日本の民事訴訟における裁判資料収集手続の展開
著者名(日) 椎橋 邦雄
雑誌名 山梨学院大学法学論集
巻 50
ページ 169‑186
発行年 2003‑09‑30
URL http://id.nii.ac.jp/1188/00000900/
講演記録
日本の民事訴訟における裁判資料収集手続の展開
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目 次
はじめに 証明責任の分配に関する論争
裁判資料収集拡充策に関する検討
現行法における裁判資料収集制度
民事訴訟法改正要綱中間試案
おわりに 椎 橋 邦 雄
f比較法研究および判例・実務の工夫ー
一169一
講演記録
日本の民事訴訟における裁判資料収集手続の展開
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VI V IV III II次
はじめに 証明責任の分配に関する論争 裁判資料収集拡充策に関する検討 現行法における裁判資料収集制度
民事訴訟法改正要綱中間試案
おわりに
ー比較法研究および判例・実務の工夫
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1 はじめに
本日は︑中国︑韓国および日本の民事訴訟法研究者による﹁東北アジア民事訴訟法の展開に関する検討会﹂にお
招きに預かり︑誠に有難うございます︒本シンポジウムを主催された湘潭大学の陳剛先生をはじめ︑関係の先生方
に心から御礼を申し上げます︒
さて︑本日の私の報告するテーマは︑陳先生のご要望もあり︑﹁日本の民事訴訟における裁判資料収集手続の展
開﹂です︒また︑中国︑韓国︑日本は︑ドイッやアメリカなどの欧米諸国の影響を受けていますが︑いわゆる混合
法制の立場から︑日本の民事訴訟の比較法的特徴を説明せよ︑とのご要望もありました︒たとえば︑日本はなぜア
メリカの証拠開示制度︵ディスカバリ︶を採用しなかったのかの理由を詳しく解釈してもらえれば幸いであるとの
ご指摘を受けました︒この点については︑後で少し詳しく述べますが︑結論を先取りして言えば︑一九九六年の民
事訴訟法の大改正のときの主要な改正点の一つは﹁証拠収集手続の拡充﹂であり︑その結果︑日本は︑訴訟構造の
基本的な相違があるために︑アメリカのディスカバリを丸ごと取り入れることはありませんでしたが︑アメリカの
開示方法の一つである質問書︵一導R8鴇8ユ8︶に相当する﹁当事者照会﹂︵一六三条︶を新設したり︑また︑文
書提出義務の範囲を拡大する︵限定的義務から一般的義務になった︶など︑実質的に見て︑証拠収集手続は大幅に
拡充された︑との感想を私は持っております︒ はじめに
本日は︑中国︑韓国および日本の民事訴訟法研究者による﹁東北アジア民事訴訟法の展開に関する検討会﹂にお
招きに預かり︑誠に有難うございます︒本シンポジウムを主催された湘湾大学の陳剛先生をはじめ︑関係の先生方
に心から御礼を申し上げます︒
さて︑本日の私の報告するテ 1 マは︑陳先生のご要望もあり︑﹁日本の民事訴訟における裁判資料収集手続の展
開﹂です︒また︑中園︑韓国︑ 日本は︑ドイツやアメリカなどの欧米諸国の影響を受けていますが︑ いわゆる混合
法制の立場から︑日本の民事訴訟の比較法的特徴を説明せよ︑ とのご要望もありました︒たとえば︑日本はなぜア
メリカの証拠開示制度(デイスカパリ)を採用しなかったのかの理由を詳しく解釈してもらえれば幸いであるとの
ご指摘を受けました︒この点については︑後で少し詳しく述べますが︑結論を先取りして言えば︑ 一九九六年の民
事訴訟法の大改正のときの主要な改正点の一つは﹁証拠収集手続の拡充﹂であり︑ その結果︑日本は︑訴訟構造の
基本的な相違があるために︑ アメリカのデイスカパリを丸ごと取り入れることはありませんでしたが︑ アメリカの
開示方法の一つである質問書
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に相当する﹁当事者照会﹂(一六三条)を新設したり︑ また︑文
書提出義務の範囲を拡大する (限定的義務から一般的義務になった)など︑実質的に見て︑証拠収集手続は大幅に
拡 充
さ れ
た ︑
との感想を私は持っております︒
日本で︑証拠収集の拡充の必要性が意識されたきっかけは︑今からおよそ三〇年前に︑﹁証拠の偏在﹂を特徴と
する︑いわゆる現代型の事件︵たとえば︑医療過誤事件や公害事件︶が出現したため︑証明責任の分配基準に関す
る大論争が起きた時に遡ります︒そこで︑本日は︑過去三〇年にわたる︑裁判資料収集手続の展開を概観すること
にいたします︒
II
証明責任の分配に関する論争
日本では︑およそ三〇年前に証明責任の分配に関する大論争がありました︵一九七五年度の日本民事訴訟法学会
のテーマは︑証明責任の分配でした︒ちなみに︑中国では︑職権探知方式をとるために︑証明責任の意義について
は︑いろいろな捉え方があるようですが︑日本では︑﹁客観的証明責任﹂の意味で使っています︒すなわち︑﹁ある
事実が真偽不明の場合に︑判決において︑その事実を要件とする自己に有利な法律効果の発生または不発生が認め
られないこととなる一方当事者の不利益の負担﹂であり︑これは︑﹁証拠提出責任﹂や﹁立証の必要﹂と区別され
ます︶︒
それまでは︑証明責任の分配に関する基準としては︑ドイツの学者であるローゼンベルクが確立した﹁法律要件
分類説﹂で何の問題もありませんでした︒ご承知のように︑法律要件分類説は︑事実を︑①権利発生事実︵要件事
実︶︑②権利消滅事実︵たとえば︑弁済や消滅時効︶︑③権利障害事実︵たとえば︑錯誤などの無効事由や詐欺など
一171一
日本で︑証拠収集の拡充の必要性が意識されたきっかけは︑今からおよそ三 O 年前に︑﹁証拠の偏在﹂を特徴と
す る
︑
いわゆる現代型の事件(たとえば︑医療過誤事件や公害事件)が出現したため︑証明責任の分配基準に関す
る大論争が起きた時に遡ります︒そこで︑本日は︑過去三 O 年にわたる︑裁判資料収集手続の展開を概観すること
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証明責任の分配に関する論争
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お よ そ 三 O 年前に証明責任の分配に関する大論争がありました(一九七五年度の日本民事訴訟法学会
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は︑いろいろな捉え方があるようですが︑日本では︑﹁客観的証明責任﹂の意味で使っています︒すなわち︑﹁ある
