熊本大学教養部紀要自然科学編第27号:119-129(1992)
ラット下肢骨格筋における筋線維タイプと ミオシン軽鎖および重鎖の関連
大 石 康 晴
熊本大学教養部保健体育科 86O熊本市黒髪2丁目40-1
(平成3年9月19日受理)
Therelationshipsbetweenmusclefibertypesandmyosinlight andheavychainsinrathindlimbskeletalmuScleS
YasuharuOH,IsHI
Departmentofphysicaleducation,Facultyofgeneraleducation,
KumamotoUniversity 860Kurokami2-40-l,Kumamoto・city,Kumamoto,Japan
(ReceivedSeptemberl9,1991)
Summary
Thepurposeofthisstudywastoinvestigatetherelationshipsbetweenmusclefibertypesand myosinlightandheavychains・Ratskeletalmuscleswereanalyzedwithhistochemicalandim・
munobiochemicaltechniques,Infibertypecomposition,soleusanddeepportionofgastrocmemius wereoccupiedwithtypelfibersabout88、0%and50.3%,respectively、Ontheotherhand,typell fiberswerepredominantinotherfastmusclesrangefrom87.0%to100%・Myosinlightchain subtypepattemsweresimilartothefibertypecompositionineachmuscle,andthereweresignificant
correlationsintheratiobetweentypellbandLC3f,typelandLC1sandLC2s,respectively・Fast typemyosinheavychainwas2、5~5.4timesinfastmusclescomparedwiththesoleus,andwas
significantlycorTelatedwiththeratiooftypellfibersineachmuscle・Theseresultssuggestedthat eachtypeoffiberscontainthespecifictypeofmyosinlightandheavychainsandtheratioof isomyosinsweredifferfromseveralmusclesorthedifferentportionofsamemuscle.
緒 言
骨格筋線維は,アクチンやミオシンなどの収縮タンパク,トロポニン,トロポミオシン,Mタン パク,Cタンパクなどの調節タンパク,コネクチン,デスミン,ビメンチンなどの骨格タンパク,
といった種々のタンパク質よりなる筋原線維を収縮の基本単位とし,Caイオンの貯蔵庫である筋小 胞体がこの筋原線維を取り囲み,またその周りにエネルギー代謝に関与するミトコンドリアが位置
120
大石康脳し,筋鞘と呼ばれる膜系がこのような構造物をまとめることによりファイバーを形成している.骨
格筋は,このような筋線維が多数集合したものであり,アデノシンー3-リン酸(Adenosintri‐phosphate;ATP)をエネルギー源として収縮を繰り返すことができる.筋線維は,ATPを分解す る酵素であるmyosinATPaseのpHに対する感受性の違いにより組織化学的にいくつかのタイプ
に分類される.大別すると,収縮速度は速いがすぐに疲労する速筋線維(FT,TypeII)と,収縮速
度は遅いが疲労耐性に優れた遅筋線維(ST,Typel)に分けられる.これまで,これらの筋線維タイプの組織レペルでの研究が多数行われてきたが,近年,組織化学的分析に加え,分子レベルから のアプローチが盛んになされており,特に収縮タンパクであるミオシンと筋線維タイプとの関連が
クローズアップされている.ミオシン分子は,分子璽約20万の重鎖(myosinheavychain:以下HCと略)と2万前後の軽鎖
(myosinlightchain:以下LCと略)とから構成され,各鎖ごとにslowタイプとfastタイプとい
ったサプタイプの存在が確認されている.このようなミオシンHCとLCのサプタイプは筋線維タ イプ別に特異的に配置しており,換言すれば,ある特定のミオシンHCとLCサブタイプの組合せに
より,筋線維タイプが決定され,特定の機能を発揮するといえる.本研究では,ラットの下肢骨格筋を用いて,様々な筋における筋線維タイプとミオシンHC・LCサプタイプの関連性についてモノ クローナル抗体による分析を加え検討することを目的とした.
