静岡大学教育学部研究報告 (人文・ 社会科学篇)第57号 (2007.3)91〜 106
少子化対策 における「父親支援策」
一自治体 による「父親教室」 に着 日 して一
Public Policies for FathersI Involvement in Child Rearing as Countermeasures ag」
nst Decreasing Number of Children
冬 木 春 子
Haruko FUYUKI
(平
成
18年10月2日 受理 )
1 問題意識 と目的
わが国においては
1970年代以降に父親論が盛んになるが、その議論においては「父親の不在」 という 概念が一つの展開軸 になっていると指摘できよう。たとえば、
1970年には初頭 まで続いた高度経済成長 は家族構造の転換を もた らし、 「権威的父親の不在」が問題視 された。続 く
1980年代 には、男性労働者 に課せ られた長時間労働の所産 としての「在宅時間の短 さ」 と「母親の子育て責任の偏重」が問題視 さ れ、「父親の物理的不在」が指摘 されるようになった。 それを受 けて
1990年代には「育児を しない男性 は父親 とは言えない」なる標語に象徴 される啓発活動が示すように、自治体 による「父親の子育て支援」
が積極的に展開されるようになっている
1)。このように、
1990年代後半か ら「父親の育児参加」あるいは「父親の家庭教育」を推進す る国、地方 自治体などの動 きが活発になっているが、その背景 にはわが国が直面す る少子高齢化が指摘できる。す なわち、少子化の進行によって将来の労働人口不足が予想 されるなかで「女子労働者の積極的活用」を 可能にするための社会構造の構築が提唱されるようになり 2\ 行政側か らも「母親だけが子育てをする」
か ら「母親 も父親 も子育てをする」 さらには「地域で子育てをす る」 という子育て観への転換がなされ たといえよう。
本稿では
1990年 (平成
2年)の 「
1.57ショック」を契機 に開始 された国による一連の少子化対策にお
いて、「父親」がどのように位置づけられ、「父親支援策」が展開されてきたのかを概観する。それをふ
まえ、 「父親支援策」 の中で も「父親の家庭教育支援」 に注 目し、 自治体主催による「父親教室」を取
り上 げる。 これまで就学前児向けの「母親教室」 は、母子保健事業あるいは子育て支援事業 として取 り
組みがなされ、孤立 した母子をつな ぐネットワーキ ング、母子の関係性や子 どもの発達にも貢献を して
きた
3)。̲方 、 「父親教室」 については昨今取 り組み始 めた自治体がほとん どであり、 それについての
実態や効果が検証 されたことはほとんどな く、課題 も明 らかにされていない。そこで、本稿 は静岡市に
おける「父親教室」 に注 目し、その参加者を対象に した質問紙および観察調査を通 して「父親教室」の
実態を明 らかに し、 「父親支援策」の課題を考察 していきたい。
2 少子化対策 にお ける「 父親」の位置づ けおよび「 父親支援策」
わが国における少子化対策において「父親」がどのように位置づけられ、支援策が講 じられてきたの かを「父親」あるいは「男性の育児」のキーワー ドをてがかりに見ていく。
(1)「
エンゼルプラン」および「新エンゼルプラン」
前述 したように、
1990年 (平成
2年)の 「
1.57ショック」を契機に国による少子化対策が始 まったの であるが、最初の少子化対策 は
1994(平成
6)年に策定 された「今後の子育て支援のための施策の基本 的方向について」
(エンゼルプラン )で ある。 この計画では子育てを社会全体で支援 してい くことをね らいとして、基本的方向に①子育てと仕事の両立支援の推進、②家庭における子育て支援、③子育ての ための住宅及び生活環境の整備、④ゆとりある教育の実現 と健全育成の推進、⑤子育て コス トの軽減を 掲げた。そのなかで「子育てに関する相談体制の整備等による家庭教育の充実」にて次のように述べ ら れている。
「親が安心 して子 どもを生み育てるための家庭教育の充実を図るため、家庭教育に関す る学習機会の 提供、相談体制の整備や情報提供及 び父親の家庭教育への参加促進等 により、家庭教育 に関する環境 整備を行 うとともに、幼稚園における教育相談や各種講座の開催など、幼稚園を核 とした子育て支援 事業を推進する」
また、 「父親」 あるいは「男性の育児」ではな く「夫婦での家事・ 育児分担」 とい う観点か ら次のよ うに述べ られている。
「子育ては家庭の持つ重要な機能であることを鑑み、その機能が損なわれないよう、夫婦で家事・ 育 児を分担す るような男女共同参画社会をつ くりあげてい くための環境づ くりなどを含め、家庭生活に おける子育て支援策を強化する」
この具体策 として育児休業制度の充実や労働時間の短縮等 によって、「働 きなが らも子育てができる 環境」を整備することとなっている。
このように、「家庭教育の充実」あるいは「男女共同参画社会の実現」において「父親の育児参加」
が奨励 されているが、父親を「育児の主体者」 として積極的に位置づけてはいない。例えば、エンゼル プランやそれを実施す るために策定 された「緊急保育対策等 5か 年事業」等では「保育サービス」につ いては数値 目標が示されているものの、「雇用環境の整備」においては抽象的な表現にとどまっており、
「父親支援」の具体策 には乏 しい。
1999年
には「緊急保育対策等 5か 年事業」が年度末で終了するため、少子化対策推進関係閣僚会議 に よる「少子化対策推進基本方針」が決定 された。本方針では、「仕事 と子育ての両立支援」や「子育て の負担感の緩和・ 除去」 により「結婚・ 出産 0子育てに臨 もうとする若い男女が家庭や子育てに夢を持 ち、また子育ての喜びと働 く喜びを同時に得 ることができる社会を築 くための基本的な課題」をあげて いる。具体的には、「女性の就業を前提 とした上で、男女 とも仕事 と家庭の両立を容易にできるような 雇用環境を整備することが重要」 として、育児休業や子育てのための時間確保を推進 してい くこと、 さ
らには固定的な性別役割分業や職場優先の企業風土の是正等を掲げている。
その中で「家庭教育への支援」に関 して次の記述が見 られる。
「基本的な生活習慣・ 生活能力、豊かな情操、他人に対する思いやり、善悪の判断など基本的な倫理