事実が真偽不明の場合に︑判決において︑ その事実を要件とする自己に有利な法律効果の発生または不発生が認め
られないこととなる一方当事者の不利益の負担﹂であり︑これは︑﹁証拠提出責任﹂や﹁立証の必要﹂と区別され
ま す
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それまでは︑証明責任の分配に関する基準としては︑ドイツの学者であるロ 1 ゼンベルクが確立した﹁法律要件
分類説﹂で何の問題もありませんでした︒ご承知のように︑法律要件分類説は︑事実を︑①権利発生事実(要件事
実)︑②権利消滅事実(たとえば︑弁済や消滅時効)︑③権利障害事実(たとえば︑錯誤などの無効事由や詐欺など
法学論集 50〔山梨学院大学〕 172
の取消事由︶の三つに分類し︑それぞれについて︑有利な法律効果を欲する者は︑それぞれの事実について証明責
任を負うとするものでした︒この学説は︑伝統的な事件に適用するときには何の問題もありませんでした︒たとえ
ば︑お金の貸し借りである︑消費貸借契約の事件では︑貸金の返還を求める貸主︵原告︶は消費貸借契約の要件事
実︵権利発生事実目金銭の授受と返還の合意︶を証明しなければなりませんが︑それを証明する証拠︵たとえば︑
借用証書︶は原告が持っているので︑原告が証明責任を負担しても問題はありませんでした︒
しかし︑医療過誤や公害事件などの︑いわゆる現代型事件では︑法律要件分類説は妥当な結果を出せませんでし
た︒すなわち︑医療過誤や公害事件は不法行為事件ですが︑不法行為が成立する要件としては︑①加害者に故意ま
たは過失があること︑②加害者が違法な権利侵害行為を行ったこと︑③被害者に損害が発生したこと︑④加害者の
行為と被害者の受けた損害の間に因果関係が存在することの四つが要件事実︵権利発生事実︶となっています︵民
法七〇九条参照︶︒したがって︑医療過誤事件における原告︵患者︶は被告︵医師︶の過失︵ミス︶を証明しなけ
ればなりませんが︑それを証明するための証拠︵たとえば︑診療録Hカルテ︶は患者ではなく︑医師が持っている
ので︑原告が被告の過失を証明することは極めて困難になるわけです︒同様に︑公害事件では︑原告︵被害者︶が
因果関係を証明しなければなりませんが︑それを証明する証拠︵たとえば︑被告会社が排出した工場廃液の成分に
関する文書︶は被告会社がもっているので︑証拠を持たない原告が因果関係を証明することはきわめて困難になる
わけです︒ の取消事由) それぞれの事実について証明責
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それぞれについて︑有利な法律効果を欲する者は︑
任を負うとするものでした︒この学説は︑伝統的な事件に適用するときには何の問題もありませんでした︒たとえ
ば︑お金の貸し借りである︑消費貸借契約の事件では︑貸金の返還を求める貸主(原告) は消費貸借契約の要件事
実(権利発生事実 H 金銭の授受と返還の合意)を‑証明しなければなりませんが︑
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借用証書) は原告が持っているので︑原告が証明責任を負担しても問題はありませんでした︒
しかし︑医療過誤や公害事件などの︑ いわゆる現代型事件では︑法律要件分類説は妥当な結果を出せませんでし
た︒すなわち︑医療過誤や公害事件は不法行為事件ですが︑不法行為が成立する要件としては︑①加害者に故意ま
たは過失があること︑②加害者が違法な権利侵害行為を行ったこと︑③被害者に損害が発生したこと︑④加害者の
行為と被害者の受けた損害の聞に因果関係が存在することの四つが要件事実(権利発生事実) となっています(民
法 七
O 九条参照)︒したがって︑医療過誤事件における原告(患者) は被告(医師) の過失(ミス)を証明しなけ
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ま せ
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それを証明するための証拠(たとえば︑診療録 U カルテ) は患者ではなく︑医師が持っている
ので︑原告が被告の過失を‑証明することは極めて困難になるわけです︒同様に︑公害事件では︑原告(被害者)が
因果関係を証明しなければなりませんが︑ それを‑証明する証拠(たとえば︑被告会社が排出した工場廃液の成分に
関する文書) は被告会社がもっているので︑証拠を持たない原告が因果関係を証明することはきわめて困難になる
わ け
で す
︒
このような﹁証拠の偏在﹂を特徴とする現代型事件では︑法律要件分類説では妥当な結果を出せないとして︑ド
イツの学説の影響を受けて︑日本では︑東京大学の石田教授が証明責任の分配に関する新しい学説を提唱しまし
た︒この学説は︑利益衡量説と呼ばれました︒この学説では︑証明責任分配の基準として︑証拠との距離︵証拠に
近い者が証明責任を負うべきとする︶や立証の難易︵立証しやすい者が証明責任を負うべきとする︶などの基準が
提唱されました︒したがって︑上記の医療過誤事件では︑証拠に近い被告︵医師︶が過失がなかったことを証明す
べきであり︑また︑公害事件では︑立証の容易な被告会社が因果関係のないことを証明しなければならないことに
なります︒
この利益衡量説は︑現代型事件に法律要件分類説を適用することの難点を克服するために考え出されたものであ
るので︑その意図するところは大変良かったのですが︑証明責任分配の基準としては﹁明確さ﹂を欠くために法律
要件分類説に取って代わることはありませんでした︒︵たとえば︑︸九七五年度の民事訴訟法学会での質疑応答に
おいて︑当時大阪大学の教授であった中野先生は︑利益衡量説の言う﹁証拠との距離﹂などは明確性に欠けるとし
て︑冗談半分に次のように言われました︒医療過誤事件で︑医師が患者の腹部に手術用具を置き忘れたまま縫合し
た事例の場合には︑証拠である手術用具は患者の体内にあるのだから︑証拠に近いのは︑医師ではなくて︑患者で
はないか?︶︒
このように︑証明責任の分配の理論では︑現代型事件に対処することはできませんでした︒証明責任の分配は︑
一173一
このような﹁証拠の偏在﹂を特徴とする現代型事件では︑法律要件分類説では妥当な結果を出せないとして︑ド
イツの学説の影響を受げて︑日本では︑東京大学の石田教授が証明責任の分配に関する新しい学説を提唱しまし
た︒この学説は︑利益衡量説と呼ばれました︒この学説では︑証明責任分配の基準として︑証拠との距離(証拠に
近い者が証明責任を負うべきとする)や立証の難易(立証しやすい者が証明責任を負うべきとする)などの基準が
