはそれぞれ縦光学モードと横光学モードの振動数である.
式(1)と式(2)より得られた,CuBrとCulの有効電荷と短距離相互作用パラメータの温度依存性 は,図3及び図4に示されている.これらの麓を得るため,格子定数の温度依存性と[17],フオノン 振動数の温度依存性[18]の実験値を使った.両物質のe*もRoも,大体T=75Kあたりで,温度依 存性に対する傾向の変化が見られる.このことは,多くのZnS型物質が低温で示す,負の熱膨張 係数と関係している[191T=75K以上の温度では,短距離相互作用パラメータは,単調減少し,
温度上昇と共に物質が柔らかくなっていることを示している.このことは,弾性定数から見積られた
ボンド伸縮力とボンド変角力の温度依存性の傾向とも一致している[20].
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Culの有効電荷は温度上昇と共に単調減少し,Ag3SIやAglの低温相での振舞いと同じ傾向を示
す[l11CuBrに関しては,T=250K~300Kでは同様な振舞いが見られるが,T=100KとT=
250Kの間では,有効電荷は温度と共に大きくなる.超イオン導電相への転移温度はTc(CuBr)=
658K,、(Cul)=642Kである[211従って,これまでに得られた有効電荷の温度依存性と比較する と[11,12,22],Culは普通の振舞いを示すが,CuBrはT=100K~250Kで異常な振舞いを示して いるといえる.しかし,式(1)から求められる有効電荷の値は実験データの誤差に敏感であるため,
注意深い実験を再度行う必要はあると思われる.T>400Kで,横有効電荷が温度上昇と共に増える という結果を与える理論的研究もあるが[23],今回得られた結果とは合致しない
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●CuBr 0.60
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050 Cul
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300 40 200
0 100
T(K) 100 200 300
T(K)
図3CuBrとCulの有効電荷の温度依存性. 図4CuBrとCulの短距離相互作用 パラメータの温度依存性.
4.おわりに
有効電荷の振舞いから,第二節で述べたイオン伝導機構の妥当性を検証するには,超イオン導電相 への相転移点を含む温度範囲での研究が必要である.従って,本論文の結果からは,イオン伝導機構 に関して直接には何もいえない.しかし,今回の研究から,CuBrの有効電荷は低温相において異常 な振舞いを示すことが明らかになった.この異常は本物か,またそうだとすると,その原因は何か,
超イオン導電性との関係はあるのか等,今後に残された課題は多い.
本論文では,フオノン振動数から求められる有効電荷が,局所的な化学結合のゆらぎに基づくイオ ン伝導機構と,直接関係しているという立場から議論を進めてきた.しかし,本当にそうなのかは,
まだはっきりしていない[24].もしかすると,提案しているイオン伝導機構は[2,7],局在有効電荷
[25]と直接関係しているのかもしれない[241今後の研究で明らかにして行きたい.
CuBrとCulの有効電荷と短距離相互作用パラメータ 21
参考文献
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