1. 問題と目的
心理療法を始める前にセラピストは, そのクライエントのかかえる問題やこれまでの経緯, さらに社会適応の程 度やその変遷など,様々なクライエントの 「状態」 や 「状況」 を聴き, さらにセラピストを前にしたクライエント の様子を観察し, それらの情報を統合するアセスメントの作業が求められる。 しかし, クライエントに関する情報 の統合が 情報の量の問題か, 量は十分であっても断片的であるか, に関わらず 困難だと感じるケースもあ る。 そういった場合, クライエントを捉える一つの手段として心理検査を用いることも多いのではないかと推察さ れる。 その際にセラピストが心理検査に期待することは, クライエントからの情報を補うことと, 今, ここで情報 の統合が困難となっている要因を明らかにすることであろう。 特に後者は知能や思考活動, 現実検討力や対象関係 などクライエントの根本的な問題, すなわちクライエントの 「自我機能」 の問題が影響している可能性が高い。 そ のクライエントの自我機能のあり様は心理療法における介入方針, さらにいえばそもそも心理療法を行うか否かを 左右することがある。
自我機能は自己の内と外との相互作用における基礎であり, そのために重要視されてきた。 また自我機能は複数 の機能による集合概念であり, これまで多くの研究者がその機能を説明している。 代表的なものに Bellak (1975) が提唱した①現実検討, ②判断, ③現実感, ④思考過程, ⑤自律的な自我機能, ⑥刺激防衛, ⑦欲動・感情の統御 と調整, ⑧防衛機能, ⑨対象関係, ⑩支配−達成の能力, ⑪自我を助ける適応的退行, ⑫自我の総合−統合機能と いう 12 の自我機能がある。 また Moore & Fine (1990) は①現実世界との関係, ②対象関係, ③思考過程, ④防 衛機能, ⑤自律機能, ⑥総合的・統合化・体系化の能力の 6 つの自我機能を挙げている。 我が国では馬場 (2008) が①現実機能, ②防衛機能, ③適応機能, ④対象関係, ⑤自律機能, ⑥統合機能の 6 つの自我機能を提唱している。
また心理検査による自我機能アセスメントは 「その対象者 (群) の自我機能はどうなっているのか」 が問題とさ れ, ロールシャッハ・テストや TAT が用いられることが多い。 例えば, ロールシャッハ・テストではボーダーラ インパーソナリティ (Berg, 1990;Zodan, et al., 2009), 自己愛パーソナリティ (Berg, 1990), 大学生・神経症 患者・統合失調症患者 (林, 1978), 職種の異なる専門職従事者 (間藤, 1974), 神経性過食症 (Parmer, 1991), TAT では統合失調症 (藤田, 1992c), ボーダーラインパーソナリティ (藤田, 1992a, 1992b), 不登校 (井口, 2001), 非行少年 (斉藤, 2002), 中年期から高齢期の一般成人 (Rosen & Neugarten, 1960) などが対象とされた。
さらに, これらのテスト・バッテリーとして非行少年 (齊藤, 2000) などがある。
自我機能アセスメントにおける の役割の検討
中京大学大学院心理学研究科博士後期課程 石井 明子
ISHII, Akiko (Graduate School of Psychology, Chukyo University)
Our ego functions affect on the interaction of the inside self with the outside world. It is definitely im- portant for the psychotherapists to know how the ego functions of clients work. The ego functions are as- sessed by the many kinds of psychological tests, especially by the projective methods. The purpose of this study is to present a practical and an investigational role of the TAT on its significance of assessing the ego functions. The author stresses on and deals with "realty testing", "thinking process", "object relation- ships", "defense/adaptation function" and "synthesis function" among many works of the ego. The author shows how to assess them through the examinations of the ways of construction, expression, and content of the stories made by three participants. The trial of this study suggests there are the points for assessment of the ego functions' works. Finally TAT's role of assessing the ego functions is discussed.
Ego functions, TAT, case study
これまでの研究では 「ある心理検査はどの機能をアセスメントできるのか」 はあまり問題とされておらず, 上記 の研究もまたその点に関しては論じられていない。 結果的にこれらの知見から判断できることは, ロールシャッハ・
テストでは現実検討 (間藤, 1974;齊藤, 2000;Zodan, et al., 2009), 思考過程 (林, 1978;間藤, 1974;齊藤, 2000), 刺激防衛 (間藤, 1974), 防衛機能 (林, 1978), 対象関係 (Parmer, 1991;Zodan, et al., 2009), 欲動・
感情の統御と調整 (林, 1978;間藤, 1974;Zodan, et al., 2009), 支配−達成の能力 (林, 1978) などが, 一方 TAT では現実検討 (藤田, 1992c;井口, 2001;斉藤, 2002), 思考過程 (藤田, 1992a, 1992b), 判断 (井口, 2001;Rosen & Neugarten, 1960), 欲動・感情の統御と調整 (藤田, 1992a, 1992b, 1992c;齊藤, 2000, 2002;