観、社会的マナー、 自制心や自立心など『 生 きる力』の基礎的な資質や能力を培 う家庭教育を支援 し
てい くため、地域における子育てに関する学習活動を推進する。特に、父親の家庭教育への参加を推
少子化対策における「父親支援策」
進するため、職場 において も家庭教育 に関する学習が可能 となるよう、企業関係者 との連携を図 り各 種の学習機会を提供す るなど、企業 における家庭教育支援を推進す る」
このように、「女性の就業」を前提 とすれば「男女を対象に した仕事 と子育ての両立支援」が必要で あること、 さらには「子 どもの健全な発達」を培 う家庭 において父親の役割が重要であることが方針 と
して述べ られ、職場における家庭教育を支援 してい く方向性が示 されている。
この基本方針に基づ く重点施策の具体的実施計画 として策定 されたのが「重点的に推進すべ き少子化 対策の具体的実施計画について
(新エ ンゼルプラン )」 である。 この施策では、 エ ンゼルプランと緊急 保育対策等 5か 年事業を見直 し、平成
16年度までの日標値を保育サービスのみならず、雇用、母子保健、
教育等 において示 している。 このなかで、 「仕事 と子育ての両立のための雇用環境の整備」 において、
「育児休業をとりやす く、職場復帰を しやすい環境 の整備」 として「育児休業給付水準 の見直 し」 や
「事業主による育児休業取得者 の円滑な職場復帰への支援の促進」があげられている。 しか し、極めて 低い男性の育児休業取得率の向上 については積極的な取 り組みはな く、 「労働時間短縮等の推進」 や
「子 どもの看護のための休暇制度」 については「取 り組む」 あるいは「検討」 という消極的な表現にと どめているだけで、具体的な目標値 は明記 されていない。同様 に、 「職場優先の企業風土の是正」 につ いて も「意識啓発、広報活動を重点的に実施する」 とあるだけで具体策には乏 しい。
一方、「地域 における家庭教育支援」では「家庭教育手帳
0ノー トを作成、乳幼児や小 0中学生を持 つ親に順次配布」 とある。「 お父 さんの子育て手帳」の作成・ 配布によって、父親の親 としての意識の 向上を図ろうとす る具体策が示 されている。
このように、 「新エ ンゼルプラン」では「 エンゼルプラン」 と同様 に、 「家庭教育支援」について父親 用の「子育て手帳」の作成・ 配布などの具体策が示 されてお り、 「家庭の教育力の低下」が叫ばれてい る中で、子育てにおける父親の役割を重視す る方向性が示 されているといえる 4、 ̲方 で、 この施策で
は「働 く母親」を前提 とした保育サー ビスの充実に重点が置かれており、父親が「仕事 と子育ての両立」
を可能 にする雇用環境の整備 についての具体策 には乏 しく、 「父親」を「育児の主体」 として位置づけ ているとは言い難い。
(2)「
少子化対策プラスワン」および「次世代育成支援対策推進法」
2002年
には国が策定 した「 もう一段の少子化対策」すなわち「少子化対策プラスワン」が策定 された。
そこでは、 これまでの取 り組みが「子育て と仕事の両立支援の観点か ら、特に保育に関する施策を中心 としたもの」に偏 りがみ られたこととして、 「男性を含めた働 き方の見直 し」 「地域における子育て支援」
「社会保障における次世代支援」 「子 どもの社会性の向上や自立の促進」 という4つ の柱に沿 った総合的 な取 り組みを掲げている。
とりわけ「男性を含めた働 き方の見直 し、多様な働 き方の実現」にういては、 これまでの少子化対策 には見 られなか った視点を含んでいる。
「少子化の背景 にある『家庭 よりも仕事を優先す る』 というこれまでの働 き方を見直 し、男性を含め た全ての人が、仕事時間 と生活時間のバ ランスが とれる多様な働 き方を選択できるようにする」
具体的には、 「子育て期間における残業時間の縮減」 「子 ども誕生時の父親の休暇取得」 「長期休暇の
取得の推進」があげられている。 さらに、 「仕事 と子育ての両立の推進」では「男女の育児休業の取得
促進のための目標値設定」 として「男性 の育児休業取得率
10%」「子 どもの看護のための休暇制度の普
及率
25%」を掲げている。そ して、そのために経済産業省および厚生労働省等関連省庁が一体 となって
産業界に要請すること、男性を含めて育児休業の取得促進 に積極的な企業に対する育児休業取得促進奨
励金の創設が提唱されている。
この「少子化対策プラスワン」 は、二つのエンゼルプランが国予算配分上の関係大臣問合意にすぎな か ったことの限界を超え、新たな少子化対策を進めるための法律の制定を盛 り込んでいる点でより実効 性があるとの指摘 もなされている
(杉山
,2004:11)。これを受 けて
2003年に制定 されたのが「次世代 育成支援対策推進法」である。 この法 における基本理念 において「父母その他の保護者が子育てについ ての第一義的責任を有す るという基本的認識」が提示 され、親の子育て責任をふまえた上で次世代育成 支援対策の実施 における国及び都道府県、市町村、事業主がそれぞれ国の指針をもとに「行動計画」を 策定することが義務づけられた。
このように、「少子化対策プラスワン」 においては、 これまでの少子化対策において見 られなか った 視点を含んでいる。 この施策では、少子化の背景には「家庭よりも仕事を優先する」 という男性を中心 とした働 き方 にあるとして、それが未婚化・ 晩婚化・ 夫婦の出生力の低下に直結 していると見な し、 こ れまでの少子化対策において「働 く母親」を前提 とした「仕事 と子育ての両立支援」 における保育サー ビスの充実が中心であったものか ら、父親を含めたすべての人の「働 き方」を施策の対象 としたところ に一つの転換点が見 られよう。
「 家庭教育 における父親」 については、二つのエ ンゼルプランと同様に、 「少子化対策プラスワン」
において もその役割を重視する姿勢があるが、 さらに「次世代育成支援対策推進法」 においては「父母 その他の保護者が子育てについての第一義的責任を有する」 という「親の子育て責任」を明確化させた。
このように、「子育ては地域で支援する」 としなが らも「家庭育児責任」を強調するところに、
