自治制度における「総合性」・「一般性」の緩和と 特定目的の政府の創設(上) : 道州制に対する自治 的代替案の提示 (政治行政学科創立二十周年記念号 )
著者名(日) 外川 伸一
雑誌名 山梨学院大学法学論集
巻 68
ページ 117‑142
発行年 2011‑11‑10
URL http://id.nii.ac.jp/1188/00000533/
論
自
説治 制 度 に お け る ﹁ 総 合 性 ﹂
・ ﹁ 一 般 性 ﹂ の 緩 和 と 特 定 目 的 の 政 府 の 創 設
︵ 上
︶
││ 道州 制に 対す る自 治的 代替 案の 提示
││
外 川 伸 一
目 次 はじ めに 一 自治 体に 求め られ る﹁ 総合 性﹂ の意 味の 類型 化 二 従来 の﹁ 総合 性﹂ の意 味が 生じ た理 由 三
﹁総 合性
﹂へ の執 着に よる 意味 の﹁ 変容
﹂と その 帰結 四
﹁総 合性
﹂・
﹁一 般性
﹂の 緩和 によ る特 定目 的の 政府 制度 の創 設︵ 以上
︑本 号︶ 五 具体 的な 特定 目的 の政 府の 例︵ 以下
︑次 号︶ おわ りに
はじ めに わが
国の 自治 制度 は府 県と 市町 村の 二層 制を とる
︒そ して
︑こ れら の制 度の 根幹 は基 本的 に画 一的 であ り︑ 市町 村・ 府県 とも に﹁ 総合 性﹂
・﹁ 一般 性﹂ を備 える こと が要 請さ れて いる
︵新 藤 二〇
〇二 a: 三︱ 四︶
︒ま た︑ こう した
﹁総 合性
﹂・
﹁一 般性
﹂を 備え た自 治体 から なる 自治 制度 は︑ わが 国の 国情 に最 もふ さわ しい もの と認 識さ れて いる
︵市 川 二〇 一一 a: 三五 二︱ 三五 五︶
︒ しか しな がら
︑今 日︑ 分権 改革 が求 めら れて いる のは
︑そ れぞ れの 自治 体が 直面 する 諸課 題が 基本 的に 異な って おり
︑中 央政 府が 遠く 離れ た霞 ヶ関 の机 上で 画一 的な 政策 を立 案し
︑そ の執 行を 求め ても 何ら 解決 に至 らな いこ と から
︑そ れぞ れの 自治 体に 諸権 限を 移譲 し︑ 地域 固有 で多 様性 を有 する 諸課 題を 現場 で自 治的 に解 決し てい くこ と こそ 重要 であ ると いう 認識 に基 づい てい る筈 であ る︒ また
︑多 くの 領域 で従 来の 境界 が消 滅し たり
︑透 過的 にな っ てお り︑ 境界 を越 えた 夥し い数 の諸 課題 が生 起し てい ると いう 現実 は︑ たと え諸 権限 が自 治体 に移 譲さ れた とし て も︑ 従来 の﹁ 総合 性﹂
・﹁ 一般 性﹂ を基 調と する 自治 制度 を見 直さ ない 限り
︑分 権改 革に よっ ても 地域 の諸 課題 は解 決を 見な いこ とを 物語 って いる
︒ それ にも 拘わ らず
︑自 治制 度官 庁は
︑従 来の
﹁総 合性
﹂・
﹁一 般性
﹂を 各自 治体 に求 める だけ でな く︑ これ を拡 大 解釈 し︵ 山崎
二〇
〇三
︑二
〇〇 四︑ 二〇
〇五
︶︑ 多様 性を 許容 しな い形 で﹁ 絶え ざる
﹂市 町村 合併 を推 進し てき た︒ その 結果
︑小 規模 町村 はそ の存 在を 否定 され ると とも に︑ 府県 の空 洞化 が主 張さ れ究 極の 合併 であ る﹁ 非自 治
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的﹂ 道州 制に 突き 進も うと して いる
︒ もっ とも
︑こ の道 州制 の実 現は
︑夥 しい 数の 既得 権益 間の 対立 の解 消と いう