提唱されました︒したがって︑上記の医療過誤事件では︑証拠に近い被告(医師)が過失がなかったことを証明す
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また︑公害事件では︑立証の容易な被告会社が因果関係のないことを証明しなければならないことに
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‑173ー
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その意図するところは大変良かったのですが︑証明責任分配の基準としては﹁明確さ﹂を欠くために法律
要件分類説に取って代わることはありませんでした︒(たとえば︑ 一九七五年度の民事訴訟法学会での質疑応答に
おいて︑当時大阪大学の教授であった中野先生は︑利益衡量説の言う﹁証拠との距離﹂などは明確性に欠けるとし
て︑冗談半分に次のように言われました︒医療過誤事件で︑医師が患者の腹部に手術用具を置き忘れたまま縫合し
た事例の場合には︑証拠である手術用具は患者の体内にあるのだから︑証拠に近いのは︑医師ではなくて︑患者で
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このように︑証明責任の分配の理論では︑現代型事件に対処することはできませんでした︒証明責任の分配は︑
法学論集 50〔山梨学院大学〕 174
日本では︑裁判官が︑証拠調べの結果や弁論の全趣旨に照らしても︑事実の存否に確信が持てない︵真偽不明︶時
の最後の砦と考えられていましたが︑大事なことは︑真偽不明の事態を生じさせないようにすることであり︑その
ためには︑証拠収集の手続を拡充することが急務であると認識されるようになりました︒とりわけ︑日本で問題に
なった証拠は文書です︒当時︑文書提出義務の範囲は︑①引用文書︑②引渡し・閲覧請求権のある文書︑③利益文
書︑④法律関係文書︑の四つの文書が限定的に列挙されており︑これに該当しない場合には所持者は文書を提出す
る義務はありませんでした︵旧民事訴訟法三一二条︶︒医療過誤事件における診療録や公害事件で会社の所有する
文書は︑上記のどの文書にも該当せず︑提出義務がないとされていたので︑これらの事件における原告は︑証明責
任を果たすために︑多大の苦労を負わされていたのです︒
したがって︑次の段階として︑証拠収集の拡充策を検討することが民事訴訟研究者の課題とされたのです︒
皿
証拠収集の拡充策の検討
証明責任の分配では︑
方策が検討されました︒ 現代型事件に対処できなかったので︑その後︑証拠の収集を充実させるためのさまざまな
この場合にも︑日本では︑ドイツやアメリカの状況が熱心に紹介されました︒
①ドイツの学説の紹介−・・ドイツは日本の母法国であり︑証拠の収集についても︑ドイツのさまざまな学説や理
174
日本では︑裁判官が︑証拠調べの結果や弁論の全趣旨に照らしても︑事実の存否に確信が持てない
( 真
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時
の最後の砦と考えられていましたが︑大事なことは︑真偽不明の事態を生じさせないようにすることであり︑その
ためには︑証拠収集の手続を拡充することが急務であると認識されるようになりました︒とりわけ︑日本で問題に
なった証拠は文書です︒当時︑文書提出義務の範囲は︑①引用文書︑②引渡し・閲覧請求権のある文書︑③利益文
書︑④法律関係文書︑ の四つの文書が限定的に列挙されており︑これに該当しない場合には所持者は文書を提出す
る義務はありませんでした(旧民事訴訟法三一二条)︒医療過誤事件における診療録や公害事件で会社の所有する
文書は︑上記のどの文書にも該当せず︑提出義務がないとされていたので︑これらの事件における原告は︑証明責
任を果たすために︑多大の苦労を負わされていたのです︒
したがって︑次の段階として︑証拠収集の拡充策を検討することが民事訴訟研究者の課題とされたのです︒
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証拠収集の拡充策の検討
証明責任の分配では︑現代型事件に対処できなかったので︑その後︑証拠の収集を充実させるためのさまざまな
方策が検討されました︒この場合にも︑日本では︑ドイツやアメリカの状況が熱心に紹介されました︒
①
ドイツの学説の紹介:::ドイツは日本の母法国であり︑証拠の収集についても︑ドイツのさまざまな学説や理
論が紹介され︑検討されました︒そのいくつかを紹介しますと︑
@ 事案解明義務⁝⁝ドイツではシュテユルナー教授によって提唱された理論で︑日本では筑波大学の春日先生
によって紹介されました︒この説は従来の法律要件分類説の下で証明責任を負担する当事者が︑上記のような
証拠の偏在のために︑事案の解明ができないときは︑一定の要件の下で︑相手方に事案解明義務を課し︑それ
に違反する場合には︑一定の制裁を課すというものです︒要件としては︑相手方に対して事実の解明を求める
当事者が︑︵ア︶自己の権利主張につき合理的な基礎があることを明らかにする手がかりを示し︑︵イ︶この者
が客観的に事実の解明をなしえない状況にあり︑︵ウ︶そのことに非難可能性がなく︑︵エ︶それに反して相手
方は事実を容易に解明できる立場にあり︑その期待可能性があることです︒また︑効果︵制裁︶に関しては︑
︵ア︶この義務に違反して事実を提出しないことの評価を裁判所の自由裁量に任せる説︑︵イ︶違反行為は証明責
任の転換を結果するとする説︑︵ウ︶不利益な事実を擬制する説などが提唱されました︒この説は時代の二ーズ
にあった学説ですが︑日本では多くの支持は得られませんでした︒
㈲ 模索的証明⁝⁝この理論も︑証拠の偏在から生じる難点を克服するための理論で︑日本では︑佐上先生によ
って紹介︑提唱されました︒すなわち︑本来は︑証明主題を特定し︑それと証拠との関係を示してなされるべ
き証拠調べの申し立てを︑ある程度︑一般的・抽象的な申し立てのままで許して︑証拠調べ手続きの中で︑新
たな︑また確実な主張・立証の材料を得る途を開こうとする理論です︒この理論も︑事案解明義務と同様に︑
ドイツの理論として紹介はされましたが︑日本で︑通説や判例になることはありませんでした︒しかし︑この
たびの大改正において︑文書について特定の困難なものについては︑文書の特定のための手続きが定められま
一175一
論が紹介され︑検討されました
Dそのいくつかを紹介しますと︑
(a)
事案解明義務:::ドイツではシュテュルナ l 教授によって提唱された理論で︑日本では筑波大学の春日先生
によって紹介されました︒この説は従来の法律要件分類説の下で証明責任を負担する当事者が︑上記のような