Rosen & Neugarten, 1960), 対象関係 (藤田, 1992b, 1992c;井口, 2001;斉藤, 2000, 2002), 防衛機制 (藤田, 1992b, 1992c;齊藤, 2000, 2002), 統合機能 (Rosen & Neugarten, 1960) がアセスメントできるということであ る。
さらに, 数少ない 「ある心理検査はどの機能をアセスメントできるのか」 に関する既存の研究では, ロールシャッ ハ・テストで Lerner & Lerner (1980), Rosenberg, et al. (1994), Schafer (1954), Urist (1977), TAT で Bellak (1975), Cramer (1987), Westen (1991) などがある。 上述の研究では, 各心理検査でそれぞれの自我機 能をアセスメントすべく, 様々な特殊スコアリングおよび分析・解釈方法が開発されているが, 臨床実践において, それぞれの分析・解釈法の修得や使用となると困難な感が否めない。 さらに, これら分析・解釈方法は反応よりも 指標ありきとなりやすく, その被検者の独自性や質 例えば防衛・適応機能であれば, どのような時にどのよう な防衛・適応機能が使用されるのか, など に焦点をあてることは困難である。 また TAT においては, カード ごとに質が異なるため, 分析に記号化を用いて, 全図版を通して使用できる共通の指標を作成することに, 積極的 な意味が見出しづらい。 しかし, その機能の水準を把握するための指標の作成は困難であっても, 記号化をしない ことによる反応のリアリティこそ, 自我機能のような 「機能しているか否か」 だけではなく, 「どのように機能し ているのか」 が問題となる数値化が困難な概念において, 有効な所見を与えるものと思われる。
そこで本研究では, 自我機能アセスメントにおいて代表的な心理検査である TAT について, 実際の数事例のプ ロトコルを通して自我の諸機能についてアセスメントを行い, 自我機能アセスメントにおける TAT の実際とその 役割について考察を行うことを目的とする。 なお TAT は鈴木 (1997) の分析・解釈方法に則り, 検討を行うこと とする。
2. 本研究で扱う自我機能
先に述べたように, 自我機能は様々な機能の集合概念である。 そしてこれら諸機能は独立して働くわけではない。
例えば, 現実を把握しようとするときには現実検討と思考過程が影響し, とりわけそれが対人場面であれば, 対象 関係も影響を及ぼすといった具合である。 また, それら定義が多少重複していることは, 多くの研究者が認めると ころである。 本研究では, 馬場 (2008), Moore & Fine (1990), また Bellack の自我機能を敷衍した神谷・西原 (2006) を参考に, 概念の重複を可能な限り避け, ①現実検討, ②思考過程, ③対象関係, ④防衛及び適応機能,
⑤統合機能について検討することとする。 以下にそれぞれの機能について説明し, それら機能の定義から TAT に おけるその着眼点を記述する。
①現実検討:現実を正確に捉え, 一般的に受け入れられる意味づけを行う機能を指す。 自分の過去の知覚や理想 に影響されずに, 客観的に外的世界を知覚し, 自分の抱いている内的世界と照合し, 区別する機能 である。
TAT の場合, 図版の場面と物語との照合度を指すと考えられる。
②思考過程:周囲で起こる出来事を知覚し, 整理・分類し, 知覚したものを論理的に理解する機能を指す。 思考・
決断・類似と相違の探知, さらに記憶・学習・判断・未来への計画などの機能を指す。
TAT の場合, 物語の具体性の程度や過去・現在・未来のつながりの程度を指すと考えられる。
③対象関係:内的な自己表象と対象表象による内的対象関係の関係性を指す。 さらにそういった内的対象関係と は異なる外的対象関係の関係性 たとえば内的対象関係によって他者に敵意を抱いたとしても親
密な関係を築く, など を指す。
TAT の場合, 図版の人物間にみられる反復する関係性が内的対象関係のそれと考えられる。 また 一過的に現れた関係性はその被検者にとって起こりうる可能性がある 少なくとも被検者にとっ て連想可能である ため外的対象関係と考えられる。
④防衛及び適応機能:内的な衝動や感情を内的に処理する際の方法を指す。 衝動や感情に耐える, 満足を引き延 ばす, など適度に制御しながら, 内的な安定を図る機能, 並びにそのように処理されたものを, 外 界に対する自分の言動を調節し, 適応的な形・方法で表現する機能を指す。
TAT の場合, 各々の登場人物に付与された欲求や感情の処理と外界への表出パターン及びその成 否を指すと考えられる。
⑤統合機能:個人のパーソナリティの中で様々な衝動・性向・機能を束ね, 組織化する能力を指す。 ある程度一 貫し, 組織化された方法で感情・思考・行動が働く機能を指す。
TAT の場合, 1 枚のカードごとに物語内の人物に付与された感情・思考・行動が組織化されてい るか, また総合的に TAT からその被検者像がどれほど鮮明に浮かび上がるかが統合機能を反映し ていると考えられる。
これらは臨床場面でセラピストとの間でも機能するものであり, それぞれをアセスメントで捉えておくことは, セラピストの対応をある程度方向づけ, 安定した治療空間を, ひいてはクライエントを守ることにつながっている と考えられる。
3. 方法
被検者は 20 歳代前半の男性 3 名である。 被検者には, 調査主旨を説明の上, 紙面にて同意を得た。 なお, 3 名 の表記はそれぞれ A, B, C とする。 TAT はすべて個別実施であり, 教示は以下の通りである。
「これから, 絵をお見せします。 この絵を見て, 物語を作ってください。 といってもそんなに難しく考える必要 はありません。 絵の中の人物がどうしてこのような状況になったのか, この後どうなるのか, 人物は何を思い, 考 えているのか, などを盛り込んで簡単な一つの物語を作ってほしいのです。 この検査はあっているとか間違ってい るというのはありませんから, どうぞ自由に作ってください。 私はあなたの言ったことを書きとめるのですが, す べて書きとめることは難しいので, 同時に録音させていただいてよろしいですか?」
使用したカードは鈴木 (1997) に基づき, 1, 2, 3BM, 4, 5, 6BM, 7BM, 8BM, 9BM, 9GF, 10, 11, 12M, 13 MF, 14, 15, 17BM, 19, 20, 12BG, 16 を選択した。
検査後, 検査者の記録と音声データをもとに TAT プロトコルとして完全な逐語に起こし, それぞれ分析・解釈 を行った。