︑い わば
﹁無 限︵ 無数 元︶
﹂連 立方 程式 とで も比 喩す べき 難問 を解 かな けれ ばな らな いこ とか ら︑ 短期 的に は到 底不 可能 であ る︒ しか も︑ 中長 期に わ たる
﹁非 自治 的﹂ 道州 制の 実現 に向 けた 作業 は︑ 知的 資源 のこ の上 ない 浪費 以外 の何 物で もな い︒ そう した 知的 資 源の 浪費 を根 絶す るた めに も︑ われ われ は道 州制 に代 わる
﹁総 合性
﹂・
﹁画 一性
﹂の 緩和 を伴 った 形の 自治 制度 を真 剣に 考え てい くべ きで はな いだ ろう か︒ 本稿 は︑ 中長 期的 視点 に立 ち︑ 市町 村合 併の 無限 の連 鎖を 断ち
︑そ の究 極の 目標 とさ れる
﹁非 自治 的﹂ 道州 制に 代わ る﹁ 自治 的﹂ 自治 制度 を提 案し よう とす るも ので ある
︒ま ず第 一節 では
︑現 在の 自治 制度 を強 固に 拘束 する
﹁総 合性
﹂と
﹁一 般性
﹂の うち
︑後 者の
﹁一 般性
﹂と は異 なり 論者 の間 で様 々に 認識 され 用い られ てい る﹁ 総合 性﹂ の意 味を 類型 化す る︒ その 上で
︑第 二節 では
︑﹁ 総合 性﹂ の解 釈に つい て従 来か らど のよ うな 解釈 がな され
︑ それ は何 故な のか を明 らか にす る︒ 次い で第 三節 では
︑そ うし た﹁ 総合 性﹂ への 執着 が自 治制 度官 庁に よる
﹁非 自 治的
﹂解 釈を 招来 し︑ 冒頭 で述 べた よう な﹁ 非自 治的
﹂自 治制 度に 向け た﹁ 愚策
﹂の 連鎖 へと 向か いつ つあ るこ と を述 べる
︒そ して 第四 節で は︑ それ を回 避す るた めの 代替 案と して
︑﹁ 総合 性﹂
・﹁ 一般 性﹂ を緩 和し 多様 性を 取り 入れ た﹁ 自治 的﹂ 自治 制度 であ る特 定目 的の 政府 制度 を提 案す る︒ 続く 第五 節で は︑ 四つ の仮 想例 によ って 特定 目 的の 政府 制度 のよ り具 体的 なイ メー ジを 提示 する こと にす る︒ 本稿 での 提案 は︑ いわ ばま だ﹁ ラフ スケ ッチ
﹂に 過ぎ ない
︒し かし
︑敢 えて この よう な﹁ ラフ スケ ッチ
﹂に 挑も うと した のは
︑近 年︑ 厳格 な﹁ 総合 性﹂
・﹁ 一般 性﹂ に執 着す る自 治制 度に 多様 性を 付与 すべ きと する 研究 者の 増加
に力 づけ られ たか らで ある
︵大 杉 二〇
〇三
︑伊 藤 二〇
〇四
︑金 井 二〇
〇七
︑今 井 二〇
〇八 a︶
︒今 こそ わ れわ れは
︑﹁ 総合 性﹂
・﹁ 一般 性﹂ の厳 格性
︵こ れは ある 意味 で﹁ 神話
﹂で ある
︶か ら逃 れな けれ ばな らな いと いえ
( )
よう
︒
一 自治 体に 求め られ る﹁ 総合 性﹂ の意 味の 類型 化 先に
も述 べた よう に︑ ここ では
︑わ が国 の自 治制 度を 厳格 に規 定す る﹁ 総合 性﹂
・﹁ 一般 性﹂ のう ち︑ 前者 の意 味 につ いて
︑従 来か らど のよ うな 解釈 がな され
︑そ れは 何故 なの かと いっ た観 点か ら論 ずる こと にす る︒ 後者 につ い ては
︑自 治体 の行 政サ ービ スは 特定 目的 に限 定さ れず 一般 目的 を有 する とい う点 で研 究者 の間 で認 識が 一致 して い るか らで ある
︒周 知の とお り︑ しば しば 使用 され る自 治体 の﹁ 総合 性﹂
︵あ るい は﹁ 総合