方 法
1.実験動物
実験には,20週齢のWistar系雄性ラットを用い,筋サンプルとして,ヒラメ筋(m、soleus),足 底筋(、.plantaris),長指伸筋(m・extensordigitrumlongus),緋腹筋(m、gastrocnemius),前腫
骨筋(m・tibialisanterior)を用いた.緋腹筋と前骨腫筋については深層部(deepportion)と表層
部(peripheralportion)別に分析を加えた.ネンプタール麻酔下のラットより筋を摘出し,左脚の
筋群を組織化学的分析に,右脚の筋群を生化学的分析に供した.
2.組織化学的分析
摘出した筋の筋腹付近を約5mmの厚さに横断し,これをコンパウンド内に埋め液体窒素で冷却 したイソペンタンで固めた.零下20℃の環境下でミクロトームにより厚さ約1伽mの連続切片を作 成し,myosinATPase染色(Doriguzzietall983)を施した(プレインキュベーションpH4.3,
4.6,10.3).得られた染色標本から筋線維をTypel(pH4.3,4.6に濃染),Typella(pH10.3に 濃染),Typellb(pH4.6に淡染,pH10.3に濃染),Typellc(全てに濃染)に分類し(Brookand
Kaiserl970),各々の筋におけるこれらの筋線維の割合(筋線維組成)を求めた.
3.生化学的分析
右脚より摘出した筋の重量を測定し,その10倍量のTrisbuffer溶液(10mMTris、Cl,250mM sucrose,lmMEGTA,1,MEDTA,lmMPMSF,pH7.5)で均質化し,Bradford(1976)の方 法に従いタンパク定量を行い(0.5ノugprotein/鰹l),これを電気泳動用サンプルとした.
1)ドデシル硫酸ナトリウム電気泳動(SDS、PAGE)
ミオシンLCの分析には,18%ランニングゲル,5%濃縮ゲルを,ミオシンHCの分析には7%ラ
ンニングゲル,5%濃縮ゲルを用いた.泳動は,Laemmli(1970)の方法に従い,30mAで約3時muscleTypelTypellc TypeIIa Type1lb ラット下肢骨格筋における筋線維タイプとミオシン軽鎖および重鎖の関連
間通電した(タンパク量は,LCで15"9,HCで1ノugに一定堂とした).ミオシンHC分析用のケル
は,通電後ただちにイムノブロッテイングに移った.ミオシンLCについては,同一筋サンプルにお いて2度この電気泳動を行い,一方のゲルは通電後ただちにイムノブロッテイングに,もう一方の ゲルは通電後,染色(クーマジープリリアントブルーーR),脱色(10%イソプロピルアルコール,
10%酢酸)を行い,デンシトメータースキャン(島津CS-910)によりサブタイプの比率を算出し
た.また,一部の筋に関しては精製した後SDS-PAGEにかけ銀染色を施した.
2 ) イ ム ノ プ ロ ッ テ イ ン グ
SDS-PAGEが終了したゲル内のタンパク質を,Towbin(1979)らの方法に従いミリポアーメン
ブレンに転写した(50V,16~20h).転写後,このメンプレンをウシ血清アルブミン溶液(2.5%
Bovineserumalbumin,l00mMTris.c1,150mMNacl,pH7.5)で1時間インキュベートし,つぎ
に一次抗体で1時間インキュベー卜した.一次抗体として,ミオシンLCにはアルカリLC(LC1,
LC3)のみを認識するモノクローナル抗体(KB,1,Fujimotoetal)を,HCにはfastタイプのみを 認識するモノクローナル抗体(anti-myosin,fastskeletal,IgG:SIGMA,M-4276)をそれぞれ用
いた.その後,二次抗体として抗マウス抗体により30分間インキュベートを行った.各インキュベ
ーションは室温で行い,インキュベーション間にメンブレンをTTBS溶液(lOOmMTris.c1,0.9%Nacl,0.1%Tweentwenty,pH7.5)で洗浄した.目的とするタンパクは,ジアミノベンチジン (DAB,SIGMA)を用いて,アビジンーピオチンーペルオキシダーゼ複合体法(VectastainABCKit,
Vecterlabo、CA)により可視化し,デンシトメータースキャン(島津CS-910)により定量した.