それぞれの被検者の TAT プロトコルから自我機能のありようを表していると考えられる部分とその解釈を図版 ごとに抜き出し, その後被検者別に TAT からアセスメントされた自我機能について検討を行った。
4. TAT による自我機能アセスメント
本来であれば各被検者の完全なプロトコルを掲載すべきであるが, 紙面の関係上その要約を提示し, その後分析・
解釈を記述する。 さらに自我機能に関係していると思われる記述には下線を引いて示す。 それぞれの解釈について 自我機能の検討を行ったのち, 被検者間で比較できるよう, それらを表 1 に示す。
4−1 A の TAT による自我機能
カード 1 では 「母親から買い与えられたヴァイオリンを壊し, 隠し通そうとする。 母親からヴァイオリンについ て訊かれ 知らない と嘘をつく」 という物語であった。 この物語では, 懲罰的な母親像を抱いている可能性があ り, 罰せられる不安や暴露不安に対して否認 (隠す・「知らない」) し, 対処しようとしていることが特徴である。
カード 2 では 「必死に働く男性とそれを冷めた目で見ている後景女性。 裕福だが, そんな男性に心を揺り動かさ れ, 男性を手伝うことにした前景女性。 後に裕福となった男性と前景女性は親の反対を押し切り結婚する」 という 物語であった。 元々の三者の関係性は述べられていないが, 女性たちは 「冷めた目で見ている」 「感動している」
と何もしておらず, 男性は強迫的にあくせくと働いている。 また前景女性は男性にとって救世主であり, 潜在的に A が依存を求める傾向にあることが示唆される。 少なくともこの物語からは女性のほうが男性より優位に立って いる様子が一貫してみられる。
カード 3BM では 「やるべきことがあったが, 友人と酒を飲み, 酔い潰れて帰宅。 次の日にはやるべきことを成 し遂げた女性」 とした。 やるべきことから逃避し, 退行を図ったようだが, のちにそれに取り掛かっているので その過程はやや短絡的であるが , 一過性のものであり, 退行はよく機能しているようである。 ただ, やる べきことが詳細にされず, 逃避の理由に具体性を欠いている。
カード 4 では 「倦怠期の夫婦。 男性は不倫をしたが, 妻の良さがわかり帰ってきた」 とした。 通常, この場面で は男性が何かに向かっており, それを女性が止めている場面と解されるが, この物語からはどの場面を指している のかが不明確である。 そういった意味で非常に観念的であり, 図版という現実に沿っていない。
カード 5 では 「真面目だと思っていた子どもが学校を一日休んだので, 母親は何があったのかと何度も追及した が, 理由は風邪としか説明されなかった。 子どもは次の日には登校した」 とした。 子どもの側からみると休むと母 親から追及されるため, 強迫的にならざるを得ず, いざ休もうとする際には 「風邪」 と言わねばならない実情が伺 われる。 ここにカード 1 と同じく母親が懲罰的・暴露的であり, その脅威に否認 (嘘や 「言わない」) で対応して いる。 またそのようにして母親に反抗・抵抗している様子も伺われる。
カード 6BM では 「3 年前に行方不明になった兄を心配する弟とその祖母。 結局兄は他界したという通知を受け 取った」 とした。 通常この図版では図版の二人が深刻な話をしており, 二人の関係は親子であることが多く, 兄の 他界の話ではなく父親のそれであることが多い。 つまり, A の話では一般的に現れる両親がまったく現れないの である。 それを深刻な事態に両親を登場させなかったととらえれば, A が深刻な事態に直面する両親に耐えられ ないという意味であったり, 静観できない母親 カード 5 から母親は黙って心配することができない人のようで ある であったり, きょうだいへの同胞葛藤の表れである可能性がある。 ここではどの可能性も棄却できない。
カード 7BM では 「マフィアのボスはその部下に殺人を命じたが, 部下にとって相手が知り合いだったので, 部 下は嘘をついて知り合いを逃がした。 結局嘘がばれて, 部下は殺された」 とした。 カード 1・5 と同じく暴露不安 とそれに対する否認 (「嘘」) がみられ, さらに暴露されたときに殺害されてしまうという懲罰不安が現れている。
カード 8BM では 「大病を患った父親が子どもの顔を見て手術を決意し, 奇跡的に回復した」 とした。 この物語 ではカード 4 と同じく, 図版の状況が物語のどの部分と対応しているのか不明確である。
カード 9BM では 「カウボーイが休憩していたところ, 従順だった飼い馬に襲われ, 身ぐるみはがされ, 逃げる。
馬たちはその場で不自由なく暮らす」 とした。 カウボーイが休憩しているという認知はよくみられるが, その後の
「飼い馬に身ぐるみはがされる」 というのはやや論理的ではない。 「身ぐるみはがされる」 が暴露不安を表し, カウ ボーイが 「逃げる」 ところに A の逃避的な姿勢が再び示されている。 また, カード 5 にみられる休めなさもここ で現れている。
カード 9GF では 「雲の上で暮らしている女性たち。 災害で雲が壊れ, それを直した右側の女性は英雄になる」
とした。 この図版では現実的な話が多い中, 現実から遊離したファンタジーとして物語を作成したようである。 A の内界の投影とすれば, 雲が壊れるという内界の葛藤・分裂という出来事に何とか対処しようとする姿勢が感じら れる。
カード 10 では 「幼馴染で結婚した男女。 女性に死期が迫っており, 互いに気持ちを確認し合っている」 とした。
この物語は一般的な物語である。
カード 11 では 「竜と虎は天敵だったが, 新手の敵を協力して倒したところ, 仲がよくなった」 とした。 この物 語からは擬人化の傾向が強く, それだけに同一化も強かったと考えられる。 敵対していた者同士であっても親密な 関係になる可能性がある, ということを理解しているからこその反応といえ, そのような人間関係を築く可能性が 示唆される。
カード 12M では 「ごく普通の人が幼児期に経験した衝動, トラウマを再体験し, 催眠術師に相談をし, その幼
児体験に向き合い治る」 とした。 9GF でもみられたが, 内界の不調への対処は積極的である。
カード 13MF では 「相手の女性に興味はなかったが, 断り切れずに一夜を過ごし, 後悔した男性」 とした。 カー ド 2 でもみられたが, 女性は男性より優位な存在であり, 男性は常に受け身なものであることが推察される。
カード 14 で A は 「うつ病を患い, 家に閉じこもっていたが, それでは意味がないと思い, やり直す男性」 とし た。 この図版では観念的な物語も展開しやすく, この物語は一般的である。
カード 15 では 「過去も未来も行き来できる特殊能力を乱用しすぎた結果, 墓地に行きついたところで, 能力が 使えなくなる女性」 とした。 つまり, 自由になるとその代償が必ずやってくるとし, 自由への懲罰不安がみられる。