﹂行 政主 体︶ につ いて は︑ 従来 から 様々 な意 味で 用い られ てき た︒ それ らの 用い られ 方に は︑ 相互 に重 なり 合う 部分 があ った り︑
﹁総 合性
﹂ に複 数の 意味 を賦 与す るな ど必 ずし も截 然と 区別 可能 とい う訳 では ない が︑ 近年 の解 釈も 含め 敢え てそ れら を類 型 化す ると
︑次 の六 通り に分 ける こと がで きる と思 われ る︒ 第一 は︑ 自治 体に おい て︑ 各種 の行 政サ ービ スを 可能 な限 り広 範囲 に︑ また 包括 的に 提供 する とい う漠 とし た意 味で ある
︵金 井 二〇
〇七
:七
︑二
〇〇 九: 四︱ 五︶
︒こ れを 本稿 では 便宜 上﹁ 全権 限的 解釈
﹂と よぶ こと にし
( )
よう
︒第 二は
︑第 一の 意味 の厳 格的
・究 極的 な形 とも いえ るが
︑可 能な 限り 広範 囲で 包括 的な 各種 事務 事業 を︑ 一 自治 体で ほぼ
﹁完 結﹂ 的に 提供 する とい う意 味で ある
︵市 川 二〇 一一 a︶
︒こ れを 市川 に倣 って
﹁自 治体 自己 完
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結主 義的 解釈
﹂と よぶ こと にし よう
︒第 三は
︑中 央政 府レ ベル の割 拠主 義︵ セク ショ ナリ ズム
︶に 起因 する 事務 事 業の
﹁分 立﹂ 傾向 を自 治体 レベ ルで
﹁統 合﹂ し住 民に 提供 する とい う意 味で ある
︵全 国知 事会
一九 六三
:一 二八
︑ 一
( )
三一
︶︑ 久世
一九 六四
:二 五︑ 姜光 洙 二〇
〇三
︑金 井 二〇
〇七
:一 四︶
︒こ れに つい ては
︑こ の用 いら れ方
!
の中 核的 部分 をと って
﹁分 立行 政統 合的 解釈
﹂と よぶ こと にし よう
︒第 四は
︑関 連す る行 政領 域間
︑あ るい は事 務 事業 間の 不整 合を なく すた めに
︑そ れら の間 の調 整を 図り 調和 のと れた 行政 サー ビス を提 供す ると いう 意味 であ る
︵松 本 二〇
〇七
:一 二︑ 大森 二〇 一一
:九
〇︶
︒こ れは 単純 に﹁ 総合 調整 的解 釈﹂ とし よう
︒第 五に
︑特 定の 行 政な いし 特定 の事 務事 業に おけ る企 画立 案か ら管 理執 行ま での 一連 の政 策過 程を 自治 体が 一貫 して 行う とい う意 味 であ る︵ 松本
二〇
〇七
:一 二︶
︒こ れを 市川 から ヒン トを 得て
﹁政 策過 程一 貫的 解釈
﹂と し
( )
よう
︒最 後に
︑第 五
"
の拡 張版 であ り︑ ある 意味 では 第二 の意 味と も重 なっ てく るが
︑一 の自 治体 にお いて
︑す べて の行 政領 域︑ 政策 領 域に おい て︑ その 企画 立案 から 管理 執行 まで を一 貫し て行 うと いう 意味 であ る︵ 今井
二〇
〇八 b: 二〇
︶︒ これ を今 井に 倣っ て﹁ フル セッ ト主 義的 解釈
﹂と よぶ こと にし
( )
たい
︒
#
先に も述 べた よう に︑
﹁総 合性
﹂の 意味 は︑ 従来 まで は︑ さほ ど厳 密な 定義 がな され ず︑ かな り﹁ ラフ
﹂に 用い られ てき たた め︑ 市川 は︑ 二〇
〇〇 年分 権改 革以 前に は︑ この 言葉 は用 いら れた とし ても
︑そ れは 単な る﹁ 枕詞
﹂ に過 ぎな かっ たと して いる
︵市 川 二〇 一一 a: 三四 六︶
︒つ まり