証拠の偏在のために︑事案の解明ができないときは︑ 一定の要件の下で︑相手方に事案解明義務を課し︑それ
に 違
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一定の制裁を課すというものです︒要件としては︑相手方に対して事実の解明を求める
当事者が︑(ア)自己の権利主張につき合理的な基礎があることを明らかにする手がかりを示し︑(イ)この者
が客観的に事実の解明をなしえない状況にあり︑(ウ)そのことに非難可能性がなく︑(エ)それに反して相手
方は事実を容易に解明できる立場にあり︑その期待可能性があることです︒また︑効果(制裁)
に 関
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‑175‑
(ア)この義務に違反して事実を提出しないことの評価を裁判所の自由裁量に任せる説︑(イ)違反行為は証明責
任の転換を結果するとする説︑(ウ)不利益な事実を擬制する説などが提唱されました︒この説は時代のニ l ズ
にあった学説ですが︑日本では多くの支持は得られませんでした︒
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模索的証明:::この理論も︑証拠の偏在から生じる難点を克服するための理論で︑日本では︑佐上先生によ
って紹介︑提唱されました︒すなわち︑本来は︑証明主題を特定し︑それと証拠との関係を示してなされるべ
き証拠調べの申し立てを︑ある程度︑ 一般的・抽象的な申し立てのままで許して︑証拠調べ手続きの中で︑新
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︑ ︑
宇八争心︼
また確実な主張・立証の材料を得る途を開こうとする理論です︒この理論も︑事案解明義務と同様に︑
ドイツの理論として紹介はきれましたが︑日本で︑通説や判例になることはありませんでした︒しかし︑この
たびの大改正において︑文書について特定の困難なものについては︑文書の特定のための手続きが定められま
した︵二二二条参照︶︒
◎ 証明妨害⁝⁝証明責任を負わない当事者が︑証拠を隠匿したり︑焼却・廃棄するなどによって︑証明を妨害
した場合には一定の制裁を課す理論です︒日本では本問先生によって紹介されました︒証明妨害については︑
どのような要件︵たとえば︑故意または重過失の場合に限るか︑それとも︑過失があればよいのか︶があれば
成立するのか︑また︑効果はどのようなものか︵裁判官の自由心証に任せるか︑それとも︑相手の主張を真実
と認めるか︶について︑学説は大いに分かれています︒ちなみに︑現行のニニ四条二項は︑当事者が相手方の
使用を妨げる目的で提出の義務がある文書を滅失させ︑その他これを使用することができないようにしたとき
は︑相手方の主張を真実と認めることができる︑と規定しています︒
⑥ 真実義務や完全陳述義務などのドイツの理論も︑この時期に︑改めて注目され︑検討されました︒
@ 違法収集証拠の理論は︑上記の理論がなるべく多くの証拠を収集・提出させる方向であるのと異なり︑違法
に収集した証拠は証拠能力を否定すべきか否かという議論ですが︑やはりこの時期に︑ドイツでの実情が紹介
されました︒中国では︑違法収集証拠の取り扱いについて関心があるように伺いましたが︑日本ではあまり大
きな議論にはなりませんでした︒日本では︑証拠能力を肯定するのが一般的で︑たとえば︑酒席で無断に録音
されたテープについて︑証拠能力が認められました︒もっとも︑日記を窃取した場合や他人の住居に侵入して
録音したテープなどについては︑証拠能力を否定されることになると考えられています︒
②アメリカの開示制度の紹介・検討−−周知のように︑アメリカでは︑質問書︑証言録取書︑文書の提出︑自白
し た
( 二
二 二
条 参
照 )
︒
(c)証明妨害:::証明責任を負わない当事者が︑証拠を隠匿したり︑焼却・廃棄するなどによって︑証明を妨害
した場合には一定の制裁を課す理論です︒日本では本問先生によって紹介されました︒証明妨害については︑
どのような要件(たとえば︑故意または重過失の場合に限るか︑それとも︑過失があればよいのか)があれば
成 立
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の か
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また︑効果はどのようなものか
( 裁
判 官
の 自
由 心
証 に
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︑
それとも︑相手の主張を真実
と認めるか) について︑学説は大いに分かれています︒ちなみに︑現行の二二四条二項は︑当事者が相手方の
使用を妨げる目的で提出の義務がある文書を滅失させ︑ その他これを使用することができないようにしたとき
は︑相手方の主張を真実と認めることができる︑ と 規 定 し て い ま す ︒
( d )
真実義務や完全陳述義務などのドイツの理論も︑この時期に︑改めて注目され︑検討されました︒
(e)
違法収集証拠の理論は︑上記の理論がなるべく多くの証拠を収集・提出させる方向であるのと異なり︑違法
に収集した証拠は証拠能力を否定すべきか否かという議論ですが︑やはりこの時期に︑ドイツでの実情が紹介
されました︒中国では︑違法収集証拠の取り扱いについて関心があるように伺いましたが︑日本ではあまり大
きな議論にはなりませんでした︒日本では︑証拠能力を肯定するのが一般的で︑ たとえば︑酒席で無断に録音
されたテ l プについて︑証拠能力が認められました︒もっとも︑日記を窃取した場合や他人の住居に侵入して
録音したテ l プなどについては︑証拠能力を否定されることになると考えられています︒
②
アメリカの開示制度の紹介・検討:::周知のように︑ アメリカでは︑質問書︑証言録取書︑文書の提出︑自白
の要求︑土地への立ち入り︑身体検査の方法により︑相手方から裁判資料を提出させることのできる開示制度が
あります︒これによって︑真実発見が容易になり︑また︑当事者間で事件に関する情報を共有することによっ
て︑和解で事件が片付く可能性も高まります︵アメリカでは︑九〇%以上の事件がトライアルに行く前に︑和解
によって終了しています︶︒
しかし︑開示制度のこのような利点と共に︑開示制度の弊害も指摘されています︒たとえば︑費用と時間がか
かることです︒アメリカの不法行為事件では︑弁護士は全面成功報酬制︵コンティンジェント・フィー︶がとら