なぜ特殊能力が使えるようになったのか, その理由が明確にされなかった。 一般的にこの図版では謝罪をしている, 復讐を誓っていると語られるが, A の場合は罰を受けていると解すことができる。 A の自由への懲罰不安は相当 強いものと推察され, それがカード 5 で顕著に現れているようである。
カード 17BM では 「2 人が綱登りで競争し, 勝利した男性」 とした。 この物語からはなぜ 2 人が綱登りをするこ とになったのか, そもそも 2 人はどのような関係かが明らかにされず, ここでは競争となった理由と関係性につい て具体性に欠けているといえる。
カード 18BM では 「仕事で疲れて帰宅し, 妻からマッサージを受けている。 そのおかげで夫は仕事ができてい る」 とした。 一般的に男性の手と解され, さらにその手は拘束する, 援助することが多いのだが, A は女性にみ たようである。 さらにマッサージを受ける様子からはカード 2 のように, 依存的な男性像がみられる。
カード 19 では 「狐・タヌキ・カモメ・ヒヨコが追いかけっこをし, 勝利したのはヒヨコ」 とした。 この物語で は, 図版のどの部分が何かは明らかになっていない。 また, そもそもの競争となった理由が明確にされなかった。
カード 20 では 「落ち込んでいる男性が, 街灯の下の見知らぬ男性に無理やり遊びに連れ廻され, 元気になる」
とした。 この図版で人物を認知した場合, 街灯の人物が落ち込んでいるとされ, 同じ時空間に街灯の下の男性以外 の人物を導入すること, 導入人物の方からの視点で といってもこの人物に主体性はないのだが 語られるこ とはまれなのではないかと推察される。 そもそも図版の状況が物語のどの部分と対応しているのか不明確である。
また, 物語の内容からは落ち込みに対する反動形成がみられ, 導入人物である男性の受け身さが指摘される。
カード 12BG では 「大都市で働いている女性が休暇で訪れ, 癒しとなった場所」 とした。 このような人のいない 場所にたたずむことが A にとっての休息であることが推察される。 この図版は休息の場所とみられることも多い ので, この物語は一般的である。
カード 16 では 「無から生命が誕生し, また無に帰す」 と語った。 白から始まりと終わりを連想したようで, 観 念的ではあるが, 一般的にみられる物語である。
さて, A の自我機能であるが, 感情・思考・行動には一貫性があるように見受けられ, 統合機能は機能してい ると考えられる。 概して, カード 1・5・6BM・7BM・9BM より追及的・懲罰的な対象表象による暴露不安と懲 罰不安, それによる防衛・適応機能はカード 1・3BM・5・7BM・9BM より否認か逃避である。 またカード 5・7 BM よりそれら防衛・適応機能が A の対象表象への反抗の現れでもある。 カード 2・13MF・18BM・20 より一貫 して特に女性に対して受け身で依存的な人物と推察される。 現実検討および思考過程の揺らぎが検査後半で特にみ られ, 現実原則に基づく統制の揺らぎがみられる。
4−2 B の TAT による自我機能
カード 1 では 「ヴァイオリンを上手く弾くことができずに悩んでおり, 何かいい案が浮かび, 再び練習を始める」
という物語であった。 ヴァイオリンは手に入れているものの, アドバイスを送るものはおらず, 自立を求められて いたことが推察され, 非援助的であるといえる。 また, B の葛藤の解決方法が 「いい案が浮かぶ」 と知性化である ことも窺える。 さらに, 「いい案が浮かび, 再び練習し始める」 は検査者の質疑から語った部分であり, その先の 見通しが想像しえないのか, 初期の緊張によるものか, その他の要因によるものか検討が必要といえる。
カード 2 では 「畑仕事をしている男性とそれを見守る妻と母親」 とした。 カード 1 でも見られたが, 周囲の人物 が非援助的であり, 結局何もしていない様子が窺える。
カード 3BM では 「服装が古臭いことで恋人に振られた女性が泣き崩れているが, その後は立ち直る」 とした。
B は外的対象喪失について述べ, それが B にとって重要であること, その際に知性化 (「服装が古いから」) を用
いることが推察される。 恋人に振られた理由およびその後の展開については検査者の質疑から語った部分であり, 質疑を行えば, 時間をかけずに語られることから, やや自主性に欠けるためと推察される。
カード 4 では 「映画の一場面。 男性が戦争か何かに向かうのを女性が止めているが, 結局男性は行ってしまう」
とした。 一般的な物語であるが, 最終的に男性はどうするのかは質疑から語られた点であり, 自主性の弱さといえ る。 「映画の一場面」 とする点では, B が図版の状況から距離をとり, 作品であるとしたと考えられ, 男女間の葛 藤に対する不安のためと推察される。
カード 5 では 「変な物音がしたので様子を見に来た女性。 結局動物か何かがいた」 とした。 一般的に, 部屋の主 を呼びに来たといった日常的な場面とみても不思議ではない図版であるが, B は非日常をみたようである。 B の日 常を破壊される不安とそれに対して原因追求というある意味知性化とも取れる物語を展開している。
カード 6BM では 「男性の親族か何かが亡くなり, 遺体と対面し, 悲しんでいる。 横ではメイドが茫然としてい る」 とした。 「親族」 は後に 「親」 と言い直しており, その点では一般的な物語といえる。 しかし, 一般的には左 の女性は母親であり, B が母親とせずにメイドと語ったあたりに母親を悲しませるといった攻撃ができない B と, 破壊されやすい母親が推測される。 また, 「メイドが茫然としている」, つまり母親的人物として働くべき役割が働 かない状況もこれを支持している。
カード 7BM では 「会議か何かで相談役の男性が若い男性にアドバイスを送っている, 若い男性はそのアドバイ スに自分の意見を取り入れて発言する」 とした。 カード 1・2・6BM では周囲は何もしてはくれない様子だったが, ここでは積極的にアドバイスを送る年長者が登場し, おそらく B の希求している援助する人物と思われる。
カード 8BM では 「交通事故にあった親の死体解剖の場面。 手前の息子は加害者に怒りを覚えている」 とした。
図版の後景は加療か加害かにみられる場面で B は死体解剖と述べた。 死体解剖とはおそらく死因の調査と推察さ れる。 ここから B が自分の攻撃性に対して知性化を用いた可能性を表している。 加害者に対して抱いた怒りは, 親を破壊された怒りであるが, 見かたによれば B の破壊不安や懲罰不安の投影であろう。 さらにいうと, 本来な ら被害者である親が感じるはずの被害意識による怒りを B が同一化 一見, 適応的には見えないのだが, それ が対象喪失に対する B の対処方略であるのかもしれない している結果でもある。