︑上 の類 型化 で見 ると
︑第 一の
﹁全 権限 的解 釈﹂ や第 三の
﹁分 立行 政統 合的 解釈
﹂︑ ある いは 第四 の﹁ 総合 調整 的解 釈﹂ の意 味で 用い られ るこ とが 大半 であ った と いう こと であ ろう
︒た とえ ば︑ 全国 知事 会︵ 一九 六三
︶で は︑ 国が 河川 法や 道路 法な どを 改正
︵改 悪︶ し︑ 自治 体 の事 務権 限を 吸い 上げ よう とし た動 向や 中央 省庁 が地 方出 先機 関の 機能 を強 化し たり
︑新 たに 総合 出先 機関 等を 新
設し よう とし た
( )
動向 を背 景と して
︑府 県が
︑従 来か ら地 域総 合行 政主 体と して
︑そ の直 接担 当す る事 務事 業だ けで
$
なく
︑公 社・ 公団
・事 業団 等の 政府 関係 諸機 関の 事務 事業 も含 め地 域内 のあ らゆ る行 政を 総合 調整 しな がら
︑行 政 の円 滑化 を図 って いる とと もに
︑国 の割 拠主 義に 基づ く縦 割り 行政 の弊 害を 最小 限度 に食 い止 める 努力 をし てい る と︑ 第一 の意 味も 滲ま せな がら
︑主 とし て第 三︑ 第四 の意 味と して
︑﹁ 総合
﹂行 政と いう 言葉 を用 いて 国の 動向 を 批判 して いる
︵全 国知 事会
一九 六三
:一 二五
︱一 三一
︶︒ 一方
︑研 究者 では
︑た とえ ば︑ 大森 は︑ 第一 次地 方分 権改 革に 伴う 地方 自治 法の 改正 によ って 設け られ た第 一条 の二
︑第 一項 の規 定︑ すな わち 自治 体は
﹁地 域に おけ る行 政を 自主 的か つ総 合的 に実 施す る役 割を 広く 担う もの と する
﹂と いう 規定 につ いて
︑こ こで いう 自治 体が その 行政 を総 合的 に実 施す ると は︑
﹁﹃ 国や 都道 府県 の縦 割り 行政 と比 較し て﹄ とい う程 度の 意味 であ り︑ 総合 行政 とは 公選
・独 任の 首長 の下 で施 策の 総合 化を 図り なが ら法 律に 違 反し ない 限り 市町 村は 何で もで きる とい う意 味で ある
﹂と する
︵大 森二
〇〇 三: 一七
︑二
〇〇 八: 九八
︶︒ ここ で 大森 は市 町村 につ いて 議論 して いる 訳で ある が︑ その こと は横 に置 くと して
︑こ の解 釈は
︑最 初に
︑中 央政 府の 割 拠性 に起 因す る分 立主 義︑ ある いは 縦割 り行 政を 指摘 し︑ 自治 体の 行政 はそ れと 比較 する と﹁ 総合 性﹂ を持 って い る︑ ある いは
﹁総 合的
﹂で ある とし
︑そ れに 続い て公 選の 首長 の下 での 施策 の総 合調 整の 確保 につ いて 述べ
︑最 後 に﹁ 何で もで きる
﹂と いう
︑行 政領 域・ 政策 領域 の広 範性
・包 括性 を表 す言 葉で 締め くく って いる
︒こ れを 先の 類 型化 に当 ては める と︑ 最初 の部 分は
︑中 央政 府に おけ る行 政の
﹁分 立性
﹂が
︑自 治体 にお いて
﹁統 合化
﹂が 図ら れ ると いう 意味 であ るか ら︑ 第三 の﹁ 分立 行政 統合 的解 釈﹂ であ り︑ 中盤 は︑ 首長 によ る総 合調 整を 明確 に述 べて い るこ とか ら︑ 第四 の﹁ 総合 調整 的解 釈﹂ であ り︑ さら に締 めく くり は︑
﹁全 権限 的解 釈﹂ とな って おり
︑分 権改 革
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