結 果
1.筋線維組成
図1には,前腰骨筋における筋線維のpHに対する染色感度の違いを示した.このような染色感度 の違いにより筋線維はいくつかのタイプに分類され,本研究では遅筋線維をTypel,速筋線維を
Typell,そのサプタイプをIIa,IIb,IIcに分類した.表lには,それぞれの筋の筋線維組成を示
した.ヒラメ筋(sol)は,Typelが88.0%で典型的な遅筋であり,一方,前腿骨筋(TA)はほとん どの筋線維がTypellで占められた速筋の特性を有し,ヒラメ筋とは顕著な違いが認められる.ま た,緋腹筋(gas)では,その表層部(gas.p)はすべてTypell線維で占められているのに対し,深
TablelFibertypecompositioninratskeletalmuscles(%)
426990 ●●●e●● 0432788 671859
s o l
: s o l e u s , p l a : p l a n t a r i s , E D L : e x t e n s o r d i g i t r u m l o n g u s , g a s - d :
de e p p o r t i o n o f g a s t r o c n e m i u s , g a s - p
:ofgionortalpherrippe a s t r o c
・
nemius,TA-d:deepportionoftibialisanterior,TA-p:peripheral
portionoftibialisanterior121
7.6 22.6 21.9 34.5 12.1 35.3
2 . 0 s o l
pla
EDL
gas-dgas-p TA-d
TA-p00438 ●●●●
●8330050 815 456
●●●
4012000
、 、 亀 Ⅷ 賑 , . , .
: W l i 雲 墓 憾 I 望
122
U
pH 10.3
MyosinATPasestaininginraLtibialisanterior、Eachserialsectionswas
p r e - i n c u b a t e d a t p H l 0 . 3 ( u p p e r ) , 4 . 6 , 4 l e ) m i d d ( . 3 ・ u t e s 8 m i n r 5 - r ) f o l o w e (
I:Typelfiber,IIa:TypelIafibel。,IIb:Typellbfiber,BaI・indi・
catelO()鰹、.
4.6
F i l g f
、 1
』
A B C D E
′ 、 G ” 。 , 〆 車 "
F p Z y , 、
.、・粕
4.K
幹、
鞠
′萄避
み 、 。 。 r - 迅 函
d 肉 興 C D ■ Ⅷ
大 石 康 賭
- ← 2 9 . 0 K ,
一一
一一一一一一一
F唯、2
P()lyacrylamidegelelectl・ophoresisofl)uriIiedl・atskeletalmusclesand h e a l・ L
.A:,Blantariseus-I-l)sol:s,Csoleu:taris,Dplall:triclGhearLven E:lowmoleculal・weiRhtmarker・Gelwasstainedwithsilverstaining‘
↓一毒 1122 CCCC LLLL
富
一 一 - 1 4 . 4 K , L C 3 i - 蚕
[‐1←21.5K,
ー
ー
1 2 3
層部(gas-d)はTypel線維とTypell線維がほぼ同様な占有率を示し,同一筋においても部位に
より筋線維組成が異なることを示している.