カード 9BM では 「酪農系の仕事をしている人たちの休憩場面。 一人が起きているから, 仕事に戻ると思う」 と した。 この物語は一般的な物語である。
カード 9GF では 「木陰に隠れている人が召使で, お嬢様のドレスに飲み物をこぼし, それに怒ったお嬢様が召 使を追いかけているところ。 結局召使は怒られる」 とした。 この図版の 2 人の関係をお嬢様と召使とする物語はた びたびみられるが, 普通は召使がお嬢様に何かを届けるといった物語が多い。 B の物語では, 召使は自分のミスで 追われる身になっているのが特徴である。 これまでにも何度も反復している世話する (援助する) 役割のはずがそ うはならない人物がここでも表れており, むしろ叱責するお嬢様の方がある意味教育的である。 さらに何かミスを したときに隠れねばならないほどの動揺とその行動からは B の強い懲罰不安とそれに対して逃避する態度も推察 される。
カード 10 では 「幽霊とか怪奇現象に怖がる息子を父親が抱き締めてなだめている」 とした。 夫婦の悲しみによ る抱擁が一般的であり, B の子ども心性や依存性の強さを表している。 また幽霊や怪奇現象といったところに B の敏感さを表しており, カード 7BM にもみられた援助的な父親の希求が表れている可能性もある。
カード 11 では 「家畜の牛が悪魔の城に向かうのを数人が止めているが, 結局それを振り切っていってしまう」
とした。 悪魔の城といったところに B の懲罰不安が表れており, 牛を上手く制御しきれない部分により一層の不 安をみることができる。
カード 12M では 「いじめにより死んだ孫の復讐で, 祖父が寝ている孫の同級生を殺そうとする」 とした。 8BM でも似たような物語がみられ, B の対象喪失に対する問題を感じさせる。 8BM でもそうだが, 加害と被害とが明 確であるが, 被害者側が加害者側に転じる, すなわち加害者側には懲罰不安を投影し, 被害者側には同一化しやす い傾向が推察される。
カード 13MF では 「妻が突然死し, それを帰宅して発見し, 泣いている男性」 とした。 この図版では一般的な 物語である。 B ははじめ 「殺された」 としたが, 「突然死」 とし, 破壊不安から否定を用いたと考えられる。
カード 14 では 「星空を見ている男性の姿が隣家の壁にシルエットとして映っている」 とした。 星空をみている
とする物語はあるとしても, 図版の様子を部屋の中からの様子とみることが多い図版で, 部屋の外としたのが特徴 である。 しかし確かに部屋の中からでは窓の外が明るいのに夜とするのは矛盾しており, むしろ B のように部屋 の中は明るく, それが壁にシルエットとなっているとすると周囲の暗闇とのつじつまがあう。 B の現実への認識の 正確さがあるとともに, 一般的には部屋の中からとすることが多いため, やや緩みや遊びのない面もみてとれる。
カード 15 では 「元々殺すつもりはなかったが, 自分のやりたいことを妨害してきたので, 殺してしまい, 逃げ ている間にその人の墓地へ行って手を合わせて償っている」 とした。 B の物語からは逃げ回っているのに, 墓地に 手を合わせるという良心の呵責とも取れる内容が含まれ, 懲罰不安がみられる。 逃げ回っているという行動からは 殺人に伴う懲罰不安に 9GF 同様, 逃避を用いており, のちに手を合わせに行くところからは打ち消しを用いてい ると推察される。 自分のやりたいことを妨害してきたという殺害の理由はやや曖昧な感がある。
カード 17BM では 「遠くにいる友人に, ロープに上り面白いことをやって見せている男性。 それを見ている友 達の反応は笑っている」 とした。 つまり, ロープに上っているのは, エンタテイメントのためであり, B の心性を 窺わせる。
カード 18BM では 「仕事が上手くいかず苦しんでいる状況が誰かに掴まれ不自由になっているという夢として 表れている」 とした。 内容は観念的であるが, 現実の苦しみの夢への象徴化がみられる。
カード 19 では 「雪国で吹雪の中, 家が建っている」 とした。 この物語は一般的な物語である。
カード 20 では 「灯台が雪の降る暗闇の中で輝いている絵」 とした。 この図版で人物を認知しない場合, 人への 関心の希薄さや暗闇恐怖, 萎れた男性イメージのなさなどが考えられる。 B の場合, それら以上に意味があるのは 灯台に導く, つまり援助の意味がある点であろうと推察される。 B が援助を求める傾向にあることはカード 7BM や 10 でもみられた。
カード 12BG では 「小川が流れていて, 梅が咲いている。 冬が終わって春が来る状況」 とした。 この物語は記述 水準にとどまり, またそのようになることもまれなことではない。
カード 16 では 「これまでは絵が描いてあって, それから物語を作成したけれど, これは自分で描きなさいって ことだと思う。 これまでは白黒で暗いイメージがあるから明るいものが描きたい」 と語った。 つまりこれまでは図 版に描かれた絵の 「援助」 があったが, ここでは自立が求められていると解したようである。 そしてこれが B の テーマであることはこれまでのカードからみてとれる。
さて, B の統合機能であるが, こちらもまた, 感情・思考・行動には一貫性があるように見受けられ, 機能して いると考えられる。 概して, カード 1・2・6BM・7BM・9GF・10・20 より被援助的な対象表象とそれゆえの援助 的な対象の希求及び依存性, またカード 8BM・9GF・11・12M・15 より懲罰不安及びカード 6BM・8BM・12M より破壊不安を感じやすい自己表象が推察される。 カード 1・3BM・5・8BM より防衛・適応機能は主に知性化で あるが, 多様な防衛・適応機能を使用する (4・8BM・9GF・12M・13MF・15・18BM)。 特にカード 8BM・12M・
15 にみられる殺害など懲罰・破壊不安が大きくなるほど, その不安を投影・打ち消しといった逆転の防衛・適応 機能をもちいやすいようである。 先の見通しに対する自発的発言のなさからは思考過程がうまく機能していないよ うにみうけられるが, 実際は質疑からすぐに答えられるため, 依存的で自発性に乏しい態度によるものではないか と推察される。 また現実検討機能はかなり強く働いているといえる。
4−3 C の TAT による自我機能
カード 1 では 「何かわからないけど, 壊してしまって, どうしようかと思っている」 という物語であった。 ヴァ イオリンの認知がなされず, 検査導入による不安や緊張のため, と推察されるが, それが現実への正確な認識を脅 かすほどである, と推察される。 しかし, その点以外の壊してしまい困っているという展開はよくみられるもので ある。 ただ, 詳細があきらかにされないことから, 先を見通す想像力の欠如, 初期場面の緊張, 自発性の問題など 見極めていく必要がある。