れるのが普通です︒この報酬制度では︑弁護士は敗訴すると︑まったく報酬がもらえません︒そこで︑弁護士は
報酬を得るために必死になって開示制度を利用するため︑相手方にとっては費用の負担が大きくなり︑ひいて
は︑開示にかかる費用を節約するために︑不当な和解要求に応じることも生じています︒
日本でも開示制度は注目されましたが︑日本とアメリカでは訴訟構造が基本的に異なるので︑アメリカの制度
を丸ごと取り入れることはできませんでした︒すなわち︑第一に︑アメリカは陪審制度を背景にした集中審理方
式であるのに対し︑日本は︑口頭弁論期日を一︑ニケ月ごとに開く併行審理方式︵雨だれ方式︑分割審理主義︶
をとっていること︑第二に︑アメリカでは︑当事者主義︵アドヴァサリ・システム︶を背景に︑開示手続きも基
本的に当事者間で行われるのに対し︑日本では︑職権進行主義のもとで︑裁判所を中心にした手続きがとられて
いること︑第三に︑開示手続きをするには︑多くの弁護士が必要ですが︑日本の弁護士の数は少ないこと︑など
です︒
しかし︑開示制度の持つ利点は十分に認識されたので︑﹃九九六年の民事訴訟法の大改正の時に︑アメリカの
一177一
の要求︑土地への立ち入り︑身体検査の方法により︑相手方から裁判資料を提出させることのできる開示制度が
あります︒これによって︑真実発見が容易になり︑ また︑当事者間で事件に関する情報を共有することによっ
て︑和解で事件が片付く可能性も高まります(アメリカでは︑九
O%
以上の事件がトライアルに行く前に︑和解
に よ
っ て
終 了
し て
い ま
す )
︒
しかし︑開示制度のこのような利点と共に︑開示制度の弊害も指摘されています︒たとえば︑費用と時間がか
かることです︒アメリカの不法行為事件では︑弁護士は全面成功報酬制(コンティンジェント・フィ
l )
がとら
れるのが普通です︒この報酬制度では︑弁護士は敗訴すると︑ まったく報酬がもらえません︒そこで︑弁護士は
報酬を得るために必死になって開示制度を利用するため︑相手方にとっては費用の負担が大きくなり︑ ひ い て
‑177‑
は︑開示にかかる費用を節約するために︑不当な和解要求に応じることも生じています︒
日本でも開示制度は注目されましたが︑日本とアメリカでは訴訟構造が基本的に異なるので︑ アメリカの制度
を丸ごと取り入れることはできませんでした︒すなわち︑第一に︑
式であるのに対し︑日本は︑ アメリカは陪審制度を背景にした集中審理方
口頭弁論期日を一︑二ヶ月ごとに聞く併行審理方式(雨だれ方式︑分割審理主義)
アメリカでは︑当事者主義(アドヴアサリ・システム)を背景に︑開示手続きも基
本的に当事者間で行われるのに対し︑日本では︑職権進行主義のもとで︑裁判所を中心にした手続きがとられて をとっていること︑第二に︑
いること︑第三に︑開示手続きをするには︑多くの弁護士が必要ですが︑日本の弁護士の数は少ないこと︑など
で す
しかし︑開示制度の持つ利点は十分に認識されたので︑ 一九九六年の民事訴訟法の大改正の時に︑ アメリカの ︒
法学論集 50〔山梨学院大学〕 178
質問書に相当する﹁当事者照会﹂の制度が新設されましたし︑また︑文書提出義務の範囲も拡大されました︒
③日本の学界および判例・実務の努力⁝⁝上記のように︑ドイツやアメリカの状況を紹介する比較法的研究も盛
んに行われる一方で︑判例や実務の工夫また学説による解釈論の展開によって︑一九九六年の大改正によって立
法的な解決がなされる前にも︑さまざまな試みがなされました︒たとえば︑判例によって︑文書提出義務の範囲
について︑﹁利益文書﹂や﹁法律関係文書﹂の拡大解釈を行い︑医師の診療録や公害を起こした会社の文書を提
出させる努力がなされました︒また︑学説では︑証拠保全について︑その要件を緩和することによって︑証拠の
保全にとどまらず︑開示の機能を持たせようとの試みもありました︵たとえば︑医師の診療録について︑改ざん
されるおそれがあるとして︑早期に︑その提出をさせること︶︒また︑実務の工夫としては︑弁論兼和解や陳述
書の活用があげられます︒
IV
現行法における裁判資料収集制度
①当事者照会︵一六三条︶⁝:とれは︑前にも言及したように︑アメリカの質問書にヒントを得て︑新設された制
度です︒すなわち︑当事者は︑主張または立証を準備するために必要な事項について︑相手方に対し︑書面で質
問することができます︒そして︑質問を受けた相手方はそれに対して誠実に回答しなければならない︑という制
度です︒このやりとりは︑裁判所を通さずに︑直接︑当事者問で行われます︒ 質問書に相当する﹁当事者照会﹂の制度が新設されましたし︑また︑文書提出義務の範囲も拡大されました︒ ③
日本の学界および判例・実務の努力:::上記のように︑ドイツやアメリカの状況を紹介する比較法的研究も盛
んに行われる一方で︑判例や実務の工夫また学説による解釈論の展開によって︑ 一九九六年の大改正によって立
法的な解決がなされる前にも︑さまざまな試みがなされました︒たとえば︑判例によって︑文書提出義務の範囲
について︑﹁利益文書﹂や﹁法律関係文書﹂の拡大解釈を行い︑医師の診療録や公害を起こした会社の文書を提
出させる努力がなされました︒また︑学説では︑証拠保全について︑その要件を緩和することによって︑証拠の
保全にとどまらず︑開示の機能を持たせようとの試みもありました(たとえば︑医師の診療録について︑改ざん
されるおそれがあるとして︑早期に︑その提出をさせること)︒また︑実務の工夫としては︑弁論兼和解や陳述
書の活用があげられます︒
I V
現行法における裁判資料収集制度
①
当 事
者 照
会 (
一 六
三 条
) :
: :
こ れ
は ︑
前 に
も 言
及 し
た よ
う に
︑
アメリカの質問書にヒントを得て︑新設された制
度です︒すなわち︑当事者は︑主張または立証を準備するために必要な事項について︑相手方に対し︑書面で質
問することができます︒そして︑質問を受けた相手方はそれに対して誠実に回答しなければならない︑という制
度です︒このやりとりは︑裁判所を通さずに︑直接︑当事者間で行われます︒
この制度の問題点としては︑第一に︑訴訟が係属した後ではじめて利用できるので︑訴えの提起前には︑利用
できないこと︑第二に︑質問を受けた相手方が回答をしなくても何らの制裁もないので︑相手方がまじめに対応
してくれない恐れがあることです︒
最近︑実務家の方から聞いた話では︑残念ながら︑この制度は︑裁判所を通しての裁判資料のやり取りが伝統
となっている日本では︑あまり活発に利用されてはいないようで︑依然として︑次の求釈明が使われているよう
です︒
②裁判官の釈明︵一四九条︶⁝⁝日本では︑弁論主義を採用しているので︑裁判資料︵事実と証拠︶は当事者が提出