2.ミオシン軽鎖
1)ミオシンLCサブタイプ
図2には,ラットヒラメ筋,足底筋および心室筋のミオシンLCサブタイプの電気泳動パターンを 示した.これは各々の筋サンプルを精製した後,SDS-PAGEにかけ,ゲルを銀染色したものであ る.ヒラメ筋では,slowタイプのLC(LC1s,LC2s)の比率が高くfastタイプのLCはわずかに認
められる程度である.心室筋では,ヒラメ筋のLC1s,LC2sと同一のLCが認められた.一方,足底
筋では,fastタイプのLC(LC1f,LC2f,LC3f)の割合が高く,ヒラメ筋とは相反するLCパターン
A g l C D E F G i - l 、
一 合 一 石 三 一 サ ニ ー 画 一
雲 璽
= 劃 =
望曾窒雲
一=二
=
一 一
鋤繊一一一一一》琴一一一一一一
璽雲三一 溌一一一一霊一一一一一一 一露一一霊一二一一一 需 一一一
一 ゴ ー 一 一 鐘 一 一 一 一 一
唾一》雪一
蕊霊
一
=
← 2 9 . 0 K ,
断ご=雲 勝フー雲
L C 3 f - 差
竜 一
- 2 1 . 5 K D
← 1 4 . 4 K , ラット下肢骨格筋における筋線維タイプとミオシン経鎖および重鎖の関連
ー ー ~ ー
4 . 5 4 6 . 3 48.5 3 2 . 7 47.1 46.2 42.8 F i 宵 . 3
Sodiumdodecylsulfatepolyacrylamidegelelectrophoresisofrathind・l i m b s k e l e t a l m u s c l e s
.A:soleus+peripheralportionoftibialisanterior,
B:soleus,C:plantaris,D:deepportionofgastrocnemius,E:deep portionoILibialisanterior,F:extensordigitrumlongus,G:peripheral
portionofgastrocnemius,H:peripheralportionoftibialisanterior,I:
gastrocnemius-l-tibialisanterior,J:lowmolecularweightmarker・Gel
wasstainedwithcoomassiebrilliantblue-R.
Table2myosinLCsubtypedistributioninratskeletalmuscles
(%)
s o l
pla
EDL
gas-dgas-p TA-d
TA-pm
u s c l e LC1s L C 1 f L C 2 s L C 2 f L C 3 f
629509060
■b●●1669
0 11.6 13.1
5 . 4 1 9 . 1 8 . 5 13.1
sol:soleus,pla:plantaris,EDL:extensordigitrumlongus,gas
-d:deepportionofgastrocnemius,gas-p:peripheralportionof gastrocnemius,TA-d:deepportionoftibialisanterior,TA-p:
peripheralportionoftibialisanterior
2729
●●●●3302030
3.2 21
32.8
38.4
20.1
33.8
34.5
44.1
一
誤
~ =
124
が得られた.図3にそれぞれの筋のLCパターンを,表2にはそのサブタイプの比率を示した.ヒラ
メ筋では90%以上がslowタイプのLC(LCls,LC2s)から構成され,逆に長指伸筋,前腔骨筋,勝
腹筋表層部では,slowタイプのLCは認められなかった.図4には,アルカリLC(LC1s,LC1f,LC3
f)を特異的に認識するモノクローナル抗体を用いた筋のLCパターンを示した.ヒラメ筋と緋腹筋 深層部でLC1sが,ヒラメ筋を除く全ての筋でLC1f,LC3fが顕著に認められた.この抗体は,数浬g
といった微量の筋タンパクを電気泳動に供することにより,筋または筋の異なる部位におけるLC サブタイプの分布の相違を明確に示すことが可能である.
A B C D E F G H l J K L
別LjJr
-:電牌舗晶;
お○J 一》一一一一一一三悟
拶《一一.一一一麺
錨陰睡一畔・一・一恥一一一一一m 一一一m
一〆一一m一一・画
一一一軸。一一、津↓州 ← 2 9 . 0 K D
←21.5K,
←14.4K,
Alkalilightchainsinrathindlimbskeletalmuscles・Aandl:soleus,B:
plantaris,C:extensordigitrumlongus,DandJ:deepportionofgastroc、
nemius,E:peripheralportionofgastrocnemius,F:deepportionof tibialisanterior,GandK:peripheralportionoftibialisanterior,Hand
L:lowmolecularweightmarker,A-H:SDS-PAGE+lmmunoblotting,
I-L:SDS-PAGE+Amidoblackstaining.