1970年代後半頃に台頭 した「 日本型福祉社会論」 と共通す る方向性が読みとれる。すなわち、地域の共同体や 家族を含み資産 とする自助・ 互助を復活 させ、公的責任を後退 させ るという方向性である 5、 ェンゼル プラン以降、子育て支援の充実によって「子育ての社会化」が進みつつあるが、敢えて「家庭育児責任」
「地域の共同体の再編」を強調 させ ることで、公的責任を後退 させようとす る行政側の姿勢が見て取れ る。
(3)「
少子化社会対策大綱」および「子 ども 。子育て応援プラン」
同年
2003年には「少子化社会対策基本法」が制定 され、国、地方公共団体、事業主、国民の責務、講 ずべ き基本的施策の在 り方が定め られた。 この法律 に基づ き、
2004年には「少子化社会対策大綱」が定 め られた。 この法律では、「少子化の流れを変える」 ための政府の重要な取組みの方向性 と視点を掲げ ている。そのなかで「父親」に言及 した箇所をあげてみる。
「 日本では、父親が育児 にかける時間が世界で も突出 して少ないことが指摘 され、妻の就労の有無 に かかわ らず、父親が親 としての役割を積極的に果たす ことが、子育て家庭の育児ス トレスや不安の解 消のみな らず、子 どもの健全な育ちのためにも重要 になっている。親 となった男性がその役割を十分 担 うことがで きるよう、職場を始め社会が応援す る風土や意識が求め られている。」
また、 「父親」 という文言 は含んでいないが次のように述べ られている。
「職場優先の風潮などか ら子 どもに対 し時間的・ 精神的に十分向き合 うことができていない親、無関 心や放任 といった極端 な養育態度の親などの問題が指摘 されている」
そ して、重点課題 として次をあげる。
「妻の就労の有無にかかわ らず、男性が育児や教育を含め、親 としての役割を積極的に果た していけ るようにす るための新 たな取組みを推進する」
「父親の育児参加」 は①母親の育児ス トレスや負担の軽減、②子 どもの健全な育ちにとって重要 との
少子化対策における「父親支援策」 95
認識に立つ ものの、現在では父親が親 としての役割を果た していない「父親の不在」傾向にあることを 指摘 し、 「妻の就労 の有無に関係な く父親が育児を積極的に行えるために育児を支援する社会の構築」
を提唱 している。
・ これ らの方向性および重点課題を受 けて、実践す る具体的行動 として
28項目が挙げ られているが、そ のうち「父親」を含んだものとして以下があげられる。
「育児休業制度等 についての社会全体での目標達成に向け、男性 も育児休業を取得できることを含め た普及啓発等に取 り組む」
具体的には「男性の育児休業取得率
10%」という目標が掲げ られ、 「男性の子育て参加促進のための 父親プログラム等を普及する」 とあり、具体策 は次のようである。
「男性労働者が子育てのための体暇等
(育児休業・ 看護休暇・ 年次休暇等 )を 取得す るための取組
(例
えば、男性の子育て参加 のための父親プログラムを労働者 自ら作成 し、職場全体でプログラムの 実施をサポー トす る取組など )の 普及を図る」
また、「次世代育成支援対策推進法」を受 けて、企業における行動計画の策定・ 実施・ 公表の支援や
「仕事 と生活の調和」のとれた働 き方の実現 に向けて、多様な働 き方の導入に取 り組む こと等があげ ら れている。 「家庭教育支援」ではこれまでの対策をほぼ踏襲 し、 「学習機会や情報の提供」 と「相談体制 の整備」 において「父親の家庭教育への参加」を配慮することがあげられている。
2004年
にはこの少子化社会対策大綱 に盛 り込まれた重点施策の具体的実施計画 として「少子化社会対 策大綱 に基づ く重点施策の具体的実施計画について
(子ども・ 子育て応援プラン )」 が策定 された。少 子化社会対策大綱 の掲げる4つ の重点課題に沿 って、国が地方公共団体や企業等 とともに計画的に取 り 組む事項 について、
2005年度か らの
5年間に講ずる具体的実施内容 と目標を掲 げ、概ね
10年後を展望 し た「 目指すべ き社会」の姿を提示 している。重点課題の「仕事 と家庭の両立支援 と働 き方の見直 し」を 以下のように述べ る。
「職場優先の風土を変え、働 き方の見直 しを図 り、男性 も女性 もともに、社会の中で個性 と能力を発 揮 しなが ら、子育てに しっか りと力 と時間を注 ぐことができるようにする」
具体的施策には「男性の子育て参加促進に向けた取組の推進」を掲 げ、 「企業 トップを含めた職場の 意識改革」をはじめとして
5年間の目標について「男性の育児休業取得実績がある企業を計画策定企業 の20%以上」 と具体的数値 目標 をあげている。 また、「父親」 にターゲ ッ トを絞 ってはいない ものの
「長時間にわたる時間外労働を行 っている者を 1割 以上減少」 「労働者一人平均年次有給体暇の取得率を 55%以 上」等の
5年間の目標を掲 げ、男性のこれまでの働 き方を見直 し、仕事 と生活の調和のとれた働 き方の実現が目指 されている。そ して、 目指すべ き社会の姿 には、 「希望する者すべてが安心 して育児 休業等を取得で きる職場環境 となる」 として、育児休業取得率を男性 10%、 女性80%に すること、 「男性 も家庭で しっか りと子 どもに向き合 う時間が持てる
(育児期の男性の育児等の時間が先進国並にする )」
ことを示 している。
また、 「 きめ細かい地域子育て支援の展開」では、 「老若男女の地域住民の主体的な子育て支援活動、
交流の促進」が目標 とされている。
「地域の高齢者や子育て中の男性、中・ 高校生などを含め、老若男女の地域住民が子育て支援活動に 主体的に関われるようにし、多世代の交流を促進するため、保育所、児童館、 自治会等で地域 に開か れた各種子育てに関わる行事等を開催するなどの取組を推進する」
このように、 「少子化社会対策大綱」においては、 「父親」を母親の育児ス トレスや負担の軽減、子 ど
もの健全な育ちにとって重要であると位置づけ、 「父親不在」 を解決 し「育児の主体 としての父親」 を
支援す るための社会のあり方 について言及 している。「子 ども 0子育てプラン」では、父親が子 どもと 過 ごす時間を確保できるような「働 き方の見直 し」を具体的施策 に掲げ、父親を「家庭の子育て主体」
のみな らず「地域活動の主体」 と位置づけているところにも新たな視点が見 られる。