しなければなりません︒しかし︑この弁論主義を補完するために︑裁判官には釈明をすることが認められていま
す︒すなわち︑裁判官は︑訴訟関係を明らかにするために︑必要があれば︑法律上および事実上の事項につい
て︑質問をしたり︑証拠の提出を促すことができます︒
このたびの改正では︑裁判のスピード・アップをはかるために︑期日の前に釈明をすることが認められまし
た︒また︑釈明は裁判官の権限ですが︑当事者が相手方に質問をしたいときに︑前述の当事者照会ではなく︑裁
判官を通して回答を得るという求釈明︵きゅうしゃくめい︶がなされることも少なくありません︒
③文書提出義務︵一三〇条︶⁝⁝このたびの大改正で︑提出義務の範囲が︑限定的義務から一般的義務に拡大され
たことが特筆されることです︒すなわち︑文書の所持者は︑いわゆる秘匿特権を有するものを除いて︑すべての
一179一
この制度の問題点としては︑第一に︑訴訟が係属した後ではじめて利用できるので︑訴えの提起前には︑利用
できないこと︑第二に︑質問を受けた相手方が回答をしなくても何らの制裁もないので︑相手方がまじめに対応
してくれない恐れがあることです︒
最近︑実務家の方から聞いた話では︑残念ながら︑この制度は︑裁判所を通しての裁判資料のやり取りが伝統
となっている日本では︑あまり活発に利用されてはいないようで︑依然として︑次の求釈明が使われているよう
で す
︒
②
裁判官の釈明(一四九条):::日本では︑弁論主義を採用しているので︑裁判資料(事実と証拠)は当事者が提出
しなければなりません︒しかし︑この弁論主義を補完するために︑裁判官には釈明をすることが認められていま
す︒すなわち︑裁判官は︑訴訟関係を明らかにするために︑必要があれば︑法律上および事実上の事項につい
て︑質問をしたり︑証拠の提出を促すことができます︒
このたびの改正では︑裁判のスピード・アップをはかるために︑期日の前に釈明をすることが認められまし
た︒また︑釈明は裁判官の権限ですが︑当事者が相手方に質問をしたいときに︑前述の当事者照会ではなく︑裁
判官を通して回答を得るという求釈明(きゅうしゃくめい)がなされることも少なくありません︒
③
文書提出義務(二二 O 条):::このたびの大改正で︑提出義務の範囲が︑限定的義務から一般的義務に拡大され
たことが特筆されることです︒すなわち︑文書の所持者は︑ いわゆる秘匿特権を有するものを除いて︑すべての
文書を提出する義務を課せられました︒
また︑秘匿特権が認められるものか否かを判断するために︑裁判官のみがまず文書を見るという︑いわゆるイ
ン・カメラ手続きが採用されました︵一三三条六項︶︒
また︑前述したように︑文書の特定が困難な場合に対応するために︑文書の特定のための手続きが設けられま
した︵ニニニ条︶︒
④陳述書⁝⁝陳述書というのは︑当事者︵または証人︶が証拠調べ︵当事者の場合は当事者尋問︶を受ける前
に︑事件のストーリーを時系列︵時間の経過を追って︶に述べた内容を書面にしたものです︒当事者本人が書く
場合もありますが︑通常は︑当事者が述べた内容を弁護士が整理して︑文章化します︒アメリカのデポジション
︵証言録取書︶に似ていますが︑アメリカと異なり︑対象は主として当事者であり︑また︑相手方の弁護士が立
ち会うわけではありません︒
陳述書には賛否両論があります︒陳述書のメリットとしては︑主尋問で陳述する内容をあらかじめ書面にして
あるので︑主尋間の効率を高めて時間の節約を図れるし︑また︑相手方もあらかじめ主尋問の内容を知ることが
できるので︑反対尋問を十分に準備できることです︒反対に︑デメリットとしては︑主尋問が形骸化し︑主尋問
が軽視されるおそれがあることです︒
陳述書は︑実務ではよく使われているようです︒というのは︑裁判官としては︑訴訟の早い段階で陳述書を出
してもらえれば︑それを読むことによって︑事件のストーリーをつかむことができ︑争点整理が順調に行くから 文書を提出する義務を課せられました︒
また︑秘匿特権が認められるものか否かを判断するために︑裁判官のみがまず文書を見るという︑ いわゆるイ
ン・カメラ手続きが採用されました(二二三条六項)︒
また︑前述したように︑文書の特定が困難な場合に対応するために︑文書の特定のための手続きが設けられま
し た
( 二
二 二
条 )
︒
④
陳述書:::陳述書というのは︑当事者(または証人)が証拠調べ (当事者の場合は当事者尋問)を受ける前
に︑事件のストーリーを時系列(時間の経過を追って) に述べた内容を書面にしたものです︒当事者本人が書く
場合もありますが︑通常は︑当事者が述べた内容を弁護士が整理して︑文章化します︒アメリカのデポジション
( 証
言 録
取 書
)
アメリカと異なり︑対象は主として当事者であり︑ また︑相手方の弁護士が立
に 似
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ま す
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ち会うわけではありません︒
陳述書には賛否両論があります︒陳述書のメリットとしては︑主尋問で陳述する内容をあらかじめ書面にして
あるので︑主尋問の効率を高めて時間の節約を図れるし︑また︑相手方もあらかじめ主尋問の内容を知ることが
できるので︑反対尋問を十分に準備できることです︒反対に︑デメリットとしては︑主尋問が形骸化し︑主尋問
が軽視されるおそれがあることです︒
陳述書は︑実務ではよく使われているようです︒というのは︑裁判官としては︑訴訟の早い段階で陳述書を出
し て
も ら
え れ
ば ︑
それを読むことによって︑事件のストーリーをつかむことができ︑争点整理が順調に行くから
です︒
⑤専門家の活用⁝⁝鑑定人については︑大幅な改正はなく︑先送りにされました︒特許権等に関する訴訟では︑
専門家の知識が必要となるので︑このたびの改正で︑このような事件は︑東京と大阪の2つの裁判所に集中させ
ることになりました︵六条︶︒
V 民事訴訟法改正要綱中間試案
一九九六年に民事訴訟法が大改正されてから︑まだ数年しか経っておりませんが︑審理のスピード・アップと審
理の充実をはかるために︑さらに︑民事訴訟法を改正する動きがあり︑二〇〇二年六月には︑改正要綱の中問試案
が公表されました︒第一に︑中間試案の内容としては︑審理のスピード・アップをはかるための﹁計画審理﹂︑第
二に︑訴えの提起前に証拠の収集を可能にするための﹁証拠収集等の手続の拡充﹂︑第三に︑﹁専門訴訟への対応の
強化﹂があります︒ここでは︑第二の点について述べます︒
﹁証拠収集等の手続の拡充﹂については︑三つの内容があります︒
①提訴予告通知制度⁝⁝提訴前の証拠収集を可能にするために︑提訴の予告通知をすれば︑次のような証拠収集