カード 2 では 「後景の男性は農業をしている。 手前の女性は無関係。 後景の女性は男性と親戚程度で, 特に男性 に関心はいっていない」 とした。 C が自発的に語った部分は 「男性は農業をしている」 のみであり, それ以外の言 及はなかった。 このことから, C の慎重さや自発性のなさ, または想像力の欠如を窺わせる。 また, 親子や夫婦と される後景の 2 人を親戚程度と曖昧にし, 女性の関心が男性にいっていないことをあえて明言するあたりに, C の
関係性の見かたががやや淡泊であることや人間関係の親密さに対する否定が推察される。
カード 3BM では 「恋愛関係のことでやけ酒をし, ぐったりしている。 そのうち立ち直ると思う」 とした。 恋愛 関係とはおそらく対象喪失 (別れた, 振られた, など) について述べているのだろうが, それを明言せず, 「やけ 酒でぐったりしている」 という部分のみを自発的に語り, やけ酒の理由を明確にしえなかった。 質疑では答えるこ とができているので, カード 2 でもあったが, 何らかの関係性を想像しうるが, 言及しない点に人間関係の親密さ に対する何らかの防衛が働いている可能性がある。 また, 人間関係の破たんに対して躁的防衛 (「ヤケ酒」) で対応 することも示唆される。
カード 4 では 「男性が喧嘩をしているのを, 女性が軽く止めているが, 止められない」 とした。 質疑で男性の喧 嘩の理由を問うたが, 「わからない」 とのことであった。 物事の理由を想像する力が弱いといえる。 基本的な場面 の捉え方としては問題ない。 むしろ男性に対して極度の理想化をせず, 淡々と現実を捉えているといえる。 女性の 対応であるが, ただ 「止める」 のではなく 「軽く止める」 とあえて言及するところに関係性の強さに対する否定が みられる。 また, この 2 人がどのような関係であるのかも語られず, 関係性を特定することに対する防衛か, 淡白 に捉える傾向があるようである。
カード 5 では 「孫か何かに用事があり, 部屋にいるかなと見に来た女性。 大した用事ではないけれど」 とした。
物語の内容は一般的であり, 祖母と孫の関係は決して珍しいものではない。 あえて言及すれば 「大した用事ではな い」 と語るところに, 実際は大したことである可能性を連想したと考えられ, 物事の重大さに対して不安になりや すく, それを否定することで安寧を保つ傾向にあると推察される。
カード 6BM では 「この二人は知り合いで, 共通の知り合いが死んだか行方不明か, 怪我した程度。 女性は驚い ているようにみえる。 悲しい場面」 とした。 図版に描かれた 2 人は一般的に母子関係であることが多く, 不幸な出 来事は家族であることが多いが, C は 「知り合い」 と語り, さらに怪我をした人物も 「知り合い」 と距離のある関 係とされた。 このことから関係性が淡泊であると同時に悲しみから距離をとろうとした可能性や関係性の強さに対 する防衛が働いている可能性が指摘できる。 さらに特筆すべきは共通の知り合いに起こった出来事が 「死」 から
「行方不明」 となり最終的に 「怪我した程度」 と徐々に軽くなっていった点であろう。 C の悲しみを引き起こす事 の重大さへの対処が否定と価値下げであることが窺える。
カード 7BM では 「会議ののち, 手前の若い男性は足早にその場を去ろうとしている。 年長の地位が高い感じの 人は, 若い人に上手くやってくれと頼んでいる。 若い人は上手くやると思う」 とした。 ここでは, 若い男性が年長 者から上手くことが運ぶよう頼む 若い男性がその場から足早に立ち去ろうとしている様子からは, 頼むという より嫌なことを命じているというニュアンスが強いかもしれない とし, 親密というよりはやはり淡々と物事を こなす, 淡白な関係であるといえる。 また, 年長者は年少者を利用するため, 人間関係を利用する−されるという 関係でとらえる可能性がある。
カード 8BM では 「手術されている人と手前の人は同一人物。 手術が成功し, そのあと, 何かを成し遂げて, 脚 光を浴びる」 とした。 脚光を浴びる理由を質疑で問うたが, 「わからない」 と答え, 理由を想像する力は弱い。 図 版の後景は手術場面であり, 前景は脚光を浴びている場面と解したと推察される。 後景の手術場面を過去の在りし 日の回想とするなどの言及がないため, 図版の場面が統合されているのか, 不明確である。 もし統合が上手くいっ ていない場合は図版を恣意的に分割したことになる。 内容は手術から生還し, 成功するというヒロイティックな話 であり, C の称賛欲求や自己愛的な面がみられる。
カード 9BM では 「悪いグループがどこかへ旅に出る前で, 外で寝ている。 家で寝ると間に合わないから。 正面 の人がリーダー」 とした。 旅の主要な目的が明確にされないため, 「悪いグループ」 がどのようなグループかも不 明確である。 家での就寝では間に合わないから, 野外で寝ているという理由づけもやや無理があるように思われる が, ここでは旅に出る理由について明確にされなかった。 さらに, 一般的に男性たちは一括りとして語られる中,
「正面の人がリーダー」 と言及していることから, 集団帰属意識の弱さ, つまり, これまでのカードでもみられた 淡泊な関係がみられる。
カード 9GF では 「二人はライバル同士で, 左の女性は急いでいて, 真面目そう。 右の人は様子を窺っていて, 卑劣な手段を使う。 最後は左の人が勝つ」 とした。 どんなことでライバルなのか, なぜ左の人が急いでいるのかに ついては質疑を行ったが 「分からない」 とのことであった。 この図版の一般的な捉え方である, 2 人の女性の対立
は語られているものの, なぜ対立しているのか, さらになぜ左の人物が急いでいるのか, といった理由については 具体化されなかった。 しかし, 真面目な左の人物が最後に勝利するとし, 左の人物に同一化はしているようである。
正攻法で対立されないという C の被害感がみられる。
カード 10 では 「異性愛ではなくて, 家族愛。 右が息子で, 何か色々あって, 左の父親が慰めている」 とした。 B にもみられたが, C の子ども心性の強さと依存性, 慰めるという援助的な父親の希求がみられる。 異性愛とあえて 言及する点で, それも連想されたとも考えられ, 異性愛に対する否定がみられる。 ただ, やはり息子が慰められる 理由は明確にされなかった。
カード 11 では 「人がドラゴンを悪いように利用しようとしている。 ドラゴンは人を攻撃しようとしている」 と した。 C がドラゴンに同一化しているのは明らかであり, 人の悪巧みを制裁しようとしているのである。 カード 7BM でもみられた利用する−される関係がみられる。 また, カード 9GF でもみられた悪しき者が滅びる, 逆にい えばそれは C の懲罰不安である可能性もある。