(4)少
子化対策における「父親」の位置づけ及び「父親支援策」
‐
1990年代のわが国における少子化対策 において、 「父親」が どのように位置づけられ、 「父親支援策」
が展開されてきたのかをまとめておきたい。
エ ンゼルプランおよび新エンゼルプランでは、「女性の就業」を前提 とした「男女の仕事 と子育ての 両立支援」の観点か ら「父親支援策」が展開されているが、父親を「育児の主体者」 として積極的に位 置づ けてはいない。例えば、エンゼルプランやそれを実施す るために策定 された「緊急保育対策等 5か 年事業」等では「保育サービス」 については数値 目標値が示 されているものの、 「雇用環境の整備」 に おいては抽象的な表現にとどまってお り、「父親支援」の具体策には乏 しい。
一方で二つのエンゼルプランにおいては、 「子 どもの健全な発達」を培 う家庭において「父親の役割」
こそが重要であるとの視点か ら、家庭教育における父親の位置づけが強化 されているのも特徴である。
具体的には、家庭教育を支援 してい くための「父親の子育て手帳」の作成・ 配布、父親のための子育て 講座の開催などの実施が具体策 としてあげ られている。 その背景 には、
90年代 には「 キ レる子 ども」
「少年犯罪の低年齢化」などの子 どもの問題が クローズアップされる一方で、児童虐待の増加など親の 養育問題 も行政側か ら問題にされたことも背景 にあろう。
「少子化対策プラスワン」においては二つのエンゼルプランとは異なる視点が見 られる。それは、少 子化の背景には「家庭よりも仕事を優先する」 という男性を中心 とした働 き方であり、それが未婚化・
晩婚化 0夫婦の出生力の低下へ と直結す ると見な している点である。そ して、 これまでの少子化対策 に おいて、 「働 く母親」を前提 とした保育サー ビスの充実が中心であった ものか ら、父親を含めたすべて の人の「働 き方」を施策の対象 としたところに一つの転換点が見 られよう。
「家庭教育 における父親」 については、二つのエ ンゼルプランと同様 に、 「少子化対策プラスワン」
においてもその役割を重視する姿勢があるが、続 く「次世代育成支援対策推進法」においては「父母そ の他の保護者が子育てについての第一義的責任を有する」 という「親の子育て責任」を明確化させた。
二つのエンゼルプランにおいて育児支援策が「子育て私事論」か ら「子育て公事論」へ変化 していると の指摘 もあるが
(垣内、
2002)、「次世代育成支援対策推進法」 においては「家庭育児責任」を前提 とし た「子育ての社会化」 という論調 に変化 してお り、
1970年代後半 に台頭 した「 日本型福祉社会論」 との 共通点が読みとれる。すなわち、エ ンゼルプラン以降、子育て支援の充実によって「子育ての社会化」
が進みつつあるが、敢えて「家庭育児責任」「地域の共同体の再編」を強調 させることで、公的責任を 後退 させようとする行政側の方向性である。
続 く「少子化社会対策大綱」 「子 ども・ 子育て応援プラン」 においては、 「父親」を母親の育児ス トレ スや負担の軽減、子 どもの健全な育ちにとって重要 として位置づけ、育児の主体 としての「父親支援策」
が見 られる。 「子 ども・ 子育てプラン」で は、父親が子 どもと過 ごす時間を確保で きるような「働 き方
の見直 し」を具体的施策に掲げるだけでな く、父親を「地域活動の担い手」 として見な してお り、「子
育て主体」 さらには「地域活動の主体」 とする「父親」への新たな視点が伺える。
少子化対策 における「父親支援策」
3 自治体 による家庭教育 支援
(1)静
岡市における「父親教室」
上記のように、国による「父親の育児奨励策」が盛んになるにつれて、各地方 自治体において も「父 親の育児参加」あるいは「父親の家庭教育」を推進する取 り組みが活発に行われている。例えば、静岡 市では
2005年に「静岡市次世代育成支援対策行動計画
(静岡市子 どもプラン )」 が策定 され、施策 目標 の一つに「保護者が愛情を もって子育てできる環境づ くり」を掲 げ、「子育ての主体である保護者の自 覚を促すため、出産前、出産後の子育て期間を通 じた相談・ 啓発事業を推進するとともに、父親の子育 てへの積極的な参加を支援 します」 として「父親の育児」を奨励 し、「家庭教育講座」「両親教室」「父 親教室」 「父子料理教室」などの事業を展開 している。
本稿では、 自治体における「父親支援策」の中で も「父親の家庭教育支援」に注 目し、 自治体主催の 就学前児童 と父親を対象 に した「父親教室」 について取 り上 げる。 「父親教室」 は全国的にも新 しい事 業であ り、静岡市において「母親教室」 は市内の複数の公的機関で実施 されているのに対 して、「父親 教室」 は新 しい取 り組みであ り、そρ実態や効果 は検証 されていない。
本稿では、 2、 3歳 児 と父親を対象 にした「父親教室
(パパ と遊ぼ う )」 を取 り上 げるが、 この取 り 組みは静岡市では公民館 にて初めて実施 されたものである。「パパ と遊ぼう」 は
2005年 9月の土曜 日の 午前中において、
1クール
2回 (2週間間隔 )で
1回につ き約
45分程度行われた。支援の内容 は、イ ン ス トラクターの指導により「 あいさつ」か らはじまり「おやこでス トレッチ」「 リズム体操」「手遊び」
「 フープ遊び」等を行い、身近な道具を使い、か らだを動かす遊びを通 して父子の関係性 に働 きかけ、
父親の子育てを支援する目的で実施 された。
(2)調
査方法
調査対象 は
2005年9月 に公民館 において開催 された「父親教室
(パパ と遊ぼう )」 に参加 した父親 と 子 どもである。参加者は一般公募によるものであり、参加者には研究の目的を説明 し、質問紙調査及び
ビデオ撮影による観察調査についての同意を得た。
質問紙調査 は、第 1回 の教室終了時に父親用および母親用の質問紙を封筒に入れて配布 し、第
2回目 の教室開始時に回収 した
(留置法 )。
22票のうち
15票 (父親・ 母親計
30人)が 回収 され、回収率 は 69。
2%であった。質問紙の内容 は、基本的属性、父子教室への参加理由、普段のかかわり、一 日のスケジュー ル
(平日および休 日 )、 父子教室に参加 した感想である。 .