2 0
国
画
y=0.15x+1.54 p<0.004
r=0.91
大石康晴
国 画
0 1 0
臼
20 0
Type2b(%)
Correlationoftheratiooftypellbfibersandmyosinlightchain3fin
eachmuscle.
40 6 0 8 0 1 0 0
F i g . 5
X +
1 2 5
2)筋線維組成とミオシンLCサブタイプ
筋線維組成とミオシンLCサブタイプの割合の関連を検討したところ,それぞれの筋のTypell b線維とLC3fの間に高い相関(p<0.004)が認められた(図5).同様に,Typel線維とLC1s,
LC2s間にも相関がみられた(それぞれp<0.0001,p<0.0001).
3.ミオシン重鎖
図6には,それぞれの筋のfastタイプHCを示した.これはfastタイプのHCを認識するモノク
A B C D E F G H l J K L
< - 2 0 0 K , H C - f - 差
一一一一一一一一‘引
〃ヅハ、、
solpIaEDLgas-dgas-pTA-dTA-p
1 . 0 4 . 6 4 . 1 2 . 5 4 . 0 4 . 1 5 . 4
Fasttypeofmyosinheavychaininrathindlimbskeletalmuscles.A,I
andL:highmolecularweightmarker,BandJ:soleus,C:plantaris,D:
extensordigitrumlongus,E:deepportionofgastrocnemius,F:periph,
eralportionofgastrocnemius,G:deepportionoftibialisanterior,Hand
K:peripheralportionoftibialisanterior,A、I:SDS、PAGE+Immunob・
lotting,J-L:SDS-PAGE+Amidoblackstaini皿.
F i g . 6
侭、
回
X +
ラ ッ ト 下 肢 骨 格 筋 に お け る 筋 線 維 タ イ プ と ミ オ シ ン 雌 鎖 お よ び 重 鎖 の 関 連
5
p<0.001
r=0.94
p<0.001
r=0.94
↑‐○工ち
回
Ep回 4 Ep回
3210
E①一匡○。①ン一一,一①正
2 0 4 0 6 0 8 0 1 0 0 ロ
%Type2Fiber F
i g
、 7ratheofionlatreCor t i o o f t y p e l l f i b e r s a n d f a s t t y p e o f m y o s i n h e a v y
chainineachmuscle.
R o d 一 126
ローナル抗体を用い可視化したものである.図の下の数値は,このスポットをデンシトメータース キャンにより定量化し,ヒラメ筋の値を基準に比較したものである.ヒラメ筋に対し,他の筋では
2.5~5.4倍のfastタイプのHCが認められ,これらの値と各筋に占めるTypellの割合(%Typella+%TypeIIb+%Typellc)の間に有意な正の相関が認められた(図7).
考 察
ヒト骨格筋とは異なり,ラット骨格筋では筋の種類,または部位により筋線維組成に顕著な違い
が認められる.ラットヒラメ筋ではTypelが90%近くみられた.ヒラメ筋は主に抗重力筋として姿 勢保持の機能を果たしていることから,酸化能力ならびに疲労耐性に優れたTypeIの比率が高い ことは,機能を遂行する上で合目的的といえる.緋腹筋では表層部と深層部で著しい違いがみられ,Typelが50%を占める深層部は,姿勢保持から歩行,走行といった幅広い活動に動員されると考え
られ,表層部とは機能的に異なる働きをしていると思われる.