カード 12M では 「手前の人物が奥の人に催眠術をかけている」 とした。 質疑による催眠術の内容は 「記憶を呼 び起こす類のものではない」 とし, 催眠術をかける理由については具体性を欠くと同時に, 「記憶を呼び起こす類 のもの」 と暴露を連想しており, 暴露不安に対して否定している。
カード 13MF では 「性交渉のあと, 男性は疲れているけど, 仕事に行かなければならない」 とした。 この図版 では一般的な物語であり, 性的なものに対する抑圧などはないが, 質疑による 2 人の関係は 「まだ, 結婚はしてい ない」 とし, 恋人とも言わずであった。 関係を明確化せず, また 「結婚はしていない」 とあえて言及した点に婚姻 関係の連想を否定したと考えられる。
カード 14 では 「扉の向こう側から, 人ではなく, 鳥とかが来るのを待っている。 話がしたくて」 とした。 また, 質疑によるその後の展開は 「すぐにではないけど, 来ると思う」 とした。 一般的にこの図版では, 図版の人物の内 的状態について語られることが多く, 心理的あるいは物理的脱出がテーマとなることが多いことから, このような 物語はやや珍しい趣がある。 話がしたくて待っている姿勢からは C の積極性の乏しさが推察されるが, 待ってい る相手が 「人ではない」 とあえて言及する点に C の特殊性 つまり, 人の希求についての否定 が窺われる。
カード 15 では 「すでに死んでいる人が墓地に入らなくてはならないのに, 入れない状態。 その理由は自分にあ る」 とした。 語った内容からは何か済まされない事態があり, 罰としてすでに死んでいるのに墓地に入ることがで きなくなっていると解すことができる。 人物が墓地に入ることができない具体的な理由については明確にされなかっ たが, この図版を図版の人物が罰を受けている場面とすることは一般的である。 ただ, 死んでもなお済まされない ほどの罰を受けているといった点で C の懲罰不安を表しているといえる。
カード 17BM では 「下に欲しいものがあるから, 上から取りに行っている」 とした。 また質疑による結末は
「取れない」 とした。 この図版で何か手段のためにロープに登っている, あるいは降りているとする場合, 脱出で あったり, 他者の救出であったりすることが多い。 また, 窃盗や窃視とされることもある。 つまり, C の物語から はただ単純に欲しいものを取りに行っているというだけで, 緊迫した要素が取り除かれているといえる。 一般的に 解される状況を上手くつかみ損ねた点では現実検討の問題も窺われるが, 緊迫した状況に対する価値下げも疑われ る。
カード 18BM では 「仕事に疲れたが, まだやらねばならないことがある。 疲れで身体を抑えつけられている」
とした。 この物語では手は象徴的に疲れを表し, 「働く意志はあるのだが, 疲れに身体の自由を奪われている」 と 解することができる。 図版の男性の背後にある手は支配の手であり, 仕事をすることを止められているのである。
逆に疲れに止められなければ, 仕事をし続けてしまうとすれば C の強迫的心性も窺われる。
カード 19 では 「噴火や津波といった自然災害が同時に起こっている」 とした。 家や船の認知はなく, C の不安 を表しているといえる。
カード 20 では 「昔, この場所に関係があった人の魂が居座っている」 とした。 人のゲシュタルトを認知したの かは不明であるが, 少なくとも, 暗がりに生身の人がいることにはならなかった点で C の暗闇恐怖が推察される。
カード 12BG では 「桜か何かの木が人の訪れを待っている」 とした。 ここでは木を擬人化し, 対象希求を述べて いる。 人同士の関係よりも, 自然と人との関係の方が容易に対象希求を語ることができる点はカード 14 と同じで ある。
カード 16 では 「頭が真っ白」 と C 自身の内的状況を語ったが, 連想不能といえる。 一般的に何かしらの連想を 語る方がはるかに多いため, C の柔軟性の乏しさが推察される。
さて, C の統合機能であるが, A・B ほどではないにしろ, 感情・思考・行動には一貫性があると考えられる。
ほとんどの図版で一貫してみられた傾向は, 物事の理由を限局化すること, 対人場面における関係性を特定するこ とに代表される物語に具体性を欠く, つまり思考過程の機能の弱さである (カード 1・2・4・6BM・8BM・9GF・
10・12M・15)。 ただ, 仮定するならば, 検査場面への不安により具体的に語らない軽度の否認という防衛・適応 機能を使用している可能性が否定できず, そうであるならば防衛の固い人物といわねばならない。 概して, カード 2・4・6BM・7BM・9BM より関わりが淡泊な対象関係が推察される。 ただし, C の場合, むしろ防衛の固さによっ て語りが減じており, その結果として人物間の関係が淡泊なものとなった可能性がある。 カード 7BM・11 より利 用する−される対象関係が推察される。 カード 1 から強い新奇場面への不安とカード 6BM・17BM より緊迫した 状況への耐性のなさがみられる。 親密な対人関係への防衛・適応機能はカード 2・3BM・4・10・13MF・14 より 主に否定を用いており, 緊迫した状況についてはカード 5・6BM・17BM より価値下げを用いると推察される。
表 1 図版別に表出した自我機能及びその内容 カード
番号* 被検者 A 被検者 B 被検者 C
1
・過失に対して懲罰的な母親像
→対象関係
・援助されない少年
→対象関係
・ヴァイオリンの認知なし
→現実検討の低下
・懲罰不安・暴露不安に対して否認
→防衛・適応機能
・解決方法が知性化
→防衛・適応機能
・先を見通す想像力の欠如
→思考過程の低下
2 ・依存的な自己像
→対象関係 (自己表象)
・周囲が非援助的
→対象関係
・想像力・場面の統合力の欠如
→思考過程の低下
・親密さに対する否定
→防衛・適応機能
・関係性が淡白
→対象関係
3BM
・やるべきことから逃避・退行
→防衛・適応機能 ・対象喪失に対して知性化
→防衛・適応機能
・特定の対人的関わりに対する防衛
→防衛・適応機能
・やるべきことを明確化しない
→思考機能の低下
・対象喪失に対して躁的防衛
→防衛・適応機能
4 ・物語と図版の対応が不明確
→現実検討の低下
・男女の対人的葛藤場面を昇華
→防衛・適応機能
・喧嘩の理由や人物間の関係性が不明
→思考過程の低下
・強い対人的関わりに対する否定
→防衛・適応機能
・特定の対人的関わりに対する防衛
→淡泊な対象関係 or 防衛・適応機能
5
・休息に対して懲罰的で暴露的な母親像, それに反抗する子ども