観察調査 は、第 2回 の教室 にて固定 ビデオカメラ 1台 を設置 し、父親教室の開始か ら終了までを録画 した。今回は道具を用いない比較的自然な親子の関わ りである「 おや こでス トレッチ」場面 について、
4組
の父子の交流行動を詳 しく描写 し、父親の行動 について「視線」「柔軟性」「発展性」「主導性」の 観点か ら分析 した 6に
(3)質
問紙調査の結果および考察
①父親 と子 どもの属性
「父親教室」に参加 した父子の属性 については表 1が示 した通 りである。父親の年齢では
30代が最 も 多 く、平均年齢 は
33.4歳である。配偶者の年齢 は
30代が多いものの、全体的には父親よりも若い。職業 では父親 は全員が会社員、配偶者 は全員収入の伴 う仕事を していない「専業母親」であった。子 どもの 年齢では
2歳児が
3歳児 に比べて多 く、第
1子が全体の
86.7%を占めていた。そのうち、保育所などの
97
集団保育に日常的に通 っている子 どもはいなか った。
以上か ら、 「パパ と遊ぼう」 に参加 した父親 は
30代が最 も多 く、参加者全員が会社員 と「専業母親」
とい う組み合わせであった。子 どもは日常的に家庭で育て られており、 きょうだいはいない子 どもが多 数である。
表
1対象者の属性 人数
(%)父親の年齢
20代後半
2(13.4)30代
前半
7(46.7)30代
後半
5(33.4)40代
前半 1(6.7)
配偶者の 年齢
20代
後半 4(26.7)
30代
前半
7(46.7)30代
後半
3(20.1)40代
前半 1(6.7)
子 どもの 年齢
2房記 11 (73.3)
3月
詭 4 (26.7)子 どもの 出生順位
多 自
11争 13 (86.7)第
2子2(13.3)
家族構成 核家族世帯
3(20。0)三世代家族世帯 12(80.0)
②父親が子 どもと過 ごす時間
平 日に父親 と子 どもが一緒に過 ごす時間は表 2が 示 している。最 も少ないのは
0時間、最 も多いのが
4時間以上になっている。父親の帰宅時間別に父親 と子 どもの過 ごす時間を示 したのが図 1で ある。
19時台に帰宅する父親 は
3時間以上子 どもと過 ごす者が多いが、
22時台に帰宅す る父親 は子 どもと過 ごす 時間は 1時 間未満が多い。母親によれば「子 どもを寝か しつける時刻」がおおよそ
20時〜
21時に集中 し ていることか ら、帰宅時間が
20時台以降遅 くなればなるほど、夜 よりは朝の出勤前の時間が子 どもと過 ごす貴重な時間になっているといえる。一方、休 日については「子 どもと外出する」「子 どもと散歩す る」「子 どもと遊ぶ」が多 く、父親 と子 どもが過 ごす時間 も
10時間以上であるケースがほとんどであっ た。 したが って、平 日に子 どもとかかわることが難 しい父親 は、休 日に子 どもと過 ごす ことで共有時間 の不均衡を修正 しようとしているといえる。そのような立場 にある父親の心境 は自由記述欄か らも伺え る。「父親の育児参加の必要性を感 じなが ら、今の親たちが現実 と闘いなが ら必死で子育てを していま す。妻の負担を減 らしたい、 しか し会社の中の立場があり、思 うように時間が作れないといった悩みが あ ります」 と書かれてお り、仕事 と育児の狭間で悩みなが ら子育て している父親たちの姿が伺える。
表 2 父親が子 どもと過 ごす時間
(平日 )
時間
(分)
人 数%
0分
以上〜
60分未満 3人
20.0%60分
以上〜
120分未満 4人
26.7%120分
以上〜
180分未満 2人
13.3%180分
以上〜
240分未満 3人 20。
0%240分
以上 2人
13.3%無回答 1人
6.7%少子化対策 における「父親支援策」
図
1帰宅時間からみる父子の共有時間
(平日 )
注 :共有時間の表記
〜1 1時間未満
〜3 3時間未満 3〜 3時間以上 60%
80%
100%③「父親教室」に参加 した理由
「父親教室」に参加 した理由は表
3が示すように「家族・友人に勧められた」が最 も多い。母親にお いて「母親教室への参加」では、全員が「参加経験あり」であったことから、母親がその体験をふまえ て父親にも「父親教室」への参加を勧めたことが推測できる。その意味では、「父親教室」に参加する
きっかけとしては父親が自らの主体的要求としてよりも妻
(母親 )の 主導による人が多いといえる。
表 3 父親教室の参加理由
(複数回答 )
参加理 由 人 数
子 ど
1)と楽 しく遊びたかつたか ら 4人
家族・友人にすすめ られたか ら
12人他の家族 と交流 したかつたか ら
l A以前にも同じような企画に参加 したことがあつた
から
0人
④「父親教室」における子どもとのかかわり
初めて「父親教室」に参加 したことについて、子どもへの見方やかかわり方を示 したのが表 4で ある。
質問項目については小野寺他 (1996)に よる「養育行動の柔軟性」項目から用いている。
表 4 父親教室における子 どもとのかかわ リ 人数
(%)あて は ま る やや あて はま る あ ま りあ て は な らない
あ て は ま ら ない 他 の 子 と同 じ こ とが で き な い と 「困 つ
た 子 だ│と 思 っ た
0 (0) 2(13.3)
3(20.0) 10(66。7) 見てを
こ と
つた
ヽ 思
と と
︐﹂ い ぅ ろ 一百 し の も も お ど と 子
る
14(93.3)
1(6.7) 0(0) 0(0)子 ど も と同 じ レベ ル に な つ て 遊 ぶ こ と が で 去 ヤ
6(40.0)
6(40。0)2(13.3)
1(6.7)ど う した い の か 、 子 ど もの意 思 が は つ
き り しない で 困 つた
0 (0) 0(0) 7(46.7)
8(53.3) 子 どもの短所 よ りも、長所 に 目が い つ
た
4(26。7) 6(40。0)
4(26.7) 1(6。
7)持
の 気
章 熟
てぃ︑ し こ を る
夫 え 工 変 な く
ろ ま い う ろ を いち
4(26.7) 8(53.3) 3(20.1 0 (0)
99
榊 目
表 4が 示すように、すべての父親 は「子 どもの言 うこと、することを見ているとお もしろい」 と答え、
子 どもの言動 に対す る共感性が見 られる。 また、 「子 どもと同 じレベルになって遊ぶ ことがで きた」 と 答えている父親 も多 く
(12人)、 子 どもの目線に立つかかわ りを していると自覚 している父親が多い。
一方で、「他の子 と同 じことがで きないと『困 った子だ』 と思 う」が示すように、他児 と比較 してやや 否定的な見方 を している父親