ができることになります︒
②訴えの提起前における当事者照会⁝⁝現行の当事者照会は︑訴訟の係属後にはじめてできるのであり︑訴え提
一181一
で す
︒
⑤
専門家の活用:::鑑定人については︑大幅な改正はなく︑先送りにされました︒特許権等に関する訴訟では︑
専門家の知識が必要となるので︑このたびの改正で︑このような事件は︑東京と大阪の 2 つの裁判所に集中させ
ることになりました
( 六
条 )
︒ V
民事訴訟法改正要綱中間試案
一九九六年に民事訴訟法が大改正されてから︑ まだ数年しか経っておりませんが︑審理のスピード・アップと審
理の充実をはかるために︑ さらに︑民事訴訟法を改正する動きがあり︑二
OO
二年六月には︑改正要綱の中間試案
が公表されました︒第一に︑中間試案の内容としては︑審理のスピード・アップをはかるための﹁計画審理﹂︑第
二に︑訴えの提起前に証拠の収集を可能にするための﹁証拠収集等の手続の拡充﹂︑第三に︑﹁専門訴訟への対応の
強化﹂があります︒ここでは︑第二の点について述べます︒
﹁証拠収集等の手続の拡充﹂については︑三つの内容があります︒
①
提訴予告通知制度:::提訴前の証拠収集を可能にするために︑提訴の予告通知をすれば︑次のような証拠収集
ができることになります︒
②
訴えの提起前における当事者照会:::現行の当事者照会は︑訴訟の係属後にはじめてできるのであり︑訴え提
起前にすることはできません︒そこで︑上述の提訴予告通知をした場合には︑訴えの提起前でも当事者照会がで
きることとしました︒
③訴えの提起前における証拠収集手続⁝⁝これも前述の提訴の予告通知をすれば︑次のことができるとしていま
す︒
⑥ 文書の送付の嘱託⁝⁝訴えの提起前において︑文書の送付の嘱託をすることができます︒具体的には︑医事
関係事件において︑問題となった治療行為が行われた後に病院を転院しているような場合に︑その転院先の病
院の診療録等の送付を求める例が考えられます︒
㈲ 調査の嘱託⁝⁝特定の事項について︑公私の団体に調査を嘱託することができます︒具体的には︑債務の弁
済の有無が争われている事案において︑第三者である銀行に対して銀行振込の有無について調査を嘱託する例
が考えられます︒
◎ 判定の嘱託⁝⁝建築澱疵をめぐる紛争等の専門的知見が問題となる事件において︑専門家に対して意見陳述
の嘱託を行うことができるものとすることにより︑当事者が訴え提起後の審理の見通しを立てることを容易に
しようとするものです︒
⑥ 現地調査手続⁝⁝紛争の現場の状況の調査を執行官に命ずることができることとする制度です︒
以上の中間試案の策定にあたっては︑
うことです︒ ドイッの独立証拠調べやフランスのレフェレの制度などを参考にしたとい 起前にすることはできません︒そこで︑上述の提訴予告通知をした場合には︑訴えの提起前でも当事者照会がで きることとしました︒ ③
訴えの提起前における証拠収集手続:::これも前述の提訴の予告通知をすれば︑次のことができるとしていま
(a)
す ︒
文書の送付の嘱託:::訴えの提起前において︑文書の送付の嘱託をすることができます︒具体的には︑医事
関係事件において︑問題となった治療行為が行われた後に病院を転院しているような場合に︑ その転院先の病
院の診療録等の送付を求める例が考えられます︒
︑ . ︐ ︐ ︐ ' D
︐ ︐ ︐ ︑
調査の嘱託:::特定の事項について︑公私の団体に調査を嘱託することができます︒具体的には︑債務の弁
済の有無が争われている事案において︑第三者である銀行に対して銀行振込の有無について調査を嘱託する例
が考えられます︒
(c)
判定の嘱託:::建築暇庇をめぐる紛争等の専門的知見が問題となる事件において︑専門家に対して意見陳述
の嘱託を行うことができるものとすることにより︑当事者が訴え提起後の審理の見通しを立てることを容易に
しようとするものです︒
( d )
現 地 調 査 手 続 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 紛 争 の 現 場 の 状 況 の 調 査 を 執 行 官 に 命 ず る こ と が で き る こ と と す る 制 度 で す ︒
以上の中間試案の策定にあたっては︑ ドイツの独立証拠調べやフランスのレフェレの制度などを参考にしたとい
う こ
と で
す ︒
W おわりに
現在︑日本では︑上述したような︑民事訴訟法の改正だけでなく︑司法制度の全般にわたって大きな改革が検討
されています︒一九九九年七月から二〇〇一年六月までのおよそ二年間をかけた司法制度改革審議会の最終意見書
に基づいて︑現在︑二の部会でさまざまな問題が検討されています︒
たとえば︑日本では二〇〇四年四月に日本版のロー・スクールがスタートする予定であり︑これが実現すれば︑
法律家の数は飛躍的に増大すると思われます︒
また︑近く立法化が予定されているものとして︑民事・刑事を問わず︑すべての事件を二年以内に終了させる法
案があり︑これが実現されれば︑審理の運営にも大きな変化が生じるものと思われます︒
また︑日本版の陪審ともいうべき﹁裁判員﹂の制度の議論も大詰めの段階に入っており︑これが実現すれば︑刑
事事件において︑国民が司法過程に参加することとなり︑裁判のやり方も大いに変化をするでしょう︒
この他にも︑ADR︵裁判以外の紛争解決方法︶の整備や訴訟費用・弁護士費用の問題等も検討されており︑こ
れら司法制度の基盤の変化に伴って︑民事訴訟のあり方もまた劇的な変化を遂げていくことになろうと思われま
す︒
一183一
V I
おわりに
現在︑日本では︑上述したような︑民事訴訟法の改正だけでなく︑司法制度の全般にわたって大きな改革が検討
さ れ
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ま す
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一九九九年七月から二
OO
一年六月までのおよそ二年間をかけた司法制度改革審議会の最終意見書
に 基
づ い
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現 在
︑
一一の部会でさまざまな問題が検討されています︒
たとえば︑日本ではこ
00
四年四月に日本版のロ i ・スクールがスタートする予定であり︑これが実現すれば︑
法律家の数は飛躍的に増大すると思われます︒
一 183‑
また︑近く立法化が予定されているものとして︑民事・刑事を問わず︑すべての事件を二年以内に終了させる法
案があり︑これが実現されれば︑審理の運営にも大きな変化が生じるものと思われます︒