→対象関係
・日常生活を脅かされる事に 対する不安への知性化
→防衛・適応機能
・物事の重大さに対する否定
→防衛・適応機能
・懲罰不安・暴露不安に対して否認
→防衛・適応機能
6BM ・静観できない母親像
→対象関係
・母親を破壊する不安, 破壊されやすい母親
→対象関係
・悲哀に対して距離をとる・否定・
価値下げ
→防衛・適応機能
・世話役が非援助的
→対象関係
・関係性が曖昧
→淡泊な対象関係 or 防衛・適応機能
7BM
・暴露的・懲罰的な年長者像と それに反抗する部下
→対象関係
・援助的な父親像
→対象関係 (理想対象)
・淡白で利用する−利用される関係性
→対象関係
・暴露不安に対して否認・逃避
→防衛・適応機能
8BM ・物語と図版の対応が不明確
→現実検討の低下
・攻撃性に対して知性化
→防衛・適応機能
・脚光を浴びる理由が不明
→思考過程の低下
・破壊不安・懲罰不安を投影
→防衛・適応機能 ・図版の恣意的な分割
→現実検討の低下
・喪失した親の被害感に同一化
→防衛・適応機能
9BM
・先の見通しが非論理的
→思考過程の低下
・旅の目的が不明
→思考過程の低下
・暴露不安に対して逃避
→防衛・適応機能
・集団帰属意識が低く, 淡白な関係
→対象関係
9GF
・世話役が非援助的
→対象関係
・理由が不明
→思考過程の低下
・懲罰に対して逃避
→防衛・適応機能
・同じ立場で対峙されない関係性
→対象関係
10
・依存的な自己像と 援助的な父親像
→対象関係 (理想対象)
・慰められる理由が不明
→思考過程の低下
・依存的な自己像と援助的な父親像
→対象関係 (理想対象)
・異性愛に対する否定
→防衛・適応機能
11 ・敵対関係から仲間意識への変化
→外的対象関係
・懲罰不安を感じやすい
→対象関係 (自己表象)
・利用する−される関係性
→対象関係
・懲罰不安を感じやすい
→対象関係 (自己表象)
12M
・破壊不安・懲罰不安を投影
→防衛・適応機能
・催眠術をかける理由が不明確
→思考過程の低下
・喪失した孫の被害感に同一化
→防衛・適応機能
・暴露不安に対して否定
→防衛・適応機能 13MF ・女性に対して受け身な男性像
→対象関係 (自己表象)
・破壊不安に対して否定
→防衛・適応機能
・親しい関係性に対する否定
→対象関係
14 ・現実検討の過剰な統制 ・対象希求に対する否定
→防衛・適応機能
15
・理由が不明確
→思考過程の低下
・懲罰不安に対して逃避・
打消し
→防衛・適応機能
・理由が不明
→思考過程の低下
・自由さに懲罰不安を感じやすい
→対象関係 (自己表象)
・理由が不明確
→思考過程の低下
・懲罰不安を感じやすい
→対象関係 (自己表象) 17BM ・理由と関係性について不明確
→思考過程の低下
・緊迫した状況に対する価値下げ
→防衛・適応機能 18BM ・女性に対して依存的な男性像
→対象関係 (自己表象)
・現実の苦しみに対して象徴化
→防衛・適応機能
19
・物語と図版の対応が不明確
→現実検討の低下
・理由が不明確
→思考過程の低下
20
・物語と図版の対応が不明確
→現実検討の低下 ・援助を希求する自己像
→対象関係 (自己表象)
・暗闇に恐怖を抱きやすい
→対象関係 (自己表象)
・受け身な男性像
→対象関係 (自己表象)
5. 考察
5−1 TAT による自我機能アセスメントの要点
3 名の TAT プロトコルの検討から, まず本研究で取り扱ったそれぞれの自我機能のアセスメントのための要点 について以下に記述を試みる。
①現実検討:主にプロトコル全体の傾向から読み取る必要がある。 物語から, 今被検者の目の前にある図版の状 況が物語のどの部分と対応しているのか検査者に判断できること, その場面の認知に歪みがないこ とが現実検討機能の働きの成否を表している。 さらに, 個々の図版から, 一過性の現実検討機能の 低下がみられた場合, それがどのような場面で, どのような検査の文脈で起ったのかを把握するこ とで, 被検者の現実検討機能のパターンをつかむことができる。 たとえば A は検査後半になると 現実検討機能が低下しやすく, それが疲労の問題や検査への慣れから統制が緩む可能性を示唆して いる。
②思考過程:主にプロトコル全体の傾向から読み取る必要がある。 過去・現在・未来のつながり及びそれらから なる物語の具体性の欠如は, 思考過程の機能の低下が疑われる。 ただし, 何か浮かんでいたが語ら なかった場合は, パーソナリティ及び動機づけの低さからくる自発性の低さ, 検査場面への慎重な 態度, 否認の防衛・適応機能の使用が疑われる。 最低限検査者が必要とする情報を質問した際に
「分からない」 被検者が防衛的にならず, 本当に 「分からない」 とした場合は想像力の欠如・
論理の破綻という意味で思考過程の低下といえる。
③対象関係:プロトコル全体から読み取るべきは, どの図版であってもある程度決まったパターンとして関係性 が表出されるか否かである。 ここから内的対象関係が表出しているのか, 柔軟に外的対象関係が表 出しているのかをみることができる。 また, 内的対象関係にしろ, 外的対象関係にしろ, 関係の成 否もみていく必要がある。 もし, 被検者の反応に決まった関係性のパターン, つまり内的対象関係, が表出している場合, それはどのような関係性かを検討することで, 心理療法においてセラピスト に投影される関係性が予測できる。 また, 内的対象関係から自由な外的対象関係の表出はよくいえ ば柔軟さであるが, 悪くいえば防衛が強すぎて内的対象関係が検査で現れない, または統合機能が うまく働いておらず一貫性がないともいえる。
④防衛・適応機能:プロトコル全体から読み取るべきは, 各種防衛・適応機能の成否である。 内面の衝動・不安 などが, その人の内面にとっても外から見ている人にとっても, 上手く処理されているのかを見て いく必要がある。 さらに, どのような事態にどのような不安や罪の意識や恥を感じるのか, それに 対する防衛・適応機能には一定のパターンがあるのか つまり性格防衛となっている程度 , を検討する必要がある。 対象関係と同じく, 多くの種類の防衛・適応機能を用いることは柔軟であ ると同時に統合機能が上手く働いておらず一貫性を欠くといえる。 例えば, B の場合, 対象を破壊 されると, 自分の抱いている懲罰不安とそれに伴う罪悪感を他者に投影し, 自分は対象表象への同 一化により懲罰する側にまわって相手を罰しようとする。 一方, その他の状況には知性化を頻繁に 使用して対処しており, ある程度の一貫性と特殊な状況での異なる防衛・適応機能の使用パターン が TAT から読みとれる。
・落ち込むことに対して反動形成
→防衛・適応機能 12BG
16
*カード番号は検査実施順である
括弧は記述以外に本論で取り上げる自我機能に関係しない解釈の可能性があり, 総合所見からもその可能性が棄却できな いものである