(2名)や 、「 いろいろな工夫を して、子 どもの気持ちを うま く変えるこ とができない」 とする父親
(3名)力れヽるなど、初めての「父親教室」において父親 も子 どもも緊張す るなかで、 自己主張が旺盛な
2〜 3歳児に対 して必ず しも柔軟にかかわることができないと自覚す る父 親 もいることがわかる。
⑤父親の内面的変化
「父親教室」 に参加 したことによって、父親の内面 にどんな変化が見 られたのかを探 るために、父親 の自由記述か らカテゴリー「親 としての自分のふ りかえり」「遊びの広が り」「新たな子どもの発見」を 抽出 し、キーワー ドを明記 して分類 した。
表 5が 示すように、父親 と子 どもが教室 に参加することによって、親 としての自分をふ りかえる機会 とな り、子育てや子 どもに対 して前向 きな気持ちを もつようになっていることである。 また、子 どもの 内面や新たな子 どもの一面を発見することによって、子 ども理解がより深まったことがあげ られる。 さ らに、教室に参加することによって、子 どもの要求に応える遊びを学び、より活発な父子かかわりのきっ かけづ くりになったことも考え られる。 また、 自分をふ りかえる中でかかわりの柔軟性に気づ くなどの 子育て力量の向上 につなが ったとも思われる。
表 5 父親教室に参加 したことによる父親の内面的変化
カテ ゴ リー
自由記述 に見 られる父親の内面
親 としての自分
のふ りかえ り 前半、子 どもは場 に慣れることがで きず、ず っと「抱 っこ」 してい ま した。 しか し、後半か ら見違えるように生 き生 きと過 ごせて満足 です。 あとか ら思えば父親の私が緊張 していた為 に、子 どもにも伝 わっていたのか もしれません。
<自
分の緊張が子 どもに伝わることの気づき
>言われたとお りの動 きをすることにこだわ らず、子 どもの好 きなよ うにさせ ることの大切 さを感 じま した。
<か かわ りにおける「柔軟性」への気づき
>遊 びの広 が り
週末
(休日 )し か子 どもと接する機会がないため、普段子 どもがど んな遊 びを しているか、 どんな遊 びが楽 しいのか というのを教えて
もらうのは非常 にありがたいと思います。
<子 どもの要求に応える遊びの学び
>新たな子 どもの
発見 この様な機会 は初めてだ ったが、思 ったより楽 しか った L自 分が見 ている子 どもとは違 った一面を見れた。
<子 どもの別の側面の発見
>子 どもは親 に似ていることを痛感 した
(行動 0考 え・ 動 き )
<子 どもと自分 とのつなが りの気づき
>娘の別の一面
(社会に向いた面 )を 見 ることができ、意外かつ楽 し か った。家では兄 と弟がおり、一人で父を独 占出来ないので、
今回は 1対 1で遊べて楽 しか ったようだ
<子 どもの別の側面の発見
>子 どもと一緒に参加できることがで きて良か った。子 どもが周囲 の雰囲気 に緊張 していつ ものように動 けず、ずっと固まっていたの で、少 し残念だった。
<子 どもの内面への気づき
>注 :<>はキーワー ドを示す。
少子化対策 における「父親支援策」 101
父親教室 は父親 と子 どもが参加するものであるが、家族 システム的観点か らみる場合、父親教室の参 加 によって父子の関係性が良好になるだけでな く、父親 と母親が教室の話題を共有することができ、夫 婦関係 さらには家族全体の関係性にも寄与す る可能性を含んでいると考え られよう。
(4)観
察調査の結果および考察
前述 したように、道具を用いない比較的自然な親子の関わ りである「 おや こでス トレッチ」場面につ いて、
4組の父子の交流行動を詳 しく描写 し、それ らを「視線」「柔軟性」「発展性」「主導性」の観点 か ら分析 した。「 おや こでス トレッチ」場面 は「なかよ し握手」 「大 きくなる小 さくなる」 「横にゆれる」
か らなっている。
「 おや こでス トレッチ」場面の観察か ら父親のかかわ り行動を示 したのが表 6で ある。 A親 子および
B親子 は、子 どもへの言語的あるいは身体的や りとりが多 く、子 どもが父親の動 きに応 じるように動い ているところに父子間の調和的な相互作用が見 られる。視線 も合 うことが多 く、身体的な接触 も多い。
父親 はイ ンス トラクターの指示する動 きをさらに発展させて子 どもの要求に応えようとする姿 も見 られ る。 また、子 どもが遊びの合間に抱 きついたり、ぶ らさが ったりす る場合、そのような子 どもの近接要 求に応えようとしており、受容的で柔軟性のある父親の関わ りが見 られる。
一方、 D親 子では子 どもは父親よりもインス トラクターを見 ることが多 く、父親 も子 どもがインス ト ラクターの指示す る以外の動 き、たとえば遊びの合間に子 どもが寄 りかかるなどすると、子 どもの背中 を押 したり、立たせたりして、インス トラクターの指示に従 うようにさせている。 A親 子や
B親子に見
られたような受容的で柔軟性のある子 どもへの関わ りは見 られない。
C親 子では父親 は子 どもへ言語的、身体的な働 きかけを行 っているが、子 どもか ら拒否 されている。
父親 は子 どもの意向に反 した動 きをさせようとするほど子 どもの自己主張が強 くなり、子 どもの気持ち を変えることがで きない。
4組
の親子 について父子交流活動の違いに影響を及ぼす要因を探 るために、
4組の父子間の日常的な かかわ りの量 と質 の関連を示 したのが表 7で ある。表が示すように、受容的で柔軟性のあるかかわ りを 行 っている
A父親 とB父 親では、 「子 どもと過 ごす時間」がC父親 より長いだけでな く、子育ての質にお いて も「世話」を「毎 日」あるいは「週 3〜 4日 」行 っている。すなわち、子育ての量だけでなく質が
「初めての父親教室」 とい う緊張を強い られる場面 における父子相互作用に影響を及ぼ していることが 考え られる 7、 特 に、子育ての質において父親 による「世話」の多少が父子相互作用に関連がみられる ことが示唆されたが、 「世話」を行 う日々のや りとりのなかで、父親が子 どもの要求や内面 に敏感に応 じ、柔軟性のあるかかわ りを学習することができるためではないかと思われる。
4 ま とめ と今 後 の課 題
本稿では
1990年 (平成
2年)の 「
1.57ショック」を契機 に開始 された国による一連の少子化対策にお いて「父親」がどのように位置づけられ、「父親支援策」が展開されてきたのかを概観 した。「父親支援 策」 は大 きくは「雇用環境の整備」 と「家庭教育支援」に分 けられるが、本稿では「家庭教育支援」 と