筋線維の収縮の最小単位は筋節(sarcomere)と呼ばれ,その内部には収縮タンパクであるアクチ
ンとミオシンが含まれる.ミオシンは2個のHCと4個のLCとから構成され,それぞれにfastと slowのサプタイプが存在する(図8).ミオシンLCは,分子量が小さく比較的分析が容易であるこ
とから,組織化学的に分類された線維タイプとの関連が盛んに研究されている.Thomasonetal (1986)は,ラットのさまざまな筋を電気泳動法により分析したところ,筋線維タイプ別に特定の LCの組合せを認めている.Tsikaetal(1987)も,ラット骨格筋で分析したところ,同一タイプ のHCとLCの組合せを報告している.また,ヒトの単一筋線維を用いた研究でも同様な報告がみら
れる(Salviatieta1.1983).Salviatietal(1982)は,ラビット骨格筋線維を用いてLCを分析し,そのLCパターンから筋線維をST、LC,FT、LC,mixed-LCの3つのタイプに分類している.このよ
うに各々の筋線維タイプに特定のLCが認められることから,LCタイプにより筋線維タイプを決
豆9 / ク を(
A
大石康暗
LC1
or
LC3 LC2
… 上 蕊 潟
Fig.8Schematicrepresentationofmyosinmoleculestructure(A)andisomyosin
t y p e s ( B ).
B
〃》》》
一《J柵淵
一一一一一一
ラット下肢骨格筋における筋線維タイプとミオシン軽鎖および重鎖の関連
127
定できるのではないかとする報告に対し,StaronandPette(1986)は,ラピット単一筋線維につ
いて分析したところ,LCには一定のパターンはみられず,slowとfastLCが単一筋線維内に様々 な割合で存在していたと報告している.Billeteretal(1981)もヒト単一筋線維内でLCの混在を
報告している.LCの機能的役割は,Mossetal(1982)やWagnerandWeeds(1977)が報告し
ているように,収縮時のアクチンとミオシンの相互作用を調節していることから,筋線維タイプを
決定するファクターとは考えにくい.一方,ミオシンHCは,分子篭が大きく分析が困難であった が,その機能的役割は線維タイプを決定する上で重要な役割を果たしていることが明らかにされて いる.筋線維は,myosinATPase活性のpH感受性の差異により酵素組織化学的に速筋線維(Typell)と遅筋線維(TypeI)とに大別される.生化学的には,myosinATPase活性はTypelに 比べTypellが高く(Thomasonetall986),したがって,線維の集合体である筋全体においても Typellの占有率の増加に比例して活性は高くなる.このmyosinATPase活性の高低は筋の収縮 速度を決定しているため(Bar2inyl967),活性の高いTypellはTypelに比して収縮速度が速い
という特性を有している.このような筋線維タイプおよびその収縮速度を決定するmyosinATP aseの活性部位に関して,SivaramakrishnanandBurke(1982)は,myosinATPase活性部位を
生化学的に分析した結果,HC自体に活性部位が存在することを報告しており,さらにPerrieand
Bumford(1986)およびBilleteretal(1980)は電気泳動法を用いた分析により,組織化学的に分
類されたTypel,Typella,Typellbのそれぞれに特異的なミオシンHCが存在すると報告し
ている.また,生理学的に測定された単一筋線維の最大短縮速度とfastタイプのHCの間に有意な
正の相関が認められている(Reiseretall985).このように,筋線維はmyosinATPase活性の高低により組織化学的にいくつかのタイプに分類され,それぞれのタイプで機能が異なり,それは
線維内に含まれる収縮タンパクであるミオシンHCのサプタイプの違いにより決定されているこ とが明らかとなった.ミオシンLCは筋線維タイプを決定するものではないが,同一タイプのHC (fastとfast,slowとslow)との親和性が比較的高く,基本的には図8-Bに示すように4つの組合
せパターンが考えられる.本研究では,%Typellbと%LC3fとの間に有意な正の相関が認められ たが,これはTypellbが主にFM1と呼ばれるアイソミオシンから構成され,このFM1はfast
HCとLC3f,LC2fとから構成されているためであろう.このことは同様に有意な正の相関がみられ
たTypelとLCls,LC2sについてもTypelを構成するアイソミオシンであるSMのHCとLCの組合せに起因すると考えられる.