また︑日本版の陪審ともいうべき﹁裁判員﹂の制度の議論も大詰めの段階に入っており︑これが実現すれば︑刑
事事件において︑国民が司法過程に参加することとなり︑裁判のやり方も大いに変化をするでしょう︒
(裁判以外の紛争解決方法) の整備や訴訟費用・弁護士費用の問題等も検討されており︑こ
こ の
他 に
も ︑
ADR
れら司法制度の基盤の変化に伴って︑民事訴訟のあり方もまた劇的な変化を遂げていくことになろうと思われま
す ︒
法学論集 50〔山梨学院大学〕 184
あとがき
本稿は︑二〇〇三年三月二〇日から二四日まで︑中国・湖南省の湘潭市にある湘潭大学法学院で開催された﹁東
北アジア民事訴訟法の展開に関する検討会﹂における個別報告の講演記録である︒湘潭︵ショウタン︑中国語で
は︑シャンタン︶は︑毛沢東の生誕地として広く知られているところである︒また︑湘潭大学法学院には﹁訴訟法
研究センター﹂があり︑民事訴訟法のみならず︑刑事訴訟法︑行政訴訟法の研究もたいへん盛んである︒
本シンポジウムには︑日本から二人︑韓国から二人の研究者が招待されたほか︑およそ二〇人余の中国人研究者
が参加した︒中国の出席者には︑中国人民大学教授で中国訴訟法学会名誉会長である江先生や西南政法大学教授で
中国民事訴訟法委員会主任である田先生など︑中国民事訴訟法学会の重鎮もおられたが︑目に付いたのは︑三〇代
と思われる若い研究者が多数を占めており︑これら少壮学者の研究意欲が大変盛んなことであった︒たとえば︑私
の個別報告は三〇分以内と制限されていたが︑その後の質疑応答は1時間を超え︑質問の範囲も証拠法のみなら
ず︑日本の民事訴訟法︑司法制度全般に及び︑こちらとしては心地よい緊張の連続であった︒
中国は社会主義の国家であるために︑自由主義経済を基礎とする諸国の民事訴訟法とは基本原理を異にし︑わが
国の民事訴訟法︵周知のように︑わが国の民事訴訟法はドイツ法に由来する︶では自明のこととされている︑処分
権主義︑弁論主義︑証明責任︑既判力︑などの基本的な概念は受け入れらていない︒しかし︑この二〇年余で中国
の市場経済が急速に発展するにしたがって︑また︑経済の国際化に伴い︑自由主義経済の諸国との取引が急激に増 あとがき
本稿は︑二 OO 三年三月二 O 日から二四日まで︑中国・湖南省の湘湾市にある湘湾大学法学院で開催された﹁東
北アジア民事訴訟法の展開に関する検討会﹂における個別報告の講演記録である︒湘漕(ショウタン︑中国語で
は︑シャンタン)は︑毛沢東の生誕地として広く知られているところである︒また︑湘浬大学法学院には﹁訴訟法
研究センター﹂があり︑民事訴訟法のみならず︑刑事訴訟法︑行政訴訟法の研究もたいへん盛んである︒
本シンポジウムには︑日本から二人︑韓国から二人の研究者が招待されたほか︑
お よ
そ 二
O 人余の中国人研究者
が参加した︒中国の出席者には︑中国人民大学教授で中国訴訟法学会名誉会長である江先生や西南政法大学教授で
中国民事訴訟法委員会主任である田先生など︑中国民事訴訟法学会の重鎮もおられたが︑目に付いたのは︑三 O 代
と思われる若い研究者が多数を占めており︑これら少壮学者の研究意欲が大変盛んなことであった︒たとえば︑私
の個別報告は三 O 分以内と制限されていたが︑ その後の質疑応答は 1 時間を超え︑質問の範囲も証拠法のみなら
ず︑日本の民事訴訟法︑司法制度全般に及び︑こちらとしては心地よい緊張の連続であった︒
中国は社会主義の国家であるために︑自由主義経済を基礎とする諸国の民事訴訟法とは基本原理を異にし︑わが
国の民事訴訟法(周知のように︑わが国の民事訴訟法はドイツ法に由来する) では自明のこととされている︑処分
権主義︑弁論主義︑証明責任︑既判力︑などの基本的な概念は受け入れらていない︒しかし︑この二 O 年余で中国
の市場経済が急速に発展するにしたがって︑また︑経済の国際化に伴い︑自由主義経済の諸国との取引が急激に増
加するにしたがって︑中国の民事訴訟法の基本原理も自由主義諸国のそれと整合性︵共通性︶を持つものに移行せ
ざるを得ないであろう︒しかし︑現在はまだ過渡期であり︑そこに中国の学者︑とりわけ︑少壮学者の研究意欲を
掻き立てざるを得ない原因があるように思われる︒
今回の中国訪問では︑こちらも学問的好奇心を大いに刺激されたのみならず︑大変楽しい経験をすることができ
た︒たとえば︑シンポジウム終了後のエクスカーションとして︑中国︑韓国の学者と共に毛沢東の生家を見学した
ことやシンポジウム開催中毎晩行われた宴会などは大変楽しい思い出として生涯忘れることはないであろう︒今回
の訪問をきっかけに︑今後は中国法にも関心を持ち続けたいと願っている︒実は︑今回の訪問で見聞したことを中
心に︑中国の民事訴訟法や司法制度の特徴を日本法と比較した小文を書いて︑付記しようかとも考えたが︑本論集
の締め切り期限等の関係もあり︑今回は断念した︒他日を期したい︒
証拠法の分野など中国の民事訴訟法を知る手がかりとして︑とりあえず︑次のような文献があるので︑参照され
たい︒
・木間正道・鈴木賢・高見澤磨﹃現代中国法入門﹇第三版﹈﹄有斐閣︵二〇〇三年︶
・王亜新﹃中国民事裁判研究﹄日本評論社︵一九九五年︶
・張衛平﹁中国の民事訴訟運用の問題点 ー証拠制度を中心にしてー﹂一橋論叢一一七巻一号二八頁以下︵一
九九七年︶
・馬愛薄﹁中国における証明責任の意義と分配 −日本との比較研究を中心にしてー﹂立教大学大学院法学研
究二九号一頁以下︵二〇〇二年︶
一185一
加するにしたがって︑中国の民事訴訟法の基本原理も'自由主義諸国のそれと整合性(共通性)を持つものに移行せ
ざるを得ないであろう︒しかし︑現在はまだ過渡期であり︑ そこに中国の学者︑とりわけ︑少壮学者の研究意欲を
掻き立てざるを得ない原因があるように思われる︒
今回の中国訪問では︑こちらも学問的好奇心を大いに刺激されたのみならず︑大変楽しい経験をすることができ
た ︒
た と
え ば
︑
シンポジウム終了後のエクスカ l ションとして︑中園︑韓国の学者と共に毛沢東の生家を見学した
ことやシンポジウム開催中毎晩行われた宴会などは大変楽しい思い出として生涯忘れることはないであろう︒今回
の訪問をきっかけに︑今後は中国法にも関心を持ち続げたいと願っている︒実は︑今回の訪問で見聞したことを中
心に︑中国の民事訴訟法や司法制度の特徴を日本法と比較した小文を書いて︑付記しようかとも考えたが︑本論集
‑185‑
の締め切り期限等の関係もあり︑今回は断念した︒他日を期したい︒
証拠法の分野など中国の民事訴訟法を知る手がかりとして︑ とりあえず︑次のような文献があるので︑参照され
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