しての自治体主催 による「父親教室」 に着 日し、質問紙法および観察法か らその実態を明 らかにした。
そこで、本稿のまとめを行い「父親支援策」の課題を考察 していきたい。
1990年
代の国による一連の少子化対策 においては「父親の育児参加」あるいは「父親の家庭教育」ヘ
の支援が方針 として掲げ られ、 「父親」が「育児の援助者」か ら「育児の主体者」、近年では「地域活動
表6「おや こでス トレッチ」場面の観察か らみる父子交流活動
表 7 父親にみる量・ 質的かかわ り
親 子 の 属 性 視 線
柔軟性 発 展性 主 導性
A親
子
父親
32歳
子 ども3歳 6か月 男 第1子
父 親 が イ ンス トラ ク ター の顔 を向ける と、
子 ど も も同 じ方 向 を 見 る。 ま た 、 父 親 が 子 ど も の顔 を 見 て 動 く と子 ど も も父 親 の 顔 を 見 な が ら父 親 の 動 きにあわせ て動 く。
全 体 的 に子 ど も を 見 つ め て い る こ とが 多 い^
子 ど もが 脚 を動 か し た り、 あ た りを見 回 した り等 、 思 うが ま ま に 動 くが 父 親 は 注 意 す る こ とな く、 受
け とめてい る。
父 親 は イ ンス トラ ク タ ー の 指 示 す る遊 び を よ り大 き な 動 作 で 行 う。
遊 び な が ら子 ど も に
「右 手 」「左 手 」 を教 え る な どの父 親 の言 語 的 、 主 導 的 な か か わ り が あ る。
子 ど も は 身 体 の 力 を ぬ い て父 親 に身 体 を ま かせ るよ うに動 く。
B親
子
父親
40歳
子 ども2歳9か月 女
第2子
互 い に 向 か い 合 うこ とが多い。
子 ど も は 父 親 の 動 き に 反 応 しな が ら、 父 親 の 方 を 向 き 、 手 を つ ないだままであ る。
遊 び の 合 間 に 父 親 の 胸 の 中へ 飛 び つ い た り、 ぶ ら さが っ た り す る と、 父 親 は 子 ど もを抱 きかか えた り、
子 どもを支 えた りし、
子 ど もの 近 接 要 求 に 応 える。
父 親 は 子 ど もの 身 体 を ゆ ら した り して 、 イ ン ス トラ ク タ ー の 指 示 を さ らに発 展 さ せ た動 きをす る。
父 親 は言 語 的 、身 体 的 は た らきか け を しな が ら子 どもの動 き を リー ドす る。 子 ど もは身 体 の 力 をぬ い て 父親 に寄
りかか る。
父 親 は子 ど もの ゼ ッケ ン を直 した りす るな ど の配慮 もある。
C親
子
父親
26歳
子 ども3歳 1か月 男
第1子
父 親 は 子 ど もの 後 ろ に 立 ち 、 子 ど も を動 か そ う と子 ど もの 背 後 か ら手 をふれ た り、
子 ど も の顔 を の ぞ き こむ が 、父 親 の 手 を ふ りは らい 動 こ う と は しない。
子 ど もの 頑 な な 自己 主 張 に対 して 、 父 親 が 子 ど もの 気 持 ち を 変 え る こ とが で き な い^
父 子 遊 び の や り と が成 立 していない。
子 ど もは リズ ム に あ わ せ て 身 体 を動 かそ うと は 全 く しよ うとせ ず 、 自分 のお 腹 に手 を付 け て 立 った ま ま で あ る。
子 ど もに言 語 的 、身 体 的 働 きか け をす るが 子 どもは動 こ うとしない。
D親
子
父親
38歳
子 ども2歳 9か月 男
第1子
父 親 の 動 き に応 え る よ うに 子 ど もは身 体 を 動 か して い る が 、 子 ど も は イ ン ス トラ ク タ ー を見 て い る こ とが多い。
子 ど もは 遊 び と遊 び の 合 間 に 父 親 に寄 り か か るが 、 そ の た び に 父 親 は 子 ど もの背 中 を押 した り、 立 た せ た りす る。 イ ン ス トラ ク ター が 指 示 す る動 き を子 ど もに と らせ よ う とす るが 、 子 ど もの 近 接 要 求 を 受 け入れ ていない。
父 親 は腕 を振 る速 さ や 高 さを変 えるな ど、
イ ン ス トラ ク タ ー の 指 示 を さ らに 発 展 さ せ た か か わ りを して い る。
父 親 の腕 や 身 体 の動 き や 速 度 に応 え る よ うに 子 ど もは身 体 を動 か し てい る。
量的かかわ り 質的かかわ り
子 どもと過 ごす時間
(平
日)
お風 呂(回 )
遊び(回 )
世話(回
)A父
親 4時 間 週 3〜 4 週 3〜 4 週 3〜 4
B父親 2時 間 30分
C父
親 1時 間
D父
親 無 回答
週 1 週 1 毎 日 週 1 週 3〜 4 週
1週 3〜 4 週 1 ほ とん ど しな い
少子化対策における「父親支援策」 103
の主体者」 として位置づけが変化 している。 この背景には、少子高齢化の進展によって将来の労働力不 足が予想 されるなかで、 「女子労働者の積極的活用」を可能 にするための社会構造の構築が必要 とされ、
「母親だけが子育てをする」か ら「母親 も父親 も子育てをす る」 さらには「地域で子育てを支援する」
という行政側の子育て観の転換が指摘できる。
このような子育て観の下、国や自治体 による「父親支援策」が展開 されるようにな り、 自治体では
「家庭教育支援」 として「父親教室」 に取 り組む自治体が増えている。本稿 においては、静岡市 にて開 催 された「父親教室
(パパ と遊ぼう )」 に参加 した父親 と子 どもを対象 に、質問紙法および観察法にて 調査を行 った。 「父親教室」 に参加 した父親では全員が会社員で妻
(母親 )は 「専業母親」 という組み 合わせあり、多 くは本人の主体的要求 というよりは妻
(母親 )の 主導によって参加 した人が多 くなって いた。参加者の子 どもは 2〜
3歳児であり、 日常的に家庭で育て られ、 きょうだいがいない子 どもが多 く、平 日に父親 と過 ごす時間が最低では
0時間、最高では