本研究では,アルカリLCのみを認識するモノクローナル抗体を用いて各筋のサプタイプを図示 した.ここで得られたLCサプタイプの比率は,SDS、PAGEの後クーマジープリリアントプルー染
色により得られたLCサプタイプの比率とは多少異なるため,数値化するには危険であるが,各骨格
筋間のLCサプタイプの量的比較には有効である.すなわちヒラメ筋は他の筋に比してLC1sの割 合が高く,LC1fの比率が低い.さらにヒラメ筋を除く全ての筋でLC3fが認められた.また,本抗体は標的アミノ酸との反応性が高いため,少蛍の泳動サンプルにより鮮明な応答が得られた.
ミオシンHCはこれまでfastとslowのサプタイプが確認されていたが,近年,分析法の改良によ り新たにTypelldまたはTypellxといった筋線維タイプとそれを槽成する新しいタイプのHC
が報告されている(BarandPettel988;Schiaffinoetall988;Terminetall989).本研究で
用いた抗ミオシンモノクローナル抗体は,これらのHCのうちfastタイプのみを認識するものであ り,デンシトメータースキャンにより得られた数値をヒラメ筋を基準にした場合,他の筋では 2.5~5.4倍の値が得られ,この値はそれぞれの筋のTypell占有率との間に有意な相関が認められ
た.このことは,TypellがfastタイプのHCから構成され,その値は筋のTypell占有率を量的に
128
大石康晴反映することを示唆している.従来に比べHC分析が容易であることや,泳動に供するサンプルが 微量で鮮明なHCパターンが得られることから,HC分析に際し本抗体を使用することは有効であ
ることが示唆された.
このようにラット骨格筋は,筋または筋の部位により筋線維組成が異なり,タイプの異なる筋線
維は,それを構成するミオシンタイプに違いが認められ,ミオシンHCのサプタイプにより筋線維タイプが決定されている.それぞれの筋線維タイプのミオシン発現は特異的プログラムによりコン
トロールされており,筋が果たす機能的役割と密接に関連している(d,Albisetall989).したがっ
て,本来の機能的役割を変化させることにより,筋の質的構造変化を生じさせることも可能であり,
可塑性をもった組織体といえる.
総 括
本研究は,ラットのさまざまな下肢骨格筋を用いて,筋線維タイプとそれを構成するミオシン軽 鎖ならびに重鎖の関連性について組織化学的分析に加え,モノクローナル抗体による免疫生化学的 手法を用いて検討した.筋線維タイプは,遅筋線維をTypel,速筋線維をTypell,そのサプタイ プをTypelIa,TypeIIb,Typellcに分類し,各筋の筋線維組成を検討した結果,ヒラメ筋およ
び緋腹筋深層部ではTypelがそれぞれ88.0%,50.3%認められたのに対し,他の筋ではTypellが
87.0%~100%と対称的な構成パターンが得られた.LCのサプタイプパターンについても筋線維タ イプとの類似性が認められ,各筋のTypellbとLC3f,TypeIとLC1s,LC2sとの間にそれぞれ有
意な正の相関が得られた.ミオシンHCについて,fastタイプのHC量を検討した結果,ヒラメ筋
を基準に他の筋では2.5~5.4倍の値が得られ,筋のTypell占有率との間に有意な正の相関が得られた.これらの結果は,HCがそれぞれの筋線維タイプを規定するとのこれまでの報告を支持すると
ともに,fastタイプのHCが筋のTypellの割合を反映し,HCとLCのサプタイプで同一タイプ間の親和性が高いことが示唆された.また,アルカリLCおよびfastタイプHCをそれぞれ認識する
モノクローナル抗体の有用性が示唆された6Referenceg
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