4時間以上 と開きが見 られた。 このような平 日の父子かかわ りの量および質の違いが、 「父親教室」 における父子交流活動の違 いにも影響を及ぼ し ていることが観察調査か らも伺えた。たとえば、 日常的な世話を「毎 日」あるいは「週 3〜 4日 」行 っ ている父親 ほど、 「父親教室」 において も子 どもの要求や内面を敏感に応 じた柔軟性のあるかかわ りを 行 っていた。 「父親教室」 に参加 した父親では、子 どもの言動 に対 して共感 したり、同 じレベルに立 っ て遊ぶ ことができたと答える者が多か ったが、他児 と比較 して子 どもにやや否定的な見方を したり、初 めての父親教室において父親 も子 どもも緊張するなかで、 自己主張が旺盛な
2〜 3歳児に対 して必ず し
も柔軟 にかかわることができないことを自覚する父親 もいた。
全体 として「父親教室」の効果 として、今回は父親の内面変化か らのみ明 らかに しているが、父親が 子 どもと共 に「父親教室」 に参加することによって、親 としての自分をふ りかえる機会 となり、子育て や子 どもに対 して前向きな気持ちをもつようになっていることである。 また、子 どもの内面や新たな子 どもの一面を発見することによって子 ども理解がより深まり、子育て力量の向上につなが ったとも思わ れる。 さらに、教室に参加す ることによって、子どもの要求に応える遊びを学 び、より活発で応答的か つ柔軟性のある父子かかわ りのきっかけづ くりになったことも考え られる。
一方で、 「父親教室」 は孤立 した親が他の親 と知 り合 う場をつ くる、 いわゆる父親同士のネッ トワー クキ ングの場 としては機能 してお らず、「子育て主体者」か ら「地域活動の主体者」へ との広が りは見 られない。多 くの「母親教室」では教室終了後に母親同士でサークルを立ち上 げたり、既存のサークル に加わるなどのネッ トワーキ ングがなされるが、 「父親教室」では「 おや じの会」 などの自主的なサ
Tクル編成にはつなが っていない。特に「父親教室」では母親 と比較 して
1クールの回数が少ないことが 背景 にあると思われるが、父親たちが継続性のある「父親教室」やネッ トワーキ ングの場を望んでいる のか、父親たちの声を聴 くことが必要であろう。また、 「父親教室」の参加者を広 げるためにも、 「父親 教室」や「父親講座」等 に参加できない父親、 さらに言えば子育てにはあまり熱心でな く、本来最 も
「支援」が必要な父親のニーズを把握 し、 「家庭教育支援」の施策 に活か して しくことが求め られよう。
冬木 (2005)で は、年齢が若 く、子育て経験の浅い父親が子 どもの心理を読む ことに長 けてお らず、父 子関係に不安を感 じていることが明 らかにされているが、 このような父親に焦点を当てた「子育て相談」
を取 り入れることも一つであろう。
今回は「父親支援策」における「雇用環境の整備」について詳細 には論 じていないが、父親の子育て 参加を進めるためには、 「雇用環境の整備」 は欠かせない。次世代育成支援対策推進法 によって、従業 員
301人以上の企業には一般事業主行動計画の策定が義務づけられ、 「子育てに優 しい職場環境の整備」
が進め られているが、従業員が
300人以下の中小企業では努力義務である。静岡県 に限 って も県内企業
の多 くが中小企業であり、県中小企業団体中央会による調査によれば、従業員
300人か ら
100人規模
200社のうち一般事業主行動計画策定 については「策定済み」 は
4。0%、 「策定中」 は
2.0%であり、「策定を検 討中」14.5%で ある
(静岡新聞
2006年8月
17日付 )。 父親の子育て参加 を進めることが企業 にとってど のようなメ リットがあるのか理論的な検討が必要であり、行政はそれに基づいた企業への取 り組みが求 め られる。
付記 本研究 は平成
18年度科学研究費補助金
(若手研究
B)「『 父親の不在』の解決を目指 した諸施策 の現状 と有効性に関する研究」
(課題番号18700583)に よるものである。ただ し、 データについ ては
2005年度岩崎裕子
(教育学部家庭科教育専修 )に よる卒業論文「父 と子のあそびか らみた家 族 コ ミュニケーション」のデータを本人の了解を得た上で使用・ 分析 した。
注
1)1970年
代以降の父親論の推移 については、拙稿「『父親の不在』をめ ぐる実証的研究」 を参照 され たい。
2)た とえば、経済産業省「男女共同参画に関す る研究会報告書」 (2001)で は「女子労働者の積極的 活用」を可能にするための社会構造の構築が提唱されている。
3)母
子教室についての実態や効果 については谷向みつえ他
(2003)「子育て支援親子教室 における効 果指標 とその測定 に関する調査研究」 において記 されている。
4)一
連の少子化対策 において も「家庭の養育力の低下」が指摘 されているが、 この行政側の言説 につ いてはより厳密な検討が必要であろう。広田 (1999)に よれば、高度経済成長期以前 は子 どもの しつ け機能 は「地域社会」が大 きな役割を担 っていたとの見方 もある。「家庭の養育力」がいつ と比較 し て、どのように「低下」 したのかについて検討が必要であろう。
5)日 本型福祉社会論 については『社会福祉・ 社会保障大事典』旬報社
p.388を参考に した。
6)「 視線」 とは「父子交流活動 において父親 と子 どもの視線が合 うことがどれ ぐらいあるか」、「柔軟 性」 とは「 インス トラクターの指示する以外の子 どもの動 きをどれ ぐらい受けとめる柔軟性があるか」、
「発展性」 とは「 イ ンス トラクターの指示す る動 きを子 どもの要求 に応えるようにどれ くらい発展 さ せた動 きをするか」、 「主導性」 とは「父親が子 どもを リー ドするよう、身体的、言語的はた らきかけ をどれ ぐらい行い、子 どもとどのような相互作用を行 っているか」 という観点である。
7)父
子相互作用には父親側の要因だけでな く、子 ども側の要因たとえば「子 どもの気質」などの要因 も考慮に入れること、 またより大 きなサ ンプルで検証する必要がある。
引用文献
冬木春子
2003「『父親の不在』をめ ぐる実証的研究」大阪市立大学大学院生活科学研究科博士論文 冬木春子
2005「乳幼児を もつ父親の育児ス トレスとその影響」 日本家政学会家族関係学部会『 家族関
係学』No.24,21‑33
広田照幸
1999『日本人の しつけは衰退 したか』講談社現代新書 事典発行委員会
2004『社会福祉 0社会保障大事典』旬報社
垣内国光 2002「 育児支援策の思想 と現実」垣内国光他編『 子育て支援の現在』 ミネルヴァ書房
,49‑69.小野寺敦子他
1996「親和性・ 自律性 と育児参加 ,子 どもの価値および親 としての成長・ 変化」牧野 カ
ツコ他編『子 どもの発達 と父親の役割』 ミネルヴァ書房
,147‑158.少子化対策における「父親